Home > Reviews > Live Reviews > THE GIRL, TADZIOほか- @新代田FEVER
DOMMUNEで「GOTH-TRAD特集」をやった翌日の晩、筆者はブルックリンのライヴハウスにいた......というのはもちろん嘘だが、沢井陽子さんが本サイトでレポートしているようなイヴェントにいた。2月14日、いわゆるヴァレンタインのチョコレートには縁のない筆者と小原泰広は、小雨の降るなか、3組のガールズ・バンドが出演する新代田の〈FEVER〉に向かった。「BATTLE AnD ROMANCE」という名前のイヴェントで、筆者のお目当てはタッツィオである。
7時になると最初のバンド、THE EGLLE が登場。ヴォーカル&ギター、ベース、ドラマーの3人組のガールズ・バンドで、「グッド・イヴニング」という英語の挨拶からはじまった。音は初期のキュアやデルタ5といった感じで、気だるいミニマルなビートとぺらぺらのギターが暗いムードを誘い、(オーディエンスとコミュニケーションをはかるというのではなく)引きこもりを思わせるヴォーカルが際だっている。〈4AD〉リヴァイヴァルとも重なっている雰囲気もあって、興味深い演奏だった。
この日の主宰者はきくりんと呼ばれていた21歳の青年で、長州ちから(28歳)という名前のパートナーと一緒にセット・チェンジの合間のDJとMCも担当していた。歌謡曲をかけたり、ヒップホップをかけたり、ハードコアをかけたり、意味がわからなかったが、とにかく陽気で、バカみたいにご機嫌な連中だった。ちょっとオタクっぽくも見えたが、絶えずツイッターをやっているようなタイプではなかったし、どこか20年前の小林を彷彿させた。「BATTLE AnD ROMANCE」の主題は? と訊いたところ「クロスオーヴァーであります」と21歳は語気を強めていたが、それは多くの自由時間をPCの前で過ごしているSNS世代への反発とも受け取れなくもない。
7時半を過ぎて、ステージにはタッツィオのふたりが登場する。いきなりラウドなノイズ・ギター、そのすぐ横ではドラマーがしっかりとリズムをキープしている。ルックス、そして演奏にもポップとノイズが衝突しているが、実に感覚的なこのバンドが素晴らしいのは、言葉に酔うことを拒むかのような衝動、その威力、その勇気にある。「ブス」「こんにちわ」......闇雲にわめき散らしている彼女たちを観ていると、微笑みがこみ上げてくる。説明よりもノイズが先走る。言葉を口から出す前の、そのうまく言えないもどかしさを音は突き抜けていく。そう、いい感じです。新曲の"3939"は素晴らしいドライヴ感を持った曲で、演奏は後半のほうが良かった。何度もライヴを観ている人に訊いたら、その日の出来は60%ぐらいだったとか。
8時を過ぎると日暮愛葉率いるTHE GIRLが出てくる。THE EGLLE と同様に3人組のガールズ・バンドで、ヴェルヴェッツの"フー・ラヴズ・ザ・サン"をBGMに演奏ははじまった。そしてTHE GIRLは......ロックンロールのジェットコースター、ドラムとベースが創出するグルーヴは素晴らしいうねりとなって、オーディエンスをすっかり魅了する。彼女たちの演奏は否応なしに身体を揺らすもので、気持ちをどんどん上げていく。
THE GIRLを訊いていると筆者は13歳のときにラジオで大貫憲章さんが紹介した"シーナ・イズ・パンク・ロッカー"すなわちロックンロールというものを初めて聴いた夜の気持ちを思い出すことができる。音楽を聴いて、生きていることにわくわくしてくる。それはいつまでも変わることのないファンタジーであり、ロマンスであり、永遠なのだ。
これだけの圧倒的なステージのあとに出演するバンドは、ちょっと気の毒だった。杏窪彌(アンミン)は台湾人の女性ヴォーカルをフィーチャーしたバンドで、相対性理論を思わせた。MCは中国語と日本語だった。トリを飾ったバンドは、男ふたり組のGAGAKIRISEで、ライトニング・ヴォルトを思わせた。それぞれ個性的なパフォーマンスだったし、GAGAKIRISEは迫力満点の演奏によって、今後おそらくもっともっと知名度を上げていくだろう。
しかしこの晩に限って言えば、誰が何と言おうとチャンピオンはTHE GIRLだ。久しぶりにロックンロールで踊り、筆者は彼女たちのロックンロールにプラトニックな恋に落ちたのである。
文:野田 努