ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Cornelius 30th Anniversary Set - @東京ガーデンシアター
  2. interview with salute ハウス・ミュージックはどんどん大きくなる | サルート、インタヴュー
  3. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  4. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  5. Cornelius - Ethereal Essence
  6. High Llamas - Hey Panda | ハイラマズ
  7. Sisso - Singeli Ya Maajabu | シッソ
  8. The Stalin - Fish Inn - 40th Anniversary Edition - | ザ・スターリン
  9. John Carroll Kirby ──ジョン・キャロル・カービー、バンド・セットでの単独来日公演が決定
  10. Columns ♯7:雨降りだから(プリンスと)Pファンクでも勉強しよう
  11. Columns 6月のジャズ Jazz in June 2024
  12. RYKEY - Amon Katona
  13. KRM & KMRU - Disconnect | ケヴィン・リチャード・マーティン、ジョセフ・カマル
  14. LIQUIDROOM 30周年 ──新宿時代の歴史を紐解くアーカイヴ展が開催
  15. Tribute to Augustus Pablo ──JULY TREEにて、オーガスタス・パブロ関連の写真やゆかりの品々などを展示、およびグッズ販売
  16. Cornelius - 2022.7.30@Fuji Rock Festival
  17. interview with bar italia 謎めいたインディ・バンド、ついにヴェールを脱ぐ | バー・イタリア、来日特別インタヴュー
  18. interview with Kaoru Inoue 人はいかにして、このハードな人生を生きながらゆるさを保てるか?  | 井上薫、ロング・インタヴュー
  19. Cornelius ──コーネリアスがアンビエント・アルバムをリリース、活動30周年記念ライヴも
  20. Terry Riley ——テリー・ライリーの名作「In C」、誕生60年を迎え15年ぶりに演奏

Home >  Reviews >  Album Reviews > Laura Cannell- The Sky Untuned

Laura Cannell

Laura Cannell

The Sky Untuned

Brawl Records

Bandcamp

ExperimentalModern Classical

Laura Cannell, Polly Wright

Laura Cannell, Polly Wright

Sing As The Crow Flies

Brawl Records

Bandcamp

Avant Folk

野田努   Aug 16,2019 UP

 この夏の切ない思いはたとえばこんな感じだろう。それを表現するのに複雑なプログラミングもそれらしい言葉も要らない。ヴァイオリンひとつあれば、こんなにも突き刺すような音楽を奏でることができる。ローラ・キャネルの『The Sky Untuned』、すなわち「チューニングされていない空」という素晴らしいタイトルのアルバムを聴いてそう思った。

 もっともこのアルバムは今年の春先にリリースされたもので、「天球の音楽」をコンセプトに作られている。ローラ・キャネルはイングランドはノリッジという古い街並みが残る街を拠点に活動しているヴァイオリン奏者で、じっさい彼女は荒廃した古い教会(の反響を利用して)レコーディングしている。その音楽はときに“中世的”と形容されているわけだが、シーンとは言えないまでも、イングランドの田舎の土着性を掘り起こすリチャード・ドーソンやハーブ奏者のエイン・オドワイヤー(このひとはアイルランド出身だが)のように、最近は都会とは距離を保ち、近代以前と現代とを往復するアヴァン・フォークとでも呼べそうなスタイルがUKでは目につくようになった。
 そもそも「天球の音楽」というコンセプトが中世ヨーロッパのものと言える。それは宇宙はじつは音楽を奏でていると、天体の運行と音楽とを結びつける考え方だ。ローラ・キャネルはそれを彼女のヴァイオリンで表現する。つまりこれは一種のスペース・ミュージックなのである。

 が、それは決してプラネタリウムで流れるようなロマンティックな音楽ではない。「チューニングされていない空」は、必ずしも牧歌的な欲望を満たす作品ではない。アルバムには張り詰めた緊張感と深いメランコリーがあり、エレガントで美しくあるが同時に破壊的でもあり、音は「アンチューンド=不協和」へと展開する。この温暖化、異常気象、ボリス・ジョンソンが首相になるくらいだからむべなるかなである。
 ……なんてまあそういうことではないのだが、しかし想像してみてほしい。たとえば披露宴かなんかで、ヨーロッパの綺麗な庭園にひとびとがいると。ひとりのヴァイオリン弾きがそこにいて演奏をはじめる。最初はその美しい音色にうっとりしていた人びとだが、演奏の途中で席を立つひともちらほら現れ、そして最後まで聴いていたひとの目には哀しみの涙が流れていると。
  アルバムには笛を演奏した曲もあり、多重録音もしているが、1曲のなかに複数の楽器を使わないことは徹底されている。そしてちょうどつい最近、彼女にとって初のヴォーカル・アルバム(ポリー・ライトとの共作)『Sing As The Crow Flies』がリリースされた。

野田努