Home > Interviews > interview with OTO - 抵抗と永遠のリズム
この編成がすごく大事なんだよ。移動しやすいというね。それでアコースティックで最小の編成になったというのがある。ライヴをやったあとに、いままでは泊まるのはホテルとかだったけど、いまは呼んでくれた人のお家に泊まるんですよ。そうすると、ご飯もいっしょに食べるし、翌日はいっしょに起きるし、何回もやっていると家族みたいになっていくんだよね。
サヨコオトナラ トキソラ ApeeeRecords |
■では、サヨコオトナラに話を戻しましょう。
オト:そういうのがあるんで、都市に暮らしながら変革することはもちろん重要だけど、サヨコオトナラは地球のなかの、グローバリゼーションではない、サステイナブルなものとしてのオルタナティヴを追求したいんだ。僕はね、そっちのサステイナブルなオルタナティヴに関してはぜんぜん知らなかった。だから面白くて、がーっと進んでいったんです(笑)。
■端的に言うと、サヨコオトナラが目指すのは新しいコミュニティの創造だったりするんですか?
オト:そうだね。ただひとつのローカル・コミュニティではない、点在するところを繋いでいくコミュニティだよね。
■それは素晴らしいコンセプトですね。僕は、サヨコオトナラのライヴを観ていくつか感動したんですけど、何度も繰り返しますけど、あれだけ子持ちのお母さんが来ているライヴは初めてでした。野外系は基本、家族連れが多いんですけど、それにしても割合が高かったなー。
オト:サヨコオトナラは家族連れが圧倒的に多いんですよね。
■それも未就学の子供を連れたお母さんが多い。それがまず面白いですよね。よく見ると、元クラバー、元レイヴァーかなーみたいなお母さんもずいぶんいるし(笑)。
オト:たとえば、『六ヶ所村ラプソディー』みたいなのも、子持ちのお母さんが率先して上映会をやったりしているんだよね。
■たぶん、オトさんがいまやっていることも社会運動のひとつの形態だと思うんですよね。
オト:ぜんぜん運動だね。
■僕は、オトさんにはけっこう遠慮なく言ってますけど、サヨコオトナラの音は大好きなんです。サヨコさんの歌も素晴らしいと思います。でも、サヨコさんのシャーマニックな歌詞に"神様"という言葉が出てくると思わず引いてしまうのも事実なんです。
オト:シャーマンってね、スピリチュアルとか、超能力とか、いろいろあるからね。
■アリス・コルトレーンは社会運動的だけど、むちゃくちゃシャーマニックじゃないですか。サン・ラだってそうですよね。海外のスピリチュアル・ミュージックは、外国語なので、聴いてられるんでしょうかね(笑)。ただそれを、サヨコオトナラは日本語でもやっている。最初はそこに戸惑いがあったんです。それはやっぱ、オウム事件のような日本の宗教的な狂気みたいなことが記憶に刻まれてるんで、警戒心が働いてしまうんですよね。ただね、実際にサヨコオトナラのライヴを聴いていると、本当に楽しい音楽なんだとわかるんです(笑)。踊り出してしまうようなタイプの音楽で、ダンス・ミュージックなんですよね。楽器を弾いているのはふたりなのにね。
オト:僕はもう、大所帯はやらないから(笑)。
■じゃがたらで疲れたんですね、人間関係で(笑)。
オト:そう、人間関係で(笑)。
■オトさんのなかではサヨコさんの歌詞はどういう風に理解しているんですか?
オト:サヨちゃんは、もちろん昔から知っていたけど、子供を産んでから変わったよね。
■オトさんのなかで、サヨコさんの歌う"神様"はどういう風に捉えているんですか?
オト:神様はいっぱいいるよね。日本は、歌の神様もいれば、雨の神様もいる。
■石にも木にも川にもいますからね。アニミズムですからね。そういう意味では水木しげるの世界というか、ボアダムスの世界というか、そういうものとも接点があるんでしょうね。そうした原始的なものを、社会運動的なものへと繋げていくのがサヨコオトナラの大きな目標みたいなものなんですか?
オト:ただ、社会運動はもっとちゃんとやっている人たちがたくさんいるからね。
■さっきからコンセプトの話ばかりして申し訳ないんですが、ただ音楽としては本当に魅力たっぷりの音楽だと思います。集大成?
オト:サヨコオトナラの前身で、エイプっていう、女の子ふたりでやっていたバンドがあって。それはどんとが亡くなる前に旅していた日本のなかの経路、遠藤ミチロウさんが旅していた経路というものがあって、日本のあちこちにそういう拠点ができているんです。で、サヨコオトナラもその経路を旅しているんだけど、そのなかで回っていくときは、ドラムやベースが難しいんですよ。
■単純に、身軽さってことですね。
オト:そう。モバイルでないとダメ。
■トラヴェラー・スタイルですね。
オト:手持ち楽器ひとつ、車で4人で行けるってことだね。
■ゼロ年代の、アメリカのフリー・フォークのシーンにはサヨコオトナラのようなバンドがいっぱいいるんです。
オト:あ、聴いてみたい。
■だけど、オトさんがいないから、16ビートじゃないんです(笑)。
オト:ハハハハ。
■ただ、サヨコオトナラのやっているコンセプトとかなりの部分で重なりますけどね。
オト:だからね、この編成がすごく大事なんだよ。移動しやすいというね。それでアコースティックで最小の編成になったというのがある。しかも、ライヴをやったあとに、いままでは泊まるのはホテルとかだったけど、いまは呼んでくれた人のお家に泊まるんですよ。そうすると、ご飯もいっしょに食べるし、翌日はいっしょに起きるし、何回もやっていると家族みたいになっていくんだよね。で、そこのエリア内の繋がりっていっぱいあるじゃない。そうすると、地元の繋がりのなかに自分たちが入っていくような感じになっていくの(笑)。それがね、僕にとってはすごくフィールドワークになっている。
■そうなると、音楽関係者以外の人たちとも会うことになりますよね。
オト:それが面白い(笑)。
■そうしたゆるやかなネットワークが日本全国にあるんですね。
オト:そう、グローバリゼーションではない。農業をやっている人が多いし、川のわき水で農業やっている人も多いよ。
■僕がどれだけ俗っぽい人間かってことですかね(笑)。
オト:日本は、電気を作ってはいけないってプレッシャーをかけているんですね。先進国でそんな国はないんですよ。エネルギー自給と食料自給ができればさ、もし僕が市長だったら、自給自足コースを選んでいる人からは税金を取りませんと、その代わりに、税金に相当するものをなんらかの形で身体で返してもらえませんかと。お米で払おうとか野菜で払うとか。
■だんだんクラスみたいになってきましたね(笑)。
オト:国ってホントにバカだからさ。「国家権力って何?」って思うもんね。「デモやったぐらいで逮捕するって何?」って思うけどね。
■やっぱ、思想を警戒しているんじゃないですか。
オト:でもね、やっぱ政治を変えないと無理なんだよ。地方分権とか言ってるけど、分権するには、地方経済をちゃんと作れる状況だとか、なるべく自給できることを証明していかないと次のシーケンスにいけないんだよね。
■あんま楽観的な気持ちになれないですけどね(笑)。ただ、僕らが若い時代を過ごした80年代よりも、いまの若者のほうがよほど社会に敏感だと思います。僕の世代なんか、僕も含めてほとんどノンポリですから(笑)。だから、じゃがたらやオトさんの話もいまの若い子のほうが切実に聞くかもしれないですよ。
オト:僕はいまキコリの研修に行ってるんですよ。
■知ってます(笑)。
オト:森を元気したいから、そういうことをできるようになりたいなと思ってね。それで10年後にはキコリが似合うような人間になりたいんだ(笑)。
■わかりました(笑)。今日もまた、いろいろ面白い話をありがとうございました。で、しかし、結局、じゃがたらって何だったんでしょうね。ものすごい問題提起をしていて、Pファンクみたいなものとも似ているけど......でも違うし。
オト:じゃがたらね......僕はね、リズムがはじまると、もう、そのなかにずっといたかった。とことんリズムのなかにいたかった。はじまったらもう、終わりたくなかったね。
もしも君が過去をたずねてなつかしがっても、
あの頃はまたあの頃で色々あったもんさ、
次へとわき出るリズムが前に進めとささやく
じゃがたら"つながった世界"
文:野田 努(2010年11月17日)