Home > Interviews > interview with Saho Terao - 楕円の夢をうたいましょう
1曲1曲に相応しいかは考えていないですけど、でも楕円の大切さは伝わるかなと思って。月も詩のなかにいくつか出てくるんですけど、満月はまん丸じゃないですか? でも月の軌道ってやっぱり楕円らしいんですよ。見たときには丸だけど、楕円が内包されているというか、そういうのはいいなと思って。
寺尾紗穂 楕円の夢 Pヴァイン |
■くだらいない質問なんですけど、どんな遊び方をしていました? ていうか、遊んでいたんですか?
寺尾:ハハハハ。何歳くらいのときですか?
■10代の頃とか。
寺尾:遊び……。
■でも、絶対にライヴとかに行くって感じじゃないですよね?
寺尾:そうですね。ドリカムのライヴは行ってましたけど。あと、ヴェルディが好きでサッカーを観に行ってましたね。
■それはすっごい意外ですね(笑)。等々力まで?
寺尾:行ってました。
■高井戸からだと等々力はそんなに遠くないか。
寺尾:ドリカム・ファンの友だちが、ヴェルディ・ファンで、よくその子と行ってました。
■そういう話を聴くと、なんの屈折もない普通の10代というか……。何でだろうなぁ。寺尾さんのどこかにそういうふつふつとした何かがあるんですよね。尋常ではない、マグマのような何かが(笑)。
寺尾:ひとからは言われるんですけど、私はそんなことは考えなかったですね。
■そういえば、昔、浜崎くんからは「あの子は無茶苦茶ハードコアだよ」って聞いていたんですよね。あの人の場合、褒め言葉がそれなんでしょうけど、寺尾さんのなかには何か過剰なもの、エクストリームなものがあるわけでしょう?
寺尾:どうなんだろうな。
■ハードコアな自分を隠しているでしょ。
寺尾:隠しているのかな(笑)。興味が……。
■自分のことをバランスのよい人間だと思います? アップダウンが激しい方?
寺尾:バランスはよくないんじゃないですかね? 感情の起伏はそんなに激しくはないですけど、人生はけっこうアップダウンがありますね。
■それによって自分の感情も一緒に?
寺尾:そうですね。たしかに考えてみれば、死のうとしていた時期もありましたね(笑)。
■おー(笑)。でも若ければ1回ぐらいは考えるんじゃないんですか?
寺尾:うーん。そうですね。
■子育てと自分の音楽は関係ありますか?
寺尾:どうなんですかね。わからないです。
■寺尾さんって、お子さんがテーマになることがないですよね。
寺尾:“愛の秘密”って曲は、長女が生まれたときにできた曲なんですけど、あまりわかるようにはしていないですね。あと、“時よ止まれ”とかもそうか。
■歌詞を書くときは、自分の体験や経験みたいなものから言葉を出すんですか?
寺尾:そういう形が多いです。
■じゃあ、今作の1曲目に北杜夫の“停電哀歌”を持ってきたのはなぜなんですか? この曲は前に寺尾さんに聴かせてもらったんです。
寺尾:そうでしたね。
■これが1曲目にくるとは思わなかった。
寺尾:そうですか? 最後にくると思った?
■うん。最後くると思った(笑)。
寺尾:あー、みんあそう言いますね(笑)。最後にするとちょっと終り方として地味じゃない?
■たしかに。でも、前作の余韻を引きずっている感じもするじゃないですか?
寺尾:いやぁ、そこはあまり考えなかったですね。最初に電気がパッと消える感じがいいなと思って。
■前作が夜のジャケットで、今作は青空のジャケット。作品の印象というのは違ったように聴こえたんですけど、寺尾さんは今回のアルバムにどのような気持ちで臨まれたんですか?
寺尾:聴いてみると、けっこう地味ですよね。
■そうかなぁ(笑)。
寺尾:そんなことないですか?
■寺尾さんの派手さとはどのようなものですか?
寺尾:前回はいろいろ音を足してもらったものが多かったから……。今回は作業をしながら聴くのにいいかもしれない。
■前作にはダース(レイダー)さんとかが参加していたり、いろんな曲をやったりとか。
寺尾:前作と違うのは、エレピ、ローズの曲を多めに入れたことですかね。前作は全部を生ピアノで弾いたものに、音をのっけてもらっていたので、もちろん上手く融合していたけれど、「これをエレピにするともっと違った交ざり方をするかな?」と考えていました。1回くらいかな? 『御身 onmi』(2007年)というアルバムに入っている“ねぇ、彗星”という曲でローズを弾いたことがあるんですけど、それ以来ずっと弾いていなかったので。
■全体的には軽やかで、聴きやすいアルバムだなというふうに思ったんですが、それを象徴しているのが、森は生きているが参加している“リアルラブにはまだ”ですよね。これ、浮かれている感じが良いですね。
寺尾:そうですよね。柴崎さんの案で実現しました(笑)。
■ポップ・ソングを意識したんですか?
寺尾:いや、とくには(笑)。ポップな曲って、やろうと思えばけっこう作れるんですよ。『愛の秘密』に入っている“ハイビスカスティー”とかポップですけどね。でもこんなにきちんと楽器を入れたのは初めてです。
■すごく清々しくて、気持ちがいい曲ですよね。歌も寺尾さんの歌詞も、バックの演奏も。寺尾さんの気持ちのなかでの澄み切ったものが出ているというか……。
寺尾:澄み切っているのかな。わからないですけど、“リアルラブにはまだ”には清々しいけど、心はまだ痛みを持っているっていう感じ。
■痛みは、寺尾さんの曲には、つねにありますね。
寺尾:それは考えてみると楕円的かもしれないですね。以前からドラムとベースを入れて、その3人でやりたいなというのをちょっと考えていました。ただ、そのスタイルで全曲いくとなると、私は弾き語りが原点なので、ちょっと違うのかなと。
■この手に持っているのは卵? これはどうして卵?
寺尾:楕円だからです。
■あ、そうか。すいません(笑)。でも、たまごじゃなくても楕円のものってあるじゃないですか?
寺尾:卵には大切な命が入っている。これは私のアイディアじゃなくて、松井一平さんという絵描きのひとのものなんです。考えてみれば、卵っていいねって話になって。
■それは今回のアルバムの楽曲に相応しいということですか?
寺尾:1曲1曲に相応しいかは考えていないですけど、でも楕円の大切さは伝わるかなと思って。月も詩のなかにいくつか出てくるんですけど、満月はまん丸じゃないですか? でも月の軌道ってやっぱり楕円らしいんですよ。見たときには丸だけど、楕円が内包されているというか、そういうのはいいなと思って。
■寺尾さんは音楽がなし得る最良のことってなんだと思いますか?
寺尾:うーん……。そうだなぁ。何らかの気づきが重要なのかな。それで“楕円の夢”みたいな曲を作っているのかもしれないです。
■寺尾さんの曲の主題には、愛が多いなと思うんですけど、それは意識されていることですか?
寺尾:一番よくわらないから歌っているんですかね。
■ライヴでたまにやる曲で、交通事故の……
寺尾:あ、「はねたハネタ」じゃなくて?
■そう、あの曲は、すごく残酷ですよね。
寺尾:でもあれは死んでないですよ。跳ねられて病院に入って路上よりもハッピーっていう皮肉な歌なんです。途中までドキドキするらしいですけど。
■ああいう曲を歌う寺尾紗穂っていうのは、何かしらの怒りというものがあるわけでしょう?
寺尾:うーん、どうなんだろうな。あの曲怖いとか、不愉快とか、逆におもろいとか言って終わってる人たちに、それで終わっていいの?っていうのは、ありますね。あの曲聴いて泣いたって人、数人いままでいるんですけど、その人たちの感覚は信用できると思ってます。
■報われないものに対する思いが。
寺尾:今回はマスタリングのときが印象的だったんですけど、ちょうど後藤(健二)さんが殺された日だったんですね。“いくつもの”という曲を聴いていたときに、後藤さんの歌みたいに聴こえちゃって。彼を殺したものが、すごく円的な思考じゃないですか? そういうこととも合わせて。
取材:野田努(2015年3月19日)