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オウテカが、本当にオウテカらしくなったのは『LP5』(1998)からだろう。それ以前の4枚のアルバムには、シーンからの影響がある程度わかりやすく残されている。『インキュナブラ』(1993)にはエレクトロ/ヒップホップ、『アンバー』(1994)にはアンビエント、『トライ・レパテエ』(1995)と『キアスティック・スライド』(1997)にはインダストリアル……しかし『LP5』にはそうした既存の何かを引き合いに出すことが難しい、いま我々が知るところのオウテカがいる。
ジャケットからしてそうだ。黒いケースにはタイトルの表記はなく、エンボスでautechreとあるのみ。白いステッカーにはこのアルバムにはタイトルがなく、便宜上『LP5』となっている旨が記されている。そこに記録されている音を聴く以外のほかはどうでも良いとでも言いたげなのだが、さらに続いてリリースされた「ep7」は『LP5』とほぼ同じ収録時間で曲数も同じ11曲、しかしそれでもこれは「ep」なのだ。Discogsでもそう区分けされている。が、じつは、LP/EPというカテゴライズ自体がもはや意味をなさないと。ゆえに近年のオウテカの膨大なライヴ音源リリースも、90年代末の時点でアルバム単位というものを相対化しているのだから、わからなくもない。フォーマットはどうでもいいから聴いてくれやである。
メロディアスな『SIGN』に対してリズミックな『PLUS』。アンビエントな前者に対してビートがある後者。まったく正確な言い方ではないが、大雑把な印象ではそう言えるだろう。磨り潰されたノイズが脈打つ“DekDre Scap B”を序とする『PLUS』は、2曲目“7FM ic”でさっそく彼らの異次元ファンクをお披露目する。コラージュ音を派手に乱舞させながらリズミックに展開し、我々が認識する世界の外側へと連れ出すかのようだ。これはアルバムの目玉のひとつである。
“marhide”ではいっきに音数を減らしながら、言うなれば、無機質なリズムに、気体となった音をかぶせている。そしてふたたびメタリックなファンク“ecol4”へと続くという具合だ。15分もあるトラックは、奇妙なメロディとアシッド・ハウス流のベースをともなって、半分過ぎにある長めのブレイクのあと折り返す。で、オプティミスティックでドリーミーな“lux 106 mod”を挟んで、もうひとつのクライマックス“X4”が待っている。ややAFXにも似たこの曲を聴いていると、自分が機械であることを忘れたドラムマシンが暴れまくっている光景を思い浮かべてしまうのだが、あなたはどうだろうか。
オウテカのユーモアは“esle 0”の似非シンフォニーにも見て取れるが、トドメは“TM1 open”(オリジナル盤の最終曲)が引き受けている。高速で打ち鳴らすキックドラムの上を電子音が蝿のように旋回する様は、アフロにもアシッドにも聴こえる。曲は終わりに向けて静けさに包まれ、優雅な気配において締めるという案配だ。蜃気楼のようなボーナストラックの“p1p2”も、その最後の静けさを延長している。
エレキング年末号では、驚くなかれ、オウテカの4万5千字インタヴューを掲載している。彼らは、『PLUS』が『SIGN』の残り物ではないことを強調していたが、それはわかる。茶目っ気は、たしかにこちらにある。『PLUS』は嬉しいアルバムなのだ。
野田努