![]() Vampire Weekend Modern Vampires of the City XL / ホステス |
1曲ごとにわあっと歓声があがる。「アレだ!」という高揚がある。今年2月、〈ホステス・クラブ・ウィークエンダー〉でのショウを眺めていて、『ヴァンパイア・ウィークエンド(吸血鬼大集合!)』はよく聴かれた作品なのだなあと、しみじみと感じた。「ヨウガクの共通体験」なんていうものがますます希薄になる昨今、彼らのようなちょっとややこしい音楽が多くのリスナーにしっくりと受け止められている様子には、やっぱり胸が熱くなる。
ヴァンパイア・ウィークエンドは本当に素晴らしい。ちゃんとマジでドキドキ、ワクワクがある。ヒリヒリもある。アルバム一枚のなかに、走り、歌い、高揚し、泣き、切なくなって、飛び跳ね、愛し、虚無的になって、笑って、というようなことがひと揃い収まっている。この種のことは嘘っぽかったり安っぽかったりするとすぐに見破られてしまうから、エズラという人はよっぽど並み外れて広いエモーションの幅を持っているに違いない。並み外れて感じ、そして並み外れてそれをうまく音楽に変える。彼らのアフロ・ビートは輸入物ではない。いまそこで、彼らがありありと感じている生きた感情そのものだ。
くだらないティーンの日常などはのぞきたくないという人も安心してほしい。ポロを着て、ちょっといい大学に通う、ソフトにやんちゃな若者たち......ミドル・クラスの余裕と、その日常への軽やかな批評を漂わせながら、アフロ・ポップに新鮮な血液を送り込んだ彼らは、同じ理由のために揶揄もされたとはいえ、それを跳ね返しておつりが戻るほどクレバーなインディ・ロック・バンドである。デヴィッド・バーンの系譜に数えることもできるだろうが、アフリカン・ミュージック原理主義に陥ることなく、あくまで彼らのリアリティを発火させているところが素晴らしいのだ。だからヴァンパイア・ウィークエンドは、2008年のデビュー作からこのサード・アルバムまでのあいだに、「地元のヒーロー」からワールド・クラスのポップ・アーティストへとステージを上げた。彼らのドキドキ、ワクワク、ヒリヒリには、とくに私小説的な湿り気もドラマも説教もないけれども、はっきりと同じ時代の空気を吸っている人間の心の躍動が感じられる。そして、世代を超えてさまざまな人々にリーチできる音楽的な強度がある。
2008年。彼らは明るく、天使のように自由で、歴史性に足を絡めとられなどしないように見えた。そして彼らのうしろには、そうした空気を自然に吸うことのできる世代がジャンルを問わず登場してきている気配を感じた。表現ということに対して、何か無限のメタ認識と自己弁明を強いられるような90年代後半~2000年代初頭の息苦しさから突如解放され、あけすけに武装解除をはじめた才能たちを、筆者はとてもまばゆい思いで見つめていたのを覚えている。音は違えど、たとえばチルウェイヴのアルカイックな微笑みがぽつぽつと見えはじめてきたのもこの時期だ。だからこのバンドには万感の思いがあったのだが、ごく短い時間でのインタヴューで、なかなかうまく奥へと踏み込めなかったのは少々心残りだった。
けれど、ややストレートなロック・アルバムになった印象のこの3枚め『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』にも、やっぱり説得されてしまう。エズラが声を裏返すとき、途方もない力でわれわれのなかにメロディを押し込んでくるとき、ロスタムのシンセがまさに彼らでしかありえないフィーリングを鳴らすとき、筆者は2008年という初心に返る。ノスタルジーではない。何度でもやり直して前に進むための新しい原点、「モダン・ヴァンパイアズ」たちの「モダン」なマナーである。
僕らは、トライバルなサウンドというものは意識して避けていた。ただ、抽象的なリズムを採り入れるということは好きだったよ。(エズラ)
■新しいアルバムは、(このインタヴュー収録時点の2月では)まだ4曲しか聴けていないのですが、ひとつの変化としてリズムを挙げることができるのではないかと思います。アフロ・ポップのエッセンスは残りながらも、かなりストレートな8ビートが聴けますね。こうしたストレートめなロックのアイディアはどのようなところから生まれてきたのでしょう?
ロスタム:よりストレートなリズムを打ち出すというのは目標ではあったかな。でもそれと同時にユニークなものも作りたかった。シンプルだけどいろんな要素を取り込んでおもしろくしていきたかったんだ。"ドント・ライ"って曲に関してはほんとにロックっぽいものを考えていたんだよね。でもキック・ドラムで16ノーツ、これを繰り返すことでロックだけどアン・ロックなものにできたと思うよ。ちょっとヒップホップ調の、ドラム・マシンで出すような音を目指してみたんだ。今回のアルバム全体が目指したのは、オーガニックな音、だけれどもユニークなもの、ってところかな。
■そもそもダーティ・プロジェクターズとかアニマル・コレクティヴとか、ギャング・ギャング・ダンスとか、あなたがたのファースト・アルバムが出た2008年当時はニューヨークの多くのバンドが、ファッションやリズムにおいてもトライバリズムというものを志向していました。そうしたムードをどのように見ていましたか?
エズラ:僕らは、トライバルなサウンドというものは意識して避けていた。ただ、抽象的なリズムを採り入れるということは好きだったよ。なぜ、こうしたバンドたちが同時に同じような音を出しはじめたのかということはわからないけれど、いま自分たちにとって新鮮に感じられるものは、当時の彼らが感じていたものとは違うだろうね。
■ヴァンパイア・ウィークエンドのアフロ・ポップって、たとえばカリンバをフィーチャーするとか、現地でフィールド・レコーディングをしたりとか、民俗衣装を着けたりってことをしなかったところが素晴らしくもあると思うんですね。ラルフ・ローレンを着て、世界の中心たるニューヨークで、軽やかにアフロのリズムをはじき出した......そこにわれわれはしびれたわけです。こういうスタイルの選択は何か意識的なものがあったのではないかと思うのですが、どうですか?
エズラ:うん。プランはつねに立ててるんだ。けれどそれが意識的である場合もあれば無意識である場合もある。ミュージシャンとして、アーティストとして、自分が惹かれるものに対して素直にそれを取り入れていくべきだと思っているよ。ステージの上でいろんな格好をするっていうのは、それに惹かれているってことだから、そういう人たちはそれでいいんじゃないかな。
■なるほど、ファッションって点で気になるものもあるんですか?
ロスタム:ジュンヤワタナベが好きだよ。僕らが作る曲と、彼の服には何か共通したものを感じるな。アフリカン・ビートだったり60年代ポップスだったり、クラシックだったり、僕らは既存の音楽に共感して取り入れているんだ。ジュンヤワタナベの服も、そうした過去のもの、伝統的なものに共感して作られているという感じがするな。
[[SplitPage]]キック・ドラムで16ノーツ、これを繰り返すことでロックだけどアン・ロックなものにできたと思うよ。今回のアルバム全体が目指したのは、オーガニックな音、だけれどもユニークなもの、ってところかな。(ロスタム)
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■かつてデビュー作がリリースされた頃の『ガーディアン』なんかを読みますと、みなさんのことは「ローカル・ヒーロー」というふうに呼んでいるんですけど、一昨日のライヴ(ホステス・クラブ・ウィークエンダー)を拝見して思ったのは、大きいバンドになったんだなということなんです。ヒット・ナンバーを中心にステージ構成をしていくような、メジャーなバンドになったんだなと。この数年で、自分たちが引き受けるべき役割への意識に変化はありましたか?
エズラ:最初はかなり高いゴールを設定していたんだ。キャッチーでありながらも深さがあって、より複雑な構成で、というような曲をね。いま自分たちの音楽が世界やシーンのなかのどのあたりに当てはまるのかということを答えるのは難しいけど、自分たちが作った曲が人々に届いて、人々とたしかにつながっているということは感じているよ。自分たちの存在をあらためて確認できている、という感じかな。
■ヴァンパイア・ウィークエンドのサウンド・イメージにおいて、ロスタムさんのキーボードの音色が生んでいるユーフォリックなムードはとっても大きな役割を果たしていると思います。たとえば"Aパンク"とか、"オックスフォード・コマ"とか。あの音はもともとあなたのなかにあったものなのですか? それともバンドをやる上で試行錯誤して生まれてきたものなんでしょうか?
ロスタム:大学でクラシックを学んでいたんだけれど、自分の奏でるハーモニーが曲全体に与えるパワーっていうものに魅力を感じていて。弾き語りでもなんでも、そうしたパワーにはつねに意識を置いているよ。
■ここのところ80年代風のシンセ・ポップなんかがすごく流行しましたけど、そういう一種通俗的な、ギラギラとした音ではなくて、もっとあたたかくてクリーンで、どことなく新しい感じがする音だと思うんですね。もうちょっと音作りについて教えてもらえませんか?
ロスタム:空間をあけることを意識してるよ。スペース。最小限のもので曲を作るということを意識しているんだ。ただ、そのぶんどの楽器をどのように演奏するかということが重要になってくる。同じメロディ、同じ部分をいろんなパターンで作ってみて、みんなに聴いてもらうんだ。実験することが好きだし、自分がやっていなかったことに挑戦するのも好きだから、"Aパンク"だって、ああいう音はあの時点ではじめてだったんだよ。スペースの話に戻ると、キーボードが抜けてギターが入ってくるときに低音にスペースが生まれるんだ。そこにベースとドラムが入る。そんなふうに作っているんだよね。メロディがどうやってできるかというと、まずは即興、それを聴き直してどんどん形を整えていく、その繰り返しだよ。そのときも考えながらバランスをとっているんだ。
■何か別のインタヴューを読んでいて、エズラさんが次の作品は「darker & more organic」になるというようなことを話されていたと思うんですが、「darker」ってどのようなことを指しているんでしょう?
エズラ:今回のアルバムは全体的に同じだけの緊張感を保つようにしたんだ。メジャー・キーの曲が多いにもかかわらず、なんとなく霧が漂うように暗い感じ。それはハーモニーでもメロディでも歌詞でもいっしょなんだけど、僕がダークだと思っているのはそういう緊張感のことだよ。オーガニックということに関しては、部屋のなかでドラムを鳴らすことだね。ウッディな感じ。すべての曲、すべての楽器に、ウッディさを持たせたかった。呼吸をしているような感じというのかな。
■なるほど。"フィンガー・バック"なんかは、あなたがたのルーツにファンクもあるんだなってことがストレートに出ている曲かと思いますが、こういうようなアイディアや傾向には、プロデューサーのアリエルさんが関係してたりもするのでしょうか?
ロスタム:メロディや歌詞をエズラが考えて、それに対して僕がドラムを加えていったんだ。50'sロック、ファンク、アフリカン、そのあたりは意識したけど、アリエルとの作業をはじめたときにはリズムはできあがっていたんだ。そこからどのようなドラムのサウンドを曲に反映させていくか。その時点でアリエルの意見は反映させたんだけどね。リズムは僕らのなかにあったものだよ。

発売日:2013年6月13日
Mark McGuire Japan Tour 2013


