Home > Reviews > Live Reviews > Christopher Owens- @代官山UNIT
開演前のSEで、アトラス・サウンドとビーチ・ハウスの曲が会場で流れた。クリストファー・オウエンスが選曲をしたのだろう。僕はそれを聴き、ガールズの"ラスト・フォー・ライフ"で歌われている、「 I wish I had a beach house」という一節を思い出しながら、そういえばあの歌を聴いてから約4年が経過したんだなぁ~と物思いに耽っていた。
クリストファー・オウエンスはその4年のあいだに、2枚のアルバムをガールズからリリースしたのち、去年、自らバンドの活動に終止符を打った。
新しい道を歩みはじめるべく、彼が選んだ選択はソロ活動で、デヴュー・アルバム『リサンドレ』の発売は、これまでの暮らしや、自分が窮屈だと感じてしまうバンドでの日々との決別であった。
今作の、これから先に待っているものが、これまで以上に輝かしく、愛に溢れる自由で希望の道なんだと言わんばかりのソングライティングは、新しい決意に溢れ、4年という歳月のなかで彼が培った、音楽への底知れない深い慈しみと、彼自身の成長とが落とし込まれた作品でもあった。
そんなアルバムを引っ提げての来日公演。アメリカまでガールズを観に行っちゃう僕からしてみれば、楽しみでないはずがない! それに、作品を盛り上げていたフルートやピアノ、さらにはサックスなどの楽器を取り入れたスケールをどこまでライヴに反映させることが出来るのか、とても興味深かった。
ステージに登場したクリストファー・オウエンスを含む7人のサポート・メンバーは、アルバム同様『リサンドレ』のテーマ・ソングであるAマイナーのインストゥルメンタルから、曲順通りに次々とライヴを進行させた。"ニュー・ヨーク・シティー"や、"ヒア・ウィ・ゴー・アゲイン"などのアップテンポなロック・チューンで会場は盛り上がりはじめたが、その後はしっとりと聴かせるナンバーが続き、アンコールで5曲のカヴァー・ソングを披露してライヴは終了。......あっという間だった。
ライヴは50分あまりの、わりと「あっさりしたもの」だったが、キャット・スティーヴンス、ドノヴァン、サイモン&ガーファンクル、エヴァリーブラザーズ、ボブ・ディランなどの、往年のアーティストの名曲を披露したアンコールはとても盛り上がった。そして、アルバム録音メンバーと同じサックス奏者の演奏は常に素晴らしかった。
良いライヴだっただけに、次回は是非、会場から汗が出るほどぎっしり埋まって欲しいし、僕と同世代の人にもっと来て欲しい。
ちなみに、当日会場に来られた坂本慎太郎さんは、ママギタァと日本の古いミュージシャンのCDをいくつか渡したそうです。
また、後日談として、坂本慎太郎さんの歌詞を萩原麻理さんに英訳してもらったクリストファー・オウエンスは、"まともがわからない"の歌詞をえらく気に入ったそうだ。ハハハハ。良い話。
クリストファー・オウエンスは優しさを語れる、数少ないアーティストなのかもしれない。ライヴを見ながら、そんな大きなことを思ってしまった。
文:菊地祐樹