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interview with Koreless

interview with Koreless

ウェールズのロマン派、バレアリックの夢を見る

──コアレス、インタヴュー

序文・質問:野田努    通訳:青木絵美 Photo by Eloise Parry   Jul 09,2021 UP

 コアレスとはいまから10年前、ジェイムス・ブレイクの次はこの人だと期待された、当時はまだ10代だったUKのプロデューサーである。あの頃はちょうど「CMYK」が出たばかりで、同時にマウント・キンビーやラマダンマンにも注目が集まり、じゃあ次は彼だろうと、デビュー・シングル「4D」を聴いた多くのリスナーが太鼓判を押したのだった。
 が、コアレスがベース・ミュージックに定住することはなかった。作品数こそ多くはないが、ひとつのスタイルに固執せず、自由奔放にリリースし続けている。なかでもとくに重要なのは、2013年に〈Young Turks〉から出した「Yugen」だ。もの悲しくも幽玄な音響を持つその「Yugen」もまた彼の才能を世に認めさせた作品で、今回のアルバム『Agor(アゴル)』の起点にもなっている。
 そもそも2011年のデビューEP1枚だけで、『ガーディアン』からは「ジェイムス・ブレイク、フォー・テットに続くのは彼だ」と紹介され、ジャイルス・ピーターソンからは「ほかの素晴らしいデビューと同様、将来も記憶に残るEP」などと讃辞を受けている。そんなシーンの寵児のファースト・ソロ・アルバムがこの度、ようやっとリリースされるとあればシーンはざわつき期待が高まるのも無理からぬことなのだ。しかも先行で発表された曲、“Joy Squad”は出色の出来とくる。

 もっとも『アゴル』には、こんなにも楽しそうな曲ばかりが収録されているわけではない。ウェールズ出身のロマン派による最初のアルバムに収録されたメランコリックなエレクトロニカ風の楽曲には、たとえば“ヨーガ”におけるビョークを彷彿させると言えばいいのか、オーガニックな響きを取り入れた叙情性に心が揺さぶられる。また、アルバムにはレイヴ・カルチャーの残響が断片化されてもいるようにも感じられる。どこまでも広がる牧草地帯、夜空の遠くからかすかに聞こえるダンス・ミュージック──1994年の夏、コーンウォールのレイヴに行き損ねたぼくたちはロンドンから西へ、羊たちが放牧されている一帯をどこまでも車で進んで、そしてコアレスの故郷、ウェールズにまで行った。山道を走ってすっかり迷子になり、ようやく辿りついた一軒のホテルでひと息入れてから眺めた星空は最高だったなぁ。
 『アゴル』は想像力を刺激する音楽であって、踊るための作品ではないが、ダンス・カルチャーの熱狂とも繫がっているようにも感じられる。たとえその音楽がアンビエントめいていたとしても、かの地のエレクトロニック・ミュージックがクラブ・カルチャーと乖離することはまずありえないのだ。しかしながら、ウェールズの田舎で暮らしながらバレアリックを夢見るというのは、まあ、あまりないことかもしれない……。我が道をいくタイプなのだろう。コアレスを名乗るルイス・ロバーツは、指定の時間よりも早く待機するような、天才と言うよりは謙虚で温厚なお兄さんだったと通訳の青木さんが彼の印象を教えてくれた。

学校の進路相談で、音楽プロデューサーになりたいと伝えたんだ。そうしたら先生から「それほど馬鹿げた考えはない」と言われたんだよ(笑)。

2011年にあなたが最初にリリースした12インチを東京のレコード店で購入しました。当時はダブステップ以降のベース・ミュージック全盛で、ぼくはBurialの次に来るような音を探していたんですが、Korelessの「4D」にそれを感じたからです。しかしあなたはその後、ベース・ミュージックとは別の方向に進みましたよね。あなたは自分の音楽の進むべき方向性についてどのように考えていたのでしょうか?

K:素敵な質問とコメントをありがとう。僕は同じことを1回以上やるということが得意じゃないのと、自分がこれから何をやるのかということが先にわかっているとすぐに飽きてしまう性分なんだ。だから自分が続けられる音楽制作のやり方は、自分がイメージしている音を作り出すのではなくて、何かしらの疑問や問いからはじめる。その疑問は技術的なものかもしれない。例えば、「このツールを極限まで使ったらどうなるんだろう?」とか。その過程で何か素敵なものが見つかるかもしれないし、「こんな曲を作ったら面白くない?」と自分に問いかけて、ただのジョークで終わることもある。
 もしくは、夜、何も考えずに何かを弾いてみるというときもある。そういうやり方をしているから僕の音楽は変わり続けているんだと思う。一度何かをやると、もう一度それをやるのが僕にとっては難しいことだから。つまらなく感じてしまうんだよ。だから音楽を作ることはゲーム感覚でやっていて、いろいろと探ってみたりしながら軽い気持ちでやっている。深く考え抜いてやっているわけじゃないんだよ。

あらかじめ求めているサウンドがあるというわけではないのですね。疑問からはじまって、それがどこに向かっていくのか様子を見ると?

K:最初から自分はこれを作りたいと思って制作をはじめても、決してその通りにはならないし、僕はすぐ飽きてしまうんだよね。でもゲーム感覚で制作をしていると、物事に対してもっとオープンになれる。だからどんなものができるかやってみて、予測していないことが起こっても、それはそれでよしとする。だから今回のアルバムの曲も同じようなサウンドの曲がひとつもないんだと思う(笑)。

ほかの仕事で忙しかったんだと察しますが、それにしてもアルバムを出すのにこれだけ(10年)かかった理由には、あなたがアルバムに関して慎重だったことが影響しているんじゃないのでしょうか? そして制作に費やす時間も必要だったと。

K:時間がかかった要因はいくつかある。アルバムを作りはじめたタイミングも比較的遅かったし、そもそもフル・アルバムを作るという予定がなかったからね。アルバムの曲のうち半分は、長い時間を要し、もう半分は2ヶ月でできた。最初の頃長い時間がかかったのは、「Yugen」をリリースした後だったから、すごくいいものにしなくちゃいけないと思って、自分に強いプレッシャーをかけてアルバム制作をしていたから。そう、ノンストップで、ものすごい量の楽曲を作ったんだ。すべてのトラックにつき何百ヴァージョンも作ったりしてね。で、数年後ニューヨークまで行ってポール・コリーという人とアルバムの音源をミックスしたんだけど、そこでアルバムは完成したと思った。自分のなかで祝杯を挙げていたくらいに。「Yugen」の4年くらいあとの話だよ。
 でもそのあとに、やっぱりアルバムは完成していないと思ったんだよ。アルバムには何かが欠けていたし、曲によっては強烈すぎるのもあった。だからやり直したんだ。この時点で僕はかなり落ち込んでいてね、すでにかなりの時間をかけていたからね。でもそこから2ヶ月で、“White Picket Fence”と“Act(s)”と“Stranger”とアルバムに収録しなかった他の音楽が次々と出来上がっていった。いままでのように自分に厳しくし、すべてに対して慎重にやるのはやめて、楽に、リラックスした感じで曲を作ろうと決めたんだ。そうしたらすごく早いペースで曲が仕上がっていった。だからアルバムが出来るまで、なぜこんなに時間がかかったのかはわからないけれど、いま話したような流れで完成したんだ。

アルバムが完成したと最初に思ってから、さらに2年間くらいかかったということですか?

K:それくらいかな? コロナの影響もあってリリースが遅れたというのもある。とにかくアルバムの半分はすごく時間がかかって、もう半分はまったく時間がかからなかった。

『アゴル』は、美しいメロディと繊細な電子音による壮大な広がりのあるアルバムですが、ジャンル名に困る音楽でもありますね。『Agor』は物語性がある、コンセプト・アルバムと受け取っていいのでしょうか? 

K:コンセプト・アルバムではないね。ジャンルに関して言うと、音楽には本当にたくさんの聴き方がある。例えば、「踊る」ということは音楽を聴く方法のひとつ。他にも体を動かしながら音楽を聴くことができる。音楽の種類によっては、座ってじっくりと聴くという聴き方もできる。スピーカーから音を流して、それ以外のすべての音を消して、音楽に集中する。また別の種類の音楽だと、そういう聴き方はまったく適していなくて、聴き流しているくらいがベストな音楽もある。

アルバムとしてのコンセプトがあるわけではなく、曲がひとつずつ独立しているということでしょうか?

K:その通りだよ。曲ごとに、そのスタート地点となった「疑問」があった。最初はアルバムというものを念頭に置いていなかったからね。僕はコンセプト・アルバムが作れるほど頭が良くないんだよ(笑)!

作中から聴こえるメランコリーは何に起因しているのでしょう?

K:僕はメランコリックな場所の出身だからね。ウェールズの田舎。ここの景色を見せてあげたいけれど、光の加減がとても奇妙なんだ。美しいところだよ。雑誌なんかでは、「壮大な場所」や「山頂を制覇する」という表現がよく使われていて、男性的で、登山的なマッチョのイメージがある。でも実際ここに住んでいると、そのイメージとはかけ離れている。ここの生活はこじんまりしていて、静かで、悲しい感じがするんだ。ここにいる僕の友人たちはみんなメランコリーな雰囲気があって、すごくシャイなんだ。静かで、引っ込み思案で、まるでホビットみたいなんだよ。そのことに今朝気づいたんだ。いま、じつはいま、1年ぶりくらいに両親の家=実家に戻って来ているんだ。今朝、散歩に出かけたんだけど、とても物悲しい、メランコリックな場所だと思った。だから音楽のメランコリーな感じはそこから来ているんだと思う。メランコリーと山の壮大な感じが共存している。それが僕の音楽に反映されているんじゃないかな。

序文・質問:野田努(2021年7月09日)

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