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interview with Thundercat

interview with Thundercat

悲しみの先のフュージョン

──サンダーキャット、インタヴュー

取材・文:小川充    通訳:染谷和美   Apr 03,2020 UP

一度やっつけたのに生き返らせて、ただ戦いたいがためにまた戦かったりしてね(笑)。大体惑星ひとつ潰して戦いが終わるよね。「いい戦いだった」と言って終わるけど、周りは皆死んでてっていうパターン(笑)。どこがいい戦いなんだろう(笑)。

“ハウ・スウェイ” ではあなたらしいベースの早弾きもフィーチャーされています。こうした曲を聴くと、最近ニュー・アルバムの『ビー・アップ・ア・ハロー』を出したスクエアプッシャーのことも想起するのですが、彼のことを意識したことはありますか?

TC:もちろんさ、彼も俺と同じベース・プレイヤーだしね。すごいミュージシャンだと思うし、彼の音楽も好きだよ。

じゃあ、いつか共演してみたいとか?

TC:うん、俺はやりたいね。

いつかそんなチャンスがあるといいですね。一方で “ファニー・シング” や “オーヴァーシーズ” に代表されるように、『ドランク』からさらにあなたのヴォーカルにスポットが当たっている曲もあります。シンガーとしては『イット・イズ・ワット・イット・イズ』についてどのように取り組みましたか?

TC:シンガーとしてはまだ成長の途中かな(笑)。すごく苦労するときもあるし。ファルセットで歌うときがそうかな、もともとの地声は低いほうだからね。まさに「イット・イズ・ワット・イット・イズ」で、それは仕方ないと自分では諦めているよ。でも、やるに従ってだんだん慣れてはきているね。

何か新しい歌い方にも挑戦したりしているのですか?

TC:うん、“ブラック・クォールズ” がそうかな。いつもとは違う声域を使って声を出してるよ。“オーヴァーシーズ” でも裏声というか、変わった声の出し方をしている。

“ドラゴンボール・ドゥーラグ” はあなたの好きな『ドラゴンボール』がモチーフとなった曲です。具体的にどのキャラクターをイメージしたとかありますか?

TC:ベジータだね! 『ドラゴンボール』に限らず、日本の漫画やアニメには好きなキャラが一杯さ。今日着ているTシャツの『北斗の拳』のケンシロウもそうだよ(笑)。『ドラゴンボール』だとブロリーも好きなキャラだね。

ベジータはどんなところが好きなんですか?

TC:悟空よりうまく人間であることを学んでるからかな。悟空は何ていうか、もっとクレイジーな奴だね。子供の頃の悟空はとってもクールなんだけど。まあ、あの主要キャラの5人は馬鹿な奴らではあるね。彼らは十分強いけれど、さらに強い奴を探して戦いを挑んで、一度やっつけたのに生き返らせて、ただ戦いたいがためにまた戦かったりしてね(笑)。『ドラゴンボール』ってその繰り返しで、「え、何で?」って思うことがあるよ(笑)。みんな思ってるんじゃないかな、「ホワイ、ベジータ」「ホワイ、ブロリー」「ホワイ、ゴクウ」って(笑)。キャラたちは「もっと、もっと強くならなきゃ」って戦って、で大体惑星ひとつ潰して戦いが終わるよね。「いい戦いだった」と言って終わるけど、周りは皆死んでてっていうパターン(笑)。どこがいい戦いなんだろう、まるでいまの戦争と同じだよね(笑)。

何だか漫画の話をしているときがいちばん生き生きしてますね(笑)。話は変わりますが、“キング・オブ・ザ・ヒル” は〈ブレインフィーダー〉の10周年記念コンピ『ブレインフィーダー・X』(2018年)にも収録された曲で、バッドバッドナットグッドと共演しています。彼らとの共演はいかがでしたか?

TC:すごく楽しかったね。彼らはミュージシャンズ・ミュージシャンというか、ミュージシャン好みの音楽を作ってる人たちなんだ。彼らの演奏を聴くと、ソフト・マシーンとかアジムスを思い出すよ。豊かな音楽の土壌があって、可能性に満ち溢れているんだ。一緒にやることができて、本当に嬉しかったね。コラボっていうのは相手を信頼して、任せるってことだから、今回のように相手がいいとよ言ってくれて、一緒にできることにはとても感謝しているんだ。

“フェア・チャンス” にはタイ・ダラー・サインやリル・Bがフィーチャーされています。さまざまなラッパーと共演するあなたですが、あまり彼ら自身がやらないタイプの曲に起用することが多くて、それが彼らの新たな魅力を引き出すことにもなっているのではないかと思いますが、いかがでしょう?

TC:うん、確かにそうかもね。でも、ああいうラッパーの連中の中にも、こういった変わったことをやっている奴がいたりするんだよね。一般的な人気が出る曲ではないから、普通の曲の中に埋もれちゃって、あまり知られていないんだけど。

この曲や “イグジステンシャル・ドレッド” など、アルバムの後半はメロウで内省的な曲が続きます。この流れには『ドランク』とはまた違ったあなたの魅力が詰まっていると思いますが、いかがですか?

TC:それはありがたい意見だし、そう思ってくれて素直に嬉しいよ。

“イット・イズ・ワット・イット・イズ” では弟のロナルド・ブルーナーのほか、ブラジルのギタリストのペドロ・マルチンスが演奏しています。彼はカート・ローゼンウィンケルなどとも共演する才能溢れるプレイヤーですが、一緒に演奏していかがでしたか?

TC:うん、カートと一緒にやってるのは『カイピ』(カート・ローゼンウィンケル作、2017年)のことだね。俺も大好きなアルバムさ。今回はペドロと一緒に曲を書いて、一緒にスタジオに入って演奏したんだ。彼がスタジオに残っている間に歌入れもして、彼としてはもっとこうしたら、ああしたらとアイデアがあったみたいだけど、ひとまずこれで完成したんだ。でも、ほかにも何曲か一緒に書いたから、いつかまた共演できたらと思う。彼も一緒にやることができて嬉しかったミュージシャンだし、今回の共演は光栄に思っているよ。

日本盤のボーナス・トラックにはマイケル・マクドナルドと再共演した “バイ・フォー・ナウ” が収録されます。『ドランク』の “ショウ・ユー・ザ・ウェイ” で共演して以降、彼との交流がいろいろと続いているんですか?

TC:うん、ずっと連絡を取り合っていて、ショウにゲストで呼んで出てもらったりしているよ。たまに会うと音楽のこと、人生のこと、いろいろ話をしているんだ。俺にとってマイケルは本当に偉大な存在で、ただ挨拶できるだけでも嬉しいというのに。マイケルの音楽に対する精神性というのか、取り組み方や愛情は本当に素晴らしいもので、いつまでも音楽に関わっていたいという人なんだ。そんなマイケルと共演できるのはとても嬉しいことだよ。この曲はマイケルを想定して書いた曲なんだけど、仮の歌入れで俺がヴォーカルをやったんだ。マイケルを真似して歌ったんだけど、彼にそのテープを聴かせたら「からかってるのか、お前」と言われて、それで素直に「そうです」って謝ってね(笑)。遊び半分だけど、俺はマイケルみたいにずっとなりたいって思ってたから、その思いも込めて歌ったんだけどね。まあ、その気持ちが伝わったのか、マイケルがあの声でああいう歌を歌ってくれて。俺もスタジオで立ち会って、本当に嬉しかったよ。いまのところ日本盤にしか入らないみたいだけど、俺としてはもっと世界中のたくさんの人に聴いてもらいたいところだね。歌詞の内容も理解してくれたのか、たぶんマイケルも俺と同じようなことを体験してきたんだろうなっていうのが歌から伝わってくる。

その歌詞の内容はどんなものなんですか?

TC:愛する人を失うことについてさ。

それは例えばマック・ミラーのことだったりするんですか?

TC:そうだよ。

そうしたことを踏まえて聴くと、またさらに味わいが深くなると思います。最後に『イット・イズ・ワット・イット・イズ』について、日本のファンへメッセージをいただけますか?

TC:まず、このアルバムを楽しんでもらえたらいいなと思うよ。そして、このアルバムがどんなところから生まれたのか、そうしたものが伝わったらいいなと思う。

どんなところというのは?

TC:俺の内面の傷心と、それによって一歩引いたところから物事を見るようになったことだね。

今回のアルバムは割とセンチメンタルなところから生まれているわけですね。

TC:うん、でもそれだけじゃない。センチメンタルな感情がダウンだとすれば、その反対のアップなところもある。人生は浮き沈みがあるもので、そうしたアップ・アンド・ダウンが『イット・イズ・ワット・イット・イズ』ってことだよね。


取材・文:小川充(2020年4月03日)

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Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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