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The Alps

The Alps

Le Voyage

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野田 努   Jul 06,2010 UP

 ヴェルナー・ヘルツォーク、ミケランジェロ・アントニオーニ、そしてアレハンドロ・ホドロフスキーといったヨーロッパ映画の巨匠を愛するサンフランシスコの3人組による4作目で、前作に引き続き、ゼラ(Xela)の名義で知られるジョン・トウェルズ主宰の〈タイプ〉からのリリース。大雑把に言えばアンビエント系を好み、今年に入ってからも活発にリリースを続けているUKのこのレーベルに関して言えば、毎度スリーヴ・デザインが地味ながらセンスが良く、水彩絵の具が滲んだようなアルプス山脈を描いた今回のアートもまあ悪くはない。シックである。

 ところでヘルツォーク作品の音楽といえば、その代表作のほとんどはクラウトロックにおける綺羅星のひとり、ポポル・ヴー(故フローリアン・フリッケ)が手掛けているわけだが、ジ・アルプスのサイケデリック・サウンドにマヤ文明への憧れやアニミズムへの探求があるわけではない。また、その音楽の基礎にフリッケのような確固たるクラシック音楽があるわけでもない。ジ・アルプスの根幹にあるのはフォーク&カントリー(もしくはブルース・ロック)であり、バンドを特徴づけるのはあくまでギター・サウンドだ。手短に言えばフォーク・ロックがモダンなアンビエント&エレクトロニクスのセンスとブレンドされている。一歩間違えば古くさくなりかねないが、すんでのところでそれを回避しているのがこのバンドである。

 2年前の『III』によって多くの賞賛を浴び、当時はしばし「ポポル・ヴーとエンニオ・モリコーネとの出会い」と形容されたジ・アルプスだが、『航海』と名付けられた本作はポポル・ヴーというよりは70年代初頭のピンク・フロイドであり、『小人の饗宴』というよりは『砂丘』だ。アンビエントというよりはプログレッシヴ・ロックであり、ありていに言えばサイケデリック・ロックだ。飛行機を強奪して、空を彷徨い、砂丘に着陸して、裸の美女といっしょに宇宙の誕生を見る......わけではないが、それなりの小旅行が楽しめる。

 ジ・アルプスの中心メンバー(元タッスルでもある)は3年前アープという名義のソロ作品をノルウェイの〈スモールタウン〉から発表している。エレクトロニックスによるポップ・アンビエントを展開するそのアルバム・スリーヴには水平線に輝く日没の写真が使われていたものだが、『III』にしても『ル・ボヤージュ』にしてもその感覚はまったく共通している。早い話、夕焼けが好きなのだろう。アルバムの冒頭"ドロップ・イン"におけるフォーク・ギターが奏でるアルペジオとピアノの調べは絶品だが、その美しい音楽は昼から夜へと移行する中間の黄昏時にこそ相応しい。

 アルバムには脈絡のないテープ・コラージュ(クラシック音楽や人のざわめきや水の音......)とエレクトロニクスがインタールードのように挿入されている。もっともそれは前菜やつまみのようなもので、今作を特徴づけているのは5曲目の"セイント・ローレント"のようないわば「フリークアウトしたトミー・ゲレロ」調の曲、7曲目"サトゥモ・コントロ"のような「ピンク・フロイドとエンニオ・モリコーネとの出会い」のような曲だ。フォーク・ギターの音色と8ビートのダウンテンポを基盤にしながらバンドは空に浮かぶ星々を目指している。表題曲の"ル・ボヤージュ"はコズミック・ミニマル・ロックの叙情詩で、間違いなくアルバムのハイライトである。アルペジオの反復とスペイシーなエレクトロニクスを軸にしたその曲は、ゆっくりと至福の時間へと向かっていく。

 心地よい夢に水を差すのはアルバム最後の曲"テレパシー"だ。これは少々くどいように思える。ドラムはうるさすぎるし、自分たちの音楽に酔ってしまったのだろう。それがバンド演奏によるこの手のサイケデリック系の落とし穴である。それを踏まえた上でもサンフランシスコのちょっとフォーキーな幻覚剤に興味があるなら躊躇することはない、さあ手に取りたまえ。

野田 努