「S」と一致するもの

Amyl and The Sniffers - ele-king

 21世紀も20年以上が経過した現在、20世紀の遺物のひとつであるパンク・ロックをやることも、楽しむことも、それが生まれて間もないおよそ45年前の記憶を有する老人からすると、これがなかなか素直にはなれなかったりする。ぼくが10代の頃のパンク・ロックの現場には、起きてはならないことが起きてしまうかもしれないというあやうさがあり、これは90年代初頭のクラブやレイヴ・カルチャーにあっていま失われてしまったものでもあるのだけれど、だから、そう、いかなる革命的なジャンルも時間のなかで経験することなのだ。パンク・ロックなるものの享受の仕方のおおざっぱな公式がずいぶん前にできあがり、ある程度そこで起きることがわかってしまっていることは仕方あるまい。と、こんな面倒なことを思考している老人の前で、メルボルンからやって来たパンク・バンド、アミル・アンド・ザ・スニッファーズは、パンク・ロックがいまもなお意味があり、いや、むしろいまこそやってやるといわんばかりの強烈なパンチを食らわしたというわけである。
 エイミー・テイラーは、たしかにボクサーのように小刻みに動き、動き回り、飛びはね、舌を出して、倒れ込み、いやもう、とにかく動きっぱなしなのだが、しかもその動きにコミカルさを忘れることもない。そこに疲れ知らずのザ・スニッファーズの演奏(ドラム、ベース、ギター)が連動し、いままで何万回も聴いてきたおなじみのパンク・サウンドに新たな生命力が吹き込まれるのだ。正直に言うが、ぼくは最初の2曲を聴いただけでこのライヴが最高のものであることがわかった。結局のところ、敢えてこういう言い方をすることを許して欲しいのだれど、負け犬、落ちこぼれ、冴えない人たち、喧嘩も弱いだめ人間……こうした、35年前よりはさらに疎外されている人たちの自尊心に火をつけるのは、パンク・ロックのような敷居が低いフリークス歓迎の音楽なのだろう。ザ・スニッファーズの面々のたたずまいは、いつの間にかファッショナブルになったインディ・シーンとは別世界の住人たちのようでもあり、彼らはぼくのなかのパンク愛を引き出し噴出させるには十分なロケット発射めいた演奏を繰り広げる。これぞ(ぼくにとっては)望外の僥倖というやつだ。パンク・ロックは生きている。

 露出の多い服装やセクシャリティを強調する服装を着る女性に対しての「(性暴力に遭うのは)そんな格好するからだ」という男の声に抗する表明として、私らはただ自分たちが好きな服装をしているだけと、「スラット・ウォーク」は、2011年にカナダではじまり、ほとんどの先進国に広まった女性運動のひとつである。ビキニ・トップで腰に布を巻いただけの格好を好むエイミー・テイラーがこの動きに(意識的かどうかは知らないが)リンクしているのは明らかだし、その堂々たる様がこのバンドを21世紀のパンク・ロックとして見せていることもハズれではないだろう。だからオーディエンスのなかに日本人女性が目立っているのは当然のことだと思うのだけれど、この日のライヴはぼくがいままで日本で見てきたライヴのなかで際だって日本人以外の人たちの割合が多く感じられた。早い話、どこの国のライヴだというくらいの光景だったのだ。まあ、これもまたこの10年、与党のとってきた政策がもたらした一場面であり、これが標準化されるのも遠い未来のことではないのだろうけれど、いや、誤解しないで欲しい。ぼくはアホな人間ではあるが、エリック・クラプトンやモリッシーのようにはならない自信くらいはある。ただ、いまもっともパンクが必要なのが日本で生まれ育った人たちなのは間違いないのだから、もっと多くいてもよかった。少しは元気になれただろうし、アミル・アンド・ザ・スニッファーズは、すべてのオーディエンスを釘付けにしたおよそ1時間のステージのなかで、パンクが得意とする憤怒とあの奔放な喜びをがっつりと表現したのだから。

K-PUNK 夢想のメソッド──本・映画・ドラマ - ele-king

マーク・フィッシャー評論選集
文学/映画/ドラマ編

 私たちの生をむしばむ、政治的、心理的、対外的、対内的な抑圧に立ち向かい、聡明で、常に燃え続け、獰猛な激しさをもって今日における「失われた未来」を調査し、知性を磨く努力を怠らなかった思想家、マーク・フィッシャー。21世紀でもっとも重要な政治的テクストであり、すべての人にとっての必読書『資本主義リアリズム』を上梓し、1979年以降の資本主義が独自の「リアリズム」様式を押しつけ、それが左派リベラルにおいても内面化されていることを暴きながらも、社会主義という、いまとなっては「リアリズム」を喪失した大義を捨てずに思考し続けた批評家。スラヴォイ・ジジェク、ラッセル・ブランド、オーウェン・ジョーンズらが絶賛し、マーク・スチュアートベリアルをはじめ多くのミュージシャンに刺激を与えた思想家。
 ポスト左翼がブレグジットに直面した際に、旧来の左翼の惰性を非難し「右傾化」することが「大人」だとされたときも、マーク・フィッシャーはその惰性をどうしたら脱却できるのかと向き合い、安易な「右傾化」に同調することもなかった。
 アカデミックになることなく、つねにポピュラー・ミュージックや映画、大衆文学を出発点としながら大衆迎合主義に陥ることも回避しつづけてきた知性の、彼の人気を決定づけた原点にしてすべて──それが彼の伝説のブログ『K-PUNK』だった。
 その『K-PUNK』から精選されたコレクションが全三冊に分けられ、ついに翻訳刊行される。まずはその第一弾は「文学/映画/ドラマ編」。序文はサイモン・レイノルズ。
 幸いなことに、こうして私たちは彼の文章に立ち返ることができるし、その文章のなかには、情熱的で、たとえどんなに悲観的になろうとも、未来を諦めてはいないマーク・フィッシャーがつねにいるのだ。

本書に登場する作家や作品など:
カフカ、W・S・バロウズ、J・G・バラード、スティーヴン・キング、マーガレット・アトウッド、パトリシア・ハイスミス、デイヴィッド・ピース、トニ・モリスン、カズオ・イシグロ、リチャード・マシスン、クリストファー・ノーラン、デヴィッド・クローネンバーグ、『スター・ウォーズ』、『シャイニング』、『ブレイキング・バッド』、『トイ・ストーリー』、『ウォーリー』、『バットマン』、『ターミネーター』、『アバター』、『ハンガー・ゲーム』、ブライアン・フェリー、ジョイ・ディヴィジョン、ほか多数

マーク・フィッシャーの『K-PUNK』ブログは一世代の必読書だった。 ──『ガーディアン』
誰にとっても理にかなった新しい世界を発明するための不可欠なガイドブックである。 ──ホリー・ハーンドン(電子音楽家)
フィッシャーは、この時代のもっとも信頼できるナヴィゲーターである。 ──デイヴィッド・ピース
今世紀、これほど興味深い英国人作家は現れていない。 ──『アイリッシュ・タイムズ』
21世紀の文化批評の書き方の入門書。 ──『LA レビュー・オブ・ブックス』
当代の文化は、公衆的なるものの概念および知識人の姿、その双方を排除してしまった。かつて──物理的/文化的の両面で──公共の場だったものは、いまや遺棄されたか、広告の植民地と化している。阿呆な反知性主義が支配し、それに声援を送る多国籍企業に雇われた私立高学歴の売文家は、退屈した読者に対し、あなたがたはわざわざ相互受動的な朦朧状態から目覚める必要はありません、と安心させる。後期資本主義の文化労働者によって内面化され、広められた非公式の検閲は、スターリン主義のプロパガンダ長官すら人々に強制できたらどんなに素晴らしいだろうと夢見るほかない、陳腐な順応主義を生み出す。(本書より)

序文 (サイモン・レイノルズ)
編者からのはしがき (ダレン・アンブローズ)
なぜKか?

第一部
夢を見るためのメソッド:本

本のミーム
空間、時間、光、必要なもののすべて──『J・G・バラード特集』(BBC4)についての考察
私はなぜロナルド・レーガンをファックしたいのか
移動遊園地の色鮮やかなスウィング・ボート
退屈の政治学とは?(バラードのリミックス2003)
あなたのファンタジーになりたい
ファンタジーの道具一式:スティーヴン・マイゼルの「非常事態」
J・G・バラードの暗殺
不安と恐怖の世界
リプリーのグラム
夢を見るためのメソッド
アトウッドの反資本主義
トイ・ストーリーズ:あやつり人形、人形、ホラー・ストーリー
ゼロ・ブックスの声明

第二部
スクリーン、夢、幽霊:映画とテレビ

ひとさじの砂糖
あの人は僕の母さんじゃない
ナイジェル・バートン、起立しなさい
ポートメイリオン:理想の生き方
ゴルゴタの丘の唯物主義
この映画じゃ僕は感動しない
第三帝国ロックンロールの恐怖とみじめさ
我々はすべて欲しい
ゴシックなオイディプス王:クリストファー・ノーランの『バットマン ビギンズ』における主体性と資本主義
夢を見るとき、我々は自分たちをジョーイだと夢見るのか?
クローネンバーグの『イグジステンズ』の覚書
撮影したから自分で思い出す必要はない
マルケルの幽霊と第三の道のリアリティ
反アイデンティティ政治
「あなたは昔からずっとここの管理人です」:オーバールック・ホテルの幽霊的空間
カフェ・チェーンと捕虜収容所
理由なき反抗
廃墟のなかの歴史家ロボット
『マイク・タイソン THE MOVIE』評
「彼らは彼らの母親を殺した」:イデオロギーの症状としての『アバター』
雇用不安と父権温情主義
贈り物を返品すること:リチャード・ケリーの『運命のボタン』
社会への貢献
「とにかく気楽に構えてエンジョイしましょう」:BBCに登場した被投性
『スター・ウォーズ』は最初から魂を売り飛ばしていた
ジリアン・ウェアリングの『Self Made』評
バットマンの政治的な右派転向
敵は誰かを思い出せ
善悪の彼岸:『ブレイキング・バッド』
階級の消えたテレビ放送:『Benefits Street』
味方してしまう敵:『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』
手放す方法:『LEFTOVERS/残された世界』、『ブロードチャーチ 〜殺意の町〜』、『ザ・ミッシング 〜消えた少年〜』
英国風刺の奇妙な死
『ターミネーター:新起動/ジェニシス』評
名声が建てた家:『セレブリティ・ビッグ・ブラザー』
アンドロイドを憐れんで:『ウエストワールド』のねじれた道徳観

索引

[著者プロフィール]
マーク・フィッシャー(Mark Fisher)
1968年生まれ。ハル大学で哲学の修士課程、ウォーリック大学で博士課程修了。ゴールドスミス大学で教鞭をとりながら自身のブログ「K-PUNK」で音楽論、文化論、社会批評を展開する。『ガーディアン』や『ワイアー』に寄稿しながら、2009年に『資本主義リアリズム』を発表。2014年に『わが人生の幽霊たち』を、2016年に『奇妙なものとぞっとするもの』を上梓。2017年1月、48歳のときに自殺。邦訳にはほかに講義録『ポスト資本主義の欲望』がある。

[訳者プロフィール]
坂本麻里子(さかもと・まりこ)
1970年東京生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。ライター/通訳/翻訳者として活動。訳書に『バンドやめようぜ!』『アート セックス ミュージック』『エイフェックス・ツイン、自分だけのチルアウト・ルーム』『この灼けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも』『レイヴ・カルチャー』『ザ・レインコーツ』『ヴァイナルの時代』『自転車と女たちの世紀』ほか。ロンドン在住。

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山上徹也への応答を起点に「弱者男性」論を問い直す
「弱者男性」論の第一人者による名著、渾身の書き下ろしを加えて復刊!

恋愛/性体験、収入の格差や労働のつらさ、社会的地位の低さ、強要される「男らしさ」といった、現代男性をめぐる生きづらさについて真摯に考察し、2016年に刊行され大きな話題を呼んだ『非モテの品格』(集英社新書)。

この名著がオリジナルの10万字に9万字の大幅増補を加えて復刊!
山上徹也容疑者への応答を起点として「弱者男性」論をあらためて考え直す集大成!

目次

増補改訂版・まえがき

第一章 男にとって弱さとは何か?
自分の弱さを認められない、という〈弱さ〉/男たちの自己嫌悪──フェミニストたちの死角/男性は女性よりも自殺しやすいのか?/「男性特権」を自己批判する、その先へ/男性たちは自分の性愛を語ってこなかった/「男の子」に産んで申し訳ない、という気持ち/メンズリブを再起動する/男であることのアポリア

第二章 男のルサンチマンについて──非モテの品格?
雇用・労働問題とジェンダー構造/男性たちのアイデンティティ・クライシス/マジョリティ男性たちのねじれた被害者意識/男性たちの非正規雇用問題/正規vs.非正規という「にせの対立」/「非モテ」とは何か?/「誰からも愛されない」ということ/非モテの三類型/性的承認とアディクション/男の厄介なルサンチマン問題/ニーチェとルサンチマン/つらいものはつらい。淋しいものは淋しい。/ルサンチマンをさらに掘り進める/男の自己批判(私語り)の危うさ/開かれた問い直しへ/「草食系男子」への大いなる誤解/承認欲求・自己肯定・自己尊重/

補論① 認められず、愛されずとも、優しく、幸福な君へ

第三章 男にとってケアとは何か──クィア・障害・自然的欲望
ケアワーカーたちがケアを必要とする/「依存」は例外ではない/子育ての不思議さ/「一緒に頑張ろう」/ALSの青年のケア経験/ケアが社会化されていく/日常的な風景を「見る」ということ/内なる弱さに向きあう、という怖さ/歪んだ支配欲を見つめる/子どもの看病の経験から──弱いのはどちらか/ある自閉症の青年とそのお母さん/障害者支援の歴史から学んだこと/生きること、遊ぶこと、働くこと/ただの〈男親〉になるということ/自分の欲望を学び直す─脳と神経/寄り添われて眠るという経験/産む行為の重層性/「植物人間」とは誰のことか?

補論② 弱く、小さき者から

集英社新書版・あとがき

第四章 弱者男性たちは自分を愛せるか──インセル論のために
「弱者男性」をあらためて問い直す/インセルのグローバルな氾濫/叛乱?/覚醒するインセルたち?/インセルにとって自己愛とは何か/残余/残りものとしての弱者男性たち/欲望をめぐる政治というラディカルなセルフラブ/「巨大なブルシット」としてのニヒリズム/インセルライト/インセルレフト/インセルラディカル/男性内格差の問題/ポスト男性学的なジレンマをめぐって/ラディカルな無能さのリブに向けて/男たちも自分を愛して良い!

第五章 男性たちは無能化できるか──水子弁証法のために
承認/再分配/政治/差別論と能力主義のジレンマ/現代のプレカリアートたちの交差的な階級政治/ポスト資本主義的な欲望/メンズリブ的なメランコリーと向き合う/ギレルモ・デル・トロの「怪物」たち/男性たちの「ぬかるみ」/メリトクラシーと男性の無能性/ハイパーメリトクラシー/男性たちの無能弁証法/無能な者たちのストラグル──『火ノ丸相撲』/水子弁証法とは何か

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Tirzah - ele-king

 これは絶対に必聴、2023年の聴き逃せないアルバムの1枚だ。私たちele-kingが2021年の年間ベスト・アルバム第1位に選出した前作『Colourgrade』からはや2年。独特のサウンドでポップ・ミュージックを更新する当代随一のシンガーソングライター、ティルザが3枚目のフルレングスを引っ提げて帰ってきた。
 プロデューサーはこれまで同様、幼いころからの友人にしてUKアンダーグラウンドのキイパースンたるミカ・リーヴィ(ミカチュー)。すでに配信では解禁されており、その特異なプロダクションを試し聴きできます。リリック面では、現実の愛と想像上の愛というのがテーマになっている模様。CD/LPの発売は11月17日。すばらしいふたりの才能による新たな試みを聴き逃してはいけない。

Tirzah
エクスペリメンタル・ポップ・アーティスト、ティルザが
ミカ・レヴィをプロデューサーに迎えた最新作『trip9love…???』を突如リリース!
11月にはCDとLPでも発売決定!

インディー~R&B~エレクトロニック~エクスペリメンタルとジャンルを横断する独自のスタイルで高く評価を集めるティルザ(Tirzah)が、ミカチュー名義でも活躍し、映画『アンダー・ザ・スキン』や『ジャッキー』を手がけた映画音楽家としても知られるミカ・レヴィをプロデューサーに迎えた最新作『trip9love…???』をリリースした。11月17日にはCDとLPでも発売が予定されている。

配信リンク >>> https://tirzah.ffm.to/trip9love

このアルバムは、二人の自宅スタジオとロンドン南東部およびケント州のさまざまな場所で書かれ、レコーディングされた。およそ1年かけて何度かレコーディング・セッションを行った後、ついに彼らが追い求めたい思うサウンドが輪郭を表したという。収録された楽曲は、一つのビートの上にピアノのループを乗せ、ディストーションを加え、ロマンティックなヴォーカルの主旋律を使って作られた。詩は、現実と想像の両方の愛をテーマにしている。スピード感、つながり、類似性から、このレコードは1曲のように感じられ、ある瞬間の日記のようでもあり、1つのサウンドに魅了され、それにしたがって進むことが重要だったという。『trip9love…』の作品性は、そういった制作状況そのものが反映されている。

label: Domino
artist: Tirzah
title: trip9love...???
release: [Digital] 2023.09.05 [CD/LP] 2023.11.17

配信リンク:
https://tirzah.ffm.to/trip9love
予約リンク:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13649

CD

通常盤LP

限定盤LP

Locate S,1 - ele-king

 ジョージア州アセンズ出身でニューヨークを拠点に活動しているロケイト・S,1ことクリスティーナ・シュナイダーの魅力はなんといってもポップなメロディにあるだろう。空間に溶けていくかのような柔らかく陽光なヴォーカル・メロディ、〈Caputured Tracks〉からの最初のリリースとなった前作は共同プロデュースを務めたのがケヴィン・バーンズということもあってオブ・モントリオール色の強いアルバムだったが、セルフ・プロデュースとなる今作はそれ以前の活動でもあるCE・シューナイダー・トピカル時代の雰囲気がある。ブランシュ・ブランシュ・ブランシュのザック・フィリップスと組んで活動していた時期のCE・シュナイダー・トピカルは夢見心地に儚く漂うヴォーカルとDIYのセンスあふれるアレンジ(彼女は日本のマヘル・シャラル・ハシュ・バズが好きだと言っていたが、確かに影響があるように思える)が特徴だったが、この2ndアルバムではその影を残したまま、時代がかったインディ・ポップと呼べるような雰囲気を基調にゆるやかにジャンルを横断する。

 カントリー風のオープニング・トラック “You Were Right About One Thing”、リラックスしたボサノヴァ風味の “Go Back To Disnee”、70年代のソフト・ロックを思わせる “Pieta”、ザック・フィリップスと共作したという “Daffodil” はやはり一番CE・シューナイダー・トピカルに時代に近い曲で、ラフでねじれた桃源郷を演出する。そうして60年代のフィル・スペクターの黄金ポップスのようなタイトル・トラック “Wicked Jaw” で締めるのだ。バラバラのジャンルの曲がひとつのアルバムとして成立しているのはやはり彼女のヴォーカルの力が大きいのだろう。変化するジャンルのサウンドの上に、柔らかくわずかに憂いを帯びた彼女の声が最後まで続くひとつの道を作り上げている。大げさでわざとらしくなるような一歩、あるいはニ歩手前で。そうしてその陽光のメロディの中に社会を見つめる目線と小さな悲しみを混ぜ込むのだ。

 ノスタルジックでありながら、そこに留まることを良しとしない “Go Back To Disnee” のライン。「私たちは本当のアメリカに暮らしていなかった/ディズニーに戻ろう、宮殿の階段に/存在しなかった隠された場所に戻ろう」。リラックスしたとろけるようなボサノヴァ調の曲の中でクリスティーナ・シュナイダーは作られた幻想を否定するようなニュアンスをそっと忍び込ませる。スペルの違う、ズレた世界のディズニー・ノスタルジア、甘さの中の苦味、それが楽曲をより魅力的なものにする。
 あるいは “You Were Right About One Thing” のビデオで見せるような人間の側面を演じる極端なペルソナがギャップを生み出し表現に違ったニュアンスを与える。このビデオにはマリリン・モンロー風のクラシック・スタイルの女性にマフィアの男、70年代のクライム・サスペンス風の装いの女が登場するが、その全てを同じ人物(クリスティーナ・シュナイダー)が演じそしてそれが同時に存在する。それはあたかもひとりの人間、あるいはひとつの出来事が抱える複雑性を表現しているかのように思える。

 シュナイダーは曲作りについて「美しさは闇と痛みを浮き彫りにして、それをよりはっきりと見えるようにする」と語っているがこのアルバムはまさにそうしたコンセプトが遺憾なく発揮されたアルバムだろう。幼少期のトラウマ、パンデミックで混迷するアメリカ、それらの暗い影がとろけるような陽光のメロディの中で語られて、その表現の中で一面的ではない他の側面をにじませるのだ。明るいインディ・ポップの楽曲はひそやかにねじられて、さりげなく積まれたらレイヤーがふとした瞬間に重なり透ける。30分強のボリュームの聞きやすさの中にニュアンスが溶けるこのアルバムはその時々で様々な顔を見せてくれる。心地よく、少しだけ居心地が悪い、なんとも不思議な感覚だ。

PHAROAH SANDERS - ele-king

MILTON MARSH - ele-king

MTUME UMOJA ENSEMBLE - ele-king

SAHIB SHIHAB + JEF GILSON - ele-king

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