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ガールズの『アルバム』というアルバム。まったく"検索"に向いていない。なんでこんなネーミングなんだ? 検索されたくない? だとしたらその気持ちはよくわかるけど。
これは、サンフランシスコのソングライター、クリストファー・オウエンスとプロダクション及びスタジオ・ワークを担当するチェット・Jrホワイトの二人組のファースト・アルバムだ。クリストファー・オウエンスは、俳優リヴァー・フェニックスが子供時代を過ごしたことでも知られるヒッピー系カルト教団、チルドレン・オブ・ゴッドで「外界から隔離されながら世界中を放浪」しながら育ったのだという。この教団では信者獲得のための売春がおこなわれていたと言われ、子どもたちも性的虐待を受けていたという。元フリートウッド・マックのギタリスト、ジェレミー・スペンサーもメンバーだというその教団で、各地を移動しながら大道芸で音楽とバスキング(投げ銭)を覚えた。16歳になったクリストファーは、俗世間から隔離されたその生活から脱出、テキサス経由でカリフォルニアにたどり着き、パンクとドラッグ漬けのありふれた青春を開始したという。そこで恋人と二人で音楽をはじめたものの、失恋。新しく組んだ相棒がJRホワイトだった。
という凄みのあるエピソードはしかし、『アルバム』からはまったくうかがい知ることは出来ない。
80年代初頭のブリティッシュ・ニューウェイヴ、たとえばエルビス・コステロや、フリッパーズ・ギターが多大な影響を受けた"ギターポップの神様"と言われるオレンジ・ジュースを思わせるサウンド、メロディ、そしてヴォーカル・スタイル。とくにメロディはどの曲も「これは何のカヴァーだっけ?」と思いたくなるほど、懐かしく親しみのあるものに聴こえる。
基調はR&Bとロックンロールで、モータウン調の"Ghost Mouth"やオーティス・レディングを彷彿させるものもある。"Big Bad Mean Motherfucker"では、ジーザス・アンド・メリーチェーンのようなリヴァーブをかけたギター、英米の音楽誌で高い評価を受けて今ではプレミアムがついているファースト・シングル"Hellhole Ratrace"はエルビス・コステロのようで、"Lauren Marie"ではサーフィン・サウンドのディック・デールのようなトゥワンギー・ギターと、過去の音楽が寄せ集められているとも言えるし、きらめいているとも言える。年長者なら「なつかしい」と感じるのではないか。ほとんど著作権への挑戦とも言えるほどのこうした寄せ集めへの評価が、「パクリ」ではなく高い評価を得るようになっていることは興味深いできごとだ。
クリストファーはチルドレン・オブ・ゴットで体験したヒッピー思想に基づく文化を否定することなく、自分のものとしているのかもしれない。ただ、その歌詞の多くは、カリフォルニアでの生活で起きる小さなエピソードをモチーフにしていて、ラリってしゃべる友達同士の他愛ない話や希望のない愚痴、思うようには行かない恋なんかがストーリー性豊かに歌われている。このアルバムのテーマは「ハートブレイクとデザイア」だと彼は語っている。ヒッピーの親世代が作り上げたサイケデリックとスピリチャルの培養箱を出た彼は、そこで得たすべてを捨てるのではなく、新たに足を踏み入れた俗の世界でも60年代風=ヒッピー風なライフス・タイルを続け、漠然とした夢はあっても、いわば永遠につづくかのような取るに足らないような生活の、取るに足らない出来事へと向ける視線にはやさしいものがある。
とても面白いと思うのは、曲によってまったく異なるクリストファーのヴォーカルスタイルだ。とてもすべてを一人のボーカリストが歌っているとは思えない表現力だ。この音楽が好きな人は、ぜひともヴィンセント・ラジオ( VincentRadio.com https://vincentradio.com/ )のベイビー・レコーズのコーナーをお聴きください。
水越真紀