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Locate S,1

Indie Pop

Locate S,1

Wicked Jaw

Captured Tracks

Amazon

Casanova.S Sep 06,2023 UP

 ジョージア州アセンズ出身でニューヨークを拠点に活動しているロケイト・S,1ことクリスティーナ・シュナイダーの魅力はなんといってもポップなメロディにあるだろう。空間に溶けていくかのような柔らかく陽光なヴォーカル・メロディ、〈Caputured Tracks〉からの最初のリリースとなった前作は共同プロデュースを務めたのがケヴィン・バーンズということもあってオブ・モントリオール色の強いアルバムだったが、セルフ・プロデュースとなる今作はそれ以前の活動でもあるCE・シューナイダー・トピカル時代の雰囲気がある。ブランシュ・ブランシュ・ブランシュのザック・フィリップスと組んで活動していた時期のCE・シュナイダー・トピカルは夢見心地に儚く漂うヴォーカルとDIYのセンスあふれるアレンジ(彼女は日本のマヘル・シャラル・ハシュ・バズが好きだと言っていたが、確かに影響があるように思える)が特徴だったが、この2ndアルバムではその影を残したまま、時代がかったインディ・ポップと呼べるような雰囲気を基調にゆるやかにジャンルを横断する。

 カントリー風のオープニング・トラック “You Were Right About One Thing”、リラックスしたボサノヴァ風味の “Go Back To Disnee”、70年代のソフト・ロックを思わせる “Pieta”、ザック・フィリップスと共作したという “Daffodil” はやはり一番CE・シューナイダー・トピカルに時代に近い曲で、ラフでねじれた桃源郷を演出する。そうして60年代のフィル・スペクターの黄金ポップスのようなタイトル・トラック “Wicked Jaw” で締めるのだ。バラバラのジャンルの曲がひとつのアルバムとして成立しているのはやはり彼女のヴォーカルの力が大きいのだろう。変化するジャンルのサウンドの上に、柔らかくわずかに憂いを帯びた彼女の声が最後まで続くひとつの道を作り上げている。大げさでわざとらしくなるような一歩、あるいはニ歩手前で。そうしてその陽光のメロディの中に社会を見つめる目線と小さな悲しみを混ぜ込むのだ。

 ノスタルジックでありながら、そこに留まることを良しとしない “Go Back To Disnee” のライン。「私たちは本当のアメリカに暮らしていなかった/ディズニーに戻ろう、宮殿の階段に/存在しなかった隠された場所に戻ろう」。リラックスしたとろけるようなボサノヴァ調の曲の中でクリスティーナ・シュナイダーは作られた幻想を否定するようなニュアンスをそっと忍び込ませる。スペルの違う、ズレた世界のディズニー・ノスタルジア、甘さの中の苦味、それが楽曲をより魅力的なものにする。
 あるいは “You Were Right About One Thing” のビデオで見せるような人間の側面を演じる極端なペルソナがギャップを生み出し表現に違ったニュアンスを与える。このビデオにはマリリン・モンロー風のクラシック・スタイルの女性にマフィアの男、70年代のクライム・サスペンス風の装いの女が登場するが、その全てを同じ人物(クリスティーナ・シュナイダー)が演じそしてそれが同時に存在する。それはあたかもひとりの人間、あるいはひとつの出来事が抱える複雑性を表現しているかのように思える。

 シュナイダーは曲作りについて「美しさは闇と痛みを浮き彫りにして、それをよりはっきりと見えるようにする」と語っているがこのアルバムはまさにそうしたコンセプトが遺憾なく発揮されたアルバムだろう。幼少期のトラウマ、パンデミックで混迷するアメリカ、それらの暗い影がとろけるような陽光のメロディの中で語られて、その表現の中で一面的ではない他の側面をにじませるのだ。明るいインディ・ポップの楽曲はひそやかにねじられて、さりげなく積まれたらレイヤーがふとした瞬間に重なり透ける。30分強のボリュームの聞きやすさの中にニュアンスが溶けるこのアルバムはその時々で様々な顔を見せてくれる。心地よく、少しだけ居心地が悪い、なんとも不思議な感覚だ。

Casanova.S