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ウォーペイントには恋愛や相聞をテーマとほのめかす曲が多いが、それはいわゆるラヴ・ソングの定型を外れ、より広い問いへとつながっている。
「引いていく波のなか、いまあなたをつかまえた」"アンダートウ"
どの曲からも、つねに十全な形では得られない、追っても追われても微妙な違和感を残す関係性が浮かび上がってくる。まさに「引き波のなかでつかまえる」という表現に象徴的だ。それは主体が世界全体に対していだく違和感をも暗示する。冒頭のギターのいち音めから感じることができるだろう、まるく、愁いと叙情に濡れた音である。
LAの女性4人組、正眼に構えたロックを久々に聴く思いだ。彼女たちの古風で凛々しい立ち姿に、久しぶりに混乱を覚える。彼女らの臆面もない叙情性に夢中になっている自分に驚いている。正面切って暗く切ない。アガる部分など一片のフレーズにすらない。ダウン・アンド・ダウンで、しかし非常にリリカルに盛り上がる。ギミックを嫌い、すかした態度を厭う。曲を通して走り、歌いつづける。ケイジャン・ダンス・パーティーのダニエル・ブルムバーグが"アミラーゼ"で走りつづけたように、耐えがたい混乱から逃げるために、いや、それに向かって走るのである。
ベースとドラムが素晴らしい。ベースもコーラスがかかっていて、よく動く。ギターに対して対旋律のように絡む、知的なフレーズ感覚を持った演奏だ。"セット・ユア・アームズ・ダウン"や"ビーズ""いくつかの曲においてはダビーな録音がなされていて、作品に個性的な表情を与えている。"ウォーペイント"でのファンキーな動きもいい。黒い躍動感が疾走するギターの手綱となり、ときにそれを緩め、ときに締め、緊張感あるアンサンブルを生んでいる。
ドラムも同様だ。ジャジーでファンキー。テクニカルでハイ・センスだ。このバンドにわずかに宿ったダルでレイジーなタイム感は彼女、ステラによるものである。ところどころドラムマシンに置き換わるようだが、その配分も絶妙だ。オープン・ハットが無数のフラッシュのように閃き、楽曲を照らし出す。プロデューサーのトム・ビラーという人もよほどの才人なのだろう。
ヴォーカルも素晴らしい。透明だが諦念や倦怠が含まれている。世界への、である。そして、諦め、倦んでもこぼれでてやまないエモーションがある。気怠いが、眼差しの奥にファイティング・ポーズを感じる歌である。
その他特記すべきことと言えば"シャドウズ"の持つトリップ・ホップ的なプロダクションだろうか。ミックスにはアンドリュー・ウェザオールも関わっているというが、素朴なギター・バンドでないという点はウォーペイントについて述べる上で重要だ。独特の浮遊感、ミステリアスなリヴァーブ感は〈4AD〉のイメージにも接続し、ローファイ・ブームに沸くLAにしてUKの遺伝子が花弁を開いたことにも注意したい。バンドの結成自体は6年前にも遡り、地元でじっくりとファンを増やし、『NME』や『ピッチフォーク』が賛辞を送り、老舗〈ラフ・トレード〉と契約し、ザ・XXやバンド・オブ・ホーセズらのオープニング・アクトを務めて名を馳せていくことになったという経緯も付記しよう。
橋元優歩