「TT」と一致するもの

Lotic - ele-king

 ロンドンの〈Houndstooth〉と契約したロティックの新曲“Cocky(生意気)”がやばいです。

 これは5月に発表した“Burn A Print”に続く新曲で、ロティックはコンセプトについてこう話している。「女の子たちのための歌。いつもあなたが自分の価値を把握して、それを自分で認めてあげるためのリマインダー。もしショッキングだったり気に障るようなものに聞こえたとしても、この歌はあなたがそもそも自分に嘘をつかないでいられるよう手助けするもの。そして何よりこの歌は、あなたが成長して、成功して、自信を持つことを祝福している」
 うーん、アルバムが楽しみです。

Bob Dylan - ele-king

 5分31秒間、僕は神を信じたことがある。といっても困ったときについ頼んでしまう「神さま」のことじゃない。ユダヤ教とキリスト教で等しく信じられているあの「神」だ。見た目は、ルネサンス期の絵画によれば、カリフラワーライスでダイエット中のサンタ・クロースって感じ。
 へんな話だけど、神はポップソングにのってやってきた。僕が11歳のときだ。
 ポップソングということは、中学校でのダンスタイムとか、ガソリンスタンドでのトイレ休憩中とかに、スピーカーから流れ出てきた神に出くわしてもおかしくなかったわけだけど、さすがは全知全能の神、きっちり礼拝堂シナゴーグで現れた。
 日曜学校でヘブライ語の授業を受けているときの出来事だった。
 僕たちは毎回、聖典トーラーの重苦しい物語を読まなくちゃならない。それで時々、司祭ラビは教室の雰囲気を盛り立てようとユダヤ系ロッカーの曲をかけてくれた。
 この日もラビが1本のカセットテープをラジカセに突っ込み、再生ボタンを押した。流れてきたのは、ボブ・ディランの“ミスター・タンブリン・マン”。
 アコギのシンプルなストロークではじまった。DからG、Aと行きDに戻る。
 そこへディランの声が重なる。忘れ去られたいにしえの街のこと、そして一夜にして砂へと崩れ落ちた帝国のことを歌いだす。
 ディランの詞が僕の脳に、不思議なじゅつをかけたようだ。1番を聴きはじめたとたん、サイケデリックな砂漠文明の光景が目の前に広がった。僕は遠くから、その古代文明が勃興し衰退していく様を早送り再生で眺めている。アリの巣みたい。僕は壮大な物語のジオラマから目が離せなくなった。
 なんだか少し怖かった。
 でも、ディランの穏やかな声が気分を落ち着かせてくれる──そう思ったのもつかの間、今度は僕の空想が翼を広げて空高く舞い上がっていく。よくあるたとえに聞こえるけれど、実際その通りのことが起きた。“ミスター・タンブリン・マン”の2番と3番の歌詞には、「魔法の渦巻き船(マジック・スワーリング・シップ)」で太陽を目指す旅が出てくる。この詞とともに、僕の心の目はシナゴーグを飛び出し、空を突き抜けて、宇宙まで行ってしまったのだ。
 僕はそこでたしかに神の存在を感じた。
 最後のコーラスにさしかかる頃には、ディランの“ミスター・タンブリン・マン”がモーセの「割れる海」や「燃える柴」と同じくらい、いや、それ以上の奇跡といえる気がしていた。
 ラビが停止ボタンに指をおく。ハーモニカの音がやわらかにフェイドアウトして、曲はおわりを告げていた。

 2020年になったいま、僕は先祖代々の信仰を手放して久しいけれど、ディランはハーモニカに奇跡を吹き込みつづけている。最新作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』も奇跡のひとつ。このアルバムのなかの曲で、79歳のシンガーソングライターは自身初となるビルボードのシングルチャート1位を獲得した。しかも驚いたことに、この曲は約17分もある。
 COVID-19パンデミックのさなかにリリースされたから、聴く側はかつてないほど時間をかけて、自宅でじっくりディランを堪能しているだろう。近年のビルボードヒット曲は、あきらかにどんどん短くなる傾向にあった。2019年の平均は約3分、ディランの大作に比べると6分の1程度だ。
 コロナウイルスへの不安とともに生きるなかで、ディランの新しいアルバムに流れるゆったりとした時間は心地よく感じる。ハーブティーみたいに気持ちを落ち着かせてくれる。
 だけど穏やかなサウンドとは裏腹に、詞は挑発的で刺激に満ちている。男性器のジョークあり、陰謀論あり、死についてもあり余るほど語られる。みんながよく知る人物も登場する。インディ・ジョーンズ、アンネ・フランク、ジークムント・フロイトにカール・マルクスまで。
 ヴォーカルはこのアルバムの要だ。演奏をバックに、歌詞がスポットライトを浴びた名画のように掲げられる。
 79歳を迎えたディランの声はひびわれて揺らいでいる。音程補正ソフトが当たり前の時代だからこそ、その魅力はいっそう際立つ。
 歌い方もクールだし、年齢を重ねたしゃがれ声と相まって、もはやトム・ウェイツよりもトム・ウェイツっぽい。
 昔から変わらない部分もある。本作でもディランは自分が影響を受けたものを見てくれと言わんばかりだ。おなじみのモチーフがときに姿を変えながら、アルバムのあちこちで顔を出す。1940年代のウディ・ガスリーのスタイルに、アパラチア音楽文化の影。グレイト・アメリカン・ソングブックに手を出したかと思えば、アラン・ローマックスの収集音源もちらり。象徴派の詩、自身のフォーク・ソングのロックンロール・アレンジ、それからジャーナリスティックな語り口。もう挙げ出したらきりがない。
 『ラフ&ロウディ・ウェイズ』は、傘寿を迎えるディランの輝かしい到達点だ。繰り返し聴きたくなるのはもちろん、底が知れない。あらゆる方向へ広がり、さまざまなものを含みもつ。
 ディランはこれまでに何度もポップ・カルチャーの価値をより高みへと更新してきたけれど、今回もそれに成功している。もしも万が一(そうなりませんように!)、本作が最後のアルバムになったとしたら、まさに有終の美というにふさわしい。でも僕はまだまだディランが嬉しい驚きを届けてくれると期待している。2020年のいまも、1964年の頃と変わらず、唯一無二の存在だから。
 それに、ディランのような年齢のポップ・アーティストがこんなにも独創的な歌詞を書いているのをみると、すごく励まされる。
 僕はもう何十年もディランの文学的な歌詞に心を奪われている。お気に入りの作家や映画監督と同じように、ディランは、未熟な僕が見逃してしまいそうな物事にいつも気づかせてくれる。だから、11歳のときにシナゴーグのラジカセを通じてディランと出会えた僕は、本当に運がいい。
 そして、振り返ってみるとちょっと妙な話ではあるけれど、ディランの詞が(ほんの数分間とはいえ)僕に信仰をもたせたというのはちゃんと筋が通っている。だって、結局、歌というのは僕らが神とつながるすべなんだから。音楽と無縁な宗教というのは聞いたことがないし、人類史上ずっと、歌うことは霊的な儀式の中心的な役割を担っている。
 俗な世界に生きる現代の僕らもいまだに神経言語的なレベルでは、ポップ・ミュージックを宗教的なものに結びつけている。このアルバムには「ソウル」がある、なんて言ったりするし、ディランみたいなロックスターを「神」と呼んだりもする。
 いまだって、僕も心のどこかでディランの詞に神聖なものを感じている。新しいアルバムで聴くあのしゃがれ声には、あらゆるものの解が入っているのだろう。


by Matthew Chozick

For five minutes and thirty-one seconds, I once believed in God. Not just any deity, but the Judeo-Christian one, who, in Renaissance paintings, looks like Santa Claus on a cauliflower rice diet.
   Oddly, He came to me in a pop song ― I was eleven.
   Although I might’ve found the Almighty in the stereo of a junior high dance or speakered into a gas station bathroom, remarkably, He appeared to me in synagogue.
   At the time I was in a Sunday Hebrew school class for children.
   Every weekend we kids studied gloomy Torah stories, and sometimes a rabbi would lighten the mood with music from Jewish rockers.
   During a lull one Sunday, my rabbi inserted a cassette tape into a boombox, pressed play, and out came Bob Dylan’s “Mr. Tambourine Man.”
   It began with simple acoustic guitar chords: D to G to A to D.
   Then Dylan started to sing of forgotten ancient streets and of an empire that, in one night, crumbled to sand.
   The lyrics did something weird to my brain. The first verse conjured a psychedelic vision of desert civilizations that, from afar, looked like ant colonies. They rose and fell, in time-lapse, on a massive, geological scale.
   It was a little scary.
   But Dylan’s gentle voice relaxed me ― until it sent my imagination soaring, literally. The second and third verses of “Mr. Tambourine Man” included a journey towards the Sun on a “magic swirling ship.” The lyrics carried my mind’s eye up, out of the synagogue, through the sky, into space.
   I felt the presence of God.
   By its final chorus, “Mr. Tambourine Man” seemed no less a miracle than the Burning Bush or the parting of the Red Sea.
   And then my rabbi readied his finger above the boombox’s stop button, right before the track ended with a soft fadeout of the harmonica.


Now, in 2020, long after I left my ancestral religion behind, Dylan is still packing harmonica with miracles. One such miracle is that the singer-songwriter’s new record, Rough and Rowdy Ways, has given the seventy-nine-year-old his first chart-topping Billboard single ever. And extraordinarily, the hit is some seventeen minutes long.
   Released amid our COVID-19 pandemic, listeners have had an unprecedented amount of time at home to parse Dylan. Tellingly, in recent years Billboard hits had been shrinking in size. In 2019 they averaged about three minutes ― roughly 1/6 of Dylan’s 2020 opus.
   The new album’s gentle pacing feels soothing in our era of coronavirus anxieties. It relaxes like a cup of herbal tea.
   But the record’s sonic mildness belies provocative lyrics. There’s a penis joke, a conspiracy theory, plenty of death, and notable references to Indiana Jones, Anne Frank, Sigmund Freud, and Karl Marx.
The vocals serve as the centerpiece of the album; lyrics hang like spotlit paintings in front of instrumental accompaniments.
   Dylan’s voice at seventy-nine cracks and wavers, which makes the record even more compelling in our age of autotune and pitch correction software.
   The singing sounds cool; Dylan’s gotten gravellier with age. He’s now more Tom Waits than Tom Waits.
   Some things haven’t changed; Dylan still wears his influences on his sleeve. His old muses are reflected and refracted on the new album ― familiar 1940s Woodie Guthrie stylings, Appalachian refrains, forays into the Great American Songbook, hints of Allen Lomax’s field recordings, symbolist poetry, rock n’ roll covers of his own folk music, journalistic storytelling, and oh so much more.
    Rough and Rowdy Ways works as a bold culmination of the near-octogenarian’s career. It warrants many relistens and it feels bottomless, expansive. It contains multitudes.
   Like Dylan has done time and time again, the new album elevates pop culture orders of magnitude. And if ― knock on wood ― this turns out to be Dylan’s final release, it would be a brilliant note to finish on. Yet I expect more pleasant surprises to come from Dylan. He is still as peerless in 2020 as he was in 1964.
   To be sure, it’s heartening to see such lyrical originality from a pop artist of Dylan’s age.
   For decades Dylan’s writerly lyrics have captivated me. Like my favorite novelists and filmmakers, Dylan has continually helped me notice things about the world that, in my own stupidity, I would have otherwise missed. So I’m very lucky that, at age eleven, I discovered Dylan in a synagogue boombox.
    And while it seems a little weird now, it makes sense that Dylan’s lyrics made me a believer ― if only for a few minutes. After all, good songs are how we communicate with the divine. Every major faith uses music, and singing has been central to spiritual practice throughout human history.
    In our secular era today, we’re still neurolinguistically wired to experience pop music as religious. We discuss albums as having “soul” and we refer to rock heroes, like Dylan, as “gods.”
    Even now part of me finds Dylan’s songwriting to be divine. His gravelly voice on the new record sounds as if it has all the answers to life’s questions.


KGE THE SHADOWMEN - ele-king

 ラッパーとして、すでに20年以上のキャリアを持つ KGE THE SHADOWMEN (カゲ・ザ・シャドメン)。ソロとしてはもちろんのこと、千葉出身のアーティストを中心に結成されたクルー、TEAM 44 BLOX の一員としての活動や、DJ/プロデューサーである HIMUKI とのユニット、KGE & HIMUKI では通算3枚のアルバムをリリースするなど、様々な形で作品制作やライヴを行なってきた。その一方で、彼のことをいわゆる「客演キング」として認識している日本語ラップ・ファンも多いだろう。特に印象深かったのが仙台のグループ、GAGLE のアルバムに収録されたふたつの曲 “舌炎上” (2014年『VG+』収録)と “和背負い” (2018年『VANTA BLACK』収録)だ。日本のヒップホップ・シーンでもテクニカルなラップで評価の高い GAGLE の HUNGER と互角に渡り合い、さらに “和背負い” では天性のスキルと強烈な個性を持つラッパー、鎮座DOPENESSを交えた3MCによるセッションが実にスリリングかつ凄まじい格好良さで、個人的にも KGE THE SHADOWMEN のソロを待ちわびていた感すらある。そのタイミングでリリースされた、ソロ名義では11年ぶりのリリースとなる2ndアルバム『ミラーニューロン』だが、こちらの期待を軽く上回る素晴らしい快作である。

 KGE THE SHADOWMEN のラップの魅力は巧みなフロウとラップが映える声の良さで、そこに説得力あるリリックが重なれば、もはや怖いものはない。アルバムの冒頭を飾る “俺のHIPHOP” はそれらの要素が全てが合わさった1曲で、16FLIPISSUGI)によるキックの効いたトラックに乗せて、ヒップホップに捧げた紆余曲折な人生を振り返りながら、自らの深い覚悟を宣言する。この曲に限らず、本作での彼のアティチュードは実に自然体で、無理に虚勢を張ったりもせずに、自分の弱ささえも包み隠さず言葉にする。決して短くはないアーティストとしてのキャリアが、いまの自然体な彼を作り上げているのは間違いないが、そんな嘘のない言葉だからこそ、彼のリリックは実にストレートに心に突き刺さってくるし、特に30代、40代と年を重ねたリスナーであれば共感できる部分も大いに違いない。特に家族へ捧げた “こんな俺だけど” や “ジャム&マーガリン” での KGE THE SHADOWMEN の言葉が持つ力と暖かさは、決して誰にでも表現できるものではないだろう。

 「客演キング」であるがゆえに、本作にも当然、ゲスト勢が多数参加しており、注目はやはりすでに名前の出ている HUNGER と鎮座DOPENESSだろう。HUNGER と GOCCI (LUNCH TIME SPEAX)が参加した “葉隠” でのハイプレッシャーなマイクリレーは迫力十分。さらに度肝を抜かれたのが鎮座DOPENESSとの “TRANCE注意報” で、Grooveman Spotの金属質でエッジの効いたトラックにふたりが変幻自在に言葉を放ち、カオスな空間を作り出す。他に SONOMI、CHIYORI、菅原信介と3人のシンガーをそれぞれゲストに迎えているのだが、いずれも異なるタイプの曲でいずれも見事な出来だ。ちなみにプロデューサーも多彩なメンツを揃えているのだが、個人的には DJ Mitsu the Beats のシンプルなループが実に心地良く響く “毎日Walkin'” がラスト・チューンとしても実にしっくりきて、好みな一曲。実は7分以上もあるのだが、この曲のように、良い意味でマイペースに彼のラッパーとしての活動がこれからも続いていくことを期待したい。

Pole - ele-king

 ヴラディスラフ・ディレイの新作も迫力あったし、ベアトリス・ディロンはUKだけど彼女のアルバムにはベルリンのミニマル・ダブからの影響を感じたし、そしてPole(ポール)の5年ぶりの新作もかなり良さげです。

 1998年に登場したPoleことステファン・ベトケは、当時数多あるベーシック・チャンネルのフォロワーたちのなかでも抜きんでた存在のひとつで、彼自身のレーベル〈~scape〉の展開とともにミニマル・ダブを進化させたイノヴェイターでもある。2003年に〈ミュート〉から5枚目のアルバムを出しているが、この度はそれ以来の同レーベルからのリリースで、5年ぶり9枚目のアルバムとなる。(2017年にはベルリンの前衛シーンの伝説、コンラッド・シュニッツラーとの共作も出している)

 新作のタイトルは『フェイディング』。“記憶の喪失”がコンセプトで、ふとケアテイカーを思い出す人もいるかと思うが、認知症になった母親が作品の契機にあるそうだ。「自分の母親が当時認知症にかかっていて、彼女が91年にもわたって積み上げてきた彼女の記憶すべてを無くしていく様子を見ていたんだ。まるでその様は、生まれたてで彼女の人生がはじまったばかりのような感じに思えた。まさしく、まだ中身が空っぽの箱のような」
 それでサウンドはどうかと言えば、アンビエント、ダブ、そしてジャズが少々といった感じの構成だが、音の空間性が素晴らしく、その重いテーマに対して音は決して重々しくはない。クラブで鳴らすというよりは、あきらかに家で聴く音楽で、これは注目してもいいでしょう。リリースは11月6日(金)です。

■「Röschen」 (Official Audio)

Pole
Fading

Mute/トラフィック

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interview with Jessy Lanza - ele-king

 ジェシー・ランザは……、いやこれはもう、柴崎祐二君あたりが喜びそうなポストモダン・ポップのアーティストだ。カナダ出身で米国に移住した彼女と、その才能はJunior Boys名義の諸作で保証済みのカナダ在住のプロデューサー、ジェレミー・グリーンスパンとのコンビによって作られるエレクトロ・ポップな音楽は、過去現在のいろんな音楽の美味しいところの組み合わせによって作られているが、今回のアルバムで言えば、アレキサンダー・オニールもその影響に含まれる。
 80年代にポストパンクなんかを聴いていたリスナーからすると、ブラコンの代名詞はその対極の文化だったりするのだが、ジェシーと同じく〈ハイパーダブ〉のミサもジャネット・ジャクソンとブランディなどと言っているし……。もうこれは完全に文脈(歴史)は削除され、その表層(残響)だけが舞い上がっていると、しかしこれが時代におけるひとつのセンスであって、あるいはこれこそヴェイパーウェイヴがはからずとも描いたのであろうリアル無きあとの我らが幻影世界なのだろうけれど、この先の話は柴崎君に任せるとして話をジェシーに戻そう。
 そう、とにかくジェシー・ランザ(&ジェレミー・グリーンスパン)は、そのポストモダン的感性と抜群のミックス・センス(フットワーク、エレクトロ・ファンク、ハウス、ニューオーリンズのバウンス……そしてYMO等々、すべてがフラットな地平における広範囲および多方面からの影響のハイブリッド)によって2016年のセカンド・アルバム『Oh No』を作り上げ、いっきに評価を高めている。たしかに、シカゴのゲットー・ダンスと細野晴臣を混ぜ合わせるというのはなかなかの実験であり、まあ、その前にも彼女はカリブーの『Our Love』(2014)で歌っていたり、あるいは90年代から活動しているベテランのテクノ・プロデュサー、モーガン・ガイストとも共作したりと、シンガーとしての才能は早くから認められてきたのだろう。技巧的にうまい歌手ではないが、彼女には雰囲気があるのだ。
 去る7月、ジェシー・ランザは待望の3枚目『All The Time』をリリースしたばかりで、すでに欧米ではかなりの評判になって露出も多い(なぜか彼女は日本では過小評価されている)。今作をひらたく言えばよりポップになった作品で、まだ世界がコロナでパニックになる直前に聴いた先行発表の“Lick In Heaven”には、ぼくも心躍るものがあった。
 ほかに推薦曲を挙げておくと、フットワーク調の“Face”、ディープ・ハウス調の“Over And Over”、メランコリックなダウンテンポの“Anyone Around”や“Badly”、ブラコンの影響下なのだろう“Alexander”や“Ice Creamy”、あぶく音とアンビエントの“Baby Love”……と、すでにアルバム収録の10曲のうちの8曲も挙げているではないですか。総じてスウィートで、ファッショナブルで、洗練されていて、良く比較されるFKAツィグスより軽妙で、グライムスと違って自身のエゴよりも楽曲が優先されている。息抜きにはちょうど良いアルバムだが、もしジェシー・ランザと対面で話す機会があったら言ってあげたい。君が好きな音楽はその当時はね……いや、でもいまマライア・キャリーやニュー・エディションを聴いたら良かったりするのかな?

見渡してみると、怒っている人ってとても多いのよ。何でそんなに怒ってるの? って思わされる。地下鉄に乗っているときとか、周りにたくさん人がいるからイライラするのは簡単なのよ。

いまNY? カナダ?

JL:いまはシリコンバレーにいる。

シリコンバレーはどんな様子ですか? 後ろに木がたくさん見えますが……

JL:ここ数ヶ月、自分の自宅から離れたところに住んでいるのよ。義家族と一緒に過ごしているから、高校生に戻ったみたい。家の離れにツリーハウスがあるから、そこをスタジオみたいにして使っているの。

この数か月、ほとんどを家で過ごしていると思うんですが、日々どんな風に暮らしていますか?

JL:このツリーハウスをスタジオにするためにいろいろと設置していじったりしていた。それもひと通り落ち着いたから、いまは新しい音楽を作っているところ。『All The Time』のMVを作ったりしていたわ。ツアーができないから、アルバムを出したあともどうにかして忙しくしなきゃって感じ。

作品を出して、ライヴをやって、プロモーションしてという音楽ビジネスのルーティーンがいま通じなくなっていますが、こうした難しい事態をどう考えていますか?

JL:まさにその変化の過程だから、何もわからないっていうのが正直なところ。ライヴができるようになるまでには、まだかなり時間がかかるっていう状況を飲み込んでいる最中ね。幸いなことにいまは家族と一緒にいるから、精神的には安定しているかな。はっきり言って、災難よ。

答えは誰もわからないですからね……。いま、考え中というところでしょうか?

JL:そう。どうすればいいかなあ・・・って、考えているところ(苦笑)。

よく聴いている音楽をいくつか教えて下さい。やはり、ご自宅でもポップに拘った選曲なんでしょうか?

JL:バンドキャンプで友だちの曲を聴くことが多いわ。メインストリームのアーティストではないけど。ただ、音楽を聴くより本を読む時間の方が多いの(笑)。断然多いわね。アルバムが完成したあと、ちょっと疲れちゃって。ベッドに寝転んで本を読んでいたい気分だったのよ。

何を読んでるんですか?

JL:『SNSをやめるべき10の理由』みたいな本(おそらく『今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由』のこと)があるんだけど、それがけっこう面白いのよ。

ツリーハウスでそれを読んでるんですね(笑)。

JL:そうそう(笑)。いま読んでるのはそれで、他にはマヤ・アンジェロウの『歌え、翔べない鳥たちよ』も素敵だった。この2週間で読んだのはその2冊かな。

この状況で悲しくて落ち込むこともあると思うんですが、いまの話だと、そんなときも音楽を聴くよりも本ですか?

JL:そうね。いまはベッドでゆっくり本を読む時間にはまっているの。

『All The Time』はコロナ前に制作された作品ですが、それがコロナ渦にリリースされたことを、あなたはどんな思いで見守っていましたか?

JL:もちろん、もともとはツアーの予定もあったからそれができなくなったのは悲しい。でも、ライヴ配信でDJセットの配信をしたりとか、ツアーに行っていたとしたらできなかったことができた。それはポジティヴなことだと思う。それに、MVにも充分時間がかけられたしね。いつも通りツアーをしていたら、忙しくなって逃していたかもしれないことにゆっくり向き合えたのは、この状況のなかで良かったことね。

でも、こういう暗いご時世において、あなたの音楽はワクワクするものだと思います。その音楽面に関して、ジェレミー・グリーンスパンとあなたはどんな関係性で進めているのですか?

JL:作業自体は別々に進めたわ。私はニューヨークにいて、彼はカナダのハミルトンにいたから。会わないといけないときは私が車でニューヨークからカナダに行ってた。私の家族がカナダにいるから、そういう意味でもちょうど良かったの。週末にカナダまでドライブして、音楽を作って、また車で戻ってくるっていうのは楽しかったわ。彼との曲作りはエキサイティングだし。

ニューヨークからカナダまで車を運転するんですか?

JL:そうなの。ニューヨークで大きなバンを持っていて、それはこっち(シリコンバレー)にも持ってきたんだけど、それで8時間ぐらい。8時間って聞いたら長いけど、運転していると楽しくてあっという間よ。

『Pull My Hair Back』や『Oh No』では、いろんなクラブ・ミュージックを折衷しながら作っていましたが、今作の『All The Time』において参照した音楽があれば教えて下さい。

JL:今回のアルバムを作っているときはセンチメンタルな気分だったのよね。ホームシックになってたし。だから、郷愁を感じるような、エモーショナルなシンガーソングライターの曲なんかが心に刺さってた時期だった。そういう感情をアルバム作りに落とし込んでいたわ。

ということは、具体的な音楽というよりは、そのときの感情を活かして作ったという方が近いでしょうか? もしくは、本や映画からインスピレーションをもらいますか?

JL:本や映画は、音楽作りにかなり影響するわね。映画の映像とかセリフを参考にすることがけっこうある。それと合わせて、怒りの感情を抱いたときに曲を書いたりするの。なんで感情がこんなにかき乱されてるのか、なんでこんな気持ちになっているのかわからなくて、それを消化するために曲を書く感じ。だから、1ヶ月後とかにそのとき自分が作った曲を聴くと、その感情が思いっきり表われてて面白いのよ。

他のアーティストの音楽を聴いて、それを参考にしたり、感化されたりということもあるんでしょうか。もし具体的な例があれば、教えてください。

JL:もちろん、それもある。このアルバムを作っているときは、アレクサンダー・オニールの曲をたくさん聴いていたの。今回、かなり影響を受けたわね。彼の音楽がどんなものか知りたくて、カヴァーしてみたりもして。それを自分の音楽に反映させたの。

たとえば“Face”なんかユニークな曲だと思いましたが、あのリズムはどこから来ているんですか?

JL:あの曲は、モジュラーでいろいろと実験をしていたときにできた曲なの。今回のアルバム作りの前に、機材をたくさん買ったのよ。使い方がわからないものもいろいろ買って、いじってみようと思って。だから、あんな感じでちょっと変わった曲になったの。

そういう実験をしながらレコーディングしたんですか?

JL:そうそう。細切れに録音して、それをあとから組み合わせた。

今回は、よりポップなアルバムを作りたかったの。キャッチーで、みんなに覚えてもらえるような曲を作ることが今回の目標だったから。それがいちばん表われているのが“Lick In Heaven”かなと思うわ。

“Lick In Heaven”をはじめ、今作はより歌のメロディラインがはっきりしているというか、すごく気を遣っていると思ったんですね。やはりそこは意識しました?

JL:今回は、よりポップなアルバムを作りたかったの。キャッチーで、みんなに覚えてもらえるような曲を作ることが今回の目標だったから。それがいちばん表われているのが“Lick In Heaven”かなと思うわ。

ちなみに歌詞についてのあなたの考えを教えて下さい。あなたにとって良い歌詞とはどんなものなのでしょう?

JL:今回のアルバムに関して言えば、全体的に怒りが反映されているのよ。さっきも少し言ったけど、自分がなぜこんなに怒っているのかがわからないっていう感情がすごくあったの。制作当時にね。いつも怒っているような人になりたいわけでは全然ないのに、そうなってしまったから、それを自分の音楽作りに活かしたのね。最終的には、怒りっぽい自分を受け入れてた。(編注:とくに1曲目の“Anyone Around”、そして“Lick In Heaven”にも怒りがあります)

怒りの原因は何だったんですか? 自分でもわからない?

JL:あはは、それがわからないからさらにイライラしたのよ(笑)。原因になるようなことは何もなかったの。具体的にはね。でも、他人の苛立ちに気づいてしまって、それに影響されたっていうのはあるかもしれない。見渡してみると、怒っている人ってとても多いのよ。何でそんなに怒ってるの? って思わされる。アルバムを作っているときもそれを考えてた。ポジティヴに、平和な毎日を送った方がいいってわかってるのに、なんでわざわざ怒るんだろうって。

ニューヨークという、都会にいるときにその怒りを感じていたっていうことですか?

JL:そうね。地下鉄に乗っているときとか、周りにたくさん人がいるからイライラするのは簡単なのよ。いちど気になりはじめたら、ずっと気になってしまう。みんなが敵みたいに思えてくるというか。被害妄想よね。無数の他人の中で毎日過ごすのは、なかなか大変なことだから。

そういう感情を抱えていながら、キャッチーでポップなアルバムを作ったというのが面白いですね。

JL:どのアルバムのときも、そのとき抱えている感情とは逆の音楽性にしたいのよ。今回に関して言えば、自分がずっと醜い状態だったから(笑)、それとは逆の音楽を作りたかった。それが、感情の整理に役立つのよ。そう考えると、これは音楽に関しても歌詞に関しても言えることだけど、自分の感情を昇華させられるようなものがいいものだと思うわ。

この夏はどんな風に過ごす予定ですか?

JL:ずっとこのツリーハウスかな(笑)。カナダにも行きたいけど、アメリカとカナダの移動がまだ無理だから。最初は7月に解禁されるって言われていて、そのあと8月になって、またそれが延期になっちゃった。だから、しばらくはここにい続けるしかないわね。

でもすごく居心地が良さそうですよね。

JL:最高よ。空気もきれいで、ずっといても全然平気な環境だから、ちょうどよかったかも。

また、ライヴ配信などの予定もありますか?

JL:それが次の大きなプロジェクトね。実は、アルバムを最初から最後までプレイする配信を計画中なの。このツリーハウスで、いつもとはちょっと違うセットにしてやろうかなと思ってる。

Tatsuhisa Yamamoto - ele-king

 ジャズ、実験音楽、ロック、エレクトロニック……などなど、あらゆる尖っている音楽シーンで引っ張りだこの前衛ドラマー、山本達久。石橋英子、坂田明、ジム・オルーク、青葉市子、UA、七尾旅人などのバックも務め、カフカ鼾のメンバーとしても活動している。
 先日、9月/10月と山本達久が自身初となるソロ・アルバムを2枚連続でリリースすることが発表された。
 まずは9月18日にオーストラリの実験派オーレン・アンバーチの〈Black Truffle〉から『ashioto』。
 10月7日には日本の〈NEWHERE MUSIC〉から『ashiato』。

KURANAKA 1945 × GOTH-TRAD × OLIVE OIL - ele-king

 KURANAKA a.k.a 1945 主催のパーティ《Zettai-Mu》が9月13日に梅田 NOON にて開催される。GOTH-TRAD、OLIVE OIL、mileZ ら豪華な面々が出演。5月にはライヴ・ストリーミングで「Zettai-At-Ho-Mu」が開催されていたが、今回はリアルに会場へと足を運ぶもの。コロナ時代における音楽やダンス、クラブのあり方を探っていくイヴェントになりそうだ。感染拡大防止対策をとりつつ、ぜひ参加してみてください。

Powell - ele-king

 先般、新たなプロジェクト「ƒolder」をスタートさせたばかりのパウウェルが、UKのオンライン・マガジン『The Quietus』の企画で、お気に入りの本を紹介している。遊び心と同時にコンセプチュアルな側面もあわせもつパウウェルであるが、やはり相当な読書家だったようだ。
 なんでも、もう一度音楽をつくりはじめるために、いったん音楽から離れる必要があったとのことで、ここ一年はレコードをほとんど聴かずに、ひたすら哲学や文学を渉猟していたという。「デリダを読むのは好きな音楽を聴くのに似ていて、脳がばらばらに引き裂かれる感じがする」「ドゥルーズはめっちゃ読んだよ。彼は音楽についても多く書いているしね」「ボードリヤールは読み込んできたわけじゃないけど、現実が死んでしまったという彼の考えは、パンデミックのいまこそあてはまる気がする」(意訳)などなど、1冊1冊についてその魅力を語っている。
 カフカやマンなどの小説、以前から好きだと公言していたクセナキスについての本、さらにはサメにかんする本までリストアップされているが(幼いころは海洋生物学者になりたかったらしい)、邦訳のある著作も多いので、気になった方は試しに手にとってみるのもいいかも。

■パウウェルのお気に入りの本

アレクサンダー・クルーゲ『Lernprozesse mit tödlichem Ausgang』
スーザン・ソンタグ『反解釈』&「沈黙の美学」(『ラディカルな意志のスタイルズ』)
ジャック・デリダ『ポジシオン』&『Artaud le Moma』
ジル・ドゥルーズ+クレール・パルネ「英米文学の優位について」(『ディアローグ』)
フランツ・カフカ『城』
スーザン・ケイシー『The Devil's Teeth』
ペーター・スローターダイク『Sphären I – Blasen』
トーマス・マン『ファウストゥス博士』
アルフィア・ナキプベコヴァ「Performing Nomos Alpha by Iannis Xenakis: Reflections on Interpretive Space」(『Exploring Xenakis: Performance, Practice, Philosophy』)
リナ・ボ・バルディ『Stones Against Diamonds』
デイヴィッド・シルヴェスター『フランシス・ベイコン・インタヴュー』
ジャン・ボードリヤール『完全犯罪』
J・H・ロニー兄「もう一つの世界」

記事全文はこちら
https://thequietus.com/articles/28803-powell-interview-favourite-books

Erasure - ele-king

 誰もが才能を認めるジャンルの開拓者であり、数多くのヒット曲を持っていながら、そのわりにはメディアの露出が少ないアーティストが世の中にはいるが、イレイジャーはその代表だろう。プライマル・スクリームやオアシスよりもヒット曲があるのに、メディアがあなたを彼らよりもシリアスに扱わないことをどう思いますかとThe Quetusの取材で訊かれたヴィンス・クラークは、「うーん、答えられないなぁ。そういうことはホントに気にならないんだ、あ、これが答え」と笑っている。余裕というのかナンというのか、自分が好きなことをやり続けてきた彼には、そこはホントに気にならないのだろう。

 もっとも、ヴィンス・クラークには確固たる評価がある。彼はシンセポップというジャンルを開拓したキーパーソンのひとりであり、まあ、マスターのひとりと言ってもいい、そしてなんと言ってもヒットメイカーである。イレイジャーとしてアバのカヴァー集を出しているように、ポップスは彼の永遠のテーマなのだろう。エレクトロニックであることと同時に。
 まずは歴史のおさらいからはじめたい。シンセポップは、70年代末から80年代初頭のUKポストパンク期に表出したスタイルのひとつで、当時はまだ珍しかったシンセサイザー・サウンドを前面に打ち出しながら、ポストパンク時代において“ポップス”を指標し、ニューウェイヴ時代のポップスを具現化したという点で、シーンにおける台風の目にもなった。ゲイリー・ニューマン、ウルトラヴォックス、OMD、ザ・ヒューマン・リーグ、へヴィン17、ブラマンジェ、ザ・ソフト・セルなどなど……、最初にクラークが所属したデペッシュ・モードもそのスタイルを代表するバンドで、デビュー時の彼らは少年の集まりのようにもっとも若く、そしてもっともポップだった。(※数年後に登場するペット・ショップ・ボーイズは最初からハイエナジーを意識した点において、初期シンセポップとはちょっと別モノ)
 その1stアルバム『Speak & Spell』(81)には当時の〈ミュート〉サウンドの魅力が集約されている。クラフトワーク的な最小限の音数による構成、ジョルジオ・モロダー流のシーケンスとDAF流のハンマービート、それらをシンプルなメロディと融合させ、サビのはっきりしたキャッチーな歌を載せる。ヴィンス・クラークはバンドの中核のひとりだったが、もうひとりの中心であるマーティン・ゴアの方向性と噛み合わず、アルバムは商業的に成功したがクラークはそのリリース後にバンドを脱退し、パワフルなヴォーカリスト、アリソン・モエットとのYazooを結成する。反資本主義や反レイシズムといった暗い社会的テーマを手掛けるようになっていくゴア主導のデペッシュ・モードに対して、クラークとモエットの『Upstairs At Eric's』(82)の光沢はシンセポップ・ミュージックの研磨にあり、ソウル・ミュージックとエレクトロニック・ダンスとの情熱的な激突にあった。それはハウス・ミュージックの青写真であり、シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノをはじめ、電気グルーヴからハーキュリーズ&ザ・ラヴアフェアまで、あまりにも多くのエレクトロニック・ミュージシャンがその影響を受けている。
 また、この時期のクラークは巷のシンセポップ批判(機材に頼ってまともな曲が書けない、電子機材は生楽器より劣る等々)への反論とも受け取れるプロジェクト、The Assemblyなる名義でも1枚のシングルを出している。燃え上がる性愛のパンク・ソング“ティーンエンジ・キックス”を歌い、他方では「ママにシンセを買ってもらいやがって」(“My Perfect Cousin”)と、当時シンセポップに対にしてよくあった偏見──中産階級的なオタク性を罵倒したことでも有名なジ・アンダートーンズのヴォーカリスト、フィアガル・シャーキーを招いてのギター・ソング“Never Never”で、これもまたヒットしたのである。(サッチャー時代の底辺に生きる家族を描写したPVもいま見ると感慨深い)

 ヴィンス・クラークがアンディ・ベルといっしょにイレイジャーを結成するのは1985年のことだった。デペッシュ・モード~Yazoo~The Assemblyとすでに華々しい成功を収めていた彼は、新たなプロジェクトのための新しいヴォーカリストを探すべく音楽誌紙に求人広告を出し、そこに応募したのがアンディ・ベルだったのだ。ベルは、多くのゲイが自分のセクシャリティをまだ公には言えなかった80年代後半という時期にゲイであることを公言したポップスターのひとりになるが(2004年にはHIV検査で陽性であったことも公言している)、イレイジャーをはじめた頃はシンセポップの天才が見つけた、女性の靴売り場で働きながら売れないバンドをやっていた無名のヴォーカリストに過ぎなかった。
 が、その無名のヴォーカリストを擁したイレイジャーは最初のデビュー・シングルから連続3枚をチャートインさせると、その勢いのまま90年代初頭までに発表したシングルのほぼすべてをチャート入りさせた。当時日本で毎週放映していた「ビートUK」という英ポップチャート番組を観ていた人にはわかる話だが、イレイジャーは出せばとにかくヒットする存在だった。結局、このスーパー・シンセポップ・グループは、1988年の『The Innocents』から1994年の『I Say I Say I Say』までの4枚のアルバムを連続してUKチャート1位にさせ、デビューから現在までのあいだに25曲以上を40位内に入れ、2500万枚以上のアルバムを売ることになる。ベルのエモーソナルな歌と気取りのない、素朴でオネストな言葉で歌われる歌詞、そしてクラークのメロディアスなエレクトロニック・ポップ・サウンドはイギリスの大衆から大いに愛されたのである。

 というわけで、通算18枚目のアルバムが本作『ザ・ネオン』だ。ずっと聴き続けている律儀なファンには申し訳ないけれど、ぼくが聴いていたのはせいぜい『The Innocents』(88)、『Wild!』(89)、『Chorus』(91)、そして自分らのモットーをタイトルにしたかのようなベスト盤『Pop! - The First 20 Hits』(92)という彼らの最初の黄金期の作品で、それ以降はイレイジャーの世界から撤退している。もちろんそれ以降もイレイジャーは自分たちのペースでさらに25年以上も活動を続けていたわけで、ぼくが知らないスタジオ・アルバムを10枚以上も出している。21世紀に入ってからのアンディ・ベルのソロ活動もそれなりの話題になったけれど、日本盤のライナーによれば2013年のクリスマス・アルバム『スノー・グローブ』を契機にイレイジャーは再度注目を集め、2014年のアルバム『ザ・ヴァイオレット・フレイム』が10年ぶりにトップ20入りを果たすヒット作となったという。続く2017年の『ワールド・ビー・ゴーン』もヒットし、そして上昇気流に乗ってリリースされた3年ぶりの『ザ・ネオン』も現在快進撃を続けているようで、なんと現在(8/25)UKではザ・キラーズに続いて2位にまで登り詰めている。1994年の『I Say I Say I Say』以来のヒット作になりつつあるそうだ。

 『ザ・ネオン』の1曲目“Hey Now”は笑ってしまうほどヴィンス・クラークのサウンドだ。ぼくが聴いていた時代、第一期黄金時代を思い出さずにはいられないが、アナログ・シンセサイザー特有のじつに快楽的なサウンドの反復とシンプルなメロディライン、そしてアンディ・ベルのソウルフルな歌は、コロナ禍で疲れた心を励ますかのように響いたりもする。
 そう、コロナ前に作ったことがこれほどアドヴァンテージとなっている作品も珍しいかもしれない。ぶっちゃけ、威勢がいいのだ。暗い時代に前向きな歌詞、気持ちを愉快にさせる疾走感、シンセポップならでは絶妙な軽快さ(ポップさ)。2曲目の“Nerves of Steel”もクラークのソングライティングが光っているキラーな曲で、これまた彼らの黄金時代にリンクしている。いかにも80年代風の“Fallen Angel”も新鮮に響いてしまう。最後に収録された“Kid You're Not Alone”もイレイジャーらしい叙情性を持った感動的なポップ・ソングである。

 『ザ・ネオン』にはナンの迷いもケレンもなく、これぞシンセポップと言わんばかりの、快適でキャッチーな楽曲がたくさん収録されている。結成から今年で35年目というが、イレイジャーはいまのところは、そしておそらくこれからもいきなり新機軸を打ち出したり、新境地を開くことはないだろう。だからといって時代に逆行しているわけではない。シンセポップはいま旬である(ジェシー・ランザやマリー・ダヴィッドソンとか、グライムスやケイトNVとか、シンディとか、パソコン音楽クラブとか電気グルーヴとか……)。

 つまり、ノスタルジックだがタイムリーでもある。それは、彼らが作り上げたスタイルが21世紀でも充分に通用するという話ではない。彼らのポップスが、いま忘れがちな感覚を呼び起こしているように思えるのだ。それはやはり、彼らの音楽に通底するオプティミズムだろう。なにせナイト・ライフに自粛が強いられているこのときに「夜のネオン」がコンセプトである。
 意図したことではなかったとはいえ、オプティミズムを失い、意気消沈しているこの世界において、シンセポップのリジェンドによるこの原点回帰作は、ちょっと良い感じのシェルターとなっているのだ。ぼくも2020年に、よりによってイレイジャーをこんなにも楽しく聴くとは思ってもいなかった(笑)。

電気グルーヴ - ele-king

 ウィー・アー・バック宣言から2ヶ月、電気グルーヴ、ついに完全復活である!
 2019年3月のピエール瀧の逮捕を受け、一時は全作品が出荷停止~配信停止状態になっていた電気グルーヴであるが、去る23日、コロナの影響で開催が延期されたフジロックの配信番組において新曲 “Set you Free” のMVが公開され、昨日、配信も開始となった。
 新たなマネジメント会社「macht inc.」を設立してから初となるリリースで、シングルとしては2018年1月の「MAN HUMAN」以来2年半ぶり、アルバムを含めると2019年1月の『30』以来1年半ぶりのリリースとなる。作詞・作曲・プロデュースを石野卓球が、アディショナル・プロダクションを agraph が担当。
 驚くべきは、アンビエント・タッチのハウスが描くこの暗い時代におけるこのポジティヴなヴァイブだが、「おまえを自由にする」というメッセージの込められたタイトル、そしてその「Set you Free」と「先住民」をかけることば遊びなど、相変わらずというか、表現にもますます磨きがかかっている。
 ここまで来たらもう電気が止まることはないでしょう。まずはこの曲を耳にぶち込んで、卓球&瀧の新たな船出を大いに祝福しよう(配信はこちらから)。

電気グルーヴ、2年半振りのシングル「Set you Free」配信開始

電気グルーヴの新曲「Set you Free」が、8月24日より各配信ストア及びサブスクリプションサービスでリリースされた。

https://linkco.re/DY8tPG5n

同楽曲は、8/23に行われた「FUJI ROCK FESTIVAL'20 LIVE ON YOUTUBE(DAY3)」内でMUSIC VIDEOと共に初公開されたもの。
シングルとしては、「MAN HUMAN」(2018年1月)以来、約2年半振りとなる。

作詞・作曲・プロデュースは石野卓球、ギターを吉田サトシ、アディショナルプロダクションを牛尾憲輔(agraph)が手掛け、ミックスは石野卓球と兼重哲哉、マスタリングは兼重哲哉が担当。

ジャケットはMUSIC VIDEOと同じく、田中秀幸(FRAME GRAPHICS)が手掛けた。

尚、「Set you Free(Video Edit)」MUSIC VIDEOは、「FUJI ROCK FESTIVAL’20 LIVE ON YOUTUBE DAY3(リピート放送)」(8/24(月)07:00から)で配信される。
FUJI ROCK FESTIVAL チャンネル → https://www.youtube.com/fujirockfestival

[“Set you Free”クレジット]
Denki Groove are Takkyu Ishino and Pierre Taki
Produced by Takkyu Ishino
Lyric and Music by Takkyu Ishino
Guitar : Satoshi Yoshida
Additional Productions : Kensuke Ushio(agraph)
Recorded at Takkyu Studio, STUDIO Somewhere
Mixed by Takkyu Ishino, Tetsuya Kaneshige
Mastered by Tetsuya Kaneshige
Designed by Hideyuki Tanaka(Frame Graphics)

[電気グルーヴ プロフィール]
1989年、石野卓球とピエール瀧らが中心となり結成。1991年、アルバム『FLASHPAPA』でメジャーデビュー。1995年頃より、海外でも精力的に活動を開始。2001年、石野卓球主宰の国内最大級屋内ダンスフェスティバル“WIRE01”のステージを最後に活動休止。それぞれのソロ活動を経て、2004年に活動を再開。以後、継続的に作品のリリースやライブを行う。2015年、これまでの活動を総括したドキュメンタリームービー「DENKI GROOVE THE MOVIE?-石野卓球とピエール瀧-」(監督・大根仁)を公
開。
2016年、20周年となるFUJI ROCK FESTIVAL’16のGREEN STAGEにクロージングアクトとして出演。2019年、結成30周年を迎えた。


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