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interview with Kindan no Tasuketsu

interview with Kindan no Tasuketsu

怪奇骨董“偽物”音楽箱

――禁断の多数決、インタヴュー

橋元優歩    Nov 26,2013 UP

禁断の多数決
アラビアの禁断の多数決

AWDR/LR2

Amazon HMV iTunes

 2011年。古今東西ありとあらゆる音源が一並びに混濁する景色のなかで、彼らは「透明感」と歌った。

 禁断の多数決、その名は、フロンティア・ラインが複雑に歪んだシーンにとても鮮やかな印象を残した。アニマル・コレクティヴ譲りのサイケデリア(ほうのきは日本のエイヴィ・テアだ)、一大気運であったシンセ・ポップ、ひたひたと押し寄せるニューエイジ・リヴァイヴァル・モード――当時もっとも影響力のあった音楽的トピックを、ドリーミーかつエクスペリメンタルに巻き込み、バンド名からもうかがえるようなノイジーな批評性を漂わせ、またリスナーとしての喜びも溢れさせ、日本のポップスとしてもしっかり着地する、誰もが気になる(けれどもいまひとつ謎の)バンドとして。

筆者はEPにもなった“透明感”にビリビリときていた。世の中はとうに透明な場所ではなかったので、透明には「感」をつけなければならなかった。「感」をつけるフィーリングが、そのフェイクな味わいのシンセ・ポップからよくつたわってきた。いまこの世界にあるのは、透明によく似た、透明の偽物だけ……。

かといって、彼らの音楽はドリーミーで、なにか得体のしれないエネルギーと音楽的記憶を宿していて、ニヒルや偽悪のそぶりは感じられない。むしろその逆であるところにリアリティがある。本物の透明がない以上、そのことが「本当」になる……本物がないことが本当になっている時代を、アルカイック・スマイルで肯定しているような彼らの音のたたずまいに、筆者はとても親近感を抱いた。その頃、世間は『けいおん!』旋風のただなかで、筆者はあの素晴らしいアニメ版が宿している、抜けるような透明「感」にも、同じようなことを感じていた。

それから2年が経って、彼らはいま旅をしている。セカンド・フル『アラビアの禁断の多数決』では、やっぱりどこかフェイクな感触を残す旅が繰り広げられていて、奇妙に実体のない国名や地名がたくさん散りばめられているのが特徴だ。彼らの旅は「現地」にあるのではなく、『世界の車窓から』(テレビ朝日)の現地「感」にある。本物に触れられない切なさが、禁断の多数決の強度である。それは音を磨き、無二の個性を生み出している。CDケースの中敷きに印刷されたシノザキサトシによる短編で、好奇心旺盛なコロンブ・ハッチャーマンが「なんかくれ」とものをねだるのも、ほうのきがピーター・ゲイブリエル(過激な仮装)をリスペクトすることも、「本物」に対する両義的な希求感の表れだということができるかもしれない。

 シノザキの短編はこのアルバムのアート・ワークのコアをなすような内容で、ある砂漠の村が、そこに突如現れた「浮遊人」たちの存在によってちょっとした変化を迎える顛末を描いている(『アラビアのロレンス』が下敷きになっている)。が、変化といっても決定的なことは何も起こらず、最後は砂漠がめくれあがって、その下からまた砂漠が出てくるという、どこか閉塞的なクライマックスが、バカバカしいタッチで展開されることになる。そのとき空には「リバースター」なる謎の物体が浮かんで妙なる音楽を奏でていて、砂漠がめくれるきっかけになったのは、くだんのハッチャーマンによる「なんかくれ」発言だ。砂漠がめくれてもまた砂漠。「なんか」はいつまでも手に入ることはない。ハッチャーマンは物乞いをつづけるだろうし、しかし「なんか」が手に入らなくても塞いだり暗くなったりすることなどなにもない……。

 おそらくこのアルバムで鳴らされている音楽が、このとき「リバースター」から流れていた音楽だ。俗物として描かれる元宗教家の床屋は、その体験を「そりゃ驚いたよー、(中略)こんなことを言ってもわかんないと思うけどさ、実物のリバースターを見たら、そんな気難しい顔はしないと思うなー」と語る。筆者はこのくだりが好きなのだけれども、『アラビアの禁断の多数決』は、実際、それと同じような感じで、気難しい顔になって向かい合うものではない。砂漠の下から砂漠が出てくる世界で、それをそのままに、心地よく聴けばいいと思う。

この短編はいいライナーノーツかもしれない。インタヴューの時点でこのテキストのことは知らなかったが、話をきいていて、筆者には禁断の多数決についてのいろんなことが、ほぼこのテキストに沿うような内容で、すーっと氷解していくように感じられた。

目次
音楽雑誌の記憶
なぜか3.11以降……
偽物談、地名談。
ガブリエル世代のポップの裏表
禁断の組織論!
日本脱出

音楽雑誌の記憶

ほうのきさんって、『スヌーザー』とか読んでました?

ほうのき:年末の年間ベスト号には大変お世話になりました。

リアルですね(笑)。なんというか、ひとりのリスナーとしてのほうのきさんにすごく親近感がありまして。不特定多数の洋楽リスナーが、音専誌を通じて大きな話題を共有できていた、その最後期くらいの記憶をお持ちなんじゃないかなって思うんですよ。

ほうのき:なるほど。

「洋楽ファン」っていうカテゴリーがまだギリギリ生きていて、紙メディアが機能していて。しかもたぶんロック寄りで、ちょっと突っ込んだ情報や言葉が欲しくて、みたいな、自分と近い聴き方・読み方をされていたんじゃないかという勝手な妄想なんですが。

ほうのき:もともとはたくさん買っていたんです。たぶんいま言っていただいたのは合っていますね。他には『クッキー・シーン』とか『アフター・アワーズ』とか。

そうそう! まさに。

ほうのき:『リミックス』、『ロッキング・オン』、『クロスビート』、『(ミュージック・)マガジン』とかも、年間ベストの号はなんでも全部、必ず買ってましたね。

よくわかりますよ。田舎のせいもありますけど、シーンってそんなふうに感じるものでした。

ほうのき:ちゃんと月々買ってたんですよ。それがいつのまにか買わなくなってしまって……。

ああ、なるほど……。

ほうのき:当時、僕も僕の友人もみんな音楽が詳しくて。レコード屋にもよく行っていたんです。みんな本当にマニアックでした。けれど、なぜだかどんどん掘らなくなっていったんです。

ああー、それは根深い。時代性の問題でしょうか。

ほうのき:僕は鈴木慶一が好きで。彼が、「“いまいい音楽がないよね”ってみんな言うけど、それって自分が掘ってないだけで、本当はあるんだよ」っていうようなことを言っていたんですよ。自分が古くなっているってことに気づいてないだけなんだ、って。それには感銘を受けました。Hi-Hi-Whoopeeって人いるじゃないですか。あ、明後日、ele-kingで何かやりますよね?

ああ、はい!  2.5Dさんで番組をやらせていただきます(2013.10.25「2.5D×ele-king 10代からのエレキング!」)。Hi-Hi-Whoopeeのハイハイさんにもご出演いただく予定ですよ。

ほうのき:僕、ハイハイさんのこと何かで知ってそれ以来ずっと見てるんですけど、最近は、ele-kingさんとかハイハイさんとか、あとはベタだけどPitchforkとか、そのあたりはなんとかいまでも追っています。

普通に恐縮ですけれども……。

ほうのき:このアルバム(『アラビアの禁断の多数決』)の制作があって大変だったということもありますけど、もっと言えば、3.11ですね。あのあたりからなんです。なにか追えなくなってきたのは。

取材:橋元優歩(2013年11月26日)

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