布石はあった。前回のEP「Spirit Box」(2024)の1曲目はハウスだった。さらに同作でフライング・ロータスはみずからのヴォーカルを披露してもいた。これはきっと近年、なにかしら意識の変容があったにちがいない──。先週リリースされたばかりの新作EPは、そんな変わりゆく彼の現在形をみごと映しだしている。「Big Mama」はヒップホップの文脈でもジャズのそれでもなく、一気にエレクトロニック・ミュージックの文脈に振りきれた内容に仕上がっているのだ。
2枚目『Los Angeles』(2008)で時代の寵児となって以降、エレクトロニカ、ヒップホップ、ジャズ、そのいずれの枠にも収まらないことにより因習を打破してきた彼は、5枚目『You’re Dead!』(2014)まではコンスタントに、2年おきにアルバムを発表してきた。そんな彼が5年もの歳月をかけて送り出したのが6枚目にして現時点での最新オリジナル・アルバム『Flamagra』(2019)だったわけだけれど、フライング・ロータスというプロジェクトの集大成のごとき同作からも、すでに7年近い月日が過ぎ去っている。
むろん『Flamagra』以後、音楽活動を控えていたわけではない。映画の分野に活路を見いだしたスティーヴン・エリスンは、それと連動するかのように『Yasuke』(2021)、『Ozzy's Dungeon』(2022)、『Ash』(2025)と、いくつものサウンドトラックを手がけている。とはいえやはり、正直に告白するなら、勘ぐらずにはいられなかった。超大御所のハービー・ハンコックや当時すでに「時の人」だったケンドリック・ラマーらを招き、唯一無二のジャズを発明してみせた『You’re Dead!』のあと、なにかしら転機のようなものが訪れていたのではないか、と。たとえば「もうやれることはやりきった」というような──
そんなこちらの勝手な憶測を覆しにきたのが「Spirit Box」であり、今回の新作EPだ。つぎつぎとめまぐるしく展開していく「Big Mama」は、ジャングルを崩したようなビートの曲でもって幕を開ける。ヒップホップの要素は薄い。ジャズの因子は、消失しているとまではいえない。たとえば “Captain Kernel” の旋律はまるでサンダーキャットが演奏しているかのようで、このフュージョン感は “Brobobasher” や “Pink Dream” でも味わうことができる。
もっとも注目すべきはチップチューンの導入だろう。“Antelope Onigiri” を筆頭に、 “In The Forest - Day” や “Horse Nuke”、最後の “Pink Dream” まで、ヴィデオ・ゲーム・ミュージックからの影響こそが「Big Mama」に大いなる個性を与えている。もちろん、これまでの作品でもそうした断片が散りばめられることはあった。ただ今回は、あのなつかしい響きがとびきり耳に残るのだ。かくしてレトロの切れはしをまったくレトロではないスタイルでもって有効活用することにより、フライング・ロータスはいま、ひとりのエレクトロニック・ミュージシャンとして自身の殻を破ろうと奮闘している。
いまはあらゆるものがアルゴリズムで動いているような世界だよね。すべてが理屈どおりに整っていて、意味が通るようにつくられている。だからこそ俺は、もっと生き生きとして、カオスで、本物だと感じられるものをつくりたかったんだ。
■まずは最近のあなたの動向をおさらいしておきたいです。近年で大きかったのはやはり、2025年に公開された映画『アッシュ ~孤独の惑星~(原題:Ash)』の、監督と音楽を担当したことでしょうか。それはあなたのキャリアにおいて、どのような未知の体験をもたらしましたか?
FL:ほんとうにたくさんのことをもたらしてくれたよ。キャリアという意味だけでなく、人生そのものに、たくさんの未知のことや予想もしなかった出来事をもたらしてくれたんだ。あの映画は、ある意味では自分の存在の進む方向を変えてしまったとも言えるような作品だった。この経験からほんとうに多くのことを学んだし、とても豊かなものを得ることができたんだ。あの映画をつくれたということ自体が夢の実現だったからね。正直なところ、あのレヴェルで作品づくりができるというのは、ほんとうに特別な体験だったよ。あんな経験はほかにはないね。だから、関わってくれたみんなと一緒に仕事ができるということを、心から楽しんだ感じだった。それにそういう経験こそ、ずっと望んできたことだったんだ。子どものころに『ジュラシック・パーク』を観て以来、ずっと映画をつくりたい、SF作品をつくりたいと思っていたから。だから、ほんとうに多くのことを学んだし、自分の能力に対する自信も大きくなった。音楽で培ってきたスキルにも頼らなければならなかったし、映画制作のスキルにも頼る必要があったからね。これまで人生のなかで学んできたすべてを映画制作に応用しなければならなかったんだ。それは、創造的な意味でも本当に大きな報酬をもたらしてくれる、非常に充実した経験だったね。
■サウンドトラックといえば、あなたは以前『Yasuke -ヤスケ-』(2021)の音楽を手がけてもいます。『Yasuke』にはヒップホップも含まれていましたが、それと聴き比べると『Ash』のほうは宇宙の無重力状態を想起させるような曲、アンビエント寄りの曲など、これまであまり見せてこなかったスタイルの曲が多いです。そのちがいは、映画の内容のちがいだけに起因していますか?
FL:映画音楽について言えば、映画に対して「音楽はこうあるべきだ」と押しつけてしまうのは間違いだと思うんだ。むしろ大事なのは、その映画がなにを見せようとしているのか、どんな作品なのかをよく「聴く」ことだと思う。それに応えるかたちで音楽をつくる。多くの場合はそうだと思うよ。もちろん、もっと優れた監督なら、物事をよりうまく導くことができるのかもしれない。でも俺の場合、プロセスを信じるようにしているんだ。編集作業がはじまると、いろいろなものが少しずつ姿を現してくる。テンポやリズムも見えてくるし、合うと思っていた音がじつはちがったとか、この音こそがこの映画の音だとか、そういうことがわかってくるんだ。つまりその映画がもっている感覚に対して反応していく、という感じだね。
通訳:『アッシュ ~孤独の惑星~』にかんしては、映画の撮影に入るまえに音楽は書きあげていたんですか?
FL:いい質問だね。じつは撮影をはじめるまえにかなり多くの音楽を録音していたんだ。でも、そのほとんどはうまく機能しなかった。おそらく1曲か、せいぜい2曲くらいは使えたかもしれないけれど、俺がその映画のためにつくった曲の多くは、結局使えなかったんだよね。というのも、最終的に自分がつくった映画は、音の方向性がまったくちがうものになっていたから。だから、ほとんど一からやりなおすような感じになってしまった。でも、それもすごくいい経験だったしとても楽しかった。ああしたことを学べたという意味でも、ほんとうにすばらしい経験だったね。
■ひとつ前のEP「Spirit Box」(2025)では “Ajhussi” で大胆にハウスに挑戦しており、驚かされました。同EPではヴォーカルにも挑戦していましたね。当時、なにか心境なり環境なりに変化があったのでしょうか?
FL:パンデミックのあいだに、ハウスっぽい曲やダンス寄りの曲をたくさん書くようになったんだよね。踊りたかったから(笑)。どこにも出かけられなかったし、外に遊びに行くこともできなかった。だから、自分が踊りたいと思える音楽を自分でつくるしかなかったんだ。それが、そういう方向で曲を録音していく流れにつながったんだろうね。とはいえ、じつは昔からそういうサウンドはやっていたし、ハウスっぽい曲やファンクっぽい曲はずっとつくっていて、ストックのなかにしまっていた感じなんだ。それを前面に出すことはあまりしてこなかったけれど。でもあのプロジェクトでは、もっとグルーヴがあって、楽しくて、踊れるものをやりたいと思ってたんだよね。
■今回、新作の「BIG MAMA」を〈Warp〉からではなく自身の〈Brainfeeder〉からリリースすることになった経緯を教えてください。
FL:その決断の理由はほんとうにシンプルで、〈Warp〉との契約期間がちょうど終わったことが大きかったんだ。契約を更新して新しい形でつづけることもできたし、あるいは自分の道を進むこともできた。そういうタイミングだったんだ。それに、〈Brainfeeder〉ではとてもいい環境を築いてきていると感じていたから、ここで試してみたいと思った。いまのところはすごく順調だね。もともと、ここにいるみんなとはすでに一緒に仕事をしてきたけれど、いまはより密接に関わりながら進めているよ。これからの時間を最大限に活かそうとしているところだし、将来的にはまた〈Warp〉と一緒に作品をつくれたらいいな、とも思っているんだ。彼らのことはほんとうに大好きだし、一緒に仕事をした経験もすばらしかった。これまでにもいい作品をたくさんつくってきたからね。だから、またいつかなにかいっしょにできたらいいな、と思っているよ。でも、いまはまず〈Brainfeeder〉でやっていきたいという感じだね。
通訳:なぜ〈Warp〉との契約更新ではなく、〈Brainfeeder〉での活動を選んだのでしょう? これまで長いあいだ〈Brainfeeder〉を運営してきたのに、なぜいま〈Brainfeeder〉から作品を出そうと決めたんでしょうか。
FL:そうなんだよね。これは、〈Warp〉との契約上の問題が大きくて。〈Warp〉との契約では、他のレーベルでちがうことをやることができなかったし、再契約することで〈Warp〉では、いままで自分がやってきたようなことができなくなってしまう可能性があったから。
通訳:では、ある意味作品の性質上〈Brainfeeder〉を選んだ、というより、もっとプラクティカルな都合上という感じだったんでしょうか。
FL:そのとおりだよ。音楽性の問題というよりも、契約上の問題にすぎないという感じだよ。
通訳:将来的には〈Brainfeeder〉と〈Warp〉から、ちがったタイプの音楽やプロジェクトをリリースする可能性もありそうですかね?
FL:そうなったらいいと思うけどね。まあ、なりゆき次第かな。
[[SplitPage]]俺の強みは、一瞬のビートだけではなくて、作品全体の絵をつくることなんだ。
■今回、ヒップホップにもわかりやすいジャズにも頼らなかったのはなぜですか?
FL:俺は、この作品にもジャズの要素はあると思っているけれどね。いわゆるトラディショナルなジャズというわけではないけれど、演奏やソロの部分にジャズ的な要素がたくさん入っていると思う。俺にとっては、むしろほかのなによりもジャズに近い感覚だね。というのも、多くのパートがインプロヴィゼイションの精神でつくられていて、あまり考えすぎず、音楽が生き生きとしているように感じられるものにしようと考えていたからなんだ。そういう意味では、これまで以上にジャズ的だと思っているよ。ヒップホップの要素は、たしかに少し控えめかもしれないね。でもそれは単純に、自分にしかつくれないものをつくりたいと思ったからなんだ。このプロジェクトで俺がやったことは、ほかのだれにも真似できないんじゃないかという感覚もあるし、それをとても誇りに思っているよ。すごく独自性の強い作品になったと思う。よくも悪くも、という感じだけれどね(笑)。
■今回、全体的にチップチューン的なサウンドが耳に残りました。ひさびさにあなたのヴィデオ・ゲーム・ミュージック愛が濃く出た作品なのではないかと感じましたが、ご自身ではどう思いますか?
FL:ほんとうに? それは嬉しいなぁ。俺の好きなサウンドだから。
通訳:そういうサウンドはあえて入れたのですか?
FL:そうだね。意図的に入れたんだ。俺はヴィデオ・ゲームとゲーム音楽が大好きだから。人生のなかでも大きなインスピレイションになってきたんだ。だから、この作品のなかにもそうした要素は確実に織り込まれているよ。それに加えて、聴いたときにノスタルジーを感じられるようなものにもしたかった。遊んでいたころのことを思いだしたり、子どものころの感覚を思いだしたりするような。そういう気持ちにさせてくれるものにしたかったんだ。だからこの作品は、どこか子どもっぽさがあって、純粋に楽しいと感じられるような音楽にしたいと思っていたんだよ。
■あなたは以前、ハービー・ハンコックというレジェンドとコラボレイトしています。また、LAのシーンないし〈Brainfeeder〉周辺では、サンダーキャットやルイス・コールなど一流の技術をもった楽器演奏者が活躍しています。今回、打ち込みにこだわったのは、そうしたプレイヤーたちの活躍を意識して、あえて逆を狙ったのでしょうか?
FL:このEPにも、すばらしいキーボード演奏がたくさん入っているよ。もしかするとわかりにくいかもしれないけれど、ほんとうにすごい演奏がいろいろと使われているんだ。つまり、この作品にもかなりしっかりした楽器演奏が入っているんだよね。ただ、この作品はそれ自体で独自のものをもっている。とてもテクニカルな感触もあるし、同時にすごくジャズ的でもある。演奏のニュアンスというか、音をきちんと聴けば「うわ、すごいな」と感じるようなものなんだ。演奏がわかるひとなら聴いたときに、「なるほど、これはすごい」と思うはずだよ。俺にとっては、この作品はまさに自分が夢中になって楽しめるタイプのものなんだよね。今回のプロジェクト全体が、そういう意味あいをもっていた。自分にとって技術的な挑戦と言えるようなものをつくりたかったし、電子音楽でありながら、生きている感じや即興性を持ったものにしたかったんだ。いまはあらゆるものがアルゴリズムで動いているような世界だよね。すべてが理屈どおりに整っていて、意味が通るようにつくられている。だからこそ俺は、もっと生き生きとして、カオスで、本物だと感じられるものをつくりたかったんだ。
通訳:インプロヴィゼーション・プログラミング・ミュージックとも言える新境地を開拓したという感じですね。
FL:まさにそのとおりだよ。それと、どちらかというと意識の自然な流れをキャプチャしたような感覚だね。
■4月には〈Brainfeeder〉からサンダーキャットのひさしぶりのアルバム『Distracted』が出ますね。あなたも参加しています。あなたは長いこと彼を間近で見てきたわけですが、彼の最新アルバムはあなたからするとどのような作品に仕上がっていますか?
FL:いい質問だね。そうだね、なかなか興味深い作品だと思うよ。彼はいま、すごく面白い地点にいると思うんだ。新しいアルバムが出るまでにかなり時間が経っているし、この数年で彼自身もひととして大きく変わってきたから。そうした変化は、きっと音楽にも反映されていると思う。だから、みんながこの作品をどう受けとめるのか、とても楽しみだよ。すごく興味深いアルバムなんだ。きっと、もう少し具体的な話……いわゆるネタバレみたいなことを期待しているのかもしれないけれど、それは言わないでおくよ(笑)。ただ、とても面白い作品だし、これまでの彼の音楽に慣れ親しんでいるひとにとっては、少しちがったものに感じられる、とだけ言っておこうかな(笑)。
■『ガーディアン』のインタヴューで「 “ロウファイ・ビーツ” はスターバックスの音楽のようになっている」「以前やっていないことにトライしなければならない」と語っていました。新作の「BIG MAMA」を自分で採点するとしたら、満足度はどれくらいですか?
FL:どう評価するか、ってこと? そうだな……かなりすばらしい作品だと思うな。じつは、今日も聴いてみたんだけど、面白いことに2年前につくった作品なのにまったく飽きないタイプのプロジェクトなんだよね。自分がこの作品でやったことにはとても満足しているし、いま聴いてもまだまだ挑戦的に感じられるんだ。聴きながら、自分はこれをどうやってつくったんだろう? って思ってしまうくらい。どうしてこんなことができたんだ? ってね。そういうふうに感じられることは、とてもいいことだと思うよ。
文章力を高めたいね。もっといい歌詞を書けるようになりたいし、本やいろいろな文章も書けるようになりたいから。そういう部分をもっと伸ばしていきたいね。いずれは回想録を書きたいとも思っているよ。
■今回の制作方法は、これまでとどうちがっていたのでしょうか。
FL:だいたい2か月くらいを費やしたね。かなり集中してとりくんだんだ。最初の1か月は、とにかく音を録音することに費やした。すべてのサウンドについて意識的に選びながら、自分で録音した特定の音だけを使うようにしていたね。それから残りの1か月で、そういうものをまとめてかたちにしていった。つまり曲そのものよりも「音」に焦点を当てるプロセスだったんだ。パターンや構成よりも、まずはサウンドに集中するという感じだね。俺にとっては、これまでとは少しちがう制作のやり方だった。特別に大袈裟なことをしたわけではないけれど、アプローチとしてはこれまでとちがっていた、という感じだよ。
■「BIG MAMA」は一見、反復するダンス・ビート集のようにも聞こえますが、じつはどの曲もすぐにどんどん展開していきますよね。7曲すべてがつながってもいます。
FL:うーん、その評価はちょっと不公平な気がするね。この作品にはループは使っていないし、おなじことを繰り返している部分もないから。そう聞こえるかもしれないけれど、じっさいには繰り返している部分はないんだ。すべての小節ごとになにか新しい要素が入っていたり、なにかしら変化が起きたりしているんだよね。
通訳:じつはどんどん展開していく、というふうにきちんと理解できていると思います。質問の仕方がよくなかったですね。このEPは7つのトラックに分けて収録されていますが、最後に全体を繋げた1曲にミックスされたものも収録されていて、7曲すべてがつながってもいますよね。
FL:もともとは、すべてをひとつの作品としてつくりたいと思っていたんだ。ひと続きのひとつの曲として成立するようなかたちにしたくてね。でも、いま自分たちが生きている音楽の環境も理解していて。15分もある曲を聴きたいと思うひとは、あまり多くないよね。だから、ストリーミング・サーヴィスのことなんかも考えて、いくつかのトラックに分けるかたちにしたんだ。
通訳:商業的な理由もあったんですね。
FL:そうだね。それに、よく考えてみると両方のいいとこどりをできるかたちでもあるんだよね。トラックごとに分かれているかたちでも聴けるし、ひとつの長い流れとして楽しむこともできる。だから結果的にはみんなにとっていいかたちになっていると思うよ。
通訳:リスナーに選択肢の幅を持たせるのは面白いですね。
■もし本EPのリミックス12インチを出すとしたら、だれに頼みたいですか?
FL:いい質問だね。でも、そうだな……ちょっと考えて、あとで答えてもいい?
通訳:OKです。あとでまたお訊きしますね。では、次の質問に進みます。
■ふだん日常で聴いている音楽のなかで、仕事とはべつに、いま個人的に夢中になっている音楽はなんですか?
FL:最近はドラムンベースやジャングルをよく聴いているね。シング(Thing)っていう若いアーティストも聴いているし、ブラック・オディシー(BLK Odyssey)もよく聴いているよ。ロッチェル・ジョーダン(Rochelle Jordan)の新しいアルバムも聴いている。それからマシンドラム(Machinedrum)の新しい曲もよく聴いているし、ほんとうにいろいろ聴いている感じだね。あと、長谷川白紙も最近よく聴いているよ。ちょうど〈Brainfeeder〉に新しいアルバムを提供してくれたところだから、それもみんなで聴いているところなんだ。
■今年はあなたのファースト・アルバム『1983』の20周年です。この20年で、あなたにとってもっとも大きな転機となった出来事はなんでしたか?
FL:どこが転機だったのかは、自分ではわからないな。というか、いまでもまだ転回しつづけている感じだしね(笑)。うまく言えないけれど……どう答えていいのか正直わからないけど、特定の転機があったという感覚はあまりなくて、ずっと変化しつづけているし、つねに成長しているという感じなんだ。だから、この質問をしたジャーナリストからみて、「ここが転機だったんじゃないか」と思うところをむしろ教えて欲しいかな(笑)。
■2023年にはラッパーのスモーク・デザ(Smoke DZA)とEP「Flying Objects」を送りだしていますよね。1枚丸ごとラッパーと組むのは珍しいと思いますが、同作の経験はあなたになにを与えましたか?
FL:じつは、ああいうかたちのプロジェクトをもっとやりたいと思っているんだよね。正直なところ、最終的にはラッパー次第だったりするんだけど。俺はここにいるし、いつでもやる準備はできている。彼がそれを望んだから、今回はそういうかたちになった、という感じだよ。もちろん、そういう仕事は喜んでやるけれど、できればひとつのプロジェクトについて、自分が唯一のプロデューサーとして関わるかたちがいいね。そこが自分の強みだと思っているから。俺の強みは、一瞬のビートだけではなくて、作品全体の絵をつくることなんだ。だから、いつかだれかとそういうかたちでしっかり組んで作品をつくれたらいいな、と思っているよ。きっとすばらしいものになると思う。
■好きなハウスのプロデューサーがいたら教えてください。
FL:そうだな……特定の好きなハウス・プロデューサーがいるかと訊かれると、ちょっと難しいな。レオン・ヴァインホール(Leon Vynehall)は好きだね。純粋なハウス・プロデューサーというわけではないけれど、彼の作品はすごく評価しているよ。ただ、いろんなひとがときどきいい曲を出していて、そういうひとたちを聴くことは多いね。でも、「いまいちばん好きなプロデューサーはだれ?」と問われると、あまりはっきりした答えはないかもしれないなぁ……あ、ひとりいた! セヴン・デイヴィス・ジュニア(Seven Davis Jr.)だ。彼はすごくいいね。
通訳:彼に「BIG MAMA」のリミックスをお願いしたかったりしますか?
FL:それだ! 完璧だね(笑)。
■かつて〈Brainfeeder〉がフックアップしたイグルーゴースト(Iglooghost)は、いまや新世代のエレクトロニック・ミュージックの代表格ともいえる存在になっています。彼の活躍をどう受けとめていますか?
FL:すごく嬉しいよ。最初から彼がすばらしいアーティストだということはわかっていたからね。これからも彼が自分のやりたいことをつづけていってくれたらいいなと思っているよ。とてもすばらしいことだと思う。
通訳:新世代のエレクトロニック・ミュージックについてはどんな感想を持っていますか?
FL:いいと思うよ。すばらしいことだと思う。みんなにとっていいことだと思うから。正直、あまり難しく考えることはないけれど……ほかになんと言えばいいかな。とにかくすばらしいことだし、このままつづけていってほしいね。みんなが成長しつづけて、挑戦しつづけていければいいと思う。
■音楽家としてはもちろん、あなたはすでに映画作家としても道を歩みはじめています。あなたはいろんなことに関心があるのだと思いますが、これまでまだ手をつけていない分野で、将来あなたがやってみたいことはなんですか?
FL:とくに新しい分野に挑戦したいというよりは、まずは「書くこと」をもっと上達させたいと思っているんだ。文学的な意味での文章力を高めたいね。というのも、もっといい歌詞を書けるようになりたいし、本やいろいろな文章も書けるようになりたいから。そういう部分をもっと伸ばしていきたいね。それから、いずれは回想録を書きたいとも思っているよ。自分ひとりでというより、だれかといっしょにとりくめたらいいね。これまでの人生はかなり特別なものだったと思うし、できればなにも忘れることなく残しておきたいんだ。それに加えて、ちょっとしたフィクションの物語もいくつか書いたりしているから、そういうものにもとりくんでいきたいね。
通訳:ご自身が書いたフィクションの作品をベースにした映画の制作なども今後やっていく可能性はありますか?
FL:ぜひやりたいね。じつは、書く力を伸ばしたいと思っている理由のひとつでもあるんだよ。もっといい脚本家になりたいんだ。長編映画や短編映画の脚本を書けるようになりたいと思っているよ。











