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Sylvester Anfang II

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VHK

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Galloping Coroners Bite the Stars!

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倉本 諒 May 30,2013 UP

 先日、シルヴェスター・アンファングIIとしても活動するベルギーのヘルヴェトことグレンに教えてもらって度肝を抜かれたタイのチンドン屋バンドのYoutubeをまずは見てもらいたい。

 まったく覇気の感じられないメンバー、チンドン・サウンド・システム、何だか妙に儀式じみた周囲の状況、そして何より言語の隔たりによって何も詳細がわからないことが僕に与えるロマン、どうやら最近また持病のアモン・デュール症候群がぶり返してきた僕は完全に心を奪われてしまった。
 じつを言うと現在まで僕にこの病の自覚症状はなく、かなり最近になって他人からそれがすでに手の施しようがないほど進行していることを知らされた。出羽三山での山伏修行の体験談、カスタネダの夢見の実践を試みていた学生時代の恐怖体験などと音楽的嗜好を打ち明けた相手の多くにそれが重度のアモン・デュール症候群であることを診断されたのだ。

 時として社会生活に支障をきたす(注釈:1)この病は、現代の日本において認知度が低く、患者の多くが困難を抱えているのが実状だ。そういった意味ではベアボーンズ・レイ・ロウことエルネスト・ゴンザレスやヘルヴェトことグレン・ステンキステらの僕以上である重傷患者のコミュニティであるベルギーのシルヴェスター・アンファングIIは画期的な治療法とリハビリテーションを提案し、多くの患者に希望を与えていると言えよう。そう、ことヨーロッパにおいてのアモン・デュール症候群への関心は高く、ゆえに非常にさまざまな処方が普及しているのだ。フィンランドのサークルは最たる成功例のひとつだ。

 サークルは90年代初頭から活動する本国においてはかなりのポピュラリティーを得ているクラウト・ロック・スターとも言える超重傷患者集団だ。各メンバーのサイド・プロジェクトやソロを含め自らをNWOFHM!(注釈:2)と称し、死ぬまでクラウトし続けるであろう狂気のスタイルを掲げている。カントリーからブラック・メタルまで古今東西のあらゆる音楽(アルバムごとに異なるひとつのジャンルをピックアップして)を全力でクラウト・ロックしてみるという超絶スキルに裏打ちされた圧倒的強引さを、NWOBHMよろしく80'sヘアー・メタルのトラウマから生まれた爆笑センスをもってして最高のエンターテイメントに仕上げているバンドだ。
 彼らが主催する〈エクトロ・レコーズ(Ektro Records)〉が老若男女のアモン・デュール症候群を含む永続的クラウト・ロック中毒症患者たちへ定期的に処方箋を与えてきた点も賞賛に値する。膨大な自分たちのプロジェクトからジャーマン・サイケの生ける伝説、伊藤政則氏も真っ青なカルト・ヘアー・メタルの再発まであらゆる患者の症状に応じて処方しているようだ。

 最近の強烈な処方箋は〈VHK(Vagtazo Halottkemek)〉......ってこんなもんカタカナにできるかよ。英訳で〈ギャロッピング・コロナーズ(Galloping Coroners)〉です......の最新作。この一見すると某中古レコード店のプログレ・コーナーで投げ売りされてそうなクソダサいジャケットのバンドは、実際に僕は某中古レコード店のプログレ・コーナーで投げ売りされていた同じようなクソダサいジャケットの前のアルバムをゲットして知っているのだけれども、彼等のバイオグラフィーによれば1975年頃にハンガリーのブタペストで結成され、本国やドイツでカルト的な人気を博したシャーマニック・サイケ・パンクバンドで彼等の呪術/超自然/神秘的なサウンドは万物の存在理由の宇宙的解釈である。初期はハンガリー政府からの圧力により10年以上の地下潜伏活動を余儀なくされたようだ。80年代中期頃からヨーロッパ・ツアーを積極的に開始し、当時共演したイギー・ポップやジェロ・ビアフラ、ヘンリー・ロリンズは彼等への驚嘆と賞賛を辞さなかったと言う(実際VHKのアルバムはオルタナティヴ・テンタクルスから2枚ほどリリースされている)。そしてこの度VHKは13年ぶりにスタジオ・フル・アルバム、〈Veled Haraptat Csillagot!(ヴェレ...英訳、バイト・ザ・スター!)〉を〈エクトロ〉からリリースする!
 と、これを書いて何だか妙に疲れたのだが、このツッコむのもバカバカしいほどのバイオ、バンド・イメージとこのオジサンたちの本気度、そしてそれを微塵も裏切ることのないまったく新しくないサウンド、そして何より理解できない言語の隔たりも含めすべてが多くの症状に苛まれる患者たちを治癒してくれることに間違えはあるまい。

 先のYoutube動画を見ながら改めて思うのは、この世に音楽的にも芸術的にも宗教的にも文化人類学的にも秘境などなく、すべてがフラットでのっぺりとした何だかになってしまっているのかもしれない......が、大切なのはそれに心を巡らせるロマンなのだ。これこそがこの病と恒久的につきあっていく最も大切な心得だ。

 ちなみにこのレビューは末期アモン・デュール症候群患者であるele-king野田編集長に捧げます。やっぱクラウト・ロック本も作らないですかね?


注釈:1
主に若年層の症例として挙げられる、定職につかない/やたらとコミューン思考が強い等の発作によって社会生活に困難を来す。

注釈:2
おそらくニュー・ウェーヴ・オブ・フィニッシュ・ヘヴィ・メタルだと思われる。重度の患者達はみな口を揃えて自分たちのコミューンに名を冠したがる傾向が報告されている。シルヴェスター・アンファングIIの連中が「Funeral Folk(フューネラル・フォーク)」と抜かしているように。

倉本諒