この度、『Crustal Movement』なる3枚のミックスCDがエイヴェックスから同時にリリースされた。DJノブによる『Dream Into Dream』、Shhhhhによる『EL FOLCLORE PARADOX』、ムードマンによる『SF』。3人のDJのそれぞれの個性が反映されているばかりか、今日のクラブ・ミュージックの魅力を切り取った、3枚とも実にドープな仕上がり。クラブ・ミュージックの「いま」がしっかりあって、しかもミキシングの「いま」もある。

interview with DJ Nobu
キラー・テクノ ──DJノブ、インタヴュー 取材:小野田 雄
![]() DJ NOBU Crustal Movement Volume 01 - Dream Into Dream tearbridge |
ちょうど10年近く前になるだろうか。噂を聞きつけて、不案内な千葉へと初めて出掛け、デトロイト・ハウスのドン、テレンス・パーカーと盟友のスティーヴ・クロフォードをフィーチャーしたFuture Terrorで味わったのは濃厚なハウス・ミュージックだったと記憶している。その当時の片鱗は〈MOODS & GROOVES〉の音源をエディット、ミックスした2008年のミックスCD『CREEP INTO SHADOWS』で追体験出来るものの、Future Terror主宰のDJ NOBUは気が付けば、いつからか、テクノをプレイするようになっていて、2010年に日本人で初めてドイツ・ベルリンのベルクハインでプレイするまでの傑出したDJになっていた。
そのあいだの自分はといえば、彼のプレイするパーティやFuture Terrorに足繁く通っていたわけではなかったけれど、それゆえに、4作目となる最新ミックスCD『Crustal Movement Vol.01:Dream Into Dream』は成功を収めてなお、変わらずに変わり続ける彼の音楽性とそのスタンスに大きな衝撃を受けた。そして、テクノやハウスがインダストリアルやノイズ、ドローン、ミュージック・コンクレート、ヴィンテージな電子音楽などと共振しながら描き出す美しくも危ういサウンドスケープに驚き、魅せられると同時に、久しぶりに彼の話をゆっくり聞いてみたいと思った。
はっきり言って、全体的に見たらいまの日本は出遅れちゃってるんですよ。もちろんそうでない人もいますけど。だから、マズいっていうか、「日本なんてたいしたことねえよ」って思われるのもイヤだし、負けたくないじゃないですか(笑)。だから、面白いことを考えていきたいなって気持ちが強かったというか。
■2006年の『NO WAY BACK』から最新作の『Crustal Movement Vol.01:Dream Into Dream』まで、これまでリリースした4作のミックスCDを紐解くと、NOBUくんの音楽遍歴がはっきりわかりますよね。
DJノブ:その変遷はわかりやすいですよね(笑)。90年代、テクノが好きだったにも関わらず、出会いに恵まれていなかったり、面白さを感じられなくなって、一時期、DJの現場から離れるんですけど、その時期にいままで通ってこなかったハウスに触れて。もともと、ブラック・ミュージックが好きだったこともあって、その流れからハウスもすごく好きになって。DJを再開してからはハウスをプレイするなかで、スパイスとしてテクノを使うようになるんですけど、どうしてそうなっていったかというと、デカかったのは「濡れ牧場」だったりして。
■「濡れ牧場」というのは、CMT、Shhhhh、UNIVERSAL INDIANNという3人のDJが東高円寺GRASSROOTSで主宰していた伝説的なアシッド・パーティですね。
DJノブ:彼らはDJを通じて、人に驚きを与えることをやってたじゃないですか。僕はおそらくもっとも濡れ牧場にゲストで呼ばれてプレイしてるDJだと思うんですが、僕も負けず嫌いなんで、例えば、ノイズを混ぜてみたり、「どうしたら面白いことが出来るか?」っていう試行錯誤をしながら、みんなで遊ぶなかで、当時の時代性もあってか、面白い作品がどんどんリリースされるようになったテクノに惹きつけられて、気づいたら、テクノが中心になっていたっていう。もちろん、いまでもハウスはプレイするんですけど、自分はテクノに完全に取りつかれてしまっているので、流れとしてはそういう感じなんですよね.
■NOBUくんを魅了してやまないテクノはどこに魅力があるんでしょうね?
DJノブ:テクノという音楽はDJの力量によって、最高のものにも、最低のものにもなると思うんですね。そういう意味で、テクノはひりひりした緊張感をもって、自分がプレイヤーでいられる音楽、自分の世界を作りやすい音楽だと思うんですよ。しかも、エレクトロニック・ミュージック全般で考えた時、テクノは進化の速度も早いので、自分も飽きずに接していられる......飽きないというか、ホントに自分が頑張らないと、置いていかれちゃう世界だと思うので。
■2010年にプレイしたベルクハインでの体験を振り返ってみて、いかがですか?
DJノブ:いま、思い出すと、そこで繰り広げられているスタイルを日本でやってる人と出会えてなかったんですよね。もちろん、ベルグハインのような環境がないなかで、「このレコードはこうやって使うんじゃないか?」って自分なりに考えてきた経験は、それはそれで重要だったりはするんですけど、2009年に初来日したマルセル・デットマンと一緒にやったとき、「テクノってこういうことでもあったのか。知らなかった。すみません」って感じの衝撃を受けて。さらに翌年呼ばれたベルクハインでは自分の出番が終わった後、午後4時くらいまでずっと踊って、彼らがやっていることに真剣に向き合ったことで、本当にたくさんの発見があったんです。でも、もう3年前の話なんで。
■ベルクハインで目から鱗だった発見というのは、例えば、グルーヴの作り方とか?
DJノブ:いちばんデカかったのはグルーヴの作り方ですね。そのグルーヴにしても、「ベルクハインのスタイルは変わらず一貫している」って言う人も多いんですけど、去年、感じたのは、彼らは彼らで実はさり気なく変わっていて、根っこにあるグルーヴも最近は丸くなったり、変化し続けていますね。
■自分は行ったことがないんですけど、世界最高峰の音響だったり、あるいは快楽追求が半端じゃないゲイ・クラウドだったり、ベルグハインのエクストリームな環境は日本には存在しないわけで、向こうのスタイルをそのまま日本で再現するのは難しいというか。
DJノブ:日本は日本で別の意味でのエクストリームな現場が存在するし、状況もシーンのあり方も全然違いますからね。とはいえ先ほどの話じゃないですけど、テクノをかける手法は学ぶ事も当時はありましたし、もちろんたくさんの刺激を受けましたね。
■2010年末にリリースした前作『ON』は、そうしたベルクハインでの経験が反映されたミックスCDだったと思うんですけど、その後、2年以上に渡って、全国各地でいろんな夜、いろんなフロアを経験するなかでどんなことをよく考えます?
DJノブ:例えば、海外から来て、来日したときのDJやライヴがまったく良くなかったアーティストでも、ただ来日アーティストってことだけで、良いと思っちゃう人は相変わらず多いのかなって。もちろん、こんな人がいたんだって驚くような海外のアーティストが出てきたりもしていますけど。こないだも某来日アーティストがやってた全然面白くないライヴが盛り上がってて、そうかと思えば、UNITのDEMDIKE STAREで一緒になった京都のSTEVEN PORTERとか、KEIHINがAIRで新しくはじめたパーティ「Maktub」にライヴで出たRYO MURAKAMIくんのライヴを見たら、相当にクオリティが高いことをやっているのにそこに気づいてない人が多かったり。まぁ、それは最終的に俺の好みの問題になっちゃうんですけど、「この人は光るもの持ってるな」って思う人は日本にもいるのに知らないままでいるのは、もったいないと思うんですよ。みんな、まわりの評判やメディアの情報をただ受けるだけじゃなく、自分の感覚を信じて、能動的に面白いものを見つけられるようになったらいいんじゃないかって思うんですけどね。
■ここ最近、音楽の進化のスピードがあまりに速いから、その動きに付いていくのは大変だったりもするでしょうし、まずはその夜をどう楽しむか、楽しませるかっていうのが夜遊びの基本だったりもするでしょうから、そう簡単な話ではないと思うんですけどね。
DJノブ:でも、ときには多少リスクを侵してでも、いままでの楽しみ方とは違った新しい試みを取り入れていかないと面白くないじゃないですか。だから、そのバランスはホントに難しいし、悩み続けているポイントだったりもして。新しいことをやるのと聴きやすさ、なじみ易さのバランスはつねに意識してます。
■今回のミックスCDにしても、ここ最近のピークタイムを切り取った内容にするという選択肢もあったと思うんですよ。でも、そうせずに、広義の電子音楽に立ち返りながら、進化しているテクノのカッティング・エッジな流れに共鳴したところがNOBUくんらしいなと思いました。
DJノブ:いまはSOUNDCLOUDを掘れば、その辺のミックスCDよりもいい音源なんて、いっぱいあるんですよ。だからこそ、新しい感覚のものを提示していかないとなって思ったんですよね。しかも、いま、日本のテクノでそういうことをやろうとしている人も少ないですし、そう考えたら、自分はチャレンジしていかないとなって。世界のトップ・レヴェルでやってる人もいたりはしますけど、はっきり言って、全体的に見たらいまの日本は出遅れちゃってるんですよ。もちろんそうでない人もいますけど。だから、マズいっていうか、「日本なんてたいしたことねえよ」って思われるのもイヤだし、負けたくないじゃないですか(笑)。だから、面白いことを考えていきたいなって気持ちが強かったというか。
今回はヴァイナルをデータ化にしたもの、それからデータで買ったものがちょうど半々くらい。ここ最近は僕もUSBを差したCDJ-2000を使ったりもしているんですけど、今回に関しては、「ライヴ・ミックスはパーティで聴いて欲しい」って感じで(笑)、Abletonで作り込みました。
■テクノという枠組みにとらわれず、広く電子音楽を意識するようになった具体的な作品やアーティストは?
DJノブ:前作『ON』でも使っていましたけど、振り返ると、ダブステップの枠をはみ出したShackletonやインダストリアルな、あるいはアブストラクトなベクトルで発展していったSandwell District、Silent Servantなんかの登場がデカかったと思いますね。その流れでRegisを聴き直したら、90年代にはわからなかった感覚がわかったり、そうやってあれこれ掘るようになったんですよね。後はSvrecaのような表現者。IORIと遊ぶようになったのも大きいです。MnmlssgsのChrisと交流を持つようになったことも大きいです。
■例えば、2曲目のTod Dockstaderは昔のライブラリー音源だったり、16曲目のFrancis Dhomontもミュージック・コンクレートだったり、ダンス・ミュージック用に作られていない曲が多数使われていますよね。
DJノブ:その辺のレコードは家で聴くのが面白くて買うようになったんですけど、よくよく考えると、初めて、dommuneに出たときもターンテーブルが壊れたときにかけたのもそういう現代音楽のレコードだったんですよね。何年か前なので忘れちゃいましたけど、Chee(Shimizu:DISCOSSESSION)さんのORGANIC MUSICで買ったものだったんですよね。それ以前にも「濡れ牧場」でオブスキュアなレコードを使って、変な時間を作ったりすることはやったりしていたから、その流れが歳月を経て、洗練されたということもあるんじゃないかと思いますね。
■ミックスCDの構成に関しては、どんなことを考えました? 例えば、MOODMANのミックスは、USBを差したCDJ-2000を使ったからこそ、クイック・ミックスを通じて、独自のグルーヴが出てると思うんですね。
DJノブ:今回はヴァイナルをデータ化にしたもの、それからデータで買ったものがちょうど半々くらい。ここ最近は僕もUSBを差したCDJ-2000を使ったりもしているんですけど、今回に関しては、「ライヴ・ミックスはパーティで聴いて欲しい」って感じで(笑)、Abletonで作り込みました。作り込んだものじゃなければ、自分としては売れるものにならないなって。
だから、今回はいままででいちばん曲数を多く使って、コラージュしながら、映画を観るような、ある種のストーリーが感じられるものにしました。そういう意味では普段のDJとは頭の使い方も違いますよね。ただ、いちばん最初に作ったテイクがあまりにマニアックすぎたというか、あまりにも度が過ぎたものになってしまったので(笑)、キックが入ってくる7曲目のADMX-71あたりから自分なりに聴きやすい入口を設けたんです。
■あと、ここ最近のトラックは解像度が飛躍的に上がっていると思うんですね。そういう最新のトラックとリイシューものの電子音楽が上手く混ざってるところにも、NOBUくんの上手さや鋭さを実感しました。
DJノブ:後半、2曲使ってるL.I.E.S.のロウなトラックはさておき、今回は古いものも新しいものも音がいいトラックを選びましたからね。だから、当初使おうと思っていたThe Trilogy Tapesのトラックも、もともとがカセットだったり、音質が独特なので、混ぜた時に浮いてしまって。そういう曲を省いていって、最終的にいまの形に落ち着いたんですよ。
■今挙がったL.I.E.S.にしても、ハウスの領域をはみ出して、ダブステップや広い意味での電子音楽に歩み寄ってる面白いレーベルだったりしますしね。
DJノブ:L.I.E.S.のトラックは、今回、2曲使ってますけど、海外ではあれだけ話題になっているのに、日本ではいち部のDJしか使ってないし、多くの人には聴かれてもいないじゃないですか。好みの問題でもあるとは思うんですけど、何で面白いものに飛びつかないのか、自分にはよくわからないんですけどね。
■だからこそ、今回のミックスCDは、カッティング・エッジなエレクトロニック・ミュージックに触れる最高のきっかけになるんじゃないかと。
DJノブ:それと同時に今回のミックスCDは長く聴き続けられる普遍性も自分なりに追求したつもりです。今回のようなアプローチのプレイもイケるところはイケるというか、土地によっては、テクノについて全く知らないキャバ嬢がガンガン踊ってくれたり(笑)。でも、それは能動的に楽しもうと捉えてくれてるからだと思うんですよ。例えば、こないだ、8年振りに徳島へ行ったんですけど、テクノ・シーンがないに等しいような土地なのに、「ここまでやっちゃっていい?」ってところまでプレイしても、付いてきてくれたし。もちろん、そのときのプレイの良し悪しにもよるんでしょうけど、チャレンジできるところではやっていきたいと思っているんですけどね。
■かたや、2001年にスタートしたFuture Terrorも2011年に10周年を迎えたわけですけど、3月9日の最新回はいかがでした?
DJノブ:こないだ久しぶりにやってびっくりしたのは、あのパーティは、自分がコントロールするんじゃなく、お客さんがコントロールしてて(笑)、俺がお客さんに付いていくって感覚がいままでDJしてきて初めてのことだったんですよ。もちろん、それは不快なことではなかったし、むしろ、何のトラブルもなければ、ストレスもなかったし、すごく楽だったんですね。そう考えると、お客さんも遊び方が上手くなったり、音楽の聴き方も変化しているんだろうし、成長しながら、俺たちがやってることについてきて、さらにはDJをコントロールするわけですから、スゴい話ですよ(笑)。
■はははは。そういう意味で、回数は減っても、NOBUくんにとって、進化の起点はFuture Terrorにある、と。
DJノブ:いや、例えば去年の話ですけど、進化の起点になったと感じる機会はmnmlssgsのパーティに誘ってもらって自分なりに何を表現するか悩んだり、Labyrinthで体験したBee Maskのライヴが衝撃だったり、他のパーティに、きっかけがあります。自分にとってFuture Terrorは帰る場所っていうか、俺の原点ですよね。集中力があれだけすごいお客さんが集まるパーティはほかになかなかないと思うし、自分ではじめたパーティながら、「ああ、こんな盛り上がり方してるんだ」って、他人事のように驚きましたからね(笑)。
取材:小野田雄
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interview with Shhhhh
音のうしろのフォークロア──Shhhhh、インタヴュー
取材:松村正人![]() Shhhhh Crustal Movement Volume 02 - EL FOLCLORE PARADOX tearbridge |
"Crustal Movement"シリーズは花も実もあるDJの仕業だけあって、音楽にどこかに運ばれていく感じを、ひさしぶりに味わったすばらしいミックスばかりだったが、なかでもShhhhhの『エル・フォルクローレ・パラドックス』はワールド・ミュージックという確たる言葉はあっても、それが具体的に何を指しているのかわかりかねる音楽をあつかいながら、既知の体系知に寄りかからないShhhhhのものとしかいえない「ワールド」を築いている。リズム、和声、装飾があり、トラッドとダンス・ミュージックからなるこの世界地図を、Shhhhhは上から目線ののっぺりした俯瞰図ではなく、あくまで彼の視野にうつる水平の風景として描き、国境線の画す音楽の分布ではなく、等高線のつながりがほのめかすつながりを聴く。ゆえにそこから、〈Sublime Frequencies〉から〈Honeset Jon's〉まで、クワイトと東欧のポリフォニック・コーラスとが、あるいはボアダムスと(ホワイトハウスのウィリアム・ベネットの別名義である)カット・ハンズが犇めきあうロールシャッハ・テストで反転したような世界地図がうかびあがる。ラテン・アメリカでは「民族音楽」のほかに「伝承」全般を意味する"Folclore(フォルクローレ)"とは、1978年生まれのDJにしてワールドミュージックのディストリビューターにとって、では具体的に何を指すのか。「フリー(クド)・フォーク」と呼ぶべきミックスCDをリリースしたShhhhhに話を訊いた。
緯度ではなくて標高差。海抜が低くなる海のそばの地域では声のソロが多くなるとか、つきつめると傾向があるんじゃないかという、完全に妄想なんですけど、そういうことを考えているうちにイメージが広がって曲がつながって世界が変わっていく感じがありました。
■トラベル感がありながらもちっとも長さを感じさせないミックスだと思いました。
Shhhhh:最初はもうちょっとワールドミュージックっぽくて、ヨーロッパのフォークみたいな曲が多かったんですけど。
■トラッドということですか?
Shhhhh:そうですね。トラッドで四つ打ちっぽい曲。途中ちょっと入っているじゃないですか? そういった曲を含めたおもしろいセットが最初できたので、それをパッケージングしてみようかと思ったんですが、権利がとれなくて流れが変わっていくにつれて、シャックルトンやボアダムスを入れることでふだん自分がやっていることに近いシンプルなものに着地した感じでした。
■シンプルというのは?
Shhhhh:ヨーロッパのフォークだろうが、いまのダンス・ミュージックのおもしろい曲とまぜてひとつの世界観を提示するのが僕のDJの目標のひとつでもあるんです。短く感じるというのは成功というか、最初のヴァージョンだといろんな国をまたいで、あっちいったりこっちいったりするので、それをおもしろがってくれるひとももしかしたらいたかもしれなんですけど、これはエキゾチックなコンピレーションじゃないんですよ。DJがつくるということはひとつの世界観を聴かせることだとも思うんです。だからワールドミュージックの紹介というよりもダンス・ミュージックをまぜたものに落としこみたかったんです。
■今回のミックスCDはShhhhhくんにとってのワールドミュージックの現在の見取り図を提示しているといえますか?
Shhhhh:現在の見取り図かといわれるとどうなのかという気がしますけどね(笑)。
■たとえば、私が雑誌でこういうテーマで特集をするとしたら、こういう風に編集すると思うんですね。
Shhhhh:雑誌というより、もうちょっとシネマティックというか映像的なのかもしれませんね。妄想の物語かもしれないですが(笑)。一回このなかの解説にも書いたんですけど、「標高差」がテーマというか。
■標高差というのを具体的に教えてほしかったんですよ。
Shhhhh:ワールドのトラッドのいろんなところを行き来するみたいなところからダンス・ミュージックに近づけるなかで、後半に行くにしたがって、自分のなかでどんどん空気が薄くなっていく気がしたんです(笑)。録音したスタジオの標高をクレジットしたらおもしろいんじゃないか、というくらい(笑)。国別、地域別の括りはいまはあたりまえじゃないですか? 標高別というのは新しいかもしれない、空気の薄さで音楽性ってつなげられるんじゃないかとか(笑)。
■たしかに屋久島なんか、緯度は低いけど、高い山があるから寒冷地の植生もあるもんね。
Shhhhh:そういう感じです。緯度ではなくて標高差。海抜が低くなる海のそばの地域では声のソロが多くなるとか、つきつめると傾向があるんじゃないかという、完全に妄想なんですけど、そういうことを考えているうちにイメージが広がって曲がつながって世界が変わっていく感じがありました。雑誌の編集というのは僕はわからないですが、映画を撮っていくというか、こういう場面、こういう場面、というのでシーンがどんどん変わっていくというのを変わっていくのを考えるのは好きですね。
■場面は変わっていくんだけど、全体のつながりはある。そういった動性がある、と。
Shhhhh:僕はいきなり流れを変えるようなDJをするのも好きなんですけど、CDということもあって、世界観を壊さす集中しつつ、細かい変化が起こって標高だけ微妙に高くなっていく感じでやろうと思っていました。CDというので、ふだんのDJよりも世界観をつくるのは意識したかもしれないですね。
■Shhhhhくんの作品だと、『ウニコリスモ』があって、〈ZZK〉のコンピ(『ZZK Records Presents... The DigitalI Cumbia Explosion』)があったわけですが、それはアルゼンチン音響派やデジタル・クンビアといったテーマがありましたよね。『エル・フォルクローレ・パラドックス』はそういうものがないところがはじまっていますよね。
Shhhhh:『エル・フォルクローレ・パラドックス』は『ウニコリスモ』の続編的なニュアンスもあるんですよ。多くのリズムやダンスでDJミックスをつくるというのが完全に一致しています。じつは南米の曲は今回、レオナルド・マルティネッリ1曲しか使っていないんですが、ほんとうは使わないつもりでした。僕は南米の音楽に関する仕事もしているし、紹介役を自認してもいるんですが、もうちょっと拡大した方向で考えたいというのもあったんです。それとやっぱり、ワールド系のライセンス系の問題があって――
■ライセンスとるって難しいですか?
Shhhhh:音源をもっているレーベルがなくなっていたり、そもそもレーベルが歌っているひとに連絡がとれないということもありました(笑)。
■それをわざわざ探してくれるとも思えないもんね。
Shhhhh:そうなんですよ。ワールドミュージックってとても植民地音楽で、民族衣装を着せてエキゾチシズムを売る世界でもあると思うんですよ。そういうところもつくっているうちに見えてきたところはありますね。
■植民地音楽というのはいままでもShhhhhくんのなかにありましたか? 仕事してもワールドミュージックに携わっているでしょう。そうすると搾取するというか、やましい気持ちにならないですか?
Shhhhh:搾取するというよりも僕は完全に紹介する立場だと思っています。こういうのがあるという立場、それはDJであっても、ふだんの輸入の仕事でもまったくいっしょです。まったくというと語弊はありますけど、こういう音楽がありますよ、こういうダンスがあってこういう聴かせ方がありますよ、ということの一方で権利ってなんだろうと、今回は思いました。
■ビッグネームの曲を使うのは単純にお金の問題だけど、こういうひとたちの曲を使うのは地政学ともいえますからね。
Shhhhh:そうなんですよ(笑)。それで果たして現地のひとたちにお金が渡るかといえば、そうも思えない。だからメールの返事もないかもしれない。勘ぐっているだけかもしれないですけど、でもまあその可能性はゼロじゃない。そういうのが見えてくると、DJというものとワールドミュージック、音楽の権利というものを考えさせられました。
■ワールドミュージックはフランスとか、ヨーロッパを経由した非西洋音楽という側面がありますからね。
Shhhhh:まさにそのフランスの某名門レーベルがまったく返事くれなかったですね(笑)。僕なんかも、フランスのレーベルや研究者によって、いろんな音楽を知ることができたので、簡単に批判することもできませんが。
■枠をとっぱらって、レーベルやジャンルを限定せず、それこそワールド・ワイドなミックスにしようとしたからこそ、そのような問題も出てきたといえますね。
Shhhhh:そうですね。
■『エル・フォルクローレ・パラドックス』は好きな曲が多かったからおもしろかったですよ。
Shhhhh:〈Fonal Records〉とか、松村さん好きそうですもんね(笑)。
■ご名答(笑)。レオナルド・マルティネッリもね。
Shhhhh:レオナルドは『ウニコリスモ』のときもとりあげたんですが、〈Los Anos Luz Discos〉というレーベルから出していたトレモロというバンドもやっているひとなんですよ。
■目のつけどころがさすがだと思いました(笑)。ほかの雑誌はわからないけど、すくなくとも「ele-king」の読者にとってワールドミュージックの入り口としては最適だと思いますよ。
Shhhhh:そういってもられるとうれしいです(笑)。僕はワールドミュージックといっても、民族音楽だけをDJでかけるというのはできないんですよ。もちろんそういうひとをディスっているわけじゃないですよ。でもやっぱり、僕は1978年生まれですが、アメリカの影響下にある日本に生まれ育って、オルタナティヴ・ロックが好きで、ボアダムスに行きついて、というのがあって、そういったものが自然に出てくると思うんですよ。世界中にそういうヤツが増えてきていると僕は思っていて、レオナルドもフォルクローレと不思議なエレクトロニカみたいなものをやるじゃないですか? 彼はたぶんどっちも好きなんですよ。僕もそうなんです。
一昨年バルセロナに行ったんですけど、それはルンバ・カタラーナというキューバのルンバがカタルーニャ地方、バルセロナに渡ってきて、ジプシー音楽と結びついた庶民の音楽の現場を取材だったんですが、DJでルンバ・カタラーナをかけたり、エディットしたりしている現地のクルーに訊いたところ、「俺も最初はテクノはまわしていたんだけど、いろいろ考えるうちに自分たちの国にルーツのかっこいい音楽があることに気づいたんだよ」といっていたんですね。グローバリズムで90年代からみんないろんな音楽を聴くようになったのがいまは自分の国の音楽を考えるようになっていきている。みんながみんな、同じ12インチを買うのではなくて混ぜ合わせる、そういったミクスチャーが僕らが考える以上に世界中で多発してきていると思うんですよ。それは『ウニコリスモ』をつくったときにも明確に思いました。それこそ、ふつうのヤツがフォルクローレみたいな音楽をリスペクトしているというんですね。
で、僕にとってのルーツは彼らなんです(資料に書いてあるボアダムスを指さす)。このひとたちは、僕にとっての気分としてのスタンダードというか......うまくいえないな。ボアダムスってなにかしらトライバルな要素をとりいれるじゃないですか、それは無意識にとりいれているというか。今回、ボアのトライバルな部分も抽出したかったし、それをほかの音楽と並列に提示するのはやりたかったことでもあります。本人たちにしてみれば、「そんなこと知らんわ」といわれるかもしれないですけど(笑)。
■"Rereler"をリミックスしているCoswampって誰なの?
Shhhhh:EYEさんです。
■だよね(笑)。名義何個目なんだろうね?
Shhhhh:ハハハ。その場で決めたんでしょうね。サンフランシスコの2枚組(『Boredoms Live At Sunflancisco』)の収録曲を12インチで出したときのリミックスです。
■Shhhhhくんは最初に聴いたボアは何ですか?
Shhhhh:中学か高校か。僕は最初、ソニック・ユースがすごい好きだったんですよ。問答無用でかっこいいと思ったんですよ。テレビで観て。
■MTV?
Shhhhh:「ビートUK」だったかも(笑)。サーストン(・ムーア)がジャンプしてギターをグギャーとやっているのをみて一発でやられたんです。その流れで、ボアダムスを知って、そういう音楽をやるひとが日本にもいるんだ、と思ったんですよ。僕はクラブ・チッタのソニック・ユースが人生初ライヴで、前座がOOIOOだった憶えがあります。ボアダムスの渋谷のライヴに行ったのは17〜18歳のときでした。
■私はShhhhhくんの六つ上ですけど、私にとっても90年代はボアダムスでしたからね。
Shhhhh:それをフォーク的な要素で解釈するというのは大胆不敵だという気もしますけど(笑)。
■でもここしばらくのOOIOOのヴォーカル・アンサンブルなどは『エル・フォルクローレ・パラドックス』に収録したヨーロッパのポリフォリックな音楽の影響もありますよね。
Shhhhh:Shhhhh:僕が7年前に今のワールドミュージックのディストリビューションの会社に入ったときから、たまに面白いのをお勧めしたりしてますよ。
■Shhhhhくんとの関係が影響している気もしますけどね。
Shhhhh:逆に僕が彼らがこういうのが好きなんじゃないかということで聴きこんだりしているので、僕のほうが影響を受けていますよ。
■たがいに影響しあっている?
Shhhhh:それは僭越すぎます(笑)。僕はDJ一直線というタイプではないし、輸入の仕事も好きだし、こういった音楽を紹介したりといったフィクサー的なことも好きなんです。今回のCDもワールドなんだかテクノなのかダンスなのか、バランスとるのが好きなんですね。
■そのバランス感覚がShhhhhくんの特徴だと思います。
Shhhhh:バランスという意味で真ん中に立つのがすごくしっくりくるんですね。それは僕だけじゃなくて、すべてのDJがそうなんじゃないんですかね。
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interview with Shhhhh
音のうしろのフォークロア──Shhhhh、インタヴュー
取材:松村正人世界の別天地
グローバリズムで90年代からみんないろんな音楽を聴くようになったのがいまは自分の国の音楽を考えるようになっていきている。みんながみんな、同じ12インチを買うのではなくて混ぜ合わせる、そういったミクスチャーが僕らが考える以上に世界中で多発してきていると思うんですよ。
![]() Shhhhh Crustal Movement Volume 02 - EL FOLCLORE PARADOX tearbridge |
■今回幕開けは〈Sublime Frequencies〉の音源ですが、これはアラン・ビッショップのやっていることに敬意を表したということですか?
Shhhhh:これには裏話があって、タンザニアのすごい声ネタのトラックがあって、じつはそれをオープニングにしようと思っていたんです。
■それはどこから出ているの?
Shhhhh:現地ものでエル・スールの原田(尊志)さんが仕入れてきて、これはすごいと(一部で)話題になった曲です。大人数の合唱曲なんですけど、これが頭だったら、僕が最近やっているワールド・フォーク・セットをパッケージングできるだろうというきっかけの曲だったんですよ。それがライセンスできなかった(笑)。このCDをつくるにあたって、最初にあげていた曲だったので、あれがダメなんですよ、といわれて、エーッって(笑)。
■レーベルはどこなんですか?
Shhhhh:現地のレーベルで、連絡先はgmail。いま考えると、よくそんなところからライセンスしようとしたとも思うんですが、でもやっぱり途方に暮れて、声ネタのオープニング曲を探していたら、これ(Borana Tribe"Borana Singing Wells")にたどりついたんです。これなら最初にもいいし、中盤のヴォーカル曲のパートが生きてくるかな、と。で、〈Sublime Frequencies〉からは半日くらいで返事もらえたんですね。フランスのレーベルはダメだったけど。それで、結局オレはオルタナっ子なんだと思いました(笑)。カット・ハンズと〈Fonal Record〉も返事すごく早かったですもん(笑)。安心とも諦めともつかない宿命を感じました(笑)。オチがついたというか。制作中それで一回楽になりました。
■オルタナティヴとしてのワールドミュージックといことではウォーマッド(WOMAD)的な見本市としての提示方法もあれば、ロス・アプソンの山辺(圭司)さんみたいなプレゼンテーションもあって、Shhhhhくんはその最新型だと思うんですよ。
Shhhhh:ロス・アプソンでルーベン・ラダとエドゥワルド・マテオのCDを「お尻から声が出てる」といって紹介しているのを知ったらウルグアイのひとは怒るかもしれないですけど(笑)、愛があり、誠実に解釈すればいいんだというのは山辺さんから学んだことかもしれないですね。
■「辺境」という形容にも逆説的な価値観がかいまみえますから。
Shhhhh:でも僕はマージナルというよりはもうちょっとわかりやすいポップなものを今回はやりかったですね。
■それこそバランスだ、と。
Shhhhh:山辺さんとか虹釜(太郎)さんの探求は横目で見つつも、わりとふうつに買える12インチを入れるというのも、バランスですよね。
■すでに知っている曲、それこそシャックルトンであっても、Shhhhhくんのつくる流れのなかで聴くとまた違う顔つきになると思いましたよ。
Shhhhh:それがDJの役割じゃないかと思います。だから今回のCDはDJの作品だとすごく思いますね。コンパイラーとしてではなく。
■今回ほかに使いたくて使えなかった曲はありますか?
Shhhhh:ニューカレドニアの音楽ですかね。〈POWWOW〉が終わった後、CMTの家ではじめて聴いたんですが、これ山辺さんの葬式で流れていたらヤバイね、って話になって、なぜか葬式という言葉がCMTの口から出てきたんですよ。
■湿っぽい曲なの?
Shhhhh:そんな感じじゃないですよ。ゴスペルっぽい、とはいえ、ゴスペルじゃなくて、昇華していく感じもあり、海の感じもあるというか、しかも美しいんですよ。カナック族の音楽らしんですが、ジャンルとして存在しているかはわかりません。それもライセンスしようと思ったんですけど、連絡がつかず(笑)。そのかわりといってはなんですが、スヴェン・カシレックさんの曲を最後に入れられたからよかったですけどね。スヴェンさんはハンブルグのひとで、ケニアのヴォーカリストとエレクトロニカみたいなトラックをつくっているんですよね。結局現地ものじゃなくて、クラブよりの音楽ですね。このひとも返事早かったです(笑)。
■アルゼンチン音響派にしろ、伝統的なものをワンクッション置いてアレンジした音楽に、Shhhhhくんは惹かれるところがあるのかな?
Shhhhh:音楽のうしろにある「フォーク」を考えるのが楽しいんです。90年代にレゲエ/ダブってわりと紹介されていたじゃないですか? それはUKからだと思うんです。それと同じで、2000年代に入って、イギリスの〈Soundway〉がコロンビアのコンピを出したのが僕にとっては大きかったんですよ。レゲエを聴いていたひとでもクンビアに流れたひとは多かっただろうし、それはすごくおもしろかった。僕と山辺さんが大好きなチーチャっていうペルーのサーフ・ギター・クンビアみたいな音楽があって、そのコンピもニューヨークから出ていました。2006〜2007年は全体的にラテンものの再発が多くではじめたんです。ニューヨークやイギリスのレーベルが最初だったりするんですが。でも不思議なことにそれはコロンビアとかアフロ・ペルーの音楽のコンピはあるんですけど、白人をコンパイルしたものはなかったんです。『ウニコリスモ』はアルゼンチンの白人の音楽中心ですが、あのミックスCDをつくる前はそんなことも考えていました。アフロ・ラテンのコンピはいっぱいあっても、アルゼンチンの音楽、たとえば(アタウアルパ・)ユパンキなんかは「ど」のつくフォルクローレですが、そういう音楽をまとめたものはないと思ったんですよね。
■ユパンキはよく知られているんじゃない?
Shhhhh:でもクラブ/レア・グルーブ的解釈ではけっしてないじゃないですか? だからブエノスアイレスって僕にとってのポコッと残された場所だった、というのはいま思えばありますね。〈Honest Jons〉とかでもトラディショナルなアルゼンチンものって1作も出していないんじゃないですかね。〈Soundway〉などの再発ものであまりないんですよね。
■いわれてみればそうかもしれないね。
Shhhhh:あとアルゼンチンは黒くないんですよ。南のほうだとカンドンベが出てきて、マテオみたいになるんですが。
■黒っぽさ、白っぽさは気にするほうなの?
Shhhhh:後づけですけどね。
■聴く前にそれで選ぶことは?
Shhhhh:ないです。でも僕は白いほうが合っているかなとは思いますね。
■Shhhhhくんの軽快さはリズムを溜める方向ではないからね。
Shhhhh:そうかもしれないですね。たとえば黒人のテクノ、デトロイト・テクノを僕はいっさい通っていないんですよ。それよりも、四つ打ちならトランス、あるいはハウスやディスコ・ダブなんですね。ヒップホップなんかも好きでしたけど、トライブでしたから。
■トライブは黒さはあまりないですね。
Shhhhh:そうですね。フリージャズはすごく聴いていましたけど、それも黒さというよりはドン・チェリーのあの感じでしたから。
■アイラーとかコルトレーンではなくてね。
Shhhhh:もっとインターナショナルものですよね。
■『ブラウン・ライス』みたいな?
Shhhhh:どちかといえば『Mu』のファースト・パートですね。『Mu』のファーストに針を落としたときの衝撃は忘れられないです。知らない国のお祭りというか、それこそ、カット・ハンズ"Black Mamba"と同じようなショックを受けました。これをジャズっていっていいの?! と思いつつ、やっぱりジャズだな、と。何かしらフォークな要素に惹かれるはそのときからあったんでしょうね。あとあれが好きでした、〈off note〉。ご存じですか?
■もちろん知っていますよ。
Shhhhh:大好きなんですよ。コンポステラとか、聴きまくっていました。
■コンポステラはボアダムスと並んで日本の90年代を代表するグループだと思いますよ。
Shhhhh:それは僕と同じですね(笑)。トランスのパーティとか、若いからタイパン(タイパンツ)履いて行くじゃないですか? その次の日は寝ないで吉祥寺曼荼羅の篠田昌已13回忌のライヴに行ったこともあります。あれは西東京のフォークじゃないですか(笑)。篠田さんのチンドンの要素と、あとはクレツマーですよね。じつはアルゼンチンってユダヤ移民が多くてクレツマーが盛んなんですよ。ルーツをたどるとユダヤ系の名前が多いんですよね。『ウニコリスモ』のときも、クラリネットの感じがコンポステラを思いだすな、と思ったこともありますから。それでアルゼンチンの音楽に入りやすかったというのはあります。そう考えると全部つながっている気がしますね。
■音楽のある要素を聴きとって拡大する耳がShhhhhくんはある気がしますね。つなげていくというかつながっていくというか。いまの世の中では、どんな音楽にもたどりつけるけど、情報がありすぎることでさらにその先に踏みだそうとすると迷っちゃったりするじゃない?
Shhhhh:文脈だったり妄想の映像だったり国籍だったり、そういうものは重要だと思います。この前、つなげるとき、どういうことを考えているんですかってお客さんに訊かれたんですけど、単に自分のなかの文脈を勝手につくっているんですよ、とそのときは答えたんですけどね。DJはみんなそうだと思いますよって。
■じゃあDJするときは何に一番留意するの?
Shhhhh:DJのときは低音とグルーヴをキープしないと場が成り立たないというのはあります。抽象的なコラージュもやりたいと思うんですけど、結局酒場というかひとが集まるとみんながみんな、そんな音を求めているわけではないので、普遍的なグルーヴは必要だというところに、何度も戻りますもん。最大公約数が四つ打ち、イーヴン・キックなのかそうじゃないのかというのもすごく考えていて、この前もEYEさんとそういう話になって、人類のダンス・ミュージックの最大公約数は四つ打ちじゃないか、とEYEさんはそのときいっていて、『エル・フォルクローレ・パラドックス』では自分なりの解釈を提示したつもりです。四つ打ちじゃなくても普遍的なビートを出す、誰にもわかるものをやろうと思いました。(了)
取材:松村正人
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interview with Moodman
聴くことコレ即ち魔道なり──ムードマン、インタヴュー
取材:野田 努![]() MOODMAN Crustal Movement Volume 03 - SF mixed by MOODMAN tearbridge |
年齢を重ねてみて、わかることのひとつに、新しいモノってあまりないということがある。25歳の頃は「新しい」と思っていた音楽も、それより以前に似たものがあることや、いま「新しい」と思われがちなことも、すでに似たものがあることがわかる。そういう意味で、「リヴァイヴァル」という言い方はフェアでない。それは時代のモードの説明のひとつに過ぎない。
新しければ良いというものではない。そういうスリルは、ときにたしかに目を眩ませるが、同時に疲れることでもある。逆に、新しくないモノが人の心を奪うこともある。それは、よく磨かれていることを意味する。
ムードマンのミックスCD『SF』は1996年の曲ではじまり、1994年に繋がれるが、それ以外の29曲は、ほとんどがこの3年に発表された曲。その多くがダブステップ系だ。しかし『SF』は、大雑把に言えば、僕にはテクノのミックスCDに聴こえる。美しいアンビエントと温かいソウル、多少の遊び心の入ったリズミックで、柔らかいテクノの連続体......。
僕がこのミックスCDを好きなのは言うまでもないところではあるが、年季の入った耳が選んだ31曲を使ったミキシングを、機会あらば、25歳の君にも聴いて欲しい。
ここ10年、ベース・ミュージックが世界中で広まっていくなかで、その変化球みたいなものが、インテリジェント・テクノの時代に近いような感覚でぽこぽこ生まれている。それがやっぱり面白いなと。
■選曲はすぐ決まった?
ムードマン:選曲自体は、わりと早かった方かな?
■1曲目も? 最後の曲も?
ムードマン:まず、ばーっと曲を出して、曲順とかつなぎ方は組んでいく作業のなかで決めていきましたね。そこは悩みましたけど(笑)。
■あー、そうか。
ムードマン:1曲目(ジョン・ベルトランの1996年の曲)は、もともと別のアプローチで使うことを考えていたんだけど、やっていくうちに「ここかな」という。
■1曲目がジョン・ベルトランで、2曲目がステファン・ロバーズでしょう。1990年代初頭のテクノで、ムードマンの原点なんだけど、31曲の収録曲のほとんどがここ3年ぐらいに出た曲なんだよね。
ムードマン:ですね。今回、作っているうちに大きくふたつのテーマが、ぼんやりと浮かび上がってきたんです。まずは最近、90年代初頭にインテリジェント・テクノの系譜で活動していたオリジネーターたちの動きがまた活発なんですよね。
■カーク・ディジョージオの曲も入っているよね?
ムードマン:カーク・ディジョージオこそ、その代表かもしれないんですが、自身のレーベルを含めてここにきてまたすごく精力的に動いている。BPM130前後の、実にいい湯加減のピュアテクノを頻発しています。ここ2~3年、あまり語られていないかもしれないけど、ものすごい曲の量と質なんですよね。ステファン・ロバーズもそう。原点回帰という意味でも、そのあたりの動きが面白いと思っていた、これがまずひとつあった。あともうひとつは、ここ数年のダブステップの感じを眺めていて、当時のインテリジェント・テクノに近い拡散のベクトルを感じていたんです。
■本当にそうだよね。
ムードマン:当時は大きくレイヴ・カルチャーというのがあって、そこへのアンチまでとは言わないけど、それを異化する形で生まれたアート・フォームがインテリジェント・テクノだったと考えてみると、ここ10年、ベース・ミュージックが世界中で広まっていくなかで、その変化球みたいなものが、インテリジェント・テクノの時代に近いような感覚でぽこぽこ生まれている。それがやっぱり面白いなと。単純に、BPMもいろいろなことになっていますよね。GPRとか、irdialとかの雰囲気を思い出したりしながら追っかけてました。これがもうひとつの思いで。いろいろ他にも考えたんですけど、今回は、基本的にはそのふたつの気分を結びつけるような選曲でできないかなと。
■だとしたら、その意図はパーフェクトに伝わる内容になっていると思うよ。
ムードマン:曲の流れで言うと、新しいものからはじめて古いものに落とす方がその気分は伝わるのか、逆の方がいいのかとか。オリジネイターの作品をもっと入れたらどう聞こえるかとか......構成は50パターンぐらい作ったんだけど(笑)、最終的にはわりと素直にジョン・ベルトランから......というのがしっくり来るかなと。彼とはずいぶん前に一度だけ一緒にDJをさせてもらったことがあるんですが、そのとき、とても喜んでくれて、すごく自分的には支えになったんで(笑)。感謝もこめて1曲目に(笑)。
■ジョン・ベルトランの久しぶりに新作出すんだけど、スゲー良かったし。ところで、31曲も入っているのが驚いたんだけど(笑)。ムードマンにしては詰め込んだなと思って。で、20曲目前後、10曲目台の後半からダブステップ系の曲が続くんだけど、トラックリストを見なければ、ダブステップって気がつかないもん。
ムードマン:「気がつかれないこと」は目指した要素の重要なひとつです、とか言ってみたりして(笑)。
■ほぉ。
ムードマン:カットが早いのは、ここ10年ぐらい僕はデータを意識的に使っていて、もちろんいまでもアナログ盤もいまでもかけるんですけど、データを使う時に限っては、僕の身体感覚では、曲がより素材っぽく感じるというか。いわゆるバトルDJのカットイン/カットアウトとは性質がことなるクイックさというか。ミニマルをかけるときもそうなんですけど、データを使うようになってから素材として音源を使うことの楽しみを知ってしまったというか。この感覚を記録しておきたくて、過去2作のミックスCDはアナログ盤を使ってやってるんだけど、今回はあえてCDJを使ってデータのみでやってみたんです。過渡期のデータでの遊び方みたいなものを残しておこうかと。
■だいたい3分弱で、短いと1分も使ってないものね。
ムードマン:そこは強弱を付けてやったかな。長く使うものと短く使うやつと。曲によっては、バッサリとキーフレーズを抜いてますよ。
■今回はすべてデータなんだね。
ムードマン:今回はそう。
■俺は、いまだにムードマンというと、どうしてもアナログ盤というイメージが払拭しきれないからな(笑)。ヴァイナル・ジャンキーじゃない。
ムードマン:そこからは抜けられないですね。約10年前にデータと両刀になったんですけど、いまでもヴァイナルは......(笑)。
■買ってるでしょう!
ムードマン:ですね。ただ、僕の世代だとやっぱりアナログにこだわる人が多いんですけど、過渡期ではあるけど、データもまたかわいいんですよ。
■ヴァイナルで買ったものは、CDRとかに落としているの?
ムードマン:ヴァイナルはヴァイナルでプレイしますね。ヴァイナルをデータ化するときは、自分でマスタリング的なこともするけど、今回の収録曲はすべてデータで手にいれたものですよ。レアな音源かどうかよりも、かけ方の提案がしたかったということも大きいんです。他ジャンルをと思われる音源を、ディープ・ハウスとしてかける。
■20年前とかさ、土曜日日曜日によく渋谷で会ったよね。ムードマンは決まって両腕で買ったばかりの大量のレコードを抱えていてさ、持ちきれないからタクシーで帰るわとか言って(笑)。
ムードマン:あの頃は、100円レコード棚の主でしたね。ヴァイナルの救出が自分の使命だと思っていた(笑)。まぁ、そこはいまでも変わらないですかね。最近、いい喫茶店が減ってるでしょ。なので、街中で時間が空いても、他に行くところも無いので、レコード店にいくしかないんですよ。まぁ、あとは居酒屋ぐらいかな、居場所は(笑)。以前に比べてプラスされたのは、通販ですよね。毎日、10枚から20枚のレコードが届く始末で......(笑)。
■狂ってるねー(笑)。
ムードマン:いやぁ......(笑)。
■レコード屋さんはものすごく重要だし、レコード屋さんがある街に住みながらアマゾンでしか買ってないヤツはわかってないと思うのね。レコード屋さんは、まず情報が整理されているでしょう。お店のセンスもあって、面だしできる枚数も限られているから、選びやすいというのがあるじゃない。
ムードマン:日本にはいいセレクト・ショップがたくさんありますからね。
■そう、セレクト・ショップなのよ。しかも親切なレコード屋さんだと自分が持っている情報を分け与えてくれるからさ、「こういうのもあるよ」って教えてくれて、自分が知らなかった音も知ることができるじゃない。それはアマゾンにはできないからさ。だから、逆にデータで音源を探すのって......。
ムードマン:そう、難しい。
■難しいよね。
ムードマン:しかもぜんぶよく聴こえるし。
■そうなの?
ムードマン:それはそれでけっこうサヴァイヴァルで、逆に言えば、面白いんですよ。
■今回のムードマンのミックスCDで初めて知った曲がかなり多いんだけど、たとえば、20何曲目かな(笑)、〈スモーキン・セッションズ〉っていうレーベルの曲で、ハーフステップになる曲があるじゃない?
ムードマン:はいはい、ジャズっぽくなる展開のね。
■そう、あれとか、「良いナー」って思ったんだけど、どうやって探すのよ?
ムードマン:もうね、試聴につぐ試聴ですよ。
■おー。
ムードマン:ひとり「良いナー」と思ったら、ずっとそこを追いかける。もうどんどん追いかけるっていう。
■プロデューサーを?
ムードマン:プロデューサーでも、レーベルでも、そのまわりをぜんぶ聴く。今って、ぜんぶ聴ける状態にあるから、それをぜんぶ視聴する。むしろ、テキストはほとんど読まないんです、すみません(笑)。
■はははは。
ムードマン:はははは。いまって、恵まれてますよ。視聴できるんだから。
■寝る時間がないね。
ムードマン:ないない(笑)。嘘、寝てますよ。でも、レコードと同じですよ、掘り方は。僕はセレクト・ショップも好きだけど、値段均一のお店のえさ箱も好きなんですよね。誰かのお薦めももちろんいいんですけど、僕は誰も薦めていないものに愛しさと切なさと心強さを感じるんです(笑)。よくわからないものを買うって、自己が崩壊するいいチャンスなんですよ。
■なるほど。
ムードマン:メディアのあり方としては、いま、過渡期だとは思うんですが、自分としてはアナログでいま掘りたいモノと、データで掘りたいものとがそれぞれ明確にあるんですよ、わりと。ただ、それを日々続けてるっていう(苦笑)。
■(笑)。
ムードマン:今回入っている曲でもアナログで出ているのも多いし、まぁ、どっちで手に入れようかなっていうのは迷いますよね。でも、いまって早く買わないとなくなっちゃうでしょ。そこに参加するよりは、単純にもっと多くの曲を聴きたいだけなんですよ。
■あー、なるほどね。
ムードマン:例えば、地図を書くときに、GPSとかで俯瞰して書く人もいれば、伊能忠敬じゃないけど、歩いて書く人もいる。僕は歩いて書いて、測量するほうが好きなんです。
■それはいい喩えだね。
ムードマン:俯瞰する誰かの目を、まったく信じてないんです(笑)。
■しかし、伊能忠敬としてデジタルの世界を歩くのって、相当な根気がいるんじゃない?
ムードマン:そこまでたいへんではないけど(笑)、まず、周辺というか、ヘリがわからないんですね。どこが崖だか分からない。
■それはそうだよね。
ムードマン:ヴァイナルは100年ちょいの歴史ですが、もう掘り尽くせないくらいの量があるでしょ。2010年頃には地球上のアナログって、すべてアーカイブ化されちゃうかなぁと妄想していたんですが、ダメでしたね(笑)。まだまだ深い森のような感じですよね。しかも、新しい音楽はどんどん出てきている。狂いそうです(笑)。
■でも、いまほど情報が氾濫している時代もないというか、ホントに情報過多じゃない。情報サイトとか見ると、誰がこれだけの情報を消化するんだよって感じで更新されるでしょ。そういうカオスのなかで、情報をセレクトするのって重要だよね。いかに削除していくかっていうか。
ムードマン:それはひとつコツがあって、ほとんどの情報がコピペなんですよ。だから、コピペをまず無視すること。日々発信されている情報は、誰かのコピペばかりで、オリジナルに当たっていないですよ。はっと気づくと、コピペに洗脳されてる自分がいませんか、と。
■リツイートの文化だよね。
ムードマン:リツイートはまだ誰が拡散したか主体が見えるけど、ニュースとか、評論とかが、コピペの場合も多いですからね。デジタルの世のなかになって、意外と感覚が閉じたかなとしばしば思うのは、そういうことです。コピペが大きな障壁になっていると思う。コピペ、コピペって、何度も口にするとなんだがかわいいですが(笑)。まぁ、でも、そこのたかを外しちゃえば面白い世界が広がっているのでは(笑)。
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interview with Moodman
聴くことコレ即ち魔道なり──ムードマン、インタヴュー
取材:野田 努例えば、地図を書くときに、GPSとかで俯瞰して書く人もいれば、伊能忠敬じゃないけど、歩いて書く人もいる。僕は歩いて書いて、測量するほうが好きなんです。俯瞰する誰かの目を、まったく信じてないんです(笑)。
![]() MOODMAN Crustal Movement Volume 03 - SF mixed by MOODMAN tearbridge |
■今回の選曲見せてさ、まあ〈アップル・パイプス〉とか〈ヘッスル・オーディオ〉とか〈パンチ・ドランク〉とか、ダブステップ系の人気レーベルの楽曲があるんだけど、でも、ダブステップの系譜で聴いていったら出会えないようなレーベルも入っているんで、そこが「らしい」と思った。
ムードマン:自分にとっての良い湯加減を探しただけです(笑)。ただ、今回は楽曲的にはわりと現時点でポピュラーなものを選んだつもりで、むしろ、ダブステップの定番的な楽曲を違った感じで聞こえさせることに気持ちを注いだんです。ダブステップに関しては、本道ももちろん、好きなんですよ。ただ、自分がかけても説得力がないのでね。
■結果論なのかもしれなけど。
ムードマン:良い湯加減の曲を見つけたときは嬉しいですよ。そのときは、つい、その周辺をぐるぐるとまわっちゃう。テクノ創世記の話で言えば、例えばハウスのコーナーの片隅に、〈トランスマット〉の12インチが1枚混ざっていたりして、「なんだこの妙なイラストは?」と思って、そこからその周辺を探したのと同じことをしているだけですよ。あの頃、「ヌード・フォト」に針を落としたときの衝撃はいまでも覚えてますね。
■デジタルの世界でもそれが可能なんだね。
ムードマン:もちろん。
■アナログ盤は、やっぱモノとして愛でることができるけど、データは......、否定するわけじゃないけど、集めても充実感がなくない(笑)?
ムードマン:いや、モノを愛でる感覚は重要だけど、そこに引っ張られるといろんなことを見失うと思いますよ。音楽はモノじゃないから。空気の振動だから。
■クラシックの時代は楽譜だったわけだしね。
ムードマン:パッケージングされて音楽を聴くのって、たかだかここ100年の歴史ですよね。データはアルバム単位じゃなくて曲単位なんだけど、アルバム文化なんていうものは、これもまた古くなくて。SP盤、EP盤、そしてLP盤っていうね。
■『サージェント・ペパー~』以降なわけだしね。
ムードマン:アルバム単位で作家性を出すって言うのは、『サージェント・ペパー~』以降といわれてますよね。って、今日はこういう話で良かったんでしたっけ?
■でも好きでしょ?
ムードマン:大好き(笑)。愛でる感覚は大好き。レコードを開けたときの匂いが、まず好き(笑)。ただ、いまの作家がいまのスタイルで作っている音楽を、軽視するのは良くないと思う。良くないというか、もったいないと思うんです。データとヴァイナルと二項対立で語られがちですが、グラデーションで様々なメディアがあるわけで。ポンチャックはカセットでかけたいとか、エキゾチックサウンドを8トラックで聴いたらびっくりしたとか。オープンリールで聴くディスコって凄みがあるなとか。いろいろね。愛でる感覚はメディアに関係なく伝えたいとは思っています。
■デジタルをディグるときの快楽ってどんなもの?
ムードマン:僕はそもそもあいだにあるものが好きで、ヒップホップでもなく、レゲエでもない、ラガマフィンヒップホップに萌える感覚というか(笑)。
■ムードマンは本当にそうだよね。今回のミックスCDなんか、「あいだ」だよね。
ムードマン:で、デジタルは僕にとっては、「あいだ」を探しやすいんですよ。
■へー、そうなんだ。
ムードマン:これまでおいそれとは聴けなかった地域の音源とか、「この辺くさいぞ」ってディグすると、あるんですよね。今回のミックスCDではそこまで広い地域の音楽をピックアップしませんでしたけどね。
■AでもなくBでもなく、AとBのあいだにあるもの。
ムードマン:3つ以上かもしれないし、それらが混ざり合っているもの。混ざり合いそうだという雰囲気。なにか妙なものが生まれてきそうだぞという躍動感もふくめて、そういった音楽が好きなんですよ。ロウな感じっていうか。食感で言うと、グミっぽい感じと言うか。ちょっと違うか。
■そう考えると、2013年に出したというのも結果論なんだけど、必然にも思えるんだよね。何故ならいまはその「あいだ」で良いのがたくさんあるから。
ムードマン:ミックスCDって、ドキュメンタリーかなと思ってるんです。
■最初のミックスCD(2002年の『Weekender』)はポスト・パンクっぽい感じがあったりね。
ムードマン:ミックスCDに関しては、収録している曲が新しいとか古いとかいうことではなくて、「いま」の空気がどうやっても染み込む。「いま」を封印する能力に長けてるとおもっているんです、ミックスCDという型式自体が。なので、映像で言うならば、映画というよりは、ドキュメンタリーを撮る感覚に近い感じというか。客観性の限界としての個性と言うか。
■噂では、ムードマンはいまシカゴのフットワークにハマってるっていう。
ムードマン:ああ、よく言われるんですけど、パーティでがっつりかけたのは数回です(笑)。新参者です。ハマっているということでは、ゴルジェ(GORGE)のほうがハマっているかも(笑)。まぁどちらも、ときどき、隙あらば混ぜてはいますけど、僕の場合はもともと、広義のダブとともに、広義のベース・ミュージックが好きなだけなんです。マイアミベースの頃から、ずーっと。マイアミというと、2ライヴ・クルーに端を発するお尻系のイメージが強いけれど、もっとクルマ系とか、スピーカー系とか、宇宙系とか。マイアミでもダークな系譜のトラックはいまのベース・ミュージックに近いんですよ。昔、エイヴェックスからリリースさせていただいたコンピ『インテリジェント・ベース』にも少しだけその要素は入れたんですが。
■そうだよね。フットワークって言葉が新しくなっただけで、やっていることは、シカゴ・ハウスとオールドスクール・エレクトロのアップデート版というか。
ムードマン:そのなかでも際立って、オリジナルですけどね。オールドスクール・エレクトロの系譜への関心は、もちろんずーっとあって。もっというと、その前段階の、エレクトリックなブギーからエレクトロに帰結する流れがいちばん自分のツボなんですけどね、地味だしクラブではなかなかかけるチャンスが無いんですが。先週たまたま、DJ APRILさんとか、PAISLEY PARKSのKENTさんと一緒だったんですが、彼らはストリクトリーにシカゴのストリートのフットワークをかけていて、やっぱりかっこ良かったなぁ。半端ないですよ。僕はどうしても、先人への尊敬が前提なんだけど、「あいだ」ぐらいのジュークをかけたくなってしまう(笑)。
■なに、その「あいだ」ぐらいのジュークって(笑)?
ムードマン:ジュークの影響を受けてるとおぼしき世界中の音(笑)。あるいは、単に同時多発的な、類似性を感じるビート。
■アジソン・グルーヴみたいな?
ムードマン:「あいだ」のまた「あいだ」もあるんですよ(笑)。デトロイトっぽいヤツとか、アンビエントっぽいヤツとか。同時多発的というか、近いビートでまた違った表現をしている人たちがたくさんいる。もっとR&Bっぽいとかね。オリジネイターに敬意を払いながら、その拡散というか拡大というか、そこをかけるのが僕の担当かなと思って(笑)。王道ではないですよね。
■まあそれ言ったら何が王道なのかと思うけど、DJラシャドの最近出た2枚組とか聴いた?
ムードマン:うん、聴いた。
■最高だよね。
ムードマン:最高。こないだトラックスマンが来日したときに、自分はジュークという以前にシカゴ・ハウスのDJだというような発言があったんだけど、なるほどなぁと。プレイもシカゴハウスのクラッシックを新しい観点でかけていてかっこよかったなぁ。感慨深かったです。
■そういえば、フットワークが入ってないなと思って。
ムードマン:今回は聞き心地として、平坦な感じにしたかったの。フットワークは自分的にまだまだ完全に消化できてはいないので、平坦にできないのです(笑)。
■ピッチが合うの?
ムードマン:ピッチの面では、たぶん、やりようはある......はず(笑)。
■あの辺、本当に面白いよね。聴いててワクワクするよ。
ムードマン:僕がいちばん好きなのは、スネアの音が優しいところ。中音から上が良いんですよ。
■えー、そう? アグレッシヴな感じあるじゃん。
ムードマン:いや、フットワークって、ベース・ミュージックのなかでは非常に高音が優しくなっている。もちろんきついの一発入れてくるパターンもあるけど、シカゴハウスの系譜のなかでは、とくにスネアの鳴りが希有ですよ。
■なるほどね。
ムードマン:昔、マイアミ・ベースにハマった頃、よくローライダーが集まるモーターショーに行ってたんですよ。会場の一角に、ウーファーを何十個も積んだクルマが死ぬほど並んでいてね、けっこう遠くから、低音の固まりを感じるんです。で、近づいていくとベースの沼というか、低音が身の回りをぼわーっと包んでいて、高音は蚊の鳴くような音で、小さく鳴っている感じなんですね。ああいう感じが好きなんです。そういう音の配置っていうのかな。レゲエのサウンドシステムでも好きなのは、上(高音)が天の声のように微かに聞こえる感じ。つま先から首ぐらいまでが低音で、低音浴というか、いい湯加減のベースにずっと包まれている感じ。そのポテンシャルがあるベースミュージックが本来的には好きですね。
■なるほどね。フットワークにしてもダブステップ系にしても、ミニマルやダブにしても、ここ数年で、ダンス・ミュージックがまた更新された感じがあって。
ムードマン:全部、続いているんですけどね、急に変わった訳ではなくて。さっきのインテリジェント・テクノのオリジネーターの話じゃないけど、新しいムーヴメントだけではないんです。例えば、ディープなヴォーカルハウスも地味ながらアップデートされていたり。バズの起こりようがないので、話題になりにくいだけなんです。なんというか、いまの「更新された」っぽい空気って、新しい音楽のリリースの形態、流れが整ってきたことも大きいのかもしれないですね。
■ミックスCDを「平坦な感じ」にしたかったっていうのは何で?
ムードマン:これは僕の習性なんだけど、ミックスCDって、なんかしながら聴くでしょ。
■「さあ、聴くか!」っていうよりも、家で、なんとなくかけるって感じだよね。
ムードマン:だから、一定のテンションが保たれているものの方が、個人的には使用頻度が高いんです(笑)。
■実用性を考えればそうだね。
ムードマン:そう、テンションは一定しているんだけど、ふと気がつくと変な音が入っているみたいな。「あれ?」っこんな曲、入ってたっけ?とか。そのくらいの変化を、小出しにまぶしているものが好きなんです。主張せず、引っ込みもせず。甘からず、辛からず、美味からず(笑)。だから、過去の2作もそうなんですけど、キーとか、ヤマは、作らないんです。
■そうだね。
ムードマン:自分がよく聴くのが、そういうものなだけなのですが。どの曲も他の曲を引っ張らない感じ。ムード音楽志向なんですかね、やっぱり。ゆきゆきてディープ・ハウスというか。
■貫禄だね(笑)。
ムードマン:本当はもっと出したいんですけどね、ミックスCD(笑)。いろんなスタイルで出したい。
■でも、今回3枚同時発売されたけど、3枚とも面白かったな。ダンス・ミュージックがいま面白いんだなってよくわかる感じで。
ムードマン:3枚とも、キャラクターが出ましたよね。Nobuくん、Shhhhhくんと一緒に出せて、良かったな。
■Nobu君のが尖ってて、Shhhhh君は、ワールドな感覚を捉えていて、ムードマンのが安定感があるっていうね。
ムードマン:今度は、ゴルジェ(GORGE)で1枚作りたいな(笑)。やらせてくれないかな。
■最近はDJはどんなペースでやってるの?
ムードマン:週に2回ぐらいかな。
■それは己の体力の限界に挑戦しているの(笑)。
ムードマン:いや、単純に音が聴きたくなるんですよ。でかい音で。結局、DJやってなくても遊びに行ってしまうから(笑)。同じなんですよ、体力的には。しかも、ふだん音楽をずーっと聴いているから、曲のかけ方なんかも考えてしまったりして。もともと分裂気味なので、いろんな方がDJで呼んでくれるのでホントありがたいです。
あと、僕は毎回、オーガナイザーからお題をもらうんです。今回は、こんな感じでお願いします。はい、がんばります。という感じで。結果、毎週のように悩んでいるけど、それが楽しいんですよ(笑)。大喜利というか、ボケ防止にはいいですよ。
■最近は、若い子のあいだで、ムードマン・スタイルがスタンダードになっちゃってるんだよ。働きながら音楽やるっていうのが(笑)。
ムードマン:ちゃんとかどうかは分からないけど、海外の人にとってはそれが普通ですよ(笑)。よく両立していられるねって言われるんだけど、そういうことでもなくて。僕の場合は、一生のうちどれだけ音楽を聴けるかっていうことが一番大きくて、あとはどうでもいい。どうでもいいというほど、破天荒なキャラじゃないですけど(笑)。ライフ・イズ・ワンスですから。
■最初からそこは思ってないもんね。
ムードマン:まず聴きたいんですよ。その代価として身銭を切る。データでも同じ。
■そこは作り手へのリスペクトでしょ?
ムードマン:そう。作り手がもっと作れるように。芸で食うべき人が芸で食えることが大切。で、僕はただとにかく、聴きたいんですよね(笑)。音楽のかけ方に関しては、自分のスタイルがどうこうではなくて、そうやって自分が聴いた曲を、どうやったら他人によく聴かせられるか......なんですよね。
■しかしムードマンもいい歳だから、いままでのように突っ走り続けられない領域に近づいてきているよ。
ムードマン:もう、そうなってますよ(笑)。
■週2でもすごいよ。
ムードマン:なので、普段、気がつかれないように、ぼーっとしてますよ(笑)。リビング・デッドですよ。トオルさんとかノリさんとかワダさんをずーっと見てきて、いつまでも若い衆気取りでいたけど。野田さんにずいぶん前に「いずれ来るよ」って言われてた通りに来てますよ(笑)。
■ムードマンが最初にDJをやったのって?
ムードマン:10代の後半。ちゃんとしたところでは、〈ZOO〉が初めてだったと思います。
■そのときは何をかけたの?
ムードマン:〈ON-U〉(笑)。当時は面白い音楽を聴くためには、クラブに潜入するしかなかったんですよ。毎日のように、日常では耳にできない音楽がかかっていた。スカ、カリプソから、テクノまで。で、出会った音楽を少しずつ集め始めたんですね。最初は、友だちの主宰する身内のパーティだったんですよね。レコードもってそうだから出てという感じで。〈ON-U〉ばっかりかけてたら、店長から「良いねー」みたいに言われて、調子にのったという。
■俺、ムードマンがまだ大学生だった頃に家まで行って取材したじゃん。あのとき、レコードは家にたくさんあったけど、まだ部屋にDJ機材とかなかったような気がするもん。
ムードマン:あのときは、ボロボロの家具調ステレオしかなかったかも。あのずいぶん後ですね、DJの機材を買ったのは。つなぎとかは、ミックスとかは、当時、働いていたお店のオープン前の時間を使わせてもらったりして練習しましたね。
■いま、25年ぐらい?
ムードマン:そうです。好きだと言うだけで来てしまったというか、正直、こんなに長くやれてると思ってなかったです(笑)。
■レコードどうしてる?
ムードマン:カミさんのレコードも加わったので、XX万枚ぐらいかな......。
■ハハハハ、それ酷いね。
ムードマン:7インチが多いんで、場所はとらないんですけど....嘘、食卓の周囲以外は、音盤です(笑)。
■ジャンルで言うと?
ムードマン:いや、もういろいろ。ここのところは50年代の音源を探ってることが多いですかね。どんなジャンルでも、例えばジャケットの裏を見て、面白い楽器の編成だとつい買っちゃうんですよね。そもそも、シンセものも、リズムボックスものも、その観点で好きなんです。
■編成?
ムードマン:3ピースなのにアコーディオンが入っていたり。アレンジが面白いものが好きなんですかね。今回の選曲にも結局、その要素は出ているかもしれないです。地味なんだけどひと癖あるものっていうか。大衆小説でいうところの「奇妙な味」というやつです。
■はははは、そうだよね。それ、〈ON-U〉にはじまっているのかもね(笑)。ところでさ、〈ダブスレストラン〉のコンピレーションを再発したいんだけど、ライセンスしてもらえない? 聴きたい人は多いと思うんだよ。
ムードマン:赤岩君と連絡が取れればいいんだけど......僕だけがやっていた訳ではないので。ちょうど、20年前ですよね。当時、〈ダブスレストラン〉に送られてきたデモテープは、ぜんぶ取ってあるんですよ。段ボール、数箱分かな。いま聴いても、どれもクオリティ高いし、面白いんですよ。
なにが面白いかというと、ガチリアルな、ベッドルーム・テクノの音源というか。明確なフロアが無かった時代に、みんなが仮想のフロアを夢想して制作したクラブ・ミュージックである点です。ありえたかもしれない90年代。メタフィクションですよね。いずれなんかのカタチで公の場で共有できればと思っているんだけど、さすがに当時の作り手は、もういい大人だろうし、住所も違っているだろうし、連絡付けようがないだろうからな。海外の音源を買うよりも、送られてくるデモテープの方が面白かったんですよ、当時。あの時代でしか生まれなかった、すごく良い音がたくさん眠ってるんですよ。聴いてみたいでしょ。
■むちゃくちゃ聴いてみたいから出そうよ。
取材:野田 努





















