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Wooden Ball

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Papas Proof

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橋元優歩   Apr 23,2013 UP

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 定額配信戦国時代と呼ばれる昨今だが、配信音楽の時代の病理はけっして「配信」にあるのではなくて、この「定額」の方にかくれているのではないかと思う。先日、新しい音の情報を追うのに忙しすぎて原稿を書く時間がなくなったという人の話をきいたとき、まるでイソップだとみんなで笑ったが、冗談ではないのだ。音がありすぎる......。インターネットがおのおのの観察すべき範囲をほとんど無限にしたことは、音の大海原で自由に宝を探し回る能動的な主体を可能にした一方で、あてどもない波間に、自らが聴くべき限界を引きつづけなければならないという消耗をもたらしたのだとも言える。配信音楽における「定額」は、その波間に浮かぶブイのひとつだ。お得という以上に、われわれに限界を与えてくれる。100万曲であれ200万曲であれ、そこに囲い込まれれば、このなかで聴いていればいいというほどよい宇宙が広がる。原理的にわれわれを無限から解放するサーヴィス、それが「定額」のもうひとつの姿かもしれない。ここには「定額」の範囲だから聴く、というひとつの転倒もふくまれている。

 他方で、アナログ・フォーマットしか持たないことでこの無限のステージへ乗らないという、護身的な選択をする人たちもいる。もちろん、ネット通販をしていたり、誰かが音源を変換してウェブにアップされるということもあるけれども、配信をせず、CDも作らない人たちのなかには、単なるアナログ趣味や音質の問題を超えて、この無限との対峙を意図しているように感じられるものがある。フランスの男女デュオ、ブランシュ・ブランシュ・ブランシュも、筆者にとってそう感じられるアーティストのひとつだ。というか、『パパス・プルーフ』の方のリリース元〈ラ・スタシオン・ラダール〉自体がそうしたレーベルである。エラ・オーリンズやダーティー・ビーチズをリリースするこのフランスのレーベルは、ノスタルジーというにはあまりにつめたい、墓の底から掘り返されたブロンズのような音を、じつにうやうやしく、絹地にくるむようにして提示してくる。亡霊のようなサンプリング、残響、歌、そうしたものにまさにフィジカルを与え、世に送り出す。なんというか、多くがダウンロードできそうなシロモノでなく、幽玄にして有限というか、アナログ盤にしか寄り代として適当なかたちを見いだせなかったというような、奇妙な霊性がある。うーん、何かオカルト的だけど本当なんです。だからなんとなく、ここの作品は「チェックしとくべき音源」という範疇を外れていく。音楽的に非常に重要な作品であることは間違いない。しかし呪いのビデオ・テープのようなもので、「あなたの手にわたること」が重要で、そうでなければわれわれの音について語る意味はありません、と向こうから拒否されるような感じがするのだ。無限のなかのいち音源であることから、彼らは降りる。

 『ウッデン・ボール』の方は〈NNAテープス〉から。OPNやドルフィンズ・イントゥ・ザ・フューチャー、ジュリア・ホルターにコ・ラ、ピーキング・ライツなど、アンビエントからダンス、サイケデリック、エクスペリメンタル・ロックにわたって、USアンダーグラウンドの水脈のひとつを確実になぞり出しているテープ・レーベルだ。手持ちのテープ・レコーダーで録音したというようなローファイで粗い録音、気ままで合わせることを知らないシンセ、チープなピアノやピッチの合わないサンプリング、初期アリエル・ピンクのポスト・パンク・ヴァージョンといったところだろうか。そうした音の破片がスキゾフレニックに寄せ集められた1分足らずの短い曲が、タイムスリップしてきたガラクタのように並ぶ。だが、それらはヴェイパーウェイヴが体現するような露悪的な交換可能性――ネット上に転がっているどうでもいい音の集積です、といったコンセプト――に開かれた音ではない。そうした無限を拒絶すべく寸断され、同じものが生まれないように奇怪に縫合されまぶされたマテリアルであって、同じ盤から都度ちがう音が出てくるような錯覚がある。こうした音に触れていると、事実これに出会ったということが重要で、音源の無限に振り回されることもないな、という開き直りというか、腹の括り方ができるから不思議だ。

橋元優歩