「R」と一致するもの

Opitope - ele-king

 かつては理屈っぽい特殊なジャンルだったアンビエントも、今日ではすっかり感覚的かつ曖昧なジャンルとして欧米のいたるところから量産されるようになった。需要も高まっているのだろう。アンビエントはいまやカジュアルなジャンルである。
 三田格の調査によれば2006年が史上3度目のピークだというが、現在あるのは90年代のクラブ・カルチャーのサブジャンルとして拡大したアンビエントとは別の潮流だ。とは言うものの……、期待を込めて書かせてもらえば、かつてのクラブ・カルチャーを特徴付けた匿名性(スターはいらない)、共同体の再構築(その質を問う)、場の意外性(まあ、お寺とか、普段行き慣れていない場)という視座を継承している。何にせよ、相変わらずうるさい音楽が好きな人間が多数いる一方で──僕もうるさい音楽を聴いてはいるが、しかし、このところ密かに、多くの人間がうるさくない音楽のフォーマットに可能性を見ているのである。
 それこそその昔、「ハウス」と名が付けられさえすれば、あとはもう何でも好きなように音を工夫できたのと似て、「アンビエント」もすっかり雑食的な分野になった。インダストリアルでもコズミックでも、メタルでもダブでも、ギャグでもシリアスでも、素人も大勢参加して、何でもありだ(ということを三田格の『アンビエント・ディフィニティヴ』は言っている)。アンビエトはマニアのためのジャンルであることを超えて、時代のうねりのなかの切り拓かれた場となり、手段となった。

 実際、日本でもアンビエント系のクリエイターの作品は後を絶たない。そうしたアンビエントの時代において、伊達伯欣と畠山地平は、とくに2005年以降、国内外での評価をモノにしてきた人たちで、シーンの今後を占うという意味でもキーパーソンだ。
 日本のミュージシャンは「静けさ」を表すのがうまいと感じることが多々ある。彼らの「静けさ」が自分の好みに合っただけのことかもしれないし、伊達伯欣と畠山地平のオピトープを国民性になぞって紹介するのは無粋だとは思うのだが、素晴らしい「静けさ」が録音されている彼らのセカンド・アルバム『ピュシス』の収録曲は、とくに捻りもなく、ずばり率直に、自然をテーマにしている。曲名に出てくる「雫」や「朝露」や「冬の森の温かさ」は、日本で暮らしている彼らが感じている自然だろう。同じように、たびたび自然をテーマにしたエメラルズとは明らかに違った感性が広がっている。英国風ユーモアもフランス風のウィットもないが、自然と人間とを結びつける宮沢賢治的コスモロジーがあり、僕の耳には彼らのアンビエントがよどみもなく入ってくるのだ。

 2006年にシカゴの〈クランキー〉からデビューした畠山地平は、すでに20枚近くのアルバムを発表し、海外でもライヴ・ツアーをしている。自身が主宰するレーベル〈White Paddy Mountain〉では、アンビエント的感性を基調にしながらもその枠組みに囚われず、多様な音楽作品を出している(最近は、ASUNAによる美しい『Valya Letters』を出したばかり)。また、畠山地平はフットボール好きでもある。アンビエントとフットボールの両立とは、ただそれだけで実はかなり価値があるのだ。
 そして、いっぽうの伊達伯欣は、コリー・フラーとのイルハ(Illuha)でブルックリンの〈12K〉(タイラー・デュプレーのレーベル)から作品をリリースしつつ、Tomoyoshi Date名義のソロ作品も出している(彼の2011年の『Otoha』は、『アンビエント・ディフィニティヴ』においてはその年の代表作に選ばれている)。今年はイルハの新作、坂本龍一とのライヴ・アルバムなども控えているそうで、彼の音はさらに多くの耳にとまりそうだ。ちなみに彼は、某医科大学に勤務している医者でもあり、免疫学の研究者でもある。

 バイオを見るだけでも個性的なふたりによるオピトープだが、作品には、ほどよい緊張感がある。静けさのなかにも、音の「間」が際立つような、ささやかだが、衝突とためらいがある。『ピュシス』は、ただいたずらに心地良いだけの、多幸症的な音楽ではないのだ。それでも僕はこのアルバムにもっとも近いのは、『ミュージック・フォー・エアポート』ではないかと思っている。重厚さを回避していくような、音の間の取り方も似ているし、何よりも極上の静けさがある。どこかメランコリックな気配を持たせながら、とめどくなく広がり、そして決して破綻することのない平静で穏やかな雰囲気も似ている。
 録音が2008年~2011年とあるが、古さは感じられない。アンビエント/ドローンの2000年代を駆け抜けた世代のクオリティの高さというか、初期はラップトップをトレードマークとした彼らは、現在、アナログ機材──高価なヴィンテージ・シンセのことではない。オルガン、テープ、弦楽器、ミキサー等々──を使っているが、その響きは実に瑞々しいのだ。それはスキルの問題でもあるが、同時に、なにかしら社会生活で生じる抑圧から逃れたいと願う気持ちによって磨かれるものだろう。僕は長いあいだ環状八号線の近くに住んでいた。窓を開ければ昼夜問わず車の騒音が入ってくるようなところだった。ジョン・ケージのように、そうした騒音を「素晴らしい」と言えれば良かったのだが、しかし、ケージのレトリックとは別のところで、現代では騒音は拒まれることなく広がっている。アンビエントのピークは、まだまだこの先にあるのだろう。


※今週、30日、青山CAYにて、アルバム発売記念のライヴがあり。ぜひ、彼らの生演奏を見ていただきたい。

時間:OPEN 18:30 / START 19:30
料金:予約 2,500円 当日 3,000円 
☆ドリンク、フード、マルシェに使える700円分のショッピングチケット付き
席種:着席または立見
会場:CAY(スパイラルB1F)
〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23 ACCESS MAP
出演 :Opitope、テニスコーツ+大城真、HELLL、Yusuke Date、佐立努、aus(DJ)

第4回:馬に恋する女の子たち - ele-king

 ドイツで女の子を育てている旧友から、ドイツの女児には昔から馬が人気らしいと聞きました。おもちゃコーナーでも絵本コーナーでも、馬キャラものが大プッシュされているとか。


ファンシーな馬グッズ売り場


絵本コーナーにも馬キャラがいっぱい

 なるほど、馬とふれあう機会の多い国では、馬がファンシー・キャラ扱いされることもあるんですね。そういえばうちの子も、ファンシーな仔馬たちが活躍するアメリカの女児アニメ『マイリトルポニー〜トモダチは魔法〜』(ハズブロ・スタジオズ)を喜んで観ていますし。

 などと言っていたら、ファンシー・グッズだけじゃないとのこと。女児向けの馬DSゲーム、馬ボードゲーム、馬ポスター付きの馬のグラビア雑誌などが、普通に販売されているといいます。

 明らかにこれは私の理解を超えた世界。ゆるふわエアリー・ヘアのイケメン馬たちが、あたかもティーン・アイドルのようにセクシーにこちらを見つめているではありませんか。白馬の王子様ならわかりますが、馬そのものを王子扱いするなんて聞いたことがありません。いったい何が起きているのでしょうか。

 左はドイツの少女向け馬雑誌『WENDY』。8~14歳の女の子が対象読者で、ドイツのほか、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーで発行されています。馬を愛するイギリス人少女の冒険マンガ『WENDY』、6人の少女が登場し、その飼い馬同士がおしゃべりする日本のジュエルペットのようなコミック『Horseland』、2匹の馬が主人公のギャグマンガ『Snobben & Skrutten』の3本のコミックがメイン・コンテンツだそう。

 真ん中の『LISSY』も、馬マンガがメイン・コンテンツであるドイツの少女雑誌。チェコでも販売されているようです。対象読者は7~13歳の女の子。乗馬学校や馬の育て方に関する美しい馬の写真付きレポ、読者投稿ポエム、ポスターなども掲載されています。

 右の『Min Häst(私の馬)』は、スウェーデンの馬雑誌。対象読者は7~14歳の女の子。公式サイト(https://www.minhast.se/)をのぞくと馬と少女がチュッチュしているイメージが散見され、言葉はわからないながらもただの愛玩動物雑誌ではないことが察せられます。

 これらの雑誌に共通しているのは、前思春期の女の子を対象としていること、コミックがメイン・コンテンツであること、ポスターや写真も多く、馬の美しさがフィーチャーされていること。日本のような少女向けコミック市場はよその国にはないんじゃないかと思っていましたが、あるんですね。(少なくともスウェーデンでは、少女向けの中でも馬マンガは冒険マンガに次ぐ一大ジャンルを成しているようです)。

 それにしてもなんでまた、馬なんでしょう。海外のYahoo! 知恵袋的なサイトでもそんな質問がいくつか寄せられていたので(1, 2, 3)、かいつまんで見ていくことにしましょう。

 「男の子がなんで車が好きかって訊くようなもんだよ」「男の子がアクション・フィギュアやヘビを好むのと一緒じゃない? 遺伝子に組み込まれてるのよ」「カワイイからに決まってる」「馬は金持ちしか飼えないだろ。女の子が好きなのは本当は金持ちなのさ」「メディアの刷り込みでしょ」「マンガの中でかわいく描かれてるから」「犬猫と違ってウンチが臭くないからじゃないかな。草食だし」

 女の子が馬好きというのは疑うまでもない当たり前のことらしく、質問の答えも相当ぼんやりしています。少なくとも、アジア圏の私にはピンとこないものばかり。「私は少女時代、馬なんか好きじゃなかったけど」という反論もちらほら見受けられます。そこで、馬好きであるという少女たち自身の回答を拾ってみることにしました。

「馬は私の背中に鼻を押しつけて休んだり、たとえエサを持っていなくても私を見て興奮するの。そんな家畜ほかにいる?」
「美しくて、勇敢で、雄大な動物。馬に乗っていると自由を感じる」
「どんな男の子よりも正直だし、女友だちみたいに陰口をたたいたりしないから。馬と私は対等なの」
「思春期前に女の子が恋をする疑似ボーイフレンドという説もあるみたい。思春期に入ったら男の子が馬に取って代わるんですって」
「説明するのが難しいけど、馬に乗り風を切って走るとき自由だと思えるの。馬と私の間には破れない絆がある。私にはない翼を貸してくれる存在」
「男性的な姿形。危険から守ってくれそう。信義に厚く、勤勉で、誠実(たぶん)」

 「疑似ボーイフレンド」「男性的」。犬猫ウサギではなく、馬でなくてはいけない理由が見えてきました。馬とは自分より大きく男らしく、かつ自分に危害を与えることなく、いついかなるときも自分を愛し守ってくれる誠実な存在。と書くと、まるでお父さんのようです。いくらお父さんが居心地のよい存在であったとしても、いつまでも家庭の中で守られているわけにはいきません。7~8歳といえば、親の束縛が煩わしくなり、家庭の外にある自由やときめきへの憧れも芽生えるお年頃。でも本物の男の子はまだ怖い。そんな少女たちにとって、自らより大きくてたくましい馬こそが、そうした憧れを満たしてくれる対象となるのではないかと推察できます。いわばイケメン馬とは、「お父さん」と「ボーイフレンド」の橋渡しをしてくれる存在なのかもしれません。

 一方、日本の少女たちは同時期、ジャニーズなどの中性的な美少年アイドルや、線の細い男の子が登場する少女マンガ・BLに入れ込むのが一般的です。なぜ日本には体毛ボーボーで筋肉ボーンな男性性に憧れる少女が少ないのか。もしかしたら、男性の育児参加率の低さに原因があるのかもしれません。母親、祖母、幼児教育・保育従事者といった女性ばかりに取り巻かれて育つ日本の女児は、大人の男性から無条件の愛情を与えられるという機会をしばしば逸してしまいがちです。そのため異性に興味を抱く年代になっても男性性を忌避し、男の子に女性性を求める……あながちありえない話ではなさそうです。

 ところで、馬雑誌のコンテンツはコミックがメイン。イケメン馬写真以上に、馬との物語が重視されているようです。いったいどのような物語が好まれているのでしょうか。できればすべて取り寄せて中身を確認したいところですが、私の語学力と財力では難しいので、物語の類型を収集しているサイト「tvtropes」(https://tvtropes.org/pmwiki/pmwiki.php/Main/PonyTale)で調べてみます。同サイトによれば、少女と馬の物語には、以下のような共通点があるのだそうです。

  • ・環境にうまく順応できない少女が主人公。イギリス発の物語ではなくても、舞台はイギリスであることが多い。

  • ・ひょんなことから馬に出会い、馬術を通して成長していく。

  • ・ヒロインは馬のための努力はしても、女子力アップには無関心。化粧はせず、ドレスを着ることを厭う。

  • ・ヒロインは学校で男子の存在を意識することはない。

  • ・社交やデートにいそしむ級友たちとなじめず、学校に居心地の悪さを感じている。

  • ・ライバル女子騎手と争う競技会や自分を忠実に愛してくれた馬の喪失を経て成長し、トラウマを抱えた馬たちを癒す特別な女性となる。
  •  おそらくキーとなるのは、性的存在であろうとする自意識を持たない無垢なヒロイン像。女児がピンクやプリンセスにどっぷり浸かる4~7歳は、俗に「プリンセス期」と呼ばれます。この時期を過ぎると、女の子たちは家族・保育者・友達だけで完結していた狭い世界から、徐々に社会を意識するようになっていきます。女の子でありさえすればプリンセスになれると信じていた女の子たちは、性的存在として値踏みされる視線を感じはじめるのです。だからといって皆が皆、そうした視線に合わせた振る舞いができるようになるわけではなりません。他人の欲望に合わせて意識的に媚びることは、無垢であった自己像を傷つけます。親に大切に育てられた女の子ほど、この落差に苦しむであろうことは想像に難くありません。そこで性的存在ではなくても、愛情の相互作用が期待でき、自分という存在を受け入れてくれる馬というファンタジーが必要とされるのではないかと想像します。すべてを受け入れてくれる父性的な存在は、いつかは訣別しなくてはならないもの。馬を失った少女は、馬の弱さを受け入れる側となる。そうしたフィクションをいくつも読んでいくことで、現実へと踏み出す強さを身につけていくのでしょう。

     4~7歳の女の子が好むものは、世界的に共通しているように見えます。ハローキティもミッフィーもバービーも『マイリトルポニー』も、国境を越えて女児に愛されています。しかし社会を意識しはじめる年代の少女文化にはそれぞれの国の事情が反映され、先鋭化していくのが面白いところ。ところで最近、女子小学生向けマンガ冊子の付録にも「そのまんまの自分でモテたいなんて甘い!」「ちょっぴりおバカなフリで男子を落とせ!」といったフレーズが踊るようになってきたとか。もはや少女マンガの世界も安住の地ならず。そろそろ我が国でも、イケメン馬がさっそうと少女を救いに現れる頃合いかもしれません。

    ギークマム 21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア
    (オライリー・ジャパン)
    著者:Natania Barron、Kathy Ceceri、Corrina Lawson、Jenny Wiliams
    翻訳:星野 靖子、堀越 英美
    定価:2310円(本体2200円+税)
    A5 240頁
    ISBN 978-4-87311-636-5
    発売日:2013/10 Amazon

    interview with GING NANG BOYZ (Mamoru Murai) - ele-king

     銀杏BOYZから新しいアルバムの構想を聞いたのは2007年末のこと。しかしその制作は難航を極めた。あれから月日は流れ、いつしかメディアへの露出も減り、傍目にはバンドの存続すら危ぶまれるようになった2013年秋、突然ニューアルバム完成の報が入った。オリジナル・アルバム『光のなかに立っていてね』とライヴ・リミックス・アルバム『BEACH』の2枚同時リリース。
     ニュースはそれだけではなかった。すでにギターのチン中村とベースの安孫子真哉が脱退、さらにアルバム発売日をもってドラムの村井守も脱退するという(ちなみに今回の発売日となった1月15日は、村井の誕生日でもあり、2005年に銀杏BOYZが初めてリリースした2枚のアルバムの発売日でもある)。つまりアルバムの完成と引き替えに、銀杏BOYZはフロントマン・峯田和伸以外のメンバーを全員失った。
     この数年間、銀杏BOYZになにが起こっていたのだろうか。峯田と高校からの同級生で、前身バンドのGOING STEADY時代から音楽活動をともにしてきた村井に、彼がよく飲んでいる街・吉祥寺で会って話を聞いた。表情はずいぶん晴れやかだ。いつものおしゃべり好きな“村井くん”がそこにはいた。

    “愛してるってゆってよね”のイントロとかは「曇ったところから突き抜ける」っていうメモがあって、それを元にヴァージョンを20個ぐらい作ったかなー。


    銀杏BOYZ - 光のなかに立っていてね

    〈初回限定仕様〉 Tower 〈通常盤〉 Tower HMV


    銀杏BOYZ - BEACH

    Tower HMV

    村井:いやぁ~、(アルバムが)できましたよ!

    できましたね。ホント待ちましたよ(笑)。もしかしたら完成しないかもって頭によぎったことは?

    村井:ちょっとは……ありましたねぇ(笑)。

    いちばん危なかった時期は──?

    村井:アルバム収録曲のレコーディングが本格的にはじまったのが2009年で、2010年にはそれまで使っていた下北沢の〈トライトーン〉が使えなくなり、スタジオも変わったんですけど、実際にはそのずっと前から曲は録りはじめてたんですね。没テイクも入れると、スタートは2007年で。その2007年から2009年までの時期は、もう足下がおぼつかないというか、バンドとしてはふんづまりでしたね。

    具体的にはどんな状況だったんですか。

    村井:メンバー同士がシビアになりすぎちゃって。2005年にアルバムが出て、ツアー回るんですけど、そのツアーが尋常じゃなくて。それが終わった反動もあると思うんですけど、DVD(『僕たちは世界を変えることができない』)の編集があったり、峯田が本(『恋と退屈』)を出したり、あとオレもムック(『GING NANG SHOCK!』)の編集があったりで、それぞれちょっと違う方角を向いているような感覚になって。それをもう一回、同じ船に乗ろうって作ったのがシングルの「光」だったんです。でも、そこから「じゃあ、アルバムを……」ってなっても、わりとお互いシビアな感じでぶつかり合っちゃう、みたいな。その状況から抜け出せたのが、2010年ぐらいで。遠藤ミチロウさんのカヴァー・アルバム(『ロマンチスト~THE STALIN・遠藤ミチロウTribute Album~』)に参加して、さらに劇伴音楽の話も来て。

    三浦大輔作・演出の舞台『裏切りの街』ですね。

    村井:そう、どちらも依頼されてのことだからモードも変わるし、わりとまたみんな同じ方角を向けるようになってきたんです。しかも、劇伴のほうは打ち込みでやってみようってことになって。もともと打ち込みの曲は前から作ってみたくて、でもなかなか手が出せなかったんです。だから、ちょうどいいタイミングかもってことで、みんなで機材を買ってやってみたら、案外やれちゃった。で、やれたらやれたで、どんどん楽しくなり——。

    制作中のアルバムにも思いっきり影響して。

    村井:ホント楽しかったんですよね。あのキックの音ってこういう感じかなぁ? とか。それこそ、『サンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)』とか『ele-king』も読みましたよ。インタヴューが参考になるので。

    村井くんの場合、ドラムっていうパートの性格上、打ち込みが増えることで演奏の機会は減りそうですけど、そこは気になりませんでした?

    村井:そこは抵抗なかったですね。やっぱり普段から聴いてるのも打ち込みの曲が多かったし。それに銀杏BOYZの場合は生演奏かどうかは関係なくて、やっぱり“歌”なんですよね。歌を活かせたらいいわけで。ただ、ライヴどうすっかなぁっていうのは思いました。そしたら峯田が「ステージ上で立ってるだけでいいやぁ、お前うたも歌えないし」って(笑)。実際、東北ツアーでの“I DON'T WANNA DIE FOREVER”とかは、ステージの前に行って「ワーワー」やってました。けっこう出たがりですからね、オレ(笑)。

    アルバムを聴くと、「打ち込み」と同時に「ノイズ」の導入も顕著ですよね。こちらもかなり研究したんじゃないですか。ノイズ・コアのライブなんかも観にいってたみたいだし。

    村井:みんなもともと好きでしたからね。そう、NERVESKADEの来日公演があって、東京公演がちょうど震災の翌日だったんですよ。それで中止になっちゃって。翌3月13日に愛知県の岡崎BOPPERSでもライブがあるっていうから、あびちゃん(安孫子真哉/ベース)とクルマで観にいったんですよ。そしたら高速道路で上りのクルマはほとんどなくて、自衛隊の車両とばかりバンバンすれ違って。あれは忘れられないですねえ。そんなことやってるうちにあびちゃんもチンくん(チン中村/ギター)もオレもどんどん音作りにハマっていき、それを峯田が軌道修正して。

    逆に峯田くんは新しい音楽をまったく聴かないようにしていたみたいですね。

    村井:峯田がよく言っていたのが、「○○っぽいやつを作ってもしょうがない」ってことで。そりゃ、オレらがテクノ畑の人たちに対抗してもしょうがないわけで。オレらにしかできないものを作るべきだと。

    最終的に峯田くんが聴いて判断するわけですか?

    村井:うん、オレらは技術担当で、監督は峯田だから。峯田が判断してオッケーした音が銀杏BOYZになる。みんなで和気あいあいっていうバンドもいいと思うんですよ。でもオレらの場合は、ブレない峯田っていうのが絶対的な存在としている。そのぶんオレら3人はブレてもよくて、そうやって作ったものを最終的に峯田にジャッジしてもらうっていう。峯田んちにチボリってメーカーのステレオがあって、音がめちゃくちゃいいんですよ。今回はそのステレオを基準に音を作りました。ただ、そうやって「1曲、完成した!」ってなっても、別の曲を仕上げているうちに1年ぐらいして、「そういやあの曲のアレ、もうちょっとやれたんじゃねえの?」ってなって、またやり直すっていう(笑)。

    そこで1年経っちゃうのがおかしい(笑)。

    村井:もうね、時間の流れが、早い!

    一方で、“ぽあだむ”みたいにほとんど一発録りでいけた曲もあるわけですよね。しかも峯田くんに言われるまで気づかなかったんですけど、あの曲のドラム、生音なんですね?

    村井:そう、オレ叩いてるんですよ。“ぽあだむ”は3日間ぐらいでできましたね。


    “ぽあだむ”

    「ストーン・ローゼズが最初のイメージであった」って峯田くんは言ってましたね。

    村井:うんうん、聴いてましたね。3人で峯田がいないところでカヴァーしたりして。DVDも何回か見たんだけど、何回見てもわからない(笑)。

    そうやって峯田くんの最初のイメージをそれぞれが発展させるって感じですか?

    村井:そうですね。まず峯田がベーシックを作って、チンくんとあびちゃんとオレでさらに発展させます。それが峯田の思ってる最初のイメージを超えないとダメなんですよ。

    イメージは具体的なんですか?

    村井:具体的な曲もあれば、そうでない曲もある。たとえば“愛してるってゆってよね”のイントロとかは「曇ったところから突き抜ける」っていうメモがあって、それを元にヴァージョンを20個ぐらい作ったかなー。あびちゃんなんかはLogicってソフトが使えるようになったので、できることがどんどん増えるんですよ。極端な話、あびちゃんがオレに音を聴かせる時点で100パターンぐらい作ってくるんです。それをオレも一緒になって「これはいい、これは悪い」って絞ったものを峯田のところに持っていき、そこからまた峯田の意見を訊いて作りかえて……って、そりゃ時間かかるわ~(笑)。

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    当然さみしいですよ。ただ、どこかでいつか戻ってくるだろうっていうのもあったし、それ以上にアルバムの完成が見えてきたから、とにかくその進行を止めたくなかった。

    2011年の初夏、東北ツアー(〈スメルズ・ライク・ア・ヴァージン・ツアー〉)の頃にすでに村井くんはバンドを辞めようと思ったことがあったそうですね。

    村井:ええ、たまたまその時期だったっていうだけで、ツアーが関係しているわけじゃないんですけどね。あびちゃんが中心になって進めていたライヴ盤のほうが具体的に曲順も決定して、タイトルもいまとは違うんですけど決まり、それからスタジオ盤のほうも曲がほぼほぼカタチになって、両方とも着地点が見えてきたなってときに、ふと辞めることを考えたんです。それがたまたま東北ツアーの時期だったっていう。でも、その気持ちは自分の中でなかったことにした。気の迷いだと思って。

    その気持ちを他のメンバーに伝えることはなく、やがてチンくんがバンドを離れますね。

    村井:怪我でギターが弾けなくなってね。2012年の夏か。

    チンくんは精神的にも追い詰められていた?

    村井:それもあったと思います。ただ、そのことにオレは気づいてあげられなかったってことを最近すごく思うんですよ。チンくんとはよくふたりで飲みに行ったりもしたんですけど、飲み方が尋常じゃないときが何度かあって。思い詰めてたのかなぁ……って。

    それでも2007年から2009年にかけての時期よりは、バンドの状況はよかったわけですか。

    村井:うん、なんかもうトンネルは抜けたなっていうのはあった。ようやく足並みが揃ってきたと思ってたんだけど……いま思うと、たぶんチンくんはそうじゃなかったんですよね。

    その後、チンくんと話をしました?

    村井:最後に会ったのが2012年の秋かな。「他のメンバーやスタッフとは会えないけど、村井くんとは話したいわ~」って連絡がきて、吉祥寺の喫茶店で会って。で、顔見たらやっぱわかるんですよ。「ああ、もう続けていく気はないな」って。これがまだ一緒にやってた頃なら、「アルバムも、もうすぐできるからさ!」ってハッパをかけられたんだろうけど、そのときはもうバンドのことはほとんど話さずに、エロビデオの話とかでゲラゲラ笑って、30分ぐらいで別れましたね。峯田にも、「チンくんの顔見たら、やれる感じじゃなかったわー」って報告して。

    2013年の春に、今度はあびちゃんもバンドを離れますね。

    村井:あびちゃんは何年も前からたまに体調が悪くなるときがあって——。

    よく、霊に取り憑かれてるんじゃないかなんて冗談で言ってましたもんね。

    村井:そうなんですよ。でも、それがここにきて作業に参加できないぐらい体調が悪化して。蕁麻疹とか出ちゃうんですよ。で、しばらく家で休んでもらってたんだけど、その後もなかなかよくならない。喫茶店とかで会うんですけど、毎回、「もうちょっとしたらよくなるから……」って。で、あびちゃんも顔色を見ると、チンくんと一緒で、スイッチが切れちゃってる感じなんです。やっぱり、ずーっと集中して作業をしてきたので、ちょっと時間を置いたら、プッツリ切れちゃったんだろうなって。

    そうやってメンバーがひとり減り、ふたり減り……村井くんとしてはどういう心境だったんですか?

    村井:当然さみしいですよ。ただ、どこかでいつか戻ってくるだろうっていうのもあったし、それ以上にアルバムの完成が見えてきたから、とにかくその進行を止めたくなかった。だからチンくんが戻ってこれなくなったとき、峯田とあびちゃんに「(アルバムの制作を)進めよう」って話したのはオレだったし、あびちゃんの体調が悪くなったときにも、やっぱり峯田に「進めよう」ってメールして。オレはとにかくアルバムを出すことが目標になってたから。


    村井がアルバムのレコーディングで使っていたノート。その混沌とした筆致から制作の難航ぶりがうかがえる

    銀杏BOYZというバンドを外から見ていると、村井くんはムードメーカーというか、メンバー間の調整役を担う局面もあるのかなって思ってたんですけど。

    村井:いや、それぞれ峯田との関係性もありつつ、峯田以外の3人でもわりとシビアにぶつかることが多かったですね。なので、オレがそれぞれの間を取り持って、って感じではなかったです。

    どういうところでぶつかるんですか?

    村井:たとえば事務所であびちゃんが泊まり込んで作業をしていたとして、オレが横で「この音、あまり面白くないわー」って言っちゃうんですよ。あびちゃんが数日間かけて作った音なのに。あびちゃんからすると、「なんで打ち込みができない村井さんにそんなこと言われなきゃならないんですか?」って。

    それは言い方の問題?

    村井:そうです。そんなレベルですよ、オレらが揉めるのって(苦笑)。ま、オレがパットを使って音をつけて、あびちゃんはあびちゃんでLogicで音を作って、そこでディスカッションがあったりもするわけですけど、でも、ぶつかり合ったりするのはもっと些細な言葉遣いとかなんですよ。

    まあ、ずっと顔を合わせてますしね。

    村井:だって……ねぇ? 恋人や夫婦だってそうじゃないですか。最初は楽しかったのが、だんだん相手のイヤな部分も見えてきて。一個の音を作るにしても意地の張り合いなのよ、全員が。それはいい悪いの話じゃなくて、意地張っちゃうんですよ。それで進まなくなる。そのうちゴールも見えなくなって、「オレらどこに立ってるんだろう?」って。それはみんなキツかったと思います。

    生活の大半を事務所での作業に費やしている感じだったんですか?

    村井:事務所にいる時間はあびちゃんがいちばん長かったですね。オレはちょくちょく帰ってたし、チンくんも自宅のProtoolsで音を作ってたから。だから、夕方ぐらいにフラッと事務所に来て、「じゃあ、あびちゃん聴かせてもらっていい? ……うん~、なんか違うねこれは」って、そりゃムカつきますよね(笑)。

    峯田くん以外は家庭もありますよね。

    村井:チンくんとあびちゃんは子どもいるし。でも、オレはそういう面で生活が厳しいと思ったことは一度もない。チンくんとあびちゃんからも、そういう話は一度も聞いたことがないですね。逆に峯田は言いますけどね。「お前らは奥さんがいる。その違いはデカい」って。でも、奥さんがいても、彼女がいても、音楽を作るときにそこは関係ないと思ってましたね、オレは。ま、ウチの奥さんは「どうぞ好きなことやってください」っていう人なので、あまり干渉もされないし。で、また峯田が言うんですよ、「こんな生活してたら、お前が知らないだけで、浮気されてるに決まってっから」って(笑)。

    はははは! ちなみに村井くんは奥さんには脱退することは相談したんですか?

    村井:しましたね。「もう銀杏辞めて、違うことやるわ~」って。そしたら「辞めてもいいけど、次もやりたい仕事をやってね」って言われました。自由にさせてくれるのはありがたいですよ。

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    峯田にしてみたら、オレらだったらイチから説明しなくても感覚はわかるから、そこは早いんだと思う。またオレらも、やれねえクセに「やれるやれる、やろう」って言っちゃう(笑)。

    アルバムが完成した達成感によって、バンドを脱退したいって気持ちが吹き飛ぶことはなかったですか?

    村井:うん。すごくいいアルバムができたっていう達成感はあっても、だから続けていこうっていうふうにはならなかったですね。マスタリングが終わったってときにはもう、「これで辞めよう」っていう気持ちが止められなくなって、すぐに峯田に言おうと。でもすぐには言えなくて、言うか言わないかで1ヵ月半ぐらい悩みました。

    それは峯田くんの気持ちを考えて?

    村井:ええ、そりゃあ、考えますよ! ずーっと一緒にやってきたんだもん。それで別れようって話ですからね。“ぽあだむ”のミュージック・ヴィデオの撮影もあったりしながら、1ヵ月半ぐらい考えて、でもやっぱり気持ちは変わらなかったので、11月4日に峯田に「バンドを抜けたい」ってメールしたんです。そしたら「すぐ会って話そう」ってことになって。峯田はビックリしてましたね。チンくんやあびちゃんがいなくなったときに、それでもアルバム作業を続けようって言ってたオレが、まさかそのアルバムが完成したタイミングで「辞めたい」って言い出すとは思わなかったって。峯田とオレとあと新しいメンバーを入れて、新生銀杏BOYZでやれたらいちばんいいって。だから考え直しなよって。

    11月15日にチンくんとあびちゃんの脱退が発表されますね。

    村井:そう、その時点ではまだオレのことは決着がついてなくて。ただ、やっぱりオレも気持ちが変わらないから、改めて話したら、今度は峯田も受け入れてくれた。それで12月22日のUSTREAMでの脱退発表になったんです。

    辞めたあとのことは考えてます?

    村井:まーったくなんも考えてない! いま(注:取材日は昨年12月27日)はまだ“ぽあだむ”のミュージック・ヴィデオの編集があったり、わりと目の前にやることがあるんだけど、ひと段落したら一気にリバウンドがきそう(笑)。

    ミュージック・ヴィデオといえば、“東京終曲”もなかなかヘヴィで面白かったです。

    村井:あっちは峯田が監督・脚本・主演で、オレは制作……っていうか完全に雑用(笑)。テント組んだり、機材借りてきたり、ケータリング用意したり。


    “東京終曲”

    ポツドールの米村(亮太朗)くんややっぱりポツドールの舞台でおなじみの古澤(裕介)くんも出てますけど、以前、村井くんが古澤くんの人となりを絶賛してたのが印象に残ってるんですよね。

    村井:なんか話が合うんですよー、古澤くんは。米村さんもすごく気が合いますね。

    彼らは彼らで演劇界の銀杏BOYZというか、ちょっと通じる雰囲気がありますよね。

    村井:「なんでもいいから面白いことやりたいんすよ~」って言ってて、オレらもそうなんですよね。ただ過剰にやりすぎちゃうっていう。

    やっぱりそのへん過剰だって自覚はあるんですか?

    村井:ある(笑)。いい作品を作るためなら、いつからいつまでとかそういう時間感覚がなくなっちゃいますからね。そういう意味ではほかの人には頼めないんです。で、結果的に全部、自分たちでやるっていう。オレらだけなら時間を気にせず、納得いくまでやれますからね。

    また、“ぽあだむ”のミュージック・ヴィデオのほうはすごい数の女の子が出演してますよね。

    村井:投げキッスの素材が、撮影したものとバンドのHPで募集して送ってもらったものを合わせると1400人分ぐらいあるのかな。編集がもう大変ですよ。使えるのはひとり0.5秒とか1秒とかですけど、それぞれ素材は3分ぐらいあって、その中のいちばんキラキラしている部分をチョイスするわけですからね。仮編集だけでもとんでもなく時間かかってます。最終的には1283人、入れました(笑)。

    その作業を自分たちでやるわけですよね。

    村井:そっちのほうが早いから。いや、でも機材の使い方をいちいち覚えたりして……けっきょく時間はかかってるか(笑)。ただ峯田にしてみたら、オレらだったらイチから説明しなくても感覚はわかるから、そこは早いんだと思う。またオレらも、やれねえクセに「やれるやれる、やろう」って言っちゃう(笑)。

    『僕たちは世界を変えることができない』の編集のときも1000本以上ある素材DVテープのシーンをあびちゃんとチンくんがノートに全部書き出したりしてましたもんねえ。ハードディスクにキャプチャした映像データが消えた! とか言って大騒ぎしたりして(笑)。

    村井:「パソコン、落ちた~!」とかね(笑)。それを何回も繰り返して。すごいことになってましたよね。でも、やっぱり楽しいからねぇ。やりたがりなんでしょうね、みんな。いや~、でも“ぽあだむ”は女の子の撮影ができたから楽しかった(笑)。カメラ持つと、オレもキャラ変わりますからね! 一日中撮影してると、最後は慣れてきて、「ちょっと耳にかけましょうか」なんて言いながら髪を触ったりして(笑)。

    長澤まさみさんもいいですね。あの撮影も村井くん?

    村井:いや、あれは峯田!

    村井は髪触るから危ないって(笑)。

    村井:長澤さんにそんなことするわけないじゃないですか! でも撮影はホント面白かったっすよ~(笑)。

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    やっぱり辞めるって言ったら、「村井おつかれ」って言われて、それから「オレはバンド続けていくよ」って。それを聞いたときに救われたと思いましたね。「オレたちが作ってきたことを、ここで終わらせない」っていう言い方も峯田はしていて。

    最終的に辞める意志を伝えたとき、峯田くんから「オレは銀杏BOYZ続けるよ」って言われたそうですけど、どんなことを思いました?

    村井:さみしいっていうよりも、救われたって感じですね。最初、峯田は「お前が辞めるなら、オレももう音楽辞めるわ」って言ってて、オレとしてはその一言が重くのしかかったんですよ。でも、オレも自分の気持ちに嘘ついてまでバンドはできないから、やっぱり辞めるって言ったら、「村井おつかれ」って言われて、それから「オレはバンド続けていくよ」って。それを聞いたときに救われたと思いましたね。「オレたちが作ってきたことを、ここで終わらせない」っていう言い方も峯田はしていて。「もっと上手いドラムいれるわー」とか(笑)。

    村井くんはそれこそ山形の高校時代から、上京、GOING STEADY、銀杏BOYZ……と、ずっと“峯田和伸”っていう人を見てきたわけですけど、峯田くんは変わりましたか?

    村井:いや、オレの周りでいちばん変わってない人ですね。高校のときは昼休みとかひとりでウォークマンを聴いてるような感じだったから、バンドを組んでみんなの前で演奏しはじめたときはこんなに前に出られる人なんだっていう、そういう状況の変化はありましたけど。基本的な部分はなにも変わってないですよ。まず中心に音楽があって、それで友だちを喜ばせるのが好きな人なんです。オレが通ってた専門学校のグチとか、自分のモラトリアムとかそういうモヤモヤした話をすると、かならずその晩、留守電が入っていて、それが曲だったりするんです。そうやっていつもオレを喜ばせてくれた。そこはいまも変わってないです。バンド・メンバーも喜ばせるし、さらにもっともっと大勢の人も喜ばせる。だからバンドを辞めてまた元の友だちに戻る感じですよね。いままでずっと峯田の背中を見てきたから、これからはいちリスナーとして銀杏BOYZを聴いてみたい。

    でも、まだあの4人以外の銀杏BOYZっていうのは想像できないんですよね。

    村井:おそらくアルバムも1年に1枚出ますよ。峯田は上手い人を入れたいって言ってたから、「こんなラクなんだね、バンドって!」ってことになると思います(笑)。

    つくづく過剰なバンドだと思うんですよ。

    村井:やってるほうは「こういうもんだろう」と思ってやってますからねえ。ただ一時期、チンくんとあびちゃんが楽器をケースに入れず裸の状態で持って24時間生活しているときがあったじゃないですか。

    ありましたねえ。2007年頃、一緒に大阪行ったときも肌身離さず提げてましたね。

    村井:あの頃、チンくんと練習のあと一緒に電車に乗ってたら、酔っ払いのおじさんがいたんですね。そしたらチンくんが「あの人、酔っぱらって電車乗るなんて迷惑だよね!」ってギターを弾きながら言うんですけど、お前のほうがよっぽど迷惑だろ! って(笑)。

    よく肛門の匂いを嗅ぎ合ったりするようなヒドい罰ゲームとかやってましたけど、ああいうノリってその後もずっと続いてたんですか?

    村井:続いてましたよ(笑)。2010年頃かな、あびちゃんと飲んでるときに「“カレー味のウンコ”と“ウンコ味のカレー”どっちなら食えるか?」って話で意見が分かれて、酔っ払ったあびちゃんが、「これ究極の問題ですよ。村井さん、そこまで言うんなら、ウンコ食えるんすか?」って。そこも意地の張り合いだから(笑)、「いや、食えるっしょ」ってなって。それから何日かしてスタジオであびちゃんとリズム隊の練習してるときに、いい感じでハイになってきたので、「あびちゃん、オレ、今日だったらウンコ食えるよ」って。で、あびちゃんも1時間ぐらい歩いたらウンコ出るって言うから待ってたら、「いまウンコ出ます!」「やれやれー!」つって、紙皿にウンコして。ま、食うよね。言ったからには。

    食べたんだ。

    村井:箸でつまんで(笑)。

    もはや“カレー味”、関係ないじゃないですか(笑)。

    村井:たしかにそうだ! そしたら、それを見ていたあびちゃんが吐きながら、「こういう話はもう他でしないでほしい。オレが犯された感じになるんで」って。あびちゃんの方がショック受けちゃって(笑)。

    はははは! かつてはよくビデオカメラを回してましたけど、そういうのは?

    村井:ウンコ食ってるのは、木本(健太/映像ディレクター)がたまたま事務所にいたので撮ってますね。「ムリっす、止めます」とか言って(笑)。この話、いろんな人に話してるんですけど、前にミノケン(箕浦建太郎/画家)にもしたんですよ。そしたらミノケン、マジなスイッチが入っちゃって、「そういうの面白いと思って話してるだろうけど、そんなことしてるからアルバム進まねぇんだよ!」って、真剣な顔で言われた(笑)。

    ミノケンは毎日、絵を描いてますからね。

    村井:「村井くんって、なんかそういうのも活動のひとつみたいな感じで言うじゃん? だから出ねぇんだよ」って。

    正論ですね(笑)。『光のなかに立っていてね』のデザインにはこれまでもずっと関わってき川島小鳥くんとミノケンの作品が使われてますけど、彼らの仕事としても一段階ステージが上がってるような印象を受けました。

    村井:この何年間かで、みんなも動いてるのを感じましたねぇ~。それでまた一緒にできるんだから嬉しいですよ。

    けいくん(坂脇慶/デザイナー)の力も大きいですね。

    村井:峯田とすごく気が合うっていうか。ミュージック・ヴィデオのテロップのフォントまで関わってくれてましたからね。

    『光のなかに立っていてね』はパッケージまで含めて、“いまの時代”っていうよりはもっとタイムレスな名盤の薫りがするんですよね。

    村井:ただただもうメンバーと向き合い、音と向き合って作ったのがこれで、時代性を意識してっていうのはなかったですからね。暗い洞窟のなかで4人でずっと作ってきて、最後に完成したアルバムを聴いてたら、そりゃいろいろありましたけど、そういういろいろあったことは全部忘れて、音だけがすうっと入ってきたんです。「いいアルバムだな」って思えて。だから、みんな……っていうか“あなた”っていう言い方をしますけど、あなたに聴いてもらいたくて曲を作っていた。それだけがすべてなんですよ。

    峯田くんはアルバムができてからあびちゃんともチンくんとも連絡をとってないって言ってましたけど、村井くんも?

    村井:とってないですね。だから打ち上げとかもないんですよね。

    いつかしたい?

    村井:うん、できる気がしますね。それでもう一回ウンコ食う! ぜってえ、その話にはなると思うから(笑)。レコーディングして曲ができたときはもう、「オレら無敵だ!」っていうのがすごくあった。その「無敵だ!」っていう念がアルバムには詰まってます。

    銀杏BOYZに影響を受けてバンドをはじめたとか、そういう若い人たちに会ったりしませんか?

    村井:ちょうど岡崎にNERVESKADEを観にいったときに、愛知ってわりとグラインドとかハードコアが強いんですけど、革ジャンにモヒカンみたいな子がずっとこっちを睨んでて、歩いてきたから「うわ、いびられんるじゃねぇかこれ」って思ったら、「銀杏BOYZ、大好きなんです。銀杏の影響でいまグラインドやってます」って。びっくりしましたけどね。そういう声はちょくちょく聞きますね。

    脱退が発表されてから、ミュージシャンとして声が掛かったりは?

    村井:そんなのあると思います? 『リズム&ドラム・マガジン』からだって、一度も話がきたことないですよ(笑)。チンくんとあびちゃんが抜けるって発表されたとき、ネットに「あれ、村井が残ってどうすんの?」ってコメントがついてましたもん。ナメられてますわ~(笑)。

    新しい人生がはじまるワクワク感はありますか。

    村井:それはある! すっごいある。ずっと音楽聴いてなかったのが、上京して峯田とライヴに行くようになり、でバンドをはじめてっていう、そのノリがここまで続いて。次もノリではじめたことがこんなふうに続くのかもなっていう根拠のない自信があります。峯田には「そんな社会は甘くないぞ」って言われてますけど。「なにより音楽やってないお前のこと、奥さんは嫌いだと思うよ」って。ヒドいもんですよ(笑)。

    ホントおつかれさまでした。今後の村井くんの動きも楽しみです。

    村井:いや~、ホントありがとうございました!

    今日は帰りにタワレコ渋谷店だね! - ele-king


    loaded
    久保憲司写真集

    Amazon Tower HMV

     レコ屋行ってますか? フィジカルはもう買っていないという人も、たまには店頭で試聴→購入体験、いかがですか。店頭の楽しさって思ったほど消えていないなあと最近感じます。お店の方もすごく考えて工夫されているんでしょうね!
     さて、今日はタワーレコード渋谷店さんにて、先月発売となりました久保憲司さんの写真集出版を記念してトークショーが開催されます。お相手を務めますのは野田努。本書収録のアーティストたちについて貴重な思い出やお話が聞けるはず。10代で飛び込んだロンドンの街並み、レイヴやフェスの熱気、一時代を築いたDJたち、ブリットポップやグランジの記憶――ロックだけではない“クボケン”を解体します!
     タワーレコード店頭にてご購入いただいた方には「サイン会参加券」もつきます。店内をぷらっと歩いて、トークを眺めれば、帰りには欲しい音源が増えていますよ!

    『loaded久保憲司写真集』リリース記念トーク&サイン会

     90年代のロックシーンを収めた久保憲司写真集『loaded』発売を記念して渋谷店にてele-king野田努とのトーク・イベントを開催! 写真とともに当時のアーティストたちの思い出を語っていただきます! ※橋元優歩の出演は無くなりました

    ■開催日時
    2014年01月24日(金) 20:00
    ■場所
    渋谷店 5F イベントスペース
    ■参加方法
    久保憲司/「loaded」 久保憲司 写真集をご購入のお客様にサイン会参加券をお付けいたします。
    トークイベントの観覧はフリーとなっております。

    ■対象店舗
    渋谷店 ・新宿店

    ■対象商品
    久保憲司/「loaded」 久保憲司 写真集(9784907276072)¥2,940
    ・対象商品のご購入は対象店舗の店頭でのみお受けしています。
    ・対象商品のお取り置きはお電話、インターネット取り置きにてお受けしています。
    ・イベント券の配布は定員に達し次第終了いたします。終了後にご予約/ご購入いただいてもイベント券はつきませんのでご注意ください (イベントにより券の名称は異なります)。
    ・イベント券を紛失/盗難/破損された場合、再発行はいたしませんのでご注意ください。
    ・イベント券が必要なイベントにおいて、小学生以上のお客様はイベント券が必要になります。
    ・イベント中は、いかなる機材においても録音/録画/撮影は禁止となっております。
    ・会場内にロッカーやクロークはございません。手荷物の管理は自己責任にてお願いいたします。
    ・会場周辺での徹夜等の行為は、固くお断りしております。
    ・店内での飲食は禁止となっております。
    ・都合によりイベントの内容変更や中止がある場合がございます。あらかじめご了承ください。


    Sons Of The Morning - ele-king

     00年代エレクトロニカの記憶と技法は、いま、どのように伝承されているのだろうか。

     1990年代末から2000年代初頭、ハードの飛躍的な向上によって、PC内での音色の徹底的なエディットが可能になり、それまでの機材では不可能であった音色のエディットや運動感覚の生成、音響デザイン(それらのエラーの活用も含めて)が行えるようになったとき、いわゆる、ポスト・デジタル・ミュージック=初期エレクトロニカのフォームは完成したといえるのだが、同時に、音色や音響の運動に対する聴き手の聴覚もまた大幅に拡張させていった。ミュージック・コンクレートや電子音楽など現代音楽のフィールドに属するアカデミズム内ではなく、クラブ・ミュージック/テクノ・フィールドから派生したからこそ、よりポピュラーな形で聴き手の聴覚を更新させたのだろう。キム・カスコーンの語る「失敗の美学」が作り手と聴き手の間に一気に浸透していったのだ。

     そして、00年代初頭には、90年代末期の「実験」の成果を踏まえて、よりポップでありながらも、グリッチなどのソフト・ノイズを活用したミニマルな和声進行の瀟洒な電子音で織り成す応用型エレクトロニカが一世を風靡したわけだが、2000年代末期~2010年代初頭のドローン/アンビエント・ブーム以降(しかし、これは「音楽」への回帰でもあったと思う)、そういったエレクトロニカは、わずかな例外を除いて音の海に溶けていった。

     だが、昨年あたりからだろうか、大きな変化の兆候を感じるのである。まるで音の海に溶けていた音響が再び形を取り戻してきたかのように。たとえば日本のエレクトロニカ・シーンにおいて、00年代初頭のエレクトロニカ・ムーヴメントからの影響を受けた(間接的であっても。たとえば2003年のスケッチショウ『ループホール』以降の環境とも)音楽家たちが、極めて高品質な作品を相次いでリリースしている。〈プログレッシブフォーム〉からリリースされたポウン/ヒデキ・ウメザワ『ポートレイト・リ:スケッチ』(2013)などは必聴だ。

     では、海外はどうか。確かに近年のエレクトロニクス・ミュージックのトレンドは、インダストリアル/ノイズとの交錯であったり、ミニマル・ダブであったり、ジュークであったりするなど、00年代的なソフト・グリッチなエレクトロニカはシーンの中心にいるわけではない。だが、〈ラスター・ノートン〉は未だ健在だし、多くのアーティストが作品のリリースを続けていることを見逃してはならない。

     ビート・シーンからエレクトロニカ・ムーヴメントの交錯を実現したプレフューズ73ことギルモア・スコット・ヘレンもその一人である。デジタル・エディットだからこそ可能なボーカル・チョップの手法でシーンにその名を知らしめた彼は、トレンドとなったその手法に固執することなく、音楽的にも音響的にも作風を拡張してきた。彼は9枚のオリジナル・アルバムをリリースし、さらにはピアノ・オーヴァーロード、アーマッド・ザボ、サヴァス&サヴァラス、クラウド・ミレヤなどの別名義・別グループなどで大量の作品を生み出しきた。連名コラボレーション作品としてはザ・ブックスとのEP『プレフューズ 73 リーズ・ザ・ブックス E.P』(2005)もある。2012年には、突如、ピアノ・オーヴァーロード名義のアルバムをリリースし、われわれを驚かせたものだ。

     本作『スピーク・スーン Vol.1』は、ギルモア・スコット・ヘレンと写真家エンジェル・サバリョスによって設立された新レーベル〈イエロー・イヤー・レコーズ〉からのリリース第一作であり、LAビート・シーンの俊英ティーブスとのコラボレーションである。ティーブスといえば、2010年にリリースされたファースト・アルバム『Ardour』は未だ多くのリスナーに愛されている名盤だ。そのロマンティックな音響とクリッキーなビートを聴いていると、桃源郷へと連れていかれるような気分になる。画家でもある彼のトラックには、聴くペインティングとも形容したい色彩感を感じるのだ。フライング・ロータス以降、注目すべきビートメイカーの一人といえよう。

     プレフューズとティーブス。そんな二人のコラボレーション作品となれば、どれほどの作品に仕上がるのかと聴き手は思わず身構えてしまいそうになるが、本作は、そんな聴き手の想像などを軽やかにかわしたリラクシンなアルバムであった。まるで初夏の空気のように柔らかく、同時に夏の終わりのようなを淡い記憶を刺激するノスタルジアが緩やかにゆれる。何度聴いても聴き飽きない、何年先も聴けるような普遍的な作品である。

     同時に私は、先に書いたような00年代エレクトロニカの技法が、極めて自然な形で鳴っていることにも驚いてしまった。LAビート・シーンとエレクトロニカ? 確かに戸惑うだろうが、前述したプレフューズ以降(そしてフライング・ロータス以降)、エレクトロクスの使用方法において共通する点も多い。過度に圧縮された軽やかに蠢く電子音のエディットと、細やかな動き。それらがステレオに配置(デザイン)されていくことで耳をくすぐり、時にムード・ミュージックのように甘くドリーミーな和声感覚も鳴り響き、細やかなビートが絡むのだ。

     そもそも90年代のアブストラクト・ヒップホップの流れを受ける彼らが、00年代的エレクトロニカと交錯するのも極めて当然であった。00年代のエレクトロニカ的音響とは、サンプリング・ミュージック以降、もっとも大きなサウンド・テクノロジーの進化であるのだから。全7曲、どのトラックも、00年代的なデジタル・コンプレッションが多用された音が、デザインされ、軽やかに鳴っている。甘いコード。ソフトなグリッチ・ノイズ。大きな円環を描くようなクリッキーなビート。時に断片的なギターが鳴り響き、時にアンビエント/ドローンが持続する。あらゆるものからフローティングしているデジタル・サウンドがもたらす音の運動と色彩をめぐる音の快楽。ミニマルなスタイルと、適度にセンチメンタルで、ポップな音。夏の終わりの記憶を刺激する白昼の夢のようなサイケデリア。それらが日常の片隅で不意に鳴り続けること。

     このコラボレーションには、そんな00年代的音響の最良の部分が鳴っている。デジタル・サウンドに封じ込められた夏の終わりの記憶に、グリッチ・ノイズやサウンドが介入する。それが、私たちの、21世紀の音楽である。エンドレス・サマーは終わっていないし、終わらないのだ。現在と過去はノイズとデジタルと音楽/音響の狭間に、並列に、ある。00年代エレクトロニカ/音響は、いまも、これからも私たちの耳元で、波の記憶とデジタルなソフト・ノイズと共に鳴り続けるだろう。

    オンリー・ゴッド - ele-king

     虚無的なLAの街に流れていたのはシンセ・ポップだった。それは、寡黙で暴力的な男が主役のクライム・ムーヴィーにはまるで不釣合いなほど甘ったるく、しかし同時に、どこか幼さを残すライアン・ゴズリングの不器用な恋心を代弁するのにはそれ以上の音楽はないように響いた。世界に野心的な監督の才能を発見させたニコラス・ウィンディング・レフンの前作『ドライヴ』の成功は、あの画面をシンセ・ポップで満たそうとしたセンスだったといまでも思う。台詞による言葉よりも、映像と俳優の佇まいと音でドラマティックな瞬間を示そうとするウィンディング・レフンはいまどき貴重なほど映画に奉仕するシネアストであり、一種古風で典型的な映画作法を用いながらもしかし新しい領域を模索せんとする探求者だ。快楽的でありながら、同時にまだ見ぬ可能性の香りがこのひとの映画にはある。

     バンコクというよりはLAに見える虚飾が煌く街を舞台に、ライアン・ゴズリングが画面のなかで押し黙っているレフンの新作『オンリー・ゴッド』は『ドライヴ』からの連続性を強く感じさせるがしかし、あのシンセ・ポップのような甘いひとときは皆無だ。少女をレイプし殺害した兄がその父親に惨殺され、そのさらなる復讐を犯罪組織のボスでもある母親に命じられるプロットの上で、過激と言うにはドライなあまり美しくすら思える暴力描写が次々に続く。『ドライヴ』が一種典型的な犯罪映画を下敷きにしていたように、本作もわたしたちのギャング映画や西部劇の記憶をかすめるが、それがギリシア神話や格闘技映画と接続されることで何か奇妙な手触りを残す。
     古風なようでいて、しかしどういうわけかこれは見たことのないものだと直感させられてしまうレフンの現代性はどこにあるのだろう? 『オンリー・ゴッド』においてそのヒントは、クリスティン・スコット・トーマス演じる(怪演!)絶対権力者である母親が、ゴズリングに「お前は自分よりもペニスの大きい兄に嫉妬してた」と、よりによって会食の席で口にする台詞にあるように思える。『ドライヴ』でのセックスの欠落はドライバーの恋の初々しさを示すものでもあったが、本作においてのそれは主人公ジュリアンが性的に未熟であることをほのめかしているようだ(母が溺愛する兄は「すごいペニス」を持っていて、そして少女をレイプするような男である)。レフンはそのフィルモグラフィで暴力的な男たちを溢れさせてきたがしかし、あどけなさを残すゴズリングという格好の被写体を得て、旧来のマッチョイズムには回収されない含みを漂わせる。男の出来損ないとしてのヴァイオレンス……映画における、性のステレオタイプの揺らぎが示唆されているのではないか。

     そして復讐劇であったはずの映画は、信仰の問題に分け入っていく。ゴズリングは『ドライヴ』同様にここでも孤独な存在で、母親の絶対的な支配から逃れるようにして別の「神」を求めていく。これまでに暴力描写においてギャスパー・ノエの映画を参考にしたというレフンだが、ノエが『エンター・ザ・ボイド』において(よくも悪くも)スピリチュアルな領域に入り込んでいたのをここで思い起こさせる。ただ、本作はほとんど感傷を介在させていない点でレフンのほうが一枚上手であるように僕には思える。ジャンル映画を接続し、ミニマルな様式でそのじつ多くのことを(語るのではなく)ほのめかす、なるほどこれから先の映画を切り拓いていくだろう才能による勝負作である。
     最後に音のことに触れておくと、クリフ・マルチネスによるオリジナル・スコアはインダストリルな感触のエレクトロニック・ミュージックだ。その辺りのセンスにも、やはりゾクゾクさせられる。

    予告編

    interview with Warpaint (Jenny Lee Lindberg) - ele-king

     「世界は複雑な場所だ」と唱えることでむしろ世界を単純化しがちなわたしたちは、ウォーペイントの寡黙な力強さを通して、ふたたびその複雑さに触れる。美しい容姿の女性4人組バンドだと紹介すれば華やかだが、実際のウォーペイントに感じるものは実直なミュージシャンシップと、トレンドに頓着しない揺るぎなさだ。曲名も“ハイ”とか“ビギー”とか“ドライヴ”といった素っ気ないものが多いが、音に触れたときに流れ込んでくるものが、そのくらいのシンプルな言葉でなければ受け止められないような渦を持っていると感じられる。
     デビューEP『エクスクイジット・コルプス』(2009年)は彼女らに惚れ込んだジョン・フルシアンテによってミックスが施された。その後老舗〈ラフ・トレード〉からリリースされたフル・アルバムも大きな賛辞とともに受け入れられた。そしてクリス・カニンガムまでが急接近し、今回リリースとなるセカンド・フルのアートワークは、ヴィデオをふくめ彼とじっくり組む形となった。彼女たちのキャリアはいまさらなる飛躍のタイミングを迎えている。2010年前後においては、彼女らの〈4AD〉の幽玄に通じるサイケデリアとドリーム感、あるいはポカホーンテッドらに神話するわずかにダビーなプロダクションにはたしかに注目されてしかるべき同時代性があったが、それにしてもこのように大柄な「オルタナティヴ・ロック」が、これほど素晴らしく聴こえるというのは特筆すべきことだ。


    Warpaint / Warpaint
    ホステス / Rough Trade

    Tower HMV iTunes

     今作はジョシュア・トゥリーで録音されたということだが、奇岩と砂漠が広がる乾燥地帯は、彼女たちのあの虚飾を拒むような音をよく象徴している。カントリー色こそないが、彼女たちの根元にロックがあることを感じさせる。それはスタイルではなく価値観であり、カルチャーではなく実存だ。フラッドやナイジェル・ゴドリッチの参加は、そのなかに旋毛のようにたくしこまれている繊細さを無重力的に立ち上がらせたと言えるかもしれない。レクトロニックに奥行を構築された本作は、トリップホップからインダストリアルな要素まで垣間見せながら、あくまでそれを自分たちの血とし肉として鳴らしている。

    「力強さ」を強調するように書いてしまったが、それは彼女たちの持つ「ミステリアス」に安直なニュアンスを与えたくなかったからだ。ウォーペイントの沈み込むような文学性や、透明でありながらもどこか諦念や倦怠を感じさせる曲調は、今作によりディープに引き継がれている。こうした性格はドラムのステラの加入によって強められたともいうが、ソングライターを軸に曲ができていくというよりも、おそらくはセッションから曲の要素を取り出している彼女たちの方法がしのばれる話だ。インタヴュー中、ヴォーカルのリンドバーグは一貫して「We」で回答しており、あくまでバンドとしての自身らの矜持を語っているように感じられた。歌詞については「全体的に共通して「愛」を題材にしている」そうだ。4人それぞれの愛の観念が、岩とヨシュア・トゥリーの間を彷徨し、風のように唱和する──どろりとしたものと乾いたものとが、バンドというダイナミズムのなかで静かにせめぎ合う、そのなかでふと世界に触れてしまう、本当にまれにみる傑作だ。

    これまで10年ものあいだ、テレサとエミリーと3人でやってきて、ひとつの集合体として育ってきたけど、それと同時に歳を重ねることで個々がはっきりしてもきた。今回の作品では、なによりその「個」の部分を失わずにひとつにまとめることができたと思うの。

    セルフタイトルのアルバムとなりましたが、印象的な変拍子をはじめとして、リズムが少し戦闘的というかアグレッシヴになったと思います。“ハイ”などの16ビートもとても新鮮でした。今回は何らかのかたちでダンス・ミュージックが意識されていたのでしょうか?

    曲作りのためにスタジオに入ったとき、特定のコンセプトやアイデアを事前に考えて臨んだりせず、それぞれがそのとき思いついた、自然に生まれたものをまとめようとしたの。いまやりたい音楽、いま聴きたいと思える音楽をね。

    “ハイ”などのいわゆるトリップホップ的なムード、あるいはインダストリアル的な音の世界観は、とくに際立った特徴ではないかと思います。こうした音楽性を取り入れていくようになったきっかけのようなものはありますか?

    これも自然な成り行きでできあがった曲で、テレサの家でわたしが思いついたベースラインにテレサがギターを弾きはじめて歌ったものが土台になってるの。マジカルにすべてがうまく自然に重なり合ってできた曲ね。

    ジョン・フルシアンテからの影響や彼との仕事も素晴らしかったですが、今作はフラッドやナイジェル・ゴドリッチといった人々の手も活きていて、ウォーペイントはとてもブリリアントに90年代の音楽を再解釈しているようにも思われます。その頃の音楽が原体験にあるからでしょうか? どのような音楽に親しんできましたか?

    うーん、わたしにはお手本になったバンドとか、「こうなりたい」と思う特定のバンドやアーティストはいなかったし、わたしたちは互いに幅広くいろんなジャンルの音楽を聴いて育っていると思う。だからわたしたち自身も、どのジャンルと特定するのか難しいくらいバンドとしてヴァラエティに富んでいる音を出していると思うわ。

    フラッドやナイジェルは、あなたがたのバンド・サウンドのダイナミズムを損ねずに、エレクトロニックな展開やダンス・ビートへとつなげていると感じました。彼らに対してバンド側からの要望は何かありましたか?

    ナイジェルはアルバムの中の2曲でミックスを手掛けているの。当初はとくにいっしょにやりたいと思える人が思い浮かばなくて、すべてセルフ・プロデュースにしようと考えていたんだけど、フラッドのことがふと思い浮かんで。彼を第一希望にしたわ。だから彼が引き受けてくれたのはうれしかった。彼は制作の最初からわたしたちといっしょにいてくれて、とくにわたしたちに方向性を押し付けたりこれまでのイメージを強調しようともしなかった。彼はすばらしいエンジニアでもあるし、何より彼にはより突き詰めるということの大事さを教えてもらったわ。たとえばわたしたちが「これで曲は完成!」って思って彼に聴かせると「よし、じゃあもうちょっと深いところまで行ってみよう」と、もっともっと深いところまでわたしたちの背中を押してくれて。結果的に自分たちだけでは到達できなかったであろう地点まで突き詰めることができたと思うわ。

    一方、それとは対照的に、あなたがたのサウンド自体にはヒプノティックな雰囲気や、〈4AD〉を思わせるような幽玄がありますね。その中で“ラヴ・イズ・トゥ・ダイ”というような、文学的でヘヴィな認識が歌われるわけですが、自分たちに近い世界観を表現していると感じるアーティストや作家などはいますか?

    特定のアーティストや作家というよりも、さっき言ったようにステラの加入が大きい部分ではあると思う。歌詞に関しては全体的に共通して「愛」を題材にしているということはあって、4人それぞれの現在思う愛のかたち、経験を歌っていることで作品全体の雰囲気を形成しているとは思うけど。

    “Go In”などに顕著ですが、全体にダビーな手法が用いられていますね。ダブに憧れがあったりしますか?

    もちろんダブは好きよ。あの曲はジョシュア・ツリーにいるときにできた曲ね。

    クリス・カニンガムが今回は全面的にアートワークを手がけているようですが、彼が撮り彼が映像化したものを通して、あらたに発見した自分たちの姿や性質はありますか?

    彼とはジョシュア・ツリーにデモを作りに行く前に出会ったんだけど、同行してバンドといっしょに過ごすことになったの。そうしていくうちにお互いをよく知ることができた。だから、彼の作ったものは必ずしもわたしたちだけでは思い浮かばないものだったりするんだけど、不思議とバンドとマッチしたと思う。これまで10年ものあいだ、テレサとエミリーと3人でやってきて、ひとつの集合体として育ってきたけど、それと同時に歳を重ねることで個々がはっきりしてもきた。今回の作品では、なによりその「個」の部分を失わずにひとつにまとめることができたと思うの。これまでももちろん、お互いを受け入れながらやってきたんだけど、今回はそれをより高めることができた。アートワークにはこれまでの私たちのいろんな映像が含まれているんだけど、まさしくそういう紆余曲折を経た後の「いまのわたしたち」がちゃんと捉えられていると思うわ。

    彼は2年ほどバンドの姿を撮ってきたということですが、何か思い出深いエピソードはありますか? また彼の作品で惹かれるところがあればどんなところか教えてください。

    彼は非常に器用で幅広いし、自分の気持ちにとても忠実なアーティストね。ある瞬間ロボットを扱っているかと思ったら次には草原を走り抜ける少年や動物を追っていたり、とにかくいま自分が感じていることに対して正直で、どのような領域でも誠実に自分の作品として扱うところが本当にすばらしいと思うの。自分の想像力に対し忠実であり誠実。でもとっても気さくで繊細で、いつもジョークを絶やさないおもしろい人。とにかくいつも驚かせてくれる人で、あの頭の中では何が起っているのかわからないけど、不思議なことに必ず誰もがおもしろいと思えるものを作り上げてしまうの。彼の作品はどれひとつつまらないと思うものがない。それが本当にすごいと思うわ。

    まだあの頃は言いたいこともたくさんあったし、「Less is more」の精神がわからなかったのよ。

    録音や音楽制作はアメリカで行っているのですか? 今回の録音に関してはどのような環境で行われたのでしょう?

    2年前の2月頃からジョシュア・ツリーでデモを作りはじめて、それからレコーディングをLAのスタジオで行って、最終的なミックスはロンドンでやったわ。時間がかなりかかったように聞こえるけど、プロデューサーのフラッドのスケジュールに合わせるのがとても大変で、でもそのおかげで4人だけの時間もできてかなり細かく曲作りに打ち込めたからよかったわ。

    セルフ・タイトルとなった理由はどんなことでしょう?

    これまで2枚の作品を出しているけど、わたしたちの中ではこれがウォーペイントとしての初めての作品のような気がするの。ステラが加入して最初の作品でもあるし、この中には彼女が加入する前から書かれた曲もあったけど、彼女はそうした曲にも自分の色をちゃんと加えていて、この4人の作品として完成させることができたからセルフ・タイトルにする意味があると思ったの。

    1曲めなどは、かなりロウなかたちで、あなたがたのセッションが生々しく感じられる録音になっていますが、全体としては、アルバムはアルバムとして別のプロダクションが目指されていると感じます。ライヴの音をCDで再現したいという思いはあまりないのでしょうか?

    たしかにレコーディング開始当初はわたしもそこで迷ったんだけど、フラッドから「後のことは気にせず、いいアルバムを作ろう」と言われて吹っ切ることができたの。ライヴ用にアレンジすることはいくらでもできるし、音源とまったく同じでもおもしろくないし。むしろその方がライヴをよりエキサイティングなものできるし、音源とちがう表現にはなるけど、それはこれまでにもやってきているし、自分たちの得意としているところでもあると思うの。この作品ではライヴで演奏したときのマジカルな瞬間を捉えることもできていると思うし、先日行ったライヴですでにアルバムから4曲新曲をプレイしたんだけど、むしろ音源よりヘヴィなアレンジになったから何も心配はしていないわ。

    いま思い返してみると『フールズ』はどのような作品でしたか?

    もうリリースしてからはずいぶん長いこと聴いていない。もちろんライヴでは演奏するけどちゃんと音源として盤を聴いてはいないし、手元に持ってすらいないわ。ちょうど1年くらい前に聴き直す機会があったんだけど、そのときの印象は、とにかく好きな音源ではないということ。プロデュースされすぎて生々しさに欠けているし、間違いなくライヴ・バンドとしてのわたしたちを捉えていないし、とにかく気に入らなかったんだけど、最近はもうそれも乗り越えて客観的に聴けるようになって、思っていたほど悪くないなと思えるようになったの。もう過ぎてしまったことだし。ただあの音源をライヴでやるにはいろんな音を削ぎ落とさなければならなくて、それが今回のアルバムの教訓になっているの。レコーディングでは「これを上げて、これを下げて」ってバランスを取れるけど、ライヴではすべての音を鳴らせるわけじゃない。『フールズ』では本当は削りたくない音まで削ることになっちゃったから、今回のアルバムではそうならないようになるべく音数を増やさないように心がけたの。まだあの頃は言いたいこともたくさんあったし、「Less is more」の精神がわからなかったのよ。

    Hyperdub 10 - ele-king

     なにせローレル・ヘイローのライヴを見れるんだぜ、それだけでも充分なのに、DJラシャドのDJで踊れる。エレクトロニック・ミュージックないしはダンス・ミュージックが好きで、いま海外で起きている、ちょっと尖ったことに少なからず興味がある人なら、こ、こ、これは、真面目な話、なんとしても行かねば……ですよ! DJフルトノもプレイするしな。先着順の特典も欲しいので、オレは開場時間に行こっと。

     出演者のプロフィールなど、細かい話はココを見てくださいね。
     ↓
     https://www.beatink.com/Events/Hyperdub10/

    ●来場者先着特典有り!

    2014/1/31 代官山UNIT
    OPEN/START 23:00  TICKET: 前売3,800YEN / 当日4,500YEN
    ※20歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。必ず写真付き身分証をご持参ください。
    You must be 20 and over with photo ID.
    企画制作/INFO:BEATINK 03-5768-1277(www.beatink.com
    主催:シブヤテレビジョン

    前売TICKET詳細:
    BEATINK (shop.beatink.com
    ローソンチケット - https://l-tike.com(Lコード70328)、
    イープラス e+ - https://eplus.jp
    tixee (スマートフォン用eチケット) - https://tixee.tv/event/detail/eventId/3725
    clubberia (eチケット) - https://www.clubberia.com/ja/store/product/382-Hyperdub-10-E/ :1/31(FRI)14:00まで販売。

    店頭販売(1/31(金) 各店閉店まで販売):
    TOWER RECORDS(新宿店、秋葉原店)
    disk union (渋谷Club Music Shop / 新宿Club Music Shop / 下北沢Club Music Shop / お茶の水駅前店 / 吉祥寺店)
    disc shop zero
    JET SET TOKYO

    地方公演:レーベルの豪華精鋭4組が一挙に4都市を巡る激圧JAPANツアー!
    2014/2/1(SAT) 名古屋CLUB MAGO
    INFO: CLUB MAGO 052-243-1818[ https://club-mago.co.jp ]
    2014/2/2 (SUN) 金沢MANIER
    INFO: MANIER 076-263-3913[ https://www.manier.co.jp ]
    2014/2/3 (MON) 大阪CONPASS
    INFO: CONPASS 06-6243-1666[ https://conpass.jp ]


    T.B.Brothers - ele-king

    Bing Ji Ling - ele-king

     昨年末の超満員のリキッドルームでモダン・ラヴァーズの“エジプシャン・レゲエ”をカヴァー(というかフレーズを引用)したのはオウガ・ユー・アスホールだった。そして、パティ・スミスがリアーナの“ステイ”をカヴァーしていると教えてくれたのは三田格だった。どちらも意外と言えば意外で、いや、オウガはアリか……、しかし後者は意外でしょう。かねてよりカヴァーを好み、歌詞マニアとして高名なパティ・スミスでさえもリアーナを認めるのか! と嬉しい驚きである。

     カヴァーは、商業音楽における常套手段だ。多くの人の耳に馴染んだヒット曲をオリジナルとは違ったアレンジで再現することは、アレンジの妙技を伝え、売れる可能性も追求する。多くのカヴァーにおいては、より洗練されたアレンジが求められる。たとえばレジンデンツの嫌味な“サティスファクション”ではより売れなくなり、リンダ・ロンシュタットが“アリソン”を歌えばエルヴィス・コステロの原曲より大衆受けする。カーペンターズがビートルズをカヴァーすればビートルズを聴かない層にもアピールする。
     それはAORへと繋がる。それは口当たりの良いMORへと繋がる。不思議なもので、バート・バカラックの“クロース・トゥ・ユー”をジャマイカのフィリス・ディオンがカヴァーすればルードボーイが涙し、北欧のジャズ・シンガーが歌えばオヤジの外車で再生される。マイルス・デイヴィスがシンディ・ローパーの“タイム・アフター・タイム”をカヴァーすれば誰もが微笑む。カヴァーは、聴き手を選び、原曲の方向性を変えることもできる。たいていの場合、我々音楽ファンを楽しませてくれる。

     Bing Ji Ling(冰淇淋)とは、中国語でアイスクリームを意味するそうだ。上海に1年住んだことのあるという彼は、トミー・ゲレロのバンドのメンバーとして紹介されることが多いようだが、調べると、西海岸のタッスルの元メンバー(ジ・アルプスのメンバーでもある)なんかともいろいろなプロジェクトをやっていたことがわかる。ノルウェーの〈スモールタウン・スーパーサウンド〉、サンフランシスコの〈ロング・ミュージック〉、ニューヨークの〈DFA〉といったクラブ系のレーベルから作品を出している。ディスコ・バンド、フェノメナル・ハンドクラップ・バンドのメンバーとしての活動も知られているが、ソロとしてのキャリアも10年ほどある。日本では、2009年に〈RUSH! PRODUCTION〉から出た『So Natural』が話題になったが、同年のシングル「ホーム」はクラブ・ヒットもしている。
     彼のユニークなところは、彼の経歴からもわかるように、アコースティック・ギターとソウル・ヴォーカルの組み合わせ──いわばSSWの弾き語りスタイル──をクラブ・ミュージックのコンテクストと接合した点にある。言うなればチルアウトなソウル歌手だ。

     ビン・ジ・リンの新作は、全曲カヴァーで、プリンス、シャーデー、ドナ・サマー、リル・ルイス、ティアーズ・フォー・フィアーズといった有名どころから、80年代に活躍したロンドンの洒落たラテン/ソウル/ジャズ・バンド、ルーズ・エンズ、スイスのシンセポップ、ジャズのスタンダードなんかの曲も試みている。ちなみにドナ・サマーの曲は、超有名な“ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー”。他は、リル・ルイスの“クラブ・ロンリー”、プリンスの『パレード』収録の“アナザー・ラヴァー”、シャーデーの『ラヴ・デラックス』収録の“キス・オブ・ライフ”など、80年代なかばから90年代初頭にかけての曲が多い。
     アイスクリームを名乗るくらいだから、実に口当たりの良い、洗練されたアレンジと歌をビン・ジ・リンはやる。軽いボサノヴァや無害なジャズに混じって高級車やカフェでかかっていることも充分にあり得るだろうし、うちの母親だって聴け……るってことはないだろう。居酒屋でかかるって感じではない。が、とにかく、それほどぱっと聴きは、清潔感に満ちた、青く透明に広がるMORなのだが、しかし“ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー”や“クラブ・ロンリー”の歌詞を思えば、これはエロさを隠し持った清潔感なのである。しかも、アルバムはチルアウトな感性で見事に統一されている。録音のクオリティも高く、マンキューソに評価されるのもうなずける。
     このアルバムにはシュギー・オーティス(ソウルに電子音を注いだ先人)からの影響も見受けられる。エレクトロニクス(電子音からギターのループなど)と適度なパーカッションは、目立たないけれど、あまたのアコギ+歌モノとは一線を画すべく、ユニークな響きを引き出している。マーク・マッガイアがアコギでバート・バカラックのカヴァーを歌っていると言ったら大げさだけれど、というか、そのレヴェルの面白さを誰か追求して欲しいものだが、タッスル~ジ・アルプスとの共作という過去とも、言われてみれば繋がるなとは思う。また、本作は最近のネオアコな気分とも同期している、と言えなくもないか。

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