Home > Reviews > Album Reviews > Fuck Buttons- Tarot Sport
アンディ・ウェザオールをプロデューサーに迎え、ノイズ・ドローンから一転してビート・アルバムに鞍替えを図ってきた2作目。先に全曲フリー・ダウンロードも可としていたもので、パッケージはエンボス加工の凝ったデザイン。ファッション化しはじめていたドローンにむしろ積極的にモードの要素を取り入れ、ポップ・ミュージックとしての完成度を目指したとでもいうようなスウィートな滑り出し(=先行シングル)から、アルペジオなど明らかにグローイングのパクりとしか思えない手法も交えつつ、全体的にもどこか両義的ながらドローン・サウンドをポップ・ミュージックのリストに付け加えようという気迫に満ちている(そういう意味ではジーザス&メリー・チェインがニューウェイヴの幕引きを演じたのと同じく、形骸化も甚だしいエレクトロ(クラッシュ)に正面からサイケデリック・サウンドをぶつけることでメイン・ストリームにドラッグ・ミュージックの復権を訴えているような印象も)。ベースを思ったより低く抑えているのはクラブ・ミュージックとの距離を残しておくためなのか、半面でDJミックスのセンスは充分に活用し、結果的には(ドローンとエレクトロニカを融合させたKTLとはまったく逆の意味で)ニッチを確立したプロダクションになっている。アメリカ産に比して余韻にニュアンスを多く含ませるところはやはり英国流ならでは。ハウス・ミュージックがレフトフィールドの手によってイギリス流に生まれ変わった瞬間のことを思い出す。どうせならリズムにもう少し工夫があってもいいかなとは思うけど(そこはグローイングがフリップ&イーノに喩えられる所以というか)、本当に前衛で終わるつもりはないんでしょう、ヴォーカルを入れればコクトー・ツインズになることも夢ではないかもしれません(?)。
サッド・コアと同一視されるスロー・コアとは一線を画していて曲調はむしろバリアリックとさえいえるほど明るく希望的(その方がやぶれかぶれに感じられる時代だったりして。でも、説得力がないわけではなく、むしろザ・プレゼントやマイ・キャット・イズ・アン・エイリアンのように現実を忘れてしまうほど強烈なイメージの飛躍はないことがポップ・ミュージックとしての存在を感じさせるとも)。こうなったらどこまで楽しく器用にセル・アウトしてくれるかが今後のお楽しみ。あー。でもその時はユニット名を変えないとダメかな。
三田 格