Home > Interviews > interview with Paul Randolph - 2012年のノーザン・ソウル
なんで僕がほかの人の音楽を聴くかといえば、僕のうしろからやってくる、新しい人たちの動きがこわいから聴いているんじゃなくて、ほかの人たちがどういう解釈をして音楽を聴いているのか、どういうアイディアを持っているのか気になるから、なんです。
Paul Randolph And Zed Bias presents Chips N Chittlins Pヴァイン |
■デトロイトっていうのは音楽の町でもあるわけで、それこそ才能のあるミュージシャンやプロデューサーがたくさんいるんじゃないかと思うんですが、あなたにとって音楽哲学を形成する上で大きな影響を及ぼしたものについて教えてほしいです。
ポール:たぶん家族の影響が強いですね。祖父はシンガーでしたし、父はクラシック・ギターと、僕が生まれる前まではトロンボーンもやっていて、おばあちゃんは衣装を作る人だった。曾じいさんはレコーディング・スタジオを持っていて、ヴァイナルをカットする機械があったっていうことでね。基本的にはクリエイティヴなことをやる人たちに囲まれて育ったから、大人になるにつれてレコード屋に行くようになって、レコードを漁って雑誌を漁って、ちょっと気になったものがあったらとことん調べるという感じでした。
そのころはなんでも共有できる友だちがまわりにいたかというとそうでもなくて、レッド・ツェッペリンが好きな人もいれば嫌いな人もいて、ファンクが好きな人もいればそうでない人もいるなかで、僕はぜんぶが好きだったんです。そこがまわりの人とは違うところでした。家族のなかで同じようにいろんな音楽を聴いて、どれもへだてなく好きだったのはおばあちゃんでした。彼女が亡くなったときに持ち物を整理しに行ったら、びっくりするくらいのレコードのコレクションがでてきてね! 種類も豊富で 、ローリング・ストーンズのオリジナルの初盤がすごくきれいな状態で混じってたり。もっとこれにはやく気づけばよかったと思ったんですよね。ほかの人もいるからあんまり持っていけなかったんだけど、それをいろいろ聴いたという影響はあるかもしれない。聴くほうから演奏するほうになっていったのは自然な流れですね。
■へー、ローリング・ストーンズのオリジナルの初盤ですか-、それはいい話ですね。ちなみに『ロンリー・エデン』の「エデン」とは何を指していますか?
ポール:いや、とくになにかアイディアはないです(笑)。みな人はなにかをするために生まれてきているんだと思いますが、「なにかをやるように」という神や宇宙の意思、そこから与えられる役割に、私は純粋に応えているだけだとしか言いようがないです。ほんとに私にとってはごくナチュラルなことで、好きだからやるし、気持ちいいし心地いい。それを拒否することもできないですし、しかもそれにまかせて努力せず、がんばらず、コントロールしようとすることなしに、自然にそれをやらせておこうとすれば自然に出てくるものなのです。
これはもしかしたら特別なことかもしれない。みんなが僕のやっていることを評価してくれるから。ときどき人生の節目なんかで、これでいいんだろうか、自分のやっていることはまちがってい ないだろうかと思うこともあるんだけど、思い返していくとまちがってなかったんだなと、何のために生まれてきたのかということを知り、ちゃんとやるべきことをやっているんだなと感じるんです。僕はよく言うんですが、ミュージシャンやプロデューサーというのは、なにかメッセージを伝える人だと思う。僕たちは自由......完全なフリーダムというメッセージをデリバーできていると思いますよ。
■あなたはヴァン・ヘイレンもレッド・ツェッペリンもPファンクも好きだったわけですが、あなたにとって音楽のなかでいちばん重要な要素というのはどんなものになるんでしょう?
ポール:なんでもいいっていうんじゃないんですよね。わかってくれていると思うけど。じゃあ何かといえば、フィーリングとしか言いようがない。たとえばこの花が好きだというときにそれは色かかたちかにおいか、花瓶なのか、その花の置かれている状態すべてによって決まることです。音楽は主観的なものでもあるんだけど、僕にとってはフィーリングで、そのときそのときに感じるものを大切にしています。そのことが僕の人生をゆたかにしてくれたと思いますよ。
よく人に「きみは何がしたいの? あっちにもこっちにも行って」っていう風に言われることがあるんだけど、その考え方自体がおかしいと思います。彼ら自身がその質問を自分にしてるんじゃないかなと思います。僕にとってはその質問は意味がないし、何かひとつのところに落ち着く必要もない。音楽をこれだけ聴いていると、ひとつのジャンルに対して円が描けていきますよね。べつのジャンルのところにも円があって、その円が交わってくるところがある。そこがやっぱり面白いものだと思います。そのつながっているところを見れば、なぜこの音楽がこうで、何の影響をどこから受けたのかってことがわかるじゃないですか。それは面白いことだと思いませんか?
そこを見ていれば、ブルースがなぜジャズに影響したのか、なぜジャズがリズム&ブルースに行ったりとか、それがファンクに影響して、さらにヒップホップに影響していったのか、いろいろなことがわかるし、好奇心もあるしね。たしかに幅広い興味があって、なんでも好きとはいかないけど、なんでも聴くよ。ときどきまわりの人から「そんな音が好きなの?」ってふうに驚かれることがあるんだけど、それがディアフーフとかですね。
■ディアフーフ! まあ、とくにあなたほどの腕利きのミュージシャンの多くは他人の作品をそあなたほど幅広く聴かないものですよね。DJなんかにしてもある限られたジャンルしかかけなかったりする人が多い。あなたは本当にオープンマインドなんですね。
ポール:ほかの人たちがどう思っているかは別として、僕についてお話しします。なんで僕がほかの人の音楽を聴くかといえば、僕のうしろからやってくる、新しい人たちの動きがこわいから聴いているんじゃなくて、ほかの人たちがどういう解釈をして音楽を聴いているのか、どういうアイディアを持っているのか気になるから、なんです。自分がまったく持っていなかったり、これまで経験してこなかった文化――音楽も文化ですよね、ただ音だけ聴いていてもわからないんですが――人のアイディアを知ることによって、自分が生きることができなかったほかの文化に触れることができるかもしれない。だからほかの音楽に惹かれるんです。
コラボレーションの素晴らしいところはゼッドもぜんぜん違う文化のなかで育った人だけど、まったく違うふたつの世界、僕の世界と彼の世界からそれぞれやってきて、おたがいの窓をのぞき込みながら、「面白いじゃん」というふうに引き合いながら違う音を組み上げていく作業はものすごく面白いと思ったよ。
自分の枠だけとか、あるひとつのジャンルだけを聴いていくのって、危険なことだですね。まわりの人だったり、過去の人々がどんなことをやってきたのかっていうことを聴かなきゃいけないし、最近のとくにダンス・ミュージックが陥りがちなのは、あまりにも音楽が入手しやすくなって、そこらじゅうにいろんな音楽があるからこそ、周囲の人との競争だけを気にして、そのせまいなかで終わっちゃうことが多い。表面だけの理解でおわることも多い。ほんとはもっといろんな人と、自分とは違ったユニークな考え方を持った人の音楽を聴けば、その人にはなれなくても、その人が培ってきたものをすこしいただいたり分け合ったりできるますね。ゼッドとの作業のなかでも、僕が前から知りたくて教えてもらったこともあるし、逆に僕が彼に教えてあげるということもありました。そういう意味でもいろんな人の音楽は気になりますね。
■良い話ですね。しかし、もう時間がきてしまいました。今日はどうもありがとうございました!
取材:野田 努(2012年8月24日)