Home > Reviews > Album Reviews > Chicklette- Unfaithful
2011年春、某クソバンドでクソな活動をしていた僕はLAにていくつかのクソなショウをこなし、オースティンまで13時間のドライヴで〈SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)〉へ向かった。僕以外の同乗者全員が運転できない過酷な状況の下、車内から見える、ただ永遠と広大な荒れ地と砂漠がつづく光景は、まさしくループするようで猛烈な眠気を誘い、時折道中に転がる大型野生動物の屍骸をよけて死にかけつつ疲労困憊の限界を超えて到着した先で無銭で同乗していたハイウルフが交換条件として提示していた宿先が確保できていなかったことはいまだに忘れることができない。
……といったことは以前に紙版『ele-king』のほうにも書いていて、何をくどくど同じことをほざいているかというと、そんな最悪な思い出もいまにつながる妙な縁を自分に残しているからである。はたしてそれが自分の現在を良いものにしているどうかは別として。
DJ ドックディックとのユニット、ドッグ・レザーをはじめたばかりのソーン・レザー、現スカル・カタログ(SKULL KATALOG)のグリフィンを誘って、初めて対面したのもこのときであったし、エンジェルス・イン・アメリカ(Angels in America)のエスラに出会った(ナンパした)のもこのときであった。
チックレット(Chicklette)は現在NY在住のエスラによるソロ・プロジェクトである。エンジェルス・イン・アメリカではシンガーを務め、DJデュオ、バンビ&チェブス(BAMBI & C.H.E.B.S.)としてモントリオールからボルチモア、ファー・ロカウェイを股にかけリジデントのパーティを主催する。ザリー・アドラーによる秀逸なアート・ピースとしても定評のあるカセット・レーベル、〈ゴーティー・テープス(Goaty Tapes)〉よりリリースされた初音源である前作『ロンリエスト・ビッチ(Loneliest Bitch)』(──そう、僕はいつだって誇り高きアバズレに人生を振り回されているのだ)は、USヘンテコ・ミュージック愛好家の間で話題を呼んだ。
スカル・カタログやDJドッグディックらとともに多くの時間をボルチモアのスクワット生活で過ごした、エンジェルス・イン・アメリカのクラストパンク・フォークとでも形容すべきサウンドが、この小汚い連中に多大なリスペクトを送りつづけるドラキュラ・ルイス(Dracura Lewis)ことシモーネ・トラブッチによる〈ハンデビス・レコーズ〉からのリリースとなったのは必然であったと言えよう。〈ハンデビス〉よりカセット音源『VH1 DRUNK』をリリースしたエンジェルスは同レーベルによるサポートの下、ヨーロッパ・ツアーも敢行したようだ。
このたび、ハンデビスより満を持して発表されるチックレットのカセット音源がこのアンフェイスフル(UNFAITHFUL)である。シモーネによる毎度最高なCMはこちら。
このアンフェイスフル、正直カセット音源であることがもったいない。
ファルマコン(※リンクおねがいしますhttp://www.ele-king.net/review/album/004087/)と同等、いや、それ以上の女子的な闇と病巣を宿していながらも非常にバカバカしく、キッチュかつポップに聴かせてしまうセンスにはまさしく戦慄をおぼえる。エンジェルスでは、ある種拷問的に聴者に襲いかかっていた彼女の狂気は、このような形にまとめあげられるべきであったのかもしれない。ハンマービート、EBM、フォークソングと、ヴァリエーション豊かなトラック群にさらりと乗る底抜けに病んだリリック、それはまさしく1ドルショップに並ぶ、毒々しい蛍光色で輝く有害物質が桁外れに含まれた幼児玩具のようでもある。
また、エンジェルスの相方であるマークもプロヴィデンスを拠点にフェアウェル・マイ・コンキュバイン(Farewell My Concubine)として活動する。こちらも『チックレット』に劣らない最高のポップ・センスとヘロイン・ライクな心地よすぎるダウナー・トリップ。ぜひともチェックしていただきたい。
倉本諒