「!K7」と一致するもの

Sylvester Anfang II - ele-king

 先日、シルヴェスター・アンファングIIとしても活動するベルギーのヘルヴェトことグレンに教えてもらって度肝を抜かれたタイのチンドン屋バンドのYoutubeをまずは見てもらいたい。

 まったく覇気の感じられないメンバー、チンドン・サウンド・システム、何だか妙に儀式じみた周囲の状況、そして何より言語の隔たりによって何も詳細がわからないことが僕に与えるロマン、どうやら最近また持病のアモン・デュール症候群がぶり返してきた僕は完全に心を奪われてしまった。
 じつを言うと現在まで僕にこの病の自覚症状はなく、かなり最近になって他人からそれがすでに手の施しようがないほど進行していることを知らされた。出羽三山での山伏修行の体験談、カスタネダの夢見の実践を試みていた学生時代の恐怖体験などと音楽的嗜好を打ち明けた相手の多くにそれが重度のアモン・デュール症候群であることを診断されたのだ。

 時として社会生活に支障をきたす(注釈:1)この病は、現代の日本において認知度が低く、患者の多くが困難を抱えているのが実状だ。そういった意味ではベアボーンズ・レイ・ロウことエルネスト・ゴンザレスやヘルヴェトことグレン・ステンキステらの僕以上である重傷患者のコミュニティであるベルギーのシルヴェスター・アンファングIIは画期的な治療法とリハビリテーションを提案し、多くの患者に希望を与えていると言えよう。そう、ことヨーロッパにおいてのアモン・デュール症候群への関心は高く、ゆえに非常にさまざまな処方が普及しているのだ。フィンランドのサークルは最たる成功例のひとつだ。

 サークルは90年代初頭から活動する本国においてはかなりのポピュラリティーを得ているクラウト・ロック・スターとも言える超重傷患者集団だ。各メンバーのサイド・プロジェクトやソロを含め自らをNWOFHM!(注釈:2)と称し、死ぬまでクラウトし続けるであろう狂気のスタイルを掲げている。カントリーからブラック・メタルまで古今東西のあらゆる音楽(アルバムごとに異なるひとつのジャンルをピックアップして)を全力でクラウト・ロックしてみるという超絶スキルに裏打ちされた圧倒的強引さを、NWOBHMよろしく80'sヘアー・メタルのトラウマから生まれた爆笑センスをもってして最高のエンターテイメントに仕上げているバンドだ。
 彼らが主催する〈エクトロ・レコーズ(Ektro Records)〉が老若男女のアモン・デュール症候群を含む永続的クラウト・ロック中毒症患者たちへ定期的に処方箋を与えてきた点も賞賛に値する。膨大な自分たちのプロジェクトからジャーマン・サイケの生ける伝説、伊藤政則氏も真っ青なカルト・ヘアー・メタルの再発まであらゆる患者の症状に応じて処方しているようだ。

 最近の強烈な処方箋は〈VHK(Vagtazo Halottkemek)〉......ってこんなもんカタカナにできるかよ。英訳で〈ギャロッピング・コロナーズ(Galloping Coroners)〉です......の最新作。この一見すると某中古レコード店のプログレ・コーナーで投げ売りされてそうなクソダサいジャケットのバンドは、実際に僕は某中古レコード店のプログレ・コーナーで投げ売りされていた同じようなクソダサいジャケットの前のアルバムをゲットして知っているのだけれども、彼等のバイオグラフィーによれば1975年頃にハンガリーのブタペストで結成され、本国やドイツでカルト的な人気を博したシャーマニック・サイケ・パンクバンドで彼等の呪術/超自然/神秘的なサウンドは万物の存在理由の宇宙的解釈である。初期はハンガリー政府からの圧力により10年以上の地下潜伏活動を余儀なくされたようだ。80年代中期頃からヨーロッパ・ツアーを積極的に開始し、当時共演したイギー・ポップやジェロ・ビアフラ、ヘンリー・ロリンズは彼等への驚嘆と賞賛を辞さなかったと言う(実際VHKのアルバムはオルタナティヴ・テンタクルスから2枚ほどリリースされている)。そしてこの度VHKは13年ぶりにスタジオ・フル・アルバム、〈Veled Haraptat Csillagot!(ヴェレ...英訳、バイト・ザ・スター!)〉を〈エクトロ〉からリリースする!
 と、これを書いて何だか妙に疲れたのだが、このツッコむのもバカバカしいほどのバイオ、バンド・イメージとこのオジサンたちの本気度、そしてそれを微塵も裏切ることのないまったく新しくないサウンド、そして何より理解できない言語の隔たりも含めすべてが多くの症状に苛まれる患者たちを治癒してくれることに間違えはあるまい。

 先のYoutube動画を見ながら改めて思うのは、この世に音楽的にも芸術的にも宗教的にも文化人類学的にも秘境などなく、すべてがフラットでのっぺりとした何だかになってしまっているのかもしれない......が、大切なのはそれに心を巡らせるロマンなのだ。これこそがこの病と恒久的につきあっていく最も大切な心得だ。

 ちなみにこのレビューは末期アモン・デュール症候群患者であるele-king野田編集長に捧げます。やっぱクラウト・ロック本も作らないですかね?


注釈:1
主に若年層の症例として挙げられる、定職につかない/やたらとコミューン思考が強い等の発作によって社会生活に困難を来す。

注釈:2
おそらくニュー・ウェーヴ・オブ・フィニッシュ・ヘヴィ・メタルだと思われる。重度の患者達はみな口を揃えて自分たちのコミューンに名を冠したがる傾向が報告されている。シルヴェスター・アンファングIIの連中が「Funeral Folk(フューネラル・フォーク)」と抜かしているように。

 なんだかよくわからなくなってきた。下津光史がステージに上がるまで酒を我慢できるか、勝負しようじゃないか。もちろん編集部は「飲む」に賭ける。
 ele-king編集部(ライター募集中!)とDUM DUM LLP(コック募集中!)によるパーティ、「DUM-DUM PARTY 2013」の追加出演者が決まりました。オウガ・ユー・アスホール(OGRE YOU ASSHOLE)ザ・ガール、そして、OLキラー、そして、大先輩である大貫憲章さん!
 という、なんだかよくわからないことになってきた。だけどもういちどよく考えてて欲しい。このイヴェントの主役は、長州がコック長を務めるバーベキュー大会であり、ディスクユニオンが1日限定でオープンする宝物ありのレコード100円市なのだ。きのこ帝国も快速東京もマウス・オン・マーズでさえも、長州がコック長を務めるバーベキュー大会のツマミに過ぎない。つまり、この倒錯したバレアリック感は、当日来てもらうしかないということである。ele-king編集部(デモ音源募集中!)からひと言あるとすれば、最初から飲み過ぎないでくれ、だ。
 この1ヶ月、よい子を続けたお陰で、スゲー、メンツが揃った。あらためて、この下にある、出演者の名前を見て欲しい。
 渋谷のビルを貸し切ってのレコード100円市とバーベキュー大会、よろしくお願い申し上げます。こないだも書いたように、出入り自由なので、腹減ったら外で食べれるし、飽きたら映画館に行けばいいし、酔いたければ飲み屋もある。まったく、ファッキン・ブリリアントなパーティだ。

※なお、出演者も一般募集しています。ジーザス&メリー・チェインが初来日したとき、フロント・アクトを一般募集したのと同じ。出演者として参加ししたい人も同時募集です。自薦・他薦問わず! 
 ただし、6/29(土)のスケジュールが空いていて、渋谷でライヴができることがマストです。ele-king編集部(友だち募集中!)とDUM-DUM LLP(お客さん募集中!)で相談した上で、出演してほしい方にはこちらからご連絡します。応募はこちらのフォームから!↓
https://system.formlan.com/form/user/dumdumparty/2/


■DUM-DUM PARTY2013
Curated by ele-king & DUM-DUM LLP
イベント特設サイト:https://party.dum-dum.tv/

日時:2013年6月29日(土)
会場:渋谷O-WEST BUILDING(O-WEST・O-nest・7th FLOOR 三会場同時開催)
開場/開演:15:00(22時頃終演予定)
出演:Mouse on Mars(fromドイツ)、OORUTAICHI、快速東京、きのこ帝国、group_inou、SIMI LAB、下津光史(踊ってばかりの国)、スカート、砂原良徳(DJ)、ミツメ、森は生きている、YAMAGATA TWEAKSTER(from韓国)、Kamikaz(Clockwise)、LANG LEE(from韓国)、ダエン(from福岡)、渋家(shibuhouse)、Exclusive、Ned Collette (fromオーストラリア)、DJ Yogurt、OGRE YOU ASSHOLE、THE GIRL+...and more!
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チケット:¥6,300(税込 / 全自由 /1ドリンク代別) ※3才以上有料
来場者全員特典:特製ZINE
チケット:5/18(土)発売
ぴあ (P:201-745)
LAWSON(L:70170)
イープラス(https://eplus.jp/
DUM-DUM OFFICE(高円寺)、SHIBUYA O-WEST/O-nestの店頭で購入の方は¥5250で販売
※ディスクユニオン店頭でもお求め頂けます。

◎DUM-DUM LLP https://www.dum-dum.tv
(イベント/チケット/公演に関する問合せ/担当:野村、嶋津)


interview with Tim Hecker - ele-king

 週刊誌的な興味でしかないと思いつつ、ブランドン・クローネンバーグのデビュー作『アンチヴァイラル』を観に行った。そして、そこには父の失ったものがすべてあるとさえ思えた。多言は必要ないだろう。スノッブと観念を瞬時に結びつけてしまう手際は見事にトレースされ、『ヴィデオドローム』をそのまま引用したシーンまであった。余裕だ、としか思えなかった。
 
 ゼロ年代前半、ティム・ヘッカーが『ラジオ・アモーレ』(03)で、それまでのアンビエント・ミュージックにはなかったようなササクレだったムードを持ち込んだとき、それがどこから来るものなのか、最初はぜんぜんわからなかった。発信元はドイツの〈ミル・プラトー〉でもヘッカー本人はカナダで活動していることや、彼の周辺にはゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラー!がいて、翌年、地元の〈エイリアネイト〉からリリースされた『ミラージュ』にはそのメンバーが多数、起用されていたことから、彼に対するイメージは少しずつアグレッシヴなものへと変化していく。それは安直にデヴィッド・クローネンバーグやGYBE!が醸し出してきたアポカリプティックでタナトスと結びついたカルチャーとのオーヴァーラップと言い換えてもいい。ブランドン・クローネンバーグに煽られていた僕は、つい、そのことを訊きたくなってしまった。

自分にとって感情や興味が沸き上がるような音楽を作ることにフォーカスしている。平穏を保ち、美しくグロテクスで、みんなが聴いてくれるような音楽であればと思ってる。

自分の音楽を映画に喩えると、どの作品になるでしょう? ちなみにブランドン・クローネンバーグ『アンチヴァイラス』は観ましたか?

TH:見たことないな。なので答えるのは難しいね。日本の映画だと新藤兼人の『鬼婆』(64)になるんじゃないかな。

 え? 新藤兼人。去年、亡くなった?(さきほど日付が変わり、原稿を書いている途中で命日になった) 僕は『裸の島』や『北斎漫画』といった代表作しか観たことはなかった。人間を即物的に撮るという印象が強い作家である。話は前後するけれど、僕はこういった興味にはまったく逆らえないので、インタヴュー後、すぐに『鬼婆』を観てみた。そして、なるほどであった。ティム・ヘッカーをクローネンバーグやGYBE!と重ね合わせたのは間違いだった。そのことを知らずに以下のインタヴューは続いていく。なんとももどかしい。


作を重ねるごとに作風が重々しくなっていきますが、それは意識的にそうしているんですか?

TH:それは違うな。時間の経過でそうなったのか、礼拝的なハーモニーへの興味はあると思う。

あなたは常にエモーショナルなノイズ・ドローンを生み出そうとしていますが、人が抱く感情のなかでもとりわけ「切なさ」を重視しているように 思えます。それとも違うことにこだわりがありますか?

TH:自分にとって感情や興味が沸き上がるような音楽を作ることにフォーカスしている。平穏を保ち、美しくグロテクスで、みんなが聴いてくれるような音楽であればと思ってる。

同郷だからというわけではないのですが、あなたの音楽はゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラー!の音楽をエレクトロニック・ミュージック に置き換えた面があると感じますか? やはり影響は受けている? それともこれは誤解?

TH:彼らのスタジオは自分の住んでいる家から2ブロック先の所にあるけど、直接的な影響はないと思う。間接的にはあるよ。モントリオールは小さい町だからね!

ラジオ・アモーレ』があなたの転機になったと思います。単に気持ちいいだけのアンビエント・ミュージックではなく、ノイズや耳に痛い要素を取り入れたものをつくっ たのはなぜですか? 普通に考えると90年代のアンビエント・ミュージックに対して不満があったのかなと思いますが。

TH:当時はアメリカのノイズ・シーンで起きていた音楽が好きで、個性やパワーを感じていたし、無味乾燥なコンピューター音楽をチープなギター・ディストーションに通して、ある特定のテキスチャーとムードを作るというアイデアに興味を抱いていたんだ。それが自分が探求していた手法だった。

 ここだ。彼はとくに名前をあげていないけれど、紙エレキング7号でこってりと特集したように、ウルフ・アイズやダブル・レオパーズがアメリカの地下シーンを形成し始めた頃で、イエロー・スワンズやバーニング・スター・コアのデビューもこの時期に重なっている。前述した『鬼婆』でも冒頭から林光がおどろおどろしいパーカッションを挿入し、かつてミュージック・コンクレートが執拗に欲した無常観を彼が欲していたことがよくわかってくる。そう、最初はなんだかわからなかった『ラジオ・アモーレ』の謎がどんどん解けていく。


『ラジオ・アモーレ』というタイトルの意味を教えて下さい。

TH:スペイン語で「ラジオ・ラヴ」という意味で、ジャケットもそうなんだけどフィールド・レコーディングの多くは中米で録ったんだ。

洞窟や教会など、スタジオとは違った音の響きをする場所で録音を試みるのはいつからやり始めたことですか?

TH:前からずっと興味があって、最近やっとちゃんと出来る環境を見つることが出来た。『レイヴデス 1972』はスタジオの仮想的な空間を合成的にシュミレートしたリバーブでなく、実際の大きな空間のなかで作れた最初の作品だね。

もっとも大きな影響を受けたと思うミュージシャンを3人あげて下さい。

TH:わからないな。

ダニエル・ロパーティン(OPN)から『インストゥルメンタル・ツーリスト』のコラボレイトを持ちかけられた時、彼のことは知っていましたか? また、共同作業を通じて評価が変わったところはありますか?

TH:ネットで連絡を取って話をたくさんして、それからレコーディングを一緒に何日かやってみようという流れになったんあ。ポスト・デジタルな時代において、どうスタジオでコラボレートするかを考えさせられる良いきっかけになったね。

 最初に作風が重々しくなっていると訊いたように、OPNとのコラボレイトでもヘッカーはその路線を突き進んでいる。同作のライナーでも書いたようにロパーティンもマザー・マラーズ・ポータブル・マスターピース・カンパニーのデヴィッド・ボーデンと共作を試みるなど、両者にミュージック・コンクレートや現代音楽への興味があったことが一種の接点をなしていたことは間違いない。そこにあるのは、ヘッカーが興味を抱いたUS地下シーンの洗練であり、彼の身体を通した解釈である。『レイヴデス 1972』に続くソロの新作はこの秋になるらしい。


WWW presents Tim Hecker Japan Tour 2013

WWW presents
<東京> Opening Guest:Ametsub -exclusive set-
日  程:2013年6月7日(金)
会  場:渋谷WWW
時  間:OPEN 19:00 / START 20:00
料  金:前売¥4,000 (ドリンク代別 / オールスタンディング)
問合わせ:WWW 03-5458-7685

主催:渋谷WWW
協力:p*dis / melting bot

WWW & night cruising present
<京都> Opening Guest:Ametsub -exclusive set- / DJ:Tatsuya Shimada (night cruising)
日  程:2013年6月8日(土)
会  場:京都METRO
時  間:OPEN 17:00 / START 17:30
料  金:前売¥2,800 (ドリンク代別 / オールスタンディング)
問合わせ:METRO 075-752-2787 / WWW 03-5458-7685

主催:渋谷WWW / night cruising
協力:京都METRO / p*dis / melting bot

<チケット発売中>
チケットぴあ[P:197-955] / ローソンチケット[L:75645] / e+ (https://eplus.jp/timhecker)
WWW・シネマライズ店頭(東京公演のみ) / メール予約(京都公演のみ)

東京公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/1306/003742.html
京都公演詳細:https://www.metro.ne.jp/schedule/2013/06/08/index.html

coming soon - ele-king

coming soon - ele-king

Stephan Mathieu - ele-king

 ステファン・マシューの新作『アン・クール・シーミレ』(〈バスカル〉)は、ここ数年に渡る彼の音響的実験、探求、そして作曲意識が「アルバム作品」として統合・昇華されている極めて重要な作品である。その意味では2004年の傑作『ザ・サッド・マック』(〈ヘッズ〉)以来、といえるだろう。

 ステファン・マシューは、2004年の『ザ・サッド・マック』において、デジタル・エラーを意図的に用いることで未知のサウンドを生成する、00年代初頭の「DSP美学」を総括した。デジタル・グリッチ、エレクトロアコースティック、アンビエント/ドローンなど、さまざまな手法がアルバムのなかで、ひとつの大きな(繊細な)流れを生み出していた。それは確かに「完成形」であった。ゆえに『ザ・サッド・マック』以降の彼は『ザ・サッド・マック』のなかにすでに内包されていたドローン/アンビエント、フィールド・レコーディング的なサウンドを、多くのコラボレーション・ワークを行うことで、より深い場所へと潜航するように創作を続けていったように思う。

 たとえば、06年リリースのヤネク・シェーフとの共作『ヒドゥン・ネーム』(〈クロニカ〉)。『ヒドゥン・ネーム』においては、古びた楽器や音源などが見事に加工され、過去へ遡行するような音響を作り上げていた。中世の記憶が、古びた洋館から芳香とともにたちがあるようなアンビエンス、音響......。09年のテイラー・デュプリーとの共作『トランスクリプションズ』(〈スペック〉)においても、「アナログ・レコードの元祖と言われる古いワックス・シリンダーと78rpmレコード」を素材に用いながら、過去の記憶が音響に溶けだしていくようなドローン・アンビエント作品を生みだしていた。

 つまり、00年代中盤以降のステファン・マシューは、記憶と歴史のなかで打ち捨てられたような楽器や音盤をリサイクルすることで、過去と現在の記憶が溶けだすようなドローン作品を模索/創作していったのである。その彼の探求の最初の「成果」が2011年、ソロ作品としてリリースされた『ア・スタティック・プレイス』(〈12k〉)と『リメイン』(〈ライン〉)だ。また、2012年発表のカロ・ミカレフとの競演盤『レディオランド(パノラミカ)』(〈ライン〉)を加えてもいいだろう。

 これらの作品は、総じて圧倒的に美しく洗練されたドローン/アンビエントな音響作品である。そしてこの「美しさ」はまさに反動ギリギリともいえる。しかし、ステファン・マシューはむしろ過激なまでに洗練されることで、果実が腐る直前のような強烈な甘さを音響に内包させたのではないか。

 ではなぜ、ステファン・マシューはそのような洗練を追求したのか。それは、彼が本質的に、いわゆる「サウンド・アーティスト」というよりも、むしろ古典的な意味での「作曲家」だからではないか。それほどまでに、ステファン・マシューのドローンは弦楽曲のように聴こえるし、そこに彼ならではの和声や響きがある。ふたつ以上の音が重なり合い、絡まり、音と音のあいだから和声が生まれる。それは旋律のない旋律がもたらす恍惚。その音の重なりから生まれる響きに耳を澄ますと、多くの作曲家がそうであるように、ステファン・マシューもまた自分の響きに対するはっきりとした美意識があることがわかる。美を経由しない作曲家はありえない。彼の成熟は作曲家ゆえの要求がもたらしたものである。

 そして、新作『アン・クール・シーミレ』は、「作曲家」としての美=意識が隅々にまで行き渡っている傑作である。本作もワックス・シリンダーや78回転レコードをコンピューター上でエディットする手法が用いられている。昨年の傑作EP『コーダ』(〈12k〉)を経由した本作の音響は、近作にみなぎっていた過剰な美しさに加え、枯れた美の質感すら獲得している。まずは、1曲め「メゾン」のこなごなになったレコード盤のような音響の素晴らしさに、耳をそばだてていただきたい。

 さらに重要な点は、最初に書いたように「アルバム」として、ひとつのテーマ/コンセプトが全楽曲、構成に通奏低音のように響いている点にある。本作のアルバム・タイトルは、ギュスターヴ・フローベールの同名小説から取られている。この小説は、19世紀のフランスにおいて、愛を喪失し、信心深い女中の人生を描いたものだが、この作品においても不幸のなかの救いを希求する「崇高さ」を生成しているように思えた。

 アルバム中、もっとも心揺さぶられるのは6曲め"ドゥヴニール・スール"である。突如、古いレコードからのサンプリングと思われる女性による歌曲が、ほぼそのまま流れるのだ。歌声にノイズがレイヤーされ、過去と現在の境界線が融解する。これまで音響のなかに溶け出していた「音楽」が突如、不意に実体化する鮮烈な驚き。まるでミサ曲のような「崇高さ」が、古い素朴な歌曲に宿っている。つづく7曲め"フェリシテ"で、なんとアコースティック・ギターのアルペジオが聴こえてくる。ステファン・マシューのアルバムで、このような音が聴けるとは! そしてラスト8曲め"トレース"は15分に及ぶ音響作品。この曲で静かに幕が下りる。幽霊のように不意に実体化した音が、また再び、アンビエントなドローンへと溶け出していく......、そんな見事な構成である。

 『ア・スタティック・プレイス』と『リメイン』を経た、この『アン・クール・シーミレ』は、『ザ・サッド・マック』以降、やっと発表された「アルバム作品」のように思えた。『ザ・サッド・マック』には、DSP美学の終焉とデジタル以降の環境のなかで生きるモノたちの「喪失」というテーマや物語が静かに込められていた。そして本作にもまた、ある物語とテーマが込められている。それは何か? もちろん、想像でしかないが、喪失し、忘れられた過去を蘇生し、音として生成し、いまこの瞬間に弔うことではないかとも思う。

 記憶が、夢のように溶けあっていく感覚。音響による過去と現在の(記憶の)交錯=融解。それは「アルバム」を聴くことから生まれるイマジネーションの生成でもある。本作は、知覚と記憶の深い部分に作用する作品のように思えた。

 カメラのシャッター音と強靭なリズムが聴こえてきたので興奮しながら踊っていると、DJブースの前で跳ねまわっていた男が「ジャム・シティだ!」と叫び、とつぜん僕に飛びかかってきた。びっくりさせるなよ! ああ最高だよ、わかってるから、落ち着け。いや、まだ落ち着かないでくれ。みんなそれぞれ好きなだけ踊り狂っていよう。フロアには走り回って遊ぶパーティ・ピープルまでいた。
 いやしかし、待て、いったい僕はどこから来てここに辿り着いたんだっけ? そして、ここはどこだったっけ?

 ときは2013年3月某日の夜。東京・渋谷の街を見おろす商業施設ヒカリエの9階のホールでは、その立地に似つかわしくない奇妙な光景が繰り広げられていた。ファッション・ピープルが見守るなか、ロンドン・アンダーグラウンドの深い闇に根を張るウィル・バンクヘッド(The Trilogy Tapes)がジョイ・オービソンをプレイしている。それだけではない。自身の新曲を響かせながら、〈C.E〉のファッション・モデルとして大画面で堂々登場したのは、なんと我らがゾンビー。新作『ウィズ・ラヴ』のリリースを控えているゾン様、こんなところでいったいなにを!?

 ファッション・ショーが終わり、なだれこむようにしてパーティは開かれた。DEXPISTOLSや〈キツネ〉のふたりやVERBALといった名の知れた出演陣がDJをしていたが、その一方、すこし離れたもうひとつのフロアでは、海を越えてやってきたアンダーグランド――その熱狂の予感が渦を巻いていた。
 それは〈REVOLVER FLAVOUR〉と題された、デザイナー:KIRIによる饗宴だった。
 日本から1-drink(石黒景太)が迎え撃ったのは、先に述べたウィル・バンクヘッドに加え、ロンドンの〈ナイト・スラッグス〉の姉妹レーベルとしてLAに基地をかまえる〈フェイド・トゥ・マインド〉(以下FTM)の面々。〈FTM〉をキングダムとともに運営するプリンス・ウィリアム(Prince William)、同レーベルに所属し、アメリカのアート・ミュージック・シーンをさすらうトータル・フリーダム(Total Freedom)
 彼らのプレイから飛び出したのは、グライム/UKガラージ/ドラムンベース/ジャングル/レゲトン/リアーナ/サウス・ヒップホップ/R&B/ジューク/ガラスが粉々にされる音/赤子の泣き声/獰猛な銃声/怯えたような男の叫び声/乱打されるドラムなどなど。
 〈FTM〉について知っていた人はその場でも決して多くなかっただろう、が、とにかくフロアはダンスのエネルギーで溢れていた。レーベルのヴィジュアル面を担っているサブトランカ(Subtrança)によるヴィデオゲームめいたCGのギラギラした冷たいライヴVJも、このイヴェントの奇怪さと熱狂を促した。

 それにしても、ヒカリエとベース・ミュージック――そのコントラストは〈FTM〉にうってつけだった。ぜひレーベルのウェブサイトやアートワークを見て欲しい。そこでは、発展していく文化やテクノロジーと、留まることのない人間の物欲や暴力と、地球を支配する自然界の力とが、ワールド・ワイド・ウェブのなかで拮抗と核融合を重ねながら爆発を起こし、我々の脳――PCの液晶ディスプレイへ流れだしている。すでにわれわれの実生活において、文明は現代のテクノロジーやデザインの(快適な)成果として現れつづけている(最近はじまった『to be』というウェブ・サーヴィスはもはやヴェイパーウェイヴを作るためのツールにしか見えない......)。〈FTM〉は、そんな現実を生きる活力として、LSDでもSNSでもなく、ダンスとソウルを主張する。すなわち、心へ(Fade to mind)、と。


Kingdom
Vertical XL

Fade to Mind

Amazon iTunes

 間もなく〈FTM〉から、レーベル・オーナーでもあるキングダムの『ヴァーティカル・XL』がリリースされる(先行公開されている曲は"バンク・ヘッド"と題されている)。

 以下は、〈FTM〉の共同オーナー:プリンス・ウィリアムと、サブトランカの片割れ:マイルス・マルチネスとの貴重なインタヴューである。取材を受けるのは初めてとのことだった。サウンドトラックにはぜひこのミックスを。
 いつなにが起こるかわからないのはデジタルの世界もアナログの世界もおなじ。インターネットが見れなくなる前に、いますぐ印刷するのをおすすめしたい。

 夏以降、〈FTM〉のアクトが来日する動きもあるようなので、詳しくはまた追ってお知らせしよう。どうか、ダンスとソウルをあなたに。

90年代のレイヴ・カルチャーは逃避主義的すぎた。僕らは人びとに触れあいがあってほしいし、「いま」を生きてほしいんだ。クラブの外に出たとき自分たちがどこにいるのかを認識してほしいんだ。僕らのメインドラッグは珈琲だよ(笑)。

今回はわざわざ来日してくれてありがとうございます。まさかこんなに早くあなたたち〈FTM〉に会えるとは思いませんでした。日本に来るのは何回目ですか?

マイルス・マルチネス:僕は2回目だよ。最初の来日は2001年で、アシュランド(トータル・フリーダム)も同じ。ングズングズ(Nguzunguzu)はソナーが初来日だ。

プリンス・ウィリアム:僕も同じころが最初で、今回は2回目だ。前にきたときは〈アンダーカヴァー〉や〈ベイプ〉とかストリート・ウェアのファンでただの買い物客だったんだ。だから、KIRIやSk8ightthingをはじめ、ファッションに携わるみんなとこうして仕事ができるなんて夢みたいな出来事だよ。いつか日本の生地をつかった服をつくりたいね。

では、もともとファッションにはつよい興味を持っていたのでしょうか?

プリンス・ウィリアム:もちろんだよ。僕は人口の少ないテキサスのちいさな町で育ったんだけど、そういったカルチャーをディグしたんだ。

マイルス・マルチネス:ヴィジュアル・アーティストとして、映像も音楽もファッションもすべて表現という意味では共通しているものだと思っているし。

プリンス・ウィリアム:実際〈フェイド・トゥ・マインド〉のほぼみんながアートスクールに通っていたんだ。アシュランドとマイルスはレーベルのなかでももっとも精力的に現代アートの世界でも活躍していて、ほかのみんなは音楽にフォーカスしつつ、やっぱりアートはバックグラウンドにある。新しくてユニークでイノヴェイティヴであるカルチャーそのものを提示するっていう共通のアイデアが僕たちを動かしているし、繋げている。僕らは〈FTM〉をライフスタイルそのものだと考えているよ。〈FTM〉はみんなが友だちで、強い信頼関係にあるんだ。

マイルス・マルチネス:アシュランドはアートスクールには通っていなくて、ただただアーティスト/ミュージシャンとしてのキャリアがあるんだ。彼は学校にいってないことを誇りに思っているよ。

日本の音楽やアートあるいはカルチャーでなにか惹かれるものはありますか?

プリンス・ウィリアム:音楽にもアートにもすごく魅了されているよ。マイルスは日本のアニメーションが好きだよね。僕はコンピュータ・グラフィックスが好きだ。

マイルス・マルチネス:日本のアートだと草間弥生や森万里子が好きで、日本のアニメもたくさん好き。広告もいいし、ヴィデオ・ゲームとかも。全体的に、ファッションもデザイナーもいい。葛飾北斎なんかの古典的な美術も好きだよ。

プリンス・ウィリアム:プリクラも。

マイルス・マルチネス:プリクラ、いいね。

プリンス・ウィリアム:音楽なら、坂本龍一のことは〈FTM〉のみんなが大好きだよ。YMOのこともね。とても大きな影響力があるよ。つまり何が言いたいかというと、日本のテクノロジーに惹かれるんだ。

マイルス・マルチネス:YAMAHAとかシンセサイザーとかね。

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インターネットの文化にはさまざまな問題も感じている。たくさんのリサイクルで溢れているし、多くの人びとが好きなだけ情報を享受しているばかりで、自分から何かを還元している人は少ないよね。その状況には文化的に何か問題がある気がするんだ。

なるほど。テクノロジーについてはまたのちにお訊きしますが、その前にまず〈FTM〉のヴィジュアル面を大きく担っているサブトランカの活動について聞かせてください。ちょっと気になっていたんですが、ジャム・シティのヴィデオを手がけたのはあなたの相方であるダニエラ(Daniela Anastassiou)ですか? 変名かなと思ったのですが。

マイルス・マルチネス:あれは違うんだ。僕たちはングズングズ(Nguzunguzu)マサクーラマン(Massacooramaan)のヴィデオを手掛けていて、〈FTM〉以外ではSFのショート・フィルムをサウンドトラックまで手掛けて、小規模な映画祭で上映したこともあるよ。

〈REVOLVER FLAVOUR〉でもライヴですばらしいVJをしていましたね。以前にジェームス・フェラーロやインクのメンバーのライヴでもマッピング映像を披露しているそうですが、そういった上映作品はウェブにアップなどして公開しないのですか?

マイルス・マルチネス:僕たちは変人だと思われるかもしれないけど、レアなライヴの感覚が好きなんだ。サイバー・カルチャーには深く入れ込んでいるし、影響を受けてはいるんだけど、僕たちはインターネットに対して懐疑的でもあって、オンラインだと簡単に見過ごされてしまうこともある。だから僕たちはライヴ・ヴィジュアルにこだわって、体験としてレアでありたいんだ。変なことかもしれないけど、それが自分たちにとってここちよいやり方なんだ。

プリンス・ウィリアム:僕はそれがクールだと思うけどな。

〈FTM〉はウェブサイトをとてもアーティスティックに作っていますし、コンピュータ・グラフィックによるアート・ダイレクションも、インターネットにおける情報の無茶な重層感/合成感といいますか、テクノロジーのごった煮感が強く表れていると思いますが、それでも同時にインターネットに対して懐疑的になるのはなぜでしょう?

プリンス・ウィリアム:インターネットは定義上、現れては消えて、臨時的だから。僕たちはクラシックな瞬間を作りたいんだ。それにとても言いたいのは、僕たちがおなじ部屋にいて初めておなじ瞬間をいっしょにわかちあっているという共通の体験を大切にしたいということだよ。ヴュアーの類としてではなくね。

マイルス・マルチネス:インターネットの文化にはさまざまな問題も感じている。たくさんのリサイクルで溢れているし、多くの人びとが好きなだけ情報を享受しているばかりで、自分から何かを還元している人は少ないよね。その状況には文化的に何か問題がある気がするんだ。もちろん僕はインターネットを愛しているよ。たくさんのひとが色んなものを見れるし、それは偉大なことだと思う。でも、レコードを手にして初めてアートワークを見る事ができたり、映画館に行かないと作品を見れない事だったり、現実世界のそういう制限的、だけど経験的な部分に僕は強く惹かれるんだ。たくさんのものがコピー&ペーストされていくインターネットとは違って、新譜のレコードを実際に手にするあの瞬間のような、その経験自体を僕はクリエイトしたいと思っているから。

プリンス・ウィリアム:タンブラーのことは知ってるでしょ? みんなが素材を拾って、再投稿する。そこでは新しいものを作らなくてよくなる。クリエイトするエナジーを使わないかわりに、「これイイネ!」「あれいいね!」ってライクすることでリサイクルにエナジーをつかっているだけなんだ。なにかを作っている気になれるのかもしれないけど、実際には借りているだけだ。それじゃあ新しいコンテキストは生み出せない。

マイルス・マルチネス:インターネットはたくさんのものを見れるかもしれない。それはたしかにクールなことだ。でも、僕たちはミステリーが好きだし、ミステリアスでいたいんだ。ファティマ・アル・カディリ(Fatima Al Qadiri)もングズングズも一目見てミステリアスでしょう。人知れぬ存在というか。

プリンス・ウィリアム:そう、僕たちはアンダーグラウンドを愛しているんだ。とても実験的なエッジ(力)として。

なるほど。〈FTM〉は、ポスト・インターネット的な意匠が共通していながら、現状いかに面白い素材を拾ってきてリサイクルできるかを匿名で競っているヴェイパーウェイヴとはまったく逆の哲学を根源でお持ちなのですね。
 〈FTM〉のレーベルを強く印象づける要素としてアートワークがとても大きな役割を果たしていると思います。サブトランカとはどのようにして手を組むことになったのでしょうか?

プリンス・ウィリアム:レーベル初期のアートワークはエズラ(キングダム)が担当していて、彼はコンピュータ・グラフィックのとてもクラシックなスタイルをとっている。マサクーラマンのアートワークの真んなかにあるオブジェなんかにそれが現れているね。ただ、彼も音楽にフォーカスしていくうちに時間が限られていってしまったんだ。マイルスはングズとも親友だったんだよね。

マイルス・マルチネス:ングズの作品はファーストEPからアートワークを担当しているよ。

プリンス・ウィリアム:当初〈FTM〉のアートワークを写真だけで作ろうと思っていたんだけど、イメージ通りにはいかなかったんだ。そこで3Dグラフィックをデザインできるひとを探しているところに、ングズと仲のよいマイルスたちサブトランカがいたんだ。自然な運びだよ。マイルスと初めて会った時からもうファミリーみたいに打ち解けたんだ。エズラがアート・ディレクターみたいなもので、マイルスはとてもコンセプチュアルなアイディアにもとづいたデザイナーでありクリエイターだ。エズラがちいさなアイディアをもっていたとして、マイルスはそれを実現に導いてくれる。

マイルス・マルチネス:最近はファティマの『デザート・ストライクEP』のアートワークを担当したり、ボク・ボク(Bok Bok)から『ナイト・スラッグス・オールスターズ・ヴォリューム2』の依頼も受けたりしているよ。

サブトランカのツイッターの背景には写真がたくさん並べてありましたが、あなたのアートワークの基礎には写真があるということなんですね。

マイルス・マルチネス:僕はヴィジュアル・アートやフォトグラフィーやペインティングや3Dを主に学んで、相方のダニエラ・アナスタシアはアニメーションなど映像が基礎にあるんだ。僕はもともと映画業界で働いていたこともあったし、ウィル(プリンス)は写真を勉強していたり、それぞれみんなの背景があって現在のアートワークがかたちつくられているんだよ。僕のアートのコンセプトは「現実と非現実のブレンド」から来ているんだ。

プリンス・ウィリアム:僕たちは「現実と非現実」の狭間にいるね。

〈ナイト・スラッグス〉もしかり、〈FTM〉も唯物的でフューチャリスティックなテクノロジーをアートワークの題材に用いていると思うのですが、それはどういった思想に基づいているのでしょう?

プリンス・ウィリアム:そうだなあ。僕たちは「いま」を生きなければならない。僕たちはクリシェとしてのレトロな音楽をつくりたくはないんだ。いまを生きている僕たちはたしかに過去から影響を受けているけども、僕たちがはじめてガラージやグライムを聴いたときのような衝撃を――音楽の原体験をファンに与えたいんだ。でもそれらを真似したり、おなじことを繰り返したくはない。そのとき、テクノロジーというのはコンテンポラリーであることの大きな要素ではあるよね。でも同時に、最新のシンセサイザーだけを使うわけではない。もちろん、ヴィンテージのサウンドも使う。ヴァイナルのほうが音がよいのもおなじで、過去からのものを活かすこともする。そう、僕たちのコンテクストで意味を成すことが大事なんだ。

マイルス・マルチネス:過去と現在の状況から何かを想定出来るという意味では、フューチャーという概念はすごく面白いと思う。

プリンス・ウィリアム:でも「いま」であるいうことはやっぱりすごく大切で。先進的であるという事ももちろん大切だけれども、リリースする作品は常に今を意識しているし、リスナーにも今好きになってほしいと思っている。2年後に再評価されるとかそういう物ではなくてね。とても難しい部分ではあるのだけれど、そういったバランスを大切にしながら、つねにイノヴェイティヴでいたいんだ。

マイルス・マルチネス:ただただ物事を先に進めて行きたいと思っている。前進だね。

プリンス・ウィリアム:そう、前進していくんだ。ただ、フューチャーという言葉はいまではレトロの文脈で使うことが多いよね。70年代とかクラシックなSFとかが持っていた「どんなことが起こり得るか」の想像力を愛してはいるけど、僕らはやっぱり現代に強く根ざしているし、〈FTM〉の哲学は「いま」(now)だよ。

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僕たちは「いま」を生きなければならない。僕たちはクリシェとしてのレトロな音楽をつくりたくはないんだ。いまを生きている僕たちはたしかに過去から影響を受けているけども、僕たちがはじめてガラージやグライムを聴いたときのような衝撃を、音楽の原体験をファンに与えたいんだ。

なるほど。未来的なイメージとの差異から現代(いま)を浮かび上がらせるということでもあるのでしょうか。
 それでは、レーベルそのものについて話を伺いたいと思います。〈FTM〉は、ロンドンのボク・ボクらによる〈ナイト・スラッグス〉の姉妹レーベルとしてLAで運営されていますね。まず、ングズングズをリリースをしたいということから〈FTM〉が始まったというのは本当ですか? 

プリンス・ウィリアム:そのとおり、それがとても大きな理由だね。彼らは最初のEPをフリーでリリースしていた。色んなバンドをリリースしているレーベルからオファーがあったみたいだけど、旧いコンテキストのうえで紹介されて理解を得られないんじゃないかと僕たちは心配だった。だから僕たち自身のコンテキストを作ったんだ。それにングズングズとマイクQ(Mike Q)が〈ナイト・スラッグス〉の色とは違っていたのもあって、キングダムと手を組んで〈FTM〉を立ち上げてレコードを出すことにしたんだ。
 それまで僕はブログをもっていたから、それをつかってレーベルをやろうとしていたんだ。例えば、ガール・ユニット(Girl Unit)はとてもシャイだったから当時隣の家に住んでたのに初期のデモ音源をボク・ボクに直接送れなくて、僕に渡してきたから、それを僕がボク・ボクに「これを聴くべきだよ」って繋いだんだ。だからもしそのとき僕がレーベルをはじめていたら、きっとガール・ユニットやキングダムと契約していただろうね。
 その年に〈ナイト・スラッグス〉がはじまっていい仕事をしはじめて、僕たちは「オーケー、僕たちの出る幕はないな」と一旦は思ったんだけど、まだやる余地があるのを見つけたんだ。
 そうして〈FTM〉は〈ナイト・スラッグス〉を基にして生まれたんだ。アレックス(ボク・ボク)がロゴをデザインしてくれたり、ミキシングやマスタリングなどのすべてにおいて彼から学んだんだ。リリースする作品に関しても彼の意見を常に参考にしていたよ。

ボク・ボクとはどのようにして出会ったんですか?

プリンス・ウィリアム:インターネットだよ。マイスペースを通してだね。キングダムは当時デュオでDJをしていたボク・ボクとマナーラ(Manara)に出会ったんだ。キングダムはガラージや2ステップやグライムといったイギリス発の音楽にとても大きな影響を受けていて、ボク・ボクたちはサザン・ラップやアメリカ発のクラブ・ミュージックに影響を受けていた。お互いの国のカルチャーへの興味が交差して、その強いコネクションがあってそれぞれのサウンドが築かれていったんだ。

〈FTM〉とおなじくングズングズやファティマ・アル・カディリをリリースしている〈ヒッポス・イン・タンクス〉や〈UNO NYC〉など、他のレーベルとはなにか交友関係があるのでしょうか?

プリンス・ウィリアム:〈ヒッポス・イン・タンクス〉のバロン(Barron Machat)はいい友だちなんだ。でも他の多くのレーベルもそうだけど、バロンもレイドバックしてるんだ。ングズングズがデモを送っても彼はそれを受け取るだけだった。でも僕たちはフィードバックを返して、ミックスに入れたり、好きなレコードをプレゼントしたりした。〈FTM〉は他のレーベルと違ってデモを受け取ってリリースするだけじゃないんだ。アーティストをプッシュして、彼らによりよいものを作ってほしいと思っている。僕らはアーティストのために働きたいし、リリースに際してたくさんのエナジーをつかうよ。お金や資源を投じるだけじゃなくてね。〈ヒッポス〉のようなレーベルと僕たち〈FTM〉の契約するときの違いはそういうところかな。〈UNO NYC〉もレイドバックしてるからね。でもどちらが正解ということじゃない。〈FTM〉にはクリエイティヴなプレッシャーがあるんだ。アーティストにはクリエイトする環境で生き抜いてほしいから。だから、ほかのレーベルとは違うシステムで動いていると思う。
 〈FTM〉と〈ナイト・スラッグス〉はふたつでひとつのレーベルだと思う。僕たちはビヨンセやリアーナ、クラシックなR&Bに大きな影響を受けている。エモーショナルな歌が大好きだ。ブレンディーのレコードは去年のお気に入りだな。ジェシー・ウェアもわるくないけど、彼女の場合はスタイルに重きがあるよね。僕はエモーショナルなものが欲しい。メアリー・J. ブライジのように。

「フェイド・トゥ・マインド(心へとりこまれる)」というレーベル名はプリンスがつけたそうですね。レーベル・コンセプトについてキングダムはクラブ・ミュージックに心を取り戻すと語っていたと思うのですが、つまりそれまでのクラブ・ミュージックに対する批評的な視点があるということでもあるのでしょうか? また、レーベルをスタートさせてから2年経ちますが、現状どのような感想をお持ちですか?

プリンス・ウィリアム:それはちょっと誤解で、僕たちはそれまでのクラブ・ミュージックに対して不満があったわけではないよ。レーベル名の意味については、ただ僕たちがやりたいこと――クラブにソウルを吹き込みたいということを語っているだけだよ。エズラ(キングダム)はとてもスピリチュアルでミスティカルな人間なんだ。メディテーションに興味があって、「身体の外の経験」――すなわちそれが「フェイド・トゥ・マインド」なんだ。そこにクラブ・ミュージックがあるとき、人びとにソウルフルな体験を味わってほしい。僕たちはクラブに/リスナーにエナジーを注ぎこみたい。朝の起き抜けに音楽を聴いて起きたり、夜の疲れているときクラブに行ったりするでしょう。僕たちはそういうものを欲しい。ハイエナジーな音楽を。

さきほども挙げられていたガラージや2ステップなど、なぜイギリスの音楽に惹かれるのでしょう?

プリンス・ウィリアム:繰り返しになるけども、僕たちはただイノヴェイティヴなレコードを作っていく。けれど、それと同時に一般的な人びとやストリートにもアピールしたいと思っている。人びとがソウルフルになれる実験的なクラブ・ミュージック――たとえば、グライムはとてもクリエイティヴでイノヴェイティヴだ。さまざまなジャンルに派生していける可能性も秘めていたしね。
 全体的にイギリスの音楽は、ソウルフルでありながらとても冷たい、温かいのにハードなんだ。驚くべきバランスで成り立っている。ロンドンにはとてつもない緊張感があって、それがすばらしい音楽を生み出しているんじゃないかな。そういうところに影響を受けているね。トレンドが移り変わって、リアクションがあって。イギリスの音楽はヴォーカルやアカペラをまったく色の違うトラックに乗せたりするけど、ヴォーカルを新しいコンテキストに組み込むというのは僕たち〈FTM〉にとっても設立時からずっと鍵であるアイディアだった。それもあって、ケレラ(Kelela)のようなオリジナルなシンガーをレーベルにずっと迎えたかったんだ。

イギリスの音楽というところで、ブリアルやアンディ・ストット、また、国は違いますがR&Bのハウ・トゥ・ドレス・ウェルなどにはどのような感想をお持ちですか?

プリンス・ウィリアム:僕はとても〈ハイパーダブ〉に影響されたけど、もっとエネルギーのあるレコードを好んでいたから、ブリアルを最初聴いたときはチルな感触がマッシヴ・アタックのようなトリップ・ホップのように感じられた。そんなにプレイすることもなかったし、おおきな影響を与えられた存在とは言えない。エズラ(キングダム)はヴォーカルのマニピュレーションがとても評価されているけど、どちらかというとドラム・ン・ベースからの影響が強いね。
 アンディ・ストットはどんな音楽なの? 知らないな。
 ハウ・トゥ・ドレス・ウェルよりも、僕はインク(Inc.)の方が好きだ。近しい友だちでもあるしね。
 僕は音楽においてダイナミクスが聴きたいんだ。ただ悲しいものだけじゃなくてね。僕たちの音楽は、悲しかったり、ハッピーだったり、ハイエナジーだったり、すべてがひとつの瞬間に起こる。でもハウ・トゥ・ドレス・ウェルはとってもとっても悲しくてとっても沈んでいるよね。沈みっぱなし。彼のプロダクションとかサウンドは好きなんだけど、僕は音楽にアーク(弧)が欲しいんだ――クラシカル・アーク――『クラシカル・カーヴ』さ。

(一同笑)

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〈FTM〉と〈ナイト・スラッグス〉はふたつでひとつのレーベルだと思う。僕たちはビヨンセやリアーナ、クラシックなR&Bに大きな影響を受けている。エモーショナルな歌が大好きだ。ブレンディーのレコードは去年のお気に入りだな。ジェシー・ウェアもわるくないけど、彼女の場合はスタイルに重きがあるよね。僕はエモーショナルなものが欲しい。メアリー・J. ブライジのように。

ングズングズも含め、〈FTM〉のみなさんのDJプレイはダンスを強く希求するハイエナジーなものでした。本誌でも工藤キキさんが〈GHE20G0TH1K〉(ゲットーゴシック)の客のファッションについて「90'Sのレイヴの独自の解釈?」と表現していましたし、PROMの甲斐さんも「まるでレイヴだった」と話してくれました。あなたたち自身は、たとえばかつてのレイヴ・カルチャーないしはセカンド・サマー・オブ・ラヴに対して憧憬はありますか?

マイルス・マルチネス:僕個人的にはオリジナル・クラブ・ミュージックというのは、ヨーロッパではなくアメリカ発祥のそれであって、シカゴ・ハウス/シカゴ・ジューク/デトロイト・テクノなどかな。初めて好きになった音楽はヒップホップで、それからすこし違う文脈でハウスやテクノを知るようになった。

プリンス・ウィリアム:僕も初めはヒップホップから入ってデトロイト・テクノのようなものを知った。でもエズラはまったく違くて、彼はヨーロッパのクラブ・ミュージックに入れ込んでいた。彼も僕もドラムンベースは大好きだし鍵となる影響を受けているし、ドラムンベースは僕のなかでヒップホップとテクノとを繋いでいる橋なんだけれど、僕がヒップホップに入れ込んでいる一方で、エズラはR&Bに入れ込んでいた。ラジオでかかる音楽を実験的なテリトリーに引き込みたいというアイディアがあったんだ。ヨーロッパの国営放送では実験的なレコードがかかるよね。それはただのポップではない。アメリカのラジオは崩壊したシステムで成り立ってる。DJに金を払わなければいけない。良いレコードをつくってラジオでかけてもらうということがアメリカではありえないんだ。
 はじめてレイヴが起こった頃に僕は14歳だったし、レイヴはヴィジュアル面でとてつもなく大きい影響があったこともたしかだ。フライヤーとかモーション・グラフィックとか、エズラもアート・ダイレクションにすごくレイヴカルチャーの影響を受けているよ。

マイルス・マルチネス:そう、そのとおり。

プリンス・ウィリアム:でも同時に、90年代のレイヴ・カルチャーは逃避主義的すぎた――ディプレスやデジャヴからの逃避。僕らはひとびとに触れあいがあってほしいし、「いま」を生きてほしいんだ。クラブの外に出たとき自分たちがどこにいるのかを認識してほしいんだ。なにも日々の仕事から離れさせようとか落ち込んでいるのをカヴァーするとかではなく、僕は気分の沈みをクリエイティヴィティに変えるのを助けたいんだ。僕らのメインドラッグは珈琲だよ(笑)。

カフェインもなかなかですからね。プリンスはコンセプトについて語ると一貫していますし、〈FTM〉が逃避ではなく、いま現実を生きる活力としてのダンスを主張しているというのがよくわかりました。それでは、最近聴いた音楽でよかったものと、うんざりしたものを教えてください。

プリンス・ウィリアム:インク。インクだよ。僕たちのもっとも好きな音楽だし、とてつもない影響をもらっているし、新しいアルバム『ノー・ワールド』はつねに車でプレイしている。
 不満をいうなら、トラップだね。あれはカウンター・カルチャーじゃないと感じるし、事実あれはアメリカのラジオでかかっている。たとえば、ビヨンセがトラップに乗った音楽がある、一方でトラップのインストゥルメンタルだけの音楽がある。どっちがほしいだろう? 僕はビヨンセが欲しい。わかるかな。僕はトラップのインストじゃなくてビヨンセがあればいい。それにトラップはサザン・スタイルのヒップホップだ。でも南部じゃないひとたちがたくさんトラップを作っているでしょう。そんなのはリアルじゃないよ。ただのトレンドだ。

マイルス・マルチネス:僕はDJラシャドが好きだな。新作はもちろん、古いのも。クドゥーロも好きだし、グライムも好きだし......なんていうかな。

プリンス・ウィリアム:マイルスはとてもポジティヴだからね。

マイルス・マルチネス:はは(笑)。好きじゃないものは聴かないから。音楽雑誌も読まなくなったし、欲しいものをは自分で探すようにしてる。僕はングズングズが大好きだし、ジャム・シティもキングダムもファティマ・アル・カディリも......シカゴの音楽も、マサクーラマンも、E+Eとかも...とにかく友達はすばらしい音楽を作るし、それが好きなだけだよ。

それでは最後の質問です。あなたたちが日本にくるまえ、2年前に、震災と原発の事故があったことはご存知ですよね。日本国内の市民である僕たちでさえ安全だとはとても言えないのですが、そんななか自国を離れ、わざわざ日本に来るのは不安ではなかったですか?

マイルス・マルチネス:この世界では日常的に汚染だとか放射線とか僕たちにはわからないクレイジーなことが起きているし、いつも死に向かっているようなものだよ。それに、日本にはいつだってまた行きたいと思う場所で、それは事故のあとも変わらないよ。

プリンス・ウィリアム:僕が思うに、〈FTM〉は恐れではなくポテンシャルによってここまで来ることが出来た。僕らのクルーが恐れについてどうこう話をすることすらないよ。日本はすばらしい場所だし、いつだってサポートしたいと思うカルチャーがある。アメリカでもカトリーナのあとのニュー・オリーンズとおなじで、僕たちはそこに行ってお金を回してカルチャーを取り戻したいと思ったし、実際、日本の経済的な状況は前に来た時よりもおおきく変わったのを今回は肌で感じることもできた。
 ストリート・カルチャーもおおきく変わったね。前に来日した時はコンビニに入れば『smart』とかストリート・ファッションの雑誌がたくさんあった。でももうそういうのが見られないよね。ストリート・カルチャーはもっと狭くなってしまった。みんな年を重ねてソフィスティケイトされた。でもそれは悪いことじゃなくて、ただシフトが起こっただけだと思う。
 とはいえ、実際に住んで生活をしている人とアメリカにいる僕とでは経験としてまったく違うのだろうと思う。(311の頃)日本の友達にはすぐ電話したんだけど、僕はとても心配だったよ。
 災害時にすぐにメディアがポジティヴな話題に切り替えたり、人びとの間で実際に被害の話ばかりするのが良くないという風潮があったというのは、やっぱり日本の文化的な面も大きいと思う。そこには悪い部分もあるかも知れないけれど、僕はそれは日本の良い部分でもあると思うんだ。恐れの話をしてもしょうがないというときもある。それはポテンシャルと自信を生む事もあるし、このように気の利いた社会というのはそういうメンタリティによって支えられているとも思うんだ。だから僕たちはまた機会があれば日本に来たいし、出来る限りサポートしたいと思っている。ここの文化からはすごく影響を与えられているから。

なるほど。これからも〈FTM〉を躍進させて、僕たちを思いっきり踊らせてください! ぜひまたお会いしたいです。今回はありがとうございました。

すでに伝説だ - ele-king

 嵐で中止を余儀なくされた伝説の1回目、私と野田さんと三田さんと磯部くんでネット中継による開演前の前説を行い、果たしてこの巨大な会場が埋まるんだろうかと抱いた不安が杞憂に終わった2回めを経て、3回目となるフリー・フェスティヴァルを、ドミューンは、宇川直宏は「FREEDOMMUNE 0 〈ZERO〉 ONE THOUSAND 2013」と銘打ち今年も開催する。
 すでにご承知の方も多いと存じますが、第1弾ラインナップでペニー・リンボーが登場すると聞いたときはさすがに魂消たが、第2弾は瀬戸内寂聴氏であることを知ったときは尻子魂を抜かれる思いがした。アナーコ・パンクの雄、というか、言葉そのものであるCRASSについては、昨年ジョージ・バーガーの同名書が日本語で読める彼らの足跡を詳述して、どうせなら再結成して来日とかしないかと念じていたが、CRASS名義ではないもののペニー・リンボーがイヴ・リバティーンといっしょに来るとなると、CRASSの表現に少なからぬ恩恵を受けた、心ある音楽ファンはアガるなというほうがムリである。しかもその次に天台宗名誉住職にして小説家の瀬戸内寂聴さんが出るとなれば、島に住んでいる私の母もあわててパソコンを買いに走ったくらいだ。

 フリードミューンの特設ページではいまのところこのふたりの出演の告知のみだが、この絶妙な異化効果は、フェスティヴァルを組織する行為そのものが宇川直宏の作品であることも意味している。とはいえ、CRASSのアナーキズムその可能性の中心にあるものが暴力や闘争ではなく――古くさい言葉だが――友愛であるなら――それはパンクの遺構などではなく、DIYの先年王国主義なのかもしれず――飛躍を承知でいえば、それはそのまま瀬戸内寂聴氏にもあてはまるものであり、私たちは彼らの法話から、昨年の明け方のマニュエル・ゲッチングの"E2-E4"に感じたのと同じ、いやそれ以上の法悦を得るだけでなく、マーガレット・サッチャー亡き後の世界の狼煙を、幕張に集うひとたちだけでなく、回線でつながった全世界から東北の地に向けてあげることにもなるだろう。


■東日本大震災被災地支援イベント
DOMMUNE FREE FESTIVAL
FREEDOMMUNE 0 〈ZERO〉 ONE THOUSAND 2013

■日時:7月13日(土)
■場所:幕張メッセ
■時間:17時開場~翌朝5時
■URL:https://www.dommune.com/freedommunezero2013/

Mount Kimbie - ele-king

 ダフト・パンクが新作でジョルジオ・モロダーをわざわざ呼んで喋らせているのには呆れたが、それでもオーセンティックなディスコ・サウンドに乗せて「私の名前はジョヴァンニ・ジョルジオ」と彼が告げると、その瞬間は反射的に興奮しなくもない。が、その次の瞬間、我に返りもする。そこには終わっていくものに対しての共犯意識が作り手と聴き手のあいだに予め用意されているかのようで、その意味であのロボットたちは変わらずシニカルだ。彼らが作った映画『エレクトロマ』の死のイメージを思い浮かべたりもする。そんなアルバムが現象的に世界で大ヒットするのは、何とも皮肉めいている......と思う(そしてそれをアンビヴァレントな気分で楽しんでしまう自分もいる)。

 同じ日に買ったマウント・キンビーのセカンド・フルに当たる本作には......そういったアイロニカルな地点から素早く自然と身をかわすかのように、これから生まれゆくもののざわめきが息づいている。ポスト・ダブステップの三大エースであるジェイムス・ブレイク、ダークスター、そしてマウント・キンビーがブリアルの「ゴースト」というモチーフをデビュー作で引き継ぎながらも、2作目においてそれぞれのアプローチで歌へと向かっているのは、歪められた声のサンプル、亡霊や死のイメージと訣別していくかのようだ。飛躍かもしれない。だが確実に、ドミニク・メイカーとカイ・カンポスのふたりはここで、過ぎ去ったことを振り返ろうとしていない。
 誰もが指摘するようにバンド・サウンドや生楽器の大々的な導入、そして歌......が根本的な変化ではあるものの、楽曲の構成要素自体が『クルックス&ラヴァース』と大きく異なっているわけではない。クリック音が粒になって転がるようなビート、控えめながらダビーなベースライン、メランコリックな和音やメロディ。ダブステップと地続きの不穏なムードからも、ダークスターほど離れたわけではない。だが、キング・クルーが独特のダルそうな節回しで歌う2曲目の"ユー・トゥック・ユア・タイム"はどうだろう。抽象的な空気を生み出すシンセ音が浮遊するなか、ギターとドラムの生音が慎重に寄り添い、やがて声の主はそのエモーションを狂おしく低音へと変換する。ポスト・ダブステップという言葉ではもはやカヴァーしきれない範疇まで足を踏み入れているし、そしてまた、IDMとテクノとダブステップとシンセ・ポップのどこにも収まろうとしていない。そもそも94年生まれのシンガーソングライターであるアーチー・マーシャルを召喚する姿勢からして、マウント・キンビーは一貫していると言えよう......これからの可能性しか見えていないのだ。もう1曲、彼が出現する"メーター、ペイル、トーン"もまた、ブリアルとボーズ・オブ・カナダの血を引き継いでいることを自覚しながら、彼らとは違う領域で......よりバンド・サウンドのフォーマットを駆使しながら、憂鬱とも倦怠とも言い切れないフィーリングに聴き手を陶酔させる。
 アルバムでは、可能な限り様々な試みをしているようだ。彼ら自身が歌うムーディなシンセ・ポップがあれば("ホーム・レコーディング")ダブステップもあり("サラン・グラウンド")、ギター・ロックとシンセ・ポップとIDMを足して割り切らないようなインスト・ナンバーもあり("ソー・メニー・タイムス、ソー・メニー・ウェイズ")、マッシヴなビートの上でフュージョンとアンビエントを同時にやっているようなトラックもある("スロウ")。そしてまた、それらは「これで完成」というフォルムを作っていないように思える。アルバムのなかでもっともよく出来ているトラックはおそらくファースト・シングルとなったハウシーなダンス・ナンバー"メイド・トゥ・ストレイ"だろうが、それにしたって、キャッチーな歌が入りこれから盛り上がりそうなブレイクを挟んだところで、しかし4分台であっさりと終わっていく。ふたりはお決まりのパターンを拒みながら、音の興味の対象を一枚のなかで性急に移していく。
 メランコリックではあるが、同時に喜びに満ちた作品だ。マウント・キンビーは自分たちの得意とするところを発展させながらも、それをも侵食する挑戦に身を投じ、そのせめぎ合いこそを楽しんでいる。「ポスト~」としか説明できなかった場所から現れた才能たちが、なおも名づけられない荒地へと勇敢に進んでいる。その姿には、曇りのない興奮を覚えずにはいられない。

vol.51:オタクはヒップスター? - ele-king

 先週はアーヴィング・プラザ(Irvingplaza.com)という比較的大きめの会場に、アナマナグチという8ビット・パンク・ポップ・ダンス・バンドを見に行った。

 メンバー4人、ニューヨーク・ベースの彼らの特徴を上げる:「蛍光色」「アニメ」「ヴィデオゲーム」「ライトアップ」「かわいい」「おたく」
 サイト(https://www.anamanaguchi.com)からもわかるように、彼らには、たくさんのこだわりとアイディアがある。それに同意する人がいかに多いのかという結果として、最新アルバム「endless fantasy」を作るためにキックスターターで、189.529(=200万弱)をレイズした(https://www.kickstarter.com)。

 会場は、半分がおたく男子(ナード、ギーク、でもスタイリッシュ)。彼らに向ける声援もアイドルのようだ。目を閉じるとゲーム音楽が流れ、目を開けると蛍光カラーのライトが反射するステージが飛び込んでくる。
 このライトに関して言うと、ベースのジェイムス(彼のベースの弦は、4色とも蛍光カラー、ネットで購入したらしい)は自分の家の地下室にライト研究室を持つぐらい、蛍光ライトにこだわり、さらに映像と音のシンク、ステージでのプレゼンテーション全てをケアしている。ギターのアリーは、蛍光グリーンの髪に(最近黄色から変えた)、蛍光オレンジのキャップ、蛍光ピンクのTシャツに、蛍光イエローのギターで、見た目はアニメキャラ。

 メンバーが着ていたのは、ブルックリンのファッション・レーベルRHLS/ルフェオ・ハーツ・リル・スノッティ(https://rhls.com/)、ウィリアムバーグ・ファッション・ウィークエンドでもおなじみの彼らは、アナマナグチと同じ世界観、ファンタジーの世界を生きている。ウィリアムズバーグにmovesというコンセプトストアも運営している(https://movesbrooklyn.com/)。

 基本インストなのだが、ゲスト・ヴォーカルが入る曲もある。今回は、アイルランド人の女子(歌が下手なきゃりーぱみゅぱみゅ風)と、女性R&Bシンガーがアナマナ好みにサンプリングされていた。ライヴの最後には、今日の観客から引っ張り出されたような、ヒップスター女子ふたりが登場(柄物レギンスにボーイフレンドT)、歌い終わったあとは、客席へダイヴするのだった。
 彼らの音楽は、アメリカのアタリや日本の任天堂、サブカルのごちゃ混ぜ感を、音楽+映像をプラットフォームに表現している。インディ・バンドのように心に訴えかける力やハングリー感はないが、音楽に対する熱意やアイディアは相当ある。オタクというと気持ち悪いというイメージもあるだろうが、新世代のオタクはヒップスターなのだ。バンドというフォーマットにこだわらず、自分が操作できる装置を使って、自分たちの娯楽を作っている。



 このショーを見ながら、私はオブ・モントリオールを思い出した。どちらも現実を忘れさせるほど、ファンタジーの世界を捻り出している。ヴィジュアルやステージでのパフォーマンス、ライティングに定評があるが、その裏では果てしない奮闘を繰り広げている。
 ちょうどアナマナグチのショーの3日後に、オブ・モントリオールを見たのだが、ステージを盛り上げるゲスト(シアトリカル・パフォーマー、女性ヴォーカリスト)、ライトショー(白い布を来た人がステージの中心に立ち、そこに映像が当てられる)など、音楽以外にさまざまなおまけが付いてきて、アナマナグチよりストーリー性を感じた。
 ライトショーは前回もあったが、今回は人の体のラインや形によってライトの当て方を変え、まるで動くプラネタリウムを見ているようだった。新曲からヒット曲をまんべんなくミックスし、全曲スムースに進む。まったくソツがない。
 バンドとして全体を見たとき、勢いなのか、新しいことをやっているワクワク感なのか、アナマナグチの方にパワーを感じたが、オブ・モントリオールは経歴も長いし、今回のツアーも後半に差し掛かっている。そこを差し引いても、オブモンはオーディエンスを楽しませること、アナマナグチは自分たちが楽しむことをいちばんとしているように思えた。
 オブ・モントリオールはその足で、日本(6/1タイコクラブ)に行くので、多くの人に是非ライヴを体験して欲しい。

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