Home > Reviews > Album Reviews > Lil Ugly Mane- Mista Thug Isolation
僕のようなラップ・ミュージックのバッグ・グラウンドの乏しい人間がレヴューを書くべきでないのは重々承知の上であるが、本国での盛り上がりをよそに誰も書いてくれないので書きます。もう我慢できなかったんですよ!
オッド・フューチャーをスケート・パンクとすれば、リル・アグリー・メーン(Lil Ugly Mane)はバンダナ・スラッシュであろうか。どちらも現在のUSを象徴するラップ・ミュージックだ。
ショーン・ケンプ(Shawn Kemp)ことリル・アグリー・メーンはどうやら彗星のごとくシーンに現れたわけでもないようだ。現在もアクティヴなのかは定かでないが、ヘッド・モルト(Head Molt)という一聴するところのどうしようもないノイズ/パワエレ・バンドで活動していたトラヴィス・ミラー(本名)は、どうしようもないノイズ/パワエレを炸裂させる片手間、ショーン・ケンプとしてMCとビートを制作していたらしい。故郷のリッチモンドからフィリー、そしてウェスト・ボルチモアとマウントバーノンでこの『ミスタ・サグ・アイソレーション』を完成させ、再びリッチモンドで暮らす彼のドリフト生活遍歴。これらの土地から想起されるここ10年のUSインディー・シーンを照らし合わせば、なるほど彼の音楽遍歴がおのずと見えるではないか。ページ99(PG99)世代のヴァージニアの激情ハードコア・シーンで思春期を過ごした歪んだ美意識は、時を経て当時ドロ沼化していたであろうボルチモアの変態シーンで洗礼を受け、ある種のポップネスを開花させた。ピクチャープレーン(Pictureplane)やDJドッグディック(DJ Dogdick)、ソーン・レザー(Sewn Leather)らとの絡みも共鳴ゆえのものなわけだ。
満を持してドラキュラ・ルイス(Dracula Lewis)率いる〈ハンデビス〉からの豪華極まるフィジカル・ヴァイナル盤がリリース。近年のUSアンダーグラウンド(でもイタリアのレーベルなんですけど......)発のトレンドを並べたレーベルから出ることは必然ともいえよう。
『ミスタ・サグ・アイソレーション』に捨て曲はない。ウィッチハウス、ヴェイパーウェーヴ、インダストリアルと昨今のキーワードがブラウン管に発光しながらもスクリュードされ、シンプルで野太いビートが際立った極上のトラック、偏執的サグ思考のリリック、これって何? ニューエイジ・ギャングスタラップ? あがるわー。
倉本諒