ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Toru Hashimoto 橋本徹がブラジリアン&ブリージンなコンピに込めた渋谷系の哲学 | 『Free Soul』&『Cafe Apres-midi』最新作をめぐって
  2. YOUNG JUJU ──現KEIJUのファースト・ソロ・アルバム『juzzy 92'』、10周年記念盤が発売
  3. Toshiya Sukegawa ──環境音楽の新たなアーカイヴが登場、作曲家・助川敏弥の未発表音源含む作品集
  4. THE CROWD──ele-king presents HIP HOP JAPAN
  5. Kassel Jaeger - Sub Re | カッセル・イェーガー
  6. Oyubi - White birch burns
  7. mary in the junkyard - Role Model Hermit | メアリー・イン・ザ・ジャンクヤード
  8. HASE-T ──プロデューサー活動25周年記念アルバム収録曲が数量限定テスト盤7インチとしてリリース
  9. P-VINE 50TH ANNIVERSARY POP UP STORE ──代官山蔦屋書店にてPヴァインのポップアップ・ストアが登場
  10. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  11. Seefeel - Sol.Hz | シーフィール
  12. 島崎森哉
  13. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド
  14. Columns ハテナ・フランセ 第13回:フランスにおけるダメ人間感とは?
  15. 吉岡誠 - 江戸アケミ、四万十川から
  16. GEZAN - I KNOW HOW NOW
  17. Columns 7月のジャズ Jazz in July 2026
  18. Cornelius ——コーネリアスがアルバム『Refractions』のリリースと新曲“Aeons”の配信開始を発表
  19. Simon Reynolds ——レイヴ・カルチャーの本質にあるのは政治性ではない、どれだけぶっ飛べるかだ:サイモン・レイノルズ『未来マニア』刊行のお知らせ
  20. R.I.P. Andrew Weatherall

Home >  Reviews >  Album Reviews > DJ Mitsu the Beats- ALL THIS LOVE

DJ Mitsu the Beats

Hip HopR&BSoul

DJ Mitsu the Beats

ALL THIS LOVE

Amazon

大前至   Mar 27,2020 UP

 仙台を拠点とするヒップホップ・グループ、GAGLE のメンバーであり、一人のプロデューサー/DJとしても多彩な活躍を繰り広げてきた DJ Mitsu the Beats。2003年リリースのファースト・ソロ・アルバム『New Awakening』に収録された、R&Bシンガーの Dwele をフィーチャした “Right Here” によって、彼はヒップホップ・プロデューサーという殻を見事に打ち破り、さらに2009年にリリースされたセカンド・アルバム『A Word To The Wise』では、ジャズ・ヴォーカリストの Jose James をゲストに迎えて “Promise In Love” というビッグ・チューンを生み出す。以降、ソロ・アーティストあるいは GAGLE として、その時代ごとにエッジの効いたヒップホップを追求してきたわけだが、“Promise In Love” に続く、Mitsu the Beats ならではの歌モノを求めていたファンも少なくなかったであろう。初の試みともいえる、歌とインストゥルメンタル曲のみで構成されている今回のアルバム『ALL THIS LOVE』は、そんなファンにとっても待望の一作となったに違いない。

 本作には4名の日本人シンガーと2名のゲスト・ミュージシャン、さらに Mitsu the Beats の原点とも言える “Promise In Love” のリミックスが加えられており、純度100%のソウル/R&B/ジャズ・アルバムとなっている。Mitsu the Beats の音楽性を表すのに、“ジャジー・ヒップホップ” という言葉は一つの代名詞のようにもなっているが、本作における彼のサウンド・プロダクションは、ヒップホップの基礎であるループという概念は保ちながらも、着実に進化している。ピアノを含む様々なキーボードの音色やベースなどによってビートに魂が吹き込まれて、巧みにトラックが展開してゆき、さらにそこに歌が乗ることで永遠の広がりさえも感じ取ることができる。もちろん、シンガーやミュージシャンといったゲストが加わることによる効果も大きいであろうが、Mitsu the Beats が本来持っている音楽性がより増幅された結果、本作のサウンドが完成しているのは疑いようがない。

 アルバムのタイトルの通り、本作のテーマは「愛」であるが、〈Jazzy Sport〉ファミリーでもある Marter が歌う “Togetherness” は、新型コロナによって世界中が混乱しているいまのこのタイミングにこそ最も聞いて欲しい一曲であり、暖かいメロディの中に “人類愛” という普遍的なメッセージが強く響いてくる。Marter 以外の日本勢3名は全て女性シンガーなのだが、テーマの捉え方も含めて、三者三様の異なるアプローチが試みられている。すでに共演歴のある Mahya との “You Are Mine” や、シンガーソングライターの Akiko Togo (東郷晶子)が英語で歌う “Moon & Sun” などは、比較的ストレートなソウル/R&Bチューンとして隙のない仕上がりであるが、一方で Naoko Sakai との “密” はビートのパターンがかなり独特で異質を放っている。それと同時にビートに乗るピアノやシンセのレイヤーが実に美しく、Naoko Sakai の歌の絡みも実に濃密で、アルバム中盤の良い意味でのアクセントとしても機能している。そして、もう一つのヴォーカル曲である “Promise In Love” のリミックスであるが、あの印象的な黒田卓也のトランペットが控えめになっていることに驚きつつ、オリジナルの良さが上手く現代に引き継がれている。

 一方、ゲスト・ミュージシャンに関してだが、“Intimate affairs” にクレジットされている cro-magnon のキーボーディスト、Takumi Kaneko (金子巧)は、実はこれ以外の複数の曲に参加しているそうで、本作の温かみある生のグルーヴを引き出した張本人とも言えるだろう。そして、もう一人、“Slalom” にフィーチャされている Mark de Clive-Lowe は、おそらく『New Awakening』以来の共演となる。“Intimate affairs” と “Slalom” ともにビートが4つ打ちで根底にはジャズという共通項も感じられる上で、パーカッシヴな前者、ブギーなグルーヴ感の後者と、それぞれの個性が見事に出ているのも非常に面白い。さらにゲストのクレジットのない3つのインスト曲も秀逸で、特に後半にセットされている “It’s Time” は実に気持ちの良いラヴァーズロック・チューンになっており、Mitsu the Beats の引き出しの豊かさに改めて驚かされる。

 ちなみにすでに制作中という次のアルバムでは、打って変わって、ラップ・アルバムを予定しているという。すでに Frank-N-Dank をフィーチャした “Splash” という曲のデモ・ヴァージョンが Spotify にて配信されており、Mitsu the Beats のハードな一面が引き出された実にタイトな仕上がりで、間違いなく本作とは全く異なる作風になるだろう。こちらも期待大だ。

大前至