「CE」と一致するもの

 Hello Hello! hey hey! heykazmaですッ!!
 今年もよろしくねん!!
 今回は~~~⟡‎♡‧₊˚
 2/2にリリースした、わたしの1st EP「15」について!!
 ライナーノーツ的なやつ、書いちゃいますよ!!

https://www.ele-king.net/news/012128/

 まず、EPタイトルの「15」ってなに? と思うあなたへ。ズバリ言うと、わたしの年齢です♪ このEPは “15歳までの時間” をぎゅっと詰め込むことをコンセプトにしています。これまでの思い出や感覚、その時々で感じていたことを、そのまま音に残すようなイメージで制作しました。
 ジャンルは特に縛りなく、わたしが好きなものを全部詰め込んでいます。Juke / Footwork、Techno、ノイズなど、そのときつくりたかった音を素直に形にしました!!!!!!!!
 アートワークは飯田エリカっちの撮影した写真をベースに、msmsちゃまが可愛い猫の絵&heykazmaのロゴを描いてくれました!! 超お気に入りアートワークすぎる、ナイスワーク感謝すぎます!!!
 てことで、楽曲の解説をしていきますで〜♪

1. 15

 EPのリード曲 “15”⟡‎♡‧₊˚
 “ALL THAT’S FOOTWORK” という、以前わたしが制作した曲をベースに、音を足したり引いたりしながら、いまの自分の感覚で作り直した曲です。今回はポエムコア、ラップ、ビート、ベースを入れて、かなり “いまの自分” を前に出した一曲になってます•¨•.¸¸☆*・゚
 近頃は、ヘイトスピーチやレイシズムに満ちた言葉を、SNSどころかまさかの路上で(もしくは車の上から汗)聞くこともあり、正直びっくりしています。世の中がそういう傾向にある? だとしたらとてもダサい。
 わたしは、誰に何を言われても「わたしはわたし」っていう気持ちを絶対に手放したくない。
 その感覚を、そのままポエトリーとしてラップに込めています。
 どこで生まれて、どこで息して、どこで育って、どこで学んでも「わたしはわたし」。メイクすること、好きな服を着ること、誰を好きになってどこで暮らすか、全てはわたしの自由だし、あなたの自由でもある。人を傷つけなければ、それで全部OKじゃん❣️ って思ってる。
 つまり、I am Iってことや⭑
 ベースはあっしの大親友・MAIYA(illiomote)に弾いてもらいました!!
 以前、マヴのあっこゴリラちのライヴを観に行ったとき、サポートでベースを弾いているMAIYAを見て「この人最高すぎっしょ」ってなって! 今回、曲にもう一段階深みを足したいなって思ったとき、「MAIYAにお願いしよう」って自然に思えて、参加してもらうことに。結果、最高すぎて感謝しかないっすわ✩*・

2. Pre Pariiiiiiiiiiiiiiin
3. Pariiiiiiiiiiiiiiiin

 この2曲は、セットでひとつの流れとして制作しました˖⁺‧₊˚✦
 リード曲 “15” とは対極にある存在で、空気が一気にexperimentalな方向へ傾いていきます。
 “Pre pariiiiiiiiiiiiiiin” はノンビートの楽曲として始まり、音の質感や余白そのものを意識した構成に。そこから “Pariiiiiiiiiiiiiiin” でビートが立ち上がり、Technoとして再構築されていく流れになっていますっっ!
 制作のきっかけは、以前栃木県・益子町を訪れたときの体験でした。益子陶器市の会場近くで、割れた陶器の破片が地面一面に散らばっている場所があり、そこを歩いたときの音をボイスメモで録音していました。陶器が擦れる乾いた音や不規則なリズムを細かくチョップし、ビートの素材として組み立てています。
 サウンド面で特に影響を受けたのは、Mick Harrisの別名義・FRETによる『Over Depth』や、Mark Fellの『multistability』。ビートを単なるリズムではなく、構造そのものとして扱う姿勢に強く惹かれました。
 踊れるけれど安定しすぎない、気持ちいいけれどどこか落ち着かない。その曖昧なバランスを大切にしながら制作した2曲です☆≡。゚.

4. Cat Power

 “Cat Power” も “15” と同じく、もともと “€at P0wer” という曲をBandcampでリリースしていて、そのトラックをベースに、音を足したり引いたりしながら、いまの自分の感覚で再構築していった一曲です꙳·˖✶
 この曲では、私の声に加えて、飼い猫のNancyの声をサンプリングしています。
 愛おしい猫ちゃん。my sweet catって感じで、何気ないおうち時間を、いつの間にか癒しの時間に変えてくれる存在です˚✧ ˖
 全部そばで受け止めてくれる感じがして。猫、ほんとに最高。猫の力は偉大!!!
 “15” でも影響を受けているけど、この曲は特に、関西のJukeアーティスト・PICNIC WOMENや、Satanicpornocultshopから影響を受けまくって制作しました₊♪‧˚*

5. Acid Noise

 さあさあ、EPいちばんの問題作、“Acid Noise” でございます!!! 名前のとおり、Noise Music。正直、EPのなかでもかなり振り切った一曲になってますし、完成に辿り着くまでいちばん時間がかかりました……。一歩間違えると、ただ効果音を並べただけみたいになっちゃうので、そのあたりはかなり工夫しています
 この曲は、仲良し・食品まつりちゃまの “KOUGEKI ROBOT” や、我らがmasonna先生、そして今回のEPプロデューサーであるカワムラユキの旧名義、VENUS FLY TRAPPの『Egology』などをリファレンスに制作しました!!!
 EPの流れのなかで、少し空気を壊すというか、耳と感覚を一回リセットするような存在になってたらうれしいです。これもいまの自分!!˚₊‧⁺˖

 てな感じで楽曲解説は以上です。ぜひこれを知った上で聞いてみてほしいな! リファレンスをまとめたプレイリストも作ったのでよければチェックしてみてくださいな。


https://youtube.com/playlist

 こっからはEPリリースのお祝いコメントを、わたしの大好きなアーティストの方々に書いていただきました!!
 ele-king編集長・野田氏、編集部・小林氏からもいただいております!!

EPリリースおめでとう!!
DJ、パーティーオーガナイザー、コラムニストなど、様々な視点からカルチャーを俯瞰している。その中で自由な泳ぎ方を見せている。決して誰かを強制したり、価値観を押しつけているわけではなく、私はあくまでこうあり続けるという一つの個として音楽を表現しているように感じる。その異色でありながら、色彩を選び抜く力というものは、オーガナイザーとしても培った、出会うことを知らない引力を、引き合わせる力を持ち合わせているからこそ生まれてくるものだと思う。
これからまだ見ぬ化学反応を起こしてくれることでしょう。
それを目撃し続けたいです。
- 北村蕗

ビートのバリエーションの豊富さ、サウンドもトライバル感ありつつ、フィールドレコーディング的なサウンドも織り交ぜて音響的にもめちゃくちゃヤバいepです
- 食品まつり a.k.a FOODMAN

ここにエレクトロニック・ミュージック界の新星、耳を澄ませ! - 野田努 / ele-king 編集長
最初の輝きはいつまでも色あせない――期待の原石がついに転がりはじめた - 小林拓音 / ele-king 編集部

衝撃の15歳!!! 1st EPリリースおめでとうございます!!!
この年齢で、ここまで自分の世界観と音を持っているなんて、可能性しか感じません!!!
これからどんな景色を見せてくれるのか、どんな進化をしていくのか、今から楽しみすぎます!!!心からのリスペクトと応援を込めて。
- もりたみどり / WAIFU

ついにこの時が来た!!!hey様の、踊りながら飛び出してくるような立体的な躍動エネルギーを、世界が、浴びたがっている!!!!
- ShiShi Yamazaki

高円寺のあれこれレコードショップLOS APSON?周辺にて勃興するイベント、DDMメンバーとしても登場してもらっている高一エクスペリメンタル妖怪系クリエイター!?heykazmaが、新しいEPをリリースするというので聴いてみたっ!!! 現代のテンポ感で刻まれる鳴りの良いフレッシュダンサブルサウンドと、ライトなコラージュ感覚で、ポジティブなバイブスを無限に放っています!
- 山辺圭司 / LOS APSON?

heyちゃんの楽曲でベースを弾きました!オファーをもらった時にえ、ベース!?
となったんですがheykazmaの頼み断るわけがない!みんなを新しい世界に引き込んでしまうようなheyちゃんにいつもパワーをもらっているし、こうした形で大きなスタートに関われて嬉しいです。ありがとう。未来でしかない!EPリリース本当におめでとう。
- Maiya Toyama / illiomote

素晴らしいスタートライン!ポップなフットワークビートも、エクスペリメンタルなノイズも、heykazmaの血肉となって通過した痕跡を残し、めちゃくちゃエネルギッシュ!heykazmaが本格的にプロデューサーとして活動を始めたことは、これからのテクノの希望でしかない˚. ✦
- 壱タカシ

「15」。原子記号で言えば燐。空気中で自然発火する元素だ。ギリシャ語Phosphorusフォスフォロスとは、「光をもたらす者」もしくは「明の明星」。明け方太陽に先立ち光輝く金星だ。奇しくもプロデューサーのカワムラの通称はヴィーナス(金星)。このデビューEPがクラブシーンにおいて、いち早く光もたらすアルバムにならんことを!
- ヴィヴィアン佐藤

 そんなわけで、heykazma 1st EP「15」特集でした。
 ぜひみなさんサブスクで1000000000000回聴くのはもちろん、Bandcampでも音源販売中ですのでサポート何卒よろしくお願いします!!!!

 そして、お知らせ!
 heykazmaのHPができました。
 いろんな情報ここからチェックできるようになってるので、ぜひみんなみてみてね〜
 https://sites.google.com/umaa.net/heykazma-official/

 最後に、私が都内でお気に入りのベニューであり、桜台poolのオーナーでもあるカイライバンチの清水さんが、先日お亡くなりになりました。
 poolのような文化的な場を自らつくりあげ、その空間を守り続けてこられた清水さんのような先輩方がいたからこそ、私たちは自由に、そして尖った表現を続けることができたのだと心から思います。
 つい先日、友人の魔女・円香さんが主催するイベント「Circle 2026」が桜台poolで開催され、私もDJとして出演させていただきました。その際に清水さんにお会いしたばかりだったので、二週間後に訃報を知り、あらためて日々のかけがえのなさを強く感じました。
 心よりご冥福をお祈り申し上げます。
DuctronTwin2020
 ではではまたどこかでお会いしましょう.
 またね ࣭ ⭑

Jill Scott - ele-king

 ニッキ・ジョヴァンニの『双子座のおんな』を、ものすごく久しぶりに読んだ。この本を初めて手にしたのは、かれこれ40年も前のこと。呆れるほど無知な若造だった頃で、まあ、端的に言えばそのときは読んでもまったくわからなかった。
 だいたい黒人文化について無学だった。自慢じゃないが、60年代の政治の季節(ロング・ホット・サマー)についても、リロイ・ジョーンズのブラック・アーツ・ムーヴメントに関しても、ましてや、白人が牛耳る国の黒人であり、男性が牛耳る世界の女性の書いたエッセイなど、まるっきり理解できるはずもない。すべてが他人事であり、20歳くらいの若い女性から発せられる「ママ、世界中で黒人の革命がおこるのよ、準備しなくちゃ」という言葉も、なんだか絵空事に思えてしまうのだった。

 ジル・スコット──クラブ・ミュージックに親しんでいる人にとっては、アースラ・ラッカーと並んでもっとも馴染み深いネオ・ソウル/ニュー・フィリー系の歌手──の10年ぶりの新作、まずはアートワークに惹かれた。黒人女性の顔に細かく文字が描かれたそのカヴァー──「We can save ourselves(私たちは自分たちを救える)」「Your rules are nothing(あんたらのルールなど無意味だ)」といった力強いアファメーションが目に入る。目を凝らせば、「one day we will destroy of all those who wish to harm us(いつか私たちは、私たちを傷つけようとする者たちをことごとく打ち滅ぼすだろう)」が読めるし、首飾りには何重にも、ほとんど言霊か呪詛のように「we fight(私たちは闘う)」とある。
 クールだ。
 ベル・フックスによれば、アメリカの白人至上主義社会のなかで創出された「クール(格好いい)」なる黒人英語がほんらい意味するところは、黒人が家父長制的な支配力を持つことなんぞではない。クールとは──「精神を荒廃させることなく、いかに人生の苦難に立ち向かうか」「苦しみを受け入れ、それを錬金術のようにして黄金へと変えること、その燃焼のプロセスに必要とされる凄まじい熱量にも耐え、自分を見失わない能力」だという。

 ここでもう一冊、米国文学の研究者、新田啓子の『アメリカの黒い傷痕』を紹介したい。このすばらしく魅力的な書物のなかの、「生を肯定する理由」と題された論考には黒人音楽ファンにとって必読の洞察がある。いまでは黒人霊歌と知られる、すなわちかつての “奴隷たちの歌” には、死に関する歌が多く、恋愛に関する歌が少ない(なぜならそれは日常的に手の届かないものだった)という史実を前提に、在りし日の、アメリカ黒人の〝人生における限界〟について延べながら、しかし、──

ゲットーで滅びることが意図されている社会を生きてこられたのは、彼らの愛する能力ゆえのことであったと断言する思想家が現れる。それはジェイムズ・ボールドウィンであった──

 と、新田啓子は綴る。そして、ボールドウィンの名エッセイ集——BLM以降、世界中で再評価された——『次は火だ』の序文を引用しつつ、こう続ける。

愛が欠如の、また不可能性の別名であるとの理解に基づくリアリズムは、逆に黒人たちを、愛という積極的な活動に、意識的に駆り立てたのだという理解がここにある。黒人たちは絶滅することを拒絶して、つまり生きたいという意志を行使して、おのれの「滅び」を期する社会の思惑に敢然と抗してきたとボールドウィンは主張する。

 人間から、金も地位も、家も、服も、尊厳さえも、人生にかかわるありとあらゆるものすべてが奪われても、それでもその人間たちを生かしてきたのは「愛」である、とボールドウィンは言っている──そのことを新田啓子は「生を肯定する理由」のなかで書いた。

 いつまでも清志郎と言ってるな、という人たちに言ってやりたい。同じように、いつまでもボールドウィンと言ってるな、と言えるのかと。
 地球の数字上では、何をしようがしなかろうが時代は進み、子供が生まれる限りは新しい世代が台頭する。それは当たり前のことである。ブラック・ミュージックはしかし、かつてもいまも、いや、おそらくは70年代初頭のPファンク(ジョージ・クリントン)あたりから、古き自分たちの先駆者たちを敬い続けている。

 ブラック・ミュージックにおける「愛」の強度——その「愛」が、波瀾万丈で、苦難に満ち、歯の浮いたようなものではないことは、ここであらためて言うまでもない話だが、本を読みながら、愛の謳歌が、ブラック・カルチャーの文脈においては革命的なことだった、と言いたくなってきた。いずれにせよ、60年代の黒人解放闘争に身を投じたひとりの黒人女流詩人=ニッキ・ジョヴァンニを、10代における影響源のひとつとするジル・スコットが愛の歌を歌うことも、60年代の理想主義を現代に掲げたザ・ソウルアクエリアンズ(ザ・ルーツ、コモン、モス・デフ、Jディラ、エリカ・バドゥ、ディアンジェロたちから成る左派系コレクティヴ)に合流することも必然だったのである。
 もっともジル・スコットはフィラデルフィア、そもそも彼女を見出したザ・ルーツのクエストラヴやアースラ・ラッカーと同郷で……てことは、キング・ブリットやムーア・マザーとも同郷なのであって、いや、すごい、サン・ラとアーケストラが最後に住居を構えたのもフィラデルフィアだし、最近ではDJハラムもそうだった。(フィラデルフィアは、それこそダンスフロアの基準となったキックの四つ打ちの故郷である)
 
 ジル・スコットの新作『To Whom This May Concern(関係者各位)』は、出だしが抜群に格好いい。フリー・ジャズと詩/ラップが、リズムのうねりに乗って胸躍るように流れていく。フランキー・ベヴァリー[*フィリー・ソウルの代表。Mazeで知られる]のようになりたいと語っているスコットは、確実にベヴァリーのように、人生の積み重ねのなかで作品を磨いている。50歳になったことを喜ぶ彼女は、ポップの世界で言えば、若作りに励む万能の威厳たちとは対極にいる。太ってもかまわないし、それが人間にとってのマイナスだとも思っていない。

私は「あっち側」の美意識エステティックじゃなかった
ええ、わかってる、わかってる
綺麗で、飾り立てられた外見
初歩的で、型にはまった世界
彼女らと同じように見えなきゃいけないっていう、
すごいプレッシャー

 これは“The Aesthetic”という曲の、スコットらしくユーモラスに時代を風刺したリリックの断片である。こうした〝囚われていない〟ことの余裕、優雅さ、資本主義的な価値観から自由な感性が、そのまま音楽にも反映されるのは当然だ。ニューオーリンズのミュージシャン、トロンボーン・ショーティによるビッグバンドをフィーチャーした大らかな“Be Great”、そしてキレキレのファンクに乗った“Beautiful People”、ウエストコースト・ヒップホップの先駆者トゥー・ショートを招いた“BPOTY”、アトランタの(非トラップ系)ラッパー、JIDを迎えた“To B Honest”等々、アルバムは活気に満ちてる。

 『双子座のおんな』には、(当時白人聴衆にバカ受けした)スライ・ストーンが、しかしじつは密かに黒人に向けて歌った言い回しの(きわめて政治的な)歌詞の一節が解読されている。『To Whom This May Concern』という、日本語でいうところの「関係者各位」や「ご担当者様」にあたる英語のフォーマルな言葉を題名とした新作は、〝(人種に関係なく)受け取るべき人が受け取ればいい〟、そういうメッセージでもあるとぼくは受け取った。スコットはこのアルバムについてこう語っている。
 「聴き終えたあとに、静寂がうるさすぎて耐えられないような、ぽっかりとした穴を感じてほしい。そこから立ち上がって何か行動を起こすか、あるいはもういちど最初からレコードをかけ直すか、自分がいまどこにいるのか、それが本当に自分の望んでいることなのかを、真剣に考えるきっかけになってほしい」

 ブラック・ミュージックとは、世界がこうなったらいいよね、という音楽ではない。こうでなくちゃ私ら困るんだよ、だ(でなきゃ、次は火だ)。
 ジル・スコットには、こんなポジティヴなエネルギーをありがとう、とぼくは言いたい。ジェイムズ・ボールドウィンは、人種差別(対白人)だけではなく、異性愛モダニズムとも闘わなければならなかった文学者だ。ニッキ・ジョヴァンニは、人種差別だけでなく、運動内部の家父長制(対男性)とも戦わなければならなかった女流詩人である。スコットの新作には、“ニッキに捧ぐ詩(Ode to Nikki)” という詩の朗読からはいる曲がある。ジル・スコットはもともとは、歌手ではなく、詩人(スポークン・ワード・アーティスト)としてはじまっているのだ。愛と革命の詩人がいまも自分たちのなかで生きていることを祝福するこの曲は、彼女自身の音楽について語っているようにも思えてしまう。

ニッキに捧げる頌歌

彼女は終わりのないループに閉じ込められてなんていない
彼女は自分自身のシンフォニーに合わせて体を揺らし
ハンモックに揺られながら、そよ風を感じている
自ら動機づけ、自らを満たし
驚きに満ちた好奇心、
エキサイティングな高揚感、
打ち砕かれた檻
大いなる誇りと、謙虚さ、そして多くの失敗
これ以上、自分を卑下する必要なんてない
(何のために? 誰のために?)
絶景、意図的な贅沢
精神でスプーンを曲げるような力、複雑な単純明快さ
親密で、太陽に触れられた美しい存在たち
輝きを再定義し、音の振動となって共鳴している

私たちは共にいる、同じ羽を持つ鳥のように
立ち上がり、昇り続け、繁栄し、見つけ出していく
最高に美しく、最高に魅惑的で、最高に心を奪われる
そんなエネルギーを

■参考文献↓

world's end girlfriend - ele-king

 2年前のあの日のことをおぼえているだろうか。前年にひさびさのアルバム『Resistance & The Blessing』が発表され、満を持しての開催となったスペシャル・ライヴ「抵抗と祝福の夜」。world's end girlfriendによるこの特別な一夜が、2026年もとりおこなわれることとなった。6月13日(土)、会場は前回同様EXシアター六本木。強烈な音と光の体験があなたの人生を塗り替える──。なお収益の一部は、生活困窮者を支援しているNPO法人、抱樸に寄付されるとのことです。

world's end girlfriendワンマンライブ
「抵抗と祝福の夜 2026」が
6月13日(土)EXシアター六本木で開催決定。

本公演は全席指定。
拍手、歓声、私語、立見禁止。
MC、アンコール、終演後物販無し。

「抵抗と祝福の夜 2026」はworld's end girlfriendが理想とする
ライブコンサートの形式で行われ、
これまでの集大成となる強烈なライブ公演になります。

本公演は強烈な爆音と強い光を伴います。
耳栓の持参など耳と目は各自で保護ください。

スマホによる撮影は許可されますが、
ライブ全編や1曲全編を撮影するのはご遠慮ください。
周りへの思いやりと想像力を持って行動ください。

また、本公演のライブ・チケット売上の20%、
ライブ音源、ライブ映像データ売上の80%が寄付されます。
寄付先は
NPO法人抱樸 https://www.houboku.net/
を予定してます。寄付完了後にSNSで報告します。

公演名:world's end girlfriend『抵抗と祝福の夜 2026』

日程:2026年6月13日(土)
開場 18:00 開演 19:00

会場:EXシアター六本木
https://www.ex-theater.com/access/

チケット販売ページ:
https://virginbabylonrecords.bandcamp.com/album/special-ticket-2026

特別チケット:
SS席 45ドル
S席 40ドル
A席 38ドル
B席 31ドル
*座席は座席表画像の各枠より抽選にて選ばれます。
*チケットは5月中旬に送付予定。

LIVE AUDIO DATA:
world's end girlfriend『抵抗と祝福の夜 2026』
[2026/06/13ライブ音源データ](11月より発送開始予定)
価格39ドル

LIVE VIDEO DATA:
world's end girlfriend『抵抗と祝福の夜 2026』
[2026/06/13ライブ映像データ](11月より発送開始予定)
価格49ドル

Artwork by Yu Anthony Yamada

2月のジャズ - ele-king

Tigran Hamasyan
Manifeste

Naïve

自身の出目であるアルメニアの民謡から教会音楽やクラシック、ロックやヘヴィ・メタル、プログレ、ダブステップやビート・ミュージックなどエレクトリック・ミュージックの影響を受け、独自の活動を続けているティグラン・ハマシアン。2020年に発表した『The Call Within』は、20世紀初頭にオスマン帝国との民族紛争を逃れてアメリカに渡ったアルメニア移民についての楽曲があるように、アルメニアン・ディアスポラとしてのティグランの在り方を示す作品でもあった。その後はアメリカのジャズ・スタンダード集である『StandArt』(2022年)、アルメニアの国鳥である火の鳥を題材にアルメニアの民話に基づいた『Bird Of A Thousand Voices』(2024年)と、異なる色合いのアルバムをリリースしている。これらのレコーディング時期は大体2019年から2021年にかけてのもので、『The Call Within』については2019年の録音だったが、最新作の『Manifeste』は2023年から2025年にかけ、アルメニアの首都であるエレバンから、アテネ、モスクワ、ロサンゼルスと世界各地でおこなわれたレコーディングをまとめたものとなる。

 参加メンバーはマーク・カラペティアン(ベース)、エヴァン・マリネン(ベース)、ネイト・ウッド(ドラムス)、アーサー・ナーテク(ドラムス)といったこれまでも共演してきたメンバーはじめ、アルティョム・マヌキアン(チェロ、ベース)、アルマン・ムナツァカニャン(ドラムス)、ダニエル・メルコニャン(トランペット)などアルメニア人のミュージシャン、クリスティーナ・ヴォスカニャン指揮によるエレバン国立室内合唱団など。“Prelude for All Seekers”はクラシック的なピアノ演奏が精密なテクスチャーを導くなか、ビート感覚に溢れたリズム・セクションと交わるテクノ・ミーツ・ジャズというような作品。後半に向けてアグレッシヴに進むなか、エンディングに美しいピアノ・ソロが訪れる構成も秀逸である。“Ultradance”はダブステップにインスパイアされたダイナミックなビートを持つナンバーで、ビートの谷間に訪れる静穏なピアノ・フレーズとの対比が素晴らしい。アルメニア語で“悩みや悲しみを取り除いてくれる人やもの”という意味を持つ“Dardahan”は、シンセを通して変調されたヴォイスを交えたアルメニア特有のメロディを持つ。“One Body, One Blood”はエレバン国立室内合唱団による幽玄のようなコーラスをフィーチャーし、中世の教会音楽のような荘厳な世界とクリック・テクノのようなトラックが融合する。戦時下で生きる子どもたちに捧げられた“War Time Poem”には、プログレのような強烈なサウンドとレクイエムのように静かな悲しさを湛えた世界が交錯する。今作もティグランのアイデンティティが強く反映された独自の作品集となっている。


Momoko Gill
Momoko

Strut

 モモコ・ギルは日系英国人のドラマー/ヴォーカリストで、即興演奏から作曲/プロデュースもおこなうマルチ・アーティストである。オックスフォードで生まれ、京都、横浜、アメリカのサンタバーバラへと移り住みながら育ち、独学で学んだドラムをはじめキーボードなども操り、現在はロンドンを拠点に音楽活動をおこなう。ロンドンのジャズやインプロヴィゼイション・シーンからオルタナティヴ・シーンと縦横無尽に活動し、アラバスター・デプルーム、コビー・セイティルザなど幅広いアーティストと共演してきた。エレクトロニック・ミュージックの分野ではマシュー・ハーバートコラボ作『Clay』(2025年)が知られるところで、またラッパーの、ナディーム・ディン・ガビージと一緒にアン・エイリアン・コールド・ハーモニーというプロジェクトもおこなっている。そんなモモコ・ギルが満を持してソロ・アルバム『Momoko』をリリースした。

 セルフ・プロデュースとなる『Momoko』は、ロンドンのトータル・リフレシュメント・センターでレコーディングをおこない、マシュー・ハーバートがミックスを担当する。ドラム、キーボードはじめ楽器演奏などは基本的にモモコひとりによる多重録音がおこなわれ、彼女自身のヴォーカルのほかにシャバカ・ハッチングス、ソウェト・キンチ、アラバスター・デプルーム、コビー・セイ、マリーシア・オスーらが名を連ねた50名にも及ぶコーラス隊がフォローする。“No Others”は軽やかにシャッフルするリズムに乗って、モモコの伸びやかなヴォーカルが浮遊感に包まれたムードを作り出す。アルバムのなかでもっともジャズの要素が強い作品だ。“When Palestine Is Free”はコーラス隊とホーン・アンサンブル(クレジットはないが、おそらくシャバカ・ハッチングス、ソウェト・キンチ、アラバスター・デプルームらが演奏していると思われる)をフィーチャーした重厚な作品で、モモコのドラムはマーチング・ソングとブロークンビーツを混ぜたようなリズムを作り出す。そして、フィールド・レコーディングや環境音も取り入れた作曲がおこなわれている点は、コラボレーターでもあるマシュー・ハーバートの影響があるのかもしれない。


Amir Bresler
See What Happens

Raw Tapes

 イスラエルのジャズ・シーンで新世代ミュージシャンとして注目を集めるキーボード奏者/マルチ・ミュージシャン/プロデューサーのリジョイサーことユヴァル・ハヴキン。彼はいろいろなグループやプロジェクトをやっているが、そのなかのひとつである4人組グループのアピフェラや、ヒップホップとジャズのミクチャー・バンドのL.B.T.、ユヴァル周辺のミュージシャンが集まったタイム・グローヴでドラマーを務めるのがアミール・ブレスラーである。ほかにも世界的なベーシストのアヴィシャイ・コーエンのグループ、ピアニストのオメル・クレインのトリオ、サックス奏者のアミット・フリードマンのグループ、トランペット奏者のセフィ・ジスリング、キーボード奏者のノモックと組んだアフロ・ジャズ・バンドのリキッド・サルーン、フォーク・ロック・バンドのフォリー・トゥリーなどで活動するなど、現在のイスラエルを代表するミュージシャンのひとりである。ジャズ、ファンク、ロック、サイケ、プログレ、フォーク、オルタナ、R&Bなどいろいろな音楽に通じたヴァーサタイルなミュージシャンで、これまでソロ作品も『House Of Arches』(2022年)、『Tide & Time』(2024年)などを発表。これらの作品はリジョイサー、ノモック、ニタイ・ハーシュコビッツなど、日頃から一緒に演奏をしてきた仲間たちが参加しており、ジャズ、アフロ、ファンク、サイケなどが融合した内容となっている。

 最新アルバムの『See What Happens』は過去12年間に渡るレコーディング音源やセッションなどをまとめたものである。アミール・ブレスラーはドラム以外にギター、ベース、キーボード、パーカッションなどを演奏するマルチ・ミュージシャンぶりを発揮し、プログラミングなどトラック・メイクもおこなう。共演者にはリジョイサー、ノモック、セフィ・ジスリング、ニタイ・ハーシュコビッツ、ジェニー・ペンキン、ケレン・ダン、イツァーク・ヴァントーラなどイスラエル・シーンの仲間たちが名を連ねる。今回も彼のさまざまな音楽性が融合した内容だが、おすすめはケレン・ダンをフィーチャーした“See What Happens”と“Who Will Hold Your Hand”。ケレンはリジョイサー、ベノ・ヘンドラーとのバターリング・トリオで活躍し、L.B.T.のメンバーでもあるマルチ・ミュージシャン/シンガーであるが、今回はヴォーカリストとしてこの2曲に参加している。原初的でエキゾティックなグルーヴに包まれた“See What Happens”、変拍子による不思議なグルーヴを持つジャズ・ファンク“Who Will Hold Your Hand”と、フェアリーな魅力を持つケレン・ダンの歌声が生かされている。リジョイサーをフィーチャーした“Lesoto”など、アンビエントなフィーリングを持つ作品も印象的。


Joabe Reis
Drive Slow - A Última das Fantasias

Batuki

 ジョアベ・ヘイスはブラジルの新進トロンボーン奏者/作曲家で、ジャズ、ファンク、MPB、サンバ、ヒップホップなどを吸収してきた。1970年代から活動するベテランのキーボード奏者/作曲家のネルソン・アイレス率いるビッグ・バンドで演奏をしてきたほか、エルメート・パスコアール、エヂ・モッタなどブラジルのアーティストから、アメリカのロビン・ユーバンクス、マーシャル・ギルケス、メイシー・グレイなどとも共演してきた。自身のソロ作品としては2024年にファースト・アルバムとなる『028』をリリース。オリジナル曲のほかにジャヴァン、ジルベルト・ジル、アジムスとフローラ・プリムの楽曲をカヴァーしていて、そのアジムス/フローラ・プリムの“Partido Alto”ではイエロージャケッツなどの活動で有名なアメリカのサックス奏者のボブ・ミンツァーと共演している。

 新作の『Drive Slow - A Última das Fantasias』は、ダニエル・ピニェイロ(ドラムス)、デデ・シルヴァ(ドラムス)、アジェノール・デ・ロレンツィ(キーボード)、ジョシュア・ロペス(テナー・サックス)、シドマー・ヴィエイラ(トランペット)、マルチェロ・デ・ラマーレ(ギター)といった『028』でも演奏していた面々に加え、新進ピアニストとして注目を集めるエドゥアルド・ファリアスやベーシストのフレデリコ・エリオドロらがバックを固める。ほかにゲストでラッパーのズディジーラとシンガーのエオラ・オランダ、アメリカからトランペット奏者のシオ・クローカーも参加する。“Simbiose (Nefertiti)”は人力ブロークンビーツのようなビートでソリッドに展開するジャズ・ファンク。全体にエズラ・コレクティヴなどUKジャズに近い雰囲気を持ち、エドゥアルド・ファリアスのピアノもジョー・アーモン・ジョーンズあたりを彷彿とさせる。ジョアベ・ヘイスのトロンボーンをはじめとしたホーンの掛け合いもスリリングだ。“Baile Real”はサンバにブギーやファンクをミックスしたブラジルらしい楽曲で、かつてのバンダ・ブラック・リオあたりを思い起こさせる。

DJRUM - SUSTAIN-RELEASE x PACIFIC MODE - ele-king

 日中は新宿SPACEで雑食極まりない80分のDJセット。グルーヴを保ちつつ古今東西のレフトフィールドな作品を行き来する、という直近のムードを形にできた。明日への不安が強まったときの現場は気合が入る。出演を終え、渋谷のWOMBを目指す。今夜は〈SUSTAIN-RELEASE x PACIFIC MODE〉へ。

 説明不要かもしれないが、オーロラ・ハラル率いるUS最高峰のレイヴ・パーティと、日本人DJのHealthy氏による東京とNYを繋ぐパーティ・シリーズのコラボレーション。今回は、なんとプリオリ(Priori)のライヴセットとドラム(DjRUM、jは発音しないらしい)のDJセットを同時に招聘するという豪華な座組。真裏ではMIDNIGHT EASTにてObjekt×CCLの来日公演も開催中で、円安極まる世相はあれど東京のクラブ熱の高まりを感じる。WOMBに並ぶのもかなり久々のことだし、列を形成しているのがインバウンドだけというわけでもなく、少しはいい兆しもあるのかも。

 フロアにようやく入ると、4FオープナーのHue Rayが最後の曲をかけLil Mofo氏にパスを回すところだった。Hue RayというDJはE.O.UやVìs、Ryogoといった京都のクラブ・シーンと深い関わりを持つ新鋭で、現在は東京を拠点に活動。最近〈PACIFIC MODE〉に加入したようで、卓越したセンスをさらに開花させている。この4Fラウンジの構成が素晴らしく、Hue Ray / Lil Mofo / YELLOWHURU (FLATTOP)という、東京のアンダーグラウンド/ローカルに根ざした三者がロング・セットで空間に艶を与える内容。コラボレーション開催の意義深さを感じた。

 ふらっと訪れたわりに、とにかくさまざまな人に出会う。どちらかといえばプロパーなテクノの場であるにもかかわらず、日本のハイパーポップ・シーンに近しい若手や、K/A/T/O MASSACREを通じて知り合ったような人たちに。僕の主催する〈第四の道〉で長く一緒にやってきているDJ/プロデューサーのillequalTelematic Visionsとも合流。余談だが、〈Basic Channel〉に小学生の頃から親しんでいた2006年生まれのTelematic Visionsは、2月頭にようやく二十歳を迎え、こうしたパーティに堂々と入れるようになったばかり。乾杯できる日を5年以上待っていたぶん、ここで一緒に遊べるのは不思議な気持ち。

 それにしても、ここ数年で身の回りのモードが随分と変化していった。プロパーなクラブ・シーンにいる人たちからすれば、僕らのようなDJはあいかわらずよくわからないことをやっている傍流の存在に見えているのかもしれないけれど、いや、変わってきてますよ。少なくとも、少し前なら「プリオリ始まってる!」とメインフロアに駆け出していくような若者は、周りにはほとんどいなかったわけで。

 そんなプリオリのライヴ・セットを後半にかけて鑑賞。秩序と抑制を感じさせる深みのあるダブ・テクノ~ミニマル主体のサウンドに、ごくわずかな違和感を混入させていく重厚感あふれる内容だった。質実剛健、それでいてたおやかな姿勢は、作品とも同じ一貫性を感じさせる。

 その後、ドラムによる2時間のDJセットがスタート。昨年発表されたIDMとポスト・クラシカルが調和する名盤『Under Tangled Silence』の雰囲気を期待していた自分としては、ライヴを観てみたかったなあ、と発表時には思っていたものの、このDJセットが本当に圧巻だった。敷地内を徘徊する遊び方のほうが好きな自分は、2時間フルでメイン・フロアに釘付けにされること自体が久々で、あまり酒も飲まず最前列に押しかけ、熱狂しつつその手腕に舌を巻くばかりだった。

 「テクノ/ハウスの歴史とマナー」に沿ったこのパーティに奇襲をかけるように、まずはジャングルとIDMの嵐でフロアを圧倒。出音の迫力もすさまじい。そこからフェイントをかけるようにヤーマンなダブ、レフトフィールド・ベース、ポスト・ダブステップ、ゲットー・テック的エレクトロや怪しげなブート盤、マイクロ・ハウス、アシッド・テクノ、ブレイクコアなどを行ったり来たり。音像もBPMも目まぐるしく変動し続けるのに、謎の安定感が紙一重でグルーヴを支える。こうした綱渡り的なマルチ・ジャンルDJがいかに大変かは、雑食で目移りしやすい性分が選曲に直結している身として痛感していて、だからこそ目の前で展開されている営みがいかにとてつもないかがわかる。わかるからこそ、わからない。どうしてこんなDJができるんだろう、しかもあの作品を作れる人が……と、開いた口が塞がらない。

 ヴァイナル3台とは思えないほどビートマッチの精度・スピードも早く、リズムがブレそうになった途端にROLLエフェクトでデッキの役割をサンプラーに変換するなど、技術面だけを切り取っても一流そのもの。しかしながら、ドラムのDJセットの真価は選曲と展開のつくり方にあることが今回ハッキリとわかった。セレクターとして、もしかすると『Under Tangled Silence』の世界観よりも強い記名性を備えているのではないか。

 気づけば30分、60分、90分、と時間が溶ける。終盤、トラップのようにフットワークを一瞬聴かせる采配に、隣のillequalが見たことのない表情をしていた。最後のほうにマライア・キャリーの謎のエディットがかかり、その後R&Bなのか、トリップホップか、メロウな方面に着地。あれはいったいどういうレコードなんだろう? まだまだ全然音楽のことを知らないな……と最後まで打ちのめされっぱなしだった。テクノを求めるクラバーはマルチ・ジャンル極まる内容に引いていたかもしれないけれど、UKクラブ・カルチャーの懐の深さや多国籍的なセレクトに本当に感動した。すばらしいギグだった──人生最良とすら言えるほどの。

 ちなみに、ドラムのあとにはオーロラ・ハラルのロング・セットも控えていたのだけれど……彼のDJセットのあまりの内容に憔悴し、ふらふらと4Fラウンジへ移動。YELLOWHURU氏の陶酔感あふれる選曲に耳を傾けながらとりとめのない話に終始、映画館を出たあとに立ち寄る喫茶店のような過ごしかたでピークタイム後を棒に振ってしまった。ただ、ドラムによるフロアへのサジェストを引き継ぐことなく、ヌルっと四つ打ちにシフトして切り替わる流れには、目に見えない断絶を感じてしまい乗り切れず。プロパーなテクノの美学に100%乗り切れない自分の雑食さ、邪道さ、傍流趣味を改めて強く再確認。しかし誇らしい。「まあ、自分が好きなのはこれなんでね」という気持ちがコンプレックスや負い目なく自然と湧き上がるような、自由闊達な彼のDJセットに本当に勇気づけられた。がんばろう。

 夜明け前、Hue Rayたちに挨拶をしてWOMBを出ると、眼前には雪化粧の円山町が広がっていた。嘘みたいな静けさ。翌日の衆院選の暗澹たる結果を直視する前に、綺麗な景色を目に焼き付けて帰れたことがせめてもの救いか。忘れられない一夜となりました。

xiexie - ele-king

 xiexieを知らない人に紹介するのなら、まずアジアにおけるインディ・ロック・シーンの豊かな土壌について触れないわけにはいかない。

 台湾の落日飛車(Sunset Rollercoaster)、EVERFOR、打倒三明治(sandwich fail)などをはじめとして、東〜東南アジアの国と地域にはドリーム・ポップ、インディ・ポップ、AOR、チル、メロウ、浮遊感といった言葉で説明されるバンドが点在している。ここ10余年で顕在化した、非常に広い範囲に緩く共有されたひとつのシーンといえる。支配的というほどのシェアではないにせよ、アジアにはこうした音楽性のバンドを好意的に受け入れるマーケットが確かに存在しているのだ。

 2024年、台湾の野外フェスに出演したxiexieは、ネームヴァリューでも奇をてらったパフォーマンスでもなく、ただただ鳴らしている音楽のよさだけで存在を証明してみせた。
 ステージ間を移動中の観客たちが、立ち寄る予定のなかったステージの方角から漏れ聴こえるxiexieの演奏に足を止める。ひとりまたひとりと惹き寄せられ、xiexieは最終的に超満員の観客から喝采を浴びた。ロック・バンドのマジックを信じている人なら誰もが夢見る光景を実現させてしまったバンド、それがxiexieだ。

 その要因として、xiexieの淡く揺蕩うようなサウンドが、先述したいわゆる“ドリーミー”な音楽性を希求する土壌に“刺さった”ことが挙げられる。それは間違いないのだが、あくまで結果的に似たものを解釈しうるだけであって、彼らのオリジンはドリーム・ポップとは別のところにある。

 バンドの発起人である飛田興一は、xiexie結成当初のリファレンスとしてビッグ・シーフやリアル・エステートをはじめとした2010年代のUSインディを挙げている。
 それを踏まえてxiexieの音楽を聴けばぐっとピントが合うはずだ。ドリーム・ポップやAORからの影響よりも、まさしくビッグ・シーフやリアル・エステート由来のフォーキーなフレージングが土台に感じられるだろう。
 今回のリリースでもそうした部分は通底して感じられる。特に『ocean』のリフには当時のUSインディを想起させるノスタルジーや少しばかりの妖しさが匂い立つ。

 また、USインディ的な土台を包み込むようにかかった強めのリヴァーブがリファレンス2バンドとのわかりやすい相違点と言え、またこれこそが結果論として“ドリーミー”という見方に繋がったと推測できる。
 ただ、xiexieは“ドリーミー”をやろうとしてやっているわけではないのだ。どちらかといえばxiexieのリヴァーブは“サイケデリア”と形容すべき系譜のものでは、と思うところもある。
 今作でも1曲目の“sleeping in my car”から一貫してリヴァーブが前面に出ている。特にヴォーカルとギターへのかけ具合がちょうど同程度に感じられ、ひとかたまりの音像として向かってくる印象。リヴァーブは霧のようとかスモーキーとか喩えられることが多いが、今作の場合はしっかりと角が立つクリームのような厚みとふくよかさが感じられる。そうした音作りは、『zzz』というタイトル、ならびに「無意識をめぐるひとつの旅」という今作のテーマにぴったりだ。ボリュームのある羽毛布団に包まれて微睡むような充足感を想起させる。

 もうひとつ、xiexieの音楽性を形作る要素として見逃せない点がある。メンバーそれぞれがジャズ、ファンク、ボサノヴァ、アシッド・ジャズなど、横ノリの音楽を経てxiexieに参加している、その経歴だ。つまり“踊らせようと思えば踊らせられる”人たちなのだということ。
 飛田曰く自分にできるブラック・ミュージックはxiexieの前のバンドでやり尽くしたとのことだが、xiexieにもそうした“踊れる”フィーリングは着実に滲み出ている。
 今作で言えば“sleeping in my car”ではシェイカー(あるいはタンバリンか)、“ocean”のハンドパーカッションなど、横に揺れるリズムが強調されるトラックが印象的。
 発見だったのが、いわゆる“ダンス・ミュージック”ほどキレのいいリズムを聴かせるものではなく、ファジーに揺れる音像で自然と体を揺すらせるくらいの今作のような音楽のほうが、踊り慣れていないオーディエンスの多いこの国では結果的により“踊れる”のではないか、ということ。この点は、本人たちがかつてインタヴューで語った“USインディ的な音楽性は十分にオーヴァーグラウンドで通用するはずだ”という信念にも通ずる。xiexieの音楽はアジアの国と地域で支持されるにふさわしい価値を確かに持っているが、日本国内でこそより多くの大衆に評価される可能性を秘めている。

 ここ6〜7年の話だろうか、日本ではまだファンダムを確立しきっていなかったり、メジャーで活動した時期を経てインディーズに出戻ったり、なにせ現状あまり大きな箱で公演を打っていないバンドが、中国に招かれるとおよそShibuya WWW〜Zeppクラスの箱を回るツアーをソールドアウトにして帰ってくる、といった現象が起こっていた。過去形になったのはつい最近だ。高市首相の発言に端を発する日中間の緊張状態によって、こうした中国ツアーの動きはとんと鳴りを潜めてしまった。
 バンドにとって今後の活動を経験値の面でも金銭面でも下支えする貴重な機会が、社会情勢次第で突如として立ち消えてしまう。特に日本国外のアジアの国と地域で支持されているxiexieはこうした影響を大きく受ける可能性がある。そうした時節柄もあって、淡く揺蕩う『zzz』の音像を浴びながら、同じく淡く揺蕩う不確かな存在である現代のインディーズ音楽、またロック・バンドという文化そのものについて思いを馳せずにはいられなかった。音楽は、アートは、ぼうっとしているとある日突然もう二度と味わえなくなる。淡く揺蕩うものを味わうオーディエンスのひとりとして、その不確かさに誠実に向き合っていたいと思う。

Stones Taro - ele-king

 京都拠点のDJ/プロデューサー、Stones Taroが4曲入りの新作EP『Foglore#1』をセルフ・リリース。「Foglore」シリーズはLomaxと運営する自主レーベル〈NC4K〉とは別のプロジェクトとして始動したもので、「霧(Fog)」を想起させるサウンド・デザインと、「伝承・民話(Folklore)」のような時間軸を感じさせないアレンジを特徴とするそうだ。

 ダブ・テクノ、ダブステップ、ディープ・ハウスなど多様なダンス・ミュージックに精通するStones Taroは、DJとしても世界各国でたしかな評価を得ている。そんな彼が、現代的なプロダクションと古くから存在する音楽のような普遍性の両立を改めて志向する、という点も気になるところ。購入・視聴はBandcampにて。

Artist: Stones Taro
Title: Foglore#1
Label: Self-Released
Format: Digital / 12 inch
Release Date: 2026.2.20
Buy / Stream : https://stonestaro.bandcamp.com/album/foglore-1

Tracklist:

Stones Taro - Illegalized Dub
Stones Taro - New Mineral
Stones Taro - Obscured Breath
Stones Taro - Twist Thumb


Stones Taro Profile

京都在住のDJ/プロデューサー。

イギリスのScuffed Recordingsから EPを発表以降、Shall Not Fade、Hardline SoundsそしてFuture Classicなど世界各国の主要レーベルから次々と楽曲をリリース。ハウス、UKガラージ、ダブ、ブレイクビーツそしてジャングルの要素が絡み合うユニークな楽曲は世界中のDJ/リスナーを熱狂させている。

2024年からはイギリスRinse FMのマンスリーレジデントに就任。日本在住ながらUKダンスミュージックシーンの重要プロデューサー/DJとして扱われる稀有な存在である。

Star Festival、Rainbow Disco Club、FFKTそしてFuji Rockなどの国内主要フェスをはじめ、オランダ最高峰フェスティバルの一つDraaimolenや、幅広い層からの定評があるイギリスのWe Out Hereへも出演。ワールドツアーとしてアジア、ヨーロッパ、オーストラリアの各地を巡り、DJとしてもワールドワイドに高い評価を受けている。

京都在住のDJ/プロデューサーであるLomaxと、2017年より京都拠点のダンスミュージックレーベル「NC4K」の運営を開始。継続的なリリースとパーティ開催を重ね、国内外を繋ぐ重要レーベルとして注目を集める。

キングギドラ - ele-king

 Kダブシャイン、Zeebra、DJ OASISによる日本語ラップ界の伝説的グループ・キングギドラによるデビュー・アルバムの特別盤『空からの力:30周年記念エディション』のインストゥルメンタル・ヴァージョンが、LP盤で4月25日に発売決定。2枚組・完全限定プレスの特別仕様となる。30周年記念盤にはトム・コインの手によりアップデートされたリマスタリング・ヴァージョンとなっており、そのインスト盤はファン垂涎の内容といえるだろう。

 また、『空からの力』発表の翌年となる1996年にリリースされたEP『影』も、30周年を祝して初のアナログ化が決定。『空からの力:30周年記念エディション - Instrumental Versions』との同時発売となる。お見逃しなく。

Artist: キングギドラ
Title: 空からの力:30周年記念エディション - Instrumental Versions
Label: P-VINE, Inc.
Format: LP (2枚組仕様/完全限定プレス)
Release Date: 2026.4.25
Number:PLP-8327/8
Price: ¥6,600
Pre-Order: https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8327-8

<Tracklist>

SIDE A
1. 未確認飛行物体接近中 (急接近 Mix) (Instrumental)
2. 見まわそう (Instrumental)
3. 大掃除 (Instrumental)
4. コードナンバー 0117 (Instrumental)

SIDE B
1. フリースタイル・ダンジョン (Instrumental)
2. 空からの力 Part.2 (Instrumental)
3. 星の死阻止 (Instrumental)

SIDE C
1. スタア誕生 (Instrumental)
2. 行方不明 (Instrumental)
3. 真実の弾丸 (Instrumental)

SIDE D
1. 空からの力 (Mind Funk Remix) (Instrumental)
2. 行方不明 (DJ Kensei's Smooth Mix) (Instrumental)
3. 真実の弾丸 (Flute Mix) (Instrumental)

Artist: キングギドラ
Title:
Label: P-VINE, Inc.
Format: LP (帯付き仕様/完全限定プレス)
Release Date: 2026.4.25
Number: PLP-8326
Price: ¥4,950
Pre-Order: https://anywherestore.p-vine.jp/products/PLP-8326

<Tracklist>

SIDE A
1. 行方不明 (DJ Kensei's Smooth Mix)
2. 重要参考人が見た犯行現場
3. 真実の弾丸 (Flute Mix)

SIDE B
1. 地獄絵図 (AOZの視点)
2. 空からの力 (Mind Funk Remix)

Fumitake Tamura - ele-king

 自主レーベル〈Tamura〉や坂本龍一による〈Commmons〉など複数のレーベルを通じて、ソロおよびコラボレーションによるアルバムやEPを多数リリースしている日本人プロデューサー・Fumitake Tamuraが最新アルバム『Mijin』を〈Leaving Records〉よりリリース。サム・ゲンデルとソウル・ウィリアムズを客演に招き、全曲の作詞・作曲・プロデュース・録音・ミックスを自身で手がけている。

 タイトルの「Mijin」は、日本語の「微塵 / みじん」を指すそうだ。最小限のピアノの和音から始まり、声やパーカッション、ローズウッドやシンセサイザーの断片、そしてジャズやソウルの痕跡を再構成するように作られたという、粒子のような音を集めた本作にふさわしいタイトルといえるだろう。

Artist: Fumitake Tamura
Title: Mijin
Label: Leaving
Format: LP / Digital / Stream
Release Date: 2026.4.10
Pre-Order: https://buntamura.bandcamp.com/album/mijin

Tracklist:

1. Interstice
2. Ostinato (feat. Sam Gendel)
3. Duration
4. Resonance (feat. Saul Williams)
5. Modulation
6. Reduction
7. Suspension
8. Particles
9. Offset
10. Oscillation
11. Resonance (Instrumental)


音は無音の 間 にたいして、表現上(この言葉はきわめて一般的な意味として受けとってほしい)の優位にたつものではない。
──武満徹『音、沈黙と測りあえるほどに』(新潮社、1971年)、196–197頁

アルバムのタイトル「微塵(Mijin)」は、非常に細かい粒を意味する日本語に由来しています。
“微塵な音”を集めていき、空間の中で響かせながら、それらのあいだに生じるわずかな動きを見つめていくと、やがて全体のバランスが形づくられていきます。
そういった関係性と、そこで生じる緊張のなかで「沈黙」と「音」が、どのような共鳴を起こすのかを探りました。
アルバムは、録音されたピアノの最小限の和音から始まり、断片的な声やパーカッション、Rhodesやシンセサイザー、そしてジャズやソウルの残響を再構築しながら展開していきます。
音は空気中に漂う粒のように存在し、それぞれがゆるやかに響き合いながら構成をつくっていきます。
その配置によって生まれる「間」や「沈黙」が、音と同じくらいの存在感をもって現れてくれることを願っています。
──Fumitake Tamura

Visible Cloaks - ele-king

 スペンサー・ドーランおよびライアン・カーライルから成るオレゴンはポートランドのデュオ、ヴィジブル・クロークス。彼らがひさびさのオリジナル・アルバムをリリースする。時代の流れを決定づけたともいえる前作『Reassemblage』が2017年だから、およそ9年ぶりのことだ(2019年には尾島由郎&柴野さつきとの共作もあり。彼らは今回の新作にもフィーチャーされている)。現在、モーション・グラフィックスが参加した先行シングルが公開中。アルバムの全貌を楽しみにしておこう。

Visible Cloaksがニュー・アルバム『Paradessence』をRVNG Intl.から5/22にリリース決定。Motion Graphicsをフィーチャーしたファースト・シングル「Disque」を公開。

Spencer DoranとRyan Carlileによるエレクトロニック・デュオ、Visible Cloaksがニュー・アルバム『Paradessence』をRVNG Intl.から5/22にリリースすることが決定。ファースト・シングルとして、Motion Graphicsをフィーチャーした「Disque」をMVと共に公開。

Visible Cloaksの3作目のフルアルバム『Paradessence』は、「出現」と「幻惑」をめぐる作品。全14曲は、うっすらと発光する夜の背景の上で、揺らぎ、うねり、きらめきながら移り変わっていく。そこは、自然界をまばらに、しかし極端にリアルに再現した表象によって形作られた、巨大な洞窟のような空間。アレンジは同時に壮大でありながら脆く、これまでの作品の反転であり総決算でもあり、そして彼らがこれまで作ってきた中でも最も冒険的なもののひとつでもある。

2014年にCloaksからVisible Cloaksへと変化して以来、Spencer DoranとRyan Carlileは、相反する概念の複雑なマトリクスを描き出してきた。オーガニックと人工、偶然と意図、本物と複製。2017年には、高い評価を受け、今やアイコニックとも言える2ndアルバム『Reassemblage』を発表。精緻に作り込まれたテクスチャー、開花し朽ちていくようなアレンジ、そして世界中の楽器が存在する想像上の世界を、豊潤に伝送する作品だった。続いて2019年には、アンビエントの先駆者Yoshio OjimaとSatsuki Shibanoとのコラボレーション・アルバム『serenitatem』をリリース。さらにこの2作の間に、Doranはグラミー賞にノミネートされたコンピレーション『Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990』を編纂し、近年では瞑想的な探索ゲーム『SEASON: A letter to the future』のサウンドトラックも発表している。

新作タイトルは、作家Alex Shakarが「paradoxical(逆説的)」と「essence(本質)」を組み合わせた風刺的な造語から採られたもの。Visible Cloaksが抱え続けてきた相反概念を直接的に映し出している。消費財における「paradessence」とは、その欲望を生み出す「分裂した核(schismatic core)」のこと(Shakarの例では、コーヒーが“同時にリラックスさせ、かつ刺激もする”からこそ欲される、という具合)。『Paradessence』が見せる絶妙な均衡は、21世紀の生活が同じ緊張関係によって組み替えられていく中で、それらの要素をより切迫したものとして提示する。それは、変化し続ける形態によって、現在の「夢の現実」を抽象的に喚起するだけでなく、感情の襞まで繊細に織り込み、ときに恩寵の瞬間へと立ち上がる想像上の空間を築くエレクトロニック・ミュージックでもある。

『Paradessence』からの先行シングル「Disque」(Motion Graphics参加)は、次第に美しさを増していく一連の“吐息”のような作品。音の紡錘が枝分かれするように立ち上がり、広がりながらより多くの表面をつかみ取り、密度をわずかに増していく。上昇していく音やピアノのラインが、縫合の糸のように要所で曲をつなぎ合わせる。アレンジが静けさへと戻るたびに、それが再び立ち上がってくるのかどうかという緊張を感じる。やがて、それは立ち上がらない。残されるのは、長く細いリボンのように引き伸ばされたピアノの残滓だけ。

「Visible Cloaksとしての制作は、常に“トップダウン”よりも“ボトムアップ”だった」とDoranは言う。「完成した曲の明確なビジョンが最初からあって、それをスタジオでできるだけ忠実に実現しようとするのではなく、アイデアが立ち現れるための条件をいくつも設定する、という感じ。『Disque』のような曲は、そうした考え方を念頭に置いて構想する。長年の音楽実践の中で培ってきたさまざまな確率的(stochastic)手法を使い、最初のソースから段階的に抽象が展開していく連なりを作っていくんだ。」

「Disque」のビデオは、英国拠点のフォトグラメトリストGrade Eternaとの共同制作。ロンドンにある名もなき温室の「点群(point cloud)」を進み、歪ませ、ねじ曲げながら描かれる。3Dスキャンのツールで物理環境を空間上の点の地図へと変換し、それを使って空間の仮想モデルを生成。そのモデルをゲームエンジン内で可塑的(自在に変形可能)に扱っている。

今週Visible Cloaksは、「音・光・空間のための没入型キュレーション・プラットフォーム」を掲げるイベントシリーズ「Age of Reflections」の一環として、ポートランドとシアトルで2公演を行う。詳細は「Disque」ビデオのすぐ下に掲載されている。

Visible Cloaks new album “Paradessence” out on May 22, 2026.

Artist: Visible Cloaks
Title: Paradessence

Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-254
Format: CD / Digital
Release Date: 2026.05.22
Price(CD): 2,200 yen + tax

※CDボーナス・トラック1曲収録
※解説付き予定

『Paradessence』において沈黙は重要な登場人物。音を彫刻する行為の中に感じられるだけでなく、あらゆるものに及ぼす圧力、そしてそこから現れるものにおいても感じられる。グループは建築理論家Christopher Alexanderの「ポジティブ・スペース(positive space)」という概念に影響を受けた。物体そのものを構築するのと同じくらいの配慮を、物体の周囲にある“空白(void)”の形にも向けられる、という考え方だ。ここでは、音が自らの沈黙を伴って運ばれていく様子が聴こえる。存在と非存在のあいだを振動し、微生物のようにライフサイクルをたどっていく。

『Paradessence』を下支えする楽器群には共同体性がある。風が葉の群れの上を漂い、動きが消えたことで空気が見えるようになる時のように、それらは群れのように動く。複数の種が同じ曲の中で共存し、数分のあいだに、せり出し、引っ込み、変容していく。「環境として水平に機能する作品を作るのではなく」とDoranは言う。「空間の中で変化していく“生きた素材”として捉え、絶えず流動しているものとして概念化したかった。」曲の形式はアンビエンスから離れ、純粋な抽象へと舵を切る。ユートピアニズムが周縁に漂う。想像上の未来との関係は、ナイーブでも、シニカルでも、ノスタルジックでもない。

Visible Cloaksが時間をかけて築いてきた世界は、しばしばコラボレーターによって物質的なかたちを与えられてきた。『Paradessence』では、その馴染み深い顔ぶれが再び戻ってくる。Motion Graphics(Joe Williams)は「合成木管(synthetic woodwinds)」で登場し、アルバムの共同ミックスも担当。彼特有の艶やかな質感で輪郭を整えている。連結した2曲「Shapes」と「Thinking」は、環境音楽の革新者Yoshio OjimaとSatsuki Shibanoとともに制作された。彼らはデュオが参加した世代横断のFRKWYSコラボ『serenitatem』でも共作した相手だ。後者の「Thinking」では、Ojimaが書いたスポークン・テキストが用いられ、Shibanoが日本語で、そして作曲家で長年の友人でもあるFélicia Atkinsonがフランス語で朗読している。

Doranの「不確定(indeterminate)な室内楽」プロジェクトComponium Ensemble(自動演奏するソフトウェア楽器群)が、「System」の基盤を提供する。それはPessoa的な異名性(heteronymity)の瞬間でもある。さらにアルバムには、ルーマニア出身の作曲家・ヴァイオリニストIoana Șelaruも参加し、「Intarsia」で声と弦の演奏を提供している。Doranはこのコラボを「幻影的な存在感(illusionary presence)の練習」と呼び、「彼女の実際の楽器演奏と仮想楽器を並置し、合成ストリングスと現実に存在するストリングスの境界をぼかす」というアイデアから共同で発展させたと語る。

「Intarsia」におけるȘelaruの緊迫したパフォーマンスは、『Paradessence』のドラマティックな核をはっきりと示す。それは切迫した彫刻的な仕事であり、ひとつの楽器と人間の声が、合成的な成長の海によって変調されていく。Doranは「この現実と仮想のあいだの滑り(slippage)は、まったく別の何か、奇妙で言葉にしがたい何かを捉えている」と説明する。「それは、オンラインでも現実の生活でも、デジタル・モダニティの中で生きることに固有の要素なんだ。」

Track List:

1. Apsis
2. Skylight
3. Disque (ft. Motion Graphics)
4. Balloon
5. Slippage
6. Telescoping
7. Shapes (ft. Yoshio Ojima and Satsuki Shibano)
8. Thinking (ft. Félicia Atkinson, Yoshio Ojima and Satsuki Shibano)
9. Zinna
10. Swirl
11. Steel
12. Intarsia (ft. Ioana Șelaru)
13. Capgras
14. System (ft. Componium Ensemble)
15. Hycean (CD Bonus Track: not Japan-only)

Visible Cloaks are Ryan Carlile and Spencer Doran

Mixed by Joe Williams and Spencer Doran at Gary’s Electric Studio and Dream Box Office​, except “Skylight,” “Shapes,” “Thinking,” and “Intarsia,” mixed by Spencer Doran at Secret Society

Joe Williams – Virtual woodwinds on “Disque”
Oona Doran – Balloon on “Balloon”
Félicia Atkinson – Voice (French) on “Thinking”
Yoshio Ojima – Processing, lyrics and additional arrangements on “Shapes” and “Thinking”
Satisuki Shibano – Piano and voice (Japanese) on “Shapes” and “Thinking”
Ioana Șelaru – Violin and voice on “Intarsia”

Ultrasonic insect sounds on “Telescoping” recorded in Aulus-les-bains, France in 2023

Mastered by Heba Kadry (Brooklyn, NY)
Cut by Josh Bonati for Bonati Mastering (Brooklyn, NY)
Original artwork by David Lisser
Design by WWFG

Visible Cloaks‘s new single “Disque (ft. Motion Graphics)” out now

Artist: Visible Cloaks
Title: Disque (ft. Motion Graphics)
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Format: Digital Single
Buy / Listen: https://orcd.co/jbgxnr8

Visible Cloaks – Disque (ft. Motion Graphics) (Official Video)
YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=mzXMkCXfGoU

Directed by Grade Eterna and Spencer Doran
VFX and 3D Scanning by Grade Eterna

Visible Cloaks:

Visible Cloaksは、Spencer DoranとRyan Carlileによる米国ポートランド拠点のエレクトロニック・デュオ。プロジェクトは2010年にDoranのソロとして始動し、2014年にCarlileが合流してデュオとしてのVisible Cloaksへと発展した。セルフ・タイトルのデビュー作を経て、ニューヨークの名門RVNG Intl.へと契約。代表作『Reassemblage』は2017年2月にリリースされ、DoranとCarlileの共同プロデュースによって、ポストYMO以降の電子音楽的冒険に敬意を払いながらも、その系譜をなぞるのではなく別の方向へと踏み出した作品として位置づけられる。80年代半ばから90年代初頭にかけての日本やイタリアのエレクトロニック・ポップ/アンビエントが切り拓いた道筋から敢えて逸れ、合成的な“種”から育った樹木が深い音の樹冠をつくる森の中に、自分たちの陣地を築いていくような独自の音響世界を確立した。アルバム収録曲「Valve」にはdip in the poolの甲田益也子が参加し、「Terrazzo」にはMotion Graphicsが参加するなど、客演を含めて作品世界を拡張している点も特徴として刻まれている。サウンド面では、Doranが日本のニューエイジ/アンビエントや電子音楽への関心を背景に制作してきたことが各所で言及され、Yellow Magic Orchestraや坂本龍一の名が影響源として挙げられることもある。また制作プロセスについては、Doran本人がAbletonのインタビューで、システム的な発想にもとづくアプローチや音作りの方法論を語っている。2017年後半にはミニアルバム『Lex』を同年12月にリリースし、複数の方言やアクセントを連鎖させて翻訳ソフトに通すことで生成された“異星の言語”を音素材として取り込み、彫刻的なアレンジの網目に、意味へ回収されない静謐な発声を織り込んだコンセプト作品として提示した。ビジュアル面でも作品世界の統一が重視され、『Reassemblage』のアートワークや『Lex』期の短編映像でBrenna Murphyが関与している。さらに2019年には、尾島由郎と柴野さつきとの共作『serenitatem(FRKWYS Vol. 15)』を発表。初の日本ツアー終盤に両者と出会い、ヨーロッパ・ツアー中に録音した加工音のスケッチを尾島へ送り、加筆・編集された音を再び折り込みながらスタジオ・セッションへ持ち込むという往復運動の中で制作が進められた。そこで生まれた作品は、人間と機械の境界が縫い目としてほとんど見えないほど滑らかに結合されつつも、その気配が至るところで示唆される鋭利なレコードとして結実している。Visible Cloaksは、特定地域の音楽史、とりわけ日本の環境音楽/シンセサイザー音楽への参照を、単なる引用ではなく制作手法そのものの設計へと転換し、翻訳・変換・生成といった方法論を軸に、アルバムごとにコンセプトを更新しながら、RVNGを軸に音と視覚、コラボレーションを統合した作品群を展開してきた。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448