Home > Interviews > interview with Autechre - 来日したオウテカ──カラオケと日本、ハイパーポップとリイシュー作品、AI等々について話す
真っ暗闇が最高の照明であるという逆説は、何回体験しても心地よいものだ。贅沢な闇に包まれながら、オウテカのマシン・ミュージックにおけるその驚異的な乱雑さ、マキシマリズム的特性には、懐古的な匂いはなく、たしかに現代的かもしれない、と思った。これは孤立したサウンドではないのだ。ソフィーやイグルーゴースト、フットワークやジャージー・クラブといった今世紀のエレクトロニック・ミュージックとどこかで共鳴しているモノを感じたし、その解放感がぼくの考え方を拡張しくれたこともわかっている。長いあいだオウテカのような音楽は、禁欲的で、男性的で、パートナーがいないときに男がひとりで没入する、肉体不在の前衛音楽だと考えられてきたとしたら……しかしながらいまぼくが挙げた例には、多かれ少なかれエロティシズムがある。時代は変わっているのだ。会場には多くの男性以外の姿があった。
今回の取材、場所はZepp DiverCityの楽屋、ときは2月4日の夕方、ライヴの本番前に時間をもらった。楽屋に入ってお互い挨拶しながら、そして質問に入るわけだが、何度も取材しているので、はっきりと言えることがある。オウテカはつねにリスナーと真摯に向き合っている、ということだ。ショーンとロブから、有名人にありがちな傲慢さを感じたことはいちどもない。
また、以下の話を読んでいただければわかることだが、彼らの大衆文化を尊重する態度も一貫している。面白いのは、これだけ実験的な音楽をやっていながら、なぜか彼らは、人間的な温かさを高潔な思想ないしは実験性という虚勢や、自分たちは●●とかよりも優れているという盲目的な確信で隠そうとなどは決してしない。抽象的なサウンドかもしれないが、オウテカのどこかにエロティックなファンタジーを感じるとしたら、その音楽の出自には、ボディ・ソニックなダンス・カルチャーがあるからだろう(なにせその出発点はマントロニクスなのだからね!)。
さて、能書きはここまでにしよう。我らがオウテカ──30年以上もエレクトロニック・ミュージックと向き合ってきた人たちの奥行きのある言葉をお楽しみください。

■昨夜は眠れましたか?
ロブ(以下、R):いや、ぼくたち2人とも眠れなかったんだ。
■昨日はオフだったんですよね?
R:一応はね。でも身体は休息が取れていない状態だったね。
ショーン(以下、S):その前の日は飛行機で3時間くらい寝て、夜6時間くらい寝られたんだけど、昨夜は全然眠れなくてね。少しはウトウトしたのかもしれないけど、頭が全然休まらなくて。
R:食事も取れないし、体内時計がめちゃくちゃになっちゃって。昨夜は11時頃に遅い食事を取ったんだけど、食欲もあまりないし、食後にベッドに入って休んでみたものの、2時間半くらいで起きちゃって、それからは全然眠れなかった。いまが今日なのか何なのか、ずっとフラストレーションが溜まっている感じだよ。
S:でもまあ、今夜プレイできるくらいには生きているから大丈夫(笑)。
■それは良かった。とにかく、久しぶりに会えて嬉しいです。最後に直接会って話したのは、2018年だったかな……。
R:ぼくも会えて嬉しいよ。
■ただ、歳を取るとどんどん時間の感覚もわからなくなってきて、5年前っていつだっけとか(笑)。
R:ぼくもつい最近来たような気がしていたよ。時々、続けざまに来ることもあれば、かなり長い期間が空いてから来ることもあるからね。前回の取材は何年だっけ?
■2020年、『Sign』をリリースしたあとぐらいにもやっているんですけど、そのときは坂本麻里子さん通しての取材で(『ele-king vol.26』に掲載)、直接会って話すのは2018年以来ですかね。
R:そうかそうか。
カラオケでは、ぼくは前回モーターヘッド。(ロブ)
ぼくはストーン・ローゼズの“Fools Gold”を歌ったね。(ショーン)
■日本に来たときの楽しみってあるんですか?
S:今回は1日オフがあるんだけど。いや、2日か。正確には昨日はオフだったけど、体調を整える日という感じだったからね。このあともう1日オフがあるけど、とくに何も予定はないよ。たぶんショッピングにでも行くかな。つまらない答えだけど、いつもだいたいショッピングして終わる感じだからね。イギリスでは手に入らないものがたくさんあるし、しかも安い。ぼくはパートナーからカメラのレンズを入手するように言われてるから、それを探しに行こうと思って。他にはとくに予定はないかな。
R:ぼくに関して言えば、日本に来たことのある友人や、しばらく滞在したことのある親戚から「これをやるといいよ」っていうおすすめをたくさん聞いて来たよ。どれも面白そうなことばかりで。でも、今回のようなライヴの前後は、何週間も準備期間があって、そのあと移動があって、さらに公演の前後に少しオフがある、みたいな流れになるよね。そういう状況だと、「せっかくだから特別なことをしなくちゃ」と無理に駆け足で何かをやろうとする感じになる。でもそれって、あまり意味がないと思う。むしろ、いつかまた改めて日本に来て、1週間くらいがっつり滞在して、きちんと時間をかけて楽しむ方がいいんじゃないかな。
S:さっきも話してたんだけど、次に来るときは、東京の中心じゃなくて郊外か、いっそ東京の外にホテルを取って、1週間くらい滞在する方がいいんじゃないかと思って。そうすれば、まず時差ボケの問題を解消出来るし、それに普段はあまり見ることのない日本の違った一面も見られるかもしれないしね。もちろん東京にいるとはいえ、渋谷とか、今回のこのエリアにいるだけだと、東京という街の中でも本当にごく一部をかすめているに過ぎないし、ましてや日本全体を象徴するようなエリアでもないと思うから。以前にもう少し遠出をして日本を廻ったこともあるんだけど、少なくともぼくにとっては、東京の外に出た途端にすごく面白くなるんだよね。
R:うん、北海道にも行ってみたいし、南のビーチも見てみたいね。いままでとは全然違うタイプの日本を体験してみたい。でも、そうするにはやっぱり時間がかかるし、本来は面白くて、しかもゆったり出来る旅になるはずなのに、これまで一度もそこまでの時間が取れたことがないんだ。結局いつも、サッと来てサッと何かを済ませるだけ、みたいな感じになってしまって。それだと上手くいかないんだよね。だから、また別の機会を狙うよ。
■カラオケとか行ったりしないんですか?
S:今回は行ってないけど、前回来たときに何回か行ったよ。小さなバーが何軒もずらっと並んでいるエリアがあるでしょ。東京のどこだったかな。思い出せないんだけど……とにか、小さなバーがものすごくたくさん並んでる通り。
通訳:新宿のゴールデン街ですかね?
S:いや、渋谷だ。渋谷駅の近くだったよ。小さな通りで、すごくちっちゃなバーが並んでいて。
R:3人か4人入れば満員になってしまうような小さなバーで、カラオケが置いてあって。そこに何度か行ったね。まあ、カラオケを歌うにはめちゃめちゃ酔っ払っている必要があるんだけど(笑)。
■何を歌うんですか?
R:ぼくは前回モーターヘッドの“Ace of Spades”を歌ったよ(笑)。
■(笑)
R:悪くないでしょ(笑)。
S:ぼくはストーン・ローゼズの“Fools Gold”を歌ったね。
数年前にソニックマニアに出演したんだけど、あれは実質ポップ寄りのフェスだよね? 正直、ちょっと驚きだったよ。出番前は少し緊張してたんだ。自分たちの客層とは違う、いわゆるポップ寄りの観客が多いだろうと思っていたから。
■ハハハハ。ところで、いまここに来るとき、すでにお客さんが階段に並んでましたね。チケットもすぐにソールドアウトになったし、相変わらず人気あるなと思いました。これまでにとくに思い出に残っているライヴというと何になりますか。
S:日本でのライヴは、いつでもとても良い体験になっていると思う。曖昧な意味で言っているわけではなくて、本当にそう感じているよ。ぼくはつねに観客の反応を気にかけているけど、日本のオーディエンスは基本的にすごく静かで礼儀正しくて、ぼくたちの音楽に対するリスペクトがある。でも、最後には大きな歓声をくれるし、ちゃんと届いているように感じられるんだ。
数年前にソニックマニアに出演したんだけど、あれは実質ポップ寄りのフェスだよね? 正直、ちょっと驚きだったよ。出番前は少し緊張してたんだ。自分たちの客層とは違う、いわゆるポップ寄りの観客が多いだろうと思っていたから。ぼくたちの後には違うタイプのGrimesも出ていたし、正直このイベントに自分たちが合っているのかな? という感覚もあった。でも、その観客に向けてやってみたいと思って出演したら、結果的にすごく上手い具合にいったんだ。だから、日本の観客に対してがっかりしたことは一度もないよ。もちろん、リキッド・ルームみたいな会場だとやりやすいよね。ある程度、自分たちのことを知っている人たちが足を運んでいることがわかっているから。
R:リキッド・ルームでも何度かやったし、初期の頃はもっと大きなヴェニューでやったりもしたから、いろいろだね。
S:とにかく、カルチャー的にはリキッド・ルームのようなヴェニューはすごく安心するというか。タイコクラブとかエレクトラグライドみたいなフェスだと、観客は基本的にテクノ寄りの人たちが多いんだけど、日本ではそれなりに作品も聴かれていたから、大体どんなことをやるのかわかって来てくれていることが多いんだ。少なくとも何が起こるのかわからない、という感じにはならない。でも、あのソニックマニアは驚きだったし、すごく嬉しい経験でもあったね。いわゆるポップ系の観客と自分たちがちゃんと繋がれた、というのは不思議な感覚だったよ。
どこでもあっても、そういうことが起こると毎回ちょっと信じられない感じはするんだけど。最近だと、ヘルシンキでも同じようなことがあって。フロー・フェスティバルに出演したんだけど、そこもかなりポップ寄りの観客が多かったんだ。出演者の多くはポップ系で、少なくともぼくたちよりずっと知名度のある人たちばかりだったしね。
R:それに、かなり商業的だったよね。
S:そうそう。そういう場でも、ぼくたちはいつも通りのセットをそのままやる。わざわざポップな音楽に寄せて、観客に合わせる必要はないと思っているんだよ。変な風に聞こえないといいんだけど、ここ最近は音楽シーン全体が、少しずつぼくたちに近づいてきている部分もあるんじゃないかと思うんだ。たとえばSOPHIEとかCharli XCXみたいなアーティストが出てきたりしてね。もちろん、ぼくたちの音楽が彼女たちに似ているわけではまったくないんだけど、どこかに影響を感じさせる細い糸のようなものがあって、それを通してぼくたちの音楽と繋がる人がいるのかもしれない。そういう変化みたいなものは、ぼくたちにとってもとても良いことだと思うんだよね。
R:日本は、ぼくたちにとって常にiTunesでの最大市場のひとつなんだ。実際、記憶にある限りずっと、日本はニューヨークやロンドンと並ぶ最強の都市のひとつで、東京はほぼいつもトップクラスに入っている。うん、日本ではよりアンダーグラウンドというか、マニアックなアーティストのほうが、むしろしっかり紹介されているように感じるよね。
S:日本は、海外のものを受け入れる際にとても選別的だ、という感覚がずっとあるよ。というのも、シーン全体がそのまま入ってくるわけではなくて、すべてが紹介されるわけじゃない。でも、たとえばジェフ・ミルズのような存在はちゃんと入ってきているよね。つまり、あらゆるテクノやエレクトロニック・ミュージックが紹介されているわけではないけれど、選ばれているもののセンスがとてもいい。ちゃんと良いものを見極めている感じがするんだ。そういう意味で、ぼくらの感覚や美意識は、日本のオーディエンスの感性とかなり合っていると思う。自惚れに聞こえたら申し訳ないけど(笑)、少なくともある程度は本当だと思っているよ。
R:ひとつ補足しておくと、ぼくがiTunesと言っているのは、実際には彼らが教えてくれる Shazamのヒット数のことなんだ。Shazamは流れている音楽を認識するアプリなんだけど、東京では、そのShazamの数値がいつも非常に高い。ロンドンやニューヨークが1位を争うこともあるけど、東京はほぼ常にトップにいるんだ(笑)。iTunesではアーティストごとの統計データが見られるし、Shazamは東京の状況をすごくわかりやすく示してくれる指標だよ。それで、Shazamのデータを見ると、少なくとも2つ、もしかしたら3つのことがわかる。ひとつは、人びとがサンプリングされたものを耳にして、「これは何だろう?」と調べた結果。もうひとつは、そもそもぼくたちの楽曲がどこかで流れている、という事実だね。お店やラジオ、あるいは街中のどこかで流れていなければ、Shazamされることはない。だから、どういう経路で広がっているのかを正確に把握するのは難しいけれど、確実に起きている、ということだけははっきり見えるんだ。
■クラブでもDJがかける曲をShazamでチェックしてる人が多いかもしれない(笑)。
R:街中にもビルボードがたくさんあるから、3〜4曲同時にチェックしてる人もいるかもしれないね(笑)。
取材:野田努(2026年2月11日)