ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  4. Damon & Naomi with Kurihara ──デーモン&ナオミが7年ぶりに来日
  5. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  6. Columns ♯8:松岡正剛さん
  7. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  8. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  9. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  10. Jan Urila Sas ——広島の〈Stereo Records〉がまたしても野心作「Utauhone」をリリース
  11. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  12. MODE AT LIQUIDROOM - Still House Plantsgoat
  13. Sam Kidel - Silicon Ear  | サム・キデル
  14. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  15. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  16. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2
  17. Aphex Twin ──30周年を迎えた『Selected Ambient Works Volume II』の新装版が登場
  18. ele-king cine series 誰かと日本映画の話をしてみたい
  19. K-PUNK アシッド・コミュニズム──思索・未来への路線図
  20. interview with Jon Hopkins 昔の人間は長い音楽を聴いていた。それを取り戻そうとしている。 | ジョン・ホプキンス、インタヴュー

Home >  Reviews >  Live Reviews > Amyl and The Sniffers- @渋谷クアトロ

Amyl and The Sniffers

Amyl and The Sniffers

@渋谷クアトロ

2023年9月6日

野田努 photos by Daiki Miura Sep 07,2023 UP

 21世紀も20年以上が経過した現在、20世紀の遺物のひとつであるパンク・ロックをやることも、楽しむことも、それが生まれて間もないおよそ45年前の記憶を有する老人からすると、これがなかなか素直にはなれなかったりする。ぼくが10代の頃のパンク・ロックの現場には、起きてはならないことが起きてしまうかもしれないというあやうさがあり、これは90年代初頭のクラブやレイヴ・カルチャーにあっていま失われてしまったものでもあるのだけれど、だから、そう、いかなる革命的なジャンルも時間のなかで経験することなのだ。パンク・ロックなるものの享受の仕方のおおざっぱな公式がずいぶん前にできあがり、ある程度そこで起きることがわかってしまっていることは仕方あるまい。と、こんな面倒なことを思考している老人の前で、メルボルンからやって来たパンク・バンド、アミル・アンド・ザ・スニッファーズは、パンク・ロックがいまもなお意味があり、いや、むしろいまこそやってやるといわんばかりの強烈なパンチを食らわしたというわけである。
 エイミー・テイラーは、たしかにボクサーのように小刻みに動き、動き回り、飛びはね、舌を出して、倒れ込み、いやもう、とにかく動きっぱなしなのだが、しかもその動きにコミカルさを忘れることもない。そこに疲れ知らずのザ・スニッファーズの演奏(ドラム、ベース、ギター)が連動し、いままで何万回も聴いてきたおなじみのパンク・サウンドに新たな生命力が吹き込まれるのだ。正直に言うが、ぼくは最初の2曲を聴いただけでこのライヴが最高のものであることがわかった。結局のところ、敢えてこういう言い方をすることを許して欲しいのだれど、負け犬、落ちこぼれ、冴えない人たち、喧嘩も弱いだめ人間……こうした、35年前よりはさらに疎外されている人たちの自尊心に火をつけるのは、パンク・ロックのような敷居が低いフリークス歓迎の音楽なのだろう。ザ・スニッファーズの面々のたたずまいは、いつの間にかファッショナブルになったインディ・シーンとは別世界の住人たちのようでもあり、彼らはぼくのなかのパンク愛を引き出し噴出させるには十分なロケット発射めいた演奏を繰り広げる。これぞ(ぼくにとっては)望外の僥倖というやつだ。パンク・ロックは生きている。

 露出の多い服装やセクシャリティを強調する服装を着る女性に対しての「(性暴力に遭うのは)そんな格好するからだ」という男の声に抗する表明として、私らはただ自分たちが好きな服装をしているだけと、「スラット・ウォーク」は、2011年にカナダではじまり、ほとんどの先進国に広まった女性運動のひとつである。ビキニ・トップで腰に布を巻いただけの格好を好むエイミー・テイラーがこの動きに(意識的かどうかは知らないが)リンクしているのは明らかだし、その堂々たる様がこのバンドを21世紀のパンク・ロックとして見せていることもハズれではないだろう。だからオーディエンスのなかに日本人女性が目立っているのは当然のことだと思うのだけれど、この日のライヴはぼくがいままで日本で見てきたライヴのなかで際だって日本人以外の人たちの割合が多く感じられた。早い話、どこの国のライヴだというくらいの光景だったのだ。まあ、これもまたこの10年、与党のとってきた政策がもたらした一場面であり、これが標準化されるのも遠い未来のことではないのだろうけれど、いや、誤解しないで欲しい。ぼくはアホな人間ではあるが、エリック・クラプトンやモリッシーのようにはならない自信くらいはある。ただ、いまもっともパンクが必要なのが日本で生まれ育った人たちなのは間違いないのだから、もっと多くいてもよかった。少しは元気になれただろうし、アミル・アンド・ザ・スニッファーズは、すべてのオーディエンスを釘付けにしたおよそ1時間のステージのなかで、パンクが得意とする憤怒とあの奔放な喜びをがっつりと表現したのだから。

野田努