Home > News > Kneecap - ——今年のグラストンベリーに大量のパレスチナの旗をはためかしたアイルランドのラップ・グループの情報、8月には映画も上映
今年5月の〈ワイド・アウェイク・フェス〉でのライヴ模様。Raph_PH, CC BY 2.0,via Wikimedia Commons
アメリカでトランプ大統領を本気で怒らせているのはブルース・スプリングスティーンだが、イギリスで英国首相キア・スターマーから直々に批判されているのは、現代のセックス・ピストルズか、チャブの逆襲か、祝祭と抵抗の新世代か……などなどいろんな言われ方をしているアイルランドのニーキャップだ。
去る4月のコーチェラ・フェスティヴァルにて、とことん反イスラエル/新パレスチナを繰り返したことで物議を醸し、大きな注目を集めた若きラップ・グループ、5月には英国警察から調査され、メンバーのモ・カラの過去の発言(議員を殺せとか、ハマスやヒズボラを支持するような発言等々)によってテロ容疑として起訴されたばかりであるが、先週末のグラストンベリー・フェスティヴァルへの出演をめぐってもスターマー首相から「適切ではない」と苦言を呈されていた。
そして、『ガーディアン』にいわく、この新たな「民衆の敵」にして「時代の寵児」がグラストンベリー・フェスティヴァルのステージに挙がると、200以上のパレスチナの旗がはためき「くたばれスターマー」、そして8月の法廷裁判を控えているモ・カラに対しての「モ・カラを解放せよ」のコールがわき起こったというではありませんか。現地でこれを観たひとがいたら、どうか編集部までご一報を。
ちなみに今回のグラストンベリー・フェスティヴァルで最高に話題になっているのはこのニーキャップ、そしてこともあろうかナイジェル・ファラージ支持を前日の取材で公言したロッド・スチュワート様々なのである。まあ、グラストンベリーがたんなる儲け主義のロック・フェスに成りはてたという話は前々から聞いておりましたが、しかし今回のニーキャップの騒動を知って、腐ってもグラストン、UKポップ文化の底力というか、ガッツあるなと思いました。
なにしろ、ポップ・カルチャーがここまで国家を本気にさせたという点では、セックス・ピストルズ、レイヴ・カルチャー以来のことではないだろうか。アイルランド語をまぜてラップし、反英国主義とアイルランド性を強調するニーキャップがナショナリズムの焼き直しではないことは、彼らの活動の全体を見渡せばわかる。階級闘争、反植民地主義、あらたなる連帯の呼びかけ……ニーキャップは政治と音楽が再び交差する地点をこの時代に創出し(モ・カラの説明によれば「党派性を意味しない、小文字の“p”の政治性──生活感覚としてのポリティクスの実践」ということになる)、いまや音楽におけるレジスタンスの新たな磁場となっているのかもしれない。マッシヴ・アタックの3Dもジョニー・マーもポール・ウェラーもニーキャップへの支持を表明しています。
彼らのライヴは祝祭的だが、政治集会のようでもあるとのこと、昨年リリースされたアルバム『Fine Art』のプロデューサーがトドラ・Tであることからも、音楽的にも面白いことをやろうとしている姿勢がうかがえる。
しかも、じつにナイスなタイミングで彼らの映画『KNEECAP/ニーキャップ』が8月1日より日本での上映開始ときた。これはこれで、そうとう面白そう(ありがちな英雄譚ではない、むしろその解体だとか)。この暑い夏、我々日本人もポップ・カルチャーの最前線を観ない手はない。