「W K」と一致するもの

bar italia - ele-king

 当初は正体不明の謎めいたバンドとして登場してきたロンドンのバー・イタリア。ディーン・ブラントが自身のレーベルから送り出したという点でも注目しないわけにはいかない彼らだが、その後〈Matador〉からのリリースで徐々に顔を見せていくようになる。昨年は『Tracey Denim』『The Twits』と2枚もアルバムを発表、高評価を受けたことは記憶に新しい。さまざまなロックへのオマージュやパスティーシュによって織りなされるその魅力的なサウンドから、「いまいちばんイケてるバンド」なんて声もあったり。初来日公演は5月29日@渋谷WWWX。そなえましょう。

bar italia

伝説を目撃せよ!!!
ロンドンの最注目新人バンド、
バー・イタリアの初来日公演が
遂に決定!

噂のbar italiaがとうとう日本にやって来る!
奇才ディーン・ブラントのレーベル〈World Music〉から2枚のアルバムリリースを経て、ロンドンで最もエキサイティングなバンドとして大注目を浴びる中、昨年2023年3月に〈Matador Records〉と電撃契約を発表、その後は怒涛のように1年に2枚のアルバム『Tracey Denim』を5月に、『The Twits』を11月にリリース、英CRACK誌の表紙を飾り、異例とも言えるヴォリュームで大特集され、年末には多くの主要年間アルバムチャートに選出されるなど大きな注目を集めた。ここ日本でも、インディーズ音楽の発信源として世界中から支持を集め、多くの海外アーティスト達も訪れるBIG LOVE RECORDSの年間アルバムチャートの第1位を獲得した。

メンバーは、アート界隈でも活躍してきたイタリア人女性ニーナ・クリスタンテと、ヴィーガン(Vegyn)のレーベル〈PLZ Make It Ruins〉から作品をリリースしていたダブル・ヴァーゴとしての活動でも知られるサウス・ロンドン拠点のジェズミ・タリック・フェフミとサム・フェントンの3人、そしてベースとドラマーを加えた5ピースバンドでライブを行って来た。2022年以降、彼らは自身のヘッドライン公演に加え、ピッチフォーク・ミュージック・フェスティヴァル、コーチェラをはじめ多くのフェスからも引っ張りダコで、世界中のインディ・リスナーから大きな注目を集めている。そんな彼らの一夜限りの初来日公演! これは見逃し厳禁だ!

【bar italia 来日公演】
bar italia
SUPPORT ACT: TBC

2024.05.29 (WED)
渋谷 WWWX
OPEN:18:00 / START:19:00
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13898

【TICKETS】
前売¥7,200(税込/オールスタンディング)
※別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可

先行販売
●BEATINK主催者先行:2/8 (thu) 10:00~
[https://beatink.zaiko.io/e/baritalia]
※先着/Eチケットのみ
●イープラス・プレイガイド最速先行受付:2/10 (sat) 10:00~2/14 (wed) 23:59
[https://eplus.jp/baritalia/]

一般発売:2/23 (fri) 10:00~
●イープラス [https://eplus.jp/baritalia/]
●ローソンチケット
●BEATINK [https://beatink.zaiko.io/e/baritalia]

企画・制作 BEATINK: http://www.beatink.com/
INFO BEATINK: http://www.beatink.com/ E-mail: info@beatink.com

label: Matador / Beat Records
artist: bar italia
title: The Twits
release date: Now On Sale

Beatink.com:
https://beatink.com/products/detail.php?product_id=13700

tracklist
01. my little tony
02. Real house wibes (desperate house vibes)
03. twist
04. worlds greatest emoter
05. calm down with me
06. Shoo
07. que suprise
08. Hi fiver
09. Brush w Faith
10. glory hunter
11. sounds like you had to be there
12. Jelsy
13. bibs

label: Matador / Beat Records
artist: bar italia
title: Tracey Denim
release date: Now On Sale

CD:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13377
LP:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13378

tracklist
01. guard
02. Nurse!
03. punkt
04. my kiss era
05. F.O.B
06. Missus Morality
07. yes i have eaten so many lemons yes i am so bitte
08. changer
09. Horsey Girl Rider
10. NOCD
11. best in show
12. Clark
13. harpee
14. Friends
15. maddington

ザ・ビートルズ vs ジェームズ・ボンド - ele-king

お決まりの美辞麗句に飽き飽きしている大人のための
読み応えたっぷりの、ビートルズ/ジェームズ・ボンドの物語

21世紀の現在も圧倒的な人気と影響力をほこる、
20世紀のイギリスが生んだ二大ポップ・カルチャーを挑発的に描き、
英各メディアから絶賛された、画期的なノンフィクション

1962年10月5日、まったく同じ日にビートルズのデビュー・シングルは店頭に並び、007シリーズの映画一作目『ドクター・ノオ』が封切られた。まったく同じ日に登場した英ポップ・カルチャーの二大巨頭は、かたや「愛」、かたや「殺しのライセンス」、かたや「労働者階級」、かたや「上流階級の作者によるフィクション」、かたや「モップヘアー」にかたや「七三分け」、何から何まで正反対だった……しかし意外なことに、この両者は交わってもいた。

ボンドとビートルズが、階級、特権、暴力、男らしさ、英国人らしさに対する異なる態度を体現していることは明らかだ。しかし、ヒッグスはさらに踏み込んで、彼らがある種の永続的な「(英国)文化の魂をめぐる闘争」に従事していると主張したいのだ。
──『ガーディアン』書評より

A5判/ソフトカバー/592頁

目次

第一部 秒読みを開始せよ
一九四五 雨の日には話し相手もいない
一九五二 自身のうちなる闇のすべて
一九五六 成長を見守ることができていたなら
一九六〇 悪名高き娼婦の聖地
一九六一 恥も外聞もなく快楽と金のため
一九六一 積載過剰

第二部 爆轟させよ
一九六二 ビートルズよりすごいんじゃね?
一九六二 ショーン・コネリー(一九三〇~二〇二〇)
一九六三 真理があの叫びにひそんでいた
一九六四 イアン・フレミング(一九〇八~一九六四)
一九六四 四人の長髪の間抜け野郎どもの映画
一九六五 ほかのすべてをもろとも吹き飛ばして
一九六五 ジェームズ・ボンドほどすごくはない
一九六五 部分の総和以上のもの
一九六五 すべてはイングランドのため
一九六七 ではなにを伝えればいいか
一九六七 現実よりもさらなる広がり
一九六七 007(シャンティ・タウン)
一九六七 呪術でこっちを支配しようと
一九六八 ガンジス河のほとり
一九六八 ヨーコとビリー
一九六九 ジョンとポールとジェームズの結婚
一九六九 ジョージ・レーゼンビーの髪型
一九六九 ポールはもう死んでいる

第三部 余波
一九七〇 答え:ノーだ
一九七〇 「マザー」か「ラヴ」か
一九七〇 最高
一九七〇 フィルとアラン
一九七〇 愛が素敵だなんてたわごとは否定しなければ
一九七三 クリストファー・リー(一九二二~二〇一五)
一九七三 問題はボンド
一九七四 イン・ザ・マテリアル・ワールド
一九七七 娯楽のため命の危険さえ顧みなかった
一九八〇 無印
一九八〇 ジョン・レノン(一九四〇~一九八〇)
一九八一 真の芸術家にとっては生き様こそが作品

第四部 成長せよ、007
一九八三 自由主義世界の本物の価値の象徴
一九八四 真っ赤なお顔でグッジョブサイン
一九九五 いい時間があまりにも続き過ぎ
一九九九 デスモンド・リュウェリン(一九一四~一九九九)
二〇〇一 ジョージ・ハリスン(一九四三~二〇〇一)
二〇〇二 画素たちがそれからどうなろうと
二〇〇三 ほらプーチンさんも御一緒に
二〇〇八 ストロベリー・フィールズの死に様
二〇一二 一つの目的を目指す共通テーマ
二〇一五 世界の新たなる巨悪とは
二〇二一 死んでいる暇
二〇二一 リンゴとポール
二〇二二 次回作でお会いしましょう

著者 ジョン・ヒッグス/John Higgs
イギリスの作家、小説家、ジャーナリスト、文化史家。1971年ラグビー生まれ。テレビ番組のディレクターを経て作家になる。とくに有名なのは、2013年の『The KLF ハウス・ミュージック伝説のユニットはなぜ100万ポンドを燃やすにいたったのか』(中島由華訳/河出書房新社)、2016年の『人類の意識を変えた20世紀:アインシュタインからスーパーマリオ、ポストモダンまで』(梶山あゆみ訳/インターシフト刊行)。未訳だが、詩人ウィリアム・ブレイクを論じた2019年の『William Blake Now: Why He Matters More Than Ever』も賞賛されている。『ガーディアン』『インディペンデント』『デイリー・ミラー』といった新聞、音楽誌では『モジョ』にも寄稿。本書『ザ・ビートルズvsジェームズ・ボンド(原題:Love and Let Die: Bond, The Beatles and the British Psyche)』は、2022年にWeidenfeld & Nicolson社から刊行され、大いに絶賛された。現在ヒッグスは、ブライトンで家族と暮らしている。

訳者 浅倉卓弥/Takuya Asakura
作家・翻訳家。東京大学文学部卒。レコード会社洋楽部ディレクター等を経て作家に。著書に『四日間の奇蹟』、『君の名残を』(以上宝島社)、『黄蝶舞う』(PHP研究所)ほか、訳書に『安アパートのディスコクイーン――トレイシー・ソーン自伝』、『フェイス・イット――デボラ・ハリー自伝』(以上ele-king books)、マット・ヘイグ『ミッドナイト・ライブラリー』(ハーパーコリンズジャパン)、テイラー・ジェンキンス・リード『デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃』(左右社)など多数。

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claire rousay - ele-king

 ここ数年の注目すべきエクスペリメンタル・ミュージック~アンビエント作家のひとり、テキサスはサンアントニオのクレア・ラウジーが新たなアルバムを発表する。今回のリリース元は〈Thrill Jockey〉だ。『sentiment』と題されたそれは4月19日発売。収録曲 “head” が本日2月6日(火)より配信されています。日本盤CDには完全未発表のボーナス・トラック2曲が追加収録されるそうなので、さあフィジカルを買おう。

EMO AMBIENTの旗手にして歌姫、クレア・ラウジーが、驚くべきアルバムを提げて、遂に日本デビューを果たす。
風景と日常、響きと調べ、知性と情動、ポップ・ミュージックは、ここまでたどり着いた。
間違いなく本作は2024年最高の話題作になるだろう。
全感覚を押し拡げて聴いてほしい。
──佐々木敦

現在、米LAを拠点に活動するアーティスト・ミュージシャンで、エクスペリメンタル・ミュージック(実験音楽)やアンビエント・ミュージックの既成概念に挑戦することで知られているclaire rousay(クレア・ラウジー)が、米シカゴの老舗インディー・レーベルThrill Jcckeyに移籍し、機械的にエフェクトされたヴォーカルとギター演奏を大胆に取り入れ、claire rousay流ポップ・ソングに果敢に挑んだ、(しかし、これまでの彼女の作品とも確実に地続きな)驚きの最新アルバム『sentiment』(センチメント)を4月19日(金)に発表することが決定しました。
アンビエンスを意識した現代的なフォーキー感覚やヴァイオリンをフィーチャーしたメランコリックなメロディーが全体的に流れ、フィールドレコーディングが印象的に散りばめられ、ドローンやミニマル・サウンドも効果的に登場する、エレメンツのバランス感覚が圧倒的に素晴らしい、あるようで無かった革新的なマスターピースとなっています。
日本盤CD(THRILL-JP 59 / HEADZ 263)も、完全未発表の2曲のボーナス・トラックを追加収録して、同時発売する予定です。
このアルバムのリリースに先行し、ファースト・シングルとしてアルバムの2曲目に収録されている「head」(ヘッド)が2月6日(火)より(日本を含む)全世界同時にデジタル配信されます。

アーティスト:claire rousay(クレア・ラウジー)
アルバム・タイトル:『sentiment』(センチメント)
企画番号:THRILL-JP 59 / HEADZ 263
価格(CD):2,200円+税(定価:2,420円)
発売日:2024年4月19日(金)
フォーマット:CD / Digital
バーコード:4582561400988

01. 4pm
02. head
03. it could be anything
04. askin for it
05. iii
06. lover's spit plays in the background
07. sycamore skylight
08. please 5 more minutes (feat. Lala Lala)
09. w sunset blvd
10. ily2 (feat. Hand Habits)
11. ruby
12. shameful twist

tracks 11, 12 …日本盤のみのボーナス・トラック

♯2:誰がために音楽は鳴る - ele-king

 平日の朝の9時台の渋谷行きの電車のなかといえば、そりゃあもう、その1時間前よりは空いているため多少はマシだが、それでもまだ混んだ車内は最悪な雰囲気で、ゲームやメルカリやYouTubeやなんかで時間を潰す勤め人や学生、座席に隙間なくそれでも眉間に皺を寄せた人たちは居心地悪そうに座り、たまにいびきをかいている輩もいると。まあ早い話、幸せとは思えないような人たちでいっぱいだ。だからそんななか、音楽を聴きながらステップを踏んでかすかとはいえ歌まで歌っているうら若き女性がいたら、周囲が視線を寄せるのも無理はない。ただし、そう、怪訝な目で。
 たまたま偶然、彼女はぼくのすぐ前にいた。電車が動いているうちはまだいいが、停車し、ほんの数十秒の静けさが車内に訪れると彼女が歌っているのがはっきりとわかる。聞こえた人はそこで「ん?」と思う。ドアが閉まり、電車ががーっと音を立ててまた走りだすと人びとは手元のスマホの画面に視線を戻す。そして次の駅で停まり、やかましいアナウンスが消えた瞬間、ふたたび彼女の歌が聞こえる。よく見ればその身体はリズミックに動いている、いや、踊っている。目は遠くを見つめ、輝いている。その両耳に突っ込まれたイヤフォンのコードは、彼女の首からぶら下がっているiPhoneに繋がっている。
 ぼくは視線を下方に移動し、目を細め、画面を見ようとする。どんな音楽が地獄行きの車内で、かようにもひとりの女性をキラキラさせるのか、音楽メディアに携わる身として興味があった。ところがしかし、彼女の腰のあたりで揺れている小さなコンピュータは、ぼくの位置からはちょうど垂直に傾いている。そうこうしているうちに電車は終点の渋谷に近づいていく。

 音楽が「私たち(we)」の音楽であることは素晴らしいとされている。「私たち」「コミュニティ」、あー、またか、またその話か。音楽の価値を主張するうえで、この手の社会学的な論調はなんども繰り返されている。まあ、ほんの一時期のレイヴ・カルチャーにはその美しさがあったのかもしれないけれど、だからといって、音楽が「私」の音楽であることが、すなわち個人的な体験であることが悪いということなど……まったくない。
 ことにイヤフォンやヘッドフォンで聴くことのほうが当たり前のこんにちでは、それを取り巻く環境からいっても音楽はおうおうにして「私」の音楽だ。この場合の主語たる「音楽」は、自分のセンスに合う折々の音楽であろう。が、そうではなく、否応なしにそれが「私」の音楽である場合がある。たとえばひとが「悲しみ」に打ちのめされたとき、「私」の音楽はよすがになりうるだろう。
 「悲しみ」、これもまたよく使う言葉だ。シニカルになるひとがいたとしても、ぼくは責めない。ぼく自身も長いあいだそういうところがあった。だが、もう心をあらためた。ニック・ケイヴは昨年の『ニューヨーク・タイムス』のインタヴューでこう話している。「人生とは安定したものでも頼りになるものでもない」
 「悲しみ」は誰の身にも降りかかるだろうし、人生において逃れることのできない経験のひとつだ。地震災害のようなこともあれば、ニック・ケイヴのように家族の急死ということもある。「悲しみ」は、人生を生きていけばいくほど経験する確率が上がるのはたしかだ。スリーター・キニーという、90年代のライオット・ガール時代の最後のほうに登場した女性パンク・バンドが近頃出したアルバム『Little Rope』は、メンバーのひとりが、自動車事故で母親と継父を亡くすという悲劇を経て制作された最初のアルバムで、作中には「悲しみと喪失感」が貫かれている。ぼくは、シリアスな「悲しみ」の音楽があることに感謝する。こうした音楽を心底必要とするときが、おそらく、人は生きていれば訪れる可能性が高い。
 ぼくには、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの2019年のアルバム『Ghosteen』の良さがさっぱりわからなかった。ケイヴが、ウォーレン・エリスという唯一無二の天才的な音楽家といっしょに、15歳の息子を亡くしたことの悲しみと救済を言葉とサウンドで表現したスピリチュアルな作品、それ以上の言葉はなかった。が、いまは事情があって、ひょっとしたらその核心に少しは近づけるかもしれない、と思ったりもしている。先に紹介した『ニューヨーク・タイムス』の記事は、取材者もまた不慮の事故によって夫を亡くしているためケイヴの心に寄り添いながらの取材となり、ふたりは「悲しみ」という感情についてとことん掘り下げている。(英語には「悲しみ」がよく使われる言葉だけでも「grief、sadness、sorrow」と3種類あり、日本語変換するとすべてが「悲しみ」になるが、それぞれ微妙に意味が違う)
 「悲しみ(grief)はほとんど原子レヴェルで私たちを完全に変えてしまうという点で、並外れた能力を持っている」と記事のなかでケイヴはいう。「grief」とは激しい苦痛をともなう「悲しみ」を意味するが、ケイヴはその「感情」を正視し、悲しみについて書く方法を学んでいった。「私は悲しみのどん底にいた。その空間では、ありとあらゆることが可能だと思えた。私はそうした感情をまったく否定していない。私はそれを不可能領域と呼んでいるが、それは想像力ではなく、想像力に隣接し、死にも近接している」
 「悲しみ(grief)」のどん底にいる人間にとって音楽はほとんど無力だ。とはいえ、弱った心をふたたび立たせるためにはなにか杖のようなものが必要で、音楽はその杖になりうる。ぼくには心の杖が必要だった。ぼくにとっての杖は歌だった。自分のなかから聞こえてくる歌。曲名は明かさないが、日本に住んでいたら誰もが知っているような、それは超有名なポップ・ソングだった。

 NHKの朝ドラ『ブギウギ』に出てくる菊地凛子が格好いいと、年明けに三田(格)さんに教えてもらってからずっと見ている。はからずともぼくは、昨年は松山晋也さんに教えてもらったアイルランドのフォーク・バンド、ランクムに心酔したあまり、自分なりに歌を研究していたのである。歌は、政治的にも歴史的にも文化的にもいろいろあるが、少なくともロックあるいはブルースやソウルに親しんできている我々にとっての歌とは、おおよそにおいて、たとえば賛美歌(hymn)や歌劇、雅楽の歌物のように制度のなかで保存されてこなかった、名も無き民衆たち(正確な意味においてのfolks)の口承文化すなわち民謡の派生系としてある。歌はこれまでも気が遠くなるほどの長い年月のなかで、気が遠くなるほどのたくさんの人たちの心を癒やしてきたのだろう。

 その日もぼくは『ブギウギ』を見てから家を出た。いま自分の目の前では、黒やグレーの疲れた東京人のなかでカラフルな服をまとった若者がひとり、ウキウキしている。そして、もうすぐ渋谷に到着しようとするとき、電車が揺れ、彼女のスマホも揺れ、そしてぼくはついにその画面を見ることができたのである。いっしゅんのことで曲名はわからなかったが、アーティスト名ははっきりと認識できた。Coldplay。
 だからといってぼくがColdplayを聴くことはないだろう。バンドのファンのみんなが、あるいはその多くの人たちが朝の通勤電車のなかで歌って踊っているとは考えにくいからだ。それでも、Coldplayの曲がもっともオルタナティヴな行為の触媒となっていたことは隠しようのない事実だ。あるいは「悲しみのどん底にいた」自分のなかに、ニック・ケイヴがいう「原子レヴェル」での変化がおきてしまっていたと、そういうことなのだろうか。とにかくぼくは、芥川龍之介の「蜜柑」とはまったく別種と思われる晴れ晴れしさを、そのときの彼女から感じ取ったのである。ありがとうColdplay、いや、それは違うな、お礼をいうのは彼女に対してだ。

R.I.P. Wayne Kramer(1948 - 2024) - ele-king

 ぼくの世代でMC5といえば、たとえばザ・KLFの大ヒット曲 “What Time is Love” でサンプリングされた “Kick Out the Jams” の冒頭のMCだったりする。「キック・アウト・ザ・ジャムス、マザーフ**カー!」。もっともこれは、ザ・KLFの前身ザ・JAMsにひっかけた洒落でもあるわけだが、それはそれとて、このフレーズが60年代カウンター・カルチャーのもっとも威勢が良く、もっともぶっ飛んで、もっとも有名な掛け声であることは間違いない。だいたいこれは、音楽史上最初に録音された「マザーフ**カー」であり 「フ**ク」であるという名誉から、リリースからしばらくして問題の部分は「ブラザーズ&シスターズ」に差し替えられている。いまspotifyでアルバムを聴いたらそっくりそこがカットされていた。「キック・アウト・ザ・ジャムス、マザーフ★★カー!」、もともとは「いつまでもジャムってんじゃねぇよ」という意味だったが、当時のオーディエンスがこれを「邪魔物を蹴散らせようぜ、クソ野郎ども」と解釈し、転じて「好き勝手やったるぜい」という革命の合言葉になったのだ。

 1948年、デトロイトの労働者階級(電気技師の父と美容師の母のあいだ)に生まれたウェイン・クレイマーが10代で友人となったギタリスト仲間のフレッド・"ソニック"・スミスといっしょに、ロックンロールとブルースとフリー・ジャズの影響を受けたバンド、モーターシティ5すなわちMC5を結成したのは1965年のことだった。マネージャーはホワイト・パンサー党の党首にして反体制の申し子、大麻解禁論の先駆者ジョン・シンクレア、ウェイン州立大学でのMC5とサン・ラーのジョイント・コンサートを企画したあの男である。
 いまとなってはMC5は、作品よりもバンドを取り巻く物語のほうが有名なバンドのひとつになっているのかもしれない。同じ時代のデトロイトの、史上もっとも素晴らしいロック・バンドのひとつに数えられるザ・ストゥージズと違って彼らは政治的だったし、売れなかったし、リアルタイムではあまり評価もされなかったようだし、クレイマーにいたってはドラッグの売買に手を染め5年ほど刑務所のお世話になったりとか、とてもじゃないが順風満帆な生涯とはいえなかった。だが、庶民の怒りに火を付けるような扇動的なそのギター・サウンドには、ザ・ストゥージズとは違った魅力があったのもたしかだ。それに「キック・アウト・ザ・ジャムス、マザーフ**カー!」、これこそ本来のアナキズム宣言である。ようするに、「俺たちは支配されない権利を主張する」とこのバンドは高々と言ったのだ。そして、こんな連中が愛されないほど世界はまだ冷めていない。プライマル・スクリームがセカンド・アルバムでエミュレートさせたMC5、2008年にはメルトダウン・フェスティヴァルで共演し、そのライヴ盤(『Black To Comm』)も出しているのだからほんとうに好きだったのだろう。他にもある。デイヴィッド・ボウイの “Cygnet Committee” で「キック・アウト・ザ・ジャムス」が歌われていることや、ザ・クラッシュの “Jail Guitar Doors” (シングル「Clash City Rockers」のB面曲)がウェイン・クレイマーのことを歌っていることをぼくが知ったのは、もう、ずっとずっと後のことだった。

 ロック通のなかには1970年のセカンド・アルバム『Back in the USA』のほうが良いという意見もあるが(ニック・ロウ、モーターヘッドはこのアルバムを賞賛している)、ぼくはMC5の傑作は1968年のデビュー・アルバム『Kick Out the Jams』だと思っている多数派のひとりだ。アルバムを聴いていると燃えてくるし、安ウィスキーの力も加われれば暴動を起こそうという気持ちにだってなるかもしれない。MC5にとってのサイケデリックとはひとりで夢想することではなく、書を捨て街に出ることで、羽目を外し、生きたいように生きることことだった。あの轟音ノイズ・ギターは、やったるぞぉぉ、うぉぉぉという雄叫びだったし、しかも、うぉぉぉ、くそったれ、好きなようにやったるぜい、というだけのアルバムでもなかった。ここにはデトロイト出身のブルースマン、ジョン・リー・フッカーも歌った(60年代デトロイトの暴動に関する)戦闘的なブルース曲 “Motor City is Burning” もあれば、アルバムの最後にはサン・ラーのカヴァー曲 “Starship”もある。ロックにおける極めて初期形態の雑食性が萌芽しているのだ。ファンカデリックがその初期において影響を受けないわけがない。デトロイト・テクノ繋がりをいえば、ポール・ランドルフ(いちおうデビュー・シングルは〈プラネットE〉、デビュー・アルバムはムーディーマンの〈マホガニー〉というベーシスト)が、デトロイトが生んだもうひとりのロックの最重要人物、アリス・クーパーの2021年のアルバム『Detroit Stories』にてウェイン・クレイマーとほとんどの曲で共演している。またクレイマーは、収監中の人びとに楽器と指導を提供する非営利団体〈ジェイル・ギター・ドアーズUSA〉のエグゼクティヴ・プロデューサーとしても活動していた。彼が故郷デトロイトへの愛情を忘れたことはなく、2002年にエミネムの半自伝的映画『8 Mile』を観たときには、 「これは俺の息子だ!」と反応したという。
 まったく聴いたことのない人は、まずは“Kick Out the Jams”のオリジナル・ヴァージョンを大・大・大音量で聴くこと(できればスピーカーで、近所迷惑になるくらいの音量で)。もう1曲選ぶとしたら、ぼくはプライマル・スクリームとの共演でも演奏している、アルバム未収録のガレージ・ブルース・ロック “Black To Comm” (ベスト盤に収録)を挙げたい。

 偉大なるウェイン・クレイマー、2月2日に膵臓癌のため逝去。文字通りの激動の75年の生涯、ほんとうにお疲れ様でしたと言いたい。

ALCI & snuc - ele-king

 東海地方を拠点に全国各地を飛び回り活躍するラッパー、ALCIとDJ/ビートメイカー、snucの11曲入りの共作の主題は明確──レゲエ/ダブとヒップホップの融合だ。アフロの要素を散りばめつつ、ルーツ・レゲエあるいはナイヤビンギ、UKのダブを、ある意味では忠実に吸収して表現している。レゲエとヒップホップという組み合わせ自体はいつの時代もつねにいろんな形であるものだが、彼らのルーツとなる音楽へのストレートな向き合い方が本作の最大の魅力で、それがラップの力強さとメッセージを際立たせている。

 1989年にブラジルで生まれ、日本で育ったALCIは、特定のビートメイカーとがっぷり四つで組んだソロ・アルバムをすでに3枚発表している。エレクトリック・ピアノの音を多用しジャズを基調としたISAZとのファースト『365』(2018)、すべての曲でブラジル音楽をサンプリングしたUNIBALANCEとのセカンド『獏-BAKU-』(2020年)、任侠映画めいたサントラ、ハードなジャズ・ドラム、〈モータウン〉の名曲などを用いて物語の起伏を作り出したMr蓮との『TOKAI KENBUNROKU』(2022)だ。また、兄のBRUNOとのラップ・デュオ=日系兄弟として、『ESTA EM CASA』(2015)をはじめ、『くだまく旅の途中』(2015)、『RIVERSIDE GYPSYS』(2016)、『Training Days』(2017)といった作品も残している。

 一方snucは、本作にも客演ラッパーとして参加するRHYDAと『FOODOO』(2021)と『MOGANA』(2023)という2枚の共作を出している。こちらは、ダンスホールやアフロビーツをはじめ世界各地のリズムを貪欲に用いて、RHYDAの縦横無尽に駆け抜けるフリーキーなラップのポテンシャルを引き出す独創的なベース・ミュージックだ。また、後者にはPART2STYLEのMaLによるジャングルのリミックスもある。

 そう考えても、『縁』は音数も抑制されて非常にシンプルだ。“CLEAN HIT” のダブ、硬く鋭いスネアからは〈ON-U〉、たとえばダブ・シンジケートの『Stoned Immaculate』を連想できるだろう。また、土俗的なパーカッションのループとナヴィゲーター役のBLACKJOKERのトークから成る “SKIT” はいわばナイヤビンギで、そのスキットに続く呪術的な雰囲気を醸し出す “JAZZ THING-縁-” はナイヤビンギ・ミーツ・ラップだ。ナイヤビンギとは簡単に説明すれば、ラスタファリアニズムを信奉するひとびとの集会であり、そこで演奏される音楽のこと。録音物となったナイヤビンギの古典といえば、2022年に〈ソウル・ジャズ〉が再発したミスティック・リベレーション・オブ・ラスタファリ『Grounation』が有名だ。

 たしかに『縁』と名付けられ、ナヴィゲーターを配して複数のラッパーやシンガーが次々に登場する本作は集会のようでもある。ALCIがポルトガル語でラップし、ラッパーのSulakとシンガーのカナミaka.Ms.Miiiが参加した “NATURAL BBB” は直球のルーツ・レゲエだ。ALCIのラップからは世俗的欲望を否定しないまでも、世のなかはそれだけじゃつまらないでしょう、と自身の内面を見つめようとする軽やかなスピリチュアリティが感じられる。“我々の世界” という曲で「反骨忘れず爆音の雨」と歌っているように、気持ち良い音楽だが、単なる体制順応的な音楽ではない。

 じっさい、既存の世俗的なゲームのなかで成り上がるストリート叩き上げのラッパーのサクセス・ストーリーや、その熾烈な競争の過程で勃発する小競り合いや罵り合いにときにぐったりしてしまうのは私だけではないだろう。知性と受け取られているものが、じつは論理のすり替えを厭わない世渡り上手の処世術でしかなかったのではないか。その差はあまりにも大きく深刻だが、“バズる” というアテンション・エコノミーの狂騒のなかではその違いにたいして重きは置かれない。そうした価値観がいま最先端という名のエスタブリッシュメントを形成しているようにみえる。生き抜くための努力や意地には何物にも代えがたい尊さがある。金や数字だって重要に決まっている。だから、ゲームの勝利者の栄光を腐したくもない。しかし、ゲームやルールは他にもあるだろうとは思う。

 数字のついてくる最先端や流行と呼ばれるものが、必ずしも時代の突破口となる新しい価値観を提示しているとは限らない。ルーツ・レゲエやダブに向き合ったALCIとsnucの『縁』は、そういうごく真っ当な感覚を持つひとたちに響く音楽にちがいない。ひと呼吸置いて、周りをゆっくり見渡してみれば、この作品のような “我々の世界” がまだまだ広がっているのだ。

Turn On The Sunlight - ele-king

 LAのマルチ楽器奏者/プロデューサー、ジェシー・ピーターソンがカルロス・ニーニョとともに始動したプロジェクト、ターン・オン・ザ・サンライト。かつてレイ・ハラカミともツアーをまわったことのある彼らは、2010年代をとおしてすでに5枚のアルバムを送り出している。
 3月20日にリリースされる新作『Ocean Garden』にはララージはじめ注目すべきゲストたちが多く参加しているが、とくに目を引くのは70年代スピリチュアル・ジャズの重要レーベル〈Tribe〉創設者のひとり、フィル・ラネリンだろう。これまでもビルド・アン・アークなどで若い世代とコラボし、最近は「Jazz Is Dead」シリーズにも登場している彼をフィーチャーしたシングル曲 “Tune Up” は、2月28日にデジタルにて先行配信。楽しみです。

Turn On The Sunlight『Ocean Garden』
2024.3.20 CD / LP / Digital Release

LA音楽シーンで多くのミュージシャンに愛されるジェシー・ピーターソン。彼の呼びかけによって豪華メンバーが集まったオーガニックコレクティヴ、Turn On The Sunlight(ターン・オン・ザ・サンライト)の新作『Ocean Garden(オーシャン・ガーデン)』が、CD/LP/Digitalにて全世界同時リリース!! CDにはジャメル・ディーンらが参加したボーナストラックも収録。

Carlos Niño / Phil Ranelin / 金延幸子 / Josh Johnson / Photay / Fabiano do Nascimento / Randal Fisher / Dwight Trible / Laraaji / Mia Doi Todd / Sam Gendel他、豪華アーティスト参加!!

もしブライアン・イーノとジョン・フェイヒーが出会ったら──そんな妄想を抱いて、ジェシー・ピーターソンがカルロス・ニーニョとスタートさせたターン・オン・ザ・サンライトの長い旅は、このアルバムで素晴らしい場所に到達した。LAの信頼すべき才能ある仲間と築き上げたコレクティヴの軌跡が美しく刻み込まれている。かつてビルド・アン・アークという奇蹟のグループが成し得たことを、ジェシーは継承して前へ進めてもいる。素晴らしいミュージシャンたちが奏でる音と自然音が織り成す有機的な音の広がりは、深く驚異的だ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

暖かくて、魅惑的な音に祝福される感覚。心地よい音のテクスチャーと快適なリズム。常に喜びと高揚感を与えてくれる作品です。(ララージ)
このアルバムは、暖かい日差しが頬に触れる感覚と、私たちを想像の世界へと導いてくれる。素晴らしいアルバムです。(金延幸子)

ターン・オン・ザ・サンライト
マルチインストゥルメンタリスト、作曲家、プロデューサーのジェシー・ピーターソンは、ターン・オン・ザ・サンライトの中心人物であり、絶えず続く糸である。5枚のアルバムとその他のさまざまなコラボレーションを通じて進化し続けるグループのサウンドは、結成時から変わることなく高揚への希望に根差している。友人のカルロス・ニーニョとともに、ジェシーは妻のミア・ドイ・トッドをはじめ、ララージ、ルイス・ペレス・イクソネストリ、カバーナ・リー、パブロ・カロジェロ、SKカクラバ、サム・ゲンデル、ファビアーノ・ド・ナシメント、ヒロ・マキノ、リカルド・ディアス・ゴメス、デクスター・ストーリー、アンドレス・レンテリアなど、長年にわたって音楽仲間である彼らに、彼らの魔法で力を貸してくれるよう呼びかけてきた。

【リリース情報】
アーティスト名:Turn On The Sunlight(ターン・オン・ザ・サンライト)
アルバム名:Ocean Garden(オーシャン・ガーデン)
リリース日:2024年3月20日
フォーマット:CD / LP / Digital
レーベル:rings / plant bass
オフィシャルURL:https://www.ringstokyo.com/turn-on-the-sunlight-ocean-garden/

[CD]
品番:RINC118
JAN:4988044097605
価格:¥2,860(tax in)
販売リンク:https://diskunion.net/portal/ct/detail/1008787482
[LP]
品番:RINR16
JAN:4988044097636
価格:¥4,400(tax in)
販売リンク:https://diskunion.net/portal/ct/detail/1008787495

21世紀の視点からその思想と生涯を解説する

オーネット・コールマンが共演し、スクリッティ・ポリッティが曲名で共感を表明し、坂本龍一がドキュメンタリー映画のサウンドトラックを制作したフランスの哲学者。

サイモン・レイノルズやマーク・フィッシャーが音楽を論じる際に用いた概念「憑在論」の本家本元にして「脱構築」の発明者。

ポップ・カルチャーにおいてもひときわ大きな存在感を放つ20世紀最高の知性のひとり、ジャック・デリダの生涯と思想を、21世紀の視点から新たに解説しなおす。

★用語解説つき

四六判/ソフトカバー/464頁

目次

イントロダクション
第1章 キッド
第2章 フッサール、ほか
第3章 起源の問題
第4章 ジャック・デリダ
第5章 出来事、ひょっとすると
第6章 『グラマトロジーについて』
第7章 真理が女だとすれば、どうだろうか
第8章 万人ここに来たれり
第9章 掟の前で
第10章 について
第11章 出来事が起こった
謝辞

訳者あとがき
用語解説
索引

ピーター・サモン(Peter Salmon)
1955年生。オーストラリア出身、UK在住の作家。テレビやラジオのショート・ストーリーを多数手がけつつ、『ガーディアン』や『シドニー・レヴュー・オブ・ブックス』などさまざまな新聞や雑誌に寄稿。小説『コーヒー・ストーリー』(2011年)で『ニュー・ステーツマン』のブック・オブ・ザ・イヤーを受賞。UKの『ピッチフォーク』的存在たる音楽メディア『クワイエタス』では、デリダと音楽の関係についての文章も執筆している。

伊藤潤一郎(いとう・じゅんいちろう)
1989年生。新潟県立大学国際地域学部講師。著書に『ジャン=リュック・ナンシーと不定の二人称』(人文書院、2022年)、『「誰でもよいあなた」へ──投壜通信』(講談社、2023年)。訳書にナンシー『アイデンティティ──断片、率直さ』(水声社、2021年)、同『あまりに人間的なウイルス──COVID-19の哲学』(勁草書房、2021年)など。

松田智裕(まつだ・ともひろ)
1986年生。立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員。著書に『弁証法、戦争、解読──前期デリダ思想の展開史』(法政大学出版局、2020年)、訳書にジャック・デリダ『思考すること、それはノンと言うことである──初期ソルボンヌ講義』(青土社、2023年)など。

桐谷慧(きりたに・けい)
1986年生。東京大学大学院教務補佐員。論文に「「『幾何学の起源』序説」におけるデリダの「生き生きした現在」の解釈について」(『フランス哲学・思想研究』第28号、2023年)、共訳書にパトリック・ロレッド『ジャック・デリダ──動物性の政治と倫理』(勁草書房、2017年)など。

横田祐美子(よこた・ゆみこ)
1987年生。立命館大学衣笠総合研究機構助教。著書に『脱ぎ去りの思考──バタイユにおける思考のエロティシズム』(人文書院、2020年)、共訳書にボヤン・マンチェフ『世界の他化──ラディカルな美学のために』(法政大学出版局、2020年)、カトリーヌ・マラブー『抹消された快楽──クリトリスと思考』(同前、2021年)など。

吉松覚(よしまつ・さとる)
1987年生。帝京大学外国語学部特別任用講師。著書に『生の力を別の仕方で思考すること』(法政大学出版局、2021年)。共訳書にマルタン・ジュベール『自閉症者たちは何を考えているのか?』(人文書院、2021年)、ジャック・デリダ『講義録 『生死』』(白水社、2022年)、ジャック・デリダ『メモワール』(水声社、2022年)ほか。


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Angry Blackmen - ele-king

 オルタナティヴ志向に磨きをかけるクリッピングやPhewとのコラボレートで知られるワシントンのモデル・ホームなどを追い、不穏なインダストリアル・ビートで押し通すクエンティン・ブランチとブライアン・ワレンのデビュー・アルバム。シカゴ出身で、16歳ぐらいで活動を始めたらしく、2人ともケンドリック・ラマーとアール・スウェットシャートに強く影響を受けたという。さらにブランチはMFドゥーム、ワレンはチャンス・ザ・ラッパーやリル・ウェインの名前もフェイヴァリットに挙げている。マンブル・ラップが出てきた頃にリル・ヨッティーだったかがノトーリアス・B.I.G.なんか聴いたことがないと言い放ち、並み居る古参たちから不興を買っていたけれど(それはそれで僕はいいと思うけれど)、ワレン&ブランチはヒップホップの歴史に精通しているようで、メンタル・ヘルスを初めてラップで扱ったのはグランドマスター・フラッシュ “The Message” だと考え、それこそノトーリアス・B.I.G. “Suicidal Thoughts” へのオマージュとして “Suicidal Tendenciess” でアルコール依存についてラップするなど全11曲を『The Legend of ABM』に詰め込んだ。

 全体のテーマは資本主義、アフロ・フューチャリズム、マスキュリニティ(男らしさ)とインテリ寄りで(クリッピングの歌詞はギャングスタ系)、映画『アイ・アム・リジェンド』の原作『地球最後の男』を骨組みとして採用しているらしい。サウンドがあまりに攻撃的なので、そうは思えなかったけれど、英語のニュアンスがちゃんと聞き取れるリスナーには哀愁がにじみ出ている歌詞がとてもいいらしく(そういうことがわかる人は羨ましい)、声の響きはどこかエミネムに通じるものがある。ジャケットに写っている女性はタイトル曲 “The Legend of ABM” で「業界に旋風を巻き越すためにブライアンとクエンティンが戻ってきました」と日本語のナレーションを入れているユキ・フジナミ。これまでに5枚しかシングルをリリースしていないのに、自らを伝説と称して「帰ってきた」と表現するのだから、その自信はなかなかのもの。

 先行シングルは “Stanley Kubrick” 。出来上がった曲が映画みたいだったからという理由でこのタイトルにしたらしい。ブリープ強めで最初から個性が際立ち、続く “FNA” で畳み掛けるラップと金属音の軋みも切迫感が滲み出る。自己愛を意味する “Amor Propio” や “Magnum Opus” はまさしくモデル・ホームばりで、ハーシュ・ノイズを敷きつめた “Dead Men Tell No Lies” はナイン・インチ・ネイルズが孤独を訴えた “The Day the World Went Away” に強く影響を受けた曲だという。 “FUCKOFF” はもう怒り狂ってるだけ。 “Outsiders” はマシンガンのようなビートで、 “GRIND” だけがカチャカチャと金属音が鳴る小気味のいいアクセントになっている。タイトルからしてスロッビン・グリッスルみたいな “Sabotage” は映画『テルマ&ルイーズ』のモデルとなり、シャーリーズ・セロンが映画『モンスター』(03)で演じたシリアル・キラー、アイリーン・ウォーノスのインタビューを元にしているという。普通とは異なるものの見方を提示したかったのだとか。サウンドだけでもそれは充分だけど。

 ワレン&ブランチはまだ若い。細部がまだ拙いというか、彼らが持っているヴィジョンにスキルが追いついているとはさすがに言いがたいところもある。とはいえ、パッションは充分で、すぐにも飛躍的な伸びが期待できるだろう。セカンド・シングルが “Riot” (17)というタイトルだったりと、重いものが弾けているような存在感はどうしてもURを思い出してしまうし、ブラックライヴスマターを時代背景として育った世代がどうなっていくかという興味は抑えられない。

 ちなみにアングリー・ブラックメンと契約したのはこれまでにデス・グリップス、クリッピング、J・ペグマフィア、USガールズなどを送り出してきた〈Deathbomb Arc〉で、荘子itらのドス・モノスやBBBBBBBなども同レーベルと契約している。

『哀れなるものたち』 - ele-king

 またしても閉じ込められた女性。いくらなんでもパラノイアックすぎる。これだけ繰り返されると監督にとってはセラピーの意味でもあるのかと思ってしまう。ヨルゴス・ランティモスはこれまでに『籠の中の乙女』(09)、『ロブスター』(15)、『女王陛下のお気に入り』(19)と、場所の移動を制限された女性ばかり描き、少し毛色が異なる『聖なる鹿殺し』(17)でも娘のキムは急に歩けなくなり、移動が困難になる(その原因と考えられるマーティンも椅子に縛りつけられて動けなくなる)。様々な設定を駆使して多様な物語を生み出しているようでいて、実際にはランティモスは自由に動くことを許されない女性の苦しみをあれこれと映し出しては喜んでいる変態ではないのか。スタンリー・キューブリックに団鬼六が憑依し、『コレクター』のリメイクばかり撮り続けている変質者ではないのか。現実の世界で女性を監禁したい。しかし、それは許されない。だから映画をつくることでその欲を満たしているのではないかと疑いたくなる。

 『哀れなるものたち』がこれまでと少し異なるのはエマ・ストーン演じるベラ・バクスターが造物主の比喩である父親と対立して(以下、ネタバレ)屋敷の外に出て移動の自由を楽しむこと。『籠の中の乙女』では家父長によって頑なに監禁状態は解かれなかったのに対し、そこはあっさりとクリアして、ベラは屋敷を飛び出して世界を旅し、食を楽しみ、性を解放し、労働する。文字通り外の世界を自由に動き回る。ただし、ベラはこれまでの作品とは異なり、胎児の脳を母体に埋め込まれたタブラ・ラサとして設定されている。身体は成熟した女性だけれど、脳は赤ちゃんに等しく、いわば社会的に初期化された存在である。社会と相対峙するのではなく、ただ吸収していくだけ。幼児が世界を把握していくプロセスと似たような体験を積み重ね、絶えず食べ物を吐き出して(=アブジェクション)成長し続けていることを印象付け、これが面白おかしく感じられると同時に、幼児化した女性の振る舞いはただのバカにしか見えない場面も少なくない。既存の社会に対して批評的な価値を持つでもなく、がに股っぽい歩き方はどことなく都会に連れて来られたキング・コングを思わせる。それこそ純粋無垢であれば女性という存在はインパクトを持つというか、イノセントな女だけが社会で有効というのはとんでもない幻想だし、裏を返せば女性は社会化されてしまうと魅力がないと訴えているようなもので、女性を社会の外側に立たせることで活躍することを可能にした『ワンダーウーマン』(17)と構造的には同じである。社会的に初期化されれば、それこそ『ネル』(94)のように言葉も通じないというのが普通だとは思うのだけれど……(シニフィアンを混乱させた『籠の中の乙女』はある意味、その原理に沿っていた)。

 もっといえば日本のTVドラマでよく見かける「空気を読めない女性の主人公」も似たり寄ったりで、エキセントリックなキャラなら女性たちは社会に出ても肯定されるという設定にも通じるところはある。どうしてこのようなエフェクトをかけないと女を社会化された存在として認識できないのだろう。移動の自由や男たちの管理から解き放たれて、ベラ・バクスターは一見、様々な主体性を得たかのようだけれど、実際には社会の周縁へと押しやられているだけではないのか。そう、これまで何度も女性を監禁し続けたランティモスがそう簡単に女性を解放するわけがない。むしろランティモスは女性を社会から浮いた存在として固定し、観念的な文脈に閉じ込め直したのである。『籠の中の乙女』や『女王陛下のお気に入り』が部屋ごと空間を移動しただけで、前半は定住しない旅行者、後半は売春婦と、ベラが生きる場所はいわゆるオーソドックスな社会ではない。リドリー・スコット(『テルマ&ルイーズ』『最後の決闘裁判』)や80年代の深作欣二(『火宅の人』『華の乱』)が描く社会的な身体を持つ女性たちとは異なり、主役である女性と社会の距離は1ミリも縮まらず、彼女の声が社会に届くことはない。

 社会的に初期化された身体を持つ男性の作品は何かあったかなと考えていたらターザンの誕生を描いた『グレイストーク』(84)や『フォレスト・ガンプ』(95)が思い浮かんだ。どちらも周縁から社会のヒーローへとポジションを移動させ、無知であるがゆえに社会をシェイクする作品である。『哀れなるものたち』にそうしたフィクショナルな飛躍はない。ベラ・バクスターは旅を終えて、かつて自分が飛び出した屋敷へと戻っていく(放蕩娘の帰還?)。そして、自分を生み出したウィリアム・デフォー演じるゴッドことゴドウィンの死を看取り、外に出て行ったことがなにひとつフィードバックされることなく、初めからそこに居ればよかったという雰囲気で幕を閉じていく。旅の途中で出会った男たちがすべてどうしようもない存在だったという認識が残ったぐらいで、『籠の中の乙女』で外に出られた姉妹が自分たちの意思でもう一度、家のなかに戻っていくような終わり方である。ベラの成長はただゴドウィンとの関係を肯定するために、それだけのために必要なことだった。どうしても人はそこを肯定したいし、それこそファザコンの人には突き刺さる話なのだろう。むしろ僕には、どんな人でも自分が誰かの子どもであるということがすでに牢獄だと思える作品だった。

 『哀れなるものたち』で素晴らしいのは圧倒的に美術。ある種の美意識を徹底していれば、その中に閉じ込められていることに女性たちは気がつかないと言わんばかりの装飾美にあふれ、人生の舞台装置だと勘違いさせるスティームパンクの造形はどこまでも幻惑的。また、「サタデー・ナイト・ライヴ」の準レギュラーとして、すっかりコメディエンヌの座に収まったエマ・ストーンの演技はコメディの先へ進もうとする気迫を感じさせ、メタ・レヴェルの感動を呼び起こす。原題は「Poor Things」で、「哀れ」というより「空振り」とか「外れ」みたいなニュアンスではないだろうか。そう思うと、もしかして最近になって世界的な評価を得ている『嫌われ松子の一生』(06)に影響を受けたりして。

 なお、『哀れなるものたち』の音楽はジャースキン・フェンドリックスのレヴューに詳しいです。ところで途中でベラが音楽と出会い、涙を流すシーンがあるけれど、幼児が美しいメロディを聴いてわけもなく泣いたりするとは思えず、ここはフランケンシュタインのエピソードをあまりに考えずに重ねてしまった気が。

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