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Home >  Interviews > interview with Gengoroh Tagame - 『弟の夫』地上波放送記念:田亀源五郎特別ロング・インタヴュー

interview with Gengoroh Tagame

interview with Gengoroh Tagame

『弟の夫』地上波放送記念:田亀源五郎特別ロング・インタヴュー

取材・文:木津毅    撮影:小原泰広   May 02,2018 UP

「真面目な性について語る」のではなくて、「性について真面目に語る」という、この違いをはっきりさせておかないと面倒くさいことになると思いますね。


田亀源五郎(著)/ 木津毅(編)
ゲイ・カルチャーの未来へ

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『ゲイ・カルチャーの未来へ』の発売から半年経ちまして、僕も個人的にいろいろと反響を聞いていますけれど、田亀先生は何かリアクションをお聞きになりましたか?

田亀:うーんと、そうですね。「しんぶん赤旗」での取材の件もそうなんですけど、『ゲイ・カルチャーの未来へ』をきっかけとして、そこに載っていない部分も含めて私に取材したいという話が増えたのは興味深いですね。

それは僕もすごく嬉しいです。

田亀:はい。アーティストとしてのフィロソフィの話を面白がってくれる人もいるし、社会の考え方という部分を面白がってくれる人もいるし、という。自分のなかでひとつあるのは、(とくにゲイ・イシューに関して)何かの記事が炎上したり勘違いした記事が出てきたりしたときに、昔だったらブログに書くとかツイートしたりということがありましたけど、最近は「まあ、あの本のなかで全部言っちゃったからいいか」と。

はははは。

田亀:『ゲイ・カルチャーの未来へ』と『弟の夫』でベーシックなところは全部言ってるから、あらためて繰り返さなくてもいいなって感じになっちゃって(笑)。

たしかに(笑)。ただひとつ思うのは、とくに僕の周りだと、第3章のゲイ・エロティック・アーティストとしてのポリシーを語っていただいた箇所にとてもいいリアクションをいただいているんですね。それって、とくに日本では田亀先生のエロティック・アーティストとしてのお話がまとまって出る機会があまりなかったということだと思うんですね。

田亀:はい、なかったですね。それはやっぱり、エロティック・アートを真面目に取り上げようという文化が日本になかったからだと思いますよ。『弟の夫』を描くようになって取材の数はすごく増えましたけれど、それ以前はごく限られたものでしたしね。海外では『弟の夫』を描く以前から、固いのから柔らかいのまでいろいろな取材があったことと比較すると、そこら辺の壁があるなと感じていたので。

なるほど。日本ではいまでもアクティヴィズム的なものとエロティックなものが対置されがちなのかな、と思うんですよね。

田亀:うん、少なくとも昔のゲイ・ブームのときはそうでしたよね。

もしいまでも、「社会運動をするLGBT vs ハッテン場に行くゲイ」みたいなステレオタイプが繰り返されているとしたら、すごく不毛というか残念だな、と。ハッテン場に行きながらアクティヴィズムに参加する生き方だってじゅうぶん可能だと思いますから。

田亀:うん、ただしね、昔はどちらかというとアクティヴィズム側がエロティックなものを隠しておきたい、アンモラルなものを世に出したくないみたいな意識があって、切断が起こっていたと思うんです。でも最近のLGBTリブみたいなものは、社会のなかでLGBTをどう可視化していくかがメインのイシューなので。同性婚なんかがその典型ですよね。いっぽうで、下半身の話というのはヘテロでも公ではそれほど語られたりはしないわけですよ。「社会のなかで可視化する」という前提があれば、誰がどこでセックスをしているかとか、どこにどういったエロティック文化があるかとか、あまり関係がないことなんですよね、正直な話。

なるほど。あと『ゲイ・カルチャーの未来へ』の話で言うと、偶然ではあるものの『弟の夫』の連載が終了し、初の長編作『嬲り者』の復刻版が出たタイミングで出せた本だったのですが、田亀先生のなかでもキャリアを振り返るようなところはありましたか?

田亀:うーん、どうなんだろう。『弟の夫』をやったことがエロティック・アートの本にフィードバックされるのかと思ったら、まったくなかったから(笑)。

そうですか(笑)?

田亀:まったくその気配はない、という(笑)。まったくないどころか逆ぐらいで。

ほんとですか。それはちょっと寂しいですね。

田亀:ポット出版の人が、私がメジャーな仕事をしたから離れちゃったファンがいるんじゃないかと心配するぐらいで。まあ、よくある話ではありますよね。売れたから離れちゃうっていう。音楽でもよくありますよね。

ああ、カルト作家に対する忠誠心みたいなところからってことですよね。

田亀:そうそう。私も若い頃、ずっと好きだったグループが何かの瞬間に爆発的に売れるとちょっと引いちゃう、それ以降のアルバムは熱心に買わなくなる、みたいなところはありましたからね(笑)。

なるほど(笑)。とはいえ、内容的にはキャリアを総括するものにはなっているので、その辺も楽しんでもらえたらなと僕としては思いますね。

田亀:そうですね。

主人公のモヤモヤだけではなくて、同時に主人公の横にいる人物のモヤモヤも描きたかったんですよね。だから、たんにひとりの男の子が悩んで成長する話にはしたくなかった。

それで、これは大阪で開催したトーク・ショウのときにした質問でもあるんですが。30年を超える田亀先生のキャリアを振り返って、もっとも変わらない部分、もっとも変わった部分は何だと思いますか?

田亀:また来たか、この質問。どう答えたか覚えてない(笑)。

ふふふ。そのタイミングを狙いました(笑)。

田亀:変わらないことは、自分の好きなことをずっとやっているということですね。自分が読みたいもの、自分が好きなものをやっている。変わったことというと……何だろうなあ。率直な話、仕事の幅がものすごく広がったというのはここ数年であります。あとは何だろう……まあ、絵はうまくなったと思いますけど。そのかわり、エネルギーは落ちました。

いやいや。ちなみに大阪のイベントのときは、「小学生の女の子からファンレターをもらった」とおっしゃっていましたね。

田亀:ああー、はいはい。あとサイン会に子連れの妊婦さんが来たりとかね。そういうのはまったくなかったからね(笑)。

これはあくまで僕の意見ですが、田亀先生ご自身のご興味や、表現したいことの幅も広がったのかなと思うんですよね。

田亀:そうですね、それはあるかも。「これはやったらから次は別のことをやろう、新しいものを取り入れよう」というのはつねにあるので、結果として広がってはいます。ただひとつ言えるのは、私の興味や活動の幅の広がりの裏にあるのは、幻滅という要素もあって。私は日本のゲイ・カルチャーを何とかしたいと思って、ゲイ業界の内部でずっとやってきたんですけれども、あまりの進歩のなさや酷いことの連続で、そこを真面目にやろうという気がなくなってしまったというのがあるんですね。

とくにどういった部分ですか?

田亀:それは単純な話、作家に対して稿料を出さないとか、契約書の内容が詐欺みたいなものであるとか、ビジネスとしての問題点は私がデビューした頃からいろいろあちこちであって。たとえば私がデビューした頃は、私は『さぶ』と『薔薇族』と『アドン』に描きましたが、そのなかで原稿料が出たのは『さぶ』だけでしたからね。『さぶ』の版元は、ゲイ雑誌に限らずいろいろな出版物を出していた一般の会社なんですよ。でも『薔薇族』と『アドン』の版元は、ほぼゲイ雑誌しか出版していなかった会社なんですよ。そういうところが原稿料を一切出さないとか、もしくは権利を一切無視して洋物の写真なんかをバンバン掲載するとかしていた。それでいて、『アドン』なんかがそうですけど、誌面ではゲイの権利みたいな綺麗ごとを言っているっていう世界だったんですね。そういうことに問題を感じていました。やがて『Badi』みたいなゲイ資本の雑誌ができましたし、私が『G-Men』に加わったのもそういう問題意識からだったんですけれど、結局『G-Men』でも同じような酷いことが行われたり裏切られたりっていうことがあったので。ゲイ・メディアに対する「頑張っても仕方ないかな」っていう幻滅みたいなものはすごくありましたからね。

うーん、それは根が深い問題ですね。アンダーグラウンド・カルチャーがビジネス面とどう向き合っていくかという。そこもまた、LGBTやそのカルチャーが可視化されていくなかで、真剣に取り組んでいかなければならないテーマですね。

取材・文:木津毅(2018年5月02日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
音楽・映画ライター。1984年、大阪生まれ。2011年よりele-kingに参加し、紙版ele-kingや『definitive』シリーズにも執筆。

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