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Leon Vynehall

DowntempoHouseTechno

Leon Vynehall

Rare, Forever

Ninja Tune / ビート

渡部政浩   Jul 09,2021 UP

 フローティング・ポインツやフォー・テットはよく語られるが、それに較べてレオン・ヴァインホールがあまり語られないと感じるのは、僕の気のせいだろうか。全員がUK出身のDJであり、いずれも彼らのアルバムはフロアの枠を超え、すばらしい作品へと実を結んでいる。実際、僕は2019年にリリースされたフローティング・ポインツの『Crush』を何度も聴き込んだし、2020年にリリースされたフォー・テットの『Sixteen Oceans』も安心して聴けた──ハウスに分類できる音楽においてはあまり多くない──フルレングスのアルバムだった。もちろん、同年に重量盤&3枚組の豪華仕様で、名盤『There Is Love In You』が再発されたことも、ささやかだがうれしい出来事であった。

 もし、以上に挙げたいずれかの作品がレコード棚にあるのならば、レオン・ヴァインホールの『Rare, Forever』もコレクションに加えてみてはいかがだろうか? オープナーの “Ecce! Ego!” のダウンテンポ、ボン・イヴェールの『22, A Million』でアートワークを手掛けたエリック・ティモシー・カールソンによるMVから、前作『Nothing Is Still』と地続きのコンセプチュアルなものを予感させる。が、その内実は少し異なる。もちろん、前作にある美しくも幽玄なテクスチャは随所に引き継がれているものの、緻密で一貫した物語は鳴りを潜め、その瞬間における彼の感情が、10曲/38分間へと見事に落とし込まれ、そして、なによりもフロアへのまなざしを感じられる。後悔しないことを保証します。

 まず、彼は抽象画からのインスピレーションについて公言しており、ブラシの自由なストローク、感じたままあるがままに描くというありかたは、まさにその瞬間の感情を捉えた今作の仕上がりに直結している。突如としてザッピングめいた音とヴォーカルの断片が挿入される “Mothra” は、自由でトリッキーな作風をよくあらわしているし、「ただ座って、自分の思いつきに委ねた」と語る “Farewell Magnus Gabbro” では、瞑想的なドローンを展開する。サックスが響き渡る “Alichae Vella Amor” は、配偶者へのシンプルなラヴ・ソングに仕上がっている。多様な感情がめまぐるしく展開していくさまは、液体のように掴みどころがなく、どこか流動的なイメージを想起させられる。一貫したコンセプトや物語からのこの解放が、様式にとらわれない自由な作風に通じている。

 そして、このフリーフォームな作風は、『Rare, Forever』が踊れる方向へ再びフォーカスしたことへつながっている。彼がDJであるだけでなく「アーティスト」であることを証明したコンセプチュアルな『Nothing Is Still』以前のことを思い返してみよう。『Music for the Uninvited』や『Rojus (Designed To Dance)』は、後者が「ダンスのためにデザインされている」と付しているように、まさにフロアのためにチューニングされたサウンドであったし、そもそも彼は、ウィル・ソウルによる〈Aus Music〉やオランダの〈Royal Oak〉といった上質なレーベルから、フロアライクなハウスをリリースしているのだ(僕のお気に入りは “Brother”)。

 今作はいわゆるストレートなハウス・ミュージックではないが、この頃にたずさえていたダンサブルな感覚が注がれており、それが “Snakeskin ∞ Has-Been”、あるいは “An Exhale” や “Dumbo” などの楽曲で結実しているように感じる。ビートが差し引かれた “An Exhale” には独特の高揚感があり、そこからなめらかにつながる “Dumbo” では、せきを切ったかのように踊れるビートが展開される。個人的に、後者のふたつは今作のハイライトだと思っている。このふたつをレオン・ヴァインホールは「楽しげ/楽観的/遊び心のある」といった言葉で表現していることからも、たしかに明確なコンセプトや物語はない。これらのサウンドを聴くと、レオン・ヴァインホールがフロアを志向していたころを思い出させるような、踊れる瞬間を演出しているように感じる。

 『Rare, Forever』を聴いていると、コンセプトや物語はさして重要ではないと思わされる。どこまでも自由であり、その瞬間の感情を切り取ったこのアルバムは、おおよそは落ち着くことを拒むかのようなリズムであふれており、ときおり汗が飛び散るダンサブルな瞬間を思い出させる。DJやフロアの来歴を存分に感じさせるサウンドは、驚くほどのクオリティで、アルバムというフォーマットへ落とし込まれている……だからこそ、彼をフローティング・ポインツやフォー・テットといった面々と並列することは、まったく誇大な触れ込みではないのだ。もう一度言おう、後悔しないことを保証します。

渡部政浩