Home > Reviews > Album Reviews > Jabu- A Soft and Gatherable Star
日本のリスナーにとってブリストル・サウンドが夢を約束してくれる音楽だとしたら、ジャブーの最新アルバムはお薦めだ。あるいは、こうも言える。音楽を夢想の入口として楽しんでいるリスナーにとって、ジャブーにはその扉が確実にある。コクトー・ツインズ、A.R.ケイン、エイフェックス・ツインの『Selected Ambinent Workd Vol.2』、マッシヴ・アタックの “Teardrop” 、ボーズ・オブ・カナダ……こうした音楽を好んでいる人にとっては必聴盤と言っていいだろう。
アモス・チャイルズ、アレックス・レンダル、ジャスミン・バットの3人からなるジャブーが10年代ゴシックの牙城〈Blackest Ever Black〉から最初のアルバムを出したのは2017年だが、3人ともヤング・エコー集団のメンバー(あるいはKilling Sound、O$VMV$Mなど)でもあるので、2010年代初頭より活動している。初期は地元の〈No Corner〉〔※シーカーズも出したレーベル〕から数枚の7インチを出していたが、セカンド以降は自分たちのレーベル〈Do You Have Peace?(あなたに平和はある?)〉を立ち上げ、リリースしている。
ブリストル・サウンドというレッテルは、90年代、当事者たちが迷惑していた呼称だったが(当たり前だが、ブリストルにはロックも実験音楽もあり、ポーティスヘッドとマッシヴ・アタックとではアプローチが異なる)、ひとつ言えるのは、70年代末のポスト・パンク時代のブリストルの重要な影響源にはJBやパーラメントがあって、80年代末からのクラブ時代にはヒップホップとニュージャック・スウィングがあったように、ジャマイカから輸入されたレゲエ/ダブを除けば、彼らの混合成分表にはかなりの分量でその時代のアメリカの黒人音楽からの影響があった。
ヤング・エコー一派にも現行のUSブラックとの繋がりがあるにはあるが、グライムやドリルほど強くはない。2010年代以降の、ベース・ミュージックを通過したその一派は、ダークなサウンドシステム文化における混合主義を継承してはいたが、90年代的ブリストルの亡霊の、ある意味闇雲な引き伸ばし作業のようでもあった。アモス・チャイルズはその中心人物のひとりで、ジャブーにおいては拡張よりも音楽の没入感に重点を置いている。早い話が、こちらのほうが入りやすい。
ダークかつダウナーなR&Bからドリーミーなそれへと展開したのが前作で、しかし新作『A Soft and Gatherable Star(柔らかく、集めることができる星)』ではR&Bの要素は後退し、コクトー・ツインズの領域に近づきシューゲイザーめいてもいる。メランコリックなメロディはリヴァーブの霧に包まれて、実験性はあるものの、ティルザの1枚目/2枚目のアルバムにも隣接する親密さをもっている。いにしえのブリストルのオルタナティヴ、初期フライング・ソーサー・アタックにも通じる幻想的な雰囲気はローファイな音響へと注がれているが、グルーパーにも似たムードある歌がアルバム全体のトーンを優しくする。世界はぼやけ、滲んでいる。これは、2024年の嬉しいドリーム・ポップ・アルバムだ。
野田努