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待たれていたアルバム、である。メトロノームのごときアルペジオ、モジュラーシンセのホワイト・ノイズ、ぶ厚い電子音、目眩と酩酊、機械と陶酔、終わりなきトランス状態、スロッビング・グリッスルを現代のダンスフロアで再生したかのような先行シングル「Fall Back」も良かった。この手のサウンドは、簡単なようでいて、一歩間違えるとマッチョでむさ苦しい突撃音楽になりかねないのだが、ファクトリー・フロアにはエロティシズムがある。DAFにそれがあったように。が、しかし、シングルが良すぎるとアルバムは難しくなる。我々はつねにそれ以上を望むからだが......。
1曲目"Turn It Up"の出だしが良い。とくに音色。無機質で、人間性のかけらもなく、それでいてグルーヴがある。アルバム『ファクトリー・フロア』は、良く言えば一貫しているし、悪く言えば単調で、普通に言えば金太郎飴だ。ダンス・ミュージックで、エレクトロ・ポップで、ミニマル・テクノ。〈DFA〉というレーベルはファッション性が高くパッケージがうまい代わりに、わりと型にはまったサウンド/ヴィジュアルを志向するので、〈ブラスト・ファースト〉から出していた頃の何でもアリの奔放さがなくなってしまったのはもったいなかったが、初期の代表曲のふたつ"Lying"と" A Wooden Box"に注がれていた初期ニュー・オーダー的な、あたかも工場労働者のような、生身のドラミングと機械の反復とのせめぎ合いは活かされている。FFはアンダーワールドになったわけでもミス・キティン&ザ・ハッカーになったわけでもない。J.G.バラードのディストピア、エロティシズム、ロボット、クラフトワーク、ジョルジオ・モロダー、ベルトコンベア、在りし日のシェフィールド、残忍なバッド・トリップ......
FFがこうしたインダストリアル・イメージの再生産に手を出すことはなさそうだが、『ファクトリー・フロア』は、いくらあちらがダンス全盛だとはいえ......というか、そういうことなのだろうけれど、あまりにも真っ正直なテクノ・ダンスフロア・アルバムだ。80年代初頭の〈ミュート〉レーベルの音を思い出させるエレクトロ・ポップな"Here Again"、ヴォーカル処理が絶妙な"How You Say"もユニークだが、トランシーでダンサブルな"Two Different Ways"と"Fall Back"がやっぱり最高なのだ。そう考えると、訳知り顔で『ガーディアン』に投稿するおっさんの言い分もわからないでもないけれど、〈Wax Trax〉あたりで満足していた連中に文句を言われるほどのがつんがつんの行進曲ではない。FFは冷たいが、しかしセクシーなのですよ。
野田 努