「NotNotFun」と一致するもの

Battles - ele-king

 10月11日に待望のフォース・アルバム『Juice B Crypts』のリリースを控えるバトルスが、同作を引っさげ来日公演をおこなう。11月の4日から6日にかけて、東京・大阪・名古屋の3都市を巡回。イアン・ウィリアムスとジョン・ステニアーの2人組になった彼らは、いったいどんなパフォーマンスを見せてくれるのか? ロンドンでのプレミア公演は随分と盛り上がったようなので、期待大です。チケットは明日のお昼から主催者WEB先行が発売開始、売り切れる前に急ごう!

NEWアルバム『Juice B Crypts』をひっさげ
3都市を巡る来日ツアー開催大決定!
主催者WEB先行は明日正午スタート!

その独創的なアイデアとサウンドで、ロックの常識を更新し続け、音楽ファン達に強烈な衝撃を与えてきた BATTLES が帰ってくる! 11月に東京、大阪、名古屋の3都市を巡る超待望の来日ツアーが決定! そのキャリアを再び更新する型破りな最新アルバム『Juice B Crypts』は10月11日に日本先行リリース! 各公演の主催者WEB先行は明日正午スタート!

キーボード、ギター、エレクトロニクスを操るイアン・ウィリアムスと、ドラムのジョン・ステニアーの織り成すリズムとメロディーは、よりタイトに研ぎ澄まされ、この上ないほど痛快かつ刺激的な領域へと到達! 果たしてどんなライブになるのか? その緻密かつダイナミックなアンサンブルをライブで目撃せよ! これは見逃せない!

先週ロンドンで行われた超プレミアライブでは、パンパンとなった会場が熱気で包まれ爆発寸前に!
https://www.instagram.com/p/B1Ol1-vAXc2/

初めて彼らを見たときに覚えた巨大なスリルがついに戻ってきた。体と心と魂を揺さぶる並外れた音楽は、とんでもないレベルの演奏能力があってこそもたらされるが、今夜見た新生バトルスは、まさにそれを証明するものだった。 ──Quietus

BATTLES
SUPPORT ACT: TBC

前売¥6,800(税込/別途1ドリンク代/スタンディング)
※未就学児童入場不可

明日正午より主催者WEB先行スタート!

東京公演:2019年11月4日(月・祝日)
GARDEN HALL

OPEN 17:00 / START 18:00
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277

BEATINK主催者WEB先行: https://beatink.zaiko.io/_buy/1kFR:Rx:f4b65

大阪公演:2019年11月5日(火)
UMEDA CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

BEATINK主催者WEB先行: https://beatink.zaiko.io/_buy/1kFS:Rx:558d4

名古屋公演:2019年11月6日(水)
NAGOYA CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:BEATINK 03-5768-1277

BEATINK主催者WEB先行: https://beatink.zaiko.io/_buy/1kFT:Rx:9c3fa

チケット詳細
先行発売:
8/21 (水) 正午12時〜:BEATINK主催者WEB先行
8/24 (土) 正午12時〜:イープラス最速先行販売 *8/28 (水)18:00まで
8/30 (金) 正午12時〜:ローチケ・プレリクエスト *9/3 (水) 23:00まで
9/2 (月) 正午12時〜:イープラス・プレ(先着) *9/4 (水) 18:00まで

一般発売:9月7日(土)~

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: BATTLES
title: Juice B Crypts
バトルス / ジュース・B・クリプツ

日本先行リリース!
release date: 2019.10.11 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-613 ¥2,200+tax
国内盤CD+Tシャツ BRC-613T ¥5,500+tax
ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

輸入盤CD WARPCD301 ¥OPEN
輸入盤2LP カラー盤 WARPLP301X ¥OPEN
輸入盤2LP WARPLP301 ¥OPEN

CD Tracklist
01. Ambulance
02. A Loop So Nice...
03. They Played It Twice feat. Xenia Rubinos
04. Sugar Foot feat. Jon Anderson and Prairie WWWW
05. Fort Greene Park
06. Titanium 2 Step feat. Sal Principato
07. Hiro 3
08. Izm feat. Shabazz Palaces
09. Juice B Crypts
10. The Last Supper On Shasta feat. Tune-Yards
11. Yurt feat. Yuta Sumiyoshi (Kodo) *Bonus Track for Japan

Vinyl Tracklist [2LP]
A1. Ambulance
A2. A Loop So Nice...
A3. They Played It Twice feat. Xenia Rubinos
B1. Sugar Foot feat. Jon Anderson and Prairie WWWW
B2. Fort Greene Park
C1. Titanium 2 Step feat. Sal Principato
C2. Hiro 3
C3. Izm feat. Shabazz Palaces
D1. Juice B Crypts
D2. The Last Supper On Shasta feat. Tune-Yards

WARP30周年 WxAxRxP 特設サイトオープン!
バトルスも所属するレーベル〈WARP〉の30周年を記念した特設サイトが先日公開され、これまで国内ではオンライン販売されてこなかったエイフェックス・ツインのレアグッズや、大竹伸朗によるデザインTシャツを含む30周年記念グッズなどが好評販売中。アイテムによって、販売数に制限があるため、この機会をぜひお見逃しなく!
https://www.beatink.com/user_data/wxaxrxp.php

Calexico / Iron & Wine - ele-king

 キャレキシコとアイアン&ワインがコラボレーションしたミニ・アルバム『イン・ザ・レインズ』をリリースしたのは2005年のこと。それは控えめながらもそれぞれの長所がよく混ざり合った作品で、アイアン&ワインのアコースティック・フォークにキャレキシコのややワイルドなブラスが洒落た味つけをしていた。2005年といえばブライト・アイズをはじめとしたインディ・フォークが熱い注目を集めていた時期で、アイアン&ワインは出世作『シェパーズ・ドッグ』(07)をまだリリースしていない。フリート・フォクシーズボン・イヴェールもまだいない。振り返ってみれば、ブッシュ政権期のど真ん中でフォークがある種の説得力を持っていたころで、それは00年代なかばのUSインディ・ロックの隆盛の一部を担っていた。『イン・ザ・レインズ』はそのなかにいる善良なミュージシャンたちの善良な出会いであり、来たるべき変化を予感させもしていたのだった。
 では、その両者が14年ぶりに再び手を取った『イヤーズ・トゥ・バーン』は何を示しているだろうか。ともすれば「良心的な」などという当たり障りのない形容で済まされてしまいそうな、良いアルバムをリリースし続けてきたベテラン同士の地味な作品ではある。シンプルに良い、というのはいまどき惹句になりにくい。シーンにかつてほどの勢いがないいま、この、ただただ良いソングライティングとアレンジと演奏が詰まったフォーク・アルバムを聴くのはたんなる趣味でしかないのだろうか? いや……。

 両者はお互いのアルバムにお互いをゲストで呼んだり、ボブ・ディランのトリビュート・アルバム『アイム・ノット・ゼア』にともに参加するなど、つねに近い場所にいたし実際に共演を重ねている。だが、あらためてしっかり共作した本作を聴いていると、14年前よりもはるかに音楽的厚みがここにあることがわかる。『イヤーズ・トゥ・バーン』に大きく影響を与えているのはおもにふたつ。ひとつは、ある時期ジャズやソウル、ソフト・ロックにも接近し音楽性の幅を広げていたアイアン&ワインが、その時期を経て近作でフォーク回帰していること。もうひとつが、90年代からラテンアメリカ音楽をアメリカ南部のリアルな風景として取り入れてきたキャレキシコが、より「ソング」の体裁を意識するようになっていることだ。その成果がもっとも顕著に出ているのが頭3曲で、レイドバックしたじつにアイアン&ワインらしいフォーク・ロックにふくよかなブラス・アレンジや立体的なバンド・アンサンブル、密度の濃いコーラスが与えられている。
 だが、特筆すべきは8分を超える組曲形式の“The Bitter Suite (Pájaro / Evil Eye / Tennessee Train) ”だろう。冒頭、スペイン語によるアシッド・フォークでヴォーカルを取るのはキャレキシコのトランペッターであるジェイコブ・ヴァレンスエラ。彼がラテンの風景を描き出せば、それはやがてトランペットが咆哮するジャジーなジャム・セッションとなり、最後にはアメリカ内陸的なアシッド・フォークへと帰っていく。「列車がテネシーを去っていく、唸り声を上げて去っていく」……。そこでは南部に吹くラテンアメリカの風が、アメリカの空気も纏いながら内陸部の田舎にまで運ばれていく。アイアン&ワインもキャレキシコも豊かな旅情をその音楽に携えたミュージシャンだが、ここではその旅がより広範で複雑なものになっている。キャレキシコの最近作『ザ・スレッド・ザット・キープス・アス』がトランプの不寛容な移民政策に触発されたボーダー・ポリティクスについてのアルバムだったことを思い出せば、その、現在の国境のムードがアメリカの内側まで届けられているように感じるのである。まるで移民がアメリカの町に根づいていくように……。それこそが現在のアメリカであり、そしてフォークなのだと。フォークロアは伝承であるがゆえに、ひとや時代とともに変化していく。
 サム・ビームの繊細な歌とかすかに聞こえるブラスが穏やかな時間を運んでくるバラッド“イヤーズ・トゥ・バーン”の温かさ、そこで瑞々しく立ち上がるペーソス。この「いい歌」は、ベテランたちからのいまの時代への真摯な想いの表れである。不思議な清涼さを含んだこの歌を口ずさめば、アメリカの狂った時代も、日本の異常な暑さも、何とかともに乗り越えられるだろうか。

マンチェスターで結成された伝説のロック・バンドの
かくも魂をゆさぶる物語

英国音楽ジャーナリズムの巨匠の手によって
メンバー及び関係者の証言のみで構成された
ジョイ・ディヴィジョン・ヒストリーの決定版

写真も多数掲載!

■主な登場人物
バーナード・サムナー ──ジョイ・ディヴィジョン
ピーター・フック ──ジョイ・ディヴィジョン
スティーヴン・モリス ──ジョイ・ディヴィジョン
デボラ・カーティス ──イアン・カーティスの配偶者、証人
トニー・ウィルソン ──グラナダ・テレヴィジョンのプレゼンター、〈ファクトリー〉の共同創設者
ピーター・サヴィル ──〈ファクトリー〉共同創設者兼アート・ディレクター
ポール・モーリー ──『New Musical Express』紙ライター
イアン・カーティス ──ジョイ・ディヴィジョン
マーク・リーダー ──〈ファクトリー〉ドイツ部
マーティン・ハネット ──〈ファクトリー・レコーズ〉プロデューサー兼取締役
ほか多数


 その人はちょっとだけラッパーの田我流に似ていたが、田我流よりもがっちりした体型で、白いタンクトップに紺の短パンを履いていた。荷物はたったひとつしかなかった。書道部を舞台にした青春漫画『とめはねっ!』である。カバンなどはなく、本当に手に『とめはねっ!』1冊だけを手にしているのだ。しかも単行本ではなくて、コンビニでしか売っていないペーパーバック版だった。調べてみると2016年に発売されたもののようである。さっきふらっとコンビニに寄って買ったというわけではなく、何らかの意思によって『とめはねっ!』が選ばれたものと思われた。
 その人は、最初はドアの前に座り込んでいた。この暑さである。具合が悪いのかと思った。しかし、見た感じ顔色もよいし、表情も苦しげでないし、何よりのんびりと『とめはねっ!』を読んでいる。問題は全くなさそうに見えた。
 ドアによりかかっていたその人物は、不意に『とめはねっ!』を閉じて、ドアにくっつけるような形で床に置くと、そこへおもむろに寝転がった。片方のドアに頭、もう片方のドアに足が向く形で、電車の中で眠り始めたのだ。目を閉じ、まるで自宅の居間にいるかのように、その人はくつろいでいた。この段階でほかの乗客が動揺する気配があった。私も少し動揺した。しかし、その人はいっさい周囲に迷惑をかけていなかった。人の少ない電車で寝転がって何が悪いというのか。何も悪くない。
 何よりその人がしっかりしていたのは、駅が近づいた旨のアナウンスがあると、素直に起き上がってそばの空いていた椅子に腰かけ、人の出入りの完了まで待っていた点だ。電車が動き出し、もう次の駅までドアとドアの間に立つ人がいないと確信できてから、椅子を立ってもう一度同じ場所で寝るのである。椅子がないから床に座ったり寝たりしているわけではなく、床にこだわってそれをしているのだということが明らかだった。待っている間、その人は先ほどまで枕にしていた『とめはねっ!』を読んでいた。
 これを2度繰り返したのち、3駅目でついに人がどっと乗ってきたので、『とめはねっ!』を枕に寝転がれるスペースはほぼなくなってしまった。すると、その人は無理に寝転がることはせず、素直に椅子に腰掛けてそのまま『とめはねっ!』の続きを読み始めた。
 私はその人を見ながら、ざわつくべきじゃない、ざわつきたくない、と思いながらも、ざわつくことをやめられなかった。そして結局ざわついていた自分を反省した。
 あの人に対してざわついてしまった自分は、まだ追い出したいと思っていたものを追い出しきれていなかったのだと思う。自分が内面化した「電車の乗り方」からはみ出る人に対して、私は身構えたのだ。そして同時に「白いタンクトップであんな床に寝転がるなんて、背中が汚れるのではないか」という、みみっちい心配までしていた。別にタンクトップの背中が汚れていたところで問題はないのにタンクトップの心配をしたのは、自分の「身構え」から目をそらすための一種の「ずらし」だったのだと思う。タンクトップはあの人が身につけているものであり、あの人と密着しているが、あの人そのものではないからだ。あくまであの人のことは自分は許容しているのだと思い込もうとしていた。結局まだ私は都市の論理に馴致されきっている。
 一方で、ある程度周囲に配慮しながら漫画本1冊で自分の望む姿勢を取る人のやり方に、わくわくしていたのも事実である。空いた電車で寝転んではいけない差し迫った理由は何もなく、ただ目の前にあるものと少ない持ち物で狭い空間をよりよく利用するやり方は、本来望ましいものなのではないか。寝転がった先で誰かの足の間を覗こうとしているとか、今にも踏まれそうな場所で陣取っているとか、そういう加害/被害の可能性とはいっさい離れていた。横暴なことをしたくて寝転がっているつもりはなく、ただ寝たほうが快適だから、寝られる範囲で寝そべったのだ。そして読み物と枕というふたつの機能を有した『とめはねっ!』1冊だけを携えて、あの人は「電車の乗り方」を撹乱したのだ。
 なんだろうこの気持ちは、と思いながら、私は電車を降りた。『とめはねっ!』の人はまだ座って『とめはねっ!』を読んでいた。あの人がその後どこへ向かったのか、もしくは特にどこも目指していなかったのか、子細は何も知らない。

『とめはねっ!』の人から目を離して乃木坂で降りた私は、国立新美術館のボルタンスキー展に向かった。
 ボルタンスキーはユダヤ系フランス人のアーティストだ。記憶や死にまつわる作品を多数発表している。これは個別具体的なテーマではなく、もっと抽象的で、何も確かなものを掴みとれないような、だだっ広い概念としての記憶と死だ。ボルタンスキーはユダヤ系医師の父とその友人からホロコーストの記憶を聞いて育ったため、ホロコーストがモチーフにされる作品も多いが、それはあくまでボルタンスキーの中で死とホロコーストが剥がせないほど近い位置にあるためであって、おそらくボルタンスキーのやりたいことはホロコーストについて何か言うことではない。ボルタンスキー自身の思い入れの表現以上に、ボルタンスキーがボルタンスキー本人、あるいは他者の記憶として提示しているものを通じて、観客は自分の中にも似たような記憶がすでにあることをふっと自覚する、この構造の方に工夫が凝らされている。
 例えばボルタンスキーがそのへんで適当に声をかけて撮影させてもらった少年の写真を年齢順に並べ、あたかも自分の成長記録であるかのように見せる「1946年から1964年のクリスチャン・ボルタンスキーの10枚の肖像写真」(1972年)、ある一家の古い家族写真が大量に並べられているが、そのありきたりな「家族写真的構図」からはその一家の歴史以上に自分の家の写真を思い出してしまう「D家のアルバム」(1971年)などがある。
 また、「死んだスイス人の資料」(1990年)という作品では、大量の錆びたクッキー缶(ボルタンスキー作品では古着に並んで多用されるアイテムだ)ひとつひとつに、スイスの新聞の死亡記事から収集されたスイス人の顔写真が貼り付けられている。一見ロッカー墓のようだし、箱を開ければこの顔写真の人たちの骨か遺品のたぐいが入っているのではないかと予感させるが、別にそんなことはない。ひとりひとりの顔写真を近寄って眺めてみても、そもそも誰なのか、どういう人物なのか、いっさいわからない。そして彼らは別に歴史的に重大な出来事と結びついた死を迎えているわけではない。ただ生きて死んでいったどこかの誰かである。かといって全くの無味乾燥なわけではない。全く知らない人を見ていると、記憶の中の全く別の誰かが引きずり出されてくる。私があまり人間の顔つきを判別できないから、というのもあるだろうが、メガネ、ショートカット、白髪、首に巻いたショール、というふうに容貌がパーツのレベルで認識されると、それはそのまま頭の中で同じ要素を持つ別の人間(身近な人間、あるいは自分)について想起する行為に繋がっていくのだ。それは死と目が合うことでもある。

 最も印象深く感じたのは、大量の電球をまっ黒い空間に配置した「黄昏」(2015年)である。会期中、初日は全て点灯しているが、光は毎日三つずつ消されていくそうだ。電球の影すら見えないまっ黒い部屋の中で、電球が川を流れる灯篭のように光る。じっと見ていると、頭の芯がじゅわっと溶けて、わずかにトリップするような感覚がある。〈今私は国立新美術館の展示室の一角に設けられた空間に置かれたたくさんの電球を見ている〉という、他者によって確認しうる状況説明が意識から遠のくのだ。死ぬときってこういう光の川を見るのかなあ、と何も意識せずにぽろっと思ったとき、ボルタンスキーの作品はこういう「なんとなく、死」という感覚をぐっと送り込むものなのだ、と「理解」した。

 私は個別具体的な人間の営みが好きだ。
 冒頭に書いた『とめはねっ!』の人にざわつき、同時にわくわくしてしまったのは、あの人の『とめはねっ!』および電車という空間の利用法が「共有されたルール」に毒されていない、極めて個別具体的な振る舞いだったからだ。本当に素直に、ただその場にいる人間の視点だけを持っていた。
 ルールに従う行為は、免責を意味する。その空間で何か問題が起きたとき、その場に存在しないはずの、ルールを作った者にも責任が流れていくのである。ルールの全てが悪いとは絶対に言わないが、同時にルールには「作った側」と「従う側」というヒエラルキーがあり、それぞれの内側でも関与の程度に差があることを常に意識せねばならない。そうなると、結局責任はうやむやになりがちだ。悪いこともいいことも、結局「場」でわかちあえなくなっていく気がする。
 本当はもっと気軽に責任を負い合ったほうがいいとずっと思っている。隣にあなたがいたから、目の前でそういうことが起きていたから。そういう考え方をもっとスムーズに実践したい。

 ボルタンスキーは神話を作ろうとしていた。神話は誰が作ったのかもわからない、大きく、長く尾を引いた概念である。例えば「アニミタス(白)」(2017年)では、チリの砂漠に設置した大量の風鈴が風に揺れる映像を用いたインスタレーションである。チリの砂漠であることは確かだが、そもそも砂漠のどこなのかはもはやほとんど誰も知らないし、風鈴はいずれ風化するだろう。たどり着いてこの場所を見る必要はどこにもないのだ。ただ、どこかに死者を祈る地があるらしい、という伝聞だけが漠然と語り継がれていく。当該の地が滅び去ったあとも語りだけが続いていく。
 神話が産まれて、何の意味があるのだろうか。ボルタンスキーがやっていることは、個別具体的な個人の死とは真逆のものを産む行いではあるが、同時に私たち鑑賞者がボルタンスキーの神話を信じるとき、最終的には個別具体的なものとしてその結論を受け取ることになるのだろう。ボルタンスキーが作り上げた神話は死者への祈りであり、死者への祈りにまつわる神話を私が受け入れ、誰かに渡していくのなら、私の中に思い起こされるのはすでに死んだ人についての具体的な記憶なのだ。本当はわれらのすぐそばに、常に親しい死者、隣人としての死者がいる。い続ける。

 このふたつのできごとについて「ぐるっとつながった」のは翌日のことである。ボルタンスキーは親友とふたりで鑑賞したが、当日はあまり展示の内容に関して話し合うこともなく、『とめはねっ!』の人について話すこともなく、ただ美術館を出て、「このへん何があるかよくわからんよね」と言って土地勘のある川崎まで行き、タピオカを飲み、駅ビルで日傘を購入するか迷って結局買わず、疲れて入ったカフェで閉店間際までしゃべり、帰りに本屋へ寄って『進撃の巨人』の新刊を買って帰宅した。その日の話題の中心は表現の不自由展であり、天皇制だった。
 本当はこのコラムでも表現の不自由展について書きたかったのだが、今の自分にとってはあまりに重く、結局こうして違う話題を選ぶに至ったのである。しかし、問題としてはどこかしらで地続きなのだろう。地に足をつけて手が届く範囲の対象に身軽に責任を負うことと生活のなかに死者の存在を組み込むことは、他者に誠実に向き合うという線で私の中では連結しているが、表現の不自由展で発生したテロや作品に対するあまりにも見苦しい攻撃は、この流れの対極にあるように思えてならないからだ。
 どうすればいいのかわからない。特にオチとして言えることもない。ただ今のところ私のリアルはこういう形で雑に縫い付けられていて、毎日それなりに困っている。

参考文献 滝沢英彦著『クリスチャン・ボルタンスキー──死者のモニュメント』(水声社、2004年)

Laura Cannell - ele-king

 この夏の切ない思いはたとえばこんな感じだろう。それを表現するのに複雑なプログラミングもそれらしい言葉も要らない。ヴァイオリンひとつあれば、こんなにも突き刺すような音楽を奏でることができる。ローラ・キャネルの『The Sky Untuned』、すなわち「チューニングされていない空」という素晴らしいタイトルのアルバムを聴いてそう思った。

 もっともこのアルバムは今年の春先にリリースされたもので、「天球の音楽」をコンセプトに作られている。ローラ・キャネルはイングランドはノリッジという古い街並みが残る街を拠点に活動しているヴァイオリン奏者で、じっさい彼女は荒廃した古い教会(の反響を利用して)レコーディングしている。その音楽はときに“中世的”と形容されているわけだが、シーンとは言えないまでも、イングランドの田舎の土着性を掘り起こすリチャード・ドーソンやハーブ奏者のエイン・オドワイヤー(このひとはアイルランド出身だが)のように、最近は都会とは距離を保ち、近代以前と現代とを往復するアヴァン・フォークとでも呼べそうなスタイルがUKでは目につくようになった。
 そもそも「天球の音楽」というコンセプトが中世ヨーロッパのものと言える。それは宇宙はじつは音楽を奏でていると、天体の運行と音楽とを結びつける考え方だ。ローラ・キャネルはそれを彼女のヴァイオリンで表現する。つまりこれは一種のスペース・ミュージックなのである。

 が、それは決してプラネタリウムで流れるようなロマンティックな音楽ではない。「チューニングされていない空」は、必ずしも牧歌的な欲望を満たす作品ではない。アルバムには張り詰めた緊張感と深いメランコリーがあり、エレガントで美しくあるが同時に破壊的でもあり、音は「アンチューンド=不協和」へと展開する。この温暖化、異常気象、ボリス・ジョンソンが首相になるくらいだからむべなるかなである。
 ……なんてまあそういうことではないのだが、しかし想像してみてほしい。たとえば披露宴かなんかで、ヨーロッパの綺麗な庭園にひとびとがいると。ひとりのヴァイオリン弾きがそこにいて演奏をはじめる。最初はその美しい音色にうっとりしていた人びとだが、演奏の途中で席を立つひともちらほら現れ、そして最後まで聴いていたひとの目には哀しみの涙が流れていると。
  アルバムには笛を演奏した曲もあり、多重録音もしているが、1曲のなかに複数の楽器を使わないことは徹底されている。そしてちょうどつい最近、彼女にとって初のヴォーカル・アルバム(ポリー・ライトとの共作)『Sing As The Crow Flies』がリリースされた。

Tunes Of Negation - ele-king

 沢井陽子さんのコラムを読んでいると、もはや新しいものを生み出せなくなったNYのインディ・ロック・シーンが日本のシティ・ポップに慰めを求めているようで(というのは言い過ぎ?)、なんとも複雑な気持ちになる。ストップ・ターニング・ジャパニーズ、世界が日本化しちゃまずいんだって。それに、音楽は停滞しているように見えて、まだ未開の領域があると言わんばかりの作品も出ているのだ。

 シャックルトンの新プロジェクト、 Tunes Of Negation(Shackleton、Heather Leigh、Takumi Motokawa)、「否定の音」を意味する名前のこのプロジェクトのアルバムがヤバい。得体の知れない際どい感覚、ある種の恐ろしさ、そうしたものがここにはまだ生きているような気がする。まだサイケデリックと呼びうる音響があったのかという感じ。ベルリンのレーベル〈Cosmo Rhythmatic〉(キング・ミダス・サウンドの新作を出しているレーベル)から10月18日に現地ではリリースされる

New Order - ele-king

 『アンノウン・プレジャー』から40年。ジョイ・ディヴィジョン本の決定版、ジョン・サヴェージ(坂本麻里子訳)による『この灼けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも』(原題:This searing light, the sun and everything else)、お盆前に校了しました。今月28日には書店/レコード店/amazon等に並ぶ予定です。
 この本は関係者による証言を編集したオーラル・ヒストリーなので、当然、もっとも多くの発言が見られるのは、バーナード・サムナー、ピーター・フック、スティーヴン・モリスの3人(そしてトニー・ウィルソン、ピーター・サヴィル、マーティン・ハネット、マーク・リーダー、デボラ・カーティスなど)です。けっこう珍しい写真も掲載されているし、音楽のこと以外に、デザインや写真の話なんかも盛り込まれていて、ある程度のことは知っているひとが読んでも楽しめる内容になっています。物語はイアン・カーティスの死とニュー・オーダー始動の直前で終わるわけですが、ニュー・オーダーのその後についてはバーニーの自伝をどうぞ
 で、先頃ライヴ・アルバムをリリースしたニュー・オーダー、来年の3月に来日することが決定しました。すでにこのニュース、話題になっているようで、さすがニュー・オーダー、衰えぬ人気ぶりです。

東京 3月3日(火) 新木場 STUDIO COAST
東京 3月4日(水) 新木場 STUDIO COAST
OPEN 18:30/ START 19:30
TICKET スタンディング¥10,000 指定席¥12,000(税込/別途 1 ドリンク)
※未就学児入場不可 一般プレイガイド発売日:9/7(土) <問>クリエイティブマン 03-3499-6669

大阪 3月6日(金) Zepp Osaka Bayside
OPEN 18:30 START 19:30
TICKET 1F スタンディング¥10,000 2F 指定¥12,000(税込/別途 1 ドリンク)
※未就学児入場不可 ※未就学児入場不可 ※別途 1 ドリンクオーダー
一般プレイガイド発売日:9/7(土) <問>キョードーインフォメーション 0570-200-888

制作・招聘:クリエイティブマン 協力:Traffic
https://www.creativeman.co.jp/

Floating Points - ele-king

 7月に「LesAlpx / Coorabell」という強力なシングルをリリースし、今週末にはサマソニ《NF in MIDNIGHT SONIC》への出演を控えるフローティング・ポインツが、バルセロナで開催された《Sónar 2019》でのDJセット音源を BBC Radio にて公開している。6時間にもおよぶセットの一部で、ディスコからアフロなどじつにダンサブル、会場の熱気が伝わってくる内容だ。これは17日の《NF in MIDNIGHT SONIC》も楽しみですぞ。

https://www.bbc.co.uk/sounds/play/m0006x99

FLOATING POINTS

いよいよ今週末に来日!
サカナクションとサマーソニックのスペシャルコラボレーション
「NF in MIDNIGHT SONIC」に出演するフローティング・ポインツが
Sonar Festivalで披露したDJ SET音源がBBCにて公開中!

マンチェスターに生まれ、現在は作曲家/プロデューサー/DJとし てロンドンを拠点に活動するフローティング・ポインツ。DJとしてはジェイミーXX(The xx)、カリブーやフォー・テットなどと肩を並べるほどのステータスを築き上げ、2015年のデビュー・アルバム『Elaenia』は圧倒的な完成度の高さで、その年を代表する重要作の一枚として賞賛された。2019年、再び〈Ninja Tune〉との契約を発表し、シングル「LesAlpx / Coorabell」をリリースしたばかりの彼は、今年20周年を迎える SUMMER SONIC 2019 で、8月17日(土)の深夜に開催されるサカナクションとのスペシャルコラボレーション「NF in MIDNIGHT SONIC」への出演でも話題となった。そんな彼の、バルセロナで開催された世界最高峰のエレクトロニック・ミュージックフェスティバル、Sónar 2019 での DJ Set 音源を BBC Radio にて公開中。

Benji B - Floating Points Live at Sonar 2019 (1:05:00頃からスタート)
https://www.bbc.co.uk/sounds/play/m0006x99

公開されている音源は Sónar 2019 で行われた6時間セットの一部で、ディスコ、ハウス、アフロ、ジャズなどの要素を織り交ぜたセットで、フロアのエネルギーを爆発させているのが容易に想像できる内容となっている。今週末開催される NF in MIDNIGHT SONIC でのプレイも必見!

NF in MIDNIGHT SONIC
2019年8月17日 (土) 幕張メッセ

OPEN / START : 23:00 / CLOSE 5:00
※ OPEN / CLOSE時間は変更になる場合がございます。
※「サマーソニック東京3DAYチケット」、「サマーソニック東京8/17(土)1DAYチケット・プラチ ナチケット」、「NFチケット」で入場が可能です。
https://www.summersonic.com/2019/lineup/tokyo_day2.html#md

label: Ninja Tune
artist: Floating Points
title: LesAlpx / Coorabell
release date: 2019.07.12 FRI ON SALE

A1. LesAlpx (Extended)
B1. Coorabell

Solange - ele-king

 いつまでも姉を引き合いに出されては不本意だろうから手短かに済ますけれど、ソランジュはその活動の初期から常道とは異なるスタンスを打ち出すことでメインストリームをサヴァイヴしてきた、いわば対抗的なシンガーである。圧倒的なスターとして自らの存在感を顕示するのではなく、アプローチの多彩さやサウンドの掘り下げをとおして王道とはべつのルートを選択すること──そのオルタナティヴな態度は、とはいえまだディーヴァ的歌唱法やモータウンへの憧憬の大いに残存する2008年の2枚目からも聴きとることができる。同作に収められた“This Bird”がボーズ・オブ・カナダの“Slow This Bird Down”をサンプリングし、現在の彼女のスタイルにつうじる方法論を編み出していたことは、メインストリームとアンダーグラウンド、USとUK、ブラック・ミュージックと白人音楽といった種々の二項対立を考えるうえで見過ごすことのできないポイントだろう。他のアーティストがBOCを引用するようになるのは(実質的に)2010年代に入ってからだし、その実例も素材に必然性のないリル・Bだったりシューゲイズ的サイケデリアが目的と思しきリル・ピープだったりするので、早さの点でも使い方の点でも、ソランジュの慧眼は称賛に値する。
 とまれ、そのようなオルタナティヴの萌芽は2012年のEP「True」で一気に花開き、2016年の前作『A Seat At The Table』において盛大に咲き乱れることになる。高らかに歌い上げることをやめ、わかりやすい昂揚からは距離をおき、従来のR&Bともヒップホップとも異なるドリーミーさを獲得、丁寧に音色や音響に気を配りつつ、非ブラックの協力者も迎えながら、他方でレイシズムにしっかりと抗議を表明する彼女は、輝けるポップ・ミュージックの歴史に深くその名を刻みつけると同時に、ハーメルンの笛吹きのごとくインディ・キッズたちを元いた場所から連れ去ってしまったのだった。それから2年半のときを経て届けられたのが今回の新作『When I Get Home』である。

 とにかく音響にたいする意識がすさまじい。冒頭“Things I Imagined”で連続する「I」と「imagine」の母音同士の間合い、“Down With The Clique”や“Stay Flo”で畳みかけられる「down」や“Dreams”における「-ms」の発声などは、言葉の意味よりもまずその響きのほうへとリスナーの耳を誘導する。「ひとつのドラムの音を編集するのに18時間かけた」というエピソードも、“Way To The Show”のシンセ・ドラムや“Binz”のハットあたりを聴けばなるほどと唸らざるをえないし、随所に挿入される電子ノイズや鍵盤の音色、“Stay Flo”におけるずっしりとした低音とふわふわした上モノとの対比、“Almeda”や“Sound Of Rain”のチョップド&スクリュードなども、彼女のサウンドにたいする並々ならぬ情熱を物語っている。
 ソランジュは本作のレファランスとしてスティーヴィー・ワンダーやスティーヴ・ライヒ、アリス・コルトレーンやサン・ラーといったレジェンドたちの名を挙げているが、本作はそのどれとも似ていない。前作で確立された彼女の独自性はここで、さらなる高みに到達している。他にもインスピレイション・ソースは多岐にわたるが、たとえばトラップ由来のリズムやドラムもそれじたいが目的になっているわけではないし、豪華なゲストたちの個性も巧みに抑制されている。ときおり背後に敷かれるドローンはかなり薄めのレイヤリングで、おそらくはジョン・キャロル・カービィによるものだろうスピリチュアルな気配も、ニューエイジ的な側面が肥大しすぎないよう適切に押さえ込まれている。フライング・ロータスがそうだったように、ソランジュもまた今回の新作において「音楽監督」としてのスキルを格段に向上させている。
 言葉のほうも力強い。黒人の肌や髪の特徴を歌い上げる“Almeda”で彼女は、「ブラックの信念は、いまだ洗い流されていない」と、なんともしとやかに宣言している。この「ブラックの信念」は、アルバム全体のテーマと深く関わっている。

 タイトルどおり、本作のテーマは「ホーム」である。それは具体的には彼女の出身地たるヒューストンを指している。チョップド&スクリュードの導入もたんなる気まぐれではない。その手法を編み出した故DJスクリューは、ヒューストンを拠点に活動していたプロデューサーだった。他にも本作では俳優のデビー・アレンや歌手のフィリシア・ラシャッド、詩人でありブラック・パンサーにも関わったレズビアン活動家のパット・パーカーなど、同地出身者たちの音声がサンプリングされている。
 原点たるヒューストンへと還ること──それは空間的には郷愁と呼ばれ、時間的には懐古と呼ばれる。そのようなノスタルジーは、“Almeda”のMVが「まわること」をモティーフとしている点にもあらわれている。登場人物たちは歩きながら円を描き、ダンサーはポールを軸に回転し、ソランジュ本人もハットを指に引っかけてぐるぐるとまわしている。あるいは“Beltway”のMVでは、点滅する光が輪をかたちづくっている。現在は過去を想像し、過去は現在へと回帰する──ノスタルジーは、線的にではなく円的に発動されるのだ。注目すべきはそこに「ブラックの信念」が伴っている点だろう。

 今日はもはや「レイス・ミュージック」の時代ではない。にもかかわらず、差別構造じたいは強固に残存している。何度も繰り返される警察の暴力──そのような悲惨な現実に抗するひとつの方法は、いつか訪れるだろう素晴らしい未来を夢想することかもしれない。でも逆に、過去を志向することだって立派な抵抗たりえるのではないか? 一般的に郷愁や懐古は後ろ向きな姿勢と見なされるが、じつはそれほどネガティヴなことではないのではないか? 過去の想像それじたいがオルタナティヴな戦術たりえるような、なんらかの方法があるのではないか?
 このアルバムがおもしろいのは、主題としての過去と音響としての現在が熾烈な闘いを繰り広げているところだ。テーマがノスタルジックなのとは裏腹に、サウンドはいっさいレトロを志向していない。後者はむしろ、現行ポップ・ミュージックの最尖端を突き進んでいる。過去を呼び戻す必要のあるときも必ずひねりが加えられていて、たとえばインタールードの“Exit Scott”では、懐かしさを煽るはずのソウル・ソングがパルス音によって汚染され相対化されていく。そもそもチョップド&スクリュードだって、既存の素材を著しく変容させて再呈示するわけだから、過去を異化する手法と言える。

 本作収録曲のMVを観ていると、もうひとつ気づくことがある。“Things I Imagined / Down With The Clique”や“Way To The Show”など、現時点で公開されているほぼすべての映像に、カウボーイが登場しているのだ。いくつかの宣材写真ではソランジュ本人がその姿に扮してもいる。重要なのは、それらがみなブラックであるという点だろう。
 彼女のホームたるヒューストンは、カウボーイの街として知られている。通常それは白人の男性を想起させるが、「わたしが最初に見たカウボーイはみんなブラックだった」と、彼女はファッション誌『VOGUE』のインタヴューで語っている。最後の曲のタイトルも“I'm A Witness”だ。自らの幼いころの記憶と、おそらくは映画産業によって流布され固定されたであろうイメージ、そのギャップを浮かび上がらせるために彼女は、色とジェンダーを反転させる。

 カウボーイのモティーフから僕が最初に思い浮かべたのは、“Dayvan Cowboy”というギター・ノイズとドラムの乱舞が美しい、2005年の曲だった。「dayvan」というのは、窓際に設置する背もたれのないソファや長椅子を指す、「divan」なる単語が変化したものらしい。つまり「ダイヴァン・カウボーイ」とは、長椅子に腰かけたり寝そべったりしているカウボーイのことで、ようは「安楽椅子探偵」みたいなものだろう。外へは一歩も出ずにたいがいの物事をこなしてしまう人間の喩えだ。
 この曲のMVは、成層圏まで上昇した気球から人が飛び降りる場面ではじまる。彼はどんどん落下し、やがて大海原に突入する。巨大な波が押し寄せるなか、まるで何事もなかったかのように彼は海パンに着替え、サーフィンを試みる。軍人のジョゼフ・キッティンジャーとサーファーのレイアード・ハミルトンの映像をつなぎ合わせたものだ。成層圏ダイヴからの大波サーフィンという、じっさいにはまず不可能であろうアクションも、部屋でソファにひっくり返りながらであればたやすく想像することができると、そういう話である。
 この“Dayvan Cowboy”は、突飛で非現実的な想像をどこまでも擁護する──と同時に、当時の世界情勢を踏まえるなら、イラク戦争中にホワイトハウスのデスクに腰かけたまま再選を果たした、ジョージ・ブッシュを諷刺するものでもあったにちがいない。興味深いことに、かの大統領が中学時代を過ごし、州兵時代に配属された土地もまたヒューストンだった。それから15年近くが経過し、黒人で初めて大統領になったオバマはとうに政権を去り、現在は新たな白人のカウボーイが合衆国を牛耳っている。
 2005年のこの曲がいま、ソランジュの思考に回帰してきている。“Dayvan Cowboy”が収録されていたのは、かつて彼女がサンプリングした“Slow This Bird Down”とおなじアルバムだった。まさにボーズ・オブ・カナダこそ、ノスタルジーを鍛錬し、戦略的に打ち出した嚆矢だった。ソランジュはいまふたたび彼らのアイディアを応用し、ブラックの文脈へと移殖することで、あらためて世界に問いを投げかけている。

 メインストリームを主戦場とする歌手がアンダーグラウンドを参照し、現代的な音響を追求しながらノスタルジーを導入することで開始した、あまりに静かな叛逆──「わたしは想像する」という言葉で幕を開けるこのアルバムは、「夢」を経由し、「わたしは止まらない」という言葉で幕を下ろす。なかったことにされている過去を現在へと浮上させ、世界に変革をもたらそうとするその姿はまるで、これから起こる悲劇を回避するために何度も過去へと遡る、ループものの主人公のようではないか。
 これは、闘いである。ただし、あくまで穏やかで、上品で、どこまでも夢見心地な。

Myele Manzanza - ele-king

 セオ・パリッシュのバンド、ザ・ユニットのドラマーであり、セオの主宰する〈Sound Signature〉やその姉妹レーベル〈Wildheart〉からリリースを重ねてきたマイエレ・マンザンザが、10月9日にニュー・アルバムを発売する。昨年末にセオのマイルス・デイヴィス・トリビュート曲“Love Is War For Miles”を巧みに再解釈して注目を集めた彼は、次にどんなジャズを聞かせてくれるのか。期待大です。

Myele Manzanza
A Love Requited

THEO PARRISH のバンド “THE UNIT” のメンバーとしても知られる、ニュージーランド出身のドラマー MYELE MANZANZA (マイエレ・マンザンザ)が新作をリリース!! アグレッシヴなドラミングから産まれるグルーヴに、壮大さとダイナミックな世界感を融合させた集大成となる一枚!!

Official HP: https://www.ringstokyo.com/myelemanzana

マイエレ・マンザンザを遂に紹介できます。エレクトリック・ワイヤー・ハッスルやソロ・デビュー作『One』の頃から気になっていたドラマーです。同じニュージーランド出身のマーク・ド・クライヴ・ロウや、セオ・パリッシュからも信頼を寄せられてきた彼の待望のフル・アルバムは、これまでの活動の集大成と言えます。洗練されたモダン・ジャズもスピリチュアルなジャズもアフロセントリックなソウルも、ラテンやアフリカのリズムも、コンゴのミュージシャンだった父との対話も融合させた、壮大でダイナミックな世界を楽しんでください。(原 雅明 / rings プロデューサー)

アーティスト : MYELE MANZANZA (マイエレ・マンザンザ)
タイトル : A Love Requited (ア・ラブ・リクアイテッド)
発売日 : 2019/10/9
価格 : 2,450円+税
レーベル/品番 : rings (RINC57)
フォーマット : CD

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