「!K7」と一致するもの

セーラーかんな子 - ele-king

10/18 シブカル祭@渋谷PARCO
10/26 @高円寺AMPcafe
10/31 @渋谷OTO, @Le Baron de Paris
11/1 田中面舞踏会@恵比寿リキッドルーム
11/15 CITY HUNTER@BAR SAZANAMI

interview with 16FLIP - ele-king

直感的な感性を持つアーティストのひとつの特徴として、彼らは曲というものを自分とはべつに存在するひとつの生き物と見なし、その存在の証人となることができる、ということが挙げられる。究極的には音楽作りという行為自体の外側に立ち、音楽が生まれるプロセスの神秘に魅入られ、そしてそのプロセスの中に吸い込まれていくことができるのである。
──ジョー・ヘンリー
(ミシェル・ンデゲオチェロ『ウェザー』ライナーノーツより)

 僕はいま、16FLIPの直感力とヒップホップへの一途な情熱と求道的な姿勢が無性に気になっている。直感力に関していえば、この、東京のヒップホップ・シーンを代表するひとりであるビートメイカーのリズム、グルーヴ、サンプリング・センスにたいして使われる“黒い”という形容詞以上の“何か”をそこにあるのではないかと感じている。

 長年ヒップホップを徹底的に掘り下げてきた音楽家が、だからこそ何かを突き破りつつある、その過程をいま聴いているのかもしれない。けれども、直感はその人間の経験と知識から生み出されるもので、他人がそれを完璧に理解し、共有するなど無理な話だ。自分の耳だけを信じて、彼の音楽を聴いていればいいとも思うが、どうしても気になる。だから、話を訊いてみることにした。

 きっかけのひとつは1年ほど前の出来事だ。2013年10月某日、とある渋谷のクラブでDJした16FLIPは、ドクター・ドレとスヌープの“ナッシン・バット・ア・G・サング”とギャングスターの“ロイヤリティ”を何気なくスピンした。これまで何十回、もしかしたら百回以上は聴いたであろうこの2曲のクラシックが、まったく別の輝きを放って耳に飛び込んできたことに僕は震えた。
 90年代のUSヒップホップの音響やリズムが、2013年の耳を通して新鮮な感覚を呼び起こしただけではなかった。この感覚は何だろうか? そのときたしかに、「16FLIPにしか聴こえていない音とグルーヴ」を感じて、その後あらためて16FLIPのビートに関心を抱くようになった。


06-13
16FLIP

DOGEAR RECORDS

Hip Hop

Tower HMV Amazon

 ISSUGIや5LACKやMONJUをはじめ、BES、KID FRESINO、JUSWANNA、SICK TEAMといった数多くのラッパーやグループへのトラック提供で知られるこのビートメイカーは今年、2006年から2013年までに制作したトラックを収めたセカンド『06-13』と3枚のミックスCD(『OL'TIME KILLIN' vol.1』『OL'TIME KILLIN' vol.2』『SKARFACE MIX』)を発表している。すべてのトラックを手がけたISSUGIのサード・アルバム『EARR』のインストのアナログ盤『EARR : FLIPSTRUMENTAL-2LP-』のリリースも予定されている。
 まったくもって派手な宣伝や露出はないものの、16FLIPの音楽と存在は街にじわじわと浸透しつづけている。ファンの彼に対するまなざしは本当に熱い。すごいことだ。

 取材は今年の5月後半におこなった。ここでの僕の望みはふたつ。16FLIPのファンはより深く彼のことを知る手がかりにしてもらえればうれしい。そして、16FLIPを知らない人はこのインタヴューをきっかけに彼の音楽に耳を傾けてくれたならばありがたい。


リー・ペリーとかマックス・ロメオとか、レゲエの人たちが、わけのわからない年代で区切って作品を出したりするじゃないですか。“86-92”みたいな感じで。

最初にトラックを作ったのはいつで、きっかけはなんだったかという話から訊かせてもらえますか。

16FLIP:友だちのDJの家にMPCがあったんですよね。中3か高1ぐらいですね。で、そいつがいないときとかに遊びで作っていて、MPCを自分もほしいなって。それがきっかけだと思いますね。たぶん、自分で作るのがいちばん新鮮に感じてたと思うんすよね。そういう経験がなかったから。だから、やりだしたのかもしれない。でも、作らない時期もかなりありましたね。ちょこちょこ作ってたんですけど、あんまり上手く行かねぇなって。で、MONJUの作品を出すかってなったときに、またちゃんとやりだした感じだと思います。オレのトラックで、MONJUで1曲録ったら、わりとしっくりくるっていうことになって(笑)。それが、『103LAB.EP』(2006年)の“THINK”っていう曲なんです。その曲のトラック違いのやつがあって、それを最初に作ったんです。そこから、『103LAB.EP』を作る流れになったような気がします。

16FLIP名義で最初に世に出たトラックは、JUSWANNAのEP『湾岸SEAWEED』(2006年)に入ってる“東京Discovery”と“ブストゲスノエズ”なんですよね。

16FLIP:そうなんすよ。仙人掌の家に遊びに行ったときにメシア(THE フライ)も遊びに来たりしてて、そのときにトラックを作ったような気がしますね。レコーディング・スタジオに連れていってもらってミックスしてもらって、スタジオで爆音で聴いてたのを思いだすっす。いま思うと参加するチャンスをくれたことに本当に感謝してます。

『06-13』は、2006年から2013年までの作品を集めたアルバムですよね。2007年からにすることもできたわけだし、ベスト的な作品にすることもできたわけですよね。どうしてこの期間に絞ったんですか?

16FLIP:ベスト的なことを書いてくれている人も多いんですけど、自分はベストを出してるっていう気持ちはなくて。リー・ペリーとかマックス・ロメオとか、レゲエの人たちが、わけのわからない年代で区切って作品を出したりするじゃないですか。“86-92”みたいな感じで。そういう気分で出したつもりなんです。アルバムの題名を付けるのも好きなんですけど、題名は最終的にあってもなくてもいいかなって思ってる自分もいるんですよ。2006年に作ったトラックは一曲ぐらいしかないと思うんですけど。

それはどれですか?

16FLIP:たぶん、“Oitachi”だけですね。

選曲の基準みたいなものはあったんですか?

16FLIP:基準はいつも直感なんですよね。「いまはこの曲だな」みたいな感じですね。だから、1ヶ月とか2ヶ月経ったら違う曲を選ぶと思うし、1年かけて十何曲選びましたとかじゃなくて、「出すか」って決めて、パッパッパッパッパッみたいな感じで選びましたね。

ほとんどが2分以内、長くても3分ぐらいのトラックばかりですよね。サンプリング一発で、いい意味で遊びの感覚にあふれた作品集だなって感じました。ダブ的というか、ノリだけじゃないけど、ノリを大事にしてる感じがすごく伝わってくるというか。

16FLIP:そうっすね。最近、前よりもDJとして呼んでもらえる機会が増えて、それが作るときにいろいろ活かされてるなって自分では思うんですよね。DJ的感覚で一枚のものをまとめたいっていう気持ちがすごいありましたね。だから、自分の曲でDJやってる感じっすね。

“NEWDAY”も入ってますよね。仙人掌くんにインタヴューさせてもらったときに、「自分が客演した曲のなかで印象に残っている曲は?」って訊いたら、真っ先に挙げてきたのがこの曲だったんですよ。

ISSUGI feat.仙人掌“NEWDAY”

16FLIP:それはあがるっすね。(仙人掌と)こないだ話したんすけど、まじでいままで何曲フィーチャリングしたかすぐには把握できないくらいあるよねって言ってたんですよね。基本的になにをサンプリングしてトラックを作ったとか、あんまり憶えていないんですけど、“NEWDAY”に関してはまじでわかんなくて。そういう系のトラックなんですよね。いまはもう作れないだろうし、オレはトラックに関しても2度と作れないものが好きなんですよね。

まさに直感というか、瞬間の閃きの人なんですね。

16FLIP:しかも、その直感がそのときで消えちゃったらそれでべつにいいと思ってますね。

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いけるときは、たぶん10分ぐらいでいけますね。時間かけてもいいものができるっていうのは、オレのトラックにはないんですよ。

YouTubeにトラックを作っているときの映像がアップされてるじゃないですか。いつもああやってひとりで作ってるんですか?

16FLIP:だいたいそうっすね。あとは友だちの家とか大阪とか行ったりしたときもたまにトラック作ったりしてるんですよね。DJやりに行ったときとかに。

Making beat with 16FLIP/ "Smokytown callin" comingsoon

へぇぇ。それは、MPCを持ってくんですか?

16FLIP:いや、大阪に〈Fedup〉っていう、いつも行ったときお世話になってるお店があって自分たちのCDとかも置いてもらったりしていて。その横が〈Fedup〉のスタジオになっていてMPCとかもあって、遊びに行ったら使わせてくれるんすよね。C-L-CとかDJ K FLASHとかが「いいネタあったで」みたいな感じで教えてくれるから、「おお、ヤベェ! じゃあ、作ろう」って、作ったりしてますね。『II BARRET』にも大阪で作ったトラックが入ってますね。“No more ballad”のトラックです。

他にも〈Fedup〉で作ったトラックはたくさんある?

16FLIP:ありますね。大阪で10曲以上は作ってるんで、それをまとめてCDを出そうと思ってます。MPCがあればどこでも作れますね。ニューヨークに行ったときも、スクラッチ・ナイスの家で一週間に10曲ぐらい作って楽しかったっすね。

早くて1曲何分とかで作れちゃいますか?

16FLIP:いけるときは、たぶん10分ぐらいでいけますね。時間かけてもいいものができるっていうのは、オレのトラックにはないんですよ。そういう作り方は自分に合ってないですね。だから、できたトラックに手も加えないっすね。

ほんと潔いですよね。そういえば、遅ればせながら、16FLIP VS SEEDA『ROOTS & BUDS』(SEEDA『花と雨』を16FLIPが全曲リミックスした作品。2007年発表)を聴きました。評判だけはまわりの友だちから聞いてて。でも、あの作品は手に入りにくいし、中古でも高値じゃないですか。いや、とにかく、あのクラシックを完璧に16FLIPの世界に塗り替えているのに驚いたし、すごくかっこよかったです。あの作品はどういう経緯で作ったんですか?

16FLIP:当時、ナインス・ワンダーがナズの『ゴッズ・サン』(2002年)をリミックスしたアルバム(『ゴッズ・ステップサン』(2003年))を聴いて、それがかっこいいと思ったんですよね。トラックメイカーがラッパーのアカペラを使ってリミックス・アルバムを作って名を上げるハシリ的な感じだったと思うんですよ。それ以前もそういうのはあったかもしれないけど、ナインス・ワンダーはそこらへんのやり方がなんかかっこよくて。その後PUGが面白いこと考えてきたんです。『花と雨』が出たときに〈HARVEST SHOP〉で買うと特典でアカペラのCDRがついてきたんですけど、ちょうどMONJUの『BLACK DE.EP』(2008年)を出すのが決まってた時期で、「その前に一発カマしたほうがいい」みたいなことを言ってて。それで、もちろんSEEDAくんにも許可をもらって作ったんですよね。16FLIPを知らない人もSEEDAくんのリミックス盤だからってことで聴いてくれた人もたくさんいたと思うし、SEEDAくんには感謝してますね。

いまだに聴けていない人が多いのももったいないし、いま再発しても大きな反響があるんじゃないかと思ったぐらいです、ほんとに。

16FLIP:まじっすか!? それはありがたいです。

はい。さっきも話に出ましたけど、最近はDJもよくやってますよね。手前味噌ですけど、僕が16FLIPくんにミックスCD(『OL'TIME KILLIN' vol.1』『OL'TIME KILLIN' vol.2』。〈ディスクユニオン〉限定販売)の制作を依頼したのも、こうやってインタヴューさせてもらってるのも、そもそもは去年の10月に16FLIPくんのDJに打ちのめされたのがきっかけだったんです。あのとき、ドクター・ドレとスヌープの“ナッシン・バット・ア・G・サング”と、ギャングスターの“ロイヤリティ”をかけたじゃないですか。

16FLIP:はい、かけましたね。

Dr.Dre feat. Snoop Doggy Dogg“Nuthin But a 'G' Thang”

Gang Starr feat. K-CI & JOJO“Royalty”

自分はあの2曲をこれまでさんざん聴いてきたんですけど、あんなふうに聴こえたことがなかったというか、まだ上手く言葉にできないんですけど、「16FLIPだけに聴こえてる音とグルーヴがあるんだな」って実感したんですよ。

16FLIP:それ、すげぇうれしいっす。かける人によって、同じ曲でも違って聴かせられるのがDJのおもしろいところだし、ライヴDJが同じインストかけるにしても、かける人によって感じ方とか威力がそれぞれ違うんですよね。そいつの醸すものがそのまんま出るんですよね。だから、ライヴも関係性が高いほうがいいと思いますね。

関係性というのは、ライヴの出演者同士の?

16FLIP:出演者同士のではなくて、MCとライヴDJの場合っすね。人間の関係性もグルーヴだと思うんですよ。

ああ、なるほど。そのDJのあとに話したときに、16FLIPくんが、「ヒップホップだけで、ヒップホップをあまり聴かない音楽好きの人をヤバイと言わせたい」みたいなことを言ってて、それが16FLIPの音楽をまさに言い表していると感じたんですよね。

16FLIP:やっぱり自分は、ヒップホップがいちばんカッコいいと思ってるから。まあもちろん……

比べることじゃないけど……


自分の音楽がヤバイっていうよりも、自分の音楽を通したときに、「ヒップホップってヤバイな」ってならないとダメだとオレは思っていて。

16FLIP:そう、比べるものじゃないですけど、たとえばレゲエだったらレゲエがいちばんヤバイと思ってる人の音楽が聴きたいってことですね。自分にとってヒップホップは他には代えられないものだから。自分の音楽がヤバイっていうよりも、自分の音楽を通したときに、「ヒップホップってヤバイな」ってならないとダメだとオレは思っていて。自分がいろんな人のヒップホップを通して、ヒップホップの良さを知ったんで。そういう感じですね。

16FLIPの音楽、ビート、トラックは、たとえばいまアメリカで売れている主流のヒップホップの派手さや煌びやかさとは真逆にあるわけじゃないですか。もちろん、アメリカにもそういうヒップホップはたくさんあって、ロック・マルシアーノやエヴィデンスのような人は主流や流行と関係ないところでずっと音楽を続けてきたと思うんですね。16FLIPもまさにそうだと思うんです。自分たちが主流や流行とは違う音楽をやっていることに迷いや不安を感じたことはなかったですか?

16FLIP:それはまじにないっすね(キッパリ)。

ははははは。

16FLIP:そういうことを自分で考えたこともなかったですね。派手だとか、アンダーグラウンドだとか、そういうことを考えてないからっていうのもあると思います。流行のヒップホップのなかにもヤバイものはあるし、逆に、自分たちと同じスタイルというか、近いテイストでもダメなものは絶対あるから。どういうのが良くて、どういうのがダメかっていう基準が自分のなかにあるんです。たぶんそうなんすよね。だから、変わんないのかもしれないですね。

その話で思い出したんですけど、2年前ぐらいの〈WENOD〉のウェブ・サイトのインタヴューで印象に残ってる発言があるんですよ。DJプレミアについて、「ブレる事を知らない人の音からでるパワーってすごくて」(https://blog.wenod.com/?eid=206126)って語ってるじゃないですか。いままさに16FLIPの音も円熟……というのは早い気がしますけど、そういう段階に入りつつあるのかなって感じるんです。

16FLIP:ピート・ロックでも、J・ディラでも、ティンバランドでもいいんですけど、ずっと続けているヤツの重みがオレは好きなんですよね。

僕が16FLIPくんに清々しさを感じるのは、サンプリング・ネタの曲やミュージシャンやレコードに頓着しないところなんですよね。

16FLIP:そうっすね。オレ、ぜんぜんそういうの気にしないっすね。

トラックメイカーやビートメイカーやDJのなかには、マニア気質の人たちもいるじゃないですか。16FLIPくんはまったく正反対でしょ。

16FLIP:同じネタでトラックを作っても、違う人間がやったら、絶対に違うものになるし、同じものは作れないじゃないですか。だから、誰々の曲を使ってるとか、オレはまったくどうでもいいんですよ。そういうとこには興味がないんですよね。

だから、『06-13』でも他の人は避けそうなソウルやファンクの大ネタをためらいなくドッカ~ンと使ってるじゃないですか?(笑)

16FLIP:はい、ドッカ~ンっすね。だからオレ、レアかどうかとかって、すごく嫌いなんですよ。そんなの音楽の価値に関係ないんですよね。自分の良いか悪いかしか判断基準にならないんです。たとえば、5万円のレコードがあっても、オレが良いと思わなかったらDJでかけないし、逆に2円で買ったレコードでもヤバかったらかけますね。どんなネタを使っても、オレが作ったらオレの作り方になるし、DJでも、オレがかけたらオレのかけ方になるっていうのがわかってるんですよね。

それを僕は去年の10月の16FLIPのDJに感じたんでしょうね。

16FLIP:そう感じてもらえたことがすげぇうれしいんですよね。それは自分にとって重要なことです。オレも人のDJのそういうところを感じてるし、それこそ“ロイヤリティ”を聴いて、「ああ、懐かしいね」で終わっちゃう人もいるかもしれないけど、オレにとっては永遠にヤバイ曲なんですよ。いつ聴いても良いんですよ。だから、その曲が有名だろうが、初めて聴く曲だろうが、関係ない。きっとそういうことなんですよね。

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ワンループにこだわってるわけではないんですけど、最初はMPCのパッドが16個だったから、16FLIPにしたんですよ。

ところで、16FLIPっていう名前は何に由来しているんですか? 16は16小節からきているのかなと思ったんですけど。そうだとしたら、16FLIPのワンループの美学へのこだわりを考えると、的を射ているなって。

16FLIP:ああ、たしかに。ワンループにこだわってるわけではないんですけど、最初はMPCのパッドが16個だったから、16FLIPにしたんですよ。自分にいちばん合ってるのは、そういうシンプルな名前だなと思って。いまとなってはなんでもいいかなって思いますね。けっきょく名前とかって、やってるヤツ次第でかっこよくも感じられるし、ダサくも感じられるから。あとはスケボーをやってたから、単純にFLIPっていう言葉が好きだったと思うんですよね。で、ヒップホップのトラックの作り方のなかにも、FLIPっていう言葉があったから、そのふたつを掛けたのかもしれないですね。ひっくり返すっていう意味もあるし。

ISSUGIのファースト『THURSDAY』(2009年)に提供した“GOOD EVENING”ってインタルードはスケボーの音で作られてますよね。ほんとに美しくて瑞々しいインタルードですよね、あれは。

16FLIP:(スケボーの音を)入れてましたね。

あのころから5年経ったわけじゃないですか。年齢とともに遊び方も変わったり、生活の変化もあったり、環境も少なからず変わったと思うんですけど、そういう変化は音に反映されたりしてますか?

16FLIP:う~ん……、環境はどんどん変わっていってると思いますけど、トラックを作ることに対しては、とくに変わってない感じなんすよね。もちろん聴いてる音楽もその時々で違いますし、生活の変化も音楽に影響してるとは思うんですけど。ただ、音楽に対して、昔より柔軟になったっていうか、理屈っぽさがさらになくなってきてるかもしれない。

へええ、16FLIPくんが自分のことをそう考えていたとはちょっと驚きです。音楽に関して理屈っぽく考えていたとこもあったんですか?

16FLIP:いや、なんて言えばいいんすかね、そういう理屈とか関係ない自分でさえ、ちょっと理屈っぽかったのかなって思っちゃうときはあったかもしれないっすね。

自分に理屈っぽさを感じたのはどういうところに? ヒップホップに対してストイック過ぎるとか?

16FLIP:いや、そういう部分じゃないんです。なんていうんだろう、昔はいまよりも硬かったっすね、グルーヴが。いまのほうがよりスムースになっていってると思うんですよ。そういう感じですかね。なんか、オレ、動物的になっていくのがすげぇいいと勝手に思ってて。

ああ、なるほど。16FLIPくんが言うその言葉には説得力がありますよね。ただ一方で、こんなこと訊くのも無粋ですけど、一般的には、年齢を重ねると、たとえば家族のことだったり、お金のことだったり、若いころとは違った不安や焦りも生まれたりするだろうし、頭が固くなってしまうというのも一面ではあると思うんですよ。そういうことは感じたりしませんか?

16FLIP:でも、そういうことがあったとしても、音楽には及ばないというか、音楽には影響しないですね。生活の変化は音楽に影響はしてるんですけど、ヘンな音楽を作って、自分が空しい思いをするとしたら作んないほうがいいって思ってますね。余計な考えとかはいらないっすね。うまく説明できないんですけど、そうっすね、自分は自分の音楽がどんどん変化していくのがおもしろいし、それを楽しんでるんですよね。音楽は自分のやりたいことを100%出すのがいいと思いますね。それが前提ですね。

16FLIPくんの音楽に対するストイックな姿勢に接すると背筋が伸びる思いがしますよ。

16FLIP:ほんとっすか?

いや、ほんとに正直な気持ちです。オレとかやっぱだらしない人間だから(笑)。

16FLIP:そうすか?

ははは。

16FLIP:いやー。

やっぱり人間、いろんな欲もあるじゃないですか。

16FLIP:そうっすね。たしかに。

16FLIPくんほどの人気があれば、一獲千金……じゃないですけど、もっとギラギラしてても不思議じゃないと思うんですよ。

16FLIP:一獲千金(笑)。ヘンなことしてヒップホップで一獲千金できると思ってないですからね。

はははは。

16FLIP:もしもですけど、一獲千金する方法があるとすれば、たぶん自分のやり方を貫くことだと思ってますね。自分を貫かなかったら、一獲千金どころか、泥の舟に乗ってるようなものだと思うんですよ。音楽を長く続けるコツは、自分のスタイルを持って続けることだと思うんで。絶対。なんかヘンなことをやったら、自分の寿命を縮めるだけだと思うし、実際そうだと思うんすよね。だって、それでうまく行く人とかあまり見たことないし(笑)。そういう気持ちって人に伝わるじゃないですか。

そうですね。音から伝わりますね。

16FLIP:わかるっすもんね。「あ、こいつ変わったな」みたいになっちゃうと思うんすよ。


俺のなかではラッパーやDJが“B-BOY”じゃなくなったときに、がっかりするっていうか、悲しくなりますね。「ヒップホップを捨てたなあ」みたいなときが。

リスナーもそこは厳しく見てますよね。僕は、ファンやリスナーは薄情な一面もあると思っていて、自分が好きなミュージシャンやラッパーやDJのスタイルが変化したら、見捨てるときはあっさり見捨てたりもするじゃないですか。

16FLIP:俺のなかではラッパーやDJが“B-BOY”じゃなくなったときに、がっかりするっていうか、悲しくなりますね。「ヒップホップを捨てたなあ」みたいなときが。そうなっちゃったときに、自分のなかでは完全に終わると思ってます。

たとえば、メソッドマンにしろ、ナズにしろ、あれだけポップなフィールドでも活躍して、ポップな曲も作って、カネも得ているけれど、いつまでもヒップホップしていて、カッコいいですよね。

16FLIP:カッコいい人はいますね。オレ、スヌープやっぱり好きですね。あと自分は、誰々の“この1曲”が好きっていうよりは、“その人”の作るものが好きだっていう感じなんですよ。だから、ミックスを聴いてくれる人とかも入ってる曲をそうやって聴いてもらえたら、うれしいっすね。

“人間を聴いてる”という感じですかね。

16FLIP:そうっすね。あと、他の人が聴かなくなっても、自分が好きだったら聴いていればいいし、そういうもんだと思うんですよ、音楽って。

16FLIPにとって、ヒップホップって何でしょう?

16FLIP:最終的には、曲を作ることが、自分のヒップホップを表現する行為と同じことだと思ってますね。DJにしても、ラッパーにしても、そうなんですよね。「自分のヒップホップはこういうもんだ」と思ってるものが出ちゃう、ただそれだけだと思ってます。

実は今日、16FLIPくんに会う前にECDさんにインタヴューしてきたんですよ。本人はどう考えているかはわからないけれど、ECDは相変わらず、いまの16FLIPくんの言う意味での“B-BOY”なんだなってすごく感じて。

16FLIP:そうっすね。それはすげぇ思います。

1960年生まれだから、今年で54歳ですよね。

16FLIP:まじでリスペクトですね。

16FLIPくんは自分の音楽家としての未来を考えたりしますか?

16FLIP:自分もそれぐらいの歳までバリバリ音楽を続けて、54になってもニュー・アルバム出したいっすね。自分が54になったときは、いまよりヤバイと思ってますね。長く続ける存在が日本にたくさんいたほうがいいと思うんですよね。年取ってやらなくなっちゃうってことは、ヒップホップが根付いていないってことじゃないですか。その歳になっても音楽をやってるほうが自然だと思うし。若いヤツの音楽ももちろん好きだけど、50代とかオッサンしか出せないヤバさは絶対ありますからね。アレサ・フランクリンとかアンジー・ストーンの音楽にしてもやっぱ演奏とかまじでヤバイし、渋いじゃないですか。そういう人たちしか出せないもんがあると思うんですよ。
 だから、オレが38ぐらいになって、アルバム出したとするじゃないですか。そのときに、はじめて『EARR』とかを聴くヤツがいてもいいと思うし、いつだって何を聴くヤツがいてもいいと思う。自分だって、いまはもう死んでいるヤツの昔の音楽をガンガン聴いてるわけじゃないですか。だからみんな、もっと好き勝手やればいいのにっていっつも思ってますね。もっと好き勝手やったほうがかっこいいものができるし。いまヤバくて、10年後もヤバイのが絶対いいっすね。そういう耳で自分は音楽を聴いてますね。自分がヤバイって思うものは、いまだけヤバイものじゃなくて、永遠にヤバイんです。

BEEF / MOSDEF (16FLIP REMIX)


OGRE YOU ASSHOLE、新作MV - ele-king

 この音、この言葉、なんて説明すればいいのだろう。10月15日に発売されるオウガ・ユー・アスホールの新作『ペーパークラフト』は傑作である。来週、ele-kingでもレヴュー2本載せるぞ。お楽しみに。
 思えば、僕は、この1年、このバンドのライヴを4本見ている。そのすべてにおいて、バンドは堂々としていた。僕は“見えないルール”を歌いながらロードバイクを飛ばす。30キロ・アヴェレージを目標に(あくまでも目標)、およそ3時間ほど、朝の清々しい空気のなかを走る。すれ違う女性がみんな美人に見える。そして朗報が……。
 『ペーパークラフト』の収録曲“ムダがないって素晴らしい”のMVが完成。出戸学が自ら監督・制作・撮影したクレイ・アニメ作品である。

本MVは、OGRE YOU ASSHOLEのオフィシャルwebトップ、〈Pヴァイン〉のYouTubeチャンネル、同日同時放送でバンドが運営するUstream番組「Record You Asshole」内にて公開される。

今回のミュージック・ヴィデオは、ヴォーカル/ギター担当でOGRE YOU ASSHOLEの中心人物である出戸学が自ら監督・制作・撮影・編集全てを手がけた、究極のセルフ・メイドとなっています。

今夏のレコーディング終了後に急遽発案され、約90日をかけて試行錯誤が繰り返された結果、ジュール・ヴェルヌやドイツ表現主義などのレトロSFムービーを彷彿させる、キッチュで不可思議な映像作品が完成しました。
遠い未来の異国のような、あるいは夢で見た風景のようなモノトーンのアナザー・ワールドで起こる様々に無益な事象が、ラテン・パーカッションとドラムスが産み出す反復ビートと重なって、ミニマルで謎めいた陶酔感を生み出しており、つい何度も再生したくなります。

アルバムのジャケットやアーティスト・フォトの細部に至るまで、全てバンドメンバー自らが企画・制作した「ペーパークラフト」からの初MVに相応しく、これまで何度かOGRE YOU ASSHOLEのMVを監督・指揮してきた出戸が、初めて自ら全てを手がけた意欲作です。

前々作「homely」、前作「100年後」から通底するテーマであった「居心地が良いが悲惨な場所」を、手作業の暖かみとミニチュアが持つ硬質感が融合したレトロ・フューチャーな映像で表現した、OGRE YOU ASSHOLEの最新MV「ムダがないって素晴らしい」を、ぜひともご覧ください。
(レーベル情報より)

PヴァインYoutubeチャンネル:
https://www.youtube.com/user/bluesinteractionsinc

Record You Asshole by OGRE YOU ASSHOLE:
https://ototoy.jp/feature/index.php/2012083000

official web:https://www.ogreyouasshole.com/
twitter:https://twitter.com/OYA_band
FB:https://www.facebook.com/ogreyouassholemusic

■OGRE YOU ASSHOLE 『ペーパークラフト』
発売日:2014/10/15
発売元:P-VINE RECORDS

収録曲:
1.他人の夢
2.見えないルール
3.いつかの旅行
4.ムダがないって素晴らしい
5.ちょっとの後悔
6.ペーパークラフト
7 誰もいない

<初回限定盤>
・完全初回限定生産
・特別ボックス仕様
・CD+エクスクルーシブ・セッションを収録したカセット・テープ付属(シリアル・ナンバー入りダウンロード・コード付き)
品番:PCD-18775
値段:¥3,330+税

<通常盤>
・1CD仕様
品番:PCD-18776
値段:¥2,550+税


■OGRE YOU ASSHOLE
ニューアルバム・リリースツアー “ペーパークラフト”

2014.12.13(土)  大阪  CLUB QUATTRO
2014.12.20(土)  山梨  CONVICTION
2014.12.21(日)  長野  ネオンホール
2014.12.27(土)  東京  LIQUIDROOM

2015.01.10(土)  札幌   KRAPS HALL
2015.01.16(金)  名古屋 CLUB QUATTRO
2015.01.17(土)  広島   4.14
2015.01.24(土)  新潟   CLUB RIVERST
2015.01.31(土)  鹿児島 SRホール
2015.02.01(日)  福岡   Drum Sun
2015.02.07(土)  仙台   HOOK
2015.02.08(日)  松本   ALECX (※ツアーファイナル)


アイタル・テックとパズルの世界へ! - ele-king

 東京で最先端なサウンドを最高な環境で体験できるパーティ、〈サウンドグラム〉。ディスタル、ループス・ハウント、そしてテセラなどなど、ユニークかつリリースのたびに注目を集める面々ばかりです。会場に持ち込まれるサウンドシステムもこのパーティの魅力のひとつで、低音で揺れるフロア、そこで聴くアンセムは一生記憶に残ることでしょう。4月のテセラ、最高でしたよ。
 今週末、サウンドグラムが大阪と東京で開催されます。今回は光が乱反射するようなエレクトロニカからフットワークまでを手掛けるアイタル・テックと、あらゆるベース・ミュージックを知りつくしているパズルが登場! 
 本当に何が新しいのかを現場で体感して考えてみませんか? 踊りまくりたい方も大歓迎です。今週末は〈サウンドグラム〉へ! 

■SOUNDGRAM TOKYO/OSAKA
ITAL TEK & PUZZLE Japan Tour

大阪公演
日時:10月11日(土) OPEN/START 22:00
会場:TRIANGLE
料金:ADV 2000yen+1D DOOR 2500yen+1D
出演:
Ryuei Kotoge (Daytripper Records), D.J.Fulltono (Booty Tune), CLOCK HAZARD TAKEOVER 3HOUR, CHELSEA JP (GRIME.JP), madmaid (irregular), utinaruteikoku (irregular), DISTEST, ZZZ, Saeki Seinosuke, KEITA KAWAKAMI, D.J.Kaoru Nakano, PPR aka Paperkraft, SHAKA­ITCHI, DJ AEONMALL, HSC, JaQwa, PortaL

東京公演
日時:10月12日(日曜祝日前) OPEN/START 23:00
会場:TOKYO GLAD & LOUNGE NEO
料金:ADV 3000yen DOOR 3500yen
出演:
Submerse (Project: Mooncircle, UK), 19­t Takeover (TECHNOMAN Utabi SKYFISH Cow'P Amjik), HABANERO POSSE, Mike Rhino (UK), D.J.Kuroki Kouichi VS Gonbuto, Chicago vs Detroit, D.J. APRIL, DJ DON, FRUITY, tesco suicide, Mismi, Nishikawacchi, JaQwa, PortaL HATEGRAPHICS (VJ), knzdp (VJ), XVIDEOS (VJ), GENOME (VJ), Shinjuku DUUSRAA (FOOD), zeroya (FOOD), Broad Axe Sound System (SOUNDSYSTEM)

*各公演にItal TekとPuzzeleは出演

ITAL TEK (Planet-Mu/Civil Music, UK)

イギリスのブライトンを拠点に活動する様々なジャンルをまたぐUKならではのエレクトロニックアーティスト。2007年にPlanet­MuのレーベルオーナーであるMike ParadinasがMyspaceにアップされていた楽曲を聴いて気に入ったのが始まりで「Blood Line EP」をリリース。翌年2008年には1stフルアルバム「cYCLiCAL」をリリース。IDMとDubstepの融合を見せたItal Tekならではの作品となった。2009年には自身のレーベルAtomic River Recordsを設立し、その後も順調に多くのリリースとライブ活動を行いジワジワとその名をイギリス国内から欧州へ、そして世界へと知らしめていく。2012年にリリースをした3rdアルバム「Nebula Dance」では自身の解釈世界観のフットワーク・サウンドで展開させ、多くのリスナーを驚かせた。2013年にはCivil Musicより3rdアルバムをアップデートさせたEPをリリース。同年のミニアルバムではフットワーク/ジャングル/エレクトロニカ/アンビエントと独自のスタイルを一歩前進させることなる。そして今年2014年にリリースされたCivil Musicからの2nd EPではよりディープでハイブリッドなサウンドとなり、デビューから現在までブレることの無い確固たるサウンドを披露し、Planet­Muの主要アーティストとして活動している。

PUZZLE (Leisure System, GER)

15年以上に及ぶDJと作曲の経験を持ち、現在はベルリンの世界的に有名なクラブ「Berghain」で行われている「Leisure System」のレジデントとして活動。またLeisure System Recordsの経営と並行して、世界最大級のクラブやSonar、Dimentiions、Arma 17、Redbull Music Academy、Nitsa等のフェスティバルでプレイしている。2012年にはObjektとAsiaツアーを行い、過去にはClark、Rustie、Jimmy Edgar、Machinedrum、Kuedo、Joy O、Blawanやその他多くのアーティストと同じステージで競演。 常に遊び心に富んだジャンルレスなMIXでフロアを狂喜に導く。


ele-king vol.14 - ele-king

 けっこう大変だったんです。AFXが新作を出すことは口外できない、作品がどんな内容だったのかも言ってはならない、そういう裏事情がありまして、本格的に原稿発注したり、作りをはじめたのが9月の半ば過ぎですから。それはもう……言い訳を並べたらキリがないです。お陰様でとても面白いインタヴューが取れました。リチャード・D・ジェイムスがよく喋ってくれました。家族からアリまで、ガンツから革命についてまで、非情に幅広い彼の回答が楽しめると思います。
 UKテクノの現在も特集です。『サイロ』とは、決して、天才が好き勝手に作った作品ではないと思います。時代のなかで生まれた作品です。
 アンディ・ストット、ダムダイク・ステア、アコード、インガ・コープランドのインタヴュー記事も掲載。ドローン/アンビエントからIDM/エレクトロニカの流れでも注目されるローン・イングリッシュには畠山地平が質問攻めです。「D.J.Furutono & D.J.April のシカゴ体験記」も見逃せませんね。貴重な現地レポート、写真も満載です。久しぶりにがっつりとポリティカルな小特集もやらせていただきました。こちらも是非注目して下さいね。

Contents

002 セーラーかんな子 写真=当山礼子
006 第1特集=エイフェックス・ツイン
008 RICHARD D. JAMES interview

032 忘却と神話 文=野田努
034 Selected DISCOGRAPHEX 1991―2007
040 Syro 2014 マンガ=西島大介
042 機材でぶっ飛ばせ 文=佐々木渉
044 AFX VS OPN 徹底比較!
046 COLD ── UKテクノの現在
048 ANDY STOTT&DEMDIKE STARE interview
055 コールド── 進化し続ける英国のハードコア連続体 文=飯島直樹
058 DISC GUIDE INTO COLD PART 1
063 AKKORD interview
068 DISC GUIDE INTO COLD PART 2
074 ACTRESS interview
078 COPELAND interview
084 タイトル未 写真=塩田正幸
092 LAWRENCE ENGLISH interview
096 MORE AMBIENT DRONE ALBUMS
097 第2特集=政治 NO POLITCS THANK YOU!
098 今、日本が向かっているところ 対談=ブレイディみか子×水越真紀
110 グローバル化に反転攻勢をかける力 文=五野井郁夫
113 スラム街はコンフリクト・ジャングル 対談=木津毅×三田格
119 すべてはひとつのレイヴの下に 文=マイク・スンダ
124 HYPER! ファッション アニメイション コミック 家電 TVドラマ
130 SK8TNGの原宿逍遥 PART 1
135 D.J.Furutono & D.J.April のシカゴ体験記
146 Regulars ブレイディみか子 水越真紀 山田蓉子 磯部涼
156 編集課二係 ジョン刑事


The Drums - ele-king

 “いま”も“未来”もうっとうしくて無粋なもの、ただ過去だけが美しい……ザ・ドラムスのビーチ感あふれるヴィンテージ・ポップは、つまりはそういうつめたげな現実認識と美意識の裏返しなのだろうと思っていた。

 「起きて、ハニー。素敵な朝だよ。ビーチへ駆け出そう」という彼らの曲にはむしろ厭世観すら漂っていた。のちに明らかになったジョナサン・ピアース自身の社会的なマイノリティとしての性質や、彼ら自身の知的なふるまいなどを考え合わせると、おそらくそれは間違いでなかったのだろう。
 しかし、今作においてあの冷やかなまでのポップの黄金律がひっくり返り、痛々しく破れ、そこから生々しくパーソナルな内面性が奔出しているのをまのあたりにすると、なるほどすましたスタイルの底にはこれだけの混乱やデーモンがあったのだと納得もしてしまう。2010年前後のインディ・シーンにひとつのトレンドを築いてしまったサーフ・ポップ・スタイルのレトロなガレージ・バンドたち。皮肉にもその先導役ともなりファッション・アイコンともなってしまったザ・ドラムスは、意図的ではないかもしれないが、いまその残り火を消し、自分たちのための小さな場所へとやっと戻ってきた……いや、見つけたかのようにみえる。その場所の名は“マジック・マウンテン”。山だ。

 「ぼくらの魔法の山にいれば/やつらから守られている」(“マジック・マウンテン”)を筆頭に、「いつか月はしずむだろう/その時にはきっと僕らはこの山の一部になるんだろうな」(アイ・キャント・プリテンド)、「空は暗くなり、オオカミたちが駆け戻ってくるから、僕らは朝の光が差し込んでくるまでここでおとなしく待っていよう」(“ワイルド・ギース”)など、偏執的に繰り返されるアジールのモチーフは、おそらくはここまでの間に彼らがくぐってきたであろう、苦しくつらい個人的背景や事情を推し量らせる。ジャケット写真のぽっかりと方側が空いたソファは、去って行ったメンバーや、つがいの関係性について、あるいは単純にひとつの心象を暗示する切ない表現だ(日本盤のライナーノーツにはこの間のバンドの状態やそれぞれの事情が詳しい)。それとベタ付けるわけではないけれど、恋愛や家族をふくめた人間関係に傷つきながら過ごした時間と、本作の音とのあいだには強い結びつきがあるように思う。“レット・ミー”ほか作品全体に通底するものだけれども、“マジック・マウンテン”の終始不穏当なムードを漂わせるポスト・パンク調には少なからず驚いてしまった。ドリーミーなリヴァーブ感は初期から一貫しているものの、こうソリッド曲はめずらしいし、以前のようにサイケデリックな表現に抑制がきいていない。ドラムスらしいシンセのリフが哀しく頼りない口笛のように響く。山が守られているというのは、この口笛のようなリフと同じくらい頼りない幻想でもあるのだろう。MVでは魔剣を手に山に分け入るふたりの姿があるが、それもわかりやすく痛ましい比喩──彼らにとって状況をきりひらくもの、自らを守るものとしてあまりに直接的な喩である。そしてシンセサイザーも、本作においては魔剣や山につらなるお守りや精神的な拠りどころのひとつであるかのように感じられる。
 “フェイス・オブ・ゴッド”もこの線の名曲だ。こちらも切迫感あるダークなポスト・パンクで、単調なギターがむしろ切なさをかきたてる。そして、ピュンピュンと飛び交うシンセが新機軸でもあり、彼らのこれまでのシックなスタイルに異様な異物感を与えている。サイケ・ポップなのではなく、ポップがサイケデリックになっているとでもいうか、ザ・ドラムスの端整なポップ・ロジックをやぶるようにシンセが機能していて、それがとてもよいと感じられる。おそらく人によってはこのあたりをマイナス・ポイントとして考える部分かもしれないけれども、破れ出てきたリアリティという点で、筆者はどうしても評価したくなる。その名も“ベル・ラボラトリー”は、音響の歴史を紐解くには浅いかもしれないが、ビーチを離れ(そもそも丘サーファーだけれども)、「山」へと逃れた彼らが見つけた新しい音としてちゃんと実をならせている。短い詩句も印象的だ。
 そして、それはやさしい終曲“ワイルド・ギース”に引き継がれる。はじめてシンセがそれらしく楽曲とかみ合うトラックでもあり、本作中、また彼らのキャリア中最大の番狂わせでもある。アコースティック・ギター弾き語りを軸にしながらも、エモーションの流れにまかせ、ゆったりと、スケール感をもってエレクトロニクスが曲を肉づける。〈サラ〉や〈エル〉などのギターポップの感触が、アンビエントの様相を帯びる。フォークトロニカとまではいわないが、こんなザ・ドラムスを聴く日がこようとは思わなかった。音の向こうに確実に人のいたみや変化をきく──時代やシーンにではなく、個人にとどくアルバムになったのではないかと思う。

SUNS OF DUB JAPAN TOUR 2014 - ele-king

 ダブステッパーに限らず、ダブを愛するモノたるやオーガスタス・パブロの名前はマスト。家に最低3枚。これ常識。僕は、若い頃、パブロのライヴは2回とも行った。これ超自慢です。
 今週末、パブロの息子(お父上は1999年に亡くなられている)のアディス・パブロが来日します。名義は、SUNS OF DUB。西から東へ5都市でツアーを開催します。東京では、こだま和文さんが出演します。その低音で、台風なんか吹っ飛ばして。

<東京公演概要>

liquidroom presents
──PABLO & KODAMA──

オーガスタス・パブロ、そのダブの系譜を継ぎ、そして前進させる者たち

1973年のルーツ・ダブのクラシック中のクラシック『King Tubbys Meets Rockers Uptown』をはじめ、自身のメロディカ、そしてタビーによるミックスによってルーツ・ダブのスタイルを提示したオーガスタス・パブロ。自身のレーベル〈Rockers Internationl〉を中心に展開した、ストイックにラスタな、そのルーツ・スタイルは、1999年の没後も、ルーツ・ダブに限らず、さまざまなダ ブ/ベース・ミュージックに影響を与え続けている。その“系譜”を継ぐ”SUNS OF DUB、彼らがKATAにてライヴを行う。パブロの意志を引き継ぐメロディカ・マスター、ADDIS PABLOとセレクターのRAS JAMMYによるプロジェクト。〈Rockers Internationl〉を引き継ぎ、さらにはこれまでにディプロ率いるMajor LazerやToddla Tといった新世代のデジタル・ダンスホール系のアーティストとも共演するなど、現存のベース・ミュージックとの邂逅など、新たなスタイルの創出に余念がない。さらには、MUTE BEAT時代の名曲"Still Echo"にて、オーガスタス・パブロとの共演も果たし現在も日本のレゲエ・ダブ・シーンを牽引するトランペッター、こだま和文、そして“Apach”のカヴァー7インチをリリースしたばかりのトロンボーン奏者、KEN KEN率いるKEN2D SPECIAL、とダブを新たな解釈で突き進める、2アーティストのライヴも行われる。

featuring live
SUNS OF DUB(ROCKERS INTERNATIONAL)
 ADDIS PABLO(SON OF AUGUSTUS PABLO MELODICA MASTER)
 RAS JAMMY(ROCKERS INTERNATIONAL SELECTA)
feat. JAH BAMI
こだま和文 from DUB STATION
KEN2D SPECIAL(Reality Bites Recordings)

dj
Q a.k.a. INSIDEMAN(GRASSROOTS)
Yabby
SEIJI BIGBIRD/LITTLE TEMPO

2014.10.13 monday/holiday
KATA + Time Out Cafe & Diner[LIQUIDROOM 2F]
open/start 16:00 close 21:00
adv.(9.13(sat) on sale!!)* 2,000yen door 2,500yen
*PIA[P code 243-948]、LAWSON[L code 74932]、e+、DISK UNION(取扱店選定中)、Lighthouse Records、LOS APSON?、LIQUIDROOM

info LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net/

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▼SUNS OF DUB(ROCKERS INTERNATIONAL, Kingston, Jamaica)
ADDIS PABLO[Melodica], RAS JAMMY[Selecta]

ジャマイカの若獅子、アディス・パブロは99年に44歳の若さで亡くなったルーツ・ロック・レゲエ/ダブ・プロデューサー、メロディカ奏者の父、オーガスタス・パブロのスピリチュアルな音楽を21世紀に継承、発展させる新世代アーティストである。89年生まれのアディスはニュージャージーとジャマイカを行き来して過ごし、キーボードとメロディカを習得。2005年にはオーガスタス・パブロの追悼公演でステージに立ち、ロッカーズ・インターナショナルのヴェテラン・ミュージシャンや伝説的ギタリスト、アール・チナ・スミスと共演、これを機にソロ奏者としてダブ・レゲエの作曲を開始する。10年、アディスはトリニダードからジャマイカにやって来たラス・ジャミーと意気投合し、"サンズ・オブ・ダブ"として伝統的なロッカーズ・サウンドをニューエイジのフォーマットによるダブ・レゲエで提示するべく活動を共にする。11~12年の"For The Love Of Jah"、"13 Months in Zion"以降、100作以上をデジタル・リリース、またメジャー・レイザーのウォルシー・ファイアー、クロニックス、プロトジェイ、クライヴ・チン、マイキー・ジェネラル等、幅広いコラボレーションを展開している。13年には初のヴァイナル・レコード"Selassie Souljahz In Dub"を発表、ヨーロッパ・ツアーを成功させ、英BBCのデヴィッド・ロディガンの番組では「キング・タビー、オーガスタス・パブロ以来のベスト・ダブ・レコードの1枚」と評される。14年にはオランダのJahsolidrockからアディス・パブロ名義の1stアルバム『IN MY FATHERS HOUSE』がリリースされ、北米、ヨーロッパ各国のフェスティヴァル出演で賞賛を浴びている。サンズ・オブ・ダブはダブのニューウェイヴ、ドラム&ベース、ダブステップ、トラップ、ハウス等のクラブミュージックとの触媒として貢献する、ロッカーズ・インターナショナルの新世代である。
https://sunsofdub.com/
https://soundcloud.com/sunsofdub
https://www.facebook.com/sunsofdub
https://www.facebook.com/sunsofdub

▼こだま和文 from DUB STATION

1981年、ライブでダブを演奏する日本初のダブバンド「MUTE BEAT」結成。通算7枚のアルバムを発表。1990年からソロ活動を始める。ファースト・ソロアルバム「QUIET REGGAE」から2003年発表の「A SILENT PRAYER」まで、映画音楽やベスト盤を含め通算8枚のアルバムを発表。2005年にはKODAMA AND THE DUB STATION BANDとして 「IN THE STUDIO 」、2006年には「MORE」を発表している。プロデューサーとしての活動では、FISHMANSの1stアルバム「チャッピー・ドント・クライ」等で知られる。また、DJ KRUSH、UA、EGO-WRAPPIN’、LEE PERRY、RICO RODRIGUES等、国内外のアーティストとの共演、共作曲も多い。現在、ターン・テーブルDJをバックにした、ヒップホップ・サウンドシステム型のライブを中心に活動してしている。また水彩画、版画など、絵を描くアーティストでもある。著述家としても「スティル エコー」(1993)、「ノート・その日その日」(1996)、「空をあおいで」(2010)「いつの日かダブトランペッターと呼ばれるようになった」(2014)がある。

▼KEN2D SPECIAL(Reality Bites Recordings)
TRIAL PRODUCTIONのトロンボーン兼MCを務めるKEN KEN(トロンボーン&MC)によるソロDUBプロジェクトとしてスタート。現在はICHIHASHI DUBWISE(DUB mix)、Gulliver(guitar)の3人編成で活動中!BEASTIE BOYSからの影響を独自にREGGAE DUBにトランスフォーム!!!??したサウンドは、DUCK SOUP PRODUCTIONS、PART2STYLEから数々のアナログ7インチをリリースし、そのほとんどは即完売し入手困難なアイテム多数。2008年にはPART2STYLEから初のアルバム『Reality Bites』をリリースしイギリス国営放送BBCの番組など複数で紹介され、有名誌"WIRE"にレビューが載るなど注目を集めた。2013年自らのセルフ・レーベル<Reality Bites Recordings>を立ち上げ7枚目の7インチ・シングル「I Fought The Law」をリリース、あのDon LettsもBBCで即座にプレイ!前代未聞のド・オリジナル解釈で驚きのカバー曲を連発してるKEN2D SPECIALですが、今年2014年9月には8枚目の7インチEP、APACHEをリリース、こちらもまたKEN2D節炸裂してます!要チェック!!!!
https://m.facebook.com/profile.php?id=503540573038521&_rdr

▼Q a.k.a. INSIDEMAN(GRASSROOTS)
東京・東高円寺の桃源郷レゲエ・バーNATURAL MYSTIC育ち。レコードショップWAVEにてバイヤー経験の後に、NATURAL MYSTIC閉店後の97年同所にてGRASSROOTSをオープンする。「MUSIC LOVERS ONLY」を掲げ、バーであってバーでない、クラブであってクラブでない、人間交差点音楽酒場代表となる。INSIDEMAN名義でのMIX-CDは異才フィメール集団WAG.より『YGKG』、 POSSE KUTから『DEAR』、地下最重要レーベルBlack Smokerより『Back In The Dayz』などリリースしている。
https://insideman-q.blogspot.jp/
https://www.grassrootstribe.com/


A.r.t. Wilson - ele-king

 現代音楽やドローンが結果的にアンビエントに(も)聴こえる作品としてリリースされた場合、そこにはやはり本来の目的は違うところにあるという逃げ道が用意されているような感覚を抱きながら接するものにはなりやすい。どうしたってそれは共犯関係の上に成り立つものだし、本来の目的を理解する気はさらさらないというリスナーの主体性がすでに仮構のものであるからである。

 しかし、これがポップ・ミュージックであった場合、むしろアンビエント・ミュージックは本格的なものにならざるを得ない。退路はどこにもなく、ストレートに真価や有用性を問われるものになる。80年代の人たちはまだ無自覚だったと思うので、『アンビエント・ディフィニティヴ』で取り上げたエイフェックス・ツインやサン・エレクトリック、ケアテイカーやテイラー・デュプリーはそういった意味で揺ぎない時代性を内包した作品だったと僕は思っている。最近ではディープ・マジックやセヴェレンス(Severence)などがそういったものに近づいているとも。

 活気づくメルボルンからアンドラス・フォックス(Andras Fox)の名義でシンセ・ポップを送り出してきたアンドリュー・ウイルソンが〈メキシカン・サマー〉と契約を結んだ一方、新たな名義でリリースした『オーヴァーワールド』は多少のリズム・トラックを含むものの、ポップ・ミュージックがアンビエント・ミュージックに取り組んだ最新の結果を生み出したと僕には感じられる。90年代のようにクラブ・ミュージックとの並走でもなく、ゼロ年代のようにミュージック・コンクレートの方法論を応用したものでもない。なんというか、じつになんでもない。新しいと思える手法は何も用いられていない。非常に簡素で、含みや重層性はなく、最後まで淡々と音が鳴っているとしか言えない。何もないところからは何も生まれないというようなアイロニーもなく、物静かな音楽というような素朴な認識だけがあるというか。これが、しかし、何度聴いても飽きないし、どこか驚きに満ちている。何に驚いているのか自分でもよくわからない。繰り返し部屋のなかに垂れ流すだけ。

 しかし、実際にはこれらの音楽はコンテンポラリー・ダンスのためにつくられたものだという。レベッカ・ジェンセンとサラ・エイトキンが「上流階級(=オーヴァーワールド)」をテーマにしたダンス・レパートリーだそうで、ということは、ここにある優雅さは上流階級の身のこなしを表しているということなのだろうか。「言葉では表せないことを身体は物語る」という文句がジャケットには記され、身体性の裏づけがある音楽だということは印象づけられる。あるいは、階級をテーマにしたものだときいてもとくに皮肉げなニュアンスに意識がいくようなものでもなく、なんとなく思い出すのは〈クレプスキュール〉の諸作や細野晴臣といったポップ・ミュージックである。それにしても欧米はダンスと音楽の結びつきが本当に濃い。スージー&ザ・バンシーズのスティーヴン・セヴェリンからクリスチャン・ヴォーゲルまで、どんなジャンルの人でもバレエ音楽を手掛けているからなー。

映像はちょっとヒドいけど、“ジェインズ・テーマ(Janine's Theme)”。

 『オーヴァーワールド』を聴いていて、ちょっとだけ思い出すのはエール(フレンチ・バンド)である。いままでアンビエント・アルバムはつくったことがなかったダンケル&ゴダンが、そして、あろうことか、1000枚限定で美術館のためにアンビエント・アルバムをアナログだけでリリース(そのうちCD化されるだろうけど……)。美術館に飾られているさまざまな絵のイメージなのか、ピアノとハミングによるクラシカルなオープニングからどんよりと沈んだムード、あるいは軽く躍動感を感じさせるものまで、意外と表情豊かな曲の数々を聴かせてくれる(“ドリーム・オブ・イー(The Dream Of Yi)”だけは『ラヴ2』(2009)からの採録)。実際にナポレオンの指示で建てられたリール美術館から依頼を受けて製作したものだそうで、ということはフランスまで行けば館内で聴くこともできるということか? これは山田蓉子の感想を待ちたい(紙エレキングで「ハテナ・フランセ」という新連載をはじめてもらいました!)。

 2014年もすでに40枚以上の記憶に残るアンビエント・アルバムと10枚近くの奇跡的な再発盤に出会うことができた。機会があればいずれまとめて紹介したいような。

White Hex - ele-king

 かつてスラッグ・ガッツ(Slug Guts)というバースデイ・パーティーをグランジにしたようなどうしようもないオーストラリアの田舎モンのバンドが、何を思ったのか誰も呼んでないのにジャパン・ツアーを敢行、なぜか僕がツアー・マネージャーにかりだされ、真夏にクーラーが壊れたハイエースの中、大所帯バンドと途中でナンパしたお姉ちゃんをギュウギュウに詰め込んだ極限状態で全国を巡礼したことがある。もちろん誰が呼んだわけでもないのでほとんどのブッキングがスベっていたわけで、全員の肉体疲労は限界をこし超え、精神状態はヤケクソのメガ・ハイな状態で混沌を極めていた。
 当時、自分たちの新たなレコードのリリース先を探していた彼らを僕は完全にバカにしながら、お前らみたいなアホバンドでも〈サクレッド・ボーンズ〉とかからリリースしたらヒップスターになれるんだろうな、と吐き捨てた。

 翌年、オースティンにいた僕は本当に〈サクレッド・ボーンズ〉からリリースした彼らとSXSWで再会する羽目となり、オーストラリアからの助成金を酒とドラッグに注ぎ込んで豪遊する彼らをいっしょになって鼻下を真っ白にしながら祝福した。彼らの自暴自棄なハシャギっぷりはまさしくふるき良きロックンロールの夢そのものであったといえる。

 そして例外なくそんなものは長つづきはしない。誰かが死ぬより先にバンドが解散するのが幸いである。スラッグ・ガッツは木っ端微塵に砕け散った。

 ギターのジミーが数年前から彼女とともに開始したゴシック・シンセ・ポップ・デュオ、ホワイト・ヘックス(White Hex)が某レコ屋でフィーチャーされているのを見つけてそんな思い出が脳裏を過った。近年、オーストラリアのアンダー・グラウンド・パンク史を綴った著書、『ノイズ・イン・マイ・ヘッド(NOISE IN MY HEAD)』が出版され、そのイモ臭いオージー・パンク美意識を世の中に知らしめたジミーのヒロイックな世界観がこのポップ・アルバムには詰まっている。この絶妙にキモチ悪いトロピカルな感じもいまっぽいな!

 いまさら、というかここまで女児文化について書いてきて超そもそももいいところなのですが、「女の子」とはいったい何なのでしょうか。たとえば余裕のある「おじさん」はこんなことを言ったりします。「論理や社会にがんじがらめな僕たち男に比べて、感性のままに生きる女の子はすばらしい! 女の子はもともと自由な存在なんだから、勉強したり女性運動なんかしたりして窮屈な男の仲間入りすることはないんだよ」。一方、メディアに登場する「女の子」(たいていは成人女性ですが)たちも「私たち女の子はスイーツを食べてかわいいものに囲まれていれば幸せ。社会問題なんて難しいこと興味ないわ」とニコリ。そういえば、モダンガールの名付け親とされる北澤秀一は、大正時代に出版された雑誌『女性』で、こんなふうにモダンガールを定義していたのでした。

「〈モダーンガール〉は、いはゆる新しい女でもない。覚めたる女でもない。もちろん女権拡張論者でもなければ、いはんや婦人参政権論者でもない。」「私の云ふモダーン・ガールは自覚もなければ意識もない。」「彼らは唯だ人間として、欲するままに万事を振る舞ふだけである。」「モダーン・ガールは、少しも伝統的思想をもたない、何より自己を尊重する全く新しい女性である。」

 自我に目覚めて男性と同じ地位を得ようとする女性たちと対比させた上で、自我を持たない動物的で非社会的存在として「女の子」の自由さを称える思想は、どうやらフェミニズム思想の輸入および女性の社会進出・高学歴化(への反感)とセットで登場したものであるようです。

 こうした女の子像の政治的な正しさ問題はいったん措くとして、現実に本物の女の子・男の子を育てている親からすると、体感的に飲み込みかねるというのが正直なところではないでしょうか。なぜなら自由ということで言うなら、平均的にみて男児は女児よりもはるかに自由な存在であるからです。Twitter上で、男児のお母さんたちが「アホ男子母死亡カルタ」なるタグのもとに「ひとりが脱げばみんな脱ぐ」「アイス8本一気食い」などの男児のおバカでかわいいネタを寄せ合って盛り上がっていたのは、記憶に新しいところ。これらがお母さんたちの誇張でないことは、小学1年生の授業参観に参加してみればわかります。先生の言うことを従順に聞き、熱心に手を動かす女の子。そもそも大人しく座っちゃいない男の子。お勉強はできても挙手には慎重な女の子。積極的に挙手するも指されたら「わからない!」と堂々と宣言する男の子。その差は一目瞭然です。私が「長女がパンツ一丁で「ありのままで」を歌っている」という内容のぼやきツイートしたところ、すぐさま男児のお母さんからこんなリプライがかえってきました。「女の子はいいですね。パンツはいてくれるから」。

 現役「女の子」がいかにまじめか。それがわかる7歳の女の子のお手紙が今年初めにネットで話題になったので、ご紹介します。彼女がLEGO社宛に書いたお手紙を、お母さんがTwitterで画像アップしたものです。

「今日お店に行ったら、LEGO売り場はピンクの女の子ブースとブルーの男の子ブースにわかれていました。女の子のLEGOがすることといえば、おうちで座っていたり、ビーチに行ったり、お買い物したりするだけ。女の子には仕事がありません。男の子のLEGOは冒険に出たり、働いたり、人を救ったり、サメと泳いだりしてるのに。もっとたくさんの女の子の人形を作って、冒険を楽しませてあげてほしいんです。OK!?!」。

 日本のいち母親からすると、彼女がピンクのLEGOと呼んでいる女児向けの「LEGOフレンズ」シリーズは、女の子の興味を制限しないよう、相当な配慮が施されているように見えます。ラインナップの中には、科学実験をしている理系女子から手品女子、空手女子までユニークなものも。もちろんピンク、ラベンダー、水色といういまどきの女児の目をひきつけるカラーリング。わが家の長女も5歳の頃、科学実験を楽しむ少女をモチーフにした「サイエンススタジオ 3933」をLEGOショップで祖父にねだって買ってもらっています(往年のLEGOファンである父は「海賊セットのほうがかっこいいだろ……」と不服そうでしたが)。が、家の中ばかりと言われればたしかにそう。有職婦人率も少なめです。そこに気づくとは、目線が高いとしかいいようがありません。社会が期待している「女の子」像をまだ内面化していない幼い女の子たちは、そうした枠に縛られていないために、退役「女の子」たちよりもかえって社会参加への意識が強いのかもしれません。


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一部で「リケジョセット」と呼ばれる
「レゴ フレンズ サイエンススタジオ 3933」


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瓦割りもお部屋の中でするLEGOガール。
「レゴ フレンズ・カラテレッスン 41002」



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「Research Institute」

 このかわいくも勇ましい女の子の手紙が好意的に拡散されてから約半年後の8月、LEGO社は再び話題の的になりました。女性の化学者、天文学者、古生物学者をモチーフとした「Research Institute」セットを発売したのです。女の子の願いをさっそく叶えた同社に、人々は喝采を送りました。

 とはいえ実際にはこの新製品、ストックホルム在住の女性地球科学者Ellen Kooijman(※1)が「LEGO Ideas」に2012年に投稿し、ネット投票で10,000票を獲得したアイデアがようやく日の目をみたもの。2013年秋の審査では見送りになったアイデアが復活当選した背景には、女の子の手紙がバズったことも多少関係していたかもしれませんが……。実態はどうあれ、この新製品は女の子の手紙に応えたという文脈で多くのネット・メディアに紹介されました。宣伝効果は抜群だったことでしょう。つづいて開設された、イギリスの女性科学者が同製品を使って女性研究者の日常を再現するTwitterアカウント「@LegoAcademics」も話題になっています。

※1 Ellen Kooijmanはギークドラマ『Big Bang Theory』のフィギュア化も「LEGO Ideas」に投稿し、こちらも1万票を獲得して現在レヴュー中。同アイデアの製品化が実現したら、女性科学者フィギュアがまたまた増えることになりそうです。

 この連載でもたびたび取り上げてきたように、アメリカには「女の子はファッションとスイーツと家事のことだけを考えているおバカさんでいなさい」というジェンダー観に抗う「女の子」を応援する風土があるように見えます。自由の国ってうらやましいですね。それにひきかえウチら日本は……とついついスネたくなるところですが、そういえばかの国の「男の子」はどうなのでしょうか。「海賊ごっこをしろだって!? 男だからって盗んだり闘ったりなんてごめんだね。僕らだってカフェでスイーツ食べて、ショッピングして、ビーチで遊んで、かわいいものに囲まれて過ごすようなLEGOで遊びたいんだ!」、あるいは「男の子用のおままごとセットを作って!」といった主張があってもよさそうなものです。しかし、ミシガン州の教育研究機関のコンサルタントMichelle Gravesによれば、おままごとコーナーで遊んだ男児は、そのことを大人に隠す傾向があるとのこと。ソースは失念してしまいましたが、子どもしかいない部屋ならおままごとで遊ぶ小さな男児も、部屋に父親が入ってくるとやめてしまうという調査も見たことがあります。小さな男の子は、いったいなににおびえているのでしょうか。

 2013年放送の『セサミストリート』のとあるエピソードが、「男らしさの概念への攻撃である!!」「性役割の否定だ!!」「セクシャリティとジェンダーに対する破滅的な教えだ!!!」などとキリスト教保守派から厳しく批判されたことがありました。その神をも恐れぬセンセーショナルなストーリーとは……妹といっしょにお人形で遊んでいたクマのお兄さんが、ブルドーザーの玩具を持った男友だちが遊びにきたときに恥ずかしがって人形は妹のものだと言ってしまう。そんな兄に、ゴードンは男の子向け・女の子向けという区分に理由はないし、男の子がお人形で遊ぶことは将来お父さんになるためのレッスンになるんだよ、と説明する……えっそれだけ? 2014年1月には、11歳男子がかわいい馬のアニメ『マイリトルポニー』が好きだともらしたことから学校でいじめにあい、自室の2段ベッドで首つり自殺を図って意識不明の重体に陥る事件が起きました。彼は自殺を図る前、母親に「ママ、僕はもう疲れたよ。みんなが僕を「ゲイ」「キモイ」「うすのろ」って言うんだ」と語っていたそうです。『マイリトルポニー』のバックパックで学校に通ったことから「自殺しろ」などと言われるいじめに遭って登校できなくなったノースカロライナ州に住む9歳の男の子は、学校側から『マイリトルポニー』バッグ禁止令を出されてしまいました(この処分に納得できなかった少年の母親がFacebook上でキャンペーンを行ったことが有名メディアに取り上げられた後、学校側は『マイリトルポニー』禁止令を解いています)。こうしてみると、女の子的な「カワイイ」界に男の子が足を踏み入れることについては差別が激しく、小さい男の子自身が社会に向けて訴えられるほどの自尊心を築くのは難しそうだという印象を受けます。

 欧米に比べて母性原理が強いとされ、育児が母子密着型になりやすい日本では、少なくとも少年期にこれほどの男らしさプレッシャーはないように思えます。ママはかわいい男の子が大好きですし、かわいい趣味に理解がある女性的な見た目の少年なんて、ファンクラブができかねません。でも日本においても「自由でおバカでかわいい男の子」を満喫できる時期は、そう長くはないでしょう。女性が家事育児に囲い込まれて排除される社会は、必然的に男社会にならざるをえず、そこに投げ込まれたら最後、「かわいい僕」とは訣別しなければなりません。競って、勝って、他人を従え、見目麗しく育ちのよい「女の子」をゲットして勝ち組となるレースに参加しなければならないのですから。その厳しさは女性の社会参加率が低いぶん、かえって他国よりも苛烈かもしれません。たとえば動物園などに行くと、小さな男の子が「カワイイね~」と動物を愛でている様子をよく目にしますが、ある程度大きくなると「女の子」への性的評価以外で「カワイイ~」なんて口にしなくなります。そして「カワイイ」は、口にするのもその対象となるのも、「女の子」の専売特許になってしまうのです。私には、「女の子(少女)とは……」と熱を込めて語る日本のおじさんたちが、「かつてお母さんに愛されていた、自由でおバカでかわいい男の子だった自分」を語っているように思えてなりません。

 かわいくあることが許されない男性。子どもの頃と変わらぬ生真面目さで社会が求める「自由でおバカでかわいい女の子」を演じる女性。なんだか息苦しいですね。でも、こうした息苦しさも徐々に変わっていくのかもしれません。というのは、“ポケモン”を凌駕する勢いで現代の男児のハートをとらえているアニメ『妖怪ウォッチ』を子どもたちとしばらくいっしょに見ての感想。こちらの男児アニメに対する先入観、ひいては男児に対する先入観をことごとく覆す内容なのです。どういう内容かというと……いいかげん話が長くなりすぎてなんらかの妖怪に取り憑かれそうなので、この話はまたいずれ。

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