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interview with Phew

interview with Phew

ニューワールド、Phewのもうひとつの世界

──フュー、インタヴュー

松村正人    写真:小原泰広   Dec 22,2015 UP

パンク電子ロック音楽かなあ。クラシックのひとと話していると私はロックだなと思いますけどね。大部分のロック好きじゃないんですけど。パンクって言われるとちょっとムキになりますね。「まずはあなたのパンクを定義してください」というところから話をはじめないといけない。一番近いのはパンクなのだとしても、精神としてのパンクっていわれるのはちょっとイヤかなぁ。なんかパンク精神ってごまかしっぽいじゃないですか(笑)。

アルバムは9曲収録していますが、全体の構成は最初から決まっていたんですか?

P:それを頭のなかで考えていた時間がすっごく長かった。“チャイニーズ・ロックス”をカヴァーして、“浜辺の歌”を最後もってくるのは最初から決まっていたんですよ。それから“ニューワールド”の歌詞が出てきた。

“浜辺の歌”を最後にもってきたのにはどのような意図が?

P:メロディと歌詞が昔から好きな歌で、一度ライヴでもやったことがあります。あと高峰秀子さんの『二十四の瞳』で最後に“浜辺の歌”が流れます。原作では"荒城の月"なんですが、“浜辺の歌”に変えることで、いい意味で軽い印象がしました。あの明るい哀しさを表現したかった。

Phewさんの“浜辺の歌”を聴いて“うらはら”を思い出すんですよ。「あした 浜辺を」の「あした」に“うらはら”の「朝ならば夜を頼むな」を重ねてしまいます。

P: 80年は、中曽根とレーガンの時代で、徴兵制が復活するぞとかなんとか、そういう意見があったんです。当時、私はロンドンにいて、そのときの『Time Out』の表紙をはっきりと憶えているんですよ。家族写真が載っていて、その3分の2が燃えていて、世界の3分の2が第三次世界大戦を考えていると見出しにありました。私にとって80年はそういう時代なんですけど、2015年にも共通するものがあります。でも決定的なちがいもある。20世紀と21世紀のちがいというか、もう戻れない場所にいて、それを確認したかったというところはありますよ。

ハートブレイカーズの“チャイニーズ・ロックス”をカヴァーされた理由は?

P:大好きなんですよ。私は80年代という時代がホントにイヤで!

そんな何回もいわなくても(笑)。

P:あの浮かれた感じが嫌いで、当時ジョニー・サンダースの歌を聴いていて、とくに“チャイニーズ・ロックス”が大好きだったんですよね。ザ・ハートブレイカーズの『L.A.M.F.』は77年ですけど、パンクが終わっちゃって業界色になっていくなかで、すごくしっくりきた。ジャンキーの曲ですけど、気分的にそれがスッと入ってきた(笑)、それが私の80年。決してニューウェイヴではありません。

パンクではロンドンよりニューヨークのほうが好きだったんですか?

P:いや、ピストルズも大好きでしたよ。でも80年代になったら、スリッツがソニーと契約したりしちゃって。契約したってかまわないんですけど、私はいっしょに浮かれることができなかった。
 1980年に30歳とか、10代なかばとかだったらよろこんでいたかもしれないですが、自分たちでおもしろいことをやってやろうとしていた若者たちが、大人たちに搦めとられていくのをまのあたりにしてガックリしちゃったんです。90年代はじめに、ロンドンでミュート・レコードのダニエル・ミラーと話をする機会があったんですが、彼も同じことをいっていました。

当時、Phewさんのまわりにその感覚を共有できるひとはいましたか?

P:日本にはいなかったですね。

流されてしまった?

P:流されたというより、そうなっていくのがうれしかったんじゃないんですか? ツバキハウスのようなファッションになっていくのが楽しくて仕方ない。でも私はそこにもはいっていけなかった。

そこにもゴッサム・シティ的ななにかを感じていたんですか。

P:東京というすごく小さな場所で起こっていることだと思っていました。ゴッサムみたいにグローバルではない(笑)。

あれもひとつの都市ですよ(笑)。架空ですが。

P:学校に喩えると、ちがうグループが好きじゃないことをやってるとか、その程度の感覚ですよ。そりゃ、ゴッサムとはやっぱりちがいます(笑)。好きではないけど悪ではない。

わかりました(笑)。ではインターネット時代のネットワークのあり方とそれは通じるものはありませんか?

P:それは全然ちがいます。テクノロジーにかんしていえば、70年代から80年代にかけて、それに対する私個人の信仰はすごく強かったんですよ。過去につながっていない現在は、憧れでした。デジタルというだけですごく夢が膨らむ。機材にかぎらず、すべてにかんしてです。『夜のヒットスタジオ』とかでコンピュータのテープが回っているのを見るのが子どもの頃は好きでしたし、『2001年宇宙の旅』のスーパー・コンピュータのハルの歌に心を奪われました。とにかくコンピュータに対する夢がありましたね。それで21世紀の現在がこれなわけです(笑)。音楽も、機材もどんどん変わっていく。デジタルの音が好きじゃないのも、21世紀になってみて夢に描いていたデジタルがこれだったのかという落胆に近いものかもしれないですね(笑)。それはデジタルだけではなくて核技術もそう。当時の核開発の技術者は、それが夢の技術だと考えていたはずなんです。

であれば、文明批評的な側面も『ニューワールド』にはあるということですね。

P:そこまでは大きくはないですけれど、個人的には感じています。

となると、望むような進み方をしなかった現在においてどのような表現をするというのが、別の問題として出てくるような気もします。

P:その点にかんしては、私は歌から音楽を始めてほんとうによかったと思います。基本は自分の身体から出てくるもの、機材が変わろうがなくなろうが、音楽はできますから。

『ニューワールド』にあえてジャンル名をつけるとするとどうなりますか? 電子音楽、ロック、パンクといういい方もあると思いますが。

P:パンク電子ロック音楽かなあ。クラシックのひとと話していると私はロックだなと思いますけどね。大部分のロック好きじゃないんですけど。パンクって言われるとちょっとムキになりますね。「まずはあなたのパンクを定義してください」というところから話をはじめないといけない。一番近いのはパンクなのだとしても、精神としてのパンクっていわれるのはちょっとイヤかなぁ。なんかパンク精神ってごまかしっぽいじゃないですか(笑)。「歌」もそうです。「音楽的」というのといっしょでね。その定義から話さないと。とくに他ジャンルの、美術系のひとたちはよく「音楽的」といいますよね。まあ私も「映像的」とか使っちゃうから似たようなものかもしれませんが。だから、対等の立場で音楽と演劇とか映像とか、いっしょにやることは難しいと思いますよ。対等にぶつかり合って新しいものが生まれるのは奇跡的なことなんだなと思います。

サウンドアートや音楽劇のような様式はむかしからありますし、とくに後者のような試みはさかんになされている気もしますが。

P:演劇っていうのは徹底してことばの表現だと思うんです。だから音楽とは相容れないと感じました。私は逆に映像と音楽と組み合わせに可能性がまだある気がします。

Phewさんは以前、自作の映像を映写してライヴされたことがありましたよね。あれはすごく印象にのこっています。

P:それもやりたいことなんですけど、あと何年生きられるかわからないので、それだったら音楽をまだちゃんとやったほうがいいかなと思うんですよね。

それくらいの時間はあるんじゃないですか(笑)。

P:映像をちゃんとやるには、映像編集に適した高いパソコンを買わないといけないんですよ。そっちにするか音楽の機材を買うかだと、私は機材を買っちゃうかな。まだまだほしいのがたくさんあるから。

さらにシステムをブラッシュアップしたい?

P:というよりは、やっぱり機材が好きなのかなあ。いい音ってやっぱり金なんですよ。

そんなミもフタもない。まあでもそうなんですよね。

P:知識と経験と技術があればやすいデジタル機材でもいい音が出せると思うんですけど、私はそこまでできない。感性だけでやれるのは2、3年ですよ。歌だってそうです。

歌については「終曲/うらはら」、そのまえのアーント・サリーからの積み上げがありますからね。

P:それはそうです。80年代は歌の練習をしていたようなものです(笑)。転んだ経験というか。私の場合、声にかんしては身体でおぼえていくんですよね。喉というよりも、喉の空気の通り道を細くする太くするのを意識する。高い声が昔は出せなかったんですけど、あるとき感覚を掴んだら出るようになりしました。

『ニューワールド』がここ2年の集大成だとしたら、このアルバムを出して、次の構想はなにかありますか?

P:ちょうどディスクユニオン用の特典を家でつくっていて、次やりたいのはこういうことだなと思いました。インストなんですが、歌わなければ現実と遮断できることに気づきました。それは5、6分の曲で、構成もちゃんとあるんですよ。

歌が現実とリンクしてしまうのはことばだからですか?

P:意味的なことではなくて、身体が影響を受けてしまうんだと思います。その曲は音の世界だけでいけた気がしたんですよ。そういう感じでアルバムをつくりたいとは思います。

最後に、タイトルはいわずもがなですが、『ニューワールド』というタイトルはご自身の新しい世界を指していますか?

P:「新しい」というよりも「別の」世界のほうがちかいかな。想像力だけの世界のつもりだったんですけど、そこには現実が侵入してきています。つくっていたときに、80年代の記憶が蘇ってきたりもしました。私、80年頃にオルダス・ハクスリーの『すばらしき新世界』を読んだんですね。物語としては絶望的な終わり方で、いまはそれを超えるような現実になっているように見えるんです。もう希望とか絶望とかもなくて、物語性が失われちゃったみたいな意味合いもあるかもしれない。あの小説も頭のなかにありました。若いころ読んだときは登場人物の苦悩が理解できたんですけど、内容はよく憶えていなかったので、この前読み返してみたら、すごく軽い物語に感じたんです。この苦悩を私は理解できるけれど、私の子どもは理解できないだろうな、というような。ハクスリー自身もいっていましたが、喜劇になるかもしれない。それがいいとか悪いでなくて、受け入れるということですね。

取材・文:松村正人(2015年12月22日)

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