「IO」と一致するもの

KMRU - ele-king

 ロンドンとイスタンブールを拠点とする〈Injazero Records〉、音楽プロデューサー/ジャーナリストのSiné Buyukaが設立したレーベルで、マット・エメリーやシー・ディアブなどの音源で知られる尖端的なエクスペリタンル・ミュージック・レーベルである。その〈Injazero Records〉が、2020年に〈Editions Mego〉から傑作アンビエント・アルバム『Peel』を出したことで知られるKMRUの新作アルバム『Logue』をリリースした。これが話題にならないはずがなく、リリース直後からアンビエント・ファンのみならず多くの音楽マニアが本作をSNSで絶賛している。
 しかし『Logue』は完全新作アルバムではない。どうやらKMRUのセルフ・リリースしていた膨大なトラックのなかから〈Injazero Records〉が選び、アルバムにまとめたのである。しかしそのせいだろうか、前作『Peel』より曲調ヴァリエーションに富んでいるし、実質、彼の「ベスト・オブ・ベスト」とでもいうべき仕上がりであり、KMRUというアーティストの多面性が理解できる構成になっている。

 KMRUのキャリアについては『Peel』についてレヴューを書いたときに簡単にまとめたので今回は省略するが、彼はケニア出身・現在ベルリン在住のアーティストであり、もともとはダンス・ミュージックを制作していたアーティストでもある。ゆえにその音楽性がいわゆる「アンビエント・ミュージック」だけに留まるものではないことはわかっていた。じっさい昨年『Peel』直後にリリースされた『Opaquer』でもアンビエントを超えた神話的な音響世界を構築していたのである(人によっては『Peel』よりも『Opaquer』を高く評価したのではないか)。

 当然、『Logue』にも、KMRUのポップ・アンビエント的な側面が存分に収められている。だが一聴すれば即座にわかるが、それは安易に「アンビエントの型」を守るようなものではまったくない。ところどころに導入されているケニア(KMRUの生まれ故郷だ)や東アフリカ周辺で録音されたフィールド・レコーディング音が非常に効果的に用いられているのだが、そのサウンドが反復し、やがてリズムへと変化する。そこにカーテンのように柔らかい電子音がレイヤーされていくような特異な構造になっているのだ。アフリカ音楽とアンビエントの融合とでもいうべきか。
 じじつ、2曲目“Jinja Encounters”、6曲目“11”などは、ダンス・トラックからアンビエント・トラックに変わっていく過程を感じることができる貴重な曲といえるだろう。環境音が反復し、リズムになり、電子音の層と交錯する。いわばアフリカ音楽とアンビエント/電子音楽の融合とでもいうべきサウンドなのだ。ちなみに“Jinja Encounters”は2017年のトラックで、このアルバムの中でも最初期の楽曲という。
 その意味ではプレ『Peel』『Opaquer』とでもいうべきサウンドなのだ。特にアンビエントなムードが濃厚な1曲目“Argon”(2018年の楽曲)、7曲目“Bai Fields”、8曲目“Logue”、9曲目にして最終曲“Points”などの楽曲を聴くとそれを強く感じる。彼のシーケンスはまるで親指ピアノのようにリズミカルであり、独自のアンビエンスを生成している。なかでも“Argon”はそのまま『Peel』『Opaquer』につながっていきそうなムードのトラック(ドローンとシーケンスの絡みが絶妙だ)で、極めて重要な曲に思える。

 しかしである。これが不思議なのだが、どのトラックも、まったく「過去」の曲という気がしないのだ。2020年・2021年を経たコロナ禍の音楽としての存在感を強く感じてしまうのである。これは編集した〈Injazero Records〉の力量かもしれないが、当然、もともとの楽曲に時代を超える力が宿っていたとすべきだろう。
 じじつ、この『Logue』のサウンドを、日々、繰り返し聴いていると、その優雅にして、どこか不穏なサウンドスケープが、まるでこの不安定な世界のサウンドトラックに聴こえてくる。単なるBGM的な「心地良さ」へと至るのではなく、そこかしこに不穏でダークなムードがある楽曲たちなのである。
 なぜこのような「ひっかかり」があるのだろうか。勝手な想像だが、KMRUは自らが安易に消費されるのを拒んでいるように思えてならない。「個」の存在を大切にしつつも、どこか世界の行く末を見据えているような音に感じられるのだ。アンビエント、リズム、反復、融解、空気、感情、世界、現在、未来。 NTSは、KMRUの音楽のことをこう評した。「ザラザラした土着のサウンドからフィールド レコーディングやシンセシスまで、あらゆるものを使用した、知的でアトモスフィアで感情的に実験的な音楽」。まさにそのとおりだ。

 すぐれた音楽は、リアルを捉え、そして良質なSFのように予見的だ。だからこそこの『Logue』はアンビエント・マニアのみならず、ジャンルを超えた広い音楽ファンに聴いて頂きたいアルバムなのだ。ここに音楽の「今と未来」がある、とは言い過ぎだろうか。しかし最終曲“Logue”で展開される「穏やかな最後の光景」のようなサウンドスケープを聴くと、ついそんなことを思ってしまうのである。

梅雨のサウンドパトロール - ele-king

 オリンピック村で配布されるコンドームの数が尋常じゃないと話題になってるけれど、どうせ東京オリンピックを強行するなら、いっそのこと夜のオリンピックも「OnlyFans」(https://onlyfans.com)で強行配信すれば収益もガーンと上がって、電通ウハウハなんじゃないでしょうか。セクシーな行為や姿を見られたい人が自作映像をアップする「OnlyFans」はディズニー女優のベラ・ソーンが主演作のリサーチ目的でアカウントを開設しただけで1日で1億1000万円も売り上げたというから、運営側が夜のオリンピックもコントロール下に置けば赤字も秒で解消でしょう! ああ、オレはなんて国想いなんだろう……つーか、見せたいバカはきっといる(https://twitter.com/onlyfansjapan_)。そうしたことを踏まえて、梅雨のサウンドパトロールです。

1 Cam Deas & Jung An Tagen / That (yGrid/C#) / Diagonal


https://soundcloud.com/diagonal-records/diag059-3-cam-deas-jung-an


https://presentism.bandcamp.com/track/that-ygrid-c

ケンイシイ “Extra”……かと思った。ロンドンから実験音楽系のキャン・ディーズことキャメロン・ディーズがパウウェルのレーベルに移籍し、オーストリーのステファン・ジャスターと組んだビート・アルバムの3曲目。“Extra” のダンス・ビートをゴムのミリタリー・ドラムに置き換え、全体にソリッドな質感で押し切っている。偶然にも大坂なおみを襲った病気と同じ『プレゼンティズム(Presentisim)』と題されたアルバム全部が様々なアプローチで “Extra” をアップデートさせた集合体のようで、オープニングはFKAトウィッグスの最良の仕事のひとつといえる “Hide” に通じるメキシカン・テイスト。


2 Ghost Warrior / Meet At Infinity / Well Street


https://soundcloud.com/oneseventyldn/premiere-ghost-warrior-meet-at-infinity

ハーフタイムなどドラムンベースの刷新に取り組んできたピーター・イヴァニ(Peter Ivanyi)による7作目のEPからタイトル曲。空間的な音処理に長け、ダークな余韻を残すことにこだわってきた彼が作品の質を落とさず、緊張感をアップさせた感じ。快楽的なんだかストイックなんだか。同EPからは複数のリズム・パターンを駆使した3曲目の “They Live” もいい。ハンガリーから。


3 kincaid / Slow Stumble Home / Banoffee Pies


https://banoffeepiesrecords.bandcamp.com/track/slow-stumble-home


https://soundcloud.com/banoffee-pies/premiere-kincaid-slow-stumble-home

ブリストルのニュー・レーベルからキンケイドとシューティング・ゲームに由来するらしいゼンジゼンツ(Zenzizenz)が2曲ずつ持ち寄ったEP「Single Cell」のオープニング。ロンドンのキンケイドは長らくオーガニック・ハウスをやっているという印象しかなかったけれど、ロックダウン下で取り組んだEP「Pipe Up」でハーフタイムらしき “Thirds” を聴いてから急に興味が湧いたひとり。そして、フィールド・レコーディングを素材に用いた “Slow Stumble Home” でダウンテンポというジャンルに新風を吹き込んできた。素晴らしくてナイス・チルアウト。


4 どんぐりず / マインド魂 / Victor


https://dongurizu.com/news/detail/80

本誌でヒップホップ特集を組んだと聞き、僕がたまにユーチューブでチェックしている群馬の二人組をピックアップしてみました。何を伝えたいのかさっぱりわからないけど、なぜか何度も観て(聴いて)しまう。


5 Kamus / Kult / Céad


https://soundcloud.com/cead_cd/kamus-kult?in=yungkamus/sets/kult

グラスゴーからキャメロン・ギャラガーによるアラビック・テイストのトライバル・ダブステップ。延々と宙吊りにされる快楽。かつてのトラップ趣味や妙な情緒の揺れは消し飛び、カップリングの “Wallace” とともにストイックでヒプノティックなパーカッション・ワークがとにかく素晴らしい。


6 ディノサウロイドの真似 a.k.a Dinosawroid-mane / 210212 / Opal Tapes

松本太のソロ・プロジェクト。カセット・アルバム『AOB』から6曲目。アルバム全体はエキゾチックなトライバル・ドラムやフェイク・ファンクなど、いい意味で懐古的なオルタナティヴ・サウンドみたいですが、“210212” はちょっと毛色が変わっていて、伸びたり縮んだりするスライムを音楽に移し替えたような面白い展開。関西の人なのか、自己紹介がふざけていてよくわからない。ネーミングの由来は→https://twitter.com/dinosawroidmane


7 Poté / Young Lies (feat. Damon Albarn) / OUTLIER


https://potepotepote.bandcamp.com/track/young-lies-feat-damon-albarn

パリ在住のポテによるアフロ・シンセ・ポップのデビュー作から8曲目。アフリカ・イクスプレスやブラカ・ソン・システマのレーベルを経て、ボノボが〈ニンジャ・チューン〉傘下に設立したレーベルから。癖がなくて聞きやすい曲が並ぶなか、ジェイミーXXのソロを思わせる “Young Lies” は重そうな歌詞をしなやかに聞かせていく。


8 miida and The Department - Magic hour

元ネゴトのマスダ・ミズキによるニュー・プロジェクト。渋谷系リヴァイヴァルというのか、さわやかで微妙にアンニュイな感じは懐かしのクレプスキュール・サウンドを思わせる。そこはかとなくダンサブルで、ロッド・ステュワート “I’m Sexy” のベース・ラインを思い出すのはオレだけか。


9 Maara / WWW / UN/TUCK Collective

「孤独なインターネット・インフルエンサー」を自称するマジー・マン(Mazzy Mann)による過去2枚のEPを素材としたリミックス・アルバム『MAARA 2​.​5: X MIXES & REMIXES』の冒頭に置かれた3曲のオリジナルから3曲目。リミックス部分は全部いらなかったという感じで、オリジナル曲では嘆き悲しむようなメロディをゴージャスに歌い上げ、確実にスキル・アップが達成されている。カンザス・シティのクイアーやトランスジェンダー専門のレーベルから。


10 Marjolein Van Der Meer & Big Hands / Kitty Jackson / Blank Mind

アラン・ジョンソンやラックなど秀逸なトラックものを連発してきたダブステップのレーベルがロックダウンを機に製作したアンビエント・アルバム『Comme De Loin』の5曲目。レイジーなウイスパー・ヴォーカルを軸にふわふわと頼りなげに漂う薄明のダウンテンポ。はっきりいって、良かったのはこれ1曲。

New Order - ele-king

 ニュー・オーの昨年のシングル曲“”のリミックス集が8月27日にリリースされる。バーナード・サムナーとスティーヴン・モリス、アーサー・ベイカーによるリミックスやadidas SPEZIALとのコラボレーション曲など全13曲が収録。
 なお、現在アーサー・ベイカー(※エレクトロ・ヒップホップの始祖、NOが1983年の「Confusion」でフィーチャーしたことは有名)でによるリミックスがデジタル配信中。


New Order
Be a Rebel Remixed

Mute/トラフィック
発売日:2021年8月27日(金)

Tracklist
1. Be a Rebel
2. Be a Rebel (Bernard’s Renegade Mix)
3. Be a Rebel (Stephen’s T34 Mix)
4. Be a Rebel (Bernard’s Renegade Instrumental Mix)
5. Be A Rebel (Paul Woolford Remix New Order Edit)
6. Be A Rebel (JakoJako Remix)
7. Be A Rebel (Maceo Plex Remix)
8. Be A Rebel (Melawati Remix)
9. Be A Rebel (Bernard's Outlaw Mix)
10. Be A Rebel (Arthur Baker Remix)
11. Be A Rebel (Mark Reeder's Dirty Devil Remix)
12. Be a Rebel (Edit)
13. Be a Rebel (Renegade Spezial Edit)

[Listen & Pre-Order]
https://smarturl.it/BARremixed


 ちなみに昨年3月に予定されていたジャパン・ツアーは、コロナ禍の影響により延期となり、2022年1月に実施されることとなっている。

■ジャパン・ツアー日程
大阪 2022年 1月24日(月) ZEPP OSAKA BAYSIDE
東京 2022年 1月26日(水) ZEPP HANEDA
東京 2022年 1月28日(金) ZEPP HANEDA
制作・招聘:クリエイティブマン 協力:Traffic
https://www.creativeman.co.jp/event/neworder2020/



...

 UKの新しいDubレーベル〈Dub Junction〉よりサウンドシステム・ミュージック界の重鎮、Vibronicsとその盟友、ルーツ・レゲエ・シンガーのParavezとの共作による新曲「Healing Of The Nation」がリリースされる。記念すべき第一発目となるこの作品には、今日の日本でサウンドシステム文化を啓蒙するBim One ProductionがリミックスとそのDubミックスで参加。
 こちらは180g重量盤12インチ (400枚限定!)とデジタル配信で販売開始となる。すでにIration SteppasやKing Shiloh, Don Letts, OBFなどがサポート。メッセージ性が高いリリックにヘヴィー級の重低音で、心も身体も揺れること間違いなし!

Legend of the sound system scene, Vibronics, links up with longtime collaborator Parvez, to deliver a much-needed anthem in the face of Babylon.
Bim One deliver remix cuts direct from Tokyo inna future dubwise style.
Limited run of 400, pressed to heavyweight 180g vinyl with mastering from Ten Eight Seven.
Support already from King Shiloh, OBF, Don Letts, Dreadzone, Mungo’s Hi Fi, Iration Steppas, Ras Kwame, Charlart58, Blackboard Jungle + more!

Soundcloud (unearthed sound)


Vibronics & Parvez - Healing Of The Nation + Bim One Remix
Label: Dub Junction Catalog: DUBJ001 Release: 18/06/2021

Preorder/buy link (active from 1st June): dubjunction.com/dubj001
Format: 12” Vinyl (180g), streaming + download

1. Original Mix
2. Dub Mix
3. Bim One Production Remix
4. Bim One Production Dub Mix


Vibronic


Bim One Production

Seefeel - ele-king

 シーフィールが1994から96年にかけて〈Warp〉と〈Rephlex〉からリリースした作品をまとめたボックス・セット『Rupt+Flex 94-96』がリリースされた。
 まず情報的なことを書いていこう。ボックスは以下の4枚のCDで構成されている。

●Disc1……彼らが〈Warp〉から1995年にリリースしたセカンド・アルバム『Succour』、全11曲。
 このディスクについては、1995年にリリースされたオリジナルの『Succour』と同じソースが使われているようだ。ボックスのクレジットにあるマスタリング・エンジニアの名前もオリジナルと同じ(Geoff Pesche)。2002年と2008年に〈Warp〉から出たリプレス盤も同様だった。オリジナルと同様にGeoff Pescheがリマスターした可能性もあるかなと思ったが、念のためダイナミックレンジやピークレベルを見てみると、過去の音源も今回のボックス音源もほぼ同じだったのでおそらくオリジナルのままのようだ。このアルバムをリマスターしなかったのは、マーク・クリフォードがこのアルバムの音に自信を持っているということなのだろうか。
 ちなみに過去のディスクと今回のディスクの違いがひとつだけある。アルバム最後のナンバーの扱いだ。これまでのディスクでは、アルバムは全10曲収録となっており、8分近くに及ぶ長尺の“Utreat”がラストトラックだった。ただし、元素表を模した表ジャケットには、クレジットされている10曲の斜め下に“( )11”という表記があり、アルバムに隠しトラックがあることが示唆されていた。このことは当時から知られていたことだが、今回のボックスセットではトラック10の“Utreat”が5分8秒で終わり、続く部分は“Tempean”のタイトルで2分44秒のトラック11として初めてクレジットされている。

●Disc2……『Succour (+)』と題された、『Succour』制作期のレアトラック全12曲。
 このディスク以降は、エレクトロニック・ダブ・ユニットで、当ele-king netでもおなじみPoleのステファン・ベトケによるリマスターとなる。これもこのボックスのアピールポイントだ。
 この12曲中、完全な未発表トラックはトラック1、6~12の8曲。
 トラック2から4の3曲はベルギーの実験音楽レーベル〈Sub Rosa〉から1995年にリリースされたエレクトロニック・ダブ系のコンピレーション・アルバム『Ancient Lights And The Blackcore』に収録されたもの。このアルバムは全6曲から成るが、シーフィールはなんとその半分の3曲を提供している。他の3曲はナパーム・デスのドラマー、ミック・ハリスのユニットScornのアンビエント・ダブ、デヴィッド・トゥープによって録音されたヤノマミ・シャーマンズ──ヤノマミ族はブラジルとベネズエラの国境に並ぶ丘陵地帯に住む民──のフィールド・レコーディング、LSDグル、ティモシー・リアリーとDJ Cheb I Sabbahによるスポークン・ワード、と言えばこのアルバムがどういうものなのかは理解できるだろう。
 残るトラック5は、2009年にワープ20周年を記念してリリースされたアルバム『Warp20(Unheard)』に収録されたもの。

●Disc3……〈Warp〉との契約を残しながら、1996年にエイフェックス・ツインのレーベル〈Rephlex〉からリリースされたアルバム(6曲入り、30分弱のミニ・アルバムだった)に、未発表曲6曲を加えて全12曲とした『(Ch-Vox) Redux』。トラック1から6までがオリジナルの『(Ch-Vox) 』、7から12が新たに加えられたトラック。
 
●Disc4……『St / Fr / Sp』と題された全10曲を収録するこのディスクは、1994年に〈Warp〉からリリースされた12インチ・シングル「Starethrough EP」(4曲)と10インチ・シングル「Fracture / Tied」(2曲)、1994年に10インチ3枚組で発表されたオウテカの「Basscadet」にシーフィールがリミックスを提供したことへの返礼として同じ年に制作されながらも、2003年にマーク・クリフォードが運営するレーベル〈Polyfusia〉からリリースされるまで未発表だった“Spangle”の貴重なオウテカ・リミックス、完全未発表の“Starethrough(transition mix)”、2019年にSfl4e名義で配信のみでリリースされたシングル「Sp / Ga 19」の2曲(“Sp19”は“Spangle”の、“Ga19”はアルバム『Succour』に収録された“Gatha”の略称)の、2017年から19年にかけてデンマークとフランスで行われたライヴ音源をエディットしたもの)を収録している。

 シーフィールが1994年に〈Warp〉と契約した時、世間は「あの電子音楽の牙城〈Warp〉がギター・バンドと契約した!」ということで大騒ぎになった……いや、大騒ぎというほどではなかったかもしれないが、中騒ぎくらいにはなったのではないだろうか。いや、しかし実際1995年にリリースされたアルバム『Succour』は驚くほどここ日本では売れなかったと、ele-kingの編集長・野田努は当該アルバム日本盤にライナーノーツを寄せた僕にそう告げたことをいまでもよく覚えている。もっとも、〈Too Pure〉時代のシーフィールは日本ではほとんどメディアに取り上げられることはなかった。当時日本でもその名が轟き始めていたコーンウォールの異能、エイフェックス・ツインとキャリア初期から密接な関係を持ち、そのエイフェックス・ツインがほぼ原曲の骨格を崩さずに彼らの美しいサイケデリック・ギター・ロックな〈Time To Find Me〉にリミックスを施したということで一部の好事家の間で話題になっていたにも関わらず、である。
 シーフィールの音楽は黎明期からそもそも不思議な存在だった。ちなみにマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』はシーフィールの最初のシングルよりも2年近く前の作品である。
 1992年の初頭、マーク・クリフォード、サラ・ピーコック、ジャスティン・フレッチャーの3人がシーフィールを結成した当初は、「3分間のポップ・ソングを作っていた」という。「ヴァース、コーラス、ヴァース、コーラス、ミドルエイト、コーラス、フェード・トゥ・エンド……」というやつだ。しかしすぐに飽きてしまった。その年の夏にダレン・シーモアが加入し、後に最初のEP「More Like Space」となる曲を録音したとき、彼らはそれまで試行錯誤したインディー・ロックの定石を捨てて、サウンドの核心に迫る旅をはじめることにした。〈Too Pure〉からの最初のアルバム『Quique』に至ると、コードチェンジは最小限に抑えられ、キーボードのループ、周期的なギターのフィードバック、ドラムマシンの音などがきらびやかなコラージュとなり、サラの言葉を使わないヴォカリーズが彩りを添え、水のようなレイヤーのシーケンスが重なり、異次元のサウンドスケープが生まれ、ダンスフロアとは無関係のある種のトランス状態を誘発するような音楽を彼らは生み出した。
 彼らの初期の作品のエレガントさを愛していたインディー・ロック・ファンはたしかに存在しただろう。が、彼らはその地点にとどまることなく、ドリーム・ポップ的なサウンドから実験的なアイデアを持ってよりダークでインダストリアルな領域へと急ピッチで進出した。そして彼らはアンダーグラウンドなエレクトロニカ・シーンの橋頭堡とも言えるレーベル、〈Warp〉と契約した。
 同じ頃にシーフィールはジャーナリストのサイモン・レイノルズによって提唱された「ポスト・ロック」というジャンルの代表的なバンドと見なされるようになる。シーフィールのほか、Bark Pyschosis、Pram、Main、Laika、Insidesといった「ロックの楽器を非ロック的な目的で使用し、ギターをリフやパワーコードではなく、テクスチュアや音色のファシリテーターとして使用している」グループの音楽がそのジャンル名で呼ばれるようになり、ロック・バンドにおけるサンプラーの導入やテクノ、ヒップホップ、ダブへのアプローチの呼び水ともなったのである。シーフィールの〈Warp〉時代は、イギリスのロック界におけるパラダイム・シフトの時代とぴったり一致しているのだ。
 だが、残念なことに〈Warp〉に移籍してからの彼らの活動は決して順風満帆ではなかった。バンドの司令塔でもあったマーク・クリフォードはより硬質な音響彫刻ユニットDisjectaを、ダレン・シーモアは初期シーフィールのメンバーであったLocustのマーク・ヴァン・ホーエンとユニットを、マーク・クリフォード以外のシーフィールのメンバーはSeefeelより歌に重点を移したScalaといった課外活動を展開し、シーフィールとしての活動は2010年までほとんど行われなくなる。マーク・クリフォードとサラ・ピーコックに加え、二人の日本人メンバーを迎えて改めて〈Warp〉から2010年にリリースされたアルバム『Seefeel』はいいアルバムだった。だが、このボックスセットに収められたわずか2年ほどの活動期間に創作されたシーフィールの音楽を聴くと、あの激動の時代を反映しているが故の凄まじいばかりの音の強度に頭をぶん殴られたような気分になる。いま聴いても決して聴きやすい音楽ではない。メタリックで、パーカッシヴで、引き裂くようなリズム。しかし音楽は一面的ではない。サラ・ピーコックの幽玄なヴォーカル・サンプルが穏やかさと光をもたらす瞬間があちこちにある。その音楽はストーリーを語るものではない。抽象的で、荒涼とすら表現したくなるような響きだが、それゆえ時代遅れになる危険性とは無縁であるとも言える。抽象的な音楽と言ったけれど、例えば彼らにはスティーヴ・ベケットも愛した“Spangle”といった名曲があるのは強い。オリジナルもいいが、オウテカによってさらなる幽玄空間を現出させたリミックスや、ライヴ・テイクをエディットした“Sp19”の、どちらも12分にも及ぶ天国的な響きに持っていかれて抗えない。

韓国文学ガイドブック - ele-king

「今の私たち」とともにある物語

面白い、でもそれだけじゃない。今を生きる私たちとともにある現在進行系の言葉。
注目の作家とおすすめ作品、そして作品の背景をより深く知るためのコラムも掲載。
今の韓国文学の熱さがわかる一冊!

執筆陣(50音順):アサノタカオ/石橋毅史/伊藤幸太/江南亜美子/小川たまか/菊池昌彦/権容奭(クォン・ヨンソク)/倉本さおり/柴崎友香/杉江松恋/すんみ/チョン・ソヨン/仲俣暁生/長瀬海/西森路代

[目次]
まえがき

■バックグラウンド
韓国現代史(菊池昌彦)
韓国の地理(菊池昌彦)
韓国の出版社と文芸誌(すんみ)
韓国の文学賞(すんみ)

■作家紹介+おすすめ作品
ハン・ガン──生き残った者たちの義務(黒あんず)
パク・ミンギュ──「もっと、もっと」に殺されないためのユーモア(倉本さおり)
チョン・セラン──ジャンル小説と文学の垣根を超えて現実を描く(黒あんず)
イ・ギホ──ユーモアにひそむ〈罪〉と〈恥〉の感覚(黒あんず)
ファン・ジョンウン──打ち捨てられたものたちのゆくえ(黒あんず)
チェ・ウニョン──市井に生きるひそやかな声(黒あんず)
ペク・スリン──闇の中で出会う人(柴崎友香)
キム・エラン──無数の時間の檻のなかで(倉本さおり)
ピョン・ヘヨン──恐怖と不安に満ちた〈不快の美学〉(黒あんず)
キム・ヘジン──淡々と描かれる社会の暴力(黒あんず)
キム・ヨンス──わかり合えない現実と向き合う(長瀬海)
オ・ジョンヒ──美しい言葉で描かれる濃密な時間(伊藤幸太)
イ・スンウ──人間の根源へと向けた祈り(伊藤幸太)
パク・ワンソ──あたたかく大きな「山」(黒あんず)
チョン・ジア──時間と向き合うパルチザンの娘(長瀬海)
キム・ジョンヒョク──ポップ・カルチャーと飛躍する想像力(江南亜美子)
キム・グミ──得体の知れない世界の感触(黒あんず)
チョン・ミョングァン──巨大な物語(メガノベル)とジェンダー感覚(仲俣暁生)
チョ・ナムジュ──声なき声の記録(黒あんず)
キム・ヨンハ──グロテスクなユーモア(黒あんず)
クォン・ヨソン──日常のディスコミュニケーションを射抜く(黒あんず)
イ・ヒョン──時代に分断された人々(大久保潤)
チョン・ユジュン──負の感情を描く〈韓国のジム・トンプソン〉(杉江松恋)
ユン・イヒョン──書くべきでないときに書かないこと(黒あんず)
チョン・イヒョン──現代社会と切り結ぶ女性像(江南亜美子)

■ジャンル別
さらなる紹介が待たれる韓国のミステリー(杉江松恋)
自分が自分であるために大切にしているもの──韓国のエッセイについて(アサノタカオ)
たたかいの最前線に立つ、美しいことばたち──韓国の詩について(アサノタカオ)
韓国文学アンソロジー紹介(黒あんず)
韓国のSFについて(チョン・ヨソン)

■トピック別
韓国フェミニズム本、いま読みたい四冊(小川たまか)
民主化運動と韓国文学(権容奭/クォン・ヨンソク)
「喪失」と「トラウマ」に向き合う韓国文学──聖水大橋・三豊デパート・セウォル号(クォン・ヨンソク)

■コラム
韓国文学と映像(西森路代)
K-POPアイドルとK文学(黒あんず)
韓国の書店──闘いの場の記憶(石橋毅史)
二〇〇〇年代の韓国における日本文学受容(すんみ)

あとがき

[監修者プロフィール]
黒あんず
早稲田大学大学院修了。趣味で韓国文学を読み始めた。

[執筆者プロフィール]
アサノタカオ
編集者。一九七五年生まれ。大学卒業後、二〇〇〇年からブラジルに滞在し、日系移民の人類学的調査に従事。二〇〇九年よりサウダージ・ブックスの編集人をつとめる。著書に『読むことの風』。

石橋毅史
一九七〇年生まれ。作家。書店や出版についての文章が多い。二〇〇二年に初めて訪れて以来、韓国へたびたび出かけている。著書に『本屋がアジアをつなぐ』(ころから)、『本屋な日々 青春篇』(トランスビュー)など。

伊藤幸太
東京・西荻窪にある書店、忘日舎店主。古書と新刊を扱う。読書会、朗読会など書籍に関するイベントも不定期に開催。最近では配信型イベント、またチーム選書プロジェクトも試行中。ときどき書く仕事、読む仕事とか。

江南亜美子
書評家、京都芸術大学専任講師。おもに日本の純文学と翻訳文芸に関し、新聞、文芸誌、女性誌などでレビューや批評を手掛ける。共著に『世界の8大文学賞』(立東舎)など。韓国文学関連では『韓国・フェミニズム・日本 完全版』(河出書房新社)にも寄稿。

小川たまか
ライター/フェミニスト。二〇一五年頃から性暴力の取材に注力。著書に『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)。YAHOO! ニュース個人などで執筆。

菊池昌彦
フリーライター。主に韓国・中国のドラマ、音楽などエンタメ関連ムックの他、歴史書、雑学書などの執筆を手がけるフリーライター。グループSKITアジア担当。二〇二一年九月に執筆を手がけた『一冊でわかる韓国史』(河出書房新社)が発売予定。

権容奭(クォン・ヨンソク)
一橋大学大学院法学研究科准教授。専門は東アジア国際関係史、日韓関係、韓国現代史。政治・外交・歴史だけでなく、映画・音楽・スポーツまで幅広く研究している。著書に『岸政権期のアジア外交』『韓流と日流』『韓国文学を旅する60章』(共著)、訳書に『イ・サンの夢見た世界―正祖の政治と哲学』。文在寅大統領の自伝『運命』に解説を執筆している。

倉本さおり
書評家。共同通信文芸時評「デザインする文学」、週刊新潮「ベストセラー街道をゆく!」連載中のほか、新聞や文芸誌、週刊誌を中心にレビューやコラムを執筆。TBS「文化系トークラジオLife」サブパーソナリティ。

柴崎友香
小説家。二〇〇〇年の初の単行本『きょうできごと』が二〇〇三年に映画化。二〇一〇年に『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、二〇一四年に『春の庭』で芥川賞受賞。著書に『百年と一日』『千の扉』など。

杉江松恋
一九六八年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒。ミステリー中心に書評ライターとして活動中。著書に『路地裏の迷宮踏査』、『ある日うっかりPTA』他。近著『書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリベスト2011‐2020』。

すんみ
翻訳家・ライター。早稲田大学大学院文学研究科修了。訳書にキム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』(晶文社)、チョン・セラン『屋上で会いましょう』(亜紀書房)、ユン・ウンジュ著、イ・ヘジョン絵『女の子だから、男の子だからをなくす本』(エトセトラブックス)、共訳書にイ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』『失われた賃金を求めて』(タバブックス)、チョ・ナムジュ『彼女の名前は』(筑摩書房)などがある。

チョン・ソヨン(鄭昭延)
大学在学中にストーリーを担当した漫画「宇宙流」が二〇〇五年の「科学技術創作文芸」で佳作を受賞し、作家としてスタートを切る。小説執筆と併行して英米のフェミニズムSF小説などの翻訳も手がけている。二〇一七年には他の作家とともに「韓国SF作家連帯」を設立し初代代表に就任した。また、社会的弱者の人権を守る弁護士としても活動中。著書に『となりのヨンヒさん』(吉川凪訳、集英社)がある。

仲俣暁生
一九六四年東京生まれ。文筆家、編集者。大正大学表現学部客員教授。著書『ポスト・ムラカミの日本文学』(朝日出版社)、『極西文学論』(晶文社)、『失われた「文学」を求めて―文芸時評編』(つかだま書房)ほか。

長瀬海
千葉県出身。インタビュアー、ライター、書評家、桜美林大学非常勤講師。文芸誌、カルチャー誌にて書評、インタビュー記事を執筆。「週刊読書人」文芸時評担当(二〇一九年)。「週刊金曜日」書評委員。翻訳にマイケル・エメリック「日本文学の発見」(『日本文学の翻訳と流通』所収、勉誠社)共著に『世界の中のポスト3.11』(新曜社)がある。

西森路代
ライター。ユリイカ、マイナビニュース、GALAC、リアルサウンド、現代ビジネス、&M、CINRA、朝日新聞、ハフポストなどで執筆。共著に『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』。


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The Master Musicians of Joujouka - ele-king

 過去5年の間、もしくは、これまでに観たなかで最高のライヴのひとつが、2017年の音楽フェスティヴァルFRUE(フルー)でクロージングを飾ったザ・マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカだった。このモロッコ人たちは二度のアンプリファイド(音響ありの)・パフォーマンスで、メイン・ステージの観客の心を揺さぶる能力を披露し、すでにその週末のスターとなっていた。

 そんな彼らの最終ステージは、会場を音楽祭のマーキー(大テント)に移しての深夜のアコースティック・セットだったが、PAなしで耳が聴こえなくなるぐらいの大音量を出すことのできるバンドには、そのような違いは、ほとんど意味を持たない。舞台のセッティングは、リフ山脈の麓にある彼らの村で毎年開催されているフェスティヴァルを再現したもので、舞台を覆うように敷かれた、すり切れたラグまでもが忠実に再現されていた。

 そのイベントを二回ほど体験していた自分としては、何が起こるか、大方の予想はしていたものの、彼らの音楽がFRUEの数百人の観客にもたらした効果には、やはり驚かされた。その喜びに耽る夜は、本物の、ハンズ・イン・ジ・エア(両手を空にあげる)なレイヴのようで、4時間近くに及ぶパフォーマンスで、グループが新たな高みへと昇華する度に観客は喜びの雄叫びをあげた。

 このような体験をレコードに収めるのは常に難儀なことであり、非常に優れたいくつかのリリースを含むマスターズのディスコグラフィでも、彼らのライヴ・パフォーマンスほどの恍惚感をもたらしたものはない。彼らの名を世に知らしめた1971年のアルバム『ブライアン・ジョーンズ・プレゼンツ・ザ・パイプス・オブ・パン・アット・ジャジューカ』では、サイケデリックな特性を際立たせるために、音楽に電子的な処理が施され、そのフィジカリティ(肉体的な衝動)が犠牲になってしまった。

 それ以来、グループのリリース(バシール・アッタール率いるライヴァルの一団であるThe Master Musicians of Jajoukaも含む)は、フィールド録音から、2000年にアッタールがその一団とタルヴィン・シンとで制作した、グループの名を冠したアルバム(これはスルーしてよい作品。信じてほしい)のような作り込み過ぎたワールドビート・フュージョンのようなものなど、多岐にわたっている。しかし、2016年にパリのポンピドゥー・センターで行われた「ビート・ジェネレーション展」でのコンサートを収録した『ライヴ・イン・パリ』ほど、好き勝手に、力強くやっている録音はないと自信を持っていえる。

 2017年の日本ツアーの際に限定盤として販売されたCDの、正式なLPレコードとデジタル音源のリリースは、1年以上にわたるCOVID-19煉獄の後では、より歓迎されるに違いない。これは、マスター・ミュージシャンズのアンプリファイド・モードであり、2017年のErgot Recordsからリリースされた『Into The Ahl Srif』のフィールド録音とは全く異なっており、私が記憶しているジャジューカのフェスティヴァルでのサウンドに近いものになっている。

 とくにカーマンジャ(ヴァイオリン)奏者のアハメッド・タルハは、アンプの使用により、驚くべき微分音が際立つという恩恵を受け、より力強い演奏となっている。彼は1枚目のB-SIDEで中心的な役割を果たしており、故・アブデスラム・ブークザールがリード・ヴォーカルを務めた“ブライアン・ジョーンズ・ジャジューカ・ヴェリー・ストーンド”などの定番曲で、喜びにあふれんばかりの演奏を披露。裏面にも同じような曲がいくつか登場するが、ここでは音楽は曲がりくねったような、コール&レスポンスのリラ(笛)とパーカッションがヒプノティックにブレンドされており、複雑なポリリズムが各曲の終わりに突然跳ねて、アッチェレランドで加速していく。

 しかし、最大の魅力は、アルバムの2枚目に収録された、トランス状態を誘発するような“ブゥジュルード”のフル・ヴァージョンだ。伝統的には、これはジャジューカ村のフェスティヴァルの最終夜に、火の灯された儀式のサウンドトラックとして演奏される組曲で、普段は寡黙なモハメド・エル・ハットミが、伝説の半人半獣(人間とヤギ)のブゥジュルードとして知られる生き物を体現する。

 武骨な毛皮の衣装を身に纏い、悪霊を追い出すために人々を激しく叩くハットミの姿は、秋田県男鹿半島のナマハゲを思い出すが、音楽は全くの別物で、感覚を奪われるようなダブル・リード楽器のライタ(あるいはガイタ)が、雷鳴のようなパーカッションを背景に、群がり合い、渦を巻くように襲ってくる。

 ライナー・ノーツのなかで、グループのマネージャー兼プロデューサーであるフランク・リンは、コンサートのこの部分は、音楽の原始的なオーセンティシティ(真正性)を保つために、ペアのステレオ・マイクロフォンを2つ使用したと洒落た言葉で説明しているが、これは、非常に激しくロックしているという意味だ。44分近くに及ぶ曲の中央部では、ライタが集結し、奇妙なフェイジングの効果を発揮して、音楽そのものが錯乱しているかのようだ。
 
 グループのライヴを体験できる機会が不足しているなか、このもっとも純粋な形のトランス・ミュージックは、自分自身を解き放ち、身をゆだねるべき音である。唯一、このLPヴァージョンの批判をするとしたら、半分聴いたところで、こいつをひっくり返さなくてはならないことだ。リンによると、ポンピドゥー・センターでのコンサートでは、ステージへの客の侵入で最高潮に達したというが、これはスーサイドが演奏して以来の出来事だったそうだ。この証拠に基づけば、それこそが、道理にかなった反応だったと思う。

(アラビア語読み協力:赤塚りえ子)

The Master Musicians of Joujouka
Live in Paris

Unlistenable Records
bandcamp

James Hadfield

One of the best shows I’ve seen in the past five years―maybe ever―was the closing set that the Master Musicians of Joujouka played at Festival de Frue in 2017. The Moroccans were the stars of the weekend, having already done a pair of amplified performances that demonstrated their ability to rock a main-stage crowd.
For their final appearance, they shifted to a marquee in the festival campsite for a late-night acoustic set―though such distinctions mean little to a band that’s capable of achieving deafening volumes without the need for a PA. The setting was a convincing recreation of the festival that the group hold each year at their village in the foothills of the Rif Mountains, right down to the threadbare rugs covering the stage.
Having been to that event a couple of times myself, I had a fairly good idea of what to expect, but the effect the music had on the assembled crowd of a few hundred people at Frue still took me by surprise. It was a night of joyous abandon: proper hands-in-the-air rave stuff, people howling with joy as the group kept ascending to new heights of intensity over a performance lasting nearly four hours.
Capturing that kind of experience on record is always going to be a challenge, and the Masters’ discography―while featuring some very fine releases―has never delivered anything quite as ecstatic as their live performances. On the 1971 album that first introduced them to a wider audience, “Brian Jones Presents the Pipes of Pan at Joujouka,” the music was subjected to electronic treatments that accentuated its psychedelic properties at the expense of its physicality.
Since then, the group’s releases―and those by rival outfit The Master Musicians of Jajouka led by Bachir Attar―have ranged from field recordings to over-produced worldbeat fusion efforts like the self-titled 2000 album that Attar’s troupe recorded with Talvin Singh (trust me: you can skip it). But I’m confident in saying that nothing has kicked out the jams quite as emphatically as “Live in Paris,” which captures a 2016 concert at the Centre Georges Pompidou, held as part of an exhibition dedicated to the Beat Generation.
Sold in a limited CD edition during the group’s 2017 Japan tour, the album has finally had a proper vinyl and digital release, and after over a year of COVID-19 purgatory it feels all the more welcome. This is the Master Musicians in amplified mode, and it’s very different from the field recordings heard on the 2017 Ergot Records release “Into The Ahl Srif,” which came closer to how I remember them sounding at the festival in Joujouka.
Kamanja (violin) player Ahmed Talha in particular benefits from amplification, letting his astonishing microtonal playing assert itself more forcefully. He takes a central role on the B side of the first disc, which features ebullient renditions of staples like “Brian Jones Zahjouka Very Stoned,” with lead vocals by the late Abdeslam Boukhzar. Some of the same pieces pop up on the flip side, though here the music is a hypnotic blend of sinuous, call-and-response lira flutes and percussion, with complex polyrhythms that leap into sudden accelerandos at the end of each piece.
However, the biggest draw is the album’s second disc, which contains a full version of the trance-inducing “Boujeloud.” Traditionally performed on the final night of the festival in Joujouka, this suite provides the soundtrack for a fire-lit ritual, in which the normally retiring Mohamed El Hatmi embodies the mythical half-man, half-goat creature known as the Boujeloud.
The spectacle of Hatmi, dressed in a ragged fur costume and vigorously thwacking people to drive out evil spirits, brings to mind the Namahage of Akita’s Oga Peninsula, but the music is something else altogether: a sense-scrambling assault of double-reeded ghaita that seem to swarm and swirl around each other, backed by thunderous percussion.
In the liner notes, the group’s manager and producer, Frank Rynne, explains that this part of the concert was recorded with two stereo pair microphones to “maintain the primordial authenticity” of the music, which is a fancy way of saying that it rocks very hard indeed. During the central stretch of the nearly 44-minute piece, the massed ghaita start creating weird phasing effects, like the music itself is becoming delirious.
Short of catching the group live, this is trance music in its purest form―sounds to lose yourself in, surrender to―and my only criticism of the vinyl edition is that you have to turn the damn thing over halfway through. The Pompidou concert culminated with a stage invasion, which Rynne says had only previously happened when Suicide played there. On this evidence, it was the only sensible response.

Colleen - ele-king

 先日のある暑かった休日、ぼくは2年ぶりに釣りに出かけた。まあ、といっても道具をもって自転車で3~40分ほどで行けるところで、2年前までは子供を連れていったものだけれど、いまはもう親の相手などしない年頃なので、ぼくはひとりだった。2年のあいだに地形も変わり、自分の秘密のポイントだった場所も荒れ果てていたのだが、このままでは帰れないと諦めずに、丈高い草をかき分けながらあらたな場所を見つけ、しばらくそこで過ごした。貴重な初夏における、ちょっとした夢の時間だ。
 どうってことのないところなのだが、人が行き交う道路よりも低いところに降りて川のなかに入っていると、東京も、そして自分の人生も少し違って見える。ぼくがコリーンの音楽に覚える感覚はそれに似ている。特別なものなのどなにひとつないけれど、しかし彼女の音楽はぼくに夢の時間を与える。

 昨年編集部で作った『コロナが変えた世界』のなかで上野千鶴子氏が言っているように、本当に成熟した社会では、ジェンダーのステレオタイプにとらわれずに評価されるのが本来のあるべき姿なのだろう。ローレル・ヘイローの音楽は、彼女が女性で、男の作り手が多い電子音楽をやっているから評価されているわけではない。ただ純粋に彼女の作品には力があるからだ。実際ヘイローは、「女性電子音楽家」という括りを嫌悪している。
 しかしながら、歴史的な不平等さのなかではある程度の強制が必要なのもたしかだ。この春欧州では、歴史から除名されてきた女性の電子音楽家たちの歴史ドキュメンタリー映画『Sisters With Transistors(トランジスタのシスターたち)』(ナレーションはローリー・アンダーソン!)が上映されて話題になっている。日本でも上映して欲しいと切に願うが、すでにこの夏の上映が決まっている『ショック・ドゥ・フューチャー』という映画はフィクションではあるけれど、女性のエレクトロニック・ミュージシャンを主人公にした映画である。1978年のパリが舞台の、電子音楽なんてまだキワモノだった時代の話で、笑ってしまうほどマニアックな電子音楽がかかるのだが、映画の最初のほうで主人公が部屋に入ってシンセサイザーの前に座り、そして音を出す場面がある。鍵盤を押して出る、アナログ・シンセサイザー特有のファットなあの「ぶおぉん」という音。その瞬間に覚える嬉しい驚きを映画はとてもうまく表現している。あのサウンドこそ、夢そのものだ。あれが鳴るといつもと同じ風景が一瞬にしてどこか違ったものに思えてくる。コリーンの7枚目のアルバムには、そうした夢の電子音が鳴っている。

 もっともコリーンは最初から電子音楽家だったわけではない。音楽とは無縁の家に生まれ、文学に夢中になった10代を経てパリの大学で文学を専攻し、『失われた時を求めて』を読破したという彼女は、英語の教職に就くとチェロを買い、30歳にして初めて音楽のレッスンを受け、そして教師をしながら(生徒には自分の音楽のことを明かさずに)音楽活動をはじめている。ロンドンの〈Leaf〉からリリースされた初期の作品は、チェロなどの生楽器の演奏とオルゴールとを組み合わせたユニークなものだったが、作品はじょじょに電子化され、そして前作『A Flame My Love, A Frequency』においては完全なエレクトロニックへと発展した。新作の『The Tunnel And The Clearing(トンネルと、そして晴れること)』もまた、彼女の電子機材の音色を活かしたエレクトロニック・ミュージック作品である。
  
 アルバムの1曲目の“The Crossing”は、内省的で美しい──いや、彼女の作品は総じて美しいのだけれど──ミニマリズムの曲で、これから人生をどう生きようかと物思いに耽っているアンビエント・ポップだ。そして、綿のようなシーケンスに包まれながら「いま自分はこんなにも痛い」と歌う“Revelation(啓示)”へと繫がる。この曲は、いまの季節の朝の7時に公園のベンチで座っているときに感じることのできる透明感を有しているものの、悲しげだ。こうした今作のメランコリックなはじまりに関しては、彼女のプライヴェートにおける長年のパートナー(彼女のほぼ全作品のアートワークを手掛けていた)との別離が無関係であるはずがない。彼女は彼とともに過ごした思い出の地を離れ、バルセロナでひとり暮らしをはじめながら本作の制作に取りかかっている。言うなれば自己再生がこのアルバムのひとつの重要なテーマなのだ。
 内へと爆発しているのか外へと爆発しているのかと自問する“Implosion-Explosion(内破/爆発)”では、古いドラムマシンがリズムを刻み、シンプルなドローンを発信させつつ、駆け抜けていく感覚を展開する。そしてこの曲が終われば、エモーショナルで、しかも瞑想的とも言える表題曲“The Tunnel And The Clearing(トンネルと晴れること)”が待っている。
 それからドリーム・ポップ調の“Gazing At Taurus (牡牛座を見つめること)”へと続くのだが、同曲の2部にあたる“Night Sky Rumba(夜空のルンバ)”がぼくは本作でもっとも気に入っている。真夜中の静かなミニマリズムの後半におけるささやかな上昇は、じつに感動的だ。
 日本盤には2曲のボーナストラックが入っているが、オリジナル作品で最後の曲になるのが“Hidden In The Current(流れに隠されたもの)”だ。コクトー・ツインズがクラウトロックと出会ったかのような曲で、後半に湧き上がる渦を巻くような電子音には不思議な力強さがある。

 私は目覚めている
 私は目覚めている
 私はやっと目が覚めた
 私はやっと目が覚めた
 そしてひとりで立ち上がった
 そしてひとりで立ち上がった
“Hidden In The Current”

 人生に夢の時間は必要だが、それだけでは成り立たない。しかし、それでも夢が広がる。そんな音楽だ。
 映画『ショック・ドゥ・フューチャー』のエンドロールには、献辞として、ローリー・シュピーゲルをはじめとする女性電子音楽家たちの名前がずらっと記されてる。ぼくの家には、女性電子音楽家たちの作品が年ごとに増えていっている。それはもちろん「女性だから」気に入っているのではない。ただ純粋に好きな音楽があり、それを作っているのが女性だったというだけの話だが、このように時代は変わっていると。まあ、そんなわけで、釣りのほうはどうなったのかというと、ここでは書きません、今度会ったときに話すことにしょう。

Martin Gore - ele-king

 シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノ、そして電気グルーヴなどに多大な影響を与えたシンセポップのスーパー・グループ、デペッシュ・モード。その中心メンバーのマーティ・ゴアが、かなり尖った野心的な作品をリリースする。今年の1月に発表したEP「ザ・サード・チンパンジー」とリミックス集の2枚組だが、これはもうテクノ/エレクトロニカ作品と言ったほうがいいだろう。発売は8月とまだ先の話だが、電子音楽好きにはたまらない内容なので、忘れずにメモっておくことをオススメする。
 ちなみにリミキサーには、サンパウロのテクノDJ、ANNAとWehbba(DMはブラジルでも人気)、ベルリンのBarkerやJakoJako、ドイツからはほかにThe ExalticsやChris Liebing、実験派のRroseやKangding Ray、そしてJlinなどといった、かなりアンダーグラウンドかつ実験的な顔ぶれを揃えている。

マーティン・ゴア (Martin Gore)
ザ・サード・チンパンジー + リミックス (The Third Chimpanzee + Remixed ~ Japan Edition)
Mute/トラフィック
発売日:2021年8月20日(金)
https://trafficjpn.com/news/mgjapan/

Tracklist
CD-1
1. Howler
2. Mandrill
3. Capuchin
4. Vervet
5. Howler’s End

CD-2
1. Howler (ANNA Remix)
2. Mandrill (Barker Remix)
3. Capuchin (Wehbba Remix)
4. Vervet (JakoJako Remix)
5. Howler (The Exaltics Remix)
6. Mandrill (Rrose Remix)
7. Capuchin (Jlin Remix)
8. Vervet (Chris Liebing Remix)
9. Howler (Kangding Ray Remix)
10. Mandrill (MoReVoX remix)

【マーティン・ゴア】
デペッシュ・モード(1980年結成)のオリジナル・メンバー&ソングライター(G/Key)。デペッシュ・モード以外の活動として、ソロ名義『Counterfeit²』(2003年)、また元デペッシュ・モードで現イレイジャーのヴィンス・クラークとのユニットVCMG『SSSS』(2012年)を発売。2015年、ソロ・プロジェクトMG初のアルバム『MG』発売。2001年1月29日、MGとしてEP『ザ・サードマン・チンバンジー』を発売。2020年、デペッシュ・モードはロックの殿堂(Rock & Roll Hall Of Fame)入りを果たした。

Eventless Plot - ele-king

 ギリシャを拠点とするエレクトロ・アコースティック・トリオ「イヴェントレス・プロット」は、テープ・オペレーションやモジュラーシンセを担当する Vasilis Liolios、ピアノの Aris Giatas、Max/MSPをもちいてデジタル・プロセッシングを手掛ける Yiannis Tsirikoglou ら3人のメンバーによって構成されている。
 活動開始は2002年。ボローニャ、ミラノ、テッサロニキ、スコピエ、アテネなどヨーロッパ各地でライヴ活動を展開し、インスタレーションや映画、ダンス・プロジェクトのためのサウンド・デザイン・作曲なども精力的に手掛けてきた。
 録音作品は2009年にテッサロニキのレーベル〈Granny Records〉からアルバム『Ikon』をリリースしてから、UKの〈Aural Terrains〉、〈Creative Sources〉、ロスアンジェルス〈Dinzu Artefacts〉などの世界各国の現代音楽・実験音楽レーベルから多くの作品を送り出してきた。2020年には最先端の現代音楽レーベルの老舗的存在〈Another Timbre〉からアルバムをリリースしたほどである。

 彼らのサウンドをあえて簡単に解説すれば「音のコラージュ」と「00年代以降のデジタル・プロセッシング・サウンドを現代において継承・発展させたエクスペリメンタル・エレクトロ・アコースティックな音」となるだろうか。特にデジタル・プロセッシングによる音の加工は、00年代以降の電子音響の系譜をいまも受け継ぐものだ。むろん彼らの音は形式に囚われているものではない。ときにクラリネット奏者、ときにハープ奏者、ときにサックス奏者などともコラボレーションを積極的におこない、音響/音楽の境界線を越境するようなサウンドを作り上げてきた。

 2021年にリリースされた『Phrases』(しかもセルフリリース作品。フィジカルとデジタルの両方でリリースされている)においては、デジタル・プロセッシングされたサウンドは、洗練と精巧の域にまで達しており、「一級の音響作品」という呼称に相応しい出来栄えである。
 本作はドイツ政府が設立した公的な国際文化交流機関「ゲーテ・インスティテュート」によるプロジェクトであるインタラクティヴ・ウォール・インスタレーション「Disappearing wall」(https://www.goethe.de/en/kul/erp/eur/21758431.html)のために制作依頼された6チャンネルの電子音響がベースとなっている(アルバム化にあたりステレオ・ヴァージョンへと再構築されている)。
 もちいられている音の要素はテープやモジュラーシンセ、ピアノ演奏、声などだ。それらのマテリアルをMax/MSPを用いた高度なデジタル・プロセッシングによって統合・接続し、精密かつ繊細な音響空間を生みだしている。ちなみにマスタリングを手掛けているのは電子音響の巨匠ジュゼッペ・イエラシ(!)。

 アルバムはアナログ盤ではA面(12分52秒)とB面(14分42秒)に1トラックずつ収録されている(デジタル版ではアウトテイクをコラージュした13分25秒の “Phrases (LP excerpt)” を収録)。どのトラックも00年代以降の精巧・緻密な電子音響の構造を継承し、発展・深化させたデジタル・プロセッシング・サウンドの結晶である。
 特に「声」は、本作の中心に位置するサウンド・エレメントといえよう。ハンナ・アーレントから引用されたテキストやハンガリーのノーベル文学賞受賞者であるイムレ・ケルテスの声明などがコラージュ/朗読されるのだが、その言葉、声の肌理、声の音響は、Yiannis Tsirikoglou によって精密に細やかに分解され、音響化されていく。「声」から言葉の「意味」が剥奪され、「音」それ自体となり、やがて声と言葉は別の遠近法を獲得し、言葉がまるで「オブジェ」のようにそこに「ある」かのような存在感を獲得する。その音はデジタルでズタズタに切り刻まれ、まるでドローンのように融解していく瞬間すらあるほどだ。

 イヴェントレス・プロットはアルバムのリリースにあたって次のように記している。
「多くの歴史的、哲学的な要素を持つテキストの言語、意味、国、時間が再検討され、音の特徴に基づいて分類され、異なる視覚的、代替的な解釈が引用されている」。そして「時空を超えたフレーズの録音から始まり、それらを加工し、ほかのさまざまな音源を加えることで、「観客」と「壁」のインタラクションに新たな次元を与える空間的なサウンド・インスタレーションが生まれる」。「ギリシャの壁に表示されたヨーロッパ文化からのさまざまな引用に基づいている」(https://eventlessplot.bandcamp.com/album/phrases)。
 そう、このアルバムはいわば「声」と「音楽」と「ノイズ」による引用(テクスチャー)の織物であり、どこかあのジャン=リュック・ゴダールの『映画史』のように、素材と素材が接続されることでヨーロッパの「歴史」が浮かび上がってくるような音響作品でもある。音による歴史のイコンのコラージュとでもいうべきサウンドスケープであり、引用・ブリコラージュされる、ヨーロッパの歴史の「音/言葉」の音響とでもいうべきか。
 じじつ、A面を占める1曲めでも「声」のモチーフが繰り返し現れ、それから意味が剥奪され、しだいにただの音響へと変化していくさまが展開する。そして突然、美しいピアノの響きが全面化し、現代音楽的な無調からノイズ/グリッチが交錯するのだ。加えてピアノの音であっても演奏の記録というよりは、サウンドのマテリアルをデジタル加工によってコラージュしたような印象が強い。美しくて、精巧で、緻密なサウンド・マテリアルのコラージュ。それが本作『Phrases』である。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467