Home > Reviews > Album Reviews > Sweatson Klank- You, Me, Temporary
ラパラックスほどドリーミーではなく、ライほどトレンディでもなく、インクほど洗練されてはいないが、スウェットソン・クランクのアルバム『ユー、ミー・テンポラリー』も良いアルバムだ。ロサンジェルスのベテランのビートメイカー、テイクによる作品だが、レーベルはベルリンの〈プロジェクト・ムーンサークル〉、90年代で喩えるなら、あの頃の〈ニンジャ・チューン〉や〈モワックス〉の現代版的な展開をしているレーベルである。
このところ家では、ラパラックス、ライ、インクといった最近のダウンテンポをよく聴いていたので、馴染みやすいというのもあるが、スウェットソン・クランクはそのなかではヒップホップ寄りだ。アルト・ジェイをブラック・ミュージックにぐいと寄せた感じというか、ちょうど同時期にリリースされたロンドンの〈ディープ・メディ〉からの新作、A/T/O/Sの「A Taste Of Struggle」とも似ている。
言うなれば、これは、ダブステップ時代を通過したマッシヴ・アタックだ。ひと昔前なら、トリップホップと呼ばれていただろうが、ロック臭はなく、ジャズとファンクとダブが良い感じに匂っている。ライを持ち出すように、チルウェイヴ以後のネオ・ソウルやチル&ビーとも重なるけれど、職人の作ったビートはひと味違う。
アルバムにはヴィクター・デュプレ(かつてキング・ブリットと一緒に活躍した)のようなベテラン歌手、グラスゴーのハドソン・モホーク一派の〈ラッキーミー〉からデビューしているアンゴ、グライムスとも共作しているノース・カロライナのラッパー、デニーロ・ファラーといった世代も国も違う連中が参加している。
ヴァイナルは3枚組で、3枚目の盤はインスト集なのだが、これがまた良い。この音楽も、ブリアルとザ・XXからはじまったここ数年の流れに位置づけられるだろう。真夜中で、恍惚としていて、あたかも、世界の傍観者たる彼女たちを賞揚するようじゃないか。僕は足早に会場を離れて、家に帰るための電車を待っている。早く家に着いて、音楽を聴きたい。今夜は何を聴こう。ライか、ラパラックスか、いや、ひとりで過ごすなら、スウェットソン・クランクでしょう(値段も安いので、アナログ盤がオススメ)。
野田 努