「Dom」と一致するもの

Various Artists - ele-king

 山崎ヒロが主宰する〈サウンドオブスピード〉は、東京を拠点としたインターナショナルなテクノ・レーベルのひとつである。10年以上前の話だが、彼がこの名前のパーティをはじめた頃に、彼が当時住んでいた新宿の家に行ったことがある。窓を開けると高層ビルがよく見えるマンションの一室の、決して広いとは言えないその部屋で座りながら、彼は「プラッドを日本に呼んでパーティをやったんだけど、ここに泊めてあげたんです」と話していたことを憶えている。それから彼は日本の〈ビッグ・チル〉を目指しながら、ジンプスターやトム・ミドルトン、ミックスマスター・モリスらを招聘しながらパーティを続けていた(現在、パーティは休止中)。その活動のなかでレーベルも生まれたというわけだが、〈サウンドオブスピード〉の初期の傑作のひとつが北海道のクニユキ・タカハシのKoss名義のアルバム『リング』(2001年)で、評価の高いこのアンビエント・アルバムは"チルアウト"を指標するこのレーベルの色を明確に表している。それはIDMスタイル、チルアウト、もしくはジャズ(フュージョン)......である。また、このレーベルから昨年リリースされた(山崎ヒロの友人である)ルーク・ヴァイバートの『リズム』も忘れるわけにはいかない。〈サウンドオブスピード〉からシングルを4枚連続でリリースしてからのそのアルバムは、世界中のチルアウターたちのコレクションの1枚に加えられている(僕のそのひとりである)。

 『サークルズ』は、レーベルにとって2枚目のコンピレーション・アルバムだ。アルバムの1曲目はクニユキ&クシティの"ビー・フリー"。ジャジーで、チルアウティで、ユーフォリックなこのトラックはレーベルの音楽性を象徴する、実にブリリアントなトラックだ。続いてオルシッドネイーションによるスペイシーなディープ・ハウス、そしてジンプスターによるアトモスフォリックなミニマル・ハウス......〈サウンドオブスピード〉らしいトランシーでラウンジーなエレクトロニック・ミュージックが展開される。メランコリックなピアノが印象的なリー・ジョーンズ(かつてへフナーとしてジャジー・ダウンテンポを発表している)の"トゥー・イン・ワン"、それからシュリケン(ジンプスターの〈フリーレンジ〉レーベルからのリリースで知られる)によるアブストラクトなハウス......。そしてルーク・ヴァイバートによるアシッディな"メジャシッド"、スウィッチの"ゲット・オン・ダウンズ"のヘンリック・シュワルツによるリミックスを経て、アルバムの最後はふたたびクニユキ&クシティ、曲名は"トレモロ"のクニユキ・ダブ・ミックス......。

 アルバムはすでに海外のメディアでも好意的に取り上げられている。今世紀もまたチルアウト・オア・ダイというわけだ、そう、何年経とうが......。目新しさはないけれど、しかし間違いなくクオリティの高いコンピレーションである。チルアウトの夏にそなえよう。

#4:I hate Pink Floyd - ele-king

 1975年、マルコム・マクラレンがニューヨークに滞在していたとき、キングスロードの〈SEX〉で店番をしていたバーナード・ローズ(後のザ・クラッシュのマネージャー)は店に出入りするひとりの19歳の若者のTシャツに注目した。彼はピンク・フロイドのTシャツを着ていたが、そのバンドのロゴの上には「I hate......」という言葉が殴り書きされていた。若き日のジョン・ライドンに関する有名な話である。そしてこれはパンク・ロックがその出自においてヒッピー(プログレッシヴ・ロック)と対立構造にあったことを物語る逸話として、のちに何度も繰り返し語られてきたおかげで、「マルコムが初めてジョンと会ったときに」されたり、「TシャツにはI hate Pink Floyd」と書かれていたりとか、話が真実とは多少違ってしまったほどだ。

 今年の2月18日付の『ガーディアン』に「I don't hate Pink Floyd」という興味深い記事があった。54歳のジョン・ライドンが「実はオレはピンク・フロイドが嫌いではなかった」とカミングアウトしたのだ。「彼らは偉大な作品を残している」とあらためてピンク・フロイドを評価するばかりか、『ザ・ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン』は好きな作品だったことさえ明かしている。「ただ、彼らの思い上がった態度が気にくわなかったんだ」

 しかしライドンは、その後の彼の人生で何度かデイヴ・ギルモア(ピンク・フロイドのギタリスト)と話す機会を得て、その偏見はなくなったという。元パンク・ロックのアイコンはこう回想している。「まったく問題がなかった」と。

 「なんだよ~、いまになってそりゃないぜ」、この記事を読んで正直がっかりした。そしてしばらく考えた。何故なら、どんな理由があったにせよ、結果的に「I hate......」という言葉がパンク・ロックにおいて強力なモチベーションだったことは間違いないからだ。大人への憎しみ、政治家への憎しみ、社会への憎しみ、金持ちへの憎しみ、ポップ・スターへの憎しみ......で、まあ、思えば、「I hate......」という感情ほど現代において自主規制されているものもない......んじゃないだろうか。

 音楽シーンをたとえに話すとしよう。日本のシーンを支配しているのは、おおよそ多元主義と迎合主義だ。迎合主義というのは大衆に媚びることで、人気者を集めて商売にする。自分には用がない世界だし、どうでもいいと言えばどうでもいい。1977年、チャートを支配していたのはディスコ・ポップとユーロ・ポップで、パンク・ロックは大衆性という観点で言えば、明らかに"どん引き"されていたのが事実であり、しかしその後の文化的影響力という観点で言えば"どん引き"されたマイナーなそれは革命的だったのだから。"売れている"という観点で音楽を評価するときの落とし穴はパンクからもよく見える。ややこしいのは多元主義のほうだ。

 多元主義という思想は、簡単にいえば、「どんなにものに良いところはあるのだから多様性を認めよう」という口当たりの良い考えである。その象徴的なメディアをひとつ挙げるなら『Bounce』というフリーマガジンだ。90年代に生まれたこのメディアは、まさに多元主義的に誌面を展開している。J-POPもドマイナーなインディー盤も並列する。それはリスナーの"選択の自由"を広げるものである。悪いことではない。多くの人がそう思った。ちなみに僕はこの雑誌から、10年ほど前、いち度だけわりと長目の原稿の執筆依頼を受けたことがあったが、そのときに「批判だけは書かないで欲しい、それはうちの方針ではないので」と言われたことを覚えている。まあ、メディアのコンセプトを思えば理解できる話だし、"紹介"だけでも価値のあることはたくさんあるので、僕はその言葉に従った。

 そう、従った。が、しかし、多元主義にとって予想外だった......のかどうかは知らないが、結局のところそれが市場原理にとって都合がよいものだったということだ。そりゃーたしかに、資本主義にも、いや、小泉純一郎にだって良いところはあるかもしれない。そう思った途端に、世界は恐ろしく窮屈に感じる。なにせそれは、働いて、買うだけの生活に閉じこめられることで、それがいったい何を意味するのか考えて欲しい。このあたりの理論は専門家に委ねるが、まあかいつまんで言えば、シーンが「I hate......」という言葉を失ったときに得をするのはメジャーのほうなのだ。いっぽう、多元主義の誘惑に負けたマイナーほど惨めなモノはない......"自由"こそが最大の強みであったはずの彼らも所詮はかませ犬、メジャーの引き立て役であり、マイナーはメジャーの骨をしゃぶるだけである。これを音楽界における新自由主義と言わずして何と言おうか!

 いや、あるいは......それは単純な話、シーンは「I hate......」という情熱を失っただけの話かもしれない。"嫌悪感"を表明するのはエネルギーがいる。疲れるし、面倒だし、もうどうもでも良くなっているということなのかもしれない。われわれは骨抜きにされ、狭いカゴのなかで飼い慣らされてしまったのだろうか。「I hate......」というのは、善悪の議論ではなく、この窮屈な日常の向こう側に突き抜けたいという欲望の表れだというのに(レイヴァーたちはその感覚を知っている、たぶん......)。

 

 ザ・フォールの新作――通算27作目らしい――『ユア・フューチャー・アワー・クラッター』を聴いた。アルベール・カミュの小説『転落』から名前を頂戴したザ・フォールといえばポスト・パンクの代表格のひとつで、オルタナティヴTVらと並んであの世代におけるキャプテン・ビーフハート(そしてカン)からの影響だが、言うまでもなくバンドの最大の魅力はマーク・E・スミスにある。唸るような、ぼやくようなヴォーカリゼーションで知られるこの男は、中原昌也と三田格とジョン・ラインドンを足してさらに濃縮したようなキャラを持つ。躊躇することなく「I hate......」、いや、「死ねばいい」ぐらいのことを言い続けているひとりだ。


イギリスの音楽界でもっとも気難しい男、
マーク・E・スミス。

 マーク・E・スミスが大衆に媚びることは絶対にあり得ない。彼がいかに本気で学生を憎んでいるのかを喋っているのを読んだことがある。彼は、ハゲ頭を帽子で隠すオヤジを容赦なく憎んでいる。僕は女子高生を憎み、飲み屋で人生論をかますオヤジを憎んでいる。10代の頃から。実家が居酒屋なので、子供の頃から酔っぱらった人間を見てきているのだ。

 なぜ女子高生かって? 最近ある青年から女子高生との音楽をめぐる対話を読まされたからだよ。彼は女子高生に『ロッキングオン』や『ムジカ』、『スヌーザー』や『エレキング』、あるいはテレフォンズなどについて話を聞いているのだけれど(この企画の意図自体、僕にはようわからなかった)、それを読みながら「あー、若い頃はホントに女子高生が嫌いだったよな~」と思い出したのである。本当に憎んでいた。ユーミンを好むような、女子高生であることに満足しているような女にいち度たりとも好意を抱いたことがない。

 いまでも女子高生嫌いは変わらない。よく下北沢の駅を利用するのだが、小田急線から井の頭線に乗り換える階段で、短いスカートのケツの部分を押さえながら上っている女子高生を見ると腹が立つ。いったい誰がお前の臭いあそこを覗くというのか......あの手の女がどんな音楽を聴いているか調査してみるがいい。それは酒の席で自分の人生自慢を展開して、説教をたれるオヤジの聴く音楽と同じようなものだろう。しかし、多元主義的に言えば、そんな女子高生にもオヤジにも良いところもあるのだ。そして、こうした無意味な議論から素早く離れ、走れるだけ走り、やれるだけやって、飛ばせるだけ飛ばす、それがロックンロールに象徴される欲望ってヤツである。

 ザ・フォールの新しいアルバムはマーク・E・スミスのこんな言葉で終わる。「おまえにロックンロールは向いていない」

 人はいかにしてタフであると同時に負け犬になることができるのだろうか? (略)このムーヴメントは失敗をあがめていた。月並みな言葉で成功することはその人自身の言葉で失敗したことを意味し、失敗することは成功を意味していた。――ジョン・サヴェージ

 

追記:この原稿は3月に執筆されている。マルコム・マクラレン――R.I.P.

interview with Gold Panda - ele-king

 「知恵のない4歳半のマイク・スキナーのようだ」――ある人はゴールド・パンダの音楽をこんな風に評している。本国イギリスでは期待の新人として評価され、リトル・ブーツ、ブロック・パーティ、シミアン・モバイル・ディスコ等々、人気アーティストのリミックスを手掛ける彼は、自分の最初のアルバムのリリース先を日本のレコード会社に決めた。


Gold Panda
Companion

エイベックス・トラックス

Amazon

エセックスのBボーイだった彼だが、日本語を学ぶために自分のレコード・コレクションを売るほどの日本文化好きでもある――『ガーディアン』にはそう記されている。「そしてエイフェックス・ツインのように、彼は100トラックも作り貯めている。際だったトラックのひとつである"マユリ"にひび割れた音とやたら低いベース、それからビットとバイトが一緒になったエイフェックス・ツインのグルーヴがあるのも偶然の一致ではないだろう」
 "マユリ"? なんていう曲名だ。彼のオモチャ箱をひっくり返したようなエレクトロニック・ミュージックを聴きながら、その曲名が気になって、質問のひとつにメモった。資料を読むとアニメが好きで、日本語も少しなら話せるとある。テクノ好きな日本オタクなのだろう。それにしても何故"マユリ"? 
 もうひとつ、テクノ好きな日本オタクにしてはいくつかの曲はエモーショナルだし、"ロンリー・オウル"はフォー・テットのような哀愁を帯びている。それにオタクが"ポリス"なんて曲名のハード・テクノを作ったりはしないだろう。いずれにせよ、パンダの音楽には訴えるモノがある。お世辞抜きにして僕は彼の音楽を好んで聴いていたのである......。

どうせ普通の仕事をやってもクビになったりうまくいかないんだから、音楽をちゃんとやってみようと思い直した。そしてロンドンに引っ越して、また音楽に取り組んだんだよ。

iPodのなかにあなたの音楽を入れてよく聴いているんですよ。

パンダ:ホント?

好きなタイプの音楽なんです。IDMスタイル、グリッジ・ホップ、ブレイクコア、クラウトロック......エレクトロニック・ミュージックのいろんなスタイルが詰まっている。あなたの音楽リスナーとしての履歴書を見ているようですよ(笑)。

パンダ:今回いろいろ取材されたけど、僕の音楽性をちゃんと指摘したのは君が初めてだよ。いま君が言ったスタイルが僕は本当に好きなんだけど、何故かダブステップと言われてしまう。とくにIDMスタイルとグリッジは大好きだ。スクエアプッシャーが大好きなんだ。

ちょうどあなたの音楽と同じ部類に入るアーティスト名をメモってきたんだけど、えー、読み上げますね。ビビオ、スクエアプッシャー、ミュージック、エイフェックス・ツイン、クリス・クラーク、フライング・ロータス、フォー・テット......。

パンダ:イエイエ、そうだね、そして僕は彼らのチープ・ヴァージョンだ。彼らと同じ質のものを作りたいんだけど、僕がやると安っぽくなってしまう。僕はスクエプッシャーの弟を知っているよ。シーファックス(Ceephax)、知ってるよね? アンディ・ジェンキンソン、彼はとても良いヤツだよ。

ホント?

パンダ:彼がエセックスに住んでいたことがあって、それで知り合ったんだ。音楽っていうよりも、彼女とか友だちとか、そういうので共通点があってそれで近くなって。

なるほどね。ちょっと話が前後するけど、あなたの資料に、大きく「イースト・ロンドンのダブステップ・プロデューサー」と書いてあるんですけど。

パンダ:えー!

だからダブステップと言われるんだよ。まあ、音を聴けばこれがダブステップではないってことはわかるんだけど、日本の音楽メディアは怠惰だから、ベンガもスクリームもブリアルだってちゃんと聴いていないんですよ。資料にそう書いてあると、「これがダブステップか」と鵜呑みにしちゃうんです。君の責任じゃないけど(笑)。

パンダ:そうだったのかー! 知らなかった。僕はダブステップは好きだよ。ダブが好きだから。でもそれは僕のスタイルではない。君の前の取材でもダブステップだと言われたばかりだよ(笑)。

ハハハハ。新種のダブステップでいいじゃないですか。

パンダ:(日本語で)ムカツクー。

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ハハハハ。じゃ、あなたと日本との結びつきについて話してもらえますか?

パンダ:最初はアニメだった。15歳のとき、『アキラ』が大好きだったんだ。ストリート・ファイターも好きだったし、どんどん日本の文化にのめり込んでいった。日本のヴィデオ・ゲームも集めはじめたんだけど、イギリスではホントに高くて、ひとつ100ポンドもする。それでも僕は日本の文化にハマっていったんだ。で、19歳のときに、僕は思いきって東京に行った。ちょうどフィルという友だちが東京に住んでいて......サブヘッドという名前で活動していたんだけど。

フィル? えー!!! マジですか!!! びっくり。そうかー、それでわかった。アルバムのなかに何で"マユリ"って曲があるのか。質問するつもりだったんだけど。(注:フィルはマユリちゃんの元彼氏で、フィルは彼女の家に住んでいた)

パンダ:そうだよ。まさにそのとき川崎のマユリの家に泊まったんだ。観光客みたいにお金があるわけじゃないから、観光地には行かなかったけど、居酒屋行ったり、カラオケ行ったり、すごく刺激的だった。川崎、渋谷、新宿、目黒......すべてが面白かった。

それ何年?

パンダ:1999年。

はぁー。僕もマユリちゃんの家に何度か遊びに行ったことがあったよ。

パンダ:15歳で、僕が音楽を作りはじめた頃、フィルはいつも僕を励ましてくれた。「お前なら音楽で食っていける」って言うんだ。自分はダメなんじゃないかって思っていると、「You can do it, you can do it, you can do it」って言うんだ。そんなのジョークだと思ってたし、友だちだから言ってくれるんだと思っていたよ。だけど、彼が死んだとき、どうせ普通の仕事をやってもクビになったりうまくいかないんだから、音楽をちゃんとやってみようと思い直した。そしてロンドンに引っ越して、また音楽に取り組んだんだよ。ロンドンではセックス・ショップで働いてたりしたんだけど、友だちと通じてブロック・パーティのリミックスをやることになったり......。

ホントびっくりだね。フィルとは何回か飲みに行ったなぁ。下北で彼が酔っぱらってしまって、店内でスティーヴィー・ワンダーを歌ったこともあったよ。

パンダ:モータウンが大好きだったよね。僕は彼が亡くなるときに看取ったんだ。

そうなんだ。

パンダ:彼は年を取りたくないって言っていた。だからああやってパーティという人生を終えて、星になって飛んでいったんだと思っている。

彼は本当に自由に生きていたからね。僕より年上で、ターザンみたいな体格の人だったけど......ボクサーだったんだよね?

パンダ:そうだよ。とても強かった。そういえば、1970年代に彼がやっていたロック・バンドの写真を持っているよ。僕の叔父さんと一緒にバンドをやっていたんだ。

へー、そんなに近い関係だったんだね。幼なじみ?

パンダ:ていうか、僕が生まれたときから知ってるよ。

デヴィッド・ボウイみたいなことをやっていたのかな?

パンダ:聴いたことがないからわからないけど、写真を見るとパンク・ロックみたいだったね。うん、たしかにフィルは、デヴィッド・ボウイが大好きだったよね。

好きだった。

パンダ:だから彼が危篤状態になったときに、僕は"スターマン"を再生してそのイヤホンを彼の耳に突っ込んだんだよ。

それは良かった。ところでフィルのサブヘッドはハードな音楽だったけど。

パンダ:そうだね。

あなたの音楽はまた違っているよね。

パンダ:フィルはハッピーな人間だっただろ? でも僕は悲しくて孤独な人間なんだ。僕は自分のエモーションを音楽に反映させているから、それで彼とは違ったものになるんだろうね。

いやー、僕はあなたのことを日本のアニメが大好きで、〈リフレックス〉のカタログを揃えているようなオタクかと思っていましたよ(笑)。

パンダ:ハハハハ。

本当ですよ(笑)。

パンダ:わかるよ。ある部分は本当だからね。マニアとまではいかないけど、アンダーグラウンドなマンガが好きなんだ。丸尾末広とか。ちょっと危ないヤツ。

丸尾末広は僕らの世代では人気があったんだよ。日本語で読んでいるの?

パンダ:そう。でもアメリカでも出ているんだよ。絵が変えられているんだけどね。ただ、日本では2千円で買えるけど、イギリスではその倍以上するんだ。

古本屋さんを探せばいいですよ。

パンダ:他にオススメは?

花輪和一とか......あとでメールするよ。ところで日本の文化でアニマやマンガ、ゲーム以外には惹かれなかった? 音楽とか?

パンダ:そうだね。「これだ!」っていうモノじゃなくて、もっと日常的なモノというか、街の雰囲気とか好きだね。

へー、日本人からすると「なんだこのクソつまらない街は」って感じなのに。

パンダ:なんでだろうね。僕のなかではすごく興味深いんだ。なんてことはない風景が好きなんだよ。たとえばこの窓の向こうのマンション、あのミニマルな感じとか。イギリスにもマンションはあるけど、日本の建物はもっと規則正しくきっちりしているように見える。何故かわからないけど、それが気持ちいいんだ。僕は金がないから、新幹線に乗って名所を見て回っているわけじゃないんだけど、日本人の普通の生活のなかで「それがいいな」と思えるところがたくさんあるんだ。

へー。

パンダ:先日も友だちと山形に行ったんだけど、そこで見た日常の風景がとても良かった。ぶらっと行ったときに偶然目に入る景色が好きなんだ。目的地を決めて苦労して観光するのは性に合わないんだろうね。それは音楽でも同じなんだ。自分で、フィニッシュを決めて作ると、うまくいかないときにイライラしてしまう。だけど、もっとリラックスしてやっていけばうまくいく。だから曲作りも、てきぱきと済ませるんだ。素早くできた曲のほうが出来がいいんだよ。逆に、時間がかかってしまった曲は収録しなかった。

今回はどこに泊まっているの?

パンダ:市川の友だちのところ。まだ日本で行ったことのないところばかりだし、また日本に住みたいよ。

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アルバムも日本先行発売なんだよね。

パンダ:日本のために何かしたいと思っていて、〈エイベックス〉が出してくれるというので、やっと夢が叶った。

日本のためを思うなら、サッカーの日本代表に対する意見を聞かせて欲しいですね。

パンダ:ハハハハ。ワールドカップは好きだけど、フットボールはそんなに好きじゃないんだ。

イギリス人と言えば、パブとフットボールとオアシスだと思っているんで(笑)。

パンダ:ハハハハ。おかしいね、昨日パブに行ったら、たしかにフットボールの映像が流れていて、オアシスがかかっていたよ(笑)。

でしょ。でも、僕がゴールド・パンダのことを知ったのは、『ガーディアン』のサイトの音楽欄の新人紹介の記事でだったんです。読んだ?

パンダ:読んだ。

「彼は捨てられた音の破片から美しい音楽を作る」とか、「ちょっとグライミーな天才だ」って書かれていたんです。すごく評価されていた。すでに人気アーティストのリミキサーでもあるわけだし、イギリスのレーベルから出したほうが売れるんじゃないかと思うんだけど。

パンダ:たしかにそうかもね......いや、でもそんなにオファーが来てないよ(笑)。それに、一箇所に留まっているのは好きじゃないんだ。それぞれの場所で違うものを出すのも面白いんじゃないかな。

コネクションもあるじゃない。

パンダ:コネクションはあるけど、彼らが僕の音楽を好きだとは思わないでしょ(笑)。シーファックスともただの飲み友だちだしさ、音楽の話をしたことがないからね。次はまた別のレーベルから出すかもよ。何で〈エイベックス〉と契約したかと言えば、「J-POPワイフが見つかるかも」って(笑)。

J-POPワイフ?

パンダ:J-POPのスターと知り合って(笑)。

ハハハハ。好きなJ-POPのスターは?

パンダ:ホントに好きなのは椎名林檎。

彼女はイギリスで受けていたよね。

パンダ:木村カエラも可愛い。

えー?

パンダ:音楽はどうでも良いけど。

音楽は酷いからね。

パンダ:椎名林檎はそこは違うよね。ポップだけど良い音楽をやっていると思う。日本での評価は知らないけど、ポップでリスペクトされるってすごいことだから。

でもJ-POPの80%がゴミだと思っているでしょ。

パンダ:そこはイギリスも同じ(笑)。でも、ほとんどの日本人はそれが良いと思っているんだから、君が間違っているかもよ(笑)。

だね(笑)。

パンダ:ハハハハ。

ところ音楽作りは最初はどこから入ったの?

パンダ:サンプリングから入った。最初はヒップホップを作っていたからね。フィルの親友だった僕の叔父さんからサンプラーをもらって、父親のロックのレコード・コレクションからサンプリングしていた。パフ・ダディみたいなタイプのヒップホップだったよ。だけど、スクエアプッシャーの『ビッグ・ローダ』を聴いてびっくりしてしまって、それからブレイクコアやドリルンベース、ドリルンベースというのはドラムンベースのクレイジー・ヴァージョンなんだけど、まあ、そっちの方向に進むんだ。

デデマウスも『ビッグ・ローダ』に衝撃を受けたと言っていたな。

パンダ:あのアルバムはショックだった。オウテカはダメだったけど。オウテカはずっと好きになれなかったんだ......でも、最近になってようやく彼らの良さがわかったよ。音楽のプロセスというものが伝わってくる。セックスと同じでやっているときが興奮するんだ。終わったらもうどうもいい、そんな感じだよ。僕もそこは共感できる。ブリアルにもそういうところがあるよね。彼はツアーをやらない。家で音楽を作っているときが彼にとっての幸福な時間なんだ。僕もこうして取材を受けていると"自分"という気がしない。音楽を作っているときが"自分"だと思う。

ちなみにゴールド・パンダという名前はどっから来たんですか?

パンダ:最初は下らない、バカみたいな名前ばかりにしていたんだ。彼女から「あなたの好きなものをふたつ付けたものにしたらどう?」と言われて、で、色と動物にしてみようと思って、最初に思いついたのがピンク・ワーム。

ハハハハ。ピンク・ワームいいね。

パンダ:なんだかインダストリアル・バンドみたいでしょ。それがイヤだったので、第二候補だったゴールド・パンダにしたんだ。

最近、動物の名前を付ける人が多いでしょ。パンダ・ベア、グリズリー・ベア、フリート・フォクシーズとか。

パンダ:そうなんだよ。あと"ゴールド"も多いよね。ゴールデン・シルヴァース、ゴールデン・フィルターズ......「クソ、なってこったい、"ゴールド"も多いし、動物の名前も多いじゃないか!」って(笑)。「どうしよう?」と思ったんだけど、音楽がぜんぜん違うからいいかと。

なるほど。

パンダ:うん、似た音楽がなくてラッキーだった。

しかし、今日はびっくりしたな。こんなところでフィルの親友と会うとはね......、アルバムの最後の曲名がなぜ"ポリス"なのかも訊かなくてもわかちゃっいました(笑)。

パンダ:フィルも僕もポリスが嫌いだからね。まったく良い思い出がない。昔新聞配達をやっていたときもライトが点いてないって止められたり、ホントに良い思い出がない。悪いことしてないのに、イヤな思いをするんだ。女友だちのひとりが警察になって、しかも警察と結婚したんだ。もう彼女とは会わないだろうね(笑)。いい人もいるんだろうけど、会ったことがないんだ。

ミー・トゥー!

 かつてのエイフェックス・ツインのように、本当に彼にはアルバム3枚分ぐらいの曲のストックがあるらしい。テクノ好き――とくにIDMスタイルが好きなリスナーはしばらく聴きたい音楽に困らないだろう。ちなみに彼は"BBCの世論調査における2010年のサウンド"のひとつにリストアップされている。

 

Scuba - ele-king

 ここ数年でダブステップの境界線もすっかり曖昧になっている。例の3連打(ダダダ、ダダダ、ダダダ、ダダダ......)がなければテクノと呼んだほうが通りやすい......が、しかしダブステップがどうしても捨てきれないものがあるとしたら、そのひとつはメランコリーの感覚だろう。〈ホットフラッシュ〉レーベルを主宰するポール・ローズ、通称スキューバのセカンド・アルバムを聴きながら、僕はあらためてこのジャンルにおけるポスト・レイヴの素晴らしいメランコリーに思いを馳せている。

 ローズがレーベルを立ち上げ、スペクターの名前で自分のトラックを発表したのは2003年のことだが、彼がダンス・カルチャーに足を入れたのは90年代初頭だった。音楽好きの両親に育てられたローズは、幼少の頃から音楽学校に通い、楽器を演奏した。やがてレイヴ・カルチャーがUKを襲い、彼はキスFMでコリン・フェイヴァーとコリン・デイルのDJを聴いた。そしてローズはある晩、偽造IDを使ってクラブに入った――と『Resident Advisor』の取材に答えている。彼はそして初期のジャングルと〈ワープ〉に心酔した。オウテカの『インキュナブラ』、続く『アンバー』が彼の人生に強烈なインパクトを残した。それでも彼は、真っ当な道を選んだ。大学を出ると就職した。が、それは長く続かなかった。大手企業に6年勤めたローズは、仕事を憎悪し、上司や同僚を軽蔑した。こうして彼はアンダーグラウンドの道に踏み入れたというわけである。

 初期の〈ホットフラッシュ〉からはローズ本人のほか、ディスタンス、あるいはボックスカッターといった、言うなればテクノ・テイストを持ったダブステッパーたちのトラックを出している。2005年からはスキューバ名義でシングルのリリースを重ね、2008年には最初のアルバム『ア・ミューチュアル・アンティパシー(A Mutual Antipathy)』を発表している。ちょうどその前年にディスタンスが〈プラネット・ミュー〉から出した『マイ・デモンズ』の評判に続くように、このアルバムもずいぶんと賞賛を浴びた。もし〈ワープ〉の"アーティフィシャル・インテリジェンス・シリーズ"でダブステップを企画したらきっとこんな音になっていだろう。ストーンしたエレクトロニックの夢が繰り広げられるものの、昔と違うのはキラキラした楽天性がないことである。少ししかないのではない、まったくないのだ。

 スキューバの『トライアンギュレーション』は、彼がロンドンからベルリンに移住してからリリースされる最初のアルバムである。ベーシック・チャンネル系のくぐもるような質感と乾いたミニマリズムがこのセカンド・アルバムを特徴づけている。2009年に〈ホットフラッシュ〉からもトラックを発表したジョイ・オービソンやアントールドのようなジャンルにこだわらない新しい才能にも触発されたのだろう、あるいはまたロンドンのダブステップの狂騒から離れたことも大きく関係しているに違いない、これはダブステップを通過したテクノ・アルバムと考えたほうが良さそうだ。つまり音楽的に幅が広く、間違いなく前作をしのぐ出来なのだ。
 それはまるで下水の流れる地下道の湿ったコンクリートにこだまするダブのようである。実際、スリーヴ・アートはそんな具合だ。電子音は壁に染みる水滴のように響く。ガラスが割れる音とともにドラムマシンは走る。暗く続くその道は、どこまでも暗い。振り返っても暗闇だ。

 ブリアルに端を発しているダブステップの暗さとは、まやかしの明るさへの拒絶の表れである。僕たちがこのダーク・ミュージックを聴いて居心地の良さを感じるのは、これが僕たちの反発心を後押しするからである。そしてこの暗く湿った地下道は、避難場所でもある。もう後戻りできないことはローズ自身がよく知っているはずだ。

 去る3月、ブルックリンと大阪をつなげる企画がニューヨークで開催された。12日にブルックリン(オール・ガールズ)V.S.大阪、16日にニューヨーク(ノット・オール・ガールズ)V.S.大阪、ブルックリン代表がすべて女の子、ニューヨークは男の子も参加したため、こういうサブタイトルが付いている。

moon mama
moon mama
Hard nips
Hard nips
waterfai
waterfai
talk normal
talk normal

 ことのはじまりは、あふりらんぽのぴかのソロ・プロジェクト、ムーン・ママ(Moon♀mama)、そしてウォーター・ファイという大阪のふたつのバンドのニューヨーク・ツアーの企画からだった。それが我が〈ハートファスト〉の推薦するニューヨークのバンドとブッキングして、イヴェントに発展したというわけだ。ブルックリンと大阪という独特の文化を発信するふたつの都市、さまざまなバックグラウンドを持った人たちが一同に集まるのはとても興味深い話で、実際、両方のイヴェントで見かける人も多かった。お客さんとバンドともに交流を深め、バンド同士でも刺激を受けあっていたように思う。

 ブルックリン勢として出演したのは、トーク・ノーマルハード・ニップス、ニューヨークからはピカ★ユカ(あふりらんぽのぴか、元チボマットの本田ゆか)、プリチャー・アンド・ザ・ナイフが参加。ソーダー・ファインのエリン、DFAのジョナサンのお兄ちゃんでもあるアンディがDJとして盛り上げてくれた。

 "オール・ガールズ"ブルックリンのときは、会場はブルックリンのブルアー・フォールズ。ここはローワー・イーストサイドにあるアンダーグラウンド・ライブハウス件カフェの、ケーキ・ショップの2号店だ。"ノット・オール・ガールズ"ニューヨークのときはケーキ・ショップの隣にあるピアノスで開催された。

 トーク・ノーマルはブルックリンのガールズ・デュオ。ドラムとギターが絡むゴースト・パンクのような音を出す。SXSWを含む全米ツアー(with xiu xiu)、ヨーロッパ・ツアーに出るちょうど前日だった。この何日か前にも、マーケット・ホテルで、オーサム・カラー、タイヴェック、CSCファンクバンドとのショーがあったばかりだった。ついに日本ツアーも6月に敢行する。

 ウォーター・ファイは大阪の女の子5人組のポスト・ロック・バンドで、今回が初のアメリカ・ツアーとなった。ニューヨーク、プロヴィデンス、そしてSXSW(オースティン)でプレイをした。あふりらんぽのぴかは、ムーン・ママ名義のフォーク・ソロと、元チボマットの本田ゆかさんとピカ★ユカ名義で出演した。ぴかの全身からのエネルギーが爆発するようなドラミングと、ゆかさんの宇宙に彷彿させるようなシンセ音の絶妙なコンビネーション。どちらも内容の濃いショーだった。

 さて、続いて報告するのは、3月17日(水)~3月21日(日)のオースティン、テキサス州でおこなわれた音楽コンヴェンション、サウス・バイ・サウスvウエスト。世界中からたくさんのバンド、音楽関係者が集まる。SXSWショーケースのバンドは、MNDR、アベ・ヴィゴダ、ノーエイジ、ディデラス、ザ・オーシーズ、J・マスシス、ファックド・アップ、クリスタル・アントラーズ、マイナス・ザ・ベア、ザ・ドラムス、シザー・シスターズ他。私は、先出のウォータ・ファイ、ハード・ニップスとともにオースティンにやって来た。

 19日は気候もよく、夜もたくさん人が外に出て、歩行者天国のようになっていたが、翌20日は自分がいままで経験したなかでもっとも寒いオースティンだった。この日は、NYナイト・トレイン/パナシェ・ブッキングのオールディ・パーティ。ステージはインドア、コートーヤード(野外)、ハウス(野外)の3つで、合計47のバンドがプレイした。ダムダム・ガールズ、トーク・ノーマル、キッド・コンゴ・アンド・ザ・ピンク・モンキー・バーズ、チキン・スネーク、オーサム・カラー、ゴールデン・トライアングル、スクリーンズなどのアメリカ勢をはじめ、ブラジル、サンパウロからGarotas Suecas、アイルランドからSo Cow、日本からはニュー・ハウスなども参加した。ニューヨークでもっとも忙しいDJであるNYナイト・トレインのジョナサン・トウビンがDJを担当した。これだけでもすごいラインナップだ。SXSWといえば、どこでもパーティで、バンドもこの期間だけは、1日に2~3個ショーを掛け持ちする。ウオーターファイ、ハードニップスも3回ショーを敢行した。

 ここまで来たらジャパン・ナイトものぞいてみようということで、会場前まで行ったが、たくさんの人で入ることができなかった。今年のラインナップはアシッド・マザーズ・テンプル、オカモトズ、チャット・モンチーなど。日本のバンドというだけでかなり人が入る。

 今回はさらに、ニューヨークのインディ・バンドのブッキングを仕切っているTodd Pが、初めてメキシコのモンタレイでショーを開催した。オースティンとモンタレイをバスでつないで、SXSWに出演したバンド(しないバンド)を現地に送って、SXSWが終了する土曜日夜にあわせてスタートするものだ。今回はその第一回目なのだが、これが早速大混乱だった。ボーダーを超えようとしても越えられないバンドが多数発生したのだ。バスを待っても待ってもこない(待ち時間8時間、乗ってる時間11時間、さらに1日に2本など)、出演するはずだった半数以上がキャンセルになった。

 プレイできたのは、ダン・ディーコン、ライアーズ、ヘルス、ネオン・インディアン、アンドリュー・WKなどなど。結局、ノーエイジ、ザ・オーシーズ、ジャヴェリン、DD/MM/YYYY、ビッグ・トラブルズ、トーク・ノーマル、ジョナサン・トウビンなどはキャンセル。アメリカからメキシコを越えるというのは、それほど簡単ではないのだ。

 ニューヨークに帰って来たいまもまだ忙しい感じが続いているけれど、4月になってから、マーケット・ホテルというライヴハウスに警察が入ってクローズダウンになったり、この街はスローダウン気味だ。暖かくなって来たので、これからは野外ライヴなどにも注目していきたい。

The Morning Benders - ele-king

 レトロな10年が終わっていく。ザ・モーニング・ベンダースの2年ぶりとなるセカンド・アルバム『ビッグ・エコー』が聴かせてくれるのは、ゼロ年代が終わっていく音である。

 たとえば、冒頭の"エクスキューゼズ"はフィル・スペクターへのオマージュをこめて作られたというオールディーズ・ポップだ。ドゥーワップ風のコーラスが美しいドリーミーな8分の6拍子で、若いポール・アンカに似たクリス・チュウのヴォーカルが泣かせる。ストリングスとバスドラの響きもいい。だが、こうしたレトロなサウンド・メイキングには、そろそろ飽きがきている。レイド・バックな音使いがヒップなのは、よほどバンドに腕があるか、意識的にそのコンセプトを持っている場合だけだ。でなければただのファッションに止まる。

 ザ・モーニング・ベンダースにおいては、このへんが非常に曖昧である。ファッションだとしても......彼らのデビュー作を聴けばわかるが、そもそもがザ・シンズやスピント・バンドのような、〈エレファント6〉のアップ・デート版といった具合のUS"王道"インディ・ポップで、服装でいえばチェックのシャツといったところなのだ。ザ・ドラムスのようなヴィジュアルもふくむコンセプチュアルな、ある種のモード感などまったくない。リアル・エステイトのような玄人肌でもなければ、ガールズのような有無を言わせぬ説得力といったものも欠いている。ザ・モーニング・ベンダースは、そもそもヒップさとはあまり関係がないのだ。チェックのシャツの垢抜けない坊やたちが、目の前の生活に一喜一憂しながら、ギターを持って一生懸命何者かになろうとする......マイケル・セラ主演のサンダンス映画的な男子の成長譚を地でいく、微笑ましくも切ない姿を思わせるバンドではないだろうか。

 ぜひ観ていただきたいのは、ウェブ・マガジン『ユアーズ・トゥルーリー』にて公開中のスタジオ・セッションである。ガールズのクリストファー・オーウェンスやジョン・ヴァンダースライスも参加するこのセッションにおいて、地元サンフランシスコのミュージシャンに囲まれ、やや緊張した面持ちで曲と取っ組み合うクリス・チュウの姿が印象的だ。曲は"エクスキューゼズ"。ストリングスやホーン・セクションも途中コーラス隊に加わるのだが、彼の大学合唱団の指揮者のような、生真面目で硬いコンダクトが、和気あいあいとしたスタジオの雰囲気から少し遊離している。彼自身の東洋的な顔立ちと、神経質そうなすらりと角張った容姿も手伝って、その「固さ」がセッション自体に、また映像作品としてのこのヴィデオ自体に、はっとするような緊張感を与えているのが素晴らしい。彼はセッションを楽しんでいるのではなくて、次のステップを求めてもどかしい思いに焦がれているのではないか。そのように思い至るとき、本作の表情は少し変化するだろう。

 アルバムは2、3、4曲目と非常にテンポよく進む。リフや旋律にT・レックスを色濃くにじませたブルージーなポップ・ナンバー"プロミシズ"、ピアノのイントロで印象的にはじまるリヴァービーなサーフ・ポップ"ウェット・セメント"、マリンバがせわしなくフィーチャーされた美メロ・ギター・ポップ"コールド・ウォー"と、とにかくポップづくしの佳曲ぞろいだが、アルバム後半は色調が一転する。ソフト・サイケな5曲目"プレジャー・サイズ"以降、アルバム全体に靄のようにかかっているリヴァーブの存在感が増し、曲調も沈潜するようにダークで思索的な雰囲気を持ったものに変化していく。

 アルバム後半の曲からシングルは切れないだろう。レトロ・ポップスは前半に集中しているのだ。『サーフィン・サファリ』から『ペット・サウンズ』までを一気に生きたアルバム――とは言い過ぎかもしれないが、無邪気な前半より、その限界に敗れるかのように屈託をたたみこんだ後半に、この作品の真価を見たい。そしてこの構図が、シーンのレトロ志向に対するひとつの批評として機能するように思われる。気怠く屈折した曲調という点には、プロデューサーにグリズリー・ベアのクリス・テイラーを迎えていることが影響しているだろう。だが、クリス・チュウの真っ直ぐな希求感、より大きくなろうという意欲が、このやや重たく、考え込むようなメランコリアを引き寄せたのだと思わずにいられない。

 レトロなゼロ年代の終焉にオーヴァ・ラップするかのように『ビッグ・エコー』はフェイド・アウトする。

interview with Gonjasufi - ele-king

 ラスヴェガスで暮らすヨガの先生がフライング・ロータスやその仲間たちと一緒にアルバムを作った――君はいったいどんな音楽を想像する?

 彼の名前はゴンジャスフィ(この名前の意味を、君はこの先のインタヴューで知ることになる。そう、素晴らしいその意味をね)、そして僕たちの多くは彼の歌をフライング・ロータスのセカンド・アルバム『ロスアンジェルス』に収録された"Testament"によって知しっている。フライング・ロータスはその歌を「時間を超越した、驚くべき汚物である」と表現しているが、聴けばわかるように、それはたしかにソウルフルだがまるで亡霊の声のようでもある。


Gonjasufi
A Sufi & A Killer

Warp / Beat

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 この度〈ワープ〉からリリースされるゴンジャスフィのデビュー・アルバム『ア・スーフィ&ア・キラー(A Sufi & A Killer)』が話題だ。『ガーディアン』は発売前から「今年何回も繰り返し聴くであろうアルバム」と賞賛し、あるいはまたゴンジャスフィを「電子のヘンドリックス」として再三にわたって紹介している。〈ストーンズ・スロウ〉以降におけるポスト・ヒップホップの音の冒険、〈ワープ〉におけるIDMの実験、この両者のおそるべきドラッギーな結合によって生まれらこの音楽は、さまざまな文化の衝突(イスラム教、トルコ、インド、ブルース、レゲエ等々)という文脈からTV・オン・ザ・レイディオやM.I.A.などとも比肩されている。が、そのどれとも違っている。西海岸のBボーイたちの実験とアシッド・ロックとの接続は、ヨガとイスラム教のスーフィという管を通して......とにかく世にも奇妙なサイケデリック・サウンドを創出したのである。

最初にのめり込んだのは、アイス・キューブやトゥー・ショートなんかの90年代の西海岸ヒップホップだったよ。ラップに誠実さや愛を感じて、すごく魅了されたんだ。

普段はヨガの先生をしているってホントですか?

ゴンジャスフィ:そうだよ、期間でいうと1年で半年間くらいは教えているんだけど、いまはちょうどこれから自分の修行にまた戻ろうかなと思ってる。すごく好きなんだ。

アルバムの話の前に、あなたのプロフィールについて教えてください。生まれはサンディエゴですよね。メキシコ人の母とエチオピア人の父のあいだに生まれている。あってますか? 

ゴンジャスフィ:あってるよ。

ご両親からの影響について教えてください。

ゴンジャスフィ:父はマイルズとかジャズをよく聴いていて、母はスペインやメキシコのラヴ・ソングをよく聴いていて、ふたりからの音楽的影響はとても大きいよ。

どんな10代を過ごされたのですか?

ゴンジャスフィ:学校に行って、普通にスポーツとかもしていたんだけど、マリファナを吸い出してから音楽の世界へ完全にのめり込んだね。そこから完全に音楽が人生の中心になっていったよ。

あなたの音楽との出会いについて教えてください。どんな音楽が好きになって、そしてどういう経緯で歌い、演奏し、音楽制作をするようになったのか?

ゴンジャスフィ:いろいろ音楽は聴いていたけど、最初にのめり込んだのは、アイス・キューブやトゥー・ショートなんかの90年代の西海岸ヒップホップだったよ。ラップに誠実さや愛を感じて、すごく魅了されたんだ。そして彼らを聴くにつれて、自分のなかから表現したい音や歌が生まれてきて、それを制作するようになったんだ。いまはレコーディングの知識もつけたし、いろいろできる幅が増えてきたと思うよ。

とても素敵な声をしていますが、影響を受けたヴォーカリストはいますか?

ゴンジャスフィ:そうだね、高校にいたときにレゲエ・ムーヴメントがあって、ボブ・マーリーはよく聴いたよ。あとはもちろんジミ・ヘンドリックス。彼はつねにヒーローだ。いまも生きているアーティストでいえば、ベス・ギボンス、ジャック・ホワイト、トム・ヨークの3人かな。

『A Sufi & A Killer』ではいろんな音楽をやっていますね。ヒップホップ的なものだけではなく、"Sheep"のようなアシッド・フォーク調の曲もあるし、"She's Gone"みたいなビートルズ調の曲もある。"Suzie Q"みたいなハード・ロックもあるし、"Stardustin'"みたいなジミヘンみたいな曲もある。あなたにとっての音楽的アイデンティティとは何になるのでしょうか?

ゴンジャスフィ:うーん、もちろんさまざまな音楽に影響を受けてきたんだけど、ヒップホップ以外でいえばレゲエとロックが大きいと思う。1995年から2003年くらいまではすごいレゲエに魅了されていたし、それ以降、とくに最近はロックにはまっているよ。さっき挙げたトム・ヨークやジャック・ホワイトなんかのね。

あなたにとっての最大の音楽的ヒーローは? ジミ・ヘンドリックス?

ゴンジャスフィ:もちろん。ジミは世界いち最高にクレイジーなマザー・ファッカー野郎さ。

ちなみに20代はどのように過ごされていたのですか? マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァース(Masters Of The Universe)というヒップホップ・クルーとして活動していたと聞きますが、音楽活動はずっと続けていたのですか?

ゴンジャスフィ:とにかくマリファナを吸いまくった。もうそればかりやっていたし、ドラッグからなにからすべてやり尽くしたね。活動としてはマスターズ・オブ・ザ・ユニヴァースのクルーとしてラップしたり、ビートを作って、CDを自主制作して、それを路上で売ってマリファナを買う足しにしていたよ。Orko(マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァース)とThavius Beck(グローバル・フロウテイションズ)と一緒にベイ2に住んでいて、あいつらにMPCの使い方とかを教えてもらったんだ。その頃は、いろんな家のソファを転々としていて、そのときもずっとそのふたりとつるんでいたから本当にかけがえのない仲間だと思ってる。

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大学でイスラム教を学びはじめたのと、ムスリムの友人との出会いがきっかけでイスラミズムに興味を抱くようになった。定められたやり方で生きることに疑問を持ちはじめて、人生のより神秘的な側面に注目するようになっていった。

あなたの音楽に強いてジャンル名を付けるとしたら何になるのでしょうか?

ゴンジャスフィ:難しいな(......とても悩んで)、ロック、サーフ、ハードコア、それらのあいだとか。考えた事もないから全然思いつかない。

どういう経緯でメインフレイム(Mainframe)やザ・ガスランプ・キラー(The Gaslamp Killer)たちと出会ったのでしょうか? また、彼らと出会う以前からあなたはヒップホップ的な方法論に関心があって、それを用いて音楽を作っていたのですか? スマック(Sumach)名義でCDRで発表した作品というのはどんなものだったのでしょう?

ゴンジャスフィ:ザ・ガスランプ・キラーはサンディエゴでよくライヴをしていた箱でDJをしていたのと、よく行くレコード・ショップの店員だったから知るようになって、メインフレイムはMHEを通じて知ったんだ。実際フライング・ロータスとはそのふたりを通して出会ったんだよ。19歳の頃からヒップホップは作っていたし、マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァースとしても活動していたから、もちろんふたりに会う前からヒップホップは作っていたよ。スマック名義で発表したのはすべてラップとヒップホップだしね。

ヒップホップにおいてあなたがもっとも影響を受けたのは誰ですか?

ゴンジャスフィ:うーん、そうだな(またとても悩んで)。やっぱり俺のクルー(Masters Of The Universe)かな。MPCなんかを教えてくれたのも彼らだし、一緒に生活したり、いろんなところで影響を受けたからね。

フライング・ロータスとはどんなところで意気投合したのですか? 音楽性? 

ゴンジャスフィ:まずザ・ガスランプ・キラーと俺が一緒にプレイしているのをフライング・ロータスが気に入ったんだ。そして彼がメインフレイムにビートを送って、メインフレイムが俺にそのビートを送ってきたんだよ。それに歌を乗っけてできたのが"Ancestor"なんだ。だから"Ancestor"を作った時点では彼とは会ってすらいなかったんだよ。ただ互いの音楽に対する愛や情熱が共鳴して繋がる事ができたと思っているよ。

〈ワープ〉のことは知っていましたか? そして、知っていたとするなら、どのような印象を持っていましたか?

ゴンジャスフィ:知っていたよ。サンディエゴの友人たちが〈ワープ〉のブロードキャストにはまっていたからね。印象としては、個人的にロゴがとにかくかっこいいと思ってたよ。ただまわりに比べたらそこまで〈ワープ〉にのめり込んではいなかったし、当時は〈ワープ〉の存在の巨大さにまったく気づいていなかった。あまりに巨大でナイーヴになることもあったよ。エイフェックス・ツインを聴きはじめたのも、ここ数年の話だしね。

おそらくあなたのコスモポリタン的な感覚から、たまにTV・オン・ザ・レイディオと比較されていますが、彼らの音楽は聴いていますか?

ゴンジャスフィ:全然聴かないな。あまり興味が沸かないからね。いまは最初に挙げたトム・ヨークなんかのほうに傾倒しているのもあるし、彼らを聴くと何か救われる気持ちになるんだ。TV・オン・ザ・レイディオからはそういった気持ちが生まれないし、クソにしか聴こえないよ。

M.I.A.は?

ゴンジャスフィ:聴かない。"Paper Plane"は聴いたけど、アルバムとして聴いたことはないよ。

イスラム教、とくにスーフィとの出会いについて教えてください。

ゴンジャスフィ:サンディエゴの大学でイスラム教を学びはじめたのと、ムスリムの友人との出会いがきっかけでイスラミズムに興味を抱くようになった。それと同時に、なにか箱のようなもののなかに収まって、定められたやり方で生きることに疑問を持ちはじめて、人生のより神秘的な側面に注目するようになっていったんだ。

名義をスマックからゴンジャスフィに変えたのも関係がありますか?

ゴンジャスフィ:その友人がスーフィズムに入ってったこともあって、スーフィズムに本当に心を魅了されたんだ。まさにハマったとも言えるよ。そのときも葉っぱをよく吸っていたし。それで名前をゴンジャスフィ(注:ガンジャ+スーフィ)に変えたんだ。

スーフィは今回のアルバム『A Sufi & A Killer』においてもタイトルになるほど重要な要素だと思いますが、スーフィというのはあなたのこれまでの人生のなかでどのようなものなのでしょうか? 

ゴンジャスフィ:自分を変革し、啓蒙してくれるものだよ。スーフィと出会って、さまざまなものが内面から溢れでたとも言える。

スーフィの神秘主義はあなたの音楽にどのような影響を与えましたか?

ゴンジャスフィ:直接的に音楽的に影響を与えたというよりも、自分を何か枠の外へと導いてくれたと思っているんだ。例えばメディア、学校、神もそうだけど人びとが閉じ込められるようなその枠の外へと連れ出す感じさ。

具体的に修行をされたのですか?

ゴンジャスフィ:そうだね、いちばんの修行はヨガをすることだよ。2004年くらいから友人を通じてはじめたんだけど、俺に取ってはヨガもスーフィも同じなんだ。ヨガがいつも、「自分が誰か」、「自分とは何か」を教えてくれるんだ。感情をコントロールすること、怒りやネガティヴな感情を昇華することをヨガを通して学んでいるよ。

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まずこの曲は警察について歌った曲なんだ。たったいま俺はカリフォルニアへ行く途中で車を止めて、このインタヴューをしているんだけど、このあいだ(約50分)に俺は5回も警察に職務質問されているんだ。

あなたの音楽における政治性について話してもらえますか?

ゴンジャスフィ:うーん、政治は大嫌いだし、政治にはいっさい関わりたくないと思っている。アメリカではつねに政治は偽善で、ハリウッドのような腐ったシーンも生み出している。それには常に反抗していたいと思っているよ。 

『A Sufi & A Killer』の"A Killer"というのは誰のことを指しているのですか?

ゴンジャスフィ:それはバランスを表しているんだ。誰もが内に持つ二面性。それをこのタイトルで表しているんだよ。だからSufiがKillerでもあるし、KillerがSufiでもあるんだよ。裏返しているだけで本質は同じものさ。

アルバムの1曲目の"(Bharatanatyam)"はスーフィの音楽なんですよね?

ゴンジャスフィ:そうだよ。魂や祖先に対する敬意を払う意味を込めたスーフィのダンス・ミュージックなんだ。

シングルカットされた"Kowboyz & Indians"は何にインスパイアされた曲なんでしょうか?

ゴンジャスフィ:そうだね、何にインスパイアされたかなー。もちろんインドには影響を受けてるよ。ここで歌っていることは、ジョン・ウェインなんかに代表されるハリウッドで作られたカウボーイ・イメージを捨てろってこと、そして本物のカウボーイはヒマラヤ山脈を、牛を引いて歩く小さな少年なんだってことなんだ。これもさっき話したメディアの枠の外へ飛び出すことだから、ヨガやスーフィにインスパイアされたともいえるね。

"Klowds"は何の音楽からの影響なんでしょうか? インド音楽ですか?

ゴンジャスフィ:もちろんインド音楽から影響を受けているし、このサンプルはトルコのサイケバンドをザ・ガスランプ・キラーがリ・エディットしたものなんだ。インド音楽はラビ・シャンカールのような古典も聴くし、ボリウッドのような大衆音楽も聴くよ。

収録曲がだいたい2~3分ですが、これには理由がありますか? 

ゴンジャスフィ:とくに理由はないよ。編集したのはザ・ガスランプ・キラー、フライング・ロータス、メインフレイムだしね。

最後の曲"Made"が終わったあとに隠しトラックがありますが、どのような理由からなんですか?

ゴンジャスフィ:まずこの曲は警察について歌った曲なんだ。たったいま俺はカリフォルニアへ行く途中で車を止めて、このインタヴューをしているんだけど、このあいだ(約50分)に俺は5回も警察に職務質問されているんだ。これはそういった腐った奴らに対して歌った歌なんだよ。ボーナス・トラックのつもりで置いたから曲間に空白が入っているんだ。

最後に日本のリスナーにメッセージをお願いします。

ゴンジャスフィ:これはすごい難しいなー。本当に日本の文化に心から感動しているし、尊敬しているんだ。初めてのインター・ナショナル・ショーとして日本に行ったときも、いろんなところで愛を感じながら日本の文化の美しさに魅了されたんだよ。ひとりひとりが互いを尊敬して敬意を払うところや謙虚なところとかね。日本から2年前にアメリカに帰って来たときには、アメリカの仲間にとにかく日本の素晴らしさを伝えたよ。だから日本のファンに伝えるとすれば、これからも俺の手本でいてくれってことかな。かなうものなら心から再来日を果たしたいと思ってる。前にライヴしたときは俺が何をするか全然わからなかっただろうけど、いまはこうしてレコードも多く出てるから、より理解してもらえると思うからさ。もし叶うなら本当に名誉なことだと思うよ。ついでにいまアナログなテープ・マシーンも探してるから、もし誰か持ってる人がいたら連絡して欲しいな!

 

Gorillaz - ele-king

 デイモン・アルバーンはとんでもない情熱家だ。向学心があって、ポップ・ミュージックの時計を20年前に戻すことを許さない。ブラーとしてセカンド・アルバムを出したばかりの頃に取材で話したときの彼は、60年代の音楽とカーナービー・ストリートの服屋の話を喜んでするようなご機嫌な青年だったけれど、ブリット・ポップ騒動のなかで相当に揉まれたのだろう。トニー・ブレアにオアシスとともに持ち上げられ、そしてまあ、アイドル系のルックスだったがゆえに、労働者階級の英雄であるオアシスの、結局はなかば引き立て役のような、どこか損な役回りを強いられ、が、しかし労働党に裏切られたという政治的な経験をバネにするかのように、アルバーンはつねに向上心を捨てることなく、その後驚くほど貪欲な活動を見せている。アフロ・ミュージック(トニー・アレン)にアプローチしたかと思えば、イスラム文化にも接近してみたり(『シンク・タンク』)、あるいは漫画家のジェイミー・ヒューレットと一緒にゴリラズとして『西遊記』をモチーフとしながら音楽と文化をシャッフルさせる。イギリスの音楽らしく、そこに社会風刺と政治的主張も含まれる。

 ゼロ年代にはじまったゴリラズは、デビュー・シングル「クリント・イーストウッド」において西海岸のヒップホップの魔術師オートメイターの力を借りながら、90年代初頭にコンシャス・ラップのひとつとして注目されたオークランドのデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンスにラップさせている。2005年のセカンド・アルバム『ディーモン・デイズ』では、その時期玄人筋からもっとも受けていたUSとUKのふたりのラッパー、MFドゥームとルーツ・マヌーヴァを誘い、チャレンジ好きのヒップホップ・プロデューサーとして知られるデンジャー・マウス、それからデ・ラ・ソウルとショーン・ライダーを招き入れている。こうした前2作のスジで考えても今回のアルバムのゲスト陣は尋常ではない。

 物欲の塊のような西海岸の大物ラッパー=スヌープ・ドッグ、ガラの悪いUKグライムのスター=ケイノ、正義感の強いラッパー=モス・デフ、ウェールズのヒッピー左翼のロッカー=グリフ・リース、毒舌と批評精神のシンガー=マーク・E・スミス、それからルー・リード......ボビー・ウーマック、それから元ザ・クラッシュのミック・ジョーンズとポール・シムノン、前作に続いてデ・ラ・ソウルも......、洒落たクラブ・ジャズからはユキミ・ナガノまで......、あるいはシカゴからは元サン・ラ・アーケストラのヒプノティック・ブラス・アンサンブル......。まとめると、ルー・リードとケイノとマーク・E・スミスが1枚のアルバムに収まっていること自体が奇跡的で、まずはこのオーガナイズ力だけでも賞賛に値する。
 もちろん背番号10を11人揃えれば強いチームが作れるわけではない。問題は明確な方向性だ。ゴリラズは、エレガントなエレクトロ・ヒップホップやディスコやポップスを回転させながら、世界が滅亡した後に太平洋に残された島を舞台として、新自由主義の犠牲としての環境破壊を物語る。

 「世界は絶望的だ」――西海岸のG・ラップのスーパースター(スヌープ)はラップする。「革命はTV放映される」――先頃カムバックしたギル・スコット・ヘロンの言葉を引用する。レバノンのナショナル・オーケストラの演奏に混じってグライムのビートが飛び出し、バッシーとケイノのラップがたたみかける"ホワイト・フラッグ"はアルバムの白眉のひとつだ。この曲から素晴らしい生気が放たれたかと思えば、モス・デフとボビー・ウーマックが共演するダーク・エレクトロの"スタイロ"のメランコリーからはディストピアが浮かび上がる。マーク・E・スミスのぼやき節のみならず、曲調までザ・フォールじゃないかと思わせる"グリッターズ・フリーズ"は文句なく格好いいし、モス・デフとヒプノティック・ブラス・アンサンブルによる"スウィープステイクス"の楽天性は多くの人に愛されるだろう。ルー・リードがエコロジーについてソウルフルに歌う"サム・カインド・オブ・ネイチャー"やグリフ・リースが未来の食生活を憂う"スーパーファスト・ジェリーフィッシュ"も面白いし、ユキミ・ナガノがコズミック・ディスコをバックに歌う"エンパイア・アンツ"も捨てがたい。

 多くの個性派を集めたが故に、アルバムの中心がどこにあるのかわかりづらいという評もあったが、たしかに1曲だけを選ぶことは困難かもしれない。まあ、しかし逆に言えば全曲気を抜けずに聴けるということでもある。そして何よりも重要なのは、元ブリットポップのスターが情熱を傾けてこのコンセプト・アルバムを完成させたということだ。「オレは自分が環境問題について考えていたとは言わないよ。あの曲もそんなものではないんだ」、ケイノは『ガーディアン』の取材でアルバーンが最初にアルバムのコンセプトについて説明してくれたことを明かし、そしてこう語っている。「"ホワイト・フラッグ"は警告なんだ。世界は滅び、そしてふたたびはじめるための警告だ。それは平和を暗示するのさ」

Hard Talk - ele-king

わざと日本語ラップ・シーンに言及しているのに、そこを残念って言われても困る。そういう意図でやってるんだから。――環ロイ

提灯記事ばっかりなのが、また日本語ラップの閉鎖性だと思うよ。というか、それが普通だと思って納得しているのはおかしいよ。――二木信

 あっという間だった。環ロイと僕、そして同席したくれたY氏は渋谷の喫茶店で3時間ぶっ通しで話し込んだ。相手の話を真剣に聞き、自分の言葉で語り、そして時に沈黙した。最初、環ロイが待ち合わせ場所の喫茶店に入って来たとき、こちらの想像以上に殺気立っているように感じられた。いや、怒っていたのかもしれない。


環ROY
Break Boy

Popgroup

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 この話は2ヶ月以上前に遡る。2月頭、僕が書いた環ロイの2作目となるソロ・アルバム『BREAK BOY』のレヴューが『ele-king』にアップされた。その後、環ロイから反論のメールが僕の元に届く。反論の中身については環ロイ自身の言葉に譲るが、メールはけっこうな長文だった。正直驚いた。それから何度かやり取りをして、結果、このような形で環ロイの反論を聞く取材をするに至った。それが大まかな流れだ。

 環ロイは音に貪欲なラッパーである。鎮座ドープネスやシーダやK・ボンらと同じように未知の音の航海に勇んで船出しようとする冒険心を持っている。彼はここ数年で、様々なジャンルのトラックメイカーとタッグを組んでアルバムを立て続けに5枚制作し、スカイフィッシュ、やけのはら、ピーチボーイらをリミキサーとして迎えてもいる。僕の経験から言うと、環ロイは日本のラッパーとしてはだいぶ珍しいタイプだ。

 論点を簡潔に言うと、「そんな幅広い音楽性を持った環ロイが、なぜ、ここに来て日本語ラップにあえてこだわろうとしたのか、またそこに毒を吐いたのか」ということである。とはいえ、それはあくまでも議論の出発点でしかない。話題は、クレバ、表現の自由、音楽ジャーナリズム、七尾旅人との出会いなど多岐におよんだ。われわれは皮肉じみたことも言い合ったかもしれないが、がっぷり四つで組み合った。

環ロイ:アルバムをみんなに「良いよ」って言われると思ったのに、二木にああいう風に書かれて、すげぇムカついて。それを彼女に話したら、「みんなに良いって言われるなんてあり得ない」って言われた。

あの原稿のどこに引っ掛かったの?

環ロイ:わざと日本語ラップ・シーンに言及しているのに、そこを残念って言われても困る。そういう意図でやってるんだから。

いや、残念というか、あれだけのトラックメイカーを集める幅広い音楽性を持って日本語ラップの枠を飛び越えて来た環ロイが、なんでまた日本語ラップにこだわっているのかなって。最初は素朴な疑問ですよ。

環ロイ:日本語ラップに対して言及しているのが「もったいねぇ」って言ってるわけでしょ?

もったいないというか、もうちょっとナチュラルに突き抜けると思っていたから。そもそもなんでそこまで日本語ラップにこだわったの?

環ロイ:フラグメント、エクシー、DJ ユイ、オリーヴ・オイル、ニューディールと連作を続けたのに、そんな理解されてないなって思ったから。

理解されないというのは?

環ロイ:日本語ラップ・シーンからもっとちやほやされると思ったけど、そうでもなかった。でも、他のシーンからはそれなりに満足いく手応えを得られた。俺のやっていることがわかりづらいんだなって。みんな、言葉が好きだから。特に今、生き様を提示する系を求めているから。だから、「生き様比べだけならまっぴら」って"任務遂行"でラップしてる。

環くんが考える日本語ラップ・シーンはどこなの?

環ロイ:昔は『FRONT』とか『BLAST』があって。今はすげぇあやふやで、ないのかもしれないんだけど、やっぱりあって。俺は日本語ラップ・シーンって言われるところから出て来て認知されたから。MCバトルを見て、俺のことを好きになりましたって人も多いわけでしょ。そういう人たちに対して、あの連作の5枚は振り回し過ぎたと思った。オーセンティックな、何の新しさもないビートの上でエッジの尖ったラップだけして欲しい奴がけっこういる。そういう奴らをシカトしてやって来たから、落とし前をつけたかった。一言で言えば、落とし前感だね。

メールに「責任感がある」って書いていたでしょ。それは日本語ラップに対する責任感なの?

環ロイ:そう。だって、俺、『さんぴんCAMP』を超見てたし、ジブラのファーストを発売日に買ったし。2000年代前半まで出てた日本語ラップの音源はそんなに数がないからほとんど聴いてた。

そういう責任感を捨ててるところが環ロイの面白さだと思ってたんだよね。

環ロイ:それは次でいいかなと思った。さっき言ったけど、俺のやっていたことがわかりづらかったって気持ちがあった。わかって欲しいのよ。すごく単純な話だよ。自分が出て来た村の住人にもわかって欲しいという願望が強い。

"任務遂行"と"Jラップ"は、ある意味日本語ラップ・リスナーに対する挑発だよね。

環ロイ:そうもなるよね。この前、ケン・ザ・390と5時間ぐらい話して、あいつと俺の立場は違うけど、考えてることはほとんど一緒ですごく驚いた。二木はヒップホップ・シーンをどう思うの?

どう思うっていうのは?

環ロイ:日本語ラップ・シーンってあるよね?

それは実体としてあるんじゃないの。

環ロイ:あるよね。『Amebreak』とかサイバーエージェントもあるしね。

『Amebreak』からも取材依頼来るんでしょ?

環ロイ:来る。シーンの裾野を広げるためにやっていますって人がいるじゃん。メジャーでやっている人たちはそういうこと言いたがるでしょ。俺も〈ローズ・レコーズ〉のコンピに入って、5周年のパーティに出たり、(石野)卓球さんのイヴェントに出たり、2008年は〈センス・オブ・ワンダー〉と〈フジ・ロック〉に出た。俺もシーンの裾野を広げるのに貢献してるじゃんって思う。「シーン、シーン」、気持ち悪いな(笑)。

ハハハ。たしかに気持ち悪い。あちこちのジャンルのトラックメイカーと5枚もアルバムを作って、いろんなイヴェントに出演しているのにあまり評価されなくてムカついていたわけだ。

環ロイ:そう。そういうのをあからさまに言うと外側に対してエンターテイメント性を孕むと思ったの。

逆じゃないかな。日本語ラップ・ファンは喜ぶけど、そうじゃないリスナーは小さいとこで何を言っているんだって思うよ。

環ロイ:でも、小さいところでやっているのはもう共通概念だよ。というか、わかりきってる。他の畑の人と話すとみんなヒップホップ通ってるし、好きだって感じるよ。でも、日本語ラップ・リスナーは閉鎖的でコミットしづらいと思ってるでしょ。アジカン(アジアン・カンフー・ジェネレーション)の後藤(正文)さんはTwitterで自発的にヒップホップの人に絡んで行ってる。

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ちゃんと売れて、しかもクリエイションもしっかりやっているものを作るのがいちばん難しいんだよ。――環ロイ


環ROY
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日本語ラップの閉鎖性ってなんだと思う?

環ロイ:端的に言うと、プレイヤーが音楽好きじゃなくて、ヒップホップを好きっぽいんだよね。

実際、音楽をあまり聴かないラッパーの人は多いからね。

環ロイ:その閉鎖感から生まれる強さはあるから、それはそれで成立すればいいんだけどね。海外はそれで成立しているけど、海外と比べても仕方ない。シーンの裾野を広くしたいって言うなら、ウェルカム感を出した方がいいと思う。

環くんも裾野を広げたいって気持ちがあるんだ。

環ロイ:というか、いろんな人からわかってもらった方が売れるからいいじゃん。小さいところでやってるんじゃないのって言ったけど、内側でこういう反乱分子がギャンギャン言っているのが、俺はエンターテイメントになると思ったけどね。

原稿に書いた通りなんだけど、俺はもっとナチュラルに突き抜けるのを期待していたから。

環ロイ:でも、今回はもったいなくていいんだよ! 先は長いから。

ケリをつけたかったんだ。

環ロイ:それはある。だって、俺、キングギドラとか超歌えるよ。

環ロイが日本語ラップの閉鎖性を象徴する存在なんだろうね。

環ロイ:そう、とくに俺の世代ね。

環くんが日本語ラップが嫌だなと思う理由のひとつは、音楽と関係ない、不良的な封建制が強いのもあるんじゃない?

環ロイ:それもすごく嫌だなと思う。不良、ヒップホップ、音楽なんじゃない、あの人たちのプライオリティって。俺は、音楽、ヒップホップ、社会生活だからさ。

そういう風に日本語ラップのルールから解き放たれているのが環ロイの面白さだと思う。

環ロイ:でも、始めたときからそこに関わってないから。そこにしがらみを感じたことはないよ。

じゃ、環くんのコンプレックスって何?

環ロイ:なんだろうね。それについては鎮座(ドープネス)とも話していて。〈さんぴんCAMP〉があってさ......。

〈さんぴんCAMP〉に勝てないって気持ちがある?

環ロイ:そうじゃないんだよ。あんなのどうでもいいじゃんって思う。

どっちだよ(笑)。

環ロイ:あれに引っ張られている奴らがムカつくんだよ。でも、それに引っ張られている奴も多いから。「じゃあ、わかりやすく言ってやるよ」って。それで"J-ラップ"を作った。

〈さんぴんCAMP〉は行った?

環ロイ:行ってない。

俺も行ってないんだよね。その当時いくつぐらい?

環ロイ:歳は一緒でしょ?

〈さんぴんCAMP〉は96年だから。

環ロイ:中学生とかでしょ。その頃、ヒップホップ聴いてないもん。やっぱ、それはどうでもいいや。三千人集めるイヴェントなんてそこら中でやってんだもん。そうじゃなくて、それをいまだに言ってることに「バカか!」って思う。

でも実際、日本のヒップホップ史の象徴的なイヴェントだからね。それは事実としてあるよ。それにこだわる、こだわらないはまた別問題。俺だってあまりにこだわっている人を見ると、そりゃバカだなって思っちゃうよ。

環ロイ:それそれ。そのバカだな感を活動で示して来たけど、あんまり伝わっていないから、そのバカだなって思う対象に。それをシカトしてスルーするのが大人の対応なんだけど、俺はわからせてやりたくなるから。

「鎮座DOPENESSよりも大人じゃねー」って"J-RAP"でラップしているからね。

環ロイ:あの人はそんなのスルーして行こうとしているし。俺はいちいち言いたい。というか、言わないと気持ち悪い。

そこが妙に言い訳がましく聴こえちゃった部分なのかも。

環ロイ:その意味が全然わかんないんだよ。

「ゴタクじゃねーぞ/感情をぶつける」って、"任務遂行"でラップしているけど、結局ゴタク並べてるなって感じたから。言い方は悪いけど、なんか理屈くさいなって思ったんだよね。それは率直な感想。

環ロイ:それは歌詞が?

そう。環くんの批評性はすごく面白いと思ってるんだけど、ラップでああいう風に出されて、なんか引っ掛かっちゃったんだよね。

環ロイ:じゃあ、俺の歌詞が悪いじゃん。ゴタクじゃなくて、「お前らムカつくからちょっとわかれよ」って言ってるんだけど。ちょっと言い方が悪かったかな。「あえてゴタクで感情をぶつける」って言えば引っ掛かんなかったの?

いやー、それはどっちでも同じだったと思う。でも、あそこが面白いところだった。

環ロイ:意味わかんねぇ。じゃあ、「最高」とか「良いよ」って書いてよ。売れる枚数に影響およぶよ。

およばないよ(笑)。

環ロイ:及ぶよ。俺らのレーベルはまだ小さいんだから。

関係ないよ。

環ロイ:そう? 提灯記事書けばいいよって思っちゃうんだよね。

それだったら、『Amebreak』だけでいいじゃん。

環ロイ:まぁ、そうだよね。

提灯記事ばっかりなのが、また日本語ラップの閉鎖性だと思うよ。というか、それが普通だと思って納得しているのはおかしいよ。提灯記事じゃない方が面白いじゃん。

環ロイ:そういうのが普通って思ってないよ。提灯記事じゃないほうが俺も楽しいし。でも俺は傷つくからヤダ。

Y氏:そんなことで傷ついたら。

しょうがないよ。

Y氏:やんない方がいいってことになっちゃわない?

環ロイ:それは彼女も言ってた。

そもそもラッパーなんてディスり合いじゃん。

環ロイ:いや、プレイヤーにディスられんのはいいじゃん。

なんでライターはだめなの? プレイヤーじゃなくても文句言っていいでしょ。

Y氏:レヴュー書いてくださいって言うの止めた方がいいって話になっちゃうよね。記事が出ない方がいいってことになっちゃうよ。

環ロイ:俺がもっと偉くなって、書かせてくださいって言われるぐらい頑張りますよ。俺のアルバムを載せたらその媒体がプロモーションになるようにしますって。

Y氏:もちろんそこまでなればね。

つまりは書かれて傷ついた話だよね。

環ロイ:そう。

でも、本心でもないのに「最高」って書かれるほうが嫌じゃない。

環ロイ:知らぬが仏じゃん。

そもそも俺はアルバムがつまらないとは書いてないからね。

環ロイ:そういう風に読めないよ。

そうかー?!(笑)

環ロイ:他の良いところを書いてよって思うじゃん。

書いてるよ。トラックメイカーの選び方とか、あれだけ多彩なヴァリエーションのビートに乗せることのできるラップのスキルとか、いろんな音楽を貪欲に聴いてチャレンジしていることとか。

環ロイ:うん。"任務遂行"で「外野はすでに騒いでるぞ」って言って終わってるじゃん。最近、Twitterでいろんな人と喋ってて、アジカンの後藤さんとかクラムボンのミトさんとかストレイテナーのドラムの(ナカヤマ)シンペイさんとか。みんな良いって言ってくれるよ。

そんなにいろんな人から認められてるんだからいいじゃないですか。

環ロイ:彼女も同じこと言ってた。でも、俺が出て来た村の幹部面している奴がいるじゃん。

ああ。

環ロイ:そういう奴らが俺のことを無視なの。なんか悔しいわけよ。だから、"任務遂行"は、わざと日本語ラップ好きが好きそうな感じにした。

トラックを?

環ロイ:トラックって言うか、あの感じが。

パンピーくんが作った"go! today"のトラックがいちばんオーセンティックだと思ったけど。

環ロイ:そうだけどさ。"Jラップ"と"任務遂行"は、日本語ラップ好きな奴が好きそうじゃん、って思ったの。

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曲がりなりにも日本語ラップについて書いて来たライターとして、"任務遂行"や"Jラップ"についてはちゃんと反応しないとって気持ちはあったよ。無視はできない。――二木信


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"Jラップ"で唯一評価できる先輩はクレバだけ、みたいなことをラップしているよね。なんで、クレバなの?

環ロイ:ライムスターを言い忘れちゃった。

でも、クレバは特別なんでしょ?

環ロイ:クリエイティヴだから。

俺も『心臓』は大好きだし、傑作だと思う。

環ロイ:クリエイティヴなことをできる場所まで持っていって、クリエイティヴなことをしているから。クレバと同じことを、完全に同じクオリティで音楽的に遜色なく別の奴がやっても、あんなに売れない。キック・ザ・カン・クルーを経て、「クリスマス・イブRap」を出して、武道館ライヴやって、ソロで1枚目、2枚目、3枚目を出して、4枚目の『心臓』ができているから。「俺が大丈夫って言ったら売れるよ」っていう説得力をつけて来てるからできる。例えば、「THE SHOW」に「one for the money.two for the show~」っていうフックがあるけど、あんなのメジャーの奴は無理って言うから、普通は。

どういうこと?

環ロイ:「one for the money」って、第一に金だってサビで言っているわけでしょ。もし別の奴がそういうシングルを出しますって言ったら、メジャーの人は絶対拒否ると思う。あそこまで含蓄を持った活動をして来てなかったら、無理だと思う。

でも、そういう意味じゃ、ジブラもクリエイティヴなんじゃないの?

環ロイ:そうなの? 超好きな曲もあるけど。

流行のサウンドを取り入れたトラックもよくできていると思うし、彼のメッセージに若者が鼓舞されるのもわからないでもない。

環ロイ:クレバのそれはトレースの加減なんだよね。アメリカのやっていることをまんまトレースして上手いですねっていうのは、俺が言ってるクリエイティヴではない。

『心臓』は、Jポップのラヴ・ソング的な要素と歌謡曲の哀愁の感性とUSのヒップホップとR&Bを絶妙なバランスでミックスしているよね。俺はそこがすごくクリエイティヴだと思った。あとクレバって、ヒップホップをブラック・ミュージックの歴史の中で捉えているよね。だから、古内東子と一緒にやっても違和感がないし。実はそういうラッパーやトラックメイカーはあまりいないと思う。

環ロイ:それそれ。俺のクリエイティヴってそれなんだよ。ヘンリー・ダーガーってヘンな画家がいるじゃん。家でひたすら描いて、死んだ後に絵が見つかった人。あの人は芸術のマックスを行ってて最強にクリエイティヴだけど、誰にも理解されないまま死んでいくわけじゃん。それは嫌なんだよ。「わかる奴だけがわかればいいや」っていうのは、俺のクリエイティヴの意味からは外れちゃうの。

大雑把に言うと、ちゃんと売れたいってことでしょ。

環ロイ:ちゃんと売れて、しかもクリエイションもしっかりやっているものを作るのがいちばん難しいんだよ。アンダーグラウンドでわかる奴しかわからないマックスと、めちゃめちゃ売れるマックス、その真ん中を保ちながら続けていくのがいちばん難しいから。クレバはそこをやってるからクリエイティヴだと思う。

クレバの音とラップはクリエイティヴだと思うけど、リリックがそこまで刺激的だとは思わない。

環ロイ:そこに同意できないから、この話はたぶん成立しない。俺は最強だと思う。作詞家だと思う。ラッパーと作詞家ってイコールじゃないからさ。ラッパーはラップを書く人だから、作詞とはまた別なんだよ。だけど、クレバは作詞家も兼ねてる。だから、メジャーの検閲っていうレベルじゃないんだよ。この国のシステムのなかでやれることを最大限ギリギリまでやってる。資本主義のシステムのなかでメジャー・レーベルがあって、利益追求するための組織があって、そのなかでどれだけ多くの人に伝えられるかということと、自分が表現したいことの綱渡りなんだよね。

『心臓』のクレバのリリックはラヴ・ソングの詩としては秀逸だと思うけど、刺激的な綱渡りをしているとまでは思わない。クレバの話からは逸れるけど、USのメジャーはスヌープやグッチ・メインのように存在そのものがイリーガルみたいなラッパーを出すよね。それは表現の自由という意味では健全だと思う。

環ロイ:まぁ、人殺しでもめちゃくちゃCD売れるからね。俺もそう思うよ。でも、音楽やる奴にそこまで負荷をかけられても困るって感じなんだよね。

クレバや環くんがそこに挑戦して欲しいという話じゃまったくないよ。悪いことをラップすればいいということでもない。ここで俺が言っているのは表現の自由の問題だから。例えば、D.Oがああいうことになって、メジャーはアルバムを発売中止にしたけど、そういう日本の音楽業界の体質はやっぱりおかしいよ。

環ロイ:そうだね。でもそんな論理は無茶だよ。それはアメリカに戦争で負けたのが悪いっていう話になってくるから。徳川幕府が悪いっていう話になってくるから。三百年間、封建制度作ってさ。武士に生まれたら次も武士、農民は永久に何代も農民みたいな時代が三百年続いていたわけじゃない。そういう話になってくるよ。

それについてはよくわからない。

Y氏:ふたりは同じことを言ってるように聞こえますけどね。もちろん、クレバがそういうドギツイことまでチャレンジしないのは、彼がしたくないからで。実際にそういうことやっている人たちが売れてないのは、そこまで良くないからでしょ。インディでもものすごく良ければ、百万枚とか売れる可能性はある。ただ、それぐらいのレベルじゃないから、売れてないだけじゃないかな。

表現のレヴェルがそこに達していないと?

Y氏:生活のリアリティはあるかもしれないけど、求められてないっていうか。要するにオーディエンスの問題。それは、完全に日本の音楽聴いている人たちの意識を変えるようなすごいものを作って行かないとひっくり返らない。

環ロイ:それもそれで無茶だよ。それはものを作ることに直結している側面もあるけど、システムの話になって来ちゃうじゃない。ラジオ局がどうだとかさ。

ちょっと話を戻していいですか。『BREAK BOY』には"バニシングポイント"っていう曲があって、フラグメントとの『MAD POP』には"primal scream"っていう曲があるじゃない。プライマル・スクリームが好きなの?

環ロイ:なんとなく好き。アルバムは全部持ってるけど、メンバーの名前は知らない。

ロックンロールしてて、ダンス・ミュージックもやってる、ああいう雑食的な音楽が好きなのかなって。

環ロイ:そこが好き。毎回違うじゃん。ジャンブラ(ジャングル・ブラザーズ)もそうだけど。

"Break Boy in the Dream"で七尾旅人とやることになったのはどういう経緯だったの?

環ロイ:旅人くんと対バンで一緒になったときに話しかけたのが最初の出会いだね。名前はあちこちで見てて、ずっと気になってはいた。で、対バンする前に旅人くんのファーストを聴いたのね。それですごく好きになった。「なんてアヴァンな人だ!?」って。で、ライヴを観に行ったり、旅人くんが俺のライヴに遊びに来てくれたり、飯食ったりしてたら仲良くなった。とりあえず、俺がすげぇファン。

へー、仲良いんだね。

環ロイ:仲良いのかな? 俺がファンだよ。"Break~"のヴァースを録音した日にフックができてなくて、フックは歌がいいなーって漠然と思ったのね。その瞬間に「旅人くんに歌を入れてもらったら素敵かも!」って思いついて、スタジオから電話したら「いいよー」って。「Rollin' Rollin'」と構造が似てんなーってできてから気付いた。でも「いい曲できたから関係ねーかー」って。旅人くんは、音楽を創造することに対して「殺気」を持ってる人だね。真剣度が高いんだと思う。

なるほど。

環ロイ:ところでさ、レヴューで気の抜けたデジタル・ロックがどうのこうのとか書いてたよね。あれは、どの曲のことを言ってるの?

「いくつかのトラックが気の抜けたデジタル・ロックが空騒ぎしているように聴こえてしまうのは、どうにももったいない」って書いた。それこそ"任務遂行"とかもそう思ったよ。

環ロイ:デジタル・ロックなの? 俺は超オーセンティックなヒップホップだと思うけど。

あれは音質のことだから。なんでこんなにシャカシャカした音にしちゃったのかなって。

環ロイ:俺もちょっとマスタリングには満足してないから。

どこらへんが?

環ロイ:音のでかさが揃ってないとか。俺はもっと暴力的な音にしたかった。ミックスもね。だからそんなこと書くなよって思った。

いや、書くのはいいじゃない。

環ロイ:ヤダ。"任務遂行"はデジタル・ロックなの?

あと"バニシングポイント"。

環ロイ:でしょ。いくつかってどれだよって思って。1個は"バニシングポイント"だろうなって思ったけどさ。ヒムロ(ヨシテル)さん怒ってたらしいよ。

あと"うるせぇ"とかも。

環ロイ:超ヒップホップじゃん。デジタル・ロックは、マッド・カプセル・マーケッツとかプロディジーみたいなサウンドじゃないの? それは、"バニシングポイント"しかねぇじゃんと思って。

だから、あれは音質のことだって書いてるよ。

環ロイ:そうなんだ。分かりかねるわ。

「ここで音質について語るのはフェアじゃないかもしれないが」ってエクスキューズまで付けてる。ビートの組み方やトラックの構造がデジタル・ロックだとは書いてない。

環ロイ:ああ、そういう意味なんだ。あの文章はジャンルとしてデジタル・ロックって思っちゃうよ。音質を俺の好きにやったら、全然違うことになるから。

だから、フェアじゃないかもしれないって書いているんですよ。

環ロイ:でも、それ、困るよね。50枚ぐらい売り上げ下がるんじゃないの、あれで。

下がんないよ。

環ロイ:わかんないよ。下がった分を二木が買えよ。

レヴューで批判されている盤って気になって聴きたいなって思う場合もあるし。いずれにせよ、提灯記事を読んでも何も引っ掛からないでしょ。

環ロイ:俺、高校生の頃、提灯記事とかわかんなかったからさ。騙されてたよ。

いまの人はわかるよ。しかし、環くんがこんなにショックを受けていたとは思わなかった。もっと「ちげーよ!」って感じかと思ってた。

環ロイ:俺は普通に傷つくけどな。「ちげーよ!」はあるけど、売り上げが下がったらどうしようっていう小心者が出てくるよ。

曲がりなりにも日本語ラップについて書いて来たライターとして、"任務遂行"や"Jラップ"についてはちゃんと反応しないとって気持ちはあったよ。無視はできない。「環ロイは日本語ラップに対する愛憎をラップしているから、偉い!」とだけはさすがに書けない。

環ロイ:別にそんな風に書けって言ってないし。「堅苦しい」って言わなくていいじゃんって思うわけ。今回のアルバムで、俺は「村の人」じゃありません、みたいにはできなかったんだよ。

俺はその感覚がわからない。

環ロイ:そりゃないだろうね。

だから、環ロイほど自由に音楽をやって来たラッパーが、なんで日本語ラップに今さらこだわるのか疑問だった。

環ロイ:話が戻って来たね。地元愛だよね、やっぱ。

なるほど。

環ロイ:日本語ラップに影響を受けて、2000年代前半まで信じてたから。キングギドラの頃のK・ダブ・シャインが韻を踏まないのはラッパーじゃないみたいなことをラップしていて、そういうのを真に受けて来たから。でも、信じていた世界がエデュケイトして来たことが、音楽を聴く上でそんなに意味がなかったっていう。

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だから、「ヒップホップをリスペクト」みたいな原理主義の右翼よりは俺のほうがわかっているぞっていうのがあるから。――環ロイ


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自分が影響を受けて来た人たちに振り向かれない悲しさもあったと。それがコンプレックスってことなのかな。

環ロイ:そうかな?! K・ダブ・シャインは大好きだからね。

ヒップホップってもっと自由だろって伝えたい?

環ロイ:うん。いまなら、ダブステップがいちばん先鋭的なヒップホップの概念を継承している音楽だよって俺は思う。でもみんなわかんないんじゃん? 「ズッツーター、ズッツーター」って汚い音でビートが鳴っていて、ファンクからのサンプリングを乗っけてたり、最新のハイファイなUSのラップとか、そういうのしかヒップホップじゃねぇと思ってるから。

まぁね。でも、それをみんなに求めるのは酷だと思うな。幅広く音楽を聴いていればわかることだけど。

環ロイ:「音楽やってんなら音楽を聴けよ」って思うじゃん。

もちろんそうだけど、でも、仕方ないと思うんだよね。

環ロイ:仕方ない奴は仕方ない奴でいいけどさ、自分の食い扶持を広げていくことができないだけだから。でも、「俺はヒップホップを愛しているからシーンをでかくしたい」とか、そんな絵空事を言ってるんだったら、そっから考え方変えて行けよと思う。

多くの人に理解されたいと言いながら、ヒップホップ以外の音楽をあまり聴かなそうだしね。

環ロイ:うん。そのクセにシーンのなかで近親相姦して、「これが俺らのヒップホップだ!」って言っていて、それじゃ何も変わらないじゃん。パラダイム・シフトしたいじゃん。だから、ゴタクを言ったんだよね。フラグメントのレーベル(術ノ穴)のコンピに、フィッシュマンズの"マジック・ラブ"にダブステップのリディムをバコンと入れてるだけの曲があって、超カッコイイの。それって超ヒップホップじゃん。ベースをボンボン入れて、ハイ終わりみたいな。あんまりダブステップを知らないけど、エクシーにいっぱい吹き込まれて聴いている限りは、ヒップホップの曾孫ぐらいの場所で概念を相当継承している音楽だなと思った。

同じようにヒップホップ聴いて来た人たちにはそういうことをわかって欲しいと。

環ロイ:うん。

なるほど。それが責任感なのかなぁ。

環ロイ:わかんない。そうかも。

みんな責任感を持ってるの?

環ロイ:俺の世代はそうだよ。スラックはそういうのないから、ああいう風にできる。

ああ。

環ロイ:責任感が芽生える必要もなかったっていうか。でも、俺の年代は違う。26ぐらいから上は、何かしらあると思う。コマチにも感じるしね。ライヴのときにヒップホップの裾野を拡げるためにやっているって強調してたから。

俺、コマチはユニークだと思うよ。タロウ・ソウルやケン・ザ・390もヒップホップの裾野を広げたいみたいなことを言うよね。でも、俺にはディープな音楽性を譲る時の言い訳に聞こえちゃう。

環ロイ:って思うじゃん。俺もそう思ってた。でもなんか俺に似たものがあるんだよ。たぶん。

裾野を広げる使命感のためにこの音楽性なんですって言われたら、こっちとしたら何も言えなくなっちゃうよね。それはずるくないかって。言った瞬間に台無しじゃない。

環ロイ:ずるくねーよ。ケン・ザ・390と話したら、俺と似たようなことを考えてた。表現された音楽の形は違えど、俺と似たコンプレックスがあるなって。ヒップホップの裾野を広げるって本気で思ってるんだよ。

彼らは本気だと思うし、音楽を真剣にやっているのもわかるよ。でも、俺はタロウ・ソウルとケン・ザ・390の音楽にセルアウターとしての説得力を感じない。

環ロイ:でも、言い訳ではないんだよ。音楽がたいしたことないねっていう二木の論理は別に自由だけど、それを言い訳にして、ああいうものを作ってるんだろっていうのは邪推だよ。

Y氏:そういう風に聴こえてしまうのは邪推じゃないよね。

そう、邪推ではない。だって、彼らの過去の活動も知った上で、いまのメジャーでの音を聴いて、裾野を広げたいって発言が言い訳に聞こえちゃうんだから。

環ロイ:それはしょうがないね、まぁね。そこはもうわかった。それでいいです。

ところで、あの原稿で言いたかったことはわかってもらえました。

環ロイ:俺の反論は何だったの? 意味あったの?

"任務遂行"や"J-RAP"に辿り着くまでの道程はよくわかったし、わざわざなんでああいうことを言うのかもわかった。

環ロイ:そう思うのは自由だから、しょうがないじゃんってことだよね。

自由だからしょうがないじゃんっていうか......。

環ロイ:意外とそこにはドラマがあったんだねってこと?

だいたいわかっていたけど、発見もあった。

Y氏:こういう反応があるのが正しいんじゃないの、ロイくんの狙いとしては。

環ロイ:そうなのかな? 反応せざるを得ないように作ったんだもん。

だから反応しているわけですよ。

環ロイ:俺のやっていることをシーンの価値観のなかにいる人たちにもガッツリ伝えたいなっていう。

それならば、アルバム全体で徹底的に啓蒙するべきだったかもね。

環ロイ:それをアルバム全部でやったら、うるせぇじゃんって思うんだよね。汎用性ないし。

でも、そこまでやったらすごいインパクトがあったと思う。

環ロイ:それはちょっと無理だわ。それはライターとして面白がって言ってるんだろうけど、そんなの売れなそうじゃん。

ビートとラップがカッコ良ければ売れると思うし、シーンの外の人から見てもヘンな奴がいるなーって見られるかもしれない。

環ロイ:スキャンダラスではあるけど、それは無理だね。やりたくない。企画盤としてミニアルバムを作るのはやぶさかじゃなかったけど、今回は徹底的に啓蒙するほど手間は使いたくなかった。でも、2、3曲はやりてぇなみたいな。もうやりたくないよ。

啓蒙って上から目線に聞こえるけど、クレバがライヴでやっていることも啓蒙だと思うし。

環ロイ:啓蒙ねぇ。

ヒップホップってやっぱりそういう要素がある音楽だと思う。

環ロイ:「そういう音楽でもありますね」感が嫌なんだよね。

でも、実際にそうだから。

環ロイ:でもさ、リスペクトがヒップホップだとか、ヒップホップで救われたとか、みんなそういうことを言いたがるじゃん。それが嫌で。

嫌なの?

環ロイ:くだらねぇなって。ヒップホップなんて、ただのツールでしかないじゃん。ヒップホップをリスペクトとか言っているんだったら、電車リスペクトとか、i-podリスペクトとか、ビル・ゲイツリスペクトみたいになるじゃん。それは、ただの言語だから。別の方法でリスペクトを示せばいいじゃん。俺はそうしたいよ。

環くんがヒップホップ・カルチャーから受けたいちばんのインパクトは何?

環ロイ:わかんない。

何かあるでしょ。

環ロイ:俺はけっこう間違っちゃった感があるから。ヒップホップを間違ってチョイスしちゃったかなって。俺は坊ちゃんだったなぁ、みたいな。

それはヒップホップのゲットー至上主義的な考え方に引っ張られ過ぎだよ。別にそんなものは関係なくない。

環ロイ:その通りだけど、そう思っちゃうよね。

ヒップホップにしろ、テクノにしろ、ダンス・ミュージックにしろ、レイヴにしろ、一般的な社会で好ましいとされる生き方から道を踏み外させる力のある文化でもあるわけじゃない。そういう意味で、どうなのかなって。

環ロイ:見た目とか雰囲気。田舎のヤンキーが暴走族に憧れるみたいな感じ。で、俺はセンス良かったからヒップホップになった。

センスの問題なのか、それ(笑)。

環ロイ:だから、「ヒップホップをリスペクト」みたいな原理主義の右翼よりは俺のほうがわかっているぞっていうのがあるから。

じゃあ、環くんが音楽を作る上で、ヒップホップや音楽以外に影響を受けているものって何かある?

環ロイ:あんまり考えたことない。やっぱ音楽じゃん。

音楽以外では?

環ロイ:手塚治虫が「漫画家はマンガを読んで漫画を描くな」って言ってて。それをそのまま置き換えると、「ヒップホッパーは、ヒップホップを聴いてヒップホップを作るな」になる。さっきも言ったけど、ヒップホップでしかヒップホップを表現できないのはヤダ。近親相姦だなって。そこにいて安心している感じもするし。アメリカの最新のハイファイな音を真似したり、外国のファンクとかソウルばっかりサンプリングしてさ。

あと、ジャズのサンプリングとかね。それは、90年代の東海岸ヒップホップが日本で異常に影響力を持ってるからね。

環ロイ:『FRONT』と『BLAST』のせいでしょ。

それはたしかにあるかもね。

環ロイ:そこから細分化されたからね。

90年代中盤のヒップホップばかりかけるパーティにたまに出くわすことがあって、ああいうのはつまらないと思う。いろんな新しい音楽があるのに。

環ロイ:聴いている方は、『FRONT』や『BLAST』を読み込んで来た世代がやってるってわかってないよ。事務所に古い『BLAST』があるから、たまに読むの。昔、メイスってラッパーがいたでしょ?

いたいた。

環ロイ:あいつのことをボロクソ書いてんの。「ダセー」って。50セントのラップなんて、あいつ以降なわけじゃん。

ああ、なるほど。

環ロイ:シーダくんのラップは勿論すげぇんだけど、彼がやる前に、ああいったフロウはドーベルマンインクがバック・ロジックのプロデュースでトライしてるからね。ヒップホップのライターってそこはスルーしてたでしょ? 意味わかんねーから。

90年代のヒップホップの話は、青春時代に聴いたものから逃れられてないってことだよね。常に新しいものを追う気持ちになれてないってことだと思う。

環ロイ:懐メロ大会だよ。

そうね。

環ロイ:懐メロで良しとしているのはセンス悪いよ。そこをわかってないじゃん。

センスが悪いっていうか、新しい音楽も面白いのにって素朴に思う。

環ロイ:うん。

やっぱクラブ行って、新鮮な音楽を爆音で聴きたいじゃん。それが、90年代に聴き飽きた音だったりするとがっくし、みたいな。

環ロイ:でも、なんでそうなってるのかを考えたら答が出るように思う。

どういうこと?

環ロイ:俺は新しいのを作んないと気持ち悪いから作るけどさ。同じことを繰り返して楽しい人もいるってことでしょ。そこはなんとも言えないけど。

青春時代のインパクトが強いってことじゃない。

環ロイ:それは俺のなかで、音楽好きじゃなくてヒップホップが好きなんだっていう話につながる。

新しい音楽を追うのは体力の要ることだしね。

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売れているとか売れていないとかはどうでもいい。そういう評価基準で音を聴いてないから。 ――二木信


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Y氏:いずれにせよ、"任務遂行"と"J-RAP"はロイくんの狙いどおりだったと思うんだけど。

環ロイ:そうなんですか?

Y氏:だって、Jラップのフィールドの人の反応を待ってましたっていう感じでしょ。そのフィールドにいる人だからこその今回の反応なんだから。俺からしてみれば、全く気にしてなかったから。でも、あえて言ったことで響いてる。

環ロイ:だから、もっとよく書いてよって話だよ。

Y氏:でも、それをよく書いたらダメでしょ。話がつながっていくことで気づく人も絶対多いよ。

何? また売り上げの話?

環ロイ:よくわかったね。

Y氏:俺がJラップ好きだったら、これ買ってみようかなって思うよ。

レヴューがあって、この記事がアップされれば、どんな曲なんだろうって思うよ。

環ロイ:こんだけ言ってたらね。

でも、逆に言うとハードル上げてるよ。

環ロイ:上げてるね。なんだたいして過激じゃねぇじゃんってなるよね。

そんなに過激じゃないってことは言っといたほうがいい。

環ロイ:そこまで過激ではない。"任務遂行"でゴチャゴチャ言ってわかりやすくして、後半はもっと広い世界があるよって示唆してる。で、(七尾)旅人くんとやったケツの曲で次につながるっていう感じなの。意外とそうやってコンプレックスを浄化していく作業でもある。まあ、いろんな奴が聴いてくれたら、それでいいのかもね。しかも、あのジャケでさ。

あのジャケっていうのは?

環ロイ:曽我部恵一さんみたいな。

これは自分で提案したんだ。

環ロイ:してない。ああなっちゃった。「おめぇらできねぇだろ」ぐらいやったほうがいいんじゃねぇみたいな。

その対抗心、わかりにくいなぁ。

環ロイ:(坂井田)裕紀くん(ポップグループのオーナー)が俺を説得するために言っていたことだけどね。アンダーグラウンドのラッパーはジェケで顔を隠した写真を使ったりするから。

現実問題として顔を撮られたくないんだろうね。

環ロイ:そうだね。そっちのほうがでかいかもね。

そっちのほうがでかいと思う。

環ロイ:じゃあ、顔写真をジャケにすんなよってなるじゃん。

あれは「俺は顔を出せない」ってアピールなんじゃない。たぶん。

環ロイ:ああ、不良アティテュードなんだ。

だと思うよ。

環ロイ:へぇー。あんまり意識してなかった。それ、カッコイイな。でも、キッズ的にはカッコイイけど、資本主義社会システムのなかだとただのはぐれ者でしかないじゃん。

ヒップホップははぐれ者が生きられる世界でもあるんだから。

環ロイ:全然生きられてないよ。それができてないのは......。

そういう人たちだけの責任だとは思わないけどね。

環ロイ:それ、さっき俺が言ったじゃん。

言ったっけ?

環ロイ:言ったよ。システムは俺ら全員で作っているからさ。アメリカに戦争で負けたからって話につながるじゃん。

戦争の話はよくわからないけど、MSCやベスやシーダの音楽はこのままの社会システムでいいのか?って注意を喚起したよね、結果的に。

環ロイ:俺はそういう考え方があまりなかったから。

前に環くんにインタヴューしたとき、彼らと違うリアリティを表現したいと思わない?って訊いたの覚えてる?

環ロイ:覚えてない。そしたら?

「金持ちを相手にしたいなー」って(笑)。

環ロイ:それは、ああいう人たちより育ちがいいから、できないんだよ。

育ちが良くても社会との軋轢は生じるでしょ。

環ロイ:あるね。でも俺はシステムに順応したフリをしてハッキングしたほうがカッコイイって思うんだよ。そのほうが訴える絶対数も増えると思うし。だから、俺のほうがカッコイイじゃんって思ってるよ。それしかできないんだけどさ。

体制に忍び込んで反体制的なことを表現していると。

環ロイ:そういうつもりでやってるよ。

そこまではわかんなかった。

環ロイ:アウトロー文脈じゃ、やっぱ勝ち目ねぇしさ。そういう人間でもないし。むしろ溶け込む。バイトしてた時、普通にしてても明らかに浮いてたけどね。

溶け込めなさそうだよね。

環ロイ:溶け込んでいる風にできるから。クレバもハッカーだと思うし。

どこらへんが?

環ロイ:USのヒップホップの手法を織り混ぜていく感じとか。

また話が戻って来ちゃった。

環ロイ:〈横浜アリーナ〉のライヴでエフェクターの説明してたじゃん。あんなの普通に生きていたら、なかなか聞けないよ。2万ぐらいで買える機材でこんなに楽しいことができるって教えるのは、あの人じゃないとできない。

なるほど。それなら音楽に合わせてそれぞれがもっと自由に踊っていいんだよっていうメッセージのほうが重要だと思った。みんなが同じように手を振る一体感はやっぱり違和感あったよ。

環ロイ:クレバの判断上、それをやっても効果はそんなに望めないって思ったんじゃねぇかな。よりポップな選択をしたんだよ。二木が言うような啓蒙はクリティカルだけど、クレバは自由に動いていいよって言われてもわかんねぇっていう奴のほうが多いと思ったんでしょ。より多くの人に伝わる選択をしたんだよ。そこは急に求めんなよってことだよ。みんな、じょじょに頑張ってるんですよ。だって、パラパラがこの間まで流行ってたんだぞ。そういう現実があるよ。あんな大勢の人間にコミットできるクレバは二木より考えてるんだよ。

多くの人にコミットできているのはすごいことだと思う。

環ロイ:考えの賜物だと思うから。

でも、多くの人にコミットできている人がすごいって論理でいくと、売れている人がいちばんって話になっちゃうから。

環ロイ:っていう論理もあるじゃん。

それは資本主義の論理だから。

環ロイ:だって資本主義の社会じゃん。それは学歴社会みたいなもんで、ひとつの評価軸になることは否めない。

否めないとは思うよ。

環ロイ:それでいいじゃん。

だから、資本主義は絶対じゃないから。

環ロイ:もちろんそうだよ。

そもそも俺は売れているとか売れていないとかはどうでもいい。そういう評価基準で音を聴いてないから。売れている云々とは別のところで俺なりにクレバの音楽に思うところがあるというだけの話だよ。

環ロイ:ムカつくな。俺の大好きなクレバに対して。俺にとっては唯一ヘッズに戻させてくれるラッパーだから。

『心臓』はかなり聴いたし、大好きだよ。でも、ライヴには素直に乗れなかった。環くんはあの場にいて、心底燃えた?

環ロイ:楽しいよ。多くの人間にコミットできているラッパーの数が少ないからっていう、さっきの評価軸による力が大きいとは思う。それでいて、ラップの内容はハードコア・ラップじゃん。ファンキー・モンキー・ベイビーズに比べたら、ヒップホップっていう文脈のなかから出て来た人のラップだよ、やっぱ。音楽やってる人はみんなクレバ好きだよ。簡単に言っちゃうと、あの人はセンスいいんだよね。国内で音楽やっている人がぶつかる何かしらの壁に対しての壊し方なのか、いなし方なのか、その手法のセンスがいい。ハッカーってそういうことだよ。あの人こそ言わないだけで、日本語ラップ・シーンを超意識しているよね。ヒップホップであるっていうことにも超意識的だしね。

 今回の取材にはここには書き切れない長い後日談がある。が、それについていまは言うまい。僕が環ロイの音楽を聴いて何を言おうが書こうが自由だし、環ロイがそれに対して異議を唱えるのももちろん自由だ。また、当然のことながら、読者の方々がこの記事を読んでどんな意見を持ち、発言しようとまったくの自由なのである。そして、当たり障りない提灯記事を読みたいか、正直な意見や感想が記された記事を読みたいか、その判断は最終的に読者に委ねられている。僕が環ロイの取材を通して、いま、最後に言いたいのはそれだけだ。

トクマルシューゴ - ele-king

 自分の部屋でずっと夢想していただろう風景をやっと手中に収めたね、おめでとう! というのがぼくの率直な感想。『ポート・エントロピー』は、自分で用意したたくさんの楽器/非楽器をひとりオーヴァーダビングしながらドリーミーな風景を構築していくトクマルシューゴの、2年半ぶりとなる4枚目のフル・アルバムだ。朝日新聞ではコラム連載、NHKテレビでは特集が組まれ(クリエイティヴな発言が多数ありました)、海外でも高い評価を受けるなど、いまや国際的アーティストとして注目を集めているトクマルだが、自身も初めて「自信作かな」と語るほどのキャリア最高の傑作の誕生だ。

 初期の作品はフランスのトイ・ポップ、ブライアン・ウィルソン、ジョン・フェイヒィ、ガスター・デル・ソル、ミュージック・コンクレートといった数々のキーワードが「ベッドルーム・サウンド」という名の下に混在していたが、もはやそれらはトクマルシューゴの手癖というか、ブランドとしてスタンダードになったように思える。新作は世のなか(とくにブルックリン)のモードとも同時代的にリンクしながら、さらに評価されることだろう。ちなみにマスタリングはボブ・ディランやノラ・ジョーンズ、MGMTなどを手掛けたニューヨーク在住のグレッグ・カルビが担当。厳選された音数(アルバムで使用された楽器の数自体はこれまででもっとも多い)、その配置と鳴り、メロディとハーモニーの構築など、磨き抜かれた質の高さにも舌を巻くが、そこで描かれているファンタジーが素晴らしい。まるで自分がトクマルシューゴの箱庭の住人になったかのような錯覚に陥ってしまう。

 初期の作品で描かれていた風景は、どちらかと言えばトクマルの脳内を覗いているような感覚があった。新作は彼がCDの中に箱庭をつくった、そんな感じだ。ここには以前より鮮明に具体化された風景が広がっている。森の奥で木々も小人たちもおもちゃもみんな唄い踊ってるような......そう、絵本やファンタジー映画、ブリティッシュ・トラッドなどに登場してくるケルトの森のような。先にリリースされたEP「Rum Hee」で描かれていた空想的な世界に繋がる話が12編用意されていると思ってもらえばいい(トクマル自身は「Rum Hee」を"宇宙でイカが飛んでるイメージ"と言っていたが......笑)。取材でトクマルはこの新作の全体像について、「孤児院の子供たちが無邪気に遊んでるイメージ、そういうのは裏の裏の裏くらいにコンセプトとしてある」と語っていたが、チャイルディッシュなかわいさと同時に残酷なもの哀しさを孕んだお話という部分では、世間でも囁かれているようにグリム童話のような世界が音で描かれているとも言えそうだ。

 さしづめ、「ベッドルームの夢想家」あらため「音で綴る童話作家」というところだろうか。いずれにせよ、どんな曲解も許容するような強度と余白が、この作品にはある。

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