ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  2. R.I.P. Brian Wilson 追悼:ブライアン・ウィルソン
  3. world’s end girlfriend ──無料でダウンロード可能の新曲をリリース、ただしあるルールを守らないと……
  4. R.I.P.:Sly Stone 追悼:スライ・ストーン
  5. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第三回 アロンソ・ルイスパラシオス監督『ラ・コシーナ/厨房』
  6. These New Puritans - Crooked Wing | ジーズ・ニュー・ピューリタンズ
  7. Ches Smith - Clone Row | チェス・スミス
  8. Columns The Beach Boys いまあらたにビーチ・ボーイズを聴くこと
  9. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  10. Saho Terao ──寺尾紗穂の新著『戦前音楽探訪』が刊行
  11. Tramhaus ──オランダ・インディ・シーンの注目株トラムハウス、来日直前インタヴュー
  12. Swans - Birthing | スワンズ
  13. FESTIVAL FRUEZINHO 2025 ——トータス、石橋英子、ジョン・メデスキ&ビリー・マーティンらが出演する今年のFRUEに注目
  14. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  15. David Byrne ──久々のニュー・アルバムが9月に登場
  16. Scanner & Nurse with Wound - Contrary Motion | スキャナー、ナース・ウィズ・ウーンド
  17. Columns ♯13:声に羽が生えたなら——ジュリー・クルーズとコクトー・ツインズ、ドリーム・ポップの故郷
  18. 忌野清志郎さん
  19. 「土」の本
  20. rural 2025 ──テクノ、ハウス、実験音楽を横断する野外フェスが今年も開催

Home >  Reviews >  Album Reviews > Factory Floor- Factory Floor

Factory Floor

IndustrialPost-PunkTechno

Factory Floor

Factory Floor

DFA/Pヴァイン

Amazon iTunes

野田 努 Sep 06,2013 UP

 待たれていたアルバム、である。メトロノームのごときアルペジオ、モジュラーシンセのホワイト・ノイズ、ぶ厚い電子音、目眩と酩酊、機械と陶酔、終わりなきトランス状態、スロッビング・グリッスルを現代のダンスフロアで再生したかのような先行シングル「Fall Back」も良かった。この手のサウンドは、簡単なようでいて、一歩間違えるとマッチョでむさ苦しい突撃音楽になりかねないのだが、ファクトリー・フロアにはエロティシズムがある。DAFにそれがあったように。が、しかし、シングルが良すぎるとアルバムは難しくなる。我々はつねにそれ以上を望むからだが......。

 1曲目"Turn It Up"の出だしが良い。とくに音色。無機質で、人間性のかけらもなく、それでいてグルーヴがある。アルバム『ファクトリー・フロア』は、良く言えば一貫しているし、悪く言えば単調で、普通に言えば金太郎飴だ。ダンス・ミュージックで、エレクトロ・ポップで、ミニマル・テクノ。〈DFA〉というレーベルはファッション性が高くパッケージがうまい代わりに、わりと型にはまったサウンド/ヴィジュアルを志向するので、〈ブラスト・ファースト〉から出していた頃の何でもアリの奔放さがなくなってしまったのはもったいなかったが、初期の代表曲のふたつ"Lying"と" A Wooden Box"に注がれていた初期ニュー・オーダー的な、あたかも工場労働者のような、生身のドラミングと機械の反復とのせめぎ合いは活かされている。FFはアンダーワールドになったわけでもミス・キティン&ザ・ハッカーになったわけでもない。J.G.バラードのディストピア、エロティシズム、ロボット、クラフトワーク、ジョルジオ・モロダー、ベルトコンベア、在りし日のシェフィールド、残忍なバッド・トリップ......
 FFがこうしたインダストリアル・イメージの再生産に手を出すことはなさそうだが、『ファクトリー・フロア』は、いくらあちらがダンス全盛だとはいえ......というか、そういうことなのだろうけれど、あまりにも真っ正直なテクノ・ダンスフロア・アルバムだ。80年代初頭の〈ミュート〉レーベルの音を思い出させるエレクトロ・ポップな"Here Again"、ヴォーカル処理が絶妙な"How You Say"もユニークだが、トランシーでダンサブルな"Two Different Ways"と"Fall Back"がやっぱり最高なのだ。そう考えると、訳知り顔で『ガーディアン』に投稿するおっさんの言い分もわからないでもないけれど、〈Wax Trax〉あたりで満足していた連中に文句を言われるほどのがつんがつんの行進曲ではない。FFは冷たいが、しかしセクシーなのですよ。

野田 努