1曲目"Turn It Up"の出だしが良い。とくに音色。無機質で、人間性のかけらもなく、それでいてグルーヴがある。アルバム『ファクトリー・フロア』は、良く言えば一貫しているし、悪く言えば単調で、普通に言えば金太郎飴だ。ダンス・ミュージックで、エレクトロ・ポップで、ミニマル・テクノ。〈DFA〉というレーベルはファッション性が高くパッケージがうまい代わりに、わりと型にはまったサウンド/ヴィジュアルを志向するので、〈ブラスト・ファースト〉から出していた頃の何でもアリの奔放さがなくなってしまったのはもったいなかったが、初期の代表曲のふたつ"Lying"と" A Wooden Box"に注がれていた初期ニュー・オーダー的な、あたかも工場労働者のような、生身のドラミングと機械の反復とのせめぎ合いは活かされている。FFはアンダーワールドになったわけでもミス・キティン&ザ・ハッカーになったわけでもない。J.G.バラードのディストピア、エロティシズム、ロボット、クラフトワーク、ジョルジオ・モロダー、ベルトコンベア、在りし日のシェフィールド、残忍なバッド・トリップ......
FFがこうしたインダストリアル・イメージの再生産に手を出すことはなさそうだが、『ファクトリー・フロア』は、いくらあちらがダンス全盛だとはいえ......というか、そういうことなのだろうけれど、あまりにも真っ正直なテクノ・ダンスフロア・アルバムだ。80年代初頭の〈ミュート〉レーベルの音を思い出させるエレクトロ・ポップな"Here Again"、ヴォーカル処理が絶妙な"How You Say"もユニークだが、トランシーでダンサブルな"Two Different Ways"と"Fall Back"がやっぱり最高なのだ。そう考えると、訳知り顔で『ガーディアン』に投稿するおっさんの言い分もわからないでもないけれど、〈Wax Trax〉あたりで満足していた連中に文句を言われるほどのがつんがつんの行進曲ではない。FFは冷たいが、しかしセクシーなのですよ。
かつてジム・オルークが音響作家として鮮烈に登場したとき、鋭いリスナーはそこに映画からの影響を感じたものだが(たとえば、1993年の『Rules Of Reduction』など)、このインドの音響作家を、映画、それもポスト・ゴダール的な音響作家として位置づけ、聴取することは可能かもしれない。わたしには本作冒頭の控えめなクラクション音のループが、ジャン=リュック・ゴダールの『新ドイツ零年』(1991)冒頭の鮮烈なサイレン音のような見事な「はじまり」(と同時に「終わり」を?)を告げているように思えてならないのである。
とにかく可愛らしいアートワーク......、このイラストだけでも相当にヒキがあると思われる。クーシーが日本人女性だという以外のこと、たとえば彼女がどこに住んでいて何歳ぐらいの方なのか僕は知らない。僕が知っているのは、昨年、彼女は8センチCD3枚組の素晴らしい作品を出して、そこにはジュリア・ホルターとモーション・シックネス・オブ・タイム・トラヴェル(Motion Sickness Of Time Travel)がリミキサーとして参加していたこと。海外には、彼女のファンが多いこと。まあ、日本人女性は、基本的に海外で人気がある。
『バタフライ・ケース』は、ツイン・シスターの洒落たエーテル系ラウンジを彷彿させる。ギターがきゃんきゃん鳴っているわけではない。もっとエレクトロニカ寄りで、アンビエント/ダウンテンポの柔らかい、生ぬるい、心地よい、力が抜けていく感覚が全体を貫いている。
この手のサウンドを語る上で、いまでもコクトー・ツインズが持ち出されることが多々あるが、そんな重荷は感じない。コクトー・ツインズにはジョイ・ディヴィジョンの亡霊、暗い時代の暗い青春があったが、いまはもうそんなものはない。メロディアスだが、歌は何を歌っているのかさっぱりわからない。ある意味これほどまでに何も言っていないところがすごいとういか、ふわーーーーーーっとして、ぼーーーーーっとしている。彼女の、そんなところが世界的な共感を呼んでいるのだと思う。暗い時代だからこそ、ふわーーーーーーっとして、ぼーーーーーっとしているのだ。がんばれ、がんばれっていうほうがつらく、この夏の空のように空しい。『バタフライ・ケース』の脱力感は、しかしがんばれがんばれの日本では、やっぱ浮いてしまうのかな。
さて、デトロイトのネクスト・ジェネレーションといえば、今年自身のレーベル〈Wild Outs〉からファースト・アルバム『The Boat Paty』をリリースしたカイル・ホールがいる。そのカイル・ホールとデトロイトで活動を共にしているジェイ・ダニエルは3年前にDJをはじめた。
今回、デトロイトのBelle Isle Park で開催された「Backpack Music Festival」でジェイ・ダニエルのDJを聞くことができたが、わたしが見たデトロイトの風景とオーバーラップしたそのストーリーは、美しさと荒さが気持ち良いぐらいに混ざり合っていた。スモーキーなディープ・ハウスで空気を暖めたかと思ったら、乾いたパーカッションのみが青空の下で鳴り響いている。ときにはデトロイト・エレクトロや荒削りのシカゴ・ハウス、そしてそこに追い打ちをかけるようにトライバルなアフロリズムが投下される。縦横無人に行き来しながらも途切れないファンキーなグルーヴの力強さに、現在進行形のデトロイトを感じることができた。
JD:僕の母親もシンガーなんだ。1993年にカール・クレイグとレコードもリリースしてるよ(なんとあの名曲、"Stars"と"Feel the Fire"で歌っているナオミ・ダニエル!)。彼女の影響は大きかったね。幼少時代にハウス・ミュージック、オルタナティヴ・ミュージックもたくさん聴いていたよ。ジャズもね。WJLBっていう、地元のジャズのラジオ番組なんだけど、それをよく聴いていたよ。いろんな音楽を聴いて育って、折衷してきたものがいま僕のサウンドに反映されているんだ。