「Dom」と一致するもの

interview with Kindan no Tasuketsu - ele-king


禁断の多数決
アラビアの禁断の多数決

AWDR/LR2

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 2011年。古今東西ありとあらゆる音源が一並びに混濁する景色のなかで、彼らは「透明感」と歌った。

 禁断の多数決、その名は、フロンティア・ラインが複雑に歪んだシーンにとても鮮やかな印象を残した。アニマル・コレクティヴ譲りのサイケデリア(ほうのきは日本のエイヴィ・テアだ)、一大気運であったシンセ・ポップ、ひたひたと押し寄せるニューエイジ・リヴァイヴァル・モード――当時もっとも影響力のあった音楽的トピックを、ドリーミーかつエクスペリメンタルに巻き込み、バンド名からもうかがえるようなノイジーな批評性を漂わせ、またリスナーとしての喜びも溢れさせ、日本のポップスとしてもしっかり着地する、誰もが気になる(けれどもいまひとつ謎の)バンドとして。

筆者はEPにもなった“透明感”にビリビリときていた。世の中はとうに透明な場所ではなかったので、透明には「感」をつけなければならなかった。「感」をつけるフィーリングが、そのフェイクな味わいのシンセ・ポップからよくつたわってきた。いまこの世界にあるのは、透明によく似た、透明の偽物だけ……。

かといって、彼らの音楽はドリーミーで、なにか得体のしれないエネルギーと音楽的記憶を宿していて、ニヒルや偽悪のそぶりは感じられない。むしろその逆であるところにリアリティがある。本物の透明がない以上、そのことが「本当」になる……本物がないことが本当になっている時代を、アルカイック・スマイルで肯定しているような彼らの音のたたずまいに、筆者はとても親近感を抱いた。その頃、世間は『けいおん!』旋風のただなかで、筆者はあの素晴らしいアニメ版が宿している、抜けるような透明「感」にも、同じようなことを感じていた。

それから2年が経って、彼らはいま旅をしている。セカンド・フル『アラビアの禁断の多数決』では、やっぱりどこかフェイクな感触を残す旅が繰り広げられていて、奇妙に実体のない国名や地名がたくさん散りばめられているのが特徴だ。彼らの旅は「現地」にあるのではなく、『世界の車窓から』(テレビ朝日)の現地「感」にある。本物に触れられない切なさが、禁断の多数決の強度である。それは音を磨き、無二の個性を生み出している。CDケースの中敷きに印刷されたシノザキサトシによる短編で、好奇心旺盛なコロンブ・ハッチャーマンが「なんかくれ」とものをねだるのも、ほうのきがピーター・ゲイブリエル(過激な仮装)をリスペクトすることも、「本物」に対する両義的な希求感の表れだということができるかもしれない。

 シノザキの短編はこのアルバムのアート・ワークのコアをなすような内容で、ある砂漠の村が、そこに突如現れた「浮遊人」たちの存在によってちょっとした変化を迎える顛末を描いている(『アラビアのロレンス』が下敷きになっている)。が、変化といっても決定的なことは何も起こらず、最後は砂漠がめくれあがって、その下からまた砂漠が出てくるという、どこか閉塞的なクライマックスが、バカバカしいタッチで展開されることになる。そのとき空には「リバースター」なる謎の物体が浮かんで妙なる音楽を奏でていて、砂漠がめくれるきっかけになったのは、くだんのハッチャーマンによる「なんかくれ」発言だ。砂漠がめくれてもまた砂漠。「なんか」はいつまでも手に入ることはない。ハッチャーマンは物乞いをつづけるだろうし、しかし「なんか」が手に入らなくても塞いだり暗くなったりすることなどなにもない……。

 おそらくこのアルバムで鳴らされている音楽が、このとき「リバースター」から流れていた音楽だ。俗物として描かれる元宗教家の床屋は、その体験を「そりゃ驚いたよー、(中略)こんなことを言ってもわかんないと思うけどさ、実物のリバースターを見たら、そんな気難しい顔はしないと思うなー」と語る。筆者はこのくだりが好きなのだけれども、『アラビアの禁断の多数決』は、実際、それと同じような感じで、気難しい顔になって向かい合うものではない。砂漠の下から砂漠が出てくる世界で、それをそのままに、心地よく聴けばいいと思う。

この短編はいいライナーノーツかもしれない。インタヴューの時点でこのテキストのことは知らなかったが、話をきいていて、筆者には禁断の多数決についてのいろんなことが、ほぼこのテキストに沿うような内容で、すーっと氷解していくように感じられた。

目次
音楽雑誌の記憶
なぜか3.11以降……
偽物談、地名談。
ガブリエル世代のポップの裏表
禁断の組織論!
日本脱出

音楽雑誌の記憶

ほうのきさんって、『スヌーザー』とか読んでました?

ほうのき:年末の年間ベスト号には大変お世話になりました。

リアルですね(笑)。なんというか、ひとりのリスナーとしてのほうのきさんにすごく親近感がありまして。不特定多数の洋楽リスナーが、音専誌を通じて大きな話題を共有できていた、その最後期くらいの記憶をお持ちなんじゃないかなって思うんですよ。

ほうのき:なるほど。

「洋楽ファン」っていうカテゴリーがまだギリギリ生きていて、紙メディアが機能していて。しかもたぶんロック寄りで、ちょっと突っ込んだ情報や言葉が欲しくて、みたいな、自分と近い聴き方・読み方をされていたんじゃないかという勝手な妄想なんですが。

ほうのき:もともとはたくさん買っていたんです。たぶんいま言っていただいたのは合っていますね。他には『クッキー・シーン』とか『アフター・アワーズ』とか。

そうそう! まさに。

ほうのき:『リミックス』、『ロッキング・オン』、『クロスビート』、『(ミュージック・)マガジン』とかも、年間ベストの号はなんでも全部、必ず買ってましたね。

よくわかりますよ。田舎のせいもありますけど、シーンってそんなふうに感じるものでした。

ほうのき:ちゃんと月々買ってたんですよ。それがいつのまにか買わなくなってしまって……。

ああ、なるほど……。

ほうのき:当時、僕も僕の友人もみんな音楽が詳しくて。レコード屋にもよく行っていたんです。みんな本当にマニアックでした。けれど、なぜだかどんどん掘らなくなっていったんです。

ああー、それは根深い。時代性の問題でしょうか。

ほうのき:僕は鈴木慶一が好きで。彼が、「“いまいい音楽がないよね”ってみんな言うけど、それって自分が掘ってないだけで、本当はあるんだよ」っていうようなことを言っていたんですよ。自分が古くなっているってことに気づいてないだけなんだ、って。それには感銘を受けました。Hi-Hi-Whoopeeって人いるじゃないですか。あ、明後日、ele-kingで何かやりますよね?

ああ、はい!  2.5Dさんで番組をやらせていただきます(2013.10.25「2.5D×ele-king 10代からのエレキング!」)。Hi-Hi-Whoopeeのハイハイさんにもご出演いただく予定ですよ。

ほうのき:僕、ハイハイさんのこと何かで知ってそれ以来ずっと見てるんですけど、最近は、ele-kingさんとかハイハイさんとか、あとはベタだけどPitchforkとか、そのあたりはなんとかいまでも追っています。

普通に恐縮ですけれども……。

ほうのき:このアルバム(『アラビアの禁断の多数決』)の制作があって大変だったということもありますけど、もっと言えば、3.11ですね。あのあたりからなんです。なにか追えなくなってきたのは。

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音楽雑誌の記憶
なぜか3.11以降……
偽物談、地名談。
ガブリエル世代のポップの裏表
禁断の組織論!
日本脱出

なぜか3.11以降……

ちょうど3.11から年末まで止まってたんです。その間はほぼ聴いてない。そのときまでの知識で作ったのが前のアルバム(『はじめにアイがあった』)です。

それまではさまざまな音楽雑誌やラジオ、レコード・ショップまでもう何もかも、ひととおり網羅していた自信はあったんですよ。音源をハードディスクに入れられるという喜びも覚えて、大量に入れていたんですね。それが、3.11以降やらなくなっちゃって……。

それは、不思議なきっかけですね。

ほうのき:はい。あの出来事があってファースト・アルバム(『はじめにアイがあった』)ができたんです。(東京から)富山に帰ったし。だからあのアルバムにはそのときまでに得たものが反映されているんです。

へえー。3.11以降、なぜか情報を細かく追うことをやめちゃったんですね?

ほうのき:そうなんです。僕、Tumblrが好きなんですね。あの頃Tumblrをばーって見てたら、なんだっけ、あのコンサルみたいな人……

篠崎:大前研一じゃない?

ええっ?

ほうのき:そうそう、大前研一が「人間、変わろうと思ってもそんなスグに変われるもんじゃない」みたいな感じのことを言ってたんですよ。人間が変わるには3つくらいしか方法がなくて、早起きすることと、付き合っている人間を変えることと、引っ越すことだ、みたいな(※)。僕もう、そうだな、ほんとだなと思って(笑)。

※「人間が変わる方法は3つしかない。ひとつ目は時間配分を変えること。ふたつ目は住む場所を変えること。3つ目は付き合う人を変えること。どれかひとつだけ選ぶとしたら、時間配分を変えることが最も効果的なのだ」(『時間とムダの科学』プレジデント社)

ははは! 啓発されちゃったんですか。

ほうのき:ははは! 僕、それまですごく中途半端に音楽やってたんですよ。3.11まではほんとに。だけどその後、本気でやろう! って思ったんです。それが3.11と結びつく理由がどっかにあったんですけど……なんか、思い出せないですね。

なるほど、でも3.11がきっかけで富山に戻られたということなんですね。

ほうのき:そうですね、3.11がきっかけで戻ったのと、あとは大前研一……。

(一同笑)

(笑)あ、なるほど、そのとき何かを変えたいって思ったんですね。それで、住むところを変えるっていう大前研一の言葉にも触発されて。

ほうのき:そうそう、ちょうどTumblrでその言葉が流れてきて。でも、変わりたいというのは前から思ってたんですよ。たまたまそのときにその話を知って、3つとも当てはまって、これ自分だ!ってなったっていうだけで。

ははあ。たしかに3.11っていうのは、陰に陽に、人々に変化のきっかけを与えるものとして働いた部分があるみたいですね。一見関係ないけど離婚した、とか。

ほうのき:ねえ?

はい。被害が出た出ないということと別のところで、人と人との関係とかムードを変えるタイミングだったりもしたわけですけれども……。それがほうのきさんの上に、音楽にまつわる変化として現れてきてもおかしくないですよね。

ほうのき:それで、その年の年末ですかね。僕、ele-kingさんのとかPitchforkだったりとか、いろんなところで年間ベストで挙げられている音源をほぼすべて落とした(ダウンロードした)んですよ。真面目な話、橋元さんとはかなり気が合うんです。

わー、そうなんですね。

ほうのき:はい。で、2011年の末にベスト音源を全部落としたあと、少しずつまた聴くようになったんですね。日々掘って、日々聴いて、っていうことはなくなりましたけど、まとめて聴くようにはなって。そしてそのときに、ドリーム・ポップとかチルウェイヴみたいなものがばーっと入ってきたんです。一気に。年間ベストのをまとめて聴くわけだから。それで、うわ、これおもしろい、と思って。

たしかに、2011年の末はドリーム・ポップ的なトピックが連続してました。 ※前号の特集が「シンセ・ポップふたたび」、前前号の特集が「現実逃避」

ほうのき:ちょうど3.11から年末まで止まってたんです。その間はほぼ聴いてない。そのときまでの知識で作ったのが前のアルバム(『はじめにアイがあった』)です。ララージとか、アンビエント系のものから、カフェ・デル・マーのコンピとかも好きで、そういうの全部入れようって思って作ったんですけど。で、それを作り終えた頃に年末号があって、おもしろかった。だから、1枚めはチルウェイヴとか意識しないで作ってたんですけど、出した後にみんなにけっこう「チルウェイヴ」って言われて、なんかそれがうれしくて。

へえ!

ほうのき:まとめて聴くのはいまも続いていて、正直Hi-Hi-Whoopeeさんとかの教えてくれるおもしろい音とかも全部保存してあるんですけど、全部聴けてない(笑)。フォルダにたまる一方で、いつか聴くつもりなんですけど、そのままなんです。たとえば、tofubeatsがいいって言っていて、Hi-Hi-Whoopeeもいいって言っていたらその場で聴きますけど……。

わかりますよ。たまる問題の病理はリアルなトピックですよね。しかし、3.11のお話はおもしろいです。どちらかというと政治性とも結びつきやすい話題ですし、下手をするとすごく型にはまった窮屈な議論にもなってしまうので、アーティストさんとかに振りにくい話題なんですけど、ほうのきさんのその、謎の影響と謎の空白時間は興味深いです。チルウェイヴがその空白の後に入り込んできたのは偶然ではないですよ。現実逃避ってことにポジティヴなマナーを与えた流れでしたから。後っていうか、本当は同機してたわけですしね。

ほうのき:ああ……、なるほど!

まあ、でもこういういわゆるバズワード的なものは、たまたまでっちあげられたものでもあるわけで、それが偶然3.11後のタイミングで音として興味深く自分のなかに入ってきただけなのかもしれないですけどね。

ほうのき:3.11に関して言えば、あれだけ大きなことだし、僕もそんなに好んで発言したいわけじゃなくて、自然と変化が起きたってことなんです。だからおっしゃるとおり、偶然なんです。

偽物談、地名談。

ブライアン・イーノは僕のなかでフェイク感なんです。ロバート・フリップは本物感。

前作の話ばっかりで恐縮ですけど、わたし“透明感”って言葉にビビッときたんですよね。「透明」じゃなくて「透明感」っていうところが、すっごく生きてきた時代を象徴的に切りとってるなって思いまして。偽物なんですよ、透明の。透明「感」だから。

ほうのき:ああ、そうですね(笑)。たしかに。

その偽物っていうところを素直に肯定する感性……。偽物ってことにちょっと屈折したカッコよさを感じていたりする感じじゃなくて、です。その偽物ばっかりになっている場所とか世の中を、とくに斜めから見ることなく、生まれたときからそうあるものとして肯定していく、楽しんでいくというか。そういう感覚がひとつ禁断のキャラクターというか特徴なんじゃないかなと思いました。 「偽物」とかってどうです? そういう感覚あります?

ほうのき:ありますね。ラウンジ・リザーズ。僕、ジョン・ルーリーがフェイク・ジャズって自分たちのことを言うのがすごく好きなんですよ。あと、サム・ライミ。『死霊のはらわた』とかも好きなんですけど、彼らの作った言葉に「フェイク・シェンプ」っていうのがあるんですよ。役名のない役のことをフェイク・シェンプと呼んだそうです。フェイクというのはなにか、好きなのかもしれません。よくわかりますね! 今度飲みにいきましょう。

わー!

ほうのき:フェイクと本物で必ず思い出すのがキング・クリムゾンがなんです。キング・クリムゾンになれない感。

キング・クリムゾンになれない! ……音楽的に? 存在として?

ほうのき:ギタリストに、「この曲、ロバート・フリップみたいに弾いて」っていつも言うんですけど、絶対にそうならないんで。でも、ならないなりに、ブライアン・イーノは褒めてくれるかなって。ブライアン・イーノは僕のなかでフェイク感なんです。ロバート・フリップは本物感。

(一同笑)

いや、何か伝わりましたよ。いまフェイクじゃなくてすごいなって思える人とかいますか?

ほうのき:あ、そうですね、うーん……

その、フェイクっていうのが、ほうのきさんのなかの倫理みたいなものなのか、あるいは趣味なのか。それともとくに意識してない部分なんですかね?

ほうのき:フェイクじゃないもの……。スカーレット・ヨハンソンが出ている新作で、こっちにはまだ来てないですけど、『アンダー・ザ・スキン』っていう映画。そのトレーラーがすごくて。ペンデレツキみたいな不協和音とか、新幹線がトンネル入った瞬間の「スヴォー!」っていう感じの音だけで構成されたトレーラーなんですよ。そういうのに鳥肌が立ちます。でもこれもフェイクかな……。あと、ちょっと関係ないかもしれないですけど、アニマル・コレクティヴは僕、本当に衝撃を受けて。

ああ、きた……

ほうのき:だいぶ衝撃でした。あの人たちはフェイクじゃないと思います。

フェイクやれないから、いまポルトガルとか行っちゃったのかもしれないですね。

ほうのき:ああ、パンダさんですか? 

あ、エイヴィー・テアのほうが好きでした?

ほうのき:僕、エイヴィー・テアが好きですね。両方好きですけど。

わたしもひとつの原点ですよ。それこそチルウェイヴ的なものの始原でもあると思いますし。けっこう直接的な意味で。

ほうのき:あ、僕もそう思います。

はい。それに、ロック寄りのシーンだと、彼らが出てくるまではそれこそロックンロール・リヴァイヴァルとかポストパンク・リヴァイヴァルとか、「リヴァイヴァル」っていう批評的な音ばっかりが溢れていたじゃないですか。そこへかなり素直に、サイケデリックっていうものをいまやるとこうなる、っていう超おっきな例をドーンと出してきたのがアニコレだと思うんですよ。

ほうのき:ああー。

そしてシーンはどんどんとドリーミーに、サイケデリックに。それまでストーンドなノイズを出してた人たちもニューエイジっぽくなっていったりして。みんなアンビエントになって。

ほうのき:メディテーションな感じになって。

そうですよ。ジャンル関係なく眠りのムードに突入して。

ほうのき:僕、2010年くらいに京都のメディテーションズってお店が大好きだったんですけど、まさかいま大人気なお店になるなんて思ってもみませんでした。

ははは!  駆け込み寺的な。何でも早いですよね。……ええと、フェイクの話に戻りますけど、これ、何なんですかね。これ、このアー写の。それこそアニコレ的というか、ちょっとあの頃のブルックリンの偽物みたいな感じじゃないですか!

篠崎:(ぼそっと)フェイクですね。

ほうのき:ははは! これちょっと、見てください。影もおかしいんですよ。

ああ、気づきませんでした!  だから(笑)、いまこれをやるとしたら超遅れてきたブルックリン主義者か、なんかわざと偽物をやっている人たちじゃないと理解できないというか。

(一同笑)

ほうのき:説明になっているかどうかわからないんですけど、『アラビアのロレンス』をやりたかったんですよ、まず。

ああー! そうか。

ほうのき:それで、まず砂漠を探そうと思って。そしたら千葉にあるっていうから、千葉なんですよ、これ。どこだっけ……

尾苗:館山。

ほうのき:ああ、そうだそうだ。ミケランジェロ・アントニオーニの『砂丘』って映画で、砂丘で何組ものカップルがスワッピングをしてるんですけど、それをやりたかったっていう。このコラージュは、写真を撮ってくれた江森(丈晃)さんがやってくれたんですけど。

ああ、そうなんですね。いろんな偶然も重なりつつ、でも基本は『アラビアのロレンス』だったと。ほんとにアラビアとは思いませんけどね。

ほうのき:そうですよね(笑)。

いえ、否定じゃなくてですね。今回、曲にいろんな世界の地名が出てくるじゃないですか。でも、どれもちょっとふざけた感じというか、生のその土地じゃなくて、やっぱりちょっとフェイクというか。電脳空間にしかないような、情報の断片みたいな感じで国とか土地名が使われてませんか?

ほうのき:あ、合ってます、合ってます。

ちょっと怪しげですよね。“勝手にマハラジャ”とかだって、シタールとか入れてもっとベタにインドっぽくしたってよかったわけじゃないですか。だけど、エレクトロ・マハラジャって感じの、言っといてそれほどインドでもないというアレンジで。そういうあたりのコンセプトについて訊きたくて。地名に何か狙いはあるんですか?

ほうのき:ああ、それはバックパッカー感を出したかったんです。バックパッカーに憧れていて。いや、憧れるってほどでもないんですけど。

ぜんぜん駄目じゃないですか。丘サーファーならぬ……

篠崎:丘パッカー。

丘パッカー(笑)。基本丘ですけどね。なんていうか、脳内パッカー?

ほうのき:ああ、そうだ。じぇじぇ。

出た(笑)。

ほうのき:まあ、詞も僕が書いてるんで、このときはバックパッカー感を出したかったんですね。

篠崎:“ワールズエンド”とかも出てきますよ。

ああ、そうか! 国の名前を列挙してますよね。

『世界の車窓から』。僕はテレビ局に電話かけてました。曲名を見落としちゃって。あれ、ちゃんと教えてくれたんですよ。

ほうのき:兼高かおるさんの世界旅行のとか好きで。ああいうのをやりたいというのもありました。バンドっていう括りであんまり考えていなくって、とにかくおもしろいことがしたかっただけで。その手段としての音楽なんですよ。で、ラッキーなことに富山出身者が4人集まっていて。

そこ、すごいとこですよね!

ほうのき:そうなんですよ……この話、関係ないか。

(一同笑)

ほうのき:バックパッカー感を出したいというのは、音の部分だけじゃないんですよ。基本的には、やっていること全部のなかにあって、それが音にも出たという感じです。

なるほど。でも、それなら『世界の車窓から』みたいな、イイ感じの音楽、もっとその土地のそれらしい雰囲気を出していくという選択肢もあったわけじゃないですか。

ほうのき:ああ、『世界の車窓から』も好きです! ハードディスクにためていた音源のなかには、あの番組で紹介されていた曲もたくさん入ってます。あれはけっこうマイナーな音楽が流れるんですよ。探せないのもけっこうありましたね。

あ、そうなんですね。篠崎さんも?

篠崎:メモったりする程度ですけどね。

ほうのき:僕はテレビ局に電話かけてました。見落としちゃって。ちゃんと教えてくれたんですよ。いまはネットで紹介されてますけど、昔は何時何分に流れたやつ何ですか? って電話で訊いたら、教えてくれたんです。

あはは、すごいですね! いや、でも、そういうもっともらしさとか本格へ向かわないじゃないですか、禁断の多数決は。そこがいいなと思って。いろんな知識があって、音の趣味も幅広いのに、モノホンなセッションをやりたい、本格的に民俗音楽をやりたい、みたいにはならないでしょう?

篠崎:まったくないんじゃない? そんな話、出たことがない。

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音楽雑誌の記憶
なぜか3.11以降……
偽物談、地名談。
ガブリエル世代のポップの裏表
禁断の組織論!
日本脱出

ガブリエル世代のポップの裏表

僕は爆笑問題の太田光が好きなんですけど、彼はアートでも何でも、世間一般に広がらなければ意味がないっていうようなことを言うんです。

あ、ジョー・ミークが好きな篠崎さん。……前作は存在自体が問題提起、みたいなところがあったようにも思うんですが、今回はもうちょっとポップスとしてのアルバムの厚みみたいなものも目指されている、もうちょっとリスナーに寄せた作品なのかなと思いました。

ほうのき:あ、そこはひとつ話があるんですよ。もともとこれは2枚組のものだったんですね。

え、そうなんですか? めちゃくちゃ曲数があったということはうかがっていますが。

ほうのき:今回出せなかったもう1枚の方は、メンバー内では通称「ピッチフォーク盤」と呼ばれているもので。

ええっ。そんなはっきりとした性格のあるものだったんですね。

ほうのき:ピッチフォーク盤じゃないほうがこれ(『アラビアの禁断の多数決』)なんです。通称ピッチフォーク盤は、コアなやつばかり集めていて。ジェイムス・ブレイク風からダーティ・プロジェクターズ風、アダルト・コンテンポラリー、ファンカデリックっぽいものまで、いろいろ入っています。かなり分けて作りましたね。

なるほど、ではこのアルバムはある意味では上澄み液というか、難解めなものを落としたかたちだと。

ほうのき:そうですね、振り分けたんです。ポップなのを集めちゃったんですね。

なるほどなあ。Tofubeatsさんとか、若いアーティストの方にわりと感じるんですけど、「ポップスっていうものをちゃんと考えよう」っていうところがありませんか?  そんな問いは放っておいて、天然で好きなものを作っていいはずなんですが、なにか「いかに僕らはポップを作るか」というようなことを詰めようとする。ほとんど倫理として内面化されているようにも思えます。そういう感覚への共感はありますか?

ほうのき:僕は爆笑問題の太田光が好きなんですけど、彼はアートでも何でも、世間一般に広がらなければ意味がないっていうようなことを言うんです。チャップリンが好きだそうなんですね。その意味では岡本太郎ですらまだ弱いって。だからポップっていうことをもっともっと超えたかった、それが今回のアルバムで、「ピッチフォーク盤」のほうはその反対をやりました。だから本当はふたつともいっぺんに出したかったんです。そうしたらスケジュールの関係で最初に作りはじめたポップな方だけ出た……。

なるほどなあ。もっと若い人たちには、ポップスというか、ポップス産業への懐疑みたいなものがわれわれ以上に強いんだろうなって感じるんです。それに比べれば、ほうのきさんの感覚はもうちょっと柔らかいのかなとは思います。逆襲を仕掛けてやるっていうようなモチヴェーションはないですよね?  そこまで意識的でなくポップスが好きだったりするのかなと。わたしは“くるくるスピン大会”とか好きですよ。“トゥナイト・トゥナイト”とか。そのへんアルバムの顔ではないのかもしれないですけど、素直にポップス好きが出ている部分なんじゃないですか?

ほうのき:そうですね。“くるくるスピン大会”は、20歳くらいのときに作ったものなんですよ。はました(まさし)が作ったオケに唄を乗せたものです。適当に多重録音していた頃の作品で、久々に聴いたら「けっこういいんじゃない?」って感じになって。バグルスっぽいかな。“トゥナイト・トゥナイト”もはましたから来た曲です。僕はマニアックなものが好きなんですけど、はましたはわりかし普通の音楽が好きで、だけど彼がある意味いちばん変かもしれないですね。

ははは!

ほうのき:僕ら保育園からいっしょなので。彼はフェニックスとか、ちょっと洒落たAORとかが好きなんです。それで、彼が送ってきた音に僕がいろいろ加えてやりとりしているとすごい変なものができる。バランスがちょっとおかしいんですよね。

へえー、はましたさん。

ほうのき:僕はあの頃、(ザ・)シャッグスみたいな音ばっかり録ってましたね。

ははは。“くるくるスピン大会”がシャッグスに直には結びつかないですけどね!

ほうのき:僕ひとりでやると全部シャッグスになります(笑)。

“踊れや踊れ”とかは、アラン・パーソンズとか10ccとか、ちょっとリッチに味付けされているような印象ですが、祭りのお囃子ってこんなところと相性がいいのかって、ちょっと新鮮でした。……ピーター・ガブリエルがお好きなんでしたっけ?  そこにつながっていくのかあ、って。

ほうのき:そうなんですよ。そこへの自負はありますね。ピーター・ガブ――あ、ピーター・バラカンさんが怒るので、ピーター・ゲイブリエルって言いますね。

あ、わたしもまよいます。じゃ、ゲイブリエルに統一しましょう(笑)。

ほうのき:はい(笑)。ピーター・ゲイブリエル、デヴィッド・バーンが好きなので、そのへんを目指したいというのはあるんです。でも、最近けっこう名前を聞くんですよね。セロの人がトーキングヘッズのオマージュみたいな曲を演ってたり、The 1975とかもピーター・ゲイブリエルがいちばん好きって言ってたように思うんですが、「あれ?  僕だけじゃないのか?」って(笑)。案外そういう若い人がけっこういるんですね。

バンド全体としても重要な部分なのでしょうか? 篠崎さんとかも?

篠崎:重要ですね。それを音にして、偶然性みたいなものも詰め込んでできたのが今回のアルバムです。

ほうのき:最終的に(尾苗)愛さん、ローラーガール、ブラジルの声が入って雰囲気が一気に変わるので、アルバムはおもしろいですね。化学反応というか。そこで一気に禁断の多数決になるんだなっていうところがあります。

いや、それはよくわかります。実際に替えがきかないというか、他の方だと禁断の多数決にならないですよね。でも、すごく平面的に「萌えヴォイス」ってタグづけされてしまうことはありませんか? 今作はもうすでにそんな段階を超えてますかね?

ほうのき:去年まで多かったのは、相対性理論との比較ですかね。

なるほど、それはありましたね。禁断は、要は洋楽じゃないですか。それがちゃんと日本の土壌のなかに、日本固有の表現でもって着地しているところが素晴らしいなと思います。いろんなポイントがありますけど、尾苗さんたちのヴォーカルが果たしているものも、その重要なひとつじゃないかって感じますね。

ほうのき:「よくわかんないけどいい」って言われるのはうれしいです。

篠崎:はっきり「いい」「悪い」っていう反応がないよね。そのへんは曖昧とした感じです。

ほうのき:批判があんまりないのが、ちょっと不安ですね。自分はどちらかというと、否定とかがなきゃだめなのかなって思う方なんですけど、いまのところすごく悪く言われることがあんまりない気がして。

言葉で簡単に言いにくいバンドかもしれません。

ほうのき:そうなのかもしれませんけど、大丈夫かなあって心配になったりはします。

そういう部分で、バンドの方向とかについての話し合いとかをしたりするんですか?

篠崎:いやー、全然ないですね。何かひとつのコンセプトがあって、そこを目指そうというようなこともないですし。

禁断の組織論!

メンバー募集をしていまして。チェ・ホンマンみたいな大きい人、それからダニー・デヴィートみたいな小さいおじさんと、サルバドール・ダリみたいなヒゲで長身の伯爵みたいなゲイのおじさん。そういう集団に近づきたい感じがありますね。

さて、話は変わりまして、禁断の組織論といいますか、みなさんというのがどういう集まりなのかということをお訊きしたいんですけれども。「ノマド」という言葉をわりと使っておられますよね。

ほうのき:はい(笑)。

組織と呼ぶにはもしかすると柔軟すぎるつながりなのかもしれませんが、どうなんでしょう、コアにあるのは富山という地元の縁?

ほうのき:そうですね……。自然に、ですかね。

東京で音楽活動やろう、ってみんなで一念発起して出てきたんですか?

ほうのき:いや、そういうことではなくて、こっちで出会ったりしています。はましたは保育園からですね。篠崎は大人になってからです。ほんとに自然に集まっていて。愛さんは●●の店員さんですね。

尾苗:ああ、はい。そうなんです。

ええっ!

ほうのき:普通に店員さんで、僕が客だったんです。

尾苗:でも、わたしも富山の出身ですよ。

えっ、それは富山のお店で出会ったってことですか?

尾苗:東京です。

めちゃくちゃ偶然、富山だったんですね。

尾苗:たまたまその日だけ、「自分を売り出せ」っていうことで、名札に出身地を書いていたんですよ。そしたら「富山県なんですか?」って声をかけられて。

ほうのき:そうなんです。かわいいなあーと思って。それで、ググって(笑)。

ははは!

ほうのき:ストーカーですよね。でも、そしたら偶然にも共通の友だちがいたんです。

尾苗:わたしはわたしでバンドにいたりもしたので、その声を聴いてもらって……っていう感じですね。

すごいですね。篠崎さんも偶然東京で出会った組ですか?

ほうのき:篠崎は、メンバーの弟とバンドをやっていたりしたつながりですね。

それもまた富山だったと。どちらですか?

篠崎:高岡です。

へえー。そういう、地名が結ぶ縁というものがあるのかもしれないですけど、この10年って、バンドっていうものの説得力がなくなってきた10年でもあったと思うんですね。これ、いろんなバンドの人に訊いている質問なんですけど。

ほうのき:ああー、なるほど。それはわかります。

インディ・ロック系のアーティストが、どんどんソロとかデュオ、もしくは……

ほうのき:アニマル・コレクティヴとかですよね。メンバーも必ずしも揃ってなくていい。

そうそう、そんな世界で、なんでわざわざ5人とか6人とかで関係を結んでいるのか。ひとりやふたりのほうがいろんな部分で面倒くさくないですよね。デュオやソロに存在感が生まれたのもそういうムードの高まりだったのかなと思うんですが、みなさんはどんな感じなんです?

ほうのき:『あまちゃん』にちょっと似てますかね。

出た。

ほうのき:『あまちゃん』は好きで、あと僕は『ツイン・ピークス』も好きなんです。登場人物が全員好きですね。出ている人たちも全員擬似家族っぽい感じがしませんか。あのふたつの作品のいいところは、登場人物全員を愛せるところというか。ひとりもいやなキャラがいなくって。ツイン・ピークスみたいな集団を作りたいっていう感じが昔からあります。

ああ、『ツイン・ピークス』なんですか。誰か死にますね。

ほうのき:死んでも生き返ってくるんですよ、篠崎さんは。

(一同笑)

あはは!

ほうのき:だから、「バンドやりたい」からはじまってないんですよ。劇団というか……。必ずしも劇団が好きなわけではないんですけどね。

なるほど。

ほうのき:いま、メンバー募集をしていまして。チェ・ホンマンみたいな大きい人、それからダニー・デヴィートみたいな小さいおじさんと、サルバドール・ダリみたいなヒゲで長身の伯爵みたいなゲイのおじさん。そういう集団に近づきたい感じがありますね。サーカス団というか。

なるほど、なるほど。映画に出てくる、ちょっと古めかしい旅の興行団みたいな。おふたりもいっしょですか? バンドという意識ではない?

篠崎:そうですね。

仲良しグループでもない?

篠崎:仲良しではないと思いますね(笑)。

ほうのき:ほんとよくわからないんですよ。

特殊ですね。でもそんなかたちでけっこう楽しく、長くいっしょにいられるんだったらおもしろいことですよね。

ほうのき:音楽好きなのは共通していると思うんですけど、6人が集まって音楽の話をすることはほとんどないですよね。

映画観たりする感じですか?

篠崎:いや、そんな仲良くないです(笑)。

ほうのき:昔はよく篠崎とふたりで飲んだりしましたけど、政治の話とかですね。

オブ・モントリオールとかは色が違いますけど、あれもちょっとしたサーカス集団みたいな感じがありますよね。

ほうのき:トーキング・ヘッズの『ストップ・メイキング・センス』っていう映画がありますけど、あれを観ていると、黒人のコーラスの女性サポートが居たり、黒人のギタリストとかキーボードもサポートだったりしますよね。僕のコアにはそういう、さまざまな人といっしょにやりたいという感じがあるんです。だから、必ずしも6人だけでライヴをしたいとかっていうこともないんです。

ひとりひとりが主役になるスピン・オフもありつつ、集まると禁断の多数決になる。

ほうのき:そうですね。

でも、ひとりやふたりだと「多数決」っていう名前ともちょっと違ってきますよね。多数決って、暴力的なものでもあるわけじゃないですか。それが嫌という人が1人いれば、1人には犠牲を強いるわけですから。民主的なんですけど、民主的ってこと自体が必ずしもひとりひとりに優しくないというか。禁断の多数決っていう名前には、そういうことへの問題提起があるなーというか、時代性があるなというか。わたしは初めて聞いたときビリビリっとしました。そういう意味でつけたんじゃないとしても。

ほうのき:僕にはその感覚はけっこうあります。

篠崎:僕はとても多数決に弱いんです。

ははっ! マイノリティなんですね。

篠崎:いつも負けるので、「本当に俺は間違っているのか?」っていうことをずーっと幼少の頃から感じてきたんですよね。そういう気持ちや会話の流れから(禁断の多数決というバンド名が)生まれた部分はあるのかもしれないですね。鍋のときとかに(笑)。

あはは!

ほうのき:しょっちゅう飲んでたんです。政治を語る友だちでした(笑)。あの頃なんであんなに政治の話が好きだったんだろう?

篠崎:転換期というか、ちょうど自民党が崩れていく時期だったりしたからね。

民主党政権が成立してからむしろ興味が引いていったみたいな。

ほうのき:そうかもしれないですね。

篠崎:こんなもんかという。

そして、フェイクな国の旅をはじめた(笑)?

ほうのき:ははは、そうかも! まとまった!

まとめるのも暴力ですけどね!  でも、とっ散らかっているようで芯があるバンドだというのはとてもよくわかりますよ。

ほうのき:醸し出しているつもりはないんですけどね。

しかし、多数決で必ず少数派になっちゃう人っていうのはおもしろいですね。禁断の場合、それが恨み節になってないじゃないですか。

篠崎:恨み節ですか。

そう、マイノリティが逆襲してやるぞって感じにはならないですよね。

篠崎:それはないですね。いじけるだけみたいな(笑)。

ほうのき:ルサンチマンがない。

篠崎:溜め込んだりしないですね。

それで必要以上に皮肉屋になったりとか。それも立派な表現のモチヴェーションなんですけどね。

ほうのき:わかります、わかります。

篠崎:僕らは決してマイノリティのほうが正しいっていうふうに思っているわけではないんですよね。

ほうのき:一見バンド名とは違っちゃうんですけど。

よくわかります。そこが禁断のねじれたところというか、素直なところというか。

日本脱出

ワールドカップとか、日本を応援しますね。めっちゃ応援して、負けると悔しいんですけど、これがナショナリズムかっていうとそういうものだとは思えない。

ほうのき:ある有名な音楽家の発言なんですけど、日本はもう脱出するしかないって。うまく説明できないけど、逃げるってポジティヴなことかもしれないとも思ったりもするんです。

へえー、そうなんですね! いま「逃げる発言」には勇気がいりますけどね。

ほうのき:逃げてるだけといえば、そうなんですけど、逃げてるわけでもないというか……。

わかります。日本に内在すること――tofubeatsさんのインタヴューがとてもよかったんですけど、彼には日本とかJポップ市場の内側からルールや仕組みを変えていってやろうというモチヴェーションを感じるんです。それに対して禁断はどこか外側にいるかもしれませんね。外在的というか。

ほうのき:ワールドカップとか、日本を応援しますね。めっちゃ応援して、負けると悔しいんですけど、これがナショナリズムかっていうとそういうものだとは思えない。もちろん土地とかに感謝の気持ちはあるんですけど。だからその音楽家の日本脱出っていうのは、何かとても重たい言葉だと感じるんです。うまく言えないですけど。

篠崎:曲に国の名前がよく出てくるっていうこととつながりがあると思いますけどね。日本というものにこだわっているわけではないということは、歌詞を見てもわかるはずだと思うので……。バックパッカーになりたいわけだしね。

曲には「おわら」からチンドン屋までフィーチャーしてますよね。それをひとつのトライバリズムだととらえれば、一時期のブルックリンにも似ているというか。日本の中だけど、日本の中の異次元、別の場所に向かう感じ。

ほうのき:ああー。あと、ベイルート好きなんです。ベイルートを日本でやるとしたらチンドン屋かなと思って。日本の文化を大切にしたいっていうのは常に念頭にあります。

郷土や歴史や神々みたいなものへの愛はあるわけですよね。じゃあ、今度は禁断の多数決のオカルト思想について訊いてみましょうか!

ほうのき:オカルト(笑)。ええ!?

篠崎:……宇宙とかなら(笑)。

ほうのき:でも、呪術とか、あるといえばあります。僕、ロッジを持ちたいんですよ。で、ホワイト・ロッジとかブルー・ロッジとかブラック・ロッジとか名前をつけて、そこで呪術をやりたいですね。

尾苗:ははは。

ほうのき:ロッジで、何か焚いて……

篠崎:何かキタ! みたいな(笑)。

ほうのき:「よしよし、曲にしよう」(笑)。

篠崎:「これこそが曲だ」(笑)。

まさに『キャンプファイア・ソング』じゃないですか。それがクラブとかじゃなくて、パーソナルな感じで営まれているというのもおもしろいですよ。さて、最近はどんなふうに音楽を聴いていますか?

篠崎:iTunesとかが便利なので、シャッフルして流しちゃってたりはするんですが、ちょっと久々にレコード聴こうと思ってかけていると音が全然ちがいますね。太いです。MP3の音に慣れすぎてて、忘れていました。なので最近はレコードをまた探すようになりました。

ほうのき:変なのばっかり買ってるね。レジェンダリー・スターダスト・カウボーイだっけ?とか。

どのへんで買ってるんですか?

篠崎:大きいところは(ディスク・)ユニオンとかしかないじゃないですか。あとはリサイクル・ショップにダンボールで置いてあるようなやつとか。そこでソノシートとかを買ってみたり、『(がんばれ!!)ロボコン』のお話レコードとか。ロボコンの考えているときの音がすごくいいというか……「ロボコン、いまから考えるねー」みたいなときにポコポコポコーって鳴っている音がかっこよかったりするんですよね。

ほうのき:あ、篠崎さんはアニコレでいうジオロジスト担当なんですよ。変な音は基本的に篠崎さん。

なるほど!  ネットでも変なものはいっぱい集められそうですが、何かフィジカルを探すこととのあいだに差があったりしますか?

篠崎:ありますね、やっぱり。過程があるかどうか、ということですかね。ゴミの山のなかから一枚見つけるときの喜び。

ネットも、まあ、ゴミの山から探す作業ではあるわけですが。

篠崎:思い入れは違ってくるかな、と思います。わざわざ電車に乗って、何もないかもしれないけど行く。そうすると聴き方も違ってくるような気がしますし。……ちょっとかっこつけて言ってしまったかもしれないですけど。

ほうのき:僕も、たとえばヴェイパーウェイヴとミューザックの違いについて考えてみたいですね。そこにいまの質問の答えになるものがあるような気もします。

The Field - ele-king

 白よりも黒、光よりも陰、そしてイエスよりもノー……。ザ・フィールドの新作である。
 これまで白(正確にはクリーム色だが)を貫いてきたアルバム・ジャケットを真っ黒にする。ただそれだけのことで何か劇的な変化を期待させること自体が、彼、アクセル・ウィルナーのはじめのプレゼンテーションである。そうして乗せられたリスナーはしかし、多くのひとが僕と同じように、アルバム1曲めの“ゼイ・ウォント・シー・ミー”を聴いてこう思うだろう……「えっ同じやん」。ビートは4つを打ち、シンセのフレーズが繰り返され、そこにシューゲイジングな味つけがされ、じょじょに、じょじょに楽曲に熱が帯びていく。幕開けとしてはもちろん最高にスリリングだが、しかし、これは紛れもなくこれまでもわたしたちが馴染んできたザ・フィールドである。いったい「劇的な変化」はどこに? と怪訝なまま、2曲め“ブラック・シー(黒海)”へ。ここでもまたビートは4つを刻み、シンセのフレーズが繰り返され、そこにシューゲイジングな味つけがされ、じょじょに、じょじょに楽曲が熱を帯びていく……これも、ザ・フィールドである。が、トラックが7分に差し掛かるころである。ビートが微妙に乱れ、それまでと別の不穏なリフが底のほうから静かに立ち上がってくる。ハットは16を刻み、吐息のサンプルが左右から飛んでくる。気がつけば、曲が始まった瞬間とはまったく異なる、ダークなダンス・トラックがそこに出現している……ここでようやくこう思うのだ。「こんなザ・フィールドは聴いたことがない」。つまりこういうことだ……ザ・フィールドの新作『キューピッズ・ヘッズ』のスタイルは、これまでと何も変わらない。が、同時に、「これまでと全然違う」。ここで、1曲めのタイトルの巧みさに気がつくのである……「やつらは俺がわからない」。

 これはアクセル・ウィルナーによる、「変化」に対する繊細なコメンタリーのようであり、ある種の批評的態度であるように思える。たとえばこんなインタヴューを、あなたは読んだことがないだろうか。Q:新作は前作とかなり印象が異なりますが、これはどういう理由によるものなのでしょうか? A:前作と同じことはやりたくなかったんだ。僕はほら、飽きっぽい性格だから、同じことは繰り返したくないんだよね。毎回違うことをやることが僕の挑戦なんだよ…………とか何とか。そしてこうしたものを読むたびに、「それが「同じこと」なんだよ」とつっこみたくはならないだろうか。わたしたちはそんなありきたりの、お決まりの「変化」を、日常的にじつにたくさん消化している。ザ・フィールドはそんなクリシェを周到に避けるようにして、じっくりと作品に向き合った人間にだけ届くような変身をここで見せているのだ。
 前作『ルーピング・ステイト・オブ・マインド(ループする精神状態)』はタイトルにもあるように、自らの音楽スタイルに自己言及するようなアルバムであった。そういう意味で、彼は自分の様式というものにつねに自覚的で、それを対象化し続けている。このアルバム全体で行っている繊細な変化とはそもそも、これまでの楽曲のなかで彼がつねに取り組んできたことでもあるだろう。同じフレーズをひたすら繰り返しながら、しかし何か決定的な違いを混ぜ込んでいくこと……。セカンド・アルバムのタイトル、『イエスタデイ&トゥデイ(昨日と今日)』はまさしく、そんな「わずかな、しかし決定的な違い」に言及するものであったろう。新作に戻れば、タイトル・トラック“キューピッズ・ヘッド”にしても、“ア・ガイデッド・ツアー”にしても大筋は変わらないが、ファースト『フロム・ヒア・ウィ・ゴー・サブライム(ここからわたしたちは絶頂へ)』でザ・フィールドの徴であり人気を集めた要素であった、高揚によるカタルシスは徹底して避けている。そして、本作でもっともチャレンジングなトラックが続く“ノー、ノー...”である。「ノーノーノーノーノーノー」というヴォイス・サンプルが乱れ飛び、ビートも乱れ、しかしあくまで構造としてはループしている。トラック中盤、奇妙に拍を刻みながら気分がずぶずぶと沈んでいくような展開は、間違いなくこれまでのザ・フィールドにはなかったものであり、また他でもなかなかお目にかかれないものだ。クロージング・トラックの“20セカンズ・オブ・アフェクション”の頃には、エクスタシーを迎えないまま酩酊し続けるザ・フィールドの新たな快楽に耳と身体が馴染んでいることに気づく。〈タイニー・ミックス・テープス〉がスタイルを「good sex」とする妙なレヴューを書いてしまうのも頷ける。

 前作のレヴューで僕は「反復が持つ可能性のより奥へと分け入ることに成功している」と書いたが、ウィルナーはなかば求道的にさらにその奥にここで進もうとしている。もはや、これは茶道とか華道とかで言う「道」に近い領域に突入しているようにすら思えるがしかし、これはあくまでダンスも含んだ快楽のあり方のひとつである。その、さらなる複雑な領域をフレーズの繰り返しとともにウィルナーは探り当てようとしている。ノーノーノーノーノーノーノーノーノー……

DJ Yogurt (Upset Recordings) - ele-king

DJ Schedule
11/22(Fri.)@中野・Heavy Sick Zero
11/24(Sun.)@新木場・Studio Coast(Rovo and System7 Live/Opening DJを午後4時から)
11/30(Fri.)@三軒茶屋・Cocoon
12/4(Wed.)@渋谷・En-Sof
12/7(Fri.)@新宿・Be-Wave(19時-24時開催)
12/13(Fri.)@代官山・Unit
12/19(Thu.)@笹塚ボウル(りんご音楽祭・忘年会。19時-23時開催)
12/20(Fri.)@渋谷・Sundaland Cafe(19時-24時開催)
12/26(Thu.)@原宿/千駄ヶ谷・Bonobo
12/29(Sun.)@代官山・Unit
1/10(Fri.)@神戸
1/11(Sat.)@大阪
1/12(Sun.)@京都
1/18(Sat.)@高円寺・CAVE

HP : https://www.djyogurt.com/
Twitter : https://twitter.com/YOGURTFROMUPSET
Facebook : https://www.facebook.com/djyogurtofficial

2013年11月4日、5日の二日連続で恵比寿Liquid Roomで開催されたElectronic Music Of Art Festival Tokyo・・・
略してEMAF TOKYO 2013で自分はオープニングで50分間DJした後、その後のlive actが交代する間の「転換タイム」にもDJして、結局夕方4時から夜10時の間に計6回のDJをやりました。
このイベントはその名のとおり、基本的には電子音楽が流れ続けるイベントで、自分もこのイベント出演の為に選曲を色々と考えて、普段の週末のクラブプレイとは一味違う、「4つ打ち以外の曲だけをDJプレイする」コンセプトでDJしました。
これが自分でも新鮮で、一部のお客さん達の間でも好評だったので、当日に実際にかけた曲の中から、かけた順に10曲選んでコメント付きで公開します。
読みながら、音を聴いてもらって、当日の雰囲気が少しでも伝わったら・・・!


1
Synkro - Disappear - Apollo
お客さんが少しずつダンスフロアに来始めたPM4時半頃にPlay。
2013年に12inch2枚組"Acceptance EP"の1枚目B-1としてReleaseされた、Acoustic GuitarとElectricな音をセンス良く融合させた曲で、打ち込みだけどオーガニックな雰囲気も感じさせて、メロウなところもある曲。
R&S傘下のAmbient/Electronic Label、Apolloのここ数年のReleaseは気になる曲、興味深い曲が多い印象があり、自分にとって、Releaseする曲はなるべく一度は聴いてみたいLabelのひとつ。
https://youtu.be/-IvMw2DqP1Q

2
Lord Of The Isles - Nustron - Little Strong
2013年Release、"Galaxy Near You Part1"12inchのB-2に収録の"Nustron"は、前半は美しいAmbient、中盤にGroove感が強まって踊れそうなリズムに変化しながらも、後半は再びAmbientに戻る構成も面白く、この日は早い時間からお客さんが来つつあったので、フロアがやや賑やかになってきた時間にAmbientとAmbientの間に挟んで、ちょっと刺激を加える感じでPlay。
https://youtu.be/7BjLQovXkdY

3
Bola - Glink - SKAM
Autechre に作曲方法を教えたとも伝えられているDARRELL FITTONのユニット=Bolaが、Autechreと関係の深いマンチェスターのレーベルSKAMから1998年にReleaseした1stアルバム"Soup"の1曲目。自分はこの曲は90's electronicaを代表する名曲の一つと思ってて、Bolaの曲の中で一番好きな曲でもあったり。
https://youtu.be/pbtfx0h4pnc

4
Four Tet - Sun Drums And Gamelan - Domino
2005年にU.K.の人気レーベルの一つDominoからReleaseされた12inchのB-2に収録。
強烈にFunkyなDrum BreakbeatsのGroove上を、ガムランや笛等がミニマルに響く、ワールドミュージックとクラブミュージックの融合が産んだ傑作。
EMAF初日は自分の2度目のDJ時に既にダンスフロアがほぼ満員で、フロアのテンションが予想していたよりも高い印象を受け、Aoki TakamasaさんのliveもかなりDance Grooveを打ち出したliveになるのでは、と考えて、早い時間からテンションを上げていきました。
https://youtu.be/P7VuxbQB8bw

5
2562 - Intermission - When In Doubt
2011 年に12inch2枚組"Fever"の1枚目B-1に収録。PM4時に自分のDJで始まったEMAF2013も、3度目のDJを始める頃にはPM6時半 に。このあたりでDanceを念頭に置いた選曲でDJを始め、Aoki Takamasaさんのlive後、自分のDJ一発目にこの2562のDub Stepを。
https://youtu.be/aC2BzXUi1Ic

6
Beaumont - Rendez-Vous - Hot Flush Recordings
2012年にReleaseされたPost Dub Step良作。
MellowでJazzyな感覚も漂いつつ、リズムはDub Stepを通過した鋭さを感じさせるGrooveが心地良い。
自分にとっては多くのDub Stepがあまりにもメロデイーを軽視している気が多少していたので、この曲のようなメロディーが美しいDub Stepは待ってました、という感じ。
Hot Flushは他にもメロウな感覚が漂うPost?Dub StepをReleaseしていて、この数年すっかり注目のレーベルに。World's End Girlfriendのlive前、4度目のDJではDub Step~Post Dub Step多めな選曲でDJ。
https://youtu.be/qTn76STVKgQ

7
Throwing Snow - Clamor - Snowfall Records
1分22秒以後のメロデイーとリズムの絡みが生み出す高揚感がとてもカッコよく、2分36秒以後にはバイオリンのメロディーもミニマルに入ってきて、フツーのDub Stepとは二味違う豊穣な音楽性を感じさせるPost Dub Stepの良曲。
https://youtu.be/OAvbyO5q-hs

8
Lapalux - Close Call / Chop Cuts - Brainfeeder
World's End Girlfriendのlive直前に自分がDJ Playしたのがこの曲。
Ninja Tuneのサブレーベルから2012年冬に出た12inch"Some Other Time"のB-2に収録。
これが最新型の歌ものPOPSの理想形と思ったりすることもあるほど好きな、一応「歌もの」曲。エフェクトの使い方が強烈。
https://youtu.be/NIiRPmNmSLg

9
Divine Styler - Directrix(Indopepsychics Remix) - Mo'Wax
EMAF2013を主催したPROGRESSIVE FOrM主宰のnikさんは、以前にはDJ KENSEIさん、D.O.I.さんと3人で"Indopepsychics"という音楽制作ユニットを組んでいて、この2000年作は彼らがノリに乗っていた頃の傑作Remix。
自分がDJ光君と出会った2003年~2004年頃に、光君がよくDJ Playしていた「光クラシック」の1曲。2013年に聴いてもカッコいいと思う。
https://youtu.be/nkJIKH1GW7Y

10
Hauschka - PING(Vainqueur Remix) - Fat Cat
いよいよ大トリのCarsten Nicolai(Alva Noto)のlive直前、自分の6度目のDJの最後にかけたのが、Fat Catから2012年にReleaseされた12inchのAA面に収録の、Dubby Abstruct Electronic Grooveの傑作。
Basic Channelフォロワーの中で一番Basic Channelの感覚を理解しているんじゃないかと思う事もある、Vainquerの最近作をLiquid Roomのメインフロアで爆音で鳴らして、Carstein Nicolaiの登場へ・・・
https://youtu.be/YP7LclEsMWs

Hair Stylistics - ele-king

 ヘア・スタイリスティックス=中原昌也のビート集、ビート・ミュージックだ。僕はこの27曲65分にも及ぶ、ビート集を聴いて、心の底から愉快な気持ちになった。発売から2ヵ月以上経つが、いまだによく聴いている。いま、日本でもビートメイカーのレヴェルはぐんぐん上がっていて、彼らは海外のムーヴメントのフォロワーとは異なるオリジナリティを獲得している(という物言いそのものが古臭い!)。コンピレーションとしてまとまっている、『Lazy Replay』や『Sunrise Choir - Japan Rap&Beat』は、日本のビートメイカーのいまを知るためのひとつの参考になるだろう。とはいうものの、良し悪しの問題ではなく、やはりLAのビート・ミュージックや、SoundCloudやbandcampにおける世界的なモードは大きな影響力があり、日本のビートメイカーの多くもその時代の空気のなかにいる。
 ヘア・スタイリスティックスのビート・ミュージックからはそのような空気と同じ匂いがするが、それは中原昌也が90年代の暴力温泉芸者の頃からずーっとやってきたことがたまたまいまの時代の空気にフィットしただけだとも言える。おそらく、このビート集がもう5年早くリリースされていたら、中原昌也のコアなリスナーには届いたとしても、鎮座ドープネスをフィーチャーした曲(“This Neon World Is No Future”)が収録されるには至らなかったのではないだろうか。3年前から制作がはじまったというこの作品が、2013年に世に出たというのは素晴らしいタイミングだ。いや、タイミングではなく、『Dynamic Hate』が素晴らしいのだ。

 好き嫌いといった趣味はあるにせよ、多くのビートメイカーやビート・ミュージック・フリークは、この作品を聴いて考え込むのではないだろうか。「いま“新しい”と言われているビート・ミュージックが果たして本当に“新しい”のか」と。『Dynamic Hate』は、“ビート・ミュージック”という既存の土俵に揺さぶりをかけるビート・ミュージック集だ。中原昌也自身はそんな大それたことを意図していないだろうが、そのような問題提起を孕んだ作品でもある。例えば、アルカの『&&&&&』はたしかに面白いと思うし、いまの時代に支持される理由もわかる。ただ、インターネットの大海原には、アルカに匹敵する才能はゴロゴロ転がっている。僕なんかよりも、SoundCloudやbandcampで日夜ビート・ミュージックをディグっているビート・フリークの諸氏がそのことをよく知っているだろう。カニエ・ウェストが『イーザス』で大抜擢しなければ、アルカがこれほど脚光を浴びることはなかっただろうし、もっと言えば、アルカの分裂的な手法は子供騙しと表裏一体でもある。

 中原昌也は、紙版『ele-king vol.11』のインタヴュー「いよいよ脈打つヘイト」で、「ビート=黒人のものっていう図式もなくなってきたじゃないですか。黒人だからいいビートをつくれるわけじゃない。そういった状況は後押しするものがあったかもしれない」と語っている。さらに、「昔はブギ・ダウン・プロダクションズとマイナーなノイズをいっしょに買うと気ちがい呼ばわりされたものです。僕の頭のなかで常に共存はしていましたけど、そういうことを共有できる友だちはいなかったですよね」とも言う。興味深い発言だ。ラス・Gの『Back On The Planet』の土臭くコズミックなビート、アートワークに接すると、やはりいまだアフロ・アメリカンの音楽家には、拠り所にすることのできるルーツや、アフロ・フューチャリズムのような思想が脈打っているのだなと思う。 “ビート=黒人”という図式があったのかは議論を差し挟む余地があると思うけれど、ビートをグルーヴと言い換えれば、たしかに“グルーヴ=黒人”という図式はあったと思うし、いまだに根強く存在すると思う。

 僕が『Dynamic Hate』を面白いと思った最大の理由は、いち音いち音の音色のヴァラエティとコンビネーションが耳を楽しませてくれるところにある。耳のチャンネルが面白いように次々に切り替わっていくのだ。資料に拠れば、本作は「Ensoniq SP1200、AKAI MPC3000などのサンプラー、ROLAND TR-808などのリズムマシン、ARP2600などのシンセサイザーなど、数々のヴィンテージ・アナログ機材を使っ」て制作し、カセットデッキに録音しDATに起こしたというから、その音色は想像できるだろう。
 一応断っておくと、僕はなにもローファイなサウンドに拘ることが、音への誠実な態度であると言いたいわけではない。グルーヴィーなビートもあれば、グルーヴをあえて否定しているようなビートもある。それが不思議で、興味深くて、何度も聴いてしまう。中原昌也流の諧謔精神ももちろんあるが、そのような態度よりも、とにかくビートのユニークさに耳がぐいぐい惹きつけられる。そして、中原昌也流の分裂的な手法もある。というか、『Dynamic Hate』を聴けば、先ほどのブギ・ダウン・プロダクションとノイズの話ではないが、それが実は分裂でもなんでもなかったことがわかるし、僕自身もいまだからこそその感覚を実感できる。10年前は頭では理解しているつもりでも、実感としてそのことがわからなかった。マントロニクス流のエレクトロ・ファンクとウェルドン・アーヴィンのジャズ・ファンクの名曲“We Getting` Down”をミックスしたような“Empire of Plesure”があり、“No Funk (Tk1)”というタイトルなのに、ベースとキーボートがシンコペーションしているファンキーなビートがある。エキゾ・ブレイクビーツとでも言いたくなる“Music For The Murder Festa”と、シンセサイザーがうなりを上げ、ノイズを撒き散らし、シンプルなビートがズンドコ叩きつけられるタイトル曲からは、中原昌也の気合いと激情が溢れ出しているように思う。手を叩いて大笑いしながらでも、難しい顔をして議論しながらでも聴ける作品だが、いまビート・ミュージックを追っているのであれば、無視できない作品だ。

 アイスランドは、ビョークやシガー・ロスの出身地というぼんやりしたイメージしかなかったのだが、行った人誰に聞いても「最高!」と言われる。毎年10月末から11月にかけて首都レイキャヴィックでおこなわれる、新しい音楽の祭典、アイスランド・エアウェイヴスに初参加した。
 今年は10/31~11/3。過去には、シンズ、ラプチャー、TV・オン・ザ・レィディオ、ファットボーイ・スリム、クラクソンズなど、ヨーロッパやアメリカからバンドが参加している。
 NYからは約6時間。時差も5時間なので、西海岸に行くのと変わらない。15年前に初めてSXSWに行ったときと同じような新鮮な感情が生また。

 エアウェイヴスは、著者が知っているCMJやSXSWなどのアメリカのフェスティヴァルと違い、質が格段に良い。家族経営な感じが好印象で、まだ世の中に知られていない新しいバンドをいろんな所で発見できる。
 飛行機はアイスランド・エアを利用したのだが、音楽プレイリストに「エアウェイヴス」があり、スケジュールのフライヤーがもれなく乗客に配られる。パーティへのお誘いも、「どう、エアウェイヴス楽しんでる?」などの10年来の友達相手のような気さくな招待状。現地の人に聞くと、この期間は特別で、これでもか、というぐらいショーを見て、浴びるほどお酒を飲むらしい。
 空港に朝の6時に着き、水が飲みたいと思ったら、水の隣に普通にビールが売られ、周りを見ると、待っている人もビールを飲んでいる。エアウェイヴスが終わった次の日、レコード店に人を訪ねて行くと、「彼は今日飲み過ぎでお休み」と言われた。エアウェイヴス休暇は公認なのか?

 「朝の4時、5つのクラブに行き、10の良いバンドを見て、15人の新しい友だちを作り、20回恋に落ちた。自分は疲れ、おかしくなってる。家に帰るつもりが、アフターパーティを探してる。ここにいることが信じられないし、すでに来年また来る計画をしている。今日はまだフェスの一日目だというのに」(https://icelandairwaves.is/about/
 というエアウェイヴスの文句がそのまま当てはまる。マジックとしか思いようがない。
 レイキャビックという町は、NYのウィリアムスバーグぐらいの大きさしかなく、どこでも徒歩30分以内で歩け、フェスティヴァルにはもってこいの町である。イギリスの標準時を使い、人口は約32万人でその1/3がレイキャヴィックに住んでいるという。自然がとても美しく、着いた日に、山がピンク色に染まっていたり、寒そうな山肌を見たとき、新しい土地を意識した。

 まずはハーパというハブになっている会場でリストバンドをピックアップ。リストバンドと一緒にもらえるギフトバッグのなかには、ブルーラグーンのスキンケアグッズ、66northのニットキャップ、gullビール、reykaウォッカ、アイスランディック・チョコレート、オパル・キャンディなどのアイスランドの代表グッズが入っている。これだけでも十分アイスランド気分。

 エアウェイヴスは、公式のショーでなく「オフヴェニュー」と呼ばれる場所でのショーが昼間からあり(これだけでも十分好きなバンドが見れる)、この5日間は朝から晩まで、バンドは5~10のショーをし、DJともなると1時間おきに違う会場でプレイする強者もいた。
 シアトルのカレッジラジオKEXPはCMJやSXSW、スペインのプリマベラなどで、いつも良いメンツを集めてパーティをするので、今回もたくさん行ったが、ラインナップは地元アイスランド・バンドも含め極上だった。まったく違う会場で偶然発見したバンド、Kithkin(シアトル出身)も、後からKEXP関連だったこともわかる。

 エアウエイヴスは、時間厳守だ。時間になると、きっちり次のアクトがはじまるし、演奏時間も大体20~30分ぐらい。次のバンドまでも余裕があるので、セットチェンジの間にもうひとつ別のショー行って帰って来れる。会場がそれぞれ近いのもよい。

 以下ずらーっとレポート。カタカナ表記に直せない会場はそのままアルファベットで残し、バンドの後に表記のない物は地元のアイスランド・バンド。

11/1(fri)
5:30 pm
サマリス(Samaris)
@アイスランドエア@スリップバリン(icelandair at slippbarinn)

 最初に行った会場はスリップバリン。夕方5時だというのに外にラインが出来、ようやく入るも身動きが取れない。入口でウエルカムシャンパンを頂きステージ前へ。
 サマリスは、クラリネット(女)、ヴォーカル(女)、エレクトロニクス(男)という変わった編成。ダウンテンポ・エレクトロニカと大胆なパーカッションビートを取り入れ、ビョークのような深く唸るようなヴォーカルが乗る。その結果、古代的で現代的、非現実なサウンドにダークでエイリアンな雰囲気を醸し出す。時差ぼけも吹き飛び、ステージ前でかぶり付きで見た。ヴォーカルのJófríðurは、パスカル・ピモンというバンドを双子の妹と組んでいて、こちらはアイスランドのオルヴォワール・シモーヌという感じ。
https://icelandairwaves.is/artists/samaris/

6:00 pm
ハーミゲルヴィル(Hermigervill)
@アイスランドエア@スリップバリン(icelandair at slippbarinn)

 一緒に行った友だちが「この次のアクトもいいよ」というので残ることにする。アイスランド・エアの機内で配られたスケジュールのカヴァー/エアーウェイヴのWEB表紙の男の子、ハーミゲルヴィル。
 「ハイ、マイフレンド!」とテルミンを演奏しはじめ、そのままユニークなライブ・エレクトロサウンドへ。彼の前にずらーっと並んだ、エレクトロニカ機材を器用に操り、会場で一番楽しそうに踊っているのが彼。最高のダンスフロア! まだ6時! 聞くと彼もバーンドセンレトロ・ステフソンなどのアイスランドの著名バンドにも参加している。アイスランド、すでにヤバい。
https://icelandairwaves.is/artists/hermigervill/

8:00 pm
ムーム(Múm)
@Fríkirkjan

 教会でムームのショーがあると聞いて、行ってみると人数制限で入れない。教会の前には人だかり。周りをうろうろしてみると、ガラス張りの窓から少し中が見える。同じことをしている人と「見たいよね~」と話しながら、ステージのすぐ横の窓から覗くと、グランドピアノやアップタイトベースが見え、音も聞こえるので、ナイス! と思ったが、寒すぎて10分で退散。アイスランドでビョークと同じぐらい名前が知られている彼らは、エレクトロニック・グリッチ・ビートとエフェクト、伝統的、非伝統的な楽器を特徴とし、厳かな場所でのショーが似合うバンドだ。
https://icelandairwaves.is/artists/mum/

8:50 pm
ロウ・ロアー(Low roar, アイスランド/アメリカ)
@イドノ(Iðnó)

 ブルックリンの知り合いミュージシャンから紹介してもらったバンド。かなり大きな会場で、前に行くのに苦労するが、3人のミュージシャンが誰も手を付けないジャンルを開拓する。エレクトロポップ、美しいフォークソングのシンプルな定番アレンジに、ミニマルトーンやドローンにポストパンク要素を混ぜ合わせた、新古が出会うアイディア。
https://icelandairwaves.is/artists/low-roar-isus/

11:00 pm
オマー・ソウレイマン (Omar Souleyman, シリア)
@ハーパ・シルファバーグ(Harpa Silfurberg)

 シリアの伝説、オマーさん。CMJでも見逃したので、今回は是非見たかった。1994年にデビューし、最近まで海外では知られていなかった彼だが、すでに500以上のスタジオ・レコーディングとライヴ・カセット・アルバムがあリ、いまではボナルー、サマーステージ、グラストンベリー、ATPなどのフェスティヴァルの常連。定番のアラビック・ヴォーカル・スタイルとエレクトロをミックスし、世界中の人たちを踊らせている。ハーパ(会場)で一番列が出来ていたのも彼。アイスランドでタンクトップになれたのも、ここの観客のノリの良さが桁違いだからか。
https://icelandairwaves.is/artists/omar-souleyman-sy/

11:30 pm
ゴート(Goat, スウェーデン)
@ハーパ・ノルデュロス(Harpa Norðurljós)

 ハーパの隣の部屋へ移動し、スウェーデンの覆面バンドを見る。これも今年5月にプリマベラに行った友達から絶対見たほうが良い、とお墨付きを頂いていた。スウェーデンのコーポロンボロと言われる村出身で住民がブーズー教信者である。全員覆面で、クリスチャン服装で、目に痛いほどカラフルで、ステージプレゼンス、すべてすごいが、演奏のうまさと、フロントの女の子2人の、何か(ブーズー教呪い?)に取り付かれたようなダンスで、崇拝精神さえ芽生える。
https://icelandairwaves.is/artists/goat-se/


11/2 (sat)

4:00 pm
キスィキン (Kithkin, アメリカ)
@ヘルマー・スクエア(Hlemmur Square)

 たまたま、通りかかった会場で発見したバンドはシアトル出身。ハイパーなリズミック・シンセとトライバル・ドラム、カオティック・ギターに、前に前に出るシャウト・ヴォーカル。ベースとドラマーが一緒にスティックを持って、叩き合うパフォーマンスは、インテンスでエネルギッシュ。ベーシストはスピーカーの上に乗って飛び降りたりした。
https://icelandairwaves.is/artists/kithkin-us/

4:00 pm
シーシーアイ(Sisy ey)
@ ジョア(jor)
 と呼ばれる、3人女子はアン・ヴォーグのようなディスコ・エレクトロ・ヴォーカル・グループ。通りかかった洋服屋で、ウィスキーショットが振る舞われ、子供も一緒に踊っている。女性3人女子とDJ。彼女たちの美しい声と新しいジャンルをミックスし、世界でひとつしかない面白い才能を開拓している。アイスランドの女の子は、みんな声が深くて芯がしっかりしている。ビョークみたいなユニークな歌手は、ここには多数いるのだろう。
https://icelandairwaves.is/artists/sisy-ey/

5:00 pm
サミュエル・ジョン・サミェルソン・ビッグバンド(Samúel jón Samúelsson Big Band)
@ラッキーレコーズ(Lucky Records)

 KEXにムームを見に行ったのだが、多すぎて入れず。そのまま待つのもなんなので、近所のラッキー・レコーズに行くと、ちょうど彼らがプレイしていた。レイキャヴィックのアフロファンク・バンド、14人は、みんな思い思いの派手衣装(メインガイは、黄色と緑と青の幾何学模様)で、狭いレコード屋を占領(何せ大人14人!)。トニー・アレン、ジミ・テナーなど、国際的アーティストとコラボレートしている彼らのショーは、ホーンがメインでおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさ。子供が一番喜んでたかな?
https://icelandairwaves.is/artists/samuel-jon-samuelsson-big-band/

6:30 pm
ロックロ(Rökkurró)
@KEX

 ムームは見れずだったが、1時間後に戻ってくると、KEXPがロックロを紹介しているところ。5年間このエアウェイヴスを中継し、たくさんの素晴らしいバンドに出演してもらえて嬉しいと。ヴォーカルのクリスティンはティアラをつけ、キーボードの女の子はガイコツの手を自分の手に付けちょっとハロウィン気分。メランコリックなセレナーデは、自国の寒く荒廃した景観を奮起させるが、壊れやすく滑らかなヴォーカルでユニークな暖かみも浸透させる。ムームやオラファー・アーナルド(見逃した!)ともツアーをともにし、2枚目のアルバムは日本盤もリリースされている。
https://icelandairwaves.is/artists/rokkurro/

7:10pm
キラ・キラ(Kira Kira)
@ハーパ・カルダロン(Harpa Kaldalón)

 おさげの女の子クリスティンがキラキラ。遊び心あるビーツやエクスペリメンタル・ポップが、ダーティ・メロディや、雷のようなベースラインを作る。彼女は、エレクトロ音楽やアートのエクスペリメンタル集団/レーベル、キッチン・モータースの設立メンバーでもある。今回のライヴは彼女と3人の男の子編成。トランペッター2人とトロンボーン。ドローンなエレクトロニックスとホーン隊の音は、サウンドトラックのようで、心地の良い映画館のようなソファーと会場の暖かさで夢の中へ。
https://icelandairwaves.is/artists/kira-kira/

8:00 pm
ユリア(Ylja)
@ハーパ・カルダロン(Harpa Kaldalón)

 アイスランドのジプシー・バンド? 女の子2人がアコースティックギターとヴォーカル。つま弾きギターにハーモニーの綺麗な子守唄が合わさり心地よすぎ。この会場は眠りたい人にもってこい。ギターの男の子は、英語が出来なくてごめんと謝り倒してたが、飛行機の中でも聞いたのを覚えていた。耳に優しいバンドで、エアウエイヴスは、良い物はどんなジャンルでもカヴァーしている、とまたひとつ勉強。
https://icelandairwaves.is/artists/ylja/

9:00 pm
マック・デマルコ (Mac Damrco, カナダ)
@ハーパ・シルフバーグ(Harpa Silfurberg)

 最近のキャプチャード・トラックスの5イヤーズ・フェスティヴァルにも出演していた、すきっ歯がかわいいカナダ出身の22歳。個人的には、エアウエイヴスで見たかったバンドの上位。彼のキャラが最高で、ヴィデオもCDもすぐに虜になる。ユリアが終わって会場がすぐ上なので移動が便利。歌いすぎて、声がガラガラしていたが、最上のロックンロールで、客とのコール・アンド・レスポンスも最高!最後には「サーフィンしていい?」と丁寧に断った上、ガツンと客にダイブ。ベースとギタリストのコミカルなぼけ突っ込みも受ける。
https://icelandairwaves.is/artists/mac-demarco-ca/

11:00 pm
ゴールドパンダ(Gold Panda,UK)
@レイキャヴィック・アート・ミュージアム(Reykjavik art museum)

 ゴールド・パンダ、たったひとりの男の子がこんなにも多くの人を踊らせるのは凄い。宇宙、サイケデリック、インド・テイストな映像も合わさり、ステージに彼がいるだけで、何か惹きつけるものがたしかにある。ブロック・パーティ、サミアン・モービル・ディスコなどからリミックスのリクエストが来るなど、国際的に活躍するエレクトロ・アーティスト。オマーさんの次に、一番長く列に並んだ(外だったので寒かった!)アーティスト。この時に、ビョークが後ろを歩いていくのを見る。地元なのだなと。
https://icelandairwaves.is/artists/gold-panda-uk/

0:10 am
サヴェージズ (savages, UK)
@レイキャヴィック・アート・ミュージアム(Reykjavik art museum)

 ここに入る時に、かなり列に並んだが、実はゴールド・パンダでなく、サヴェージズ狙いだったのかな。いままでで最前列に一番カメラマンが多く、後ろの人が見えないので、3~4曲後カメラ規制が入ったぐらい。CMJでも何でも彼女たちのハイプは凄い。エモーショナルなトラッシュ・ロックで、最後には客の上にダイブしたり、一番前の客の波にもまれながらそこに立って歌ってた。ワイルドで生々しく、顔をパンチされたような臨場感がある。
https://icelandairwaves.is/artists/savages-uk/

1:00 am
ゾラ・ジーザス(Zola Jesus,アメリカ)
@Gamla Bíó

 ドアの規制がとても厳しい会場で、水も持ち込めなかった。彼女もキャプチャード・トラックスからのお勧め。ファッション雑誌から出て来たような格好の彼女と、ヴァイオリン、ギター、ベース、ドラム。ロシアン・アメリカンシンガーのゾラ・ジーザスは声がとても深く地底の底まで響きそう(そして何かを呼びそう)。フィーバー・レイやエックス・エックスなどとツアーを共にしていると聞いて納得。ここも映画館のように椅子がありシート制。最後を締めるには、もってこいのパフォーマンスだった。
https://icelandairwaves.is/artists/zola-jesus-us/


11/3(sun)

4:00 pm
シャイニー・ダークリー(Shiny darkly, デンマーク)
@ラッキー・レコーズ (lucky records)

 またお気に入りのレコード屋に戻ってきた。デンマーク出身の22歳の男の子の4ピース。ニックケイヴやイアン・カーティスに影響を受けたダーク・ナルコティック・ロック。しかもルックスも良い。シアトルのKEXPやLAのKCRWなどが取り上げているのも納得。
https://icelandairwaves.is/artists/shiny-darkly-dk/

5:00 pm
キスィキン (Kithkin, アメリカ)
@ラッキー・レコーズ (lucky records)

 昨日偶然に見たシアトルのバンドが次だったので、そのまま居残る。昨日の方が印象は強かったが、すべてのセットが見れ、今回エアウエィブスで一番の収穫かもとニヤニヤする。ベースとドラム(立ちドラム)がヴォーカルで、このエネルギーはただ者ではない。

6:30 pm
ハーミゲルヴィル (Hermigervill)
@KEX

 一番最初に見たお気に入りDJをリピート。エアウエイヴスの顔だけあり、これぞアイスランドのDJ。「みんな、エアウエイヴス楽しんでる?僕はこれが最後のショーだよ」と客とのコミュニケートも最高。ラップトップでビートを作りながら、テルミンを操り、キーボードを弾き、一番忙しく、一番楽しそう。

11:00 pm
ティルバリー(Tilbury)
@ガンミリ・ガウクリン(Gamli Gaukurinn)

 一瞬ダウンしたが、またショーに戻ってくる。ドラマティックでダークでビタースイート、という文句のバンドなのだが、ラフなTシャツ、ボタンダウン姿、どこにでもいそうなお兄ちゃん5人組。60年代ギターと80年代のダークシンセと新しいエレクトロを足し、ディビット・リンチの映画に出てきそうな、と形容されるが、誇張しすぎかな。ショーの後、気さくにしゃべってくれた。
https://icelandairwaves.is/artists/tilbury/

0:00 am
モーセズ・ハイタワー(Moses hightower)
@ガンミリ・ガウクリン(Gamli Gaukurinn)

 エアウェイブス最後のバンドは地元のモーゼス・ハイタワー。大人な雰囲気を醸し出す70年代のブルー・アイド・ソウル。2008年に「レッツ・メイク・ベイビーズ」というシングルでアイスランド・リスナーの注意を引いたらしいが「みんなが親戚」というアイスランドなので、今回のフィナーレに相応しい。メンバー(ホーン隊)キャラかぶり過ぎで、ダン・ディーコンがメンバーに4人いるかと思った。
ショーが終わっても、もちろん誰も帰らない。そのままバー/DJパーティへと変わる。
https://icelandairwaves.is/artists/moses-hightower/

 他にもマムットマックなど、見たいバンドはたくさんあったがすべて見切れず、体がもう一体欲しかった。エアウェイヴスは、バンドを発見するだけでなく、レイキャビック、アイスランドの素晴らしさの発見でもあった。人が親切で、エアウェイヴスが終わった後にもうひとつライヴに行ったのだが、そこではシガーロスのメンバーが普通に飲んでいて(しかも著者は見れなかったクラフトワークのショーの帰り!)、一緒に朝まで遊んだりした。その後レイキャヴィックを出て地方に行く機会もあったが、広大な自然、アメリカでも日本でも見たことのない空の色は言葉で言い表せないほどだった。
 最後に、レコード店で発見したアイスランドのダブ・エレクトロバンドのオイバ・ラスタは、CDを聞いたらはまり、最近毎日聞いている。この寒いアイスランドで、なぜラスタ・バンドなのか。9人という大所帯のバンドは今回見れなくて残念だが大丈夫、すでに来年来る準備をしているから。

 すべてのラインナップはこちら。
https://icelandairwaves.is/line-up/

 こちらはキスィキンと一緒に旅をしたKEXPのレポート。良い写真がある。
https://www.cityartsonline.com/articles/iceland-airwaves-festival-frozen-fairytale-island

 ここからは七尾旅人NYショー

 七尾旅人さんの初のNYショーが10月29日~30日に行われた。 こちらがスケジュール
 10/29 (tue) at Pianos 7pm $8
 w/ Diane Coffee (Foxgen) and Deradoorian (ex Dirty Projectors)
 158 ludlow street
 New York, NY 10012
 212-505-3733
 https://www.ticketweb.com/

 10/30 (wed) @ Cake shop 8 pm $10
 w/ Greg Barris and The Forgiveness, Eartheater, Bodega Bay
 152 ludlow street
 New York, NY 10012
 212-253-0036
 https://facebook.com/events/401758796619436

 公式2日はどちらもローワーイースト・サイドの会場。クラブとインディ・ロックな別々の顔を持つ会場のピアノスケーキショップ。それぞれ違うセットと対バンで、2日連続で見る価値は十分。ショーの後、ブルックリンでのオファーを2つ頂いたので、結果的に良かったし、違うタイプの観客にもアピールできたと思う。

10/29 (火) @ ピアノス

 NYではかなり早い7時にはじまる。
 共演バンドは、フォクシジェンのドラマーのディアン・コーヒー、元ダーティ・プロジェクターズのメンバーだったエンジェルのデラドーリアン。
 https://www.pianosnyc.com/showroom/diane-coffee-10292013

 この日は旅人さんが希望していたドラマーのライアン・ソウヤーとの共演。

 ライアンはボアドラムでも日本に行ったり、リィス・チャザムの200ギターの唯一のドラマーとして参加したりしている。
 https://www.villagevoice.com/2009-08-04/voice-choices/rhys-chatham/
 前日に彼が参加する新しいバンド、ヒッギンス・ウォーター・プルーフ・ブラック・マジック・バンドを押し掛け、ぎりぎりで出演許可を頂いた。

 7時過ぎに登場し、英語の音声で本人の紹介。衣装は羽織に下駄。“星に願いを”、“オーモスト・ブルー”など2~3曲弾き語りの後は、ライアン・ソウヤーが登場。後は、めくるめく宇宙戦のようなインプロの嵐。旅人さんはエフェクトを駆使し、歌い、動き回りながら、ライアンとのプレイを心から楽しんでいるように見える。それに煽られ、オーディエンスの熱気も上昇し、演奏が終わった後は、拍手が鳴り止まなかった。リハーサルもないのに、この絡みは、はじめて会ったとは思えない。ライアンも終わった後は珍しく上機嫌で、「次もプレイする事があれば誘ってね、いやプレイできなくても見に行くよ。」と。次のデラドーリアンもディアン・コーヒーも、「今日は旅人とプレイできて嬉しい」とステージで賞賛していた。

10/30 (水) @ケーキショップ

 ハロウィンが次の日ということもあり、コスチュームな人もいる。出演は旅人さんを入れて4バンド。
 ボデガ・ベイはまだ結成して4ヶ月という新しいアート・ロック・バンド。ベースとドラマーの女の子が(ハーフ)日本人、ギター&ヴォーカルが白人、ギターがラテン系という、いかにもブルックリンなバンド。
 アース・イーターはガーディアン・エイリアンのアレックスのソロで、ガーディアン・エイリアンのファンである著者は楽しみだった。ロシア~東欧な雰囲気のコスチュームにゴス系メイク、黒リップ、バンジョー弾き語り。彼女自身がアート作品である。このショーの後、旅人さんは、3日後のガーディアン・エイリアンのショーに参加しないか、というオファーを頂く。
 https://eartheater.org

 グレッグ・バリスは、NYのコメディアンで、普段はハート・オブ・ダークネスというバンドを率いるが、今回はフォーギヴネス名義で登場。「ハローレディス・アンド・ジェントルマン、グレッグ・バリーーーース!!!」の声を合図に大暴走が続く。メンバー全員が一曲ずつヴォーカルを取り、コメディあり、客とのコール・アンド・レスポンスありで会場を盛り上げる。
 gregbarris.com

 11時に七尾旅人さんの登場。今日は完全にソロ。昨日来たお客さんもちらほら見えた。何日間か前に亡くなったNYの偉大なミュージシャン、ルーリードの「ウォーク・オン・ザ・ワイルド・サイド」の日本語カバーも披露し、1曲1曲拍手喝采を誘った。英語がしゃべれなくてごめん、と日本語でMCをしたり、予定時間をオーバーしても演奏が続き、旅人さんがNYで表現したかった物、思い、などが痛いほどオーディエンスに伝わってきた。
 ふたつのオフィシャル・ショーの後、会場とバンドからふたつのオファーがあり、ひとつはライアンと三味線奏者(!)のトリオ、ひとつはガーディアン・エイリアンのショーにヴォーカル参加した。
著者は残念ながら、参加できなかったので(アイスランドにいた)、本人の感想がその都度、ツイッターでつぶやかれているのでご参考に。
 https://twitter.com/tavito_net

 フライヤーをたくさん撒いたり、共演バンドとも、たくさん話をしたが、みんな旅人さんとプレイできたのは素晴らしい経験だったとのこと。何でも自分で行うDIYなアメリカなので、実際来てプレイしてみないとはじまらない。今回はよい例だと思う。ライアンやその他のミュージシャンと旅人さんのショーの前の告知
 https://www.brooklynvegan.com/archives/2013/10/japanese_artist.html

Fragment (術ノ穴) - ele-king

ササクレフェス2013も無事終わり、術ノ穴としては泉まくら『マイルーム・マイステージ』リリース、Fragmentとしては般若『ジレンマ feat.MACCHO(OZROSAURUS)』をプロデュースしました。
来年レーベル10周年でまた色々出しますのでよろしくですー!!

https://subenoana.net/

最近刺激くれたブツ5枚


1
Arca『&&&&&』

2
Four tet『Beautiful Rewind』

3
DJ Rashad『Double cup』

4
downy『無題』

5
MACKA-CHIN『incompleteness theorem』

Fuck Buttons - ele-king

 ファック・ボタンズのライヴを初めて観たのは08年、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインをヘッドライナーに迎え、ニューヨーク州モンティセロにておこなわれた〈All Tomorrow's Parties NY〉の2日目だった。その年リリースされたばかりのファースト・アルバム『ストリート・ホーシング』を引っさげてのステージ。ところ狭しと並べられたシンセやエフェクターの前で、向かい合わせとなったアンドリュー・ハンとベンジャミン・ジョン・パワーが、お互いの繰り出すフレーズに呼応しながらインプロヴィゼーションも交えつつ、リアルタイムでサウンドスケープを構築していく。その、緊張感と多幸感が入り交じったようなパフォーマンスは、音源で聴いたときよりも格段にインパクトがあり、あっという間に夢中になったのを覚えている。そんな彼らのライヴ観たさに2年後の〈ATP NY〉にも足を運び、翌11年には待望の初来日公演も目撃した。あれから2年、アルバムとしては前作『タロット・スポート』から実に4年ぶりとなる、彼らのサード・アルバムが本作である。

 ファーストではモグワイのギタリストであるジョン・カミングスと、モグワイが主宰するレーベル〈ロック・アクション〉に所属するバート・チンプのティム・セダーがレコーディング・エンジニアとして起用され、スティーヴ・アルビニ率いるシェラックのボブ・ウェストンがマスタリングを担当するという、まさに「英米ノイズ番長お墨付き」のサウンドを展開。続くセカンドでは、彼らに惚れ込んだアンドリュー・ウェザオールをプロデューサーに迎え、元々ファック・ボタンズが内包していたシューゲイザー的な要素やダンス・ミュージック的な側面を際立たせることに成功し、シンプル且つエッジの効いたサウンドへと進化していった。その後、ベンジャミンがソロ・プロジェクト、ブランク・マスを始動させたり、アンダーワールドが音楽監督を務めたロンドン五輪の開会セレモニーで“サーフ・ソーラー”と“オリンピアンズ”が起用されたりと、本体以外の部分での話題が多かったが、その間、自らの拠点となるスペース・マウンテン・スタジオをロンドンに設立するなど着々と準備を進め、前2作から一転、セルフ・プロデュースによってようやく完成させたというわけだ。

 セカンドで焦点を一旦グッと絞り、自らのもっともコアな部分を研ぎ澄ませた彼らだが、ここにきて再び意識を開放し、様々な要素を貪欲に取り込んでいるのがわかる。ファースト収録曲“リブズ・アウト”の流れを汲むような、ボアダムス直系のトライバルなビートが復活した“ブレインフリーズ”で幕を開け、ライヴにおけるコラージュ、あるいはアクション・ペインティング的なインプロヴィゼーションをそのまま真空パックしたかのごとき“イヤー・オブ・ザ・ドッグ”へと続き、セカンド収録曲“ラフ・スティーズ”のヒップホップ路線をさらに突き詰めた“ザ・レッド・ウィング”から、ダブステップ的ビートをトリガーにしてインダストリアルな音色を鳴らしたような“センチエンツ”に進み、そして、『BGM』~『テクノデリック』時代のYMOが21世紀にアップデートしたような“プリンス・プライズ”と、曲ごとに色合いを大きく変えていく。本作クライマックスは、やはり10分越えの“ストーカー(Stalker)”“ヒドゥン・XS”だろう。とりわけ最終曲“ヒドゥン・XS”は、コード進行といい「静謐」と「騒擾」をダイナミックに行き来する構成といい、モグワイとの強烈なシンクロニシティを感じる。そういえば、ファック・ボタンズとモグワイはダブルヘッダーでのツアーをおこなったこともあるが(〈ロック・アクション〉からスプリット・シングルも出ている)、さぞかし凄まじいライヴだったに違いない。

 ファーストで引き出しを開放し、セカンドで自らの本質を掴んだ彼らは、再び混沌の闇へと身を投げた。そこから生み出されたこれらの楽曲が、ライヴでは一体どのように轟くのだろうか。再び彼らのパフォーマンスを観る機会が訪れることを願って止まない。

interview with Dorian - ele-king

E王
Dorian - midori
felicity

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 シャーマンはDMTで神様と交信するが、ドリアンはお茶をすすって野山を見る。彼の通算3枚目のアルバム『ミドリ』は、フライング・ロータスの前作をお茶の間ラウンジとして再現したような作品である。おびただしいカットアップによるポップアート、ダウンテンポのサイケデリック・サウンドなのだが、彼は宇宙を見ることもなければ、精神世界に向かうこともない。では、ただのイージー・リスニングかといえば、全然そうではなく、ほどよく甘美で、少しばかりドラッギーな音響がスムーズに駆け抜けていく。しかも『ミドリ』は、たんなる心地良い音響という感じでもない。エモーショナルだし、ユーモアもある。リズムは温かく、リスナーをさまざまなヴァリエーションで楽しませる。音は優しく、そして、リスナーにとっての心地良い場所を喚起する。個人的にドリーミーな音からはこのところ離れたんですけれど、はっきり言って、『ミドリ』はオススメです。
 本当は、言いたいことがたくさんあって、もう喉元まで出かかっているのだけれど、僕の質問が悪く、うまく言葉を引きだせなかった……以下のインタヴューを読んでいただいて、本人の控え目な言葉の背後に、何か他とは違うものを作ってやろうという、けっこうなアンビシャス、パッションがあったことを察してていただければ幸いである。 

子どものころ行ったことあるけれどもそれ以降行ってないなってところとか、こういうところが近所にあるのは知っているけれども行ったことなかったなとか、そういうところに行ってみたいなという。

じつはドリアンくんと会うのってすごく久しぶりだよね。初めて会ったのって……覚えてます?

ドリアン:リキッドルームの……。

いや、違う違う(笑)。

ドリアン:あ、違います?

あれでしょ、もう4年以上前? 七尾旅人のライヴを観に行ったとき、やけのはらが紹介してくれたんだよ。「彼はドリアンくんっていって、今度いっしょにやる」って。六本木の〈スーパー・デラックス〉の階段のところで。

ドリアン:ああー、そんなに前ですか!?

だから僕がまだ『remix』やってたころですね。

ドリアン:そうですよね。

あのころドリアンくん、まだハタチとかそれくらいじゃない?

ドリアン:そんな前じゃないですよ(笑)! 25、6とかそれぐらいだったと思いますね。

20歳ぐらいかと思っていた。とにかく、今日、お久しぶりに会えるのが楽しみだったんですよ。ていうかドリアンくん、生まれ、静岡のどこなんですか?

ドリアン:島田市です。

あ、島田なんだ。いいところじゃないですか。

ドリアン:何にもないんですけれども。山と川と……以上、みたいな(笑)。

はははは、あとちょっと、若干商店街って感じでしょう?

ドリアン:そうですね。島田市って言うとそうですね。僕はいわゆる島田市とはちょっと離れたところで。平地なんですけど藤枝寄りで。六合駅の近くですね。

僕は静岡市なんですけど、安倍川越えて用宗よりも西側ってよくわかってないんですよ。

ドリアン:そうですよね。

ただ、今回個人的に放っておけなかった理由のひとつは、やはりその静岡を訪れて作ったっていうところですよ。同じ静岡人として、その話をまずはお伺いしたいなと思ったんですけれども。

ドリアン:はい。静岡……これ、ちょっとわかりやすく書いてあるんで語弊がある部分もあるんですけど……。

今回のリリースの資料を書いた小野田雄も静岡ですからね。

ドリアン:作るために訪れたと言うよりは、子どものころ行ったことあるけれどもそれ以降行ってないなってところとか、こういうところが近所にあるのは知っているけれども行ったことなかったなとか、そういうところに行ってみたいなというのも含めつつ──まあ誰と行ったとかは書かなくてもいいんですけども(笑)──ちょっと彼女と旅行に行こうと思って。じゃあ、自分がよくわかるところで、いいところで、っていうことを考えて寸又峡なんかに行ったりしたんですけれども。

寸又峡って金谷からの電車で行くところだっけ?

ドリアン:そうですね。けっこう川根のほうで。

川根のほうだよね。いいところですよね。秘境な感じ。あの二両しかない電車も好きだな。

ドリアン:そうですね、かなり山奥で。その頃ちょっと作りはじめていて、断片なんかはチラホラ出はじめていた頃で、それが。そのときは、ただただ作るっていう感じだったんで。落としどころとか、そういうところがあまり明確ではなかったんですけれども。その旅行が1泊2日だったんで、いろんなところをレンタカーで周ったりしてるなかで、ちょっとピンと来たというか。

インスピレーションが沸いてきた?

ドリアン:はい。僕だと静岡の風景は具体的に浮かぶんですけど、聴いたひとにとっても、ある、そういう場所が浮かぶように、そういうものに沿って曲を置いていくというか。そういうものがしっくり来るんじゃないかな、とそのときピンと来たというか。

自分の故郷だけれども、遠かった場所みたいな。

ドリアン:それはあると思いますね。離れることで故郷がかなり美化された部分ってあると思うんですけど、自分で。

でも具体的に実際に行ったわけですからね。

ドリアン:はい。

静岡って中途半端に東京と離れていて、中途半端に近くて、とにかくいろんなものが中途半端じゃないですか。

ドリアン:そうですね、中途半端ですね(笑)。

都会じゃないし、ド田舎でもないから、あんま故郷って感じもなくて、東京出てきちゃうひとは、静岡に戻らないひとが多いでしょ? 「ま、いっか。いつでも帰れるし」と思いながらズルズル帰らないから。僕なんかもそうで、高校3年生まで静岡になんてべつに何の思い入れもなかったんだけど、久々に帰ってみると「あれ、こんなにいいところだっけかな」っていうぐらいの(笑)。

ドリアン:そうなんですよね。まさにそうなんですけれども、僕も。

そういう感覚ってきっと誰にでもあるんでしょうね。10代って人生で一番生意気な時代だから、自分の故郷なんかたやすく愛すことなんかできないじゃない(笑)。

ドリアン:そうですね。

若さゆえに心も広くないし。でもさ、島田って、こんなにお茶畑だらけだっけ?

ドリアン:島田はけっこうそうですね。県内でも一番生産量が多い、イコール全国で一番多い、となると思うんですけど。

そうか、牧ノ原台地か。とにかく、お茶畑の風景がドリアンくんの原風景じゃないけど、なんか見直してみたらこんなに良かったんだ、みたいな。

ドリアン:そうです、そうです。

あそこから富士山って見える?

ドリアン:見えます。これはちょっとデフォルメされすぎですけど、この半分ぐらいには見えますね。

富士山、でかいからね、当たり前だけど(笑)。で、さっき言ってたみたいに、ドライヴしながらインスピレーションを受けて、これをひとつテーマにしようと思ったんだろうけど、今回の音楽をそこからどういう風に具現化していった、曲として落とし込んでいったんでしょう? 小野田雄はドリアンが「自宅で好んで聴いていたというマーティン・デニーとかレス・バクスター云々」とかってことを書いてますけど、それはあったの?

ドリアン:ええ。そうですね……。

小野田雄、テキトーなことを書いてるわけではない(笑)?

ドリアン:いや、すごくわかりやすく言うと、そういうことだと思うんですよね。

はははは。じゃあ、いいんだ。ただ、今回のアルバムは、いろいろ言えちゃうよね。ラウンジ・ミュージックとかね。ダウンテンポとか、カットアップとか。でも、たしかに小野田雄が言う通り、景色が浮かぶ音楽ですよね。

ドリアン:ああ、そう言ってもらえると。

1曲目に使ってるのは(映画の)『男と女』のフレーズ? 「ダバダバダ~」ってやつ。(註:フランシス・レイ作曲)

ドリアン:ああー、そういうことですよね。でも、全然それではないですけど。

ただ似てるっていうだけか。

ドリアン:そう言われてみれば似てますね。でもそれとは全然関係ない、100円ぐらいで売ってるようないわゆる「ムード大全集」みたいな、そういうタイプのレコードには同じような曲しか入ってないっていう。そういうなかにあった音色というか、それを使ったというか。曲のなかでこのフレーズが良かったからこれ使おう、って感じではやってないんで。いったん全体像みたいなものとか構成とかを頭のなかでまずイメージして作って、紙か何かに書いて、で、曲のキーやテンポやコード進行なんかも決めて、こういう音色でこういうコードがいいってことを決めてからサンプル回すってことをやってたんで。

なるほど、では制作する上で今回すごくキーになったことって何かある? ひとつはサンプリングのやり方みたいなもの?

ドリアン:やり方もそうですし、サンプリングそのものですね。僕いままで、サンプリングを主体にした作り方っていうのをほとんどしてこなかったので。ファーストとか、それより前もそういうことはしてこなかった、っていうのはあったので。

ドリアンくんのイメージってディスコとか、ダンス・ミュージックって強かったから。今回はガラリと方向性を変えましたよね。言うなれば、ドリアンくん流のイージー・リスニングだよね。小野田雄は「エキゾチカ」とか「チルアウト」とか、いろいろと書いてますけどね。イージー・リスニングみたいなものは自分のリスニング経験としてはあったの? 

ドリアン:ほんとここ1年、2年の話ですね。

たとえばボサノヴァのギターも入ってたりするじゃない。ああいったブラジル音楽的なものとかさ。

ドリアン:ボサノヴァに関しては、10年ぐらい前に少し興味を持ったことがあって。そんな詳しい話ではないんですけど、少しなぞった程度に名盤みたいなものを買っていろいろ聴いてた時期があって。「いつかこういうのがやれたらいいな」ってことは頭の片隅にはあったんですね。だから音楽の、なんていうか楽典的な部分というか、そういったものはかなり高度な音楽だとは思うんですよね。そういうものもその当時は追いついてなかったっていうのもあって、やろうにもできない部分もあったりとか。今回こういうものを作るにあたっていろいろとピンと来たものがあったので。そのなかで思い出して、「あ、いまだったら、あれができるかもしれない」みたいなことも思って。

ちょっとネオアコっぽいところも好きだな。

ドリアン:あ、ほんとですか。

意識した?

ドリアン:ああー、ネオアコとかそういったものに関しては、僕はかなり通ってないですね。たしかに、そういったことを言われるんですけど、いままでも。たとえば一番近くのやけさんなんかにも、「そういう感じあるよ」っていうことを言われて。だけど本人はとくに通っていないという。

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ダンス・ミュージックだろうがJ-POPだろうが、けっこう共通して同じような質感になってきてるなって。それでいいのかな、みたいなことは思ってましたけど。いいならいいんですけど、僕は「それはちょっとな」って思ったりとか。

E王
Dorian - midori
felicity

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ドリアンくんは最初からダンス・ミュージック?

ドリアン:本っ当に一番最初を言うと、小室哲哉とかTMネットワークとか……。中学生で、小室哲哉ぐらいしか指標がなかったんですけど、そのころ。知識もないし田舎ですし、やっていることを聞いているとtrfをやってたりして。そういうののリミックス盤が出てたりして。要はレイヴみたいなものをそこから知っていった、みたいなことがあったりして。基本的にはそこからジュリアナのコンピとかを借りたりして……。

それはすごい(笑)。

ドリアン:で、そのなかでカッコいいものを吸収して、「ああー、これか」みたいな。ハウスみたいなものとか、ジャングルであったりとか。そういう風になっていったんですけど。

なるほど。直球でダンス・ミュージックだったんだね、ほんとに。では、こういったエキゾチック・ミュージックっていうかさ、イージー・リスニング的なものっていうのは、ほんとにごく最近のドリアンくんのモードなんだ?

ドリアン:そうですね。でも、そのきっかけみたいなものをほんとに掘り下げていくと、中学校のときに隣の席の女の子が好きだったんですけど。僕そのころ打ち込みをはじめてて、たぶん優越感を感じてたんだと思うんですけど、ほかのひとがやってないから。

はいはいはい。

ドリアン:で、僕は音楽を詳しいはずだと思い込んでて。その子に「どういう音楽聴くの?」ってそういう話をしたら、「私テイ・トウワ好きなんだよね」ということを言われて。「ヤバい、何にも知らないぞ」みたいなことを思って。

シャレてるねー。

ドリアン:「新しいの全然聴いてないから、貸してもらえる?」みたいなことを言われて、知ってる体で。「これは……」みたいなことを思って。もしかしたら、そこが最初かもしれないですね。もし、これと共通するものがあるとしたら。

なるほど、なるほど。たしかにテイさんの音楽にはそういう要素もあるもんね。それはテイ・トウワのどのアルバムだったの?

ドリアン:借りたのは、『Sound Museum』だったんですけれど、帯の裏にはファーストも出てるよ、みたいなこともあったと思うんですけど。「そうか、これを知らないとほんとに知らないことになるからマズいな」と借りに行ったりしたんですけど。『Future Listening!』とか。

へえー。やっぱりそれは、打ち込みをはじめたばかりの少年の耳でテイさんなんかを聴くとショッキングなものなの?

ドリアン:そうですね。

どの辺りが? やっぱりサンプリング?

ドリアン:サンプリングもそうですし……サンプリングはサンプリングでも、あのジリッとした質感とか、ビットの低いものであったりとか。サンプリングっていうとヒップホップの要素があると思うんですけど、ヒップホップのイメージしかなかったので、たとえばファンクだとかソウルだとかジャズだとか、そういうものをサンプリングするものなんだっていう固定観念はあったので。「あ、べつに何でもいいんだ」ってことを思ったりはありましたね。

ああー、なるほど。

ドリアン:あと楽典的な知識もかなり少なかったので。ドミソとかそういうものぐらいしかわからなかったんですけど、4つとか5つの和音が普通に入ってて、「この響きは何だ」とかそういうものはありましたけれども。

とにかく、ずっとダンス・ミュージックで来て、ここ1年ぐらいでこういったイージー・リスニングというかね、今回のアルバムみたいなモードのきっかけはあったんですか?

ドリアン:まずは、いままでみたいな感じのものに対する疑問は、2枚目(『studio vacation』)ができた辺りからちょっと感じてたんですよね。もうちょっと違うラインを模索したいなっていう気持ちはけっこう大きくなっていて。そのおかげでいろいろとお話をもらったりとかはあって、それはありがたいことなんですけど。

まあ仕事として。

ドリアン:そうですね。だからそういうものも作っていたんですけど。

それは何? ダンスに疲れたっていう感覚なの?

ドリアン:ダンスに疲れた……? もちろんクラブに行って、遊んで踊ってっていうのは変わらず好きなことではありますし、これからも自分のなかでは続いていくことだとは思うんですけれども。やっぱり家でそういうものに向き合うのは正直ちょっとしんどくなってきた。

(笑)あ、でも逆に年取ると、家でしかそういうものと向き合いたくなくなってくるよ。俺ぐらいにまでなってくると(笑)。

ドリアン:(笑)行きたくなくなってくるってことですか?

気持ちにカラダが付いていかないんだとね。夜の2時まで起きてられるのがやっとというか。悲しいことに……いや、悲しくはないんだけど、全然。

ドリアン:あとは、やけさんのライヴは僕もいなければできないみたいな形になってるんで、やけさんのライヴでいろんなところへ行っていろんな方面でやるようになったりすると、それで忙しくなったりもして。やっぱ、クラブの比率っていうのがけっこう少なくなっていたっていうのもあって。バンドでやったりとか、まあバンドに限らずダンス・ミュージック以外のいろんなところでやることも増えて。やっぱり、自然と聴き方とか受け取り方とかもどんどん変わっていったと思いますね。

なるほど、幅が広がったということですね。作り手としてそこは意識しました?

ドリアン:それももちろんしましたね、はい。

アゲる音じゃなくて、落ち着かせる音じゃないですか、今回は。

ドリアン:そうですね。

で、そういう平穏さっていうのはドリアンくん自身のなかでも求めてたようなところはあるのかな?

ドリアン:そうですね、はい。基本的にもう……疲れてるから。

ははははは!

ドリアン:そういうところはありましたね。

自分自身がそういうものを求めているからっていう。

ドリアン:そうですね。あと、これがすごく独特で、個性的で、他にはないものっていう風には思わないですけど。こういうタイプの音楽っていうのは、世のなかには他にも全然あると思うんですけど。それにしたって全部同じような曲ばっかりだよな、みたいなことは思っていて。世のなかが。そういうことも思ってましたね。曲のタイプっていうことに限らず、なんかもう質感そのものが全部同じに聞こえるなっていうのは思ったんですよね。

なるほどね。

ドリアン:ダンス・ミュージックだろうがJ-POPだろうが、けっこう共通して同じような質感になってきてるなって。それでいいのかな、みたいなことは思ってましたけど。いいならいいんですけど、僕は「それはちょっとな」って思ったりとか。

僕は静岡という中途半端な街とはいえ、飲み屋とかパチンコ屋とか映画館が並んでいる歓楽街で育ったので。街って全然嫌いじゃないんですけども。でも渋谷とか、東京の街が最近すごくうるさくなったじゃないですか。宣伝カーとか、電子広告とかね。ほんとにやかましいな、っていうのがあって。若いひとたちが最近、自分たちの感覚でこういう「反やかましくない音楽」をやりはじめてるのが僕は興味深いなとずっと思ってたんですよね。

ドリアン:渋谷歩いていて入ってくる音に関しても、全部お金が絡んでいるように思えて。

まあ実際そうだしね(笑)。

ドリアン:すごいなあ、って。

街宣車と同じぐらいうるさいよね、音楽がんがん鳴らしてる宣伝のトラック。

ドリアン:ほんとにそうなんですよね。もう、すでに音楽でもないっていうか。そう思っちゃいますよね。こんなエラそうなこと言っていいかわかんないですけど。

ガンガン言いましょうよ。

ドリアン:(笑)

『midori』っていうこのタイトルは、たぶんだけど茶畑の緑から来てるの?

ドリアン:いやこれは、個人的には意味があるようなないような、なんですけど。ほんとはもっと他のタイトルも考えてたんですけど。いままでのように、「なんとか・なんとか」みたいな。ちょっと説明的な。そういう感じで考えてたんですけど、かなり迷路に入ってしまって。それでどうしようかって考えると、曲を作っていたときに頭にぼんやり浮かんでいたイメージが大体緑色のものだったんですよ。なんか音楽やってるひとっぽい言い方でヤですけど。

ははははは!

ドリアン:(笑)共通してそういうイメージがあったんで、じゃあこれは「緑」だろう、と。そんなにイチイチ説明する、これは具体的に○○ですとか、いうようなものじゃなくてもいいと思って。なんかもう、ありとあらゆるものが、「これは●●です」、「これは△△です」ってわからないとダメみたいな。

わからないって良いよね。徹底してわからないってことは重要だよね。

ドリアン:「だからもうちょっと、自分で考えろ」みたいなことは思うんですよね。

小野田雄が書いてるように、現代のマーティン・デニーって言い方もあるのかもね。でもさ、イージー・リスニングは当時はバチェラー・パッド・ミュージック──「独身者の音楽」って言って、50年代から60年代にかけて、小金があってまだ結婚していない独身の男が家に帰って酒を飲みながらリラックスして楽しむみたいなものだったから、セクシーな女がジャケットに載ってたりするでしょ。でも、この『midori』は、そういう独身者の音楽でもなければニューエイジでもなければ美化された日本でもなく、新幹線から見えるすごく平凡な日本の「緑」って感じがして、それがいいなって。

ドリアン:ツツジなんかも植え込みとかに普通に生えてますもんね。

そういうことも考えてやられたのかなって。

ドリアン:いま言われると思いますけど、そこまで考えてなかったかもしれない。なんかでも、ジャケットのイメージとしては実際にとある場所があるんですけど。そこをモチーフに手を加えてって感じになりましたね。

これは大井川鉄道でしょ?

ドリアン:これ大井川鉄道ですね。ほんとならこの辺に走ってるはずなんですけど。

ははははは。

ドリアン:そういう位置関係ですけど。

とにかく、マーティン・デニー風なセクシーな女性があってもおかしくはない音なわけじゃない。商品としてはそれでも成り立つと思うし。でも、『midori』の新しさって、この絵が象徴してるかなって。

ドリアン:たしかにそれぞれの曲の風景のなかで、ひとが出てくることはないですよね。詞があるわけじゃないから一概にそういうことは言えないし、そういうことを言ってしまうことで聴くひとに固定観念を与えてしまうのもちょっと怖いんですけれども、個人的には主人公から見た景色でしかないので。ひとが登場することはない。

このサイケ感ってけして60年代的なサイケ感ではないし、ああいうイージー・リスニング的なスタイリッシュなものも拒否してるし、もうちょっとリアルな感じが……リアルと言ったらサイケな感じとまったく矛盾してるけど(笑)。

ドリアン:わかりますけどね(笑)

日常と地続きなサイケ感がよく出てると思ったんですよね。そこが僕は好きです。

ドリアン:ありがとうございます。

そこは狙ったんでしょ?

ドリアン:はい、そうですね。サイケ感……それはまあ、結果的にそういう風に見えるっていうところがあるんですけれども。何て言ったらいいんですかねえ……狙ったような……。

じゃあ意図せずに、気がついてみたらこうなってたって感じなんだ?

ドリアン:イメージとしてはこういうジャケットがいい、っていうのが漠然とあった。以上。みたいなところがあるんですけれども。

直感的だったんだ。

ドリアン:はい、そうですね。女のひと的なことを言ったらこっちのなかに入ってますけど。

何が?

ドリアン:いや女のひとが。

(笑)あ、アー写にね。このアー写いいよね。

ドリアン:そうですね。静岡だし、お茶だし、ということですね。構図とか設定だとかは、写真を撮ってくれている寺沢美遊ちゃんが考えてくれて。

へえー、なるほどね。なんか、お茶割を飲みたくなりますよね(笑)

ドリアン:あ、ほんとですか(笑)。それは飲んでください。

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すべて均一化してきてる気がするんですよね。服装だってそうだと思いますし、食べるものだってそうだと思いますし。生活する行動のラインもそうだと思いますし。でも音楽もさっき言ったようにそうだと思うし。

E王
Dorian - midori
felicity

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またしても小野田雄が資料に、これは「ネイチャー・トリップだ」なんて適当なことを書いてますけど、そうなんですか?

ドリアン:うーーーーん。

「気の遠くなるようなパズルに興じながら、彼が描こうと試みたのは架空のネイチャー・トリップだ。」と(笑)。

ドリアン:まあ、「気が遠くなるようなパズルには興じ」ましたけど。

おおーー(笑)

ドリアン:まあそう捉えてくれても……。

90年代にもこういうラウンジ風の音がクラブで流行ったことがあって、僕は好きだったんですけど、その時代のラウンジ・ミュージックってドラッギーだったんですよね。

ドリアン:あ、なるほど。

いわゆるハマり系な音が入っていて。ジェントル・ピープルみたいなものとか。それに比べるとすごく、小野田雄が言ってるネイチャー・トリップっていう意味もわからなくはない。さすが小野田雄だ。

ドリアン:べつにそれでもいいと思うんですけど。べつにそうじゃないとも言おうとも思わないんで。

でもほんといいアルバムだよ、これ。これたぶん、好きなひと多いと思いますよ。

ドリアン:ほんとですか。それだといいんですけどねえ。いままでのものは拒否感を持つひとはだいぶ拒否感持つタイプの音楽だったとは思います。

アッパーなダンスのドリアンを期待してるひとからすると裏切られた蟹になるかもだけど、そこを裏切りたかったわけでしょう?

ドリアン:そうですね。それこそ何て言うか……。

小野田雄は何でもかんでもバレアリックにするからね。ほら、これも「バレアリックだ」って書いているよ。(地中海じゃなくて)駿河湾だっていうのにね。

ドリアン:はははははは。

でも、たしかにこれはバレアリックですよ。

ドリアン:でもほんと、何でもいいとは思っていて。どういう風に受け取ってくれても。

まあそうだけどさ。でもどういう風に受け取ってもらってもいいけど、俺はこれを作りたかったんだってことだよね。

ドリアン:そうですね。

でもほんとすごくいい作品ですよ。

ドリアン:ほんとですか(笑)。

いや、マジマジ。聴いた瞬間、すげーいいじゃんと思って。

ドリアン:ありがとうございます。

ドリアンくんってこんな音楽作ってたんだと思って、昔の聴き直したらやっぱ違ってた(笑)。

ドリアン:そうなんですよね。

面白いよね。

ドリアン:何て言うか、すべて均一化してきてる気がするんですよね。服装だってそうだと思いますし、食べるものだってそうだと思いますし。生活する行動のラインもそうだと思いますし。でも音楽もさっき言ったようにそうだと思うし。

とくにネットって、ひとと違うことを言ったりすると叩くじゃない。

ドリアン:そうでしょうねえ。

音楽やってるひとは元々変わり者っていうか、ひとの目を気にせず生きていくようなね。

ドリアン:そう思うんですけど、それなのに音楽まで同じように聞こえるようになってる。それは僕がだんだん年を取っているっていうこともひとつの原因だと思うんですけども。それにしても、っていう風に。

そういう意味では今回のアルバムは逆に、メッセージになってますよ。

ドリアン:エラそうかもしれませんが(笑)

もっとエラそうなこと言おうよ(笑)。

ドリアン:ありがとうございます。

ところでなんでドリアンって名前にしたの?

ドリアン:ああー。これは僕がつけたわけではないんですけれども。DJとかをはじめたときに、友だちが「フライヤー作るけど、名前何にする?」って聞かれて、「あ、そうか」って。べつに本名でも良かったんですけど、「じゃあせっかくだから考えるよ」って言って。で、そのときいっしょに住んでるひとがいたんですけど、隣の部屋に行って、「いまこういう電話が来たんだけど、何がいいと思うかな?」って言ったら1秒ぐらいで「ドリアン」って言われて。「じゃあそれで!」って。なんか、覚えやすいしいいかな、って。

はははは。

ドリアン:しかもそんなに長く続けるつもりもなかった。

DJをはじめたころは、どんなスタイルだったんですか?

ドリアン:僕、ありがちなんですけど、普通に〈RAW LIFE〉にやられた世代なんですよ。

なるほど。それで小野田雄なんだね。

ドリアン:はい。だからその当時のきてた感じというか、コズミック的なものだったり、ディスコ・ダブと言われるものであったりとか。そういうところから入って。

へー、そうだったんだね。今日はどうもありがとうございました。

ドリアン:ありがとうございました!

 ドリアンは、文中に出てくる優しい男=小野田雄、そしてエレキングでDJチャートをかき集めてくれる暑苦しい男=五十嵐慎太郎と同じ静岡人である。ドリアン君、もっともっとCDを売って、いつか僕たちを見下してください。黒はんぺんを食べながら、お互いがんばりましょう。

Emptyset - ele-king

 ひさびさにライヴで完全にブッ飛ばされた。

 スイスの歴史的情緒溢れる美しき町ロザーン、創業100年の由緒あるシネマ・アートスペース、ル・ボーグ(Le Bourg)にて感無量なライヴ・セットを終えたばかりで興奮冷めやらぬ僕とローブドア(Robedoor)のブリット(〈NNF〉主宰)とアレックス、サンド・サークルズ(Sand Circles)のマーティンは、同じ晩に近所で行われていた〈LUFFフェスティヴァル2013〉に、ともにUK出身のハクサン・クロークとこのエンプティセット目当てで向かった。それによって僕らがこの晩にやってのけたショウがちっぽけにすら感じた(が、しかしそれでも僕らはこの晩のショウに満足している)。
 入場して間もなく、ただごとでない事態がステージ上に出来したことに目と耳を疑った。見覚えのある連中が発狂した光と音を放っている。ん? あれ? エンドン(ENDON)じゃね?
彼らを初めて知ったであろうブリット等を含むその日のオーディエンスは、強烈なトラウマを覚えたであろう。
 楽屋でジェロ・ビアフラがエンドンを絶賛するのを横目に偶然の再会の挨拶を交わし、数時間後のフライトで帰国する彼等に名残は尽きなかったが、エンプティセットのステージを観にフロアへと舞い戻った。

 有りえない程の爆音でフロアを振動させていたエンプティセット(眼球が振動するほど)に僕は少量の尿を漏らしていたかもしれぬ。
〈サブテキスト(Subtext)〉からの前作『マテリアル』はスノードニアの原発廃炉、ロンドン中心部深層部の広大なコンクリート試験燃料庫、ケントの地下22マイルにある中世の坑道などイギリス国内のカルト・スポットに赴き、コンタクト・マイクで採集したフィードバッグを“素材”にした極上のドキュメンタリー・サウンドトラックだ。
 彼らの完成度の高い世界観に僕はしばしばカネイト(Khanate)が奏でていた“間”を想起させられる。しかしもちろんこれはドゥーム・メタルではない。フロアで彼等が放出する超暴力的な光と音のフィードバックは(言わずもがな彼等のショウはリアルタイムでおこなわれる)は確実にオーディエンスを狂気のヘッドバンギングとダンスへと誘う。
 万を持して〈ラスタノートン〉からリリースされた4枚めのスタジオ・アルバム(※)となる『リカー(Recur)』はそのタイトルが指し示すようにいままでの彼等の軌跡を包括する秀作だ。根源的衝動を掻き立てるノイズとフィードバックの応酬。

 ライヴも込みなら確実に今年度最大の衝撃。

 ※本レヴュー掲載当初は「サード・スタジオ・アルバム」とご紹介しておりましたが、4枚めの誤りでした。お詫び申し上げます。(2013年11月14日/編集部)

Mark E - ele-king

 マーク・Eとか、モーター・シティ・ドラム・アンサンブルとか、スルーしてきたんだけど、五十嵐慎太郎が口うるさく推薦するものだから聴いています。UKの若い連中のお陰で、ディープ・ハウスが時代のムードに合ってきたというのもあるけれど、デトロイト系ビートダウン──せかさず、ゆったりとしたグルーヴ、エモーショナルでソウルフルなテイスト──の人気はハウス冬の時代においても衰えずにいたし、メロウなハーモニーとオードルスクールなフィーリングを持っているマーク・Eの今回の来日、ハウス時代のいま、実に良いタイミングじゃないでしょうか。
 2004年にジャネット・ジャクソンが「R&Bジャンキー」を出して、その3年後にUKはバーミンガムのマーク・Eは「R&Bドランキー」を出しているけれど、彼のR&B使いのうまさはつねに賞賛されています。既存の曲をダンス仕様に編集し直すことをハウスの世界はエディット(リエディット)と言いますが、五十嵐は彼をエディットの「職人」と呼んでいます。職人とは、わけもわからずサンプリングするのではなく、元ネタについてもよくわかっている人です。今月のオススメのディープ・ハウス、ディスクロージャーやザ・XXで踊って楽しかった人には大推薦。

以下、五十嵐から来たメールのコピペ。

 職人プロデューサー「Mark E」のJAPANツアーが久々に開催される。
JISCOレーベルではその類い稀なEDITワークで人気を獲得し、その後自身で立ち上げた「MERC」レーベルもコンスタントにリリースを重ね、地味で地道なスタンスとそんな性格を表してるかの様なそのサウンドが、本国イギリスはもちろん日本でも着実にコアなファンを獲得し、昨今のUKハウス再注目の波を牽引しているひとりと言っても過言ではないだろう。2011年の3.11の混乱のなか、いち早く来日してその親日ぶりも評判な彼なので今回のツアーを相当楽しみにしているようだ。
 名古屋では地元の信頼も厚い老舗のCLUB JB'sでの開催が決定した。
また代官山AIRのPARTYでは共演予定のDJ陣がDJ AGEISHI、DJ SHIBATA、GONNOと、これまた日本が誇る職人気質な最高なDJ陣。そしてラウンジでは新進気鋭の要注目若手DJ陣に交じって先日20周年を迎えたIDJUT BOYSのConradが参加すると言う豪華な顔ぶれで開催される!

Mark E (Merc, Spectral Sound/from UK)
 英国ウエスト・ミッドランズ州ウォルヴァーハンプトンにて生まれ、その後家具デザインを学ぶためにバーミンガムに移り住む。当時バーミンガムではちょうどクラブシーンが盛り上がっていた時期で、大学卒業後もそのままバーミンガムに住むことになる。Jisco Musicからリリースされた”Scared”をきっかけに、一躍Mark Eの名は広まり、ディスコ エディットやビートダウンという言葉に収まりきらないMark Eマジックは〈Endless Flight〉、〈Running Back〉、〈Golf Channel〉、〈Internasjonal〉、〈Sonar Kollektiv〉などからリリースされた。また、ここ数年で数多くのリミックスも続々と手がけており、remixerとしてのMark Eも勢いがとまらない。2009年には自主のレーベルMERCを始動し、アナログレコードとコンピレーションCD『Mark E Works 2005-2009』Vol.1と2をリリースしている。
 「本当の音楽は消耗品じゃないと思うんだよね。僕も音楽制作と向き合ってる時は、時間がたっても聴けるモノを常に意識してる。僕が古いディスコに惚れてるように、20年たってもみんなが楽しめるような音楽を創りたい。」 (Vendor Mag vol.5 Mark E Interviewより)
 2011年にファースト オリジナル アルバム『STONE BREAKER』を〈Spectral Sound〉より発表、プロデューサーMark Eの音世界が濃縮された作品となっている。
 〈Running Back〉から" THE BLACK COUNTRY ROOTS EP”を近々リリース予定であり、また現在セカンド・アルバムを制作中とのことである。

Merk Music:
https://mercmusic.net
https://twitter.com/mark_e_merc
https://www.facebook.com/pages/MERC/124366710936688


11.22(金) 名古屋 @ Club JB’S
Guest DJ: Mark E
DJ: Shou Ino (Buddy/indicate), Beepay (body to body/Mooving), Uchida (izumi), Hose (Mooving)

open 22:00
Advanced 2500yen
Door 3000yen

Info: Club JB’S https://www.club-jbs.jp
名古屋市中区栄4-3-15 丸美観光ビルB1F TEL 052-241-2234

NU-DISCOの旗手MARK Eが今年もAIRのフロアを魅了

 ビートダウン的感覚とソウル/ディスコ・エディット感覚を昇華させた独創的 なダンストラックでテクノ~ハウスシーンからも大きな注目を集め、リミキ サーとしての手腕も絶賛されるMARK Eが、約1年3カ月ぶりにAIR再登場を果た す。前回はNU-DISCOの旗手らしい変幻自在のプレイでフロアを見事に魅了して くれただけに、まさに待望の夜といえるだろう。国内からは、世界へ活躍の幅 を拡大中の次世代シーンの雄GONNOが昨年に続き連続参戦。そして今回は、東 京のダンスミュージック・ヒストリーを見つめ続けてきた大ベテランDJ AGEISHIも参加する。国境や世代の壁を超えて構築される、素晴らしい音空間 へ。

11.23(土/祝) 東京 @ AIR
COMMUNION
"Mark E JAPAN TOUR"

MAIN:
Mark E, DJ AGEISHI (AHB pro.), GONNO (WC/Merkur/International Feel), DJ SHIBATA (探心音/the oath)

B1F LOUNGE:
FUSHIMING & YO.AN (HOLE AND HOLLAND), COZU (COGEE & MAMAZU), HOBOBRAZIL, KILLY & 7e (Romanescos), Asyl Cahier, Conrad McDonnell(Idjut Boys)

Nomad: Vendor Crew

open 22:00
AIR Member 2500yen with 1Drink
With Flyer 3000yen with 1Drink
Door 3500yen with 1Drink

Info: AIR https://www.air-tokyo.com
東京都渋谷区猿楽町2-11 氷川ビルBF TEL 03-5784-3386

TOTAL TOUR INFO: AHB Production www.ahbproduction.com


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