「Nothing」と一致するもの

Abul Mogard - ele-king

 セルビアのアンビエント・アーティストであるアブル・モガードの新譜『In Immobile Air』(https://abulmogard.bandcamp.com/album/in-immobile-air)がリリースされた。「不動の空気で」と名付けられたこのアルバムは、古いベヒシュタイン社製アップライトピアノの音を加工して制作されたアンビエント/ドローンである。アルバムはイタロ・カルヴィーノの短編小説にインスパイアされているようだ。印象的なアートワークは1983年生まれのイタリア在住のアーティスト、マルコ・デ・サンクティスの手によるドローイングで、彼が作り出したイメージは本作のフラジャイルなムードを見事に体現している。
 この『In Immobile Air』に収録された全5曲、どの楽曲も静謐さと透明な哀しみが、微かな音響と音楽のなかで儚げに交錯している。この濃厚なノスタルジアに満ちたサウンドスケープは、名盤の誉れ高い『Kimberlin - Music From The Film By Duncan Whitley』を超えている。まさにモガードの最高傑作ではないか。

 まずアブル・モガードのリリース歴を簡単に振り返っておきたい。彼にはある「謎」がある。モガードはドゥーム・サウンドの伝説的バンドであるアースの元メンバーであるスティーヴ・ムーアらが主宰する〈VCO Records〉から『Abul Mogard』(2012)、『Drifted Heaven』(2013)、Justin Wiggan、Siegmar Fricke らとの共作『Lulled Glaciers』(2014)などの初期作品をリリースした後、Walls が〈Kompakt〉傘下で運営するエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈Ecstatic〉から2015年に『The Sky Had Vanished』と『Circular Forms』などの傑作アンビエント・アルバムをリリースした。以降、同レーベルから継続的にアルバムを発表している。
 2017年には〈Ecstatic〉からマウリツィオ・ビアンキとのスプリット『Nervous Hydra / All This Has Passed Foreve』をリリースした。日本のアンビエント/エクスペリメンタル・マニアにモガードの名が知れ渡ったのは、このアルバムではないかと思う。
 続く『Above All Dreams 』(2018)、『Kimberlin - Music From The Film By Duncan Whitley』(2019)などの〈Ecstatic〉からのアルバムもアンビエント・マニアから高く評価された。ちなみに2016年に〈Ecstatic〉から〈VCO Records〉時代の曲のコンピレーション盤『Works』もリリースされている。
 それらのサウンドはどれも深いノスタルジアを湛え、まるでアンドレイ・タルコフスキーの長編映画『ノスタルジア』(1983)のイメージやサウンドを想起させてくれるような音響空間を生成していた。セルビアというヨーロッパのバルカン半島から発表されたアンビエントということもあり、聴き手のイマジネーションをおおいに刺激もした。そしてもうひとつ、われわれを強く惹きつけたことがあるのだ。

 そもそも彼は誰なのか。

 「セルビア出身の老齢の男性。長年勤めた金属工場を退職した後、自らの孤独を慰めるために、工場で聴こえた音をシンセサイザーで作りはじめた」というのが、その初期からレーベルなどによって提示されてきたモガードの基本的なプロフィールであり、人物情報だ。
 だがこのあまりに魅力的な、かつできすぎといえる「インダストリアルな経歴」を持った人物像の真意はいまのところ分からない。事実かもしれない。そうでもないかもしれない。じっさい2017年にベルリンの Atonal で披露されたライヴでは彼の姿は光のスクリーンの向こうに隠れてはいたものの、その微かに見えるシルエットは流布されていたモガードの写真(高齢の男性の写真だ)から連想されるものとは異なっていたようなのだ。
 もしかすると「モガード」という人物自体が虚構であり、存在しないかもしれないという可能性も十分にありえる。だがそのような偽装された経歴・匿名性は、この種のエクスペリメンタルな音楽にあってはそれほど不思議なことではない。
 同時に彼の作り出してきたアンビエント/アンビエンスは、「長年金属工場を勤め上げた初老の男性が作り上げたアンビエント音楽」というコンセプトを十分に体現するようなサウンド/トーンだったことも事実だ。淡い霧のような音の持続は、インダストリアルな音が記憶の層に溶け合ったかのような音響空間を生成しており、深いノスタルジアを醸し出している。
 事の真意ですらもモガードのアンビエント/アンビエンスの霧の中に溶け込んでいってしまっている。とすれば聴き手としては、その虚構の音響的時間の中に虚構ゆえの真実を聴きとり、充実したリスニング・タイムを送ることができれば十分だという見方もある。この種のエクスペリメンタルな音楽において、経歴疑惑問題は大きな問題ではないのだ。だが同時に「高齢の男性」というイメージによる操作がおこなわれていることも事実なのだ(エイジズム? 初期の頃に発表された初老の男性とは?)

 とはいえ事実が明らかになっていない以上、これ以上の追求はできない。たとえ彼の真の経歴の真意=正体が業界内でのコンセンサスであったにしても、われわれ聴き手は一旦は受け入れるしかないのだ。アーティストが作り出した音を聴くこと。ただ、それだけだ。そう考えると、モガードの謎に満ちた経歴は、むしろ作品をただ聴いてほしいという意志の表れかもしれない。
 それらをふまえた上で、もう一度、モガードの音を聴き入ってみよう。やはり彼のアンビエント/アンビエンスは圧倒的に素晴らしい。かつてのフェネスやティム・ヘッカーほどの分かりやすい先端性はないが、彼らのリスナーをも強くひきつける美しい音響を生みだしている。濃厚なノスタルジアは聴き手の聴覚とイマジネーションを深い霧を湛えた森に誘う。加えてアップライトピアノを用いたことによって、本作『In Immobile Air』ではクラシカルな要素も表出しはじめた。その結果、音楽と音響の境界線が溶け合っていくような感覚を与えてくれる。
 『In Immobile Air』は非常に充実したリスニングを与えてくれるノスタルジア・アンビエントだ。謎に満ちた彼の経歴のことは、いまのところ詳細不明で良いのかもしれない。とにかくこの美しい音はここに実在するのだから。
 経歴や物語に左右されず音を聴くことを彼は教えてくれる。モガードの音楽と存在は虚構と現実のあいだを彷徨いつつも、その果てにある音の空間に深く没入させてくれるのだ。そんな稀有なアンビエント・サウンドスケープがここにある。

Telex - ele-king

 〈ミュート〉が仕掛けるテレックス回顧プロジェクト、まずはその挨拶状的なベスト盤『this is telex』は4月30日にリリースされるのは既報の通りなのですが、昨日、その先行シングルの第二弾としてザ・ビートルズの“ディア・プルーデンス”のカヴァーが発表されました。これは未発表だったカヴァーなので、いきなりこれ公開しちゃうのかよーと思ったファンも少なくないでしょう。

 ちなみに『this is telex』は、彼らのファースト・アルバム『テクノ革命』から2006年のカムバック作『How Do You Dance?』までの全キャリアから選曲されていますが、アルバムの冒頭と最後は未発表曲(しかもどちらもカヴァー曲)という、憎たらしい構成となっています。“ディア・プルーデンス”は同アルバムのクローザートラックです。
 なお、〈ミュート〉の日本の窓口である〈トラフィック〉を通じて、細野晴臣からのコメントも発表されました。細野晴臣がプロデュースしたコシミハルの『Tutu』(1983年)において、テレックスの“L'Amour Toujours”が日本語でカヴァーされていますが、これは当時ブリュッセルにあったテレックスの自前スタジオ(Synsound Studio)での録音です。細野晴臣&コシミハルはそのスタジオを訪れているんですね。ちなみにバンドの中枢だった故マルク・ムーランも『Tutu』の“L'Amour Toujours”でシンセサイザーを弾いています。

■細野晴臣コメント
「先日Miharu Koshiと最近のフランスの新しいPOPSを聴いていて、『これはTelexみたいだ』と話してたんです。Telexのような音楽は今や普遍的なPOP MUSICになったんだと思いました。Telexの皆さんとセッションした暑い夏のブリュッセルがとても懐かしく、優しい心で迎えてくれたことを感謝してます。マルク・ムーランさんの逝去、とても残念ですが、きっと彼も僕たちと同じく、ベスト盤のリリースを喜んでいることでしょう。また、近い将来、あなたたちの新作が聴ける日を楽しみに待ってます」

Apifera - ele-king

 イスラエル出身のキーパーソンで、キーボード奏者及びマルチ・ミュージシャン/プロデューサー/ビートメイカーとして多彩な活動を続けるユヴァル・ハヴキン。昨年はリジョイサー名義で『スピリチュアル・スリーズ』という素晴らしいアルバムをリリースした。リリース元の〈ストーンズ・スロウ〉とはその前のアルバムの『エナジー・ドリームズ』(2018年)からの付き合いで、ユヴァルによってイスラエルとロサンゼルスを繋ぐ仲介役的な役割も果たしてくれているのだが、彼の新しいユニットのアピフェラもまた〈ストーンズ・スロウ〉からとなる。

 アピフェラはユヴァル・ハヴキン(キーボード)ほか、ニタイ・ハーシュコヴィッツ(キーボード)、アミール・ブレスラー(ドラムス)、ヨナタン・アルバラック(ベース)という、すべてイスラエル出身のミュージシャンからなる4人組バンドである。ロサンゼルスが拠点と紹介しているところもあるが、実質的な活動地はイスラエルのテル・アヴィヴだろう。
 ユヴァルはテル・アヴィヴのテルマ・イェリン芸術学校卒だが、ほかのメンバーもだいたいこの学校出身か周辺の音楽仲間である。このサークルからはタイム・グローヴ、リキッド・サルーンといったバンドや、L.B.T.というヒップホップ集団が出ているが、この4人はそれらのいずれかに参加している。実際のところリジョイサーの『エナジー・ドリームズ』にはニタイ、アミール、ヨナタンが、『スピリチュアル・スリーズ』にもニタイとヨナタンが参加していたので、アピフェラの『オーヴァースタンド』はそれらの延長線上にある作品とも言える。
 一方、ニタイはイスラエル出身のベーシストとして世界的に名を馳せるアヴィシャイ・コーエンのトリオのピアニストとしても知られ、アミールはアミット・フリードマンやオメル・クレインらのグループで演奏し、ヨナタンはビッグ・バンドのアヴィ・レオヴィッチ・オーケストラのメンバーとしても活躍するなど、既にイスラエル・ジャズ界でそれぞれポジションを獲得しているので、アピフェラはそうした実力者4人が集まったバンドでもある。こうしてスタートしたアピフェラは、昨秋はファンク・レジェンドのスティーヴ・アーリントンのニュー・アルバム『ダウン・トゥ・ザ・ローエスト・タームズ:ザ・ソウル・セッションズ』に参加し、そして自身の『オーヴァースタンド』をリリースするに至った。

 アピフェラという名前は蘭に集まってきた蜜蜂のことを指しているようで、オーガニックなサウンド構造とハーモニーやアレンジにより、豊かで多様な自然界を映し出すという方向性を持つ。ユヴァル・ハヴキンの名を一躍広めることになったバターリング・トリオにも共通する音楽性で、ヒレル・エフラルによるジャケットのアートワークにもそうした雰囲気が反映されている。イスラエルの民謡やラヴェルやサティなどに影響を受け、そのほかにもスーダンやガーナなどアフリカの音楽からサン・ラーの作品まで、メンバー4人が育んださまざまな音楽的要素が盛り込まれている。インスピレーションの赴くままにライヴ・セッションを3日間ほどおこない、『オーヴァースタンド』はレコーディングされた。最小限のオーヴァーダビングはあるものの、基本的にはこうした自由なセッションをそのまま録音している。
 セッションにはメンバー4人以外にゲストでノアム・ハヴキン(キーボード)、セフィ・ジスリング(トランペット)、ヤイル・スラツキ(トロンボーン)、ショロミ・アロン(サックス、フルート)が参加しているが、いずれもユヴァルやニタイたちの音楽仲間で、これまでもいろいろな作品で共演してきた面々だ。

 ニタイによると、アピフェラのサウンドにとってオーケストレーションは重要なパートで、特に音の質感に注力し、音色や温度感についていろいろディスカッションしながらセッションしていったそうだ。表題曲の “オーヴァースタンド” においてもそうした丁寧に吟味したサウンド・テキスチャーが張り巡らされていて、上質なアンビエント・ジャズとなっている。“レイク・ヴュー” におけるビートとエレピのバランスも絶妙で、抽象性の高い音色が聴く者のイマジネーションを無限に広げていく。リズム・セクションのセンスの良さを感じさせるジャズ・ロック調の “エネック・ハマグロ”、幻想的なエレピが印象に残る “ヤキズ・ディライト” など、ハービー・ハンコックやチック・コリアが1970年代にやっていたフュージョンを現代的にアップデートしつつ、“ザ・ピット&ザ・ベガー” や “Gerçekten Orada Değilsin” のようにイスラエル民謡からきたと思われる独特の音階を織り交ぜている。
 ただ、ある特定の国の音楽に固定されるのではなく、どこの国とも言えない無国籍感やさらに言えば時代性を超越した音を出しているのがアピフェラでもある。“ノートル・ダム” もヨーロッパ的であるが、具体性ではなくあくまで抽象性を感じさせる音だ。ヴォーカルやコーラスは一切入らず、楽器の音色のみでアルバムが作られている点も、この抽象性に一役買っているだろう。“アイリス・ワン” や “フォー・グリーン・イエローズ” などは一種のライブラリー・ミュージックのようでもあるが、アーティスト性を打ち出すことによって型にハマった音を作るのではなく、ある意味で匿名的なサウンドにすることによって聴き手の想像力を広げていく。鳥のさえずりなどを交えた “パルス” は、そうした抽象性や匿名性をつき進めていったもので、アピフェラが目指す自然界の音を表現したものだ。

LITTLE CREATURES - ele-king

 “大きな河” の歌詞に「いつも負けるぼくら」の一節がある。そうかもしれない。大きな河に浮かぶ船では仕組みをつくった賢いひとが船頭役ときまっていて、そうじゃないひとたちはいつなんどきうねる河に放り出されないともかぎらない。それこそがこの世のことわりであり、アルバムの曲名にもみえる「ことわり」とはおそらく「理」をさし道理や条理を意味するが、たとえ理を問うても、無視されるならまだしも、はぐらかされるのがこのところはセキのヤマ、とかくにひとの世は住みにくいのは漱石の時代から世の常か、それとも近代の宿痾か。青柳拓次、鈴木正人、栗原務――リトル・クリーチャーズの3人は5年ぶりの新作『30』でそのように嘆いている、頭(かぶり)をふりつつ眉根をよせている、いやただしくは怒っている。静かに、青い炎のように。
 感情が腑に落ちるのは歌詞が日本語だからか。リトル・クリーチャーズといえばロック、ジャズ、アコースティックなフォーク音楽から最新型のエレクトロニック・サウンドまで、幾多の音楽性を血肉化しながら時代のツボを突くレコードを世におくりだしてきた。主眼となるのは音であり、音が語るなかにのみ彼らの真意はあり、ことばは副次的な要素にすぎない。むろんこれは推察にすぎず、真相は訊ねてみるほかないが、英語の歌詞を選択したのは基準を国内よりも海外に置き、言語の意味よりも響きを優先するかにみえた。すくなくとも記号と細分化の時代だった1990年代の落とし子として彼らを認めるものにとってことばはいつも音におくれてやってきた。
 8枚目のアルバム『30』ではそのことはあてはまらない。リトル・クリーチャーズは全編で日本語の歌詞をもちいているのである。題名の『30』は1990年のデビューから30年たったことをさすという。しからば満を持しての舵取りかと思いきや端緒は5年前の前作『未知のアルバム』ですでにひらいていた。そこで彼らははじめて全編日本語詞を採用しきりつめたアンサンブルに簡素な述懐を組み合わせていた。私は不勉強ながらこのアルバムを後になって手にとり青柳、鈴木、栗原の個の合算からなりたつリトル・クリーチャーズという等式の左項と右項がひっくりかえる気持ちがした。1+1+1は3にしかならないが、3は1+2にも2+1にも、元のとおりの1+1+1になることもある。ソロからサポートまで、おのおのが個別の活動をおこなう彼らにあってバンドとはたがいの成長をたしかめあう実家みたいなもので、数年ごとにたちより英気を養ったらまたそれぞれの場所におもむいていく。音楽家のキャリアを積むなかであたりまえに青柳、鈴木、栗原の集合体だと思い込んでいたリトル・クリーチャーズはじつのところひとつの生き物(クリーチャー)だった――などと述べてもダシャレにもならないが、『30』にはこの30年3者がつちかったものが詰まった太くしなやかなうねりがある、どこをきっても個に分解できないむすびつきがあり音の疎密を問わず意思のゆきとどいた空間性が底流をなしている、それらをたずさえ彼らは別天地へむかうのである。
 “速報音楽” は狼煙である。注意深く耳を傾けるものにとどく高らかに鼓吹しないファンファーレである。「そのラジオもっと音上げよう」と青柳拓次は歌いはじめる。ラジオは感受のメタファであるとともに、出会いの偶有性を意味し、おそらくは「情報をとりにいく」という主体的な行為がややもするとフェイクにまみれる昨今の風潮を言外ににおわせている。清志郎がベイエリアやリバプールからキャッチしたように、リトル・クリーチャーズのアンテナはナイジェリアやバンコクやジャマイカからやってくるホットなナンバーをすくいあげる。ポイントは「踊れる」かどうか。そして踊るというポピュラー音楽の基底部にあるものは『30』にくりかえしあらわれるキーワードになっていく。とはいえ彼らが志向するのは派手派手しいダンス音楽とも趣を異にする。存分に間をとった合奏から滲み出すグルーヴとでもいえばよいだろうか。ギターのトーン、ベースのノリ、ドラムのタメ、それらの重なり合いで生じる残像のような効果もひきだしながらトリオ編成の旨味が『30』の随所に散りばめてある。ややファットなドラムとシンプルなギターのサウンドが『30』の音像の土台となり、鈴木のベースはスラップからシンセベース風の音色まで遊動的な役割をうけもっている。めいめいが曲も詞も書くグループとあっては曲ごとの色合いもさまざまだが、アルバム総体はグラデーションを描くにも似た自然な広がりをたもっている。12曲中8曲をしめる青柳の色がつよいとはいえ、鈴木の手になる “左目” や “踊り子” の編曲の巧みさ、栗原の “悲しみのゆくえ” や “ハイポジション” のストレートなアプローチがアルバムにダイナミズムをもたらしているのはまちがいない。それらが煽情的で装飾的な方法論とは無縁になりたっているのは3者の30年におよぶ来歴を彷彿させてあまりある。現状を追認するでも冷笑主義におちいるでもない、そのような場所にふみとどまるからこそ青柳の問題提起も私たちの日々と地続きのものとうけとれるのであろう。
 『30』は日本語という言語と、ハイブリッドという簡単な言い方ではおいつかない音楽的複合性で歩をすすめるリトル・クリーチャーズの現在地を照ら出している。1990年、才気煥発な若者として音楽シーンに登場し、新しもの好きのファンはもとより大向こうをうならせつづけて30年、またたくまに月日はすぎたが、思えば遠くにきたものだという慨嘆はリトル・クリーチャーズとは無縁である。『30』にもそのような姿勢はない。かわりに彼らは『30』のフィジカルを『STUDIO SESSION』と題したライヴ盤との2枚組の仕様で30年の時間の厚みを描き出そうとする。キャリア全域からまんべんなく選曲した全編英語詞の全10曲はベスト盤の意味合いもかねるが、アコースティック基調のまろやかな演奏に感じるのはいまここで前を向く彼らの姿である。2枚組のあざやかなコントラストはそのことを立体的にうかびあがらせるばかりかフィジカルの利点をしめしてやまない。
 それにつけても「踊りかける」ってすてきな曲名ですね。

BES - ele-king

 SWANKY SWIPE / SCARS としての活動でも知られるラッパーの BES。昨年リリースされた I-DeA とのミックス『BES ILL LOUNGE Part 3 - Mixed by I-DeA』から、BIM とのコラボ曲のMVが公開された。同曲のデジタル・シングルも本日より配信がスタートしている。
 さらに、同曲を収めたアナログ盤『BES ILL LOUNGE Part 3 - EP』も本日リリース。完全限定プレスとのことなので、なくなるまえに急げ!

BES と BIM のコラボ曲 “Make so happy” のMVが公開! また同曲のデジタル・シングルが本日より配信開始となり、完全限定プレスのアナログ盤『BES ILL LOUNGE Part 3 - EP』も本日リリース!

SWANKY SWIPE / SCARS としての活動でも知られ、活発な活動を続けているシーン最高峰のラッパー、BES。日本語ラップ・シーンにおける数多くの重要アーティスト/作品に関与してきたシーンを代表するプロデューサー/エンジニア、I-DeA。その両者のジョイントで昨年11月にリリースとなった最新ミックス『BES ILL LOUNGE Part 3 - Mixed by I-DeA』から BIM とのコラボによる “Make so happy” のミュージック・ビデオが公開! メジャーからインディペンデントまで様々なアーティストの作品に関与してきた映像クリエイター、渡邉剛太氏がディレクションを担当し、BES と BIM だけでなく I-DeA やプロデュースを担当したビートメイカー、K.E.M もカメオ出演しています。(※映像は最後までご覧ください)

また同曲のデジタル・シングルがインスト付きで本日より配信開始となり、同曲も含むアナログ盤『BES ILL LOUNGE Part 3 - EP』も完全限定プレスで本日ついにリリース! アナログ盤には BIM の他に B.D.、D.D.S & MULBE、MEGA-G との各コラボによる新曲計4曲とその全インスト・ヴァージョンがコンパイルされております。

*BES "Make so happy" feat. BIM (Official Video)
https://youtu.be/9wDDIRhsaFs

[デジタル・シングル情報]

アーティスト:BES
タイトル:Make so happy feat. BIM
レーベル:P-VINE, Inc.
発売日:2021年2月26日(金)
仕様:デジタル・シングル
Stream/Download:
https://smarturl.it/bes_makesohappy

[12EP情報]

アーティスト:BES
タイトル:BES ILL LOUNGE Part 3 - EP
レーベル:P-VINE, Inc.
発売日:2021年2月26日(金)
品番:P12-6776
仕様:レコード(完全限定プレス)
税抜販売価格:2,800円

★P-VINEショップ限定で予約・購入いただいた方に先着順で「特典ステッカー」がつきます!

[トラックリスト]

SIDE-A:

1 SWS feat. D.D.S & MULBE
 Prod by DJ SCRATCH NICE
2 美学、こだわり feat. MEGA-G
 Prod by BES & I-DeA
3 Make so happy feat. BIM
 Prod by K.E.M
4 表裏一体 feat. B.D.
 Prod by DJ SCRATCH NICE

SIDE-B:

1 SWS (Instrumental)
 Prod by DJ SCRATCH NICE
2 美学、こだわり (Instrumental)
 Prod by BES & I-DeA
3 Make so happy (Instrumental)
 Prod by K.E.M
4 表裏一体 (Instrumental)
 Prod by DJ SCRATCH NICE

Andrew Nosnitsky - ele-king

 毎年年末、彼のブログにポストされる「ベスト・ラップ」のリストは、多くのラップ愛好家たちの指針になっているという。オークランドを拠点に活動するヴェテラン・ヒップホップ・ジャーナリスト、Noz ことアンドリュー・ノスニツキーによるカセットテープが〈C.E〉からリリースされている。

 となるとやはりヒップホップのミックスなのかと思いきや、〈C.E〉のウェブサイト上で試聴すると、いきなりエクスペリメンタルなドローンが流れてくるから驚きだ(右上の再生ボタンをクリック後、いちばん上のカセットをクリック)。途中からちゃんとラップ・ソングに切り替わるものの、これはなかなかおもしろいアイディアである。ぜひチェックを。

Andrew Nosnitsky
フォーマット:カセットテープ
収録音源時間:約60分(片面約30分)
発売日:発売中
販売場所:C.E
〒107-0062 東京都港区南青山5-3-10 From 1st 201
#201 From 1st Building, 5-3-10 Minami-Aoyama, Minato-ku, Tokyo, Japan 107-0062
問合せ先:C.E
www.cavempt.com

Brother Nebula - ele-king

 昨年末リリースですがじわりじわりと聴いているうちに紹介したくなりまして。ということで現在はロンドン・ベースのレーベル〈Legwork〉からの、ブラザー・ネブラのアルバム『The Physical World』。サウンド的にはザ・ブラック・ドッグ・プロダクション~バリル名義あたりのテクノをさらに今様に、そしてDJトラック的に野太く進化させたそんなサウンドで、軽快なブレイクビーツとデトロイト・テクノ的な叙情的なシンセのラインが、思わずその手の音が好きな人にはたまらない音となっています。その手のサウンドのライヴァルと歩調を合わせつつ、リスニング・アルバムとしても、またDJトラックとしても十分に効果を発揮してくれそうな、そんなシンプルな力強さとグルーヴも兼ね備えたアルバムです。

 これまでわりとミステリアスなアーティストで、〈Legwork〉からのその他のリリースでは、もうすこしエレクトロ寄り、音でいうとドレクシアの故ジェームズによるジ・アザー・ピープル・プレイス名義で展開したコズミックかつメランコリックなエレクトロ・トラックをシングル「A Brief History of Lasers」で展開していたり(アルバムの音楽性とは地続きながら別のアプローチなのでこちらもオススメしたい)。また同レーベルからは、〈Future Terror〉での来日などで日本では知られる、アメリカ西海岸、サンフランシスコのウェアハウス・テクノ・シーンの重鎮、DJソーラーと S.I.S. 名義で作品を出していたり(コチラはちょいとイタロが入ったエレクトロ・ディスコで、本作に通じるブレイクビーツ・ハウスなリミックスも披露)、と、わりと謎の存在でした。ところがどうやら最近しれっと Discogs にばらされた情報が本当であれば、その正体はレーベルを主宰するサウンド・エンジニアでもあるベテラン、Lance DeSardi の模様です。もともとはテキサス、ダラスの出身でこれまでにNYの〈Coco Machete〉や〈Chez Music〉といったハウス・レーベルで本名名義や Land Shark で作品をリリース(Land Shark 名義のアルバムは〈Coco Machete〉から、西海岸のハウスの牙城〈OM〉からもライセンス)。

 またキャリアに関しても、2000年代前後にには西海岸のディープ、ハウス・レーベル、例えば〈Seasons〉の作品にクレジットされるなどアーティストとして、さらにはエンジニアとしても長いキャリアがあり、大物アーティストのリミックスなど含めて、さまざまな作品を手掛けていることがそのホームページでわかります。現在はアメリカからハックニーへ移住。
 こうしたキャリアを考えればソーラーとのコラボや、レーベル〈Legwork〉で、ダラス出身で Convextion、E.R.P. 名義などでディープなコズミック・テクノ~エレクトロを奏でるジェラルド・ハンソンの作品をリリースしていることなどもうなづけるといったところでしょうか。

 さてくだんの『The Physical World』は、冒頭で書いたようにそのサウンドのキモはやはりブレイクビーツを援用したリズム・ワークで、表題曲ではイントロでビッグビート?と言ってしまいそうなリズムを鳴らしつつ、グッと引き込まれるメランコリックなシンセのメロディを展開していくあたりで一気にアルバムのとりこに。やはりブレイクビーツ上でデトロイティッシュなテクノを展開した “A Question”、前述のようにブラック・ドッグのバリル名義の作品を豊富とさせる “A Snake In Paradise” “Living WIth It”、ブロークンビーツ的な “The Big If” やジョーイ・ベルトラムの初期を彷彿とさせるアルバムのなかではヘビーな “Clairvoyant” も良きアクセントになっています。

 往年のテクノ・ファン──アズ・ワン、グローバル・コミュニケーション、ブラック・ドッグなどのサウンドが好きな方には現代のサウンドの入り口に、そしてこのアルバムをお好きな方はぜひとも前述のような過去の名作も聴いてみると、なんとも心をわしづかみにされるのではないでしょうか。そんな時代をつなぐ架け橋のようなアルバムでもあったりすると思います。
 とはいえ、もちろんそのサウンドは単なるリヴァイヴァルではなく、現在のアップデートがなされた音であり、その音質や空間表現などに関しても、過去のものとはかなり別の領域でのサウンドのジョイがあります。これは1995年頃に、現在ELMと呼ばれているテクノ・ミュージックの、ある可能性郡がトリップホップ~ジャングル、ハード・ミニマル、エレクトロニカへと別れて霧散してしまわず、ダンス・ミュージックとしての強度、つまるところシンプルなグルーヴ感を失わずに、どこかで生き続けて進化したら……といったことを想像してしまうかのような作品でもあったりします。

Satomimagae - ele-king

 サトミマガエ、憶えてらっしゃるだろうか? かつて畠山地平のレーベル〈White Paddy Mountain〉から作品を発表していた、あまりに独自の世界観を表現するフォークシンガーだ。安易な喩えで恐縮だが、あえてわかりやすく言えば、Grouperと比肩されうるサウンドの持ち主である。孤高の……という言葉も現代は安っぽく使われているが、彼女には相応しいのではないだろうか。
 彼女の新しいアルバムが〈RVNG Intl.〉からリリースされることになった。4月23日、タイトルは『Hanazono』。先行シングル曲「Numa」はリリースされたばかり。忘れがたい音楽が待っています。

Satomimagae – Numa [Video]

Satomimagae
Hanazono

PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-151
CD / Digital
2021.04.23
2,000yen + 税

Track List:
01. Hebisan
02. Manuke
03. Suiheisen
04. Tsuchi
05. Houkou
06. Uzu
07. Kaze
08. Numa
09. Ashi
10. Ondo
11. Kouji
12. Uchu
13. Kunugi (Bonus Track)

※日本独自CD化
※ボーナス・トラック1曲収録
※ヴァイナルはUSはRVNG Intl.、オランダはGuruguru Brainからリリース

Pre-order: https://orcd.co/r6qoo37

CAN - ele-king

 昨年、日本ではほぼ全カタログのリイシューを展開し、大きな反響を得たドイツの伝説、CAN。ele-kingからも別冊を刊行しました。
 いまだにその影響力があり、ロック史においてもヴェルヴェット・アンダーグラウンドやクラフトワークらと並んで重要なバンドのひとつに挙げられるであろうこのバンドは、自分たちのスタジオで数多くのセッションを記録していたことでも知られており、その断片はのちのち発表されたりもしているのだが、ライヴ音源に関しては、1997年に公式に発売された『Music (Live 1971 - 1977) 』のみ。しかし、これはまず音質に問題があり、しかもひと晩のライヴの記録ではなく、残っている使えそうな曲単位でのライヴ音源集であり、映像作品からの抜粋も混じっている。
 そんなわけで、CANの、当時は3時間以上ぶっ通しで演奏されたというライヴ演奏の醍醐味を記録したものは過去になかった。なんどかライヴ録音を試みたことはあったのだが、録音は失敗に終わったという。しかしながら、そうした失敗とは別に、劣化したテープによるローファイ録音のブツはいくつか残っていた。それらを現代のデジタル・レストレーション技術によって最高の音質にまで高めることができれば、全盛期のバンドのライヴ演奏を楽しむことができるだろう。
 〈Spoon〉と〈Mute〉の合同プロジェクト『CAN:ライヴ・シリーズ』では、イルミン・シュミット監修のもと、CANのライヴ音源を何回かに分けて発表する。まずは1975年のシュトゥットガルトでのライヴから。ダモ鈴木脱退後の、バンドは4人になったばかりの、『スーン・オーヴァー・ババルーマ』から『ランデッド』のころの演奏。だがヒット曲の再現ではない。当時のライヴでしか聴けなかった、長きにわたって歴史に埋もれていたCANのスケールの大きな演奏をいま堪能しよう。

「Stuttgart 75 Eins」ダイジェスト音源


以下、レーベルの資料から

 CAN は1968年にケルンのアンダーグラウンド・シーンに初めて登場し、初期の素材はほとんど残されていないかわりに、ファン・ベースが拡大した1972年以降は、ヨーロッパ(特にドイツ、フランス、UK)で精力的にツアーを行い、伝説が広がるにつれ、多くのブートレッガーが集まってきたのだ。『CAN:ライヴ・シリーズ』は、それらの音源の中から最高のものを厳選し、イルミン・シュミットとルネ・ティナ―による監修で、21世紀の技術を駆使して、重要な歴史的記録を最高の品質でお届けする。小説家であり、よく知られたCANファンであるアラン・ワーナーは言う──「彼らのライヴ・パフォーマンスは、壮大な物語が語られているかのようだ──異なる章からなり、気分や天候、季節、異国情緒あふれる風景など、変化に富んだ小説のような」

CAN
ライヴ・イン・シュトゥットガルト 1975 (LIVE IN STUTTGART 1975)

2021年5月28日(金) / 2枚組CD
TRCP-291〜293 / JAN: 4571260591011
2,700円(税抜)

-Tracklist-
CD-1
1. Stuttgart 75 Eins
2. Stuttgart 75 Zwei
3. Stuttgart 75 Drei
CD-2
1. Stuttgart 75 Vier
2. Stuttgart 75 Fünf

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Fishmans - ele-king

 今年でデビュー30周年のフィッシュマンズ、そのドキュメンタリー映画がこの夏ついに公開される。これは2019年に実施したクラウドファンディングによって1800万円以上の支援が集まり実現したもの。制作に2年以上を費やし、『映画:フィッシュマンズ』は完成した。
 バンド結成前夜から佐藤伸治の死、そして現在までを時系列順に追って描くこの映画は、茂木欣一がメインの語り部となって物語は進行し、そのときどきの映像が流れ、その合間に入る関係者の証言によって構成される。とくに100本以上のVHSなどの素材をデジタイズした本邦初の映像はファンにとっては見逃せない。180分という長編だが、良い場面がいくつもあり、それがまったく長く感じないほど内容が濃いという。夏が待ち遠しい!

手嶋悠貴監督コメント:
茂木欣一さんと約束した言葉、「これが最初で最後。嘘偽りなく、フィッシュマンズのすべてを話す」。フィッシュマンズのサウンドを作り上げていった仲間たち、音楽に人生を捧げた佐藤伸治さんの生き様が、三時間近いこの映画の中に詰まっています。彼らの素晴らしい音楽が、沢山の人々の心に響いて欲しい。それがこの映画の想いです。

茂木欣一さんコメント:
フィッシュマンズの仲間たちの出会い、別れ、再会。一人一人がどのような気持ちでここまでの日々を送って来たのか。カメラの前で心の内側を話してくれたみんなの言葉に僕は驚き、そして、こんな素敵な仲間たちと出会えた人生に感謝せずにはいられない。結びつけてくれたのは、佐藤伸治が作り出した色褪せることのない楽曲たち。この映画の完成にすべてを捧げてくれた手嶋監督はじめスタッフの皆さんの愛に、心からありがとう。

出演:フィッシュマンズほか
監督:手嶋悠貴
企画・製作:坂井利帆
撮影:山本大輔
録音・整音:⻩永昌
構成:和田清人
編集:大川景子
アートディレクター:大村雄平
制作プロダクション:ACTV JAPAN
配給:ACTV JAPAN/イハフィルムズ©THE FISHMANS MOVIE 2021
https://twitter.com/FishmansMovie
https://fishmans-movie.com

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