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KEIHIN

Techno

KEIHIN

Chaos and Order

Prowler

河村祐介 Jan 30,2026 UP

 2000年代から、長らく東京周辺のアンダーグラウンドで活動を続けてきたDJ、KEIHINがこのたびファースト・アルバムをリリースした。ライフステージの変化とともにDJとしての活動を2度ほど休止しながらも、育児や家事、仕事という日常生活の合間をぬって制作、このパラノイックとも言えるドープな本作を完成させたそうだ。その制作意志にまずは感服するばかりだ。

 そのDJとしての本格的なキャリアは2000年代初頭、peechboy、CMT、MutronらとのDIYパーティ・ポッセ、DOEL SOUND FORCEに遡るが、2000年代後半には、東高円寺〈GRASSROOTS〉、関西の〈FLOWER OF LIFE〉、千葉の〈FUTURE TERROR〉といったクラブ、パーティ周辺人脈──いわゆる〈RAW LIFE〉前後に勃興したアンダーグラウンドなDJシーンで活躍していくことになる。しかし、サウンドとして本作につながる起点としてはやはりパーティ〈ALMADELLA〉だろう。現在では上海のエッジーなレーベル〈SVBKVLT〉からのリリースでも知られる、現在は京都を拠点とするRILLAとともに主宰していたパーティ。2008~2013年の開催で早くもミニマル・テクノとダブステップ(それだけではないが)のミックスがおこなわれていた。そうしたスタイルは、2010年代初頭のポスト・ダブステップの流れ以降、現在ではもはや珍しいことではなくなったが、パーティ・スタート当初は、そのわずか1~2年前に、やっとダブステップのレコードが国内でも買うことができるようになり、ましてやインターネットでの情報も限られ、ファイルでのDJがまだ敬遠されていた時代と言えばその先鋭性が少しはわかるかもしれない(ちなみにDVSの登場もそうだが、さらにDJプレイのファイル化の転機となったCDJ-2000 は2009年11月/CDJ-2000nexusは2012年9月のリリース)。そこで招聘したアーティストたち──スキューバ、シャックルトン、アップルブリム、ペヴァリストといったラインナップを見ても、その方向性がわかるだろう。本作のサウンドの素地がそうした活動にあることはなんとなくはわかるのではないだろうか。またミックスCDレーベルでもあり、主宰のふたりの他に、現在大阪のレコード店〈Naminohana〉を運営するINBEのミックスも出している。

 2016年にDJ活動を一端休止。本格的なアーティスト活動の開始は、2018年末で自身のレーベル〈Prowler〉を立ち上げてリリースしたシングル「Esoteric Communication」となる。決して早くはないデビューといえるが、しかしその響きは、音楽表現への不退転の信念というか執念を感じずにはいられないそんな作品で(そもそも自主でレコード・プレスまでしている)。本作へと続く、ダンスフロアに根ざしたポスト・ダブステップとテクノの汽水域から立ち現れたインダストリアルなブロークン・テクノを展開していた。そして再度の2020年のDJ活動休止後、やはり日々の生活の合間をぬって完成させたのが本アルバムだという(DJ活動は近日再開予定とのこと)。

 「生と死、そして転生(進化あるいは継承)」というテーマの元に『Chaos and Order』と名付けられた本作は、あえてここでは引用しないが(CDを手に取った方がいい)、おそらく自身の長らくのオブセッションに強く由来するであろう、レイヴとサイケデリック・カルチャーをひとつの起点にした、いわば生成変化の、フリーキーな着想のSFストーリーとシンクロしたものだという。CDには各曲にそのストーリーに連なったイメージがブックレットとして編み込まれ、ひとつの作品を作り上げている(それは帯裏にも及ぶ)。いわば視覚的なイメージも含めて、ひとつのアート・ピースとして構成されている。

 地鳴りのようなベース音とノイズによってその出発を知らせる “Wormhole” から一転してヘヴィーなブロークン・テクノ “Gate” によって、アルバムは本当のはじまりをつげる。強迫観念を煽り立てるようなボイス・サンプルとグリッジなピープ音の “Room” から一転、パーカッシヴなダブ・テクノ “Ayahuasca” でアルバムは、徐々にそのグルーヴで聴く者の妄想を加速させる。グッと重心を落としたブレイクビーツ・テクノ “Overload”。淀んだ井戸の水の底から星空を眺めているかのようなダブ・アンビエント “Cogitation” をはさんでアルバムは後半にかけてさらに加速していく。モノトーンのブロークン・ビート~ハーフステップ的な “Resist”、またホワイト・ノイズとともに覚醒を促すハード・テクノ “Singularity” から、ビリビリと痙攣するハードなミニマル・テクノ “Transition”。この後半の流れを聴いているだけでも、いつしか白目をむいて、意識は身体の存在を振り切り拡散していくようだ。そして最後に訪れるのは仄暗い福音をもたらすアンビエント・テクノ “Sign” で終幕する。

 もちろん本作の楽曲は現状のベース~ブロークン・テクノなどのダンスフロアの要素に根ざしたものではある。しかし、単なるダンストラックの集積ではなく、アルバムというフォーマットがもたらすストーリー・テリングを強烈に意識したであろうことは伝わってくる構成だ。ダークかつインダストリアルなメタリック感、ダブのヘヴィーネスと浮遊感といった音のテクスチャーで、アルバムを通じて強烈な妄想を具現化するかのような広大なるコスモロジーを描き出している。また前日譚としてのアンビエントDJミックスも用意されていて、このビート感や構成とともに、まさにDJという体験を下敷きに、そこから電子音楽を作るということに強烈なるパッションを見出していることをビンビンに感じる作品でもある(最近ではロンドン在住のTORUの『Rescue at SW4』にも同じ執念を感じた)。

 多忙な日常生活をぬって作られた、その日常に表裏一体で頭に渦巻く「狂」の一文字、それを表現として肯定する、その強烈な執念を感じさせ、妄想をも具現化=脳内のイマジネーションのグルーヴを覚醒させる、まさにブレイン・ダンス(IDMという意味ではない)のテクノ・アルバムと言えるだろう。

 また作品性そのものとは関係はないが、ライフステージの変化でダンスフロアから離れながらも、またこうした強度の作品を作りあげるという部分で、つきることない音楽という表現への深い愛情に支えられた、年齢に左右されないある種のオルタナティヴなアーティストのキャリア、それを含めた人生のあり方を肯定する。そんなメッセージもそこには感じてしまう、そんな作品でもある。

河村祐介