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DJ Haram

Arab NoiseDeconstructed ClubDiasporic Bass

DJ Haram

Beside Myself

Hyperdub/ビート

Beatink Bandcamp

野田努 Jul 31,2025 UP

 先週は、はじまりは最悪な気分だったが、この夏もっとも重要な曲、春ねむりの“IGMF”に熱くなって、Mars89のリミックスに勇気づけられた。すばらしいじゃないか。曲がクールだし、怒りのなかにも遊び心があって、なによりもこれは日本ではほとんどお目にかかることのない政治に対するポップ・カルチャーからの反応だ。
 近年ではスリーフォード・モッズやストームジー、あるいはニーキャップなんかがまさにそうだが、英国ではいまでもこういうことが頻繁に起きる。たとえば、1978年にリリースされたスージー&ザ・バンシーズの「ホンコン・ガーデン」は、スキンヘッドが中国系テイクアウト店の従業員に人種差別的暴言を吐くのをスージー・スーが目撃したことをきっかけとして生まれた。この時代、つまり第二次大戦以降の最悪な不景気にあった英国においては、1977年いっきに支持率を伸ばした極右政党ナショナル・フロントへのカウンターとしては「ロック・アゲインスト・レイシズム」運動がよく知られている。どこまで音楽の影響だったのかは計ることはできないが、少なくとも数年後の選挙においてNFの支持率は下がった。

 さて、今回の舞台はニューヨークだ。2016年のトランプ政権以降、ヘイトクライムの件数は増加し、こと中東系住民が標的になるケースが多いと聞く。2019年3月のブルックリン地下鉄内におけるムスリム系女性暴行事件などは数あるうちのひとつだったが、DJハラム(トルコ系とシリア系の両親をもつ)はその年、中東の民間伝承を再解釈したシングル「Grace」を叩きつけた。そして、2022年のムーア・マザーとのプロジェクト、700ブリスのアルバムを経て、つい先日初のソロ・アルバムとなる本作をリリースしたばかり。これは、ナザールとのアルバムと並んで、〈ハイパーダブ〉レーベルの今年のハイライトである。

 現在はブルックリンを拠点とするDJハラム、もともとはニュージャージーのアンダーグラウンド出身で、クラブを中心にムーア・マザーとタッグを組んで活動していた。700ブリスの『Nothing To Declare(申告すべきものなどない)』におけるノイズ・ラップは、その時代の実験の成果である。政治に関しては大学ではなく路上で、デモ活動を通じて学んだというハラムの作品には彼女の政治性がいかんなく反映されている。たしかにインタヴューを読む限り、彼女の問題意識はジェンダーのみならず、人種差別や白人至上主義へと開かれていることを強く意識している。
 また、10代のときはじめて感動した音楽がソニック・ユースだった彼女にとって、ノイズや即興は自分のサウンドに不可欠、それに加えて本作を特徴付ける中東/アラビックな要素がリスナーの思いをパレスチナへと向かわせることになるのだが、それだけではない。アルバム『Beside Myself』には“Do u Love me”のようなジャージークラブ風のダンストラックや、“Voyeur”のようなアラブとフットワークが融合したようなトラックもあって、踊らせる。快楽を忘れないところはクラブDJならではで、言うなれば、ジャージー・アンダーグラウンド・ダンス・ビートがアラブ系文化と出会ったところが本作のサウンド面のひとつの魅力になっている。ビリー・ウッズとエルーシッドをフィーチャーした“Stenography”になると濃縮されたアラビアン・サイケ・ヒップホップというか、怒りに満ちた“IDGAF”(曲名に注目。こちらは「I Don’t Give A F***(クソどうでもいい)」)にいたってはアラビアン・パーカッションにメタル風のギターが挿入されるという、頭がくらくらするほど容赦ない一撃もある。“Fishnets”のような色っぽいラップ曲もあるが、しかし……総じて言えばアルバムからは毅然とした怒りを感じる。

 幸いなことに、この世界はインターネットとAIには見えない景色がまだ残されているようだ。差別や陰謀論がネット上で一定の人気を見せているのは多くの国に見られる傾向だが、彼女がいるそこは、YouTubeの光り輝く詐欺師たちに操られる場所ではない。フロアがあり、人が連帯を感じていっしょ歓声をあげることができる “そこ” だ。DJハラムはトランス女性として、クィアやトランスジェンダーから熱狂的に支持されている。彼女はときに自らを「ジェンダー化された労働階級」、ないしはそのイスラム教的バックグラウンドからくる複雑な内面を「神を畏れる無神論者」と表現している。そして、型にはまらない抵抗の声、未来を諦めていない音楽を作っているのはご覧の通りだ。チーノ・アモービのノイズ・アンビエントを彷彿させる“Who Needs Enemies When These Are Your Allies?(こんなに味方がいるというのに敵が必要なのか=パレスチナ問題を指しているのだろう)”から内省的ながらトランシーな“Deep Breath”へと繋がっていく締めも良い。全14曲、集中して通しで聴いたらぐったりしたが、それは夏バテのせいだろうか。 


 (蛇足ながら書いておくと、目下ニューヨークでは、市長候補として名乗りをあげたイスラム教徒のゾーラン・マムダニが注目されている。「公共はすべて無料」「億万長者の存在は許さない」というマムダニの、バーニー・サンダース以上に左寄りと言われる思想がZ世代の共感を呼んでいる)(また、つい先ほど入った情報によると、春ねむりは明日金曜日の18時から新宿駅東南口広場で開かれる「NO HATE デマと差別が蔓延する社会を許しません」に参加、ライヴを行うとか。8月8日には代田橋FEVERでリリース・ライヴもある)

野田努