Home > Interviews > interview with Carnation - 苦み走ったスウィート・ロマンス
バンドで、すぐ反応してくれる人たち、俺の考えたフレーズをいっかい噛み砕いてすぐ吸収してもらえて、すぐ表現できる人たちがいるから進むんだと思うんですよ。エンジニアさんも含めて、みんなが反応し合って、みんなで高め合っているから、気持ちいいんだよね。
![]() CARNATION SWEET ROMANCE Pヴァイン |
■さっきの見せ方の話にもつながるんですが、弱い部分を滲ませながら、それでもかっこつけてみせるのが、非常に効いていて、これをライヴの後半に聴いたらさぞや感動するだろうって、そんなことまで想像しました。そこから"遠くへ"につながるのが白眉だと思いました。
直枝:ありがとうございます。
■これが比較的、全体的に抜けてるというか、自然に出てきた曲たちがあるべきところに並んでいるアルバムっていう。
直枝:そうですね。3年のあいだ、もしくは10年、20年、それくらいの考えみたいなものがずっとつながってきて、ここに結実しているんですけど。
■つながっているっていう感じはありますか?
直枝:ずっとつながっているんです。このアルバムはそのくらいの長い時間で成り立っていて、かつ、俺はこうじゃなきゃいけない、ああじゃなきゃいけないっていう思いが、いま、あまりないんですよ。そのままやりゃいい、なんも考えるなっていうところにいるので、曲順なんかも考えてないかもしれない。だからそれは流れっていうか、奇跡なんですよ、ある意味ね。
■それはでも、やろうと思ってできることではないと思いますが。
直枝:うーん、たまたまそうなったっていうかね。だから、とてもいい状況だったんじゃないですかね。緊張感もあって、本当に作業進めなきゃいけなくて。あと、いろんなスケジュール調整も自分でやったりして、きつかったんですけど、でもそのかわりスタジオにいる時間が幸せなときだったっていうのかな、こんなに楽しいスタジオはないなっていうくらいだった。このくらい自分が楽しいと思えなきゃウソだっていうのも最近ようやくわかってきた。雑務はやるけど、スタジオではこのくらい楽しんでいいんだなって。過去は追いつめてたっていうかね。責任をへんに背負おうとしたところがあったから。
大田:カーネーションのスタジオはむかしはピリピリしていたから。そういう時間がものすごく長かったじゃん?
直枝:長かったね。
大田:ここ何年の変わりようはすごいですよ、やっぱり(笑)。ライヴとかだと、メンバーがどんどん減ってきて、本当は自分の責任が多くなっていくじゃない? でもスタジオなんか見ていると、意外に逆をいってるというか、責任をそんなに背負っているように見えてこないというか、見ていると前より全然楽にできているのよ。
■じゃあ昔はもっとカチッとつくっていたんですね。
直枝:そうそう! むかしは1ミリでも狂っちゃダメみたいな。俺のイメージはこうなんだからダメだよ! って怒って灰皿蹴飛ばしたり、そういう世界ですよ。最悪ですよ(笑)。
■それは緊張感ありますね(笑)。
大田:そんなにいうんだったら、わかった! やり直すよとかいって、ずっとベース弾いていたからね。朝まで直しとかやっていたよ、レコーディングってこういうもんなんだなって思いながらも、しょうがねーなって(笑)。
直枝:ほんとうに『Velvet Velvet』のあたりから、僕らは解放されてきていますね。いろんな人との交流みたいなものがとても自然になってきて、作業が楽しめるようになった。みんなも信頼してきてくれるし、それを理解してくれてやってもらえているのがいちばんいいのかなって。
大田:そうだね。結局言葉でいっぱい説明しないで済む人が自然にきてやってくれてるから。
■それはこれだけ活動してきて、これだけのクオリティの作品を出し続けているからだとも思いますよ。たとえば、わたしたちの世代はカーネーションを十代のときに聴いているわけだから、その世代の血肉になっているんだと思います。それは教育とかそういうことじゃないですけど、音楽、あるいは文化はそういうことでまわっていくとも思いますし。
直枝:そういう循環のなかにいるんだろうな。
■いると思いますね。
直枝:それはね、少しずつ結びついてきているんだよ。閉じ込められた状況から、どこかカギ外したっていう瞬間があったのかもね。僕らが楽になって、まわりももっと入りやすくなっている。これからもっとそうなってくるかもしれないし。
■バンドがあって、アンサンブルをよくして、曲をよくして、自分たちでがっちりやっていかなきゃいけないっていう状況から変わったんでしょうね。
直枝:なんかね、もっと大切にするポイントが増えたっていうか、もっと重要なこともある、もうひとつ、なにかやり方があるよというか、柔らかくなっているのかもしれないですね。
■柔らかさというのは、なんか柔和になったっていうのとはまたちょっと違うんですよね。
直枝:違いますね。考え方というか。それはね、ドラムの張替(智広)くんもそうなんですけど、大田くんとか、曲の理解能力がすごく早いので、立ち止まらなくていい、ストレスのなさがいい効果を与えていて、プレッシャーはあるんだけど、スピードだけは落とさねーぞっていう意地がそれぞれにあるから、気持ちいいんですよね。
■打てば響く?
直枝:そうそう! で、俺はひとりで音楽ができるとは思ってないから。イメージはつくれるけど、それやろうとしたらね、ソロ・アルバムで5ヶ月かかりました(笑)。それでも人の助けが必要だったですから。だからこういうバンドで、すぐ反応してくれる人たち、俺の考えたフレーズをいっかい噛み砕いてすぐ吸収してもらえて、すぐ表現できる人たちがいるから進むんだと思うんですよ。エンジニアさんも含めて、みんなが反応し合って、みんなで高め合っているから、気持ちいいんだよね。これ、ほかだったらムリじゃないかなって思いますね(笑)。ムダに遊ばないからね。
■まあでも音楽のなかに遊びはいっぱいありますよね。
直枝:そうそう(笑)。
■まあ、でもそういうようなバランスというか、まさにチーム・カーネーションみたいなものができあがっているところのなかもしれないですね。
直枝:今回はチームというよりも、バンドは怪物みたいなもの、それでいいんじゃないかなって思いましたね。
■カーネーションは直枝さんのバンドというより、直枝さんの手を離れていっている?
直枝:だんだんそうなってるかもしれない。どんどん勝手に進んでいる感じがするので。
■自分もこう、カーネーションに助けられているという感じがありませんか?
直枝:うん。参加してくれている人たちみんなに助けられているし、外側の、ジャケットまわりの仕事とか、いろんなことに対してもそうで、やっぱりこっちがいい具合にテンションを高めたり緩やかになったりしながら、なんとなくできてくるんですね。そういうのを楽しんでますね。
■そういう時期というか、誰かとめぐり会って、別れもあるでしょうけど、それは完全な別れではなくて、またどこかで出会うかもしれない予兆を孕んでいる。そのニュアンスが『SWEET ROMANCE』にはすごく出てると思いました。
直枝:あとこういうアルバムを聴いた誰かが、「こんなアルバム作りてーな!」って思うような流れとか、あったらいいなと思いましたね。そういうマジックがあればいいなって。
取材:松村正人(2012年11月02日)