広義のダンス・ミュージック・シーンにおける屈指のポップ・メーカー、マックス・タンドラことベン・ジェイコブスのサード・アルバム。とりあえずおさらいとしてディスコグラフィーを振り返れば、彼はまず、00年のファースト『サム・ベスト・フレンド・ユー・ターンド・アウト・トゥ・ビィー』で、ご他聞に漏れずエイフェックス・ツイン・フォロワーとしてそのキャリアをスタートさせている。ただし、同作は、リチャード・デイヴィッド・ジェイムスの内省性を引き継いだのが所謂エレクトロニカで、攻撃性を引き継いだのがブレイクコアだったとしたら、それはそのどちらでもない、かといって本人のように両面性を持っているわけでもない、しかし明らかにある一面を引き継いでいるという、そういう意味でオリジナリティのあるアルバムだった。あるいは、『アイ・ケア・ビコーズ・ユウ・ドゥー』を生演奏でカヴァーしたような内容は、突然変異と思われていたRDJをカンタベリー・シーンやレコメンデッド・レコーズと歴史的にではなく、音楽的に接続するミッシング・リンクの役割を果たしていたと言えるかもしれない。しかし、そんな知る人ぞ知る存在だったジェイコブスは、2年後のセカンド『マスタード・バイ・ガイ・アット・ジ・エクスチェンジ』でそのスタイルを一変、本人自らヴォーカルを取り、トラック・メイキングに加えてソング・ライティングの才能を披露、一躍名を上げることになる。もし、RDJにチャーミングなヴォーカルを乗せたあの"ミルクマン"のその先があったとしたら――いや、正確にはその先には"カム・トゥ・ダディ"と"ウインドリッカー"があるのだが、あのようなポップ・ミュージックに対するネガティヴィティではなく、ポジティヴィティを表現したものがあったとしたら――それこそがこれだった。
そして、その後、何故か7年もの沈黙を経て届いた今作は、方向性としては順当に前作の延長線を歩んでいる。当初、『マスタード~』の諧謔性が自家中毒を呼んで時間がこんなにもかかったのだろうかと勘ぐったのだが、背後の事情はともかく、普通に聴く分には、むしろ、前作で食べ散らかしたポップ・ミュージックがしっかりと血や肉になった印象がある。かと言って、ダンス・ミュージックから遠く離れてしまったわけでもなく、例えばベスト・トラックに挙げたい、その名も"ジ・エンターテインメント"等は、ロバート・ワイアットのような繊細なヴォーカルから高揚感に満ちたトランス・テクノに突入していく、文字で書くと何とも奇妙な、それでいて普遍的な楽曲に仕上がっている。また、細部には相変わらず偏執的なエディットへの拘りが見られものの、かつて同じことを試みたブレイクコアのような行き詰まり感はまったくない。ひとつそこに理由があるとしたら、"カム・トゥ・ダディ""ウィンドリッカー"が指向したポップ・ミュージックの相対化を突き詰めたが故にブレイクコアがデット・エンドを迎えたのに対し、ジェイコブスはもっと無邪気にポップ・ミュージックのポテンシャリティを信じているということなのだろう。その点では、彼は日本のデ・デ・マウスやイモウトイドともアティテュードを共有しているのだ。
そこから最後までは、七尾旅人の世界を楽しんだ。彼が「目を閉じて」と言えば目を閉じたし、「草原にいる自分を想像して」と言えば想像した。僕はこのハーメルンの笛吹き男の言いなりとなって、音楽とともに夢を見た。ルイ・アームストロングの高貴な魂を想いながら、"素晴らしき世界"を感じた。ライヴの最後には"Rollin' Rollin'"が待っていた。やけのはらも登場した。僕はこの予定調和を堪能した。ようやく踊ることができたから。
ミニマルのテック・ハウス化の中で〈サーカス・カンパニー〉に代表されるジャズや現代音楽をモチーフにした音楽性の高いトラックが多数見受けられるようになりました。その中で、スイスのクラブが設立した新レーベル〈シティ・フォックス〉より〈プレイハウス〉の中心的なアーティストで、マイマイのメンバーとして知られるリー・ジョーンズによる奥深いミニマル・ハウス音響的なところではジャジーな感覚を取り入れている。
ルチアーノとともにミニマルのグルーヴの発展に貢献してきたトルガ・ファイデンによるニュー・シングル。従来よりも低音は強調され、サックスをメロディーとしてではなく"飛び"のアクセントとして用いる。より立体的なトラックへと変化している。
〈フリーレンジ〉とともに新世代のテック・ハウスを牽引する〈リエベ・ディテイル〉よりマティアス・メイヤーとワレイカによるスプリット。両面ともにクオリティが高く、2009年のアンセムと言っても過言ではない。ジャジーでエスニックなテック・ハウスにプログレッシヴ・ロック的な要素が加わり、高音あるいは中低域の持続音が不思議なトランス感を生み出している。ダブというよりはサイケデリック。ヴィラロボスとジョー・クラウゼルが共演したらこんな感じになるんじゃないか。
そしてオランダよりの新鋭ボリス・バニックのダブ・プロジェクト、コンフォースがルーク・ヘスなどもリリースするフランスの〈モデリズム〉から。〈エコ・スペース〉や〈ベーシック・チャンネル〉タイプのミニマル・ダブでありながら、最近のミニマル・ハウスを通過している柔軟なグルーヴが素晴らしい。
ポルトガルのルイ・ダ・シルヴァとファブリックの看板DJ、クレイグ・リチャーズによる共作。ジェイ・トリップワイヤーなどにも通じる大箱に栄えるプログレッシヴなダブ・ハウス。最近では珍しい質感と言える。アシッド・ベースの使い方がクールなトビアスによるリミックスも収録している。
今年も大活躍のベルグハイン勢によるスプリット。シンプルなアシッドハウスに、繊細な持続音が絡む、デットマンによるダビーミニマルと、シカゴハウスを上手く今のグルーヴに当てはめたタマ・スモとプロシューマーによるベースの効いたテックハウス。
デットマンを中心としたハード・ミニマル回帰の中で再び注目を集めるジェームス・ラスキンによるレーベル〈ブループリント〉からヴァルメイによる新作。覚醒的なシンセをアクセントに、ストイックに展開していくハード・ミニマルとなっている。質感は昔のままながら、グルーヴやエディットに新しさを感じる。
エレクトロニカのフィールドからダブを追求するベテランのモノレイクのトラックで、メンバーのトーステン・プロフロックによるT++名義でのリミックス・ヴァージョン。ノイジーでカオティックで、ピッチの早いダブステップと言える。正直に言って、レゲエやグライムからの流れのダブステップは聴くに堪えないものが多い。が、モノレイクのそれは、そのなかで本当にクオリティが高い音響を見せつけている。あるいはまた、これこそがテクノとダブステップの理想的な融合のカタチのひとつだと言える。
これは衝撃的な1枚。ハルモニアとブライアン・イーノによる名作をシャックルトンとアップルブリムがリミックス。テクノでもダブステップでもない。摩訶不思議なアンビエントだと言えるし、ジ・オーブの『ポム・フリッツ』を連想させる。ダブステップ周辺のアーティストでは僕にとってはシャックルトンが抜きん出て面白い。分からないから面白いのであう。
これはシアトル出身のアーティスト、サイト・ビロウによる深海系のダビー・ミニマル。リミキサーにはフィンランドからバイオスフィア。ドローニッシュで凍りつくようなハードコア・アンビエントである。