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Blanche Blanche Blanche

Indie Rock

Blanche Blanche Blanche

Fiscal, Remote, Distilled

la Loi

Casanova.S   Apr 13,2022 UP

 リメイク、リイシュー、リコンストラクション。ブランシュ・ブランシュ・ブランシュの最新作、『Fiscal, Remote, Distilled』はオリジナル・アルバムではなく過去に発表した曲をアレンジしアルバムとして再構成したものだ。リイシューではなくリメイク、そのまま出すのではなくいまの時代の感性で作り直す。いつの時代もリメイク作品はあったのだろうけど、映画にしても漫画にしても最近は盛んにリメイク作品が作られているような気がする。それはインターネットによって過去が近くなったこととも無関係ではないのかもしれない(現代に生きる僕たちは YouTube やその他もろもろのサブスクリプション・サーヴィスでいともたやすく過去に触れられる)。
 だけどいま、リメイクについて考えようとするとまず出てくるのはゲームだ。「ドラゴンクエスト」に「ファイナルファンタジー」、「サガ フロンティア」、スクウェア・エニックスの代表的なゲームはナンバリングに外伝まで数多くのタイトルがリメイクされている。たとえばSFCで出た「ドラクエV」がPS2でリメイクされ3Dに作り直された後にDSリリース時に再びドット絵に戻され、それをベースに今度はスマホ版が作られるという具合に(「ポケモン」だってリメイクの発表のたびに大いに盛り上がる)。基本的にはその時代で流行しているハードに合わせてプレイできるようにと移植して、そこに新要素が加わる形だ。たとえば例にあげた「ドラクエV」ではDS版で「はなす」システムが加わったことによって……と、どんどん話がズレていきそうなのでこの辺りでやめておくが、重要なのはリメイクすることによってそこに新たな視点が付け加わるという点だ。ここがリイシューや単なる移植と決定的に違う。30年前のゲームには30年間の感性が、20年前には20年前の魂が宿っていて、その距離を感じながら現代に生きる僕らはプレイする。それだけならきっと一度プレイしたゲームを積極的に手に取ることはないのだろうが、リメイク版には画面の綺麗さ以上の新たな要素が付け加えられる。そして新たに加わえられた要素とは、つまりいま現在の制作者の意図やメッセージが反映されたもので、それがあるからこそ安定した出来が保障されているという以上の魅力が生まれるのだ。それがきっと良いリメイク作品というものだろう(たとえ失敗したとしてもそこに制作者の考え方が表れる)。過去の素晴らしさと現在の価値観があわさって、同じ話の筋でもまったく違った印象の物語が生まれる。ゲームのリメイク作品にRPGが多いのもきっと偶然ではないのだろう(考えてみたらスポーツゲームのリメイク作品はほとんどない)。僕らはそれがどんな意味を持っていたのかと再び確認し、そしていまどんな感情になるのか期待に胸を膨らませるのだ。

 話をブランシュ・ブランシュ・ブランシュに戻そう。この最新作『Fiscal, Remote, Distilled』は彼らが2011年から2014年にかけて大量に発表したアルバムの中から曲を選んで再構成したアルバムだ。いわゆるベスト・アルバムではなく新しくアレンジを施し、曲の印象をがらりと変えたアルバム。特徴であったローファイさや乱雑さはほとんどなくアルトサックスが鳴り響くモダンでジャジーなイメージの曲が13曲。それはジーンズにサンダル履きから、スーツをラフに着崩したスタイルに変化したみたいなもので、正直ブランシュ・ブランシュ・ブランシュはこんなプロジェクトだったのかと驚いた。ブランシュ・ブランシュ・ブランシュはこんなにも軽やかで身体を感じさせるような生々しいユニットだったのだろうか? いやそもそも元々のブランシュ・ブランシュ・ブランシュとはいったいどんなプロジェクトだったのか? それについて再び考えなければいけないのかもしれない。

 ブランシュ・ブランシュ・ブランシュはアメリカ、バーモント州ブラトルボロを拠点にスタートしたザック・フィリップスとサラ・スミスのふたりのユニットで、ブランシュ・ブランシュ・ブランシュとしてのリリースは2011年に〈Night People〉から出たカセットテープ『Songs of Blanche Blanche』がその最初になる。そこから2014年までに一気呵成に9枚ものアルバムをリリースした。同時にザック・フィリップスは2007年から〈OSR Tapes〉という主にカセットテープを取り扱うレーベルをスタートしそこでメガ・ボグや現在ロケイト・S1として〈Captured Tracks〉からリリースしているクリスティーナ・シュナイダーのプロジェクトCE・シュナイダー・トピカルをリリースするなど精力的に活動していた。カシオの音が乱雑に響くような手数の多い宅録サウンドというのは、ひょっとしたら2000年代後半から2010年代前半にかけての当時の時代の音だったのかもしれない。『Before Today』以前の初期のアリエル・ピンクのようなブランシュ・ブランシュ・ブランシュのそれはアンダーグラウンド感と手作り感に溢れていて、まるで拾ったラジオを直して適当にチューニングしたら70年代のラジオ局(それは想像上の)につながったみたいな奇妙な浮遊感や暖かく落ち着かない夢を見ているような感覚を与えてくれた。

 そして2022年のブランシュ・ブランシュ・ブランシュはどうだろう? 最初のカセット『Songs of Blanche Blanche』に収録されている “Talk out Loud” の一音一音は重くなり、しっかりと大地を踏みしめ駆け出すかのような空気を醸し出している。サックスの音が雄弁に鳴り響き、サラ・スミスのヴォーカルはよりはっきりとしたものになり、生々しいバンドの存在を強調する。“Pain Staition” のアレンジはドラムが輪郭を際立たせ、やはりより一層の生々しさをもたらしている。まるで重力とそれに影響される肉体の感情を表現すかのように(僕らは軽やかにステップを踏む)。10年前のブランシュ・ブランシュ・ブランシュがベッドルームの中に作られた電子音の小さな宇宙に存在したのだとしたら、2022年のブランシュ・ブランシュ・ブランシュは目の前で楽器を鳴らすバンドとして存在している感じだ。あまりに印象が違うのでひとつひとつこれは元々どんな風に表現されていたのかとオリジナル・ヴァージョンと比べてしまいたくなるけれど(そしてそれが簡単にできるのがいまの時代だ)、このブランシュ・ブランシュ・ブランシュの音はしっかり20年代の音で、新たにニューヨークから登場していたバンドだと言われても信じてしまいそうなエネルギーとエッジがある。このアルバムの中で僕は特に “Jasons’s List” がお気に入りなのだが、この曲を聞くとバラバラに散らばったエネルギーが曲が進む内に様々な方向から集まり集約されて、そしてそれが手のひらの隙間からこぼれていくような感覚におちいる。

 昔のブランシュ・ブランシュ・ブランシュの面影を残して、しかしまったく別の印象で。ここから過去の作品を振り返りるのもきっと悪いことではないだろう。アルバムを聞いたあと、ヘッドフォンを外して考えるとなんだかこの10年の時の流れが見えるような気がする。音楽のトレンドも価値観の様相も知らず知らずに変化していて、振り返るとそれはまったく違ったものに思える。物語の中に変化を見つけ、それを考えることでまた楽しめる、やはり良いリメイク作品には過去と現在が詰まっているものなのだ。なんとも軽やかなこのアルバムのブランシュ・ブランシュ・ブランシュについて思いをはせると、きっとこのバンドはライヴ・バンドに違いないと、そんな考えだって浮かんできてしまう。

Casanova.S